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2019年9月5日木曜日

長期金利マイナスの明と暗 金融機関の経営に悪影響も…インフラ整備の絶好のチャンスに―【私の論評】日本は財政破綻するとされマイナス金利なのに、なぜ日本の投資家は日本国債を買い続けるのか?

長期金利マイナスの明と暗 金融機関の経営に悪影響も…インフラ整備の絶好のチャンスに

国債市場で8月29日、長期金利の指標となる新発10年債の終値利回りが、マイナス0・290%となった。2016年7月下旬以来、約3年1カ月ぶりの低水準で、過去最低のマイナス0・300%に迫った。その後はややマイナス幅を縮小しているが、長期金利のマイナスが拡大した背景は何か、経済にどのような影響を与えるのか。

 イールドカーブ(期間別の金利)を見てみよう。8月30日の国債利回りは6カ月がマイナス0・280%、1年がマイナス0・263%、2年がマイナス0・304%、7年がマイナス0・375%、10年がマイナス0・273%だった。



 これに対し、1年前は6カ月がマイナス0・140%、1年がマイナス0・111%、2年がマイナス0・108%、7年が0・019%、10年が0・114%。

 つまり、1年前は順イールド(長期金利が短期金利を上回る)だったのが、今や7年までは逆イールドになっている。

 米国では、2年と10年の金利が逆転すると、景気の先行きが怪しい兆候といわれている。日本でみると、形式的には、2年と10年とで金利逆転はないが、2年と7年とではかなりの金利逆転になっている。

 一般論として、長期金利は将来の短期金利の積み合わせになっている。2年金利は1年金利と1年後の1年金利、3年金利は2年金利と2年後の1年金利によって決まる。つまり、10年金利は、今の1年金利、1年後の1年金利、2年後の1年金利…9年後の1年金利によって決まる。10年金利が今の1年金利より低いというのは、これからの1年金利が今より低いと予想されることを意味する。

 日本経済に当てはめると、今後7年間は景気の先行きが明るくないとなる。少なくとも1年前は、そこまで先行きの不安はなかったが、不透明感がかなり増しているというわけだ。

 その原因は、(1)米中貿易戦争の激化(2)10月末の英国の合意なき欧州連合(EU)離脱(3)ホルムズ海峡の不安(4)日韓関係の泥沼化(5)日本の10月からの消費増税-が考えられる。

 長期金利のマイナスそれ自体は、金融機関経営にとっては、利ざやが取れないので悪影響がある。しかし、実体経済にとっては、金利負担なしで長期資金が借りられるので設備投資の絶好のチャンスだ。不動産投資や住宅投資はかなり良好である。

 政府は、この機会にインフラ整備をどんどん行ったほうがいい。長期金利がマイナスというのは、ほぼ全てのインフラ投資について、費用対効果を算定すれば、投資が正当化できることを意味する。

 具体的にみると、南海トラフ巨大地震や首都直下地震は確実にやってくるので、今の時期に防災対策投資を行うべきだ。さらに、教育、研究開発や国防等でも、政府は国債をもっと多く発行し、それらの施策の費用とすべきである。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本は財政破綻するとされマイナス金利なのに、なぜ日本の投資家は日本国債を買い続けるのか?

上の記事は、高橋洋一氏の解説は、理解しやすく、かつ必要十分であり、これに対して何か付け加えることなどおこがましくてできません。

そこで、このブログでは、もっと根源的というか、基礎的なことを掲載しようと思います。そもそも、日本国債はマイナス金利なのになぜ購入されるかということを掲載します。日本の国債がマイナス金利でも購入されるということがなければ、当然のことながら上の高橋洋一の主張も成り立ちません。

一般に日本政府は巨額の財政赤字を毎年計上しているとされています。これは、このブログでは過去に何度も解説してきたので、このブログの読者なら、財務省の嘘であることはご存知だと思います。

その理屈は、財務省が指摘する国の借金とは、政府の負債のみを言っているだけであって、そのため、借金が1103兆円という莫大な金額に膨れ上がっているとされています。現在税収等が62兆円程度ですから、その18倍の借金を抱えている計算になるとされています。

昨年の新聞記事より。まるで、財務省の広告塔のよう。

ところが、世界で一番資産を持っている、日本政府の資産を計算に入れる相殺すると、政府の借金はトータルでかなり少なくなり、これであると米国や英国などより、良いということになります。さらに、日本政府と日本銀行(日本の中央銀行)をトータルした統合政府ベースでいうと、すでに財政再建は終了したと言っても良いような状況です。

統合政府ベースで比較しても、無論日本政府の財務状況は、米国や英国、その他諸外国の財務状況と比較してもかなり良い水準にあります。このあたりは、ここで解説していると長くなってしまうので、過去のこのブログの記事を参照していただきたいと思います。

しかし、財務省が嘘を吐きつづけ、何が何でも増税しようとしているので、そのことをはっきり認識している人は金融関係の人でも少ないようです。一般の人ではなおさらです。

そこで、投資家や金融機関の中にも「借金が返済できそうな気がしないので、日本政府は、将来いつかは破産するのだろう」と考えている人は多いはずです。にもかかわらず、投資家や金融機関は喜んで日本国債を買っているのです。ゼロ金利や、マイナス金利ても買っているのです。
それはなぜかといえば、結論から言ってしまえば、「他の選択肢よりはマシだから」「長期的には不安だけれど短期的には安心だから」ということだからなのです。

民間企業が売上高の18倍の借金を抱えていたら、直ちに倒産しそうですが、なぜ政府は倒産しないのでしょうか。それは、皆が喜んで政府に金を貸している(日本国債を購入している)からです。

黒字倒産という言葉があるように、黒字赤字と倒産とが直接関係しているわけではありません。銀行の取り付け騒ぎもそうですね。銀行が赤字だろうと黒字だろうと「あの銀行は倒産しそうだ」という噂が流れて預金者たちが一斉に預金を引き出しに走ると、本当に資金繰りがつかなくなって破産しかねないわけです。

つまり、企業も銀行も政府も、資金繰りがつかなくなった時に倒産するのです。これを反対から見れば、どれほど巨額の赤字を続けていても、あるいは巨額の赤字あると思われ続けても、資金繰りが付いている間は倒産しないのです。

そこで疑問がわいてきます。なぜ投資家や金融機関は「売上高の18倍の借金のある民間企業には金を貸さない」一方で「税収の18倍の借金あると彼らが信じて疑わない日本政府には金を貸す」のか、ということです。

しかも、強制されたわけでもないのに、マイナス金利の長期国債を自発的に買っているのです。これって、普通に考えれば異常としか言いようない行為ではありませんか?

しかし、日本政府に関しては、他に選択肢が乏しいのです。日本政府が破産する時は、日本政府の子会社である日本銀行も、日本国内のメガバンクも、破産を免れないはずです。

「日本政府が破産するといけないから、日本政府には貸さない(日本国債は購入しない)と」なると、手元の資金を日銀に預けても、日本銀行券を大量に持っていたとしても、安全性が増すわけではありません。メガバンクに預金しても、日本政府が破産する時はアウトになるでしょう。

そうなると、円をドルに替えてドルを持つしかありませんが、その場合には為替リスクを抱えることになります。


「とりあえず、今日から明日までの運用を考えよう。明日以降のことは明日考えよう」と投資家が考えたとします。「明日までに日本政府が破綻する可能性は非常に小さい」一方で「明日までに円高ドル安で損するリスクは小さくない」ということならば、「とりあえず明日までは国債で運用しよう」ということになりそうです。

明日以降も全く同じことが繰り返されれば、日本人投資家はずっと日本国債を持ち続けることになるでしょう。「長期的には不安だけれど、短期的には安心だ」ということで短期の投資が繰り返され、結果として長期間にわたって投資が続くことになります。

日本人投資家にとって心強いのは、「他の日本人投資家も同様の投資行動を採るとすれば、少なくとも当分の間は日本政府が破綻することはなさそうだ」と思えることでしょう。そうしてお互いに「意図せざる励まし合い」が行われているわけです。

この点も、社債と異なるところです。社債については、他の投資家が当該社債を買うとは限りません(というか多分買わないでしょう)から。

もちろん、日本人投資家が米国債を全く持たないわけではありません。「為替リスクはあるけれど、ドル高で儲かるチャンスもあるし、そもそも米国債は日本国際より金利が高いので魅力的だ」と言えるからです。

そこで、分散投資として資産の一部を米国債等で持っている投資家は多いのですが、それでも比較的多くの部分は日本国債で持っている投資家が多いです。

日本人投資家から見ると、日本国債は「信用リスクはあるが、為替リスクがないので、相対的に安全な資産だ」と言えるわけですが、外国人から見ると違います。彼らにとっては日本国債は「信用リスクも為替リスクもある、相対的にリスクの大きい資産だ。しかも金利も低い」ということになるからです。

そのため、外国人投資家は、あまり日本国債を持っていません。分散投資として持っている場合や、資金繰り上の理由で短期国債を持っている場合などもありますが、いずれも積極的に持っているというわけではありません。

日本は経常収支が黒字で、対外債権国(海外にお金を貸している国)ですから、政府は外国人から借金をする必要を感じていないわけですが、仮に経常収支が赤字で外国人から借金をしようと思ったら、結構大変です。

彼らは円建ての日本国債を持ちたいとは思わないので、外貨建てで借りることになるわけですが、たとえばドル建であれば、米国債と競合するので、米国債より高い金利を支払う必要があります。最無償が喧伝しているように、本当はそうではないのに、日本政府のような巨額の借金をしている相手には、よほど高い金利でないと貸したくないと考えるのが普通です。

それだけではありません。彼らが不安になって資金を引き揚げると大変なことが起きかねないのです。

政府は、最初に満期が来た国債を償還するためにドルを買いますが、そのドル買いでドルが値上がりします。次に満期が来た国債を償還するためのドル買いが、さらにドルを値上がりさせます。次々と償還のたびにドルが高くなり、最後には天文学的な値段になってしまうかもしれません。

そうなると、ますます日本政府は破産するという思惑が投資家の間で広がるでしょう。それが日本人投資家のドル買いを招くようなことになったら大変です。日本政府の子会社が発行している日本銀行券が紙屑になる前にドルに替えておこう、というわけですね。

日本の経常収支が黒字で、日本が対外純金融資産(外国に貸し付けているお金)が世界一であることが、たとえ、財務省が消費税増税のために、日本が大借金国だとアピールしたにしても、日本政府の破産を防いでくれているのだ、ということをしっかり認識したいものです。

 テレビで報道されるように、日本は海外純資産が世界一というのではなく、
 対外純金融資産(外国に貸し付けているお金もしくはお金にすぐ変えられる資産)
 が世界一である。
無論対外純金融資産が世界一だからといって、世界一裕福とは必ずしもいえません。たとえば、米国は対外純金融資産がマイナス300兆円ですが、これは米国が基軸通貨国であり、もともとこれがマイナスになりやすい体質があるからです。

そうして、日本がなぜこのように対外純金融資産を抱えるようになったかといえば、国内が長い間デフレで、めぼしい投資先がなかったので、海外に投資したということもあります。

ただし、基軸通貨国でもないし、特別な理由もないのに、対外純金融資産がマイナスすなわち、対外純金融負債を抱えている国は、確かに借金国ということができます。しかし、日本はその真逆であり、どう考えても少なくとも借金国ではありません。

もし、日本の経常収支が赤字で、日本が対外負債国(外国からお金を借りている国)であり、かつ財務省が日本は借金大国であると喧伝していたとしたら、とうの昔に日本政府は破産していたことでしょう。

そうではないからこそ、財務省がいくら日本は大借金国であると喧伝し続けても、日本は未だに財政破綻もせず、マイナス金利であってさえ、多くの投資家が日本国債を買い続けているのです。

ただし、賢明な投資家の中に、このことをはっきり認識して、投資を行っている人もいるとは思います。そういう人は、理解していない人よりは、投資効率の良い取引をしているのではないかと思います。

ただし、金融機関の中にはこれを理解しない人が幹部の中にも多いようです。そういう人に限って、現状の低金利、マイナス金利に文句たらたらで、将来の金融機関はどうあるべきかなどの明確なビジョンも持っていないようです。

ちなみに、かつてある金融機関の幹部の人何人かに、なぜ「おたくの会社は日本が財政破綻するのに、国債を購入し続けるのか?」とか「本当に日本が財政破綻するというのなら、それで儲けること(クレジット・デフォルト・スワップ等)ができるはずなのに、なぜをそれをやらないのか?」などと質問したこともありますが、満足に答えられませんでした。無論金融機関の人全部がこのような有様ではないとは思いますが、それにしても困ったものです。

【関連記事】

2018年1月9日火曜日

中国、印北東州で道路建設 インド側反発「インフラ整備で領有権主張する常套手段」―【私の論評】中華サラミ戦術には逆サラミ戦術で対抗せよ(゚д゚)!



インドが実効支配し中国も領有権を主張する印北東部アルナチャルプラデシュ州で、中国の作業員グループがインドが主張する実効支配線を越えて道路を建設していたことが判明し、インド側が反発を強めている。歴史的に国境をめぐって摩擦が続く両国だが、インフラを整備して領有権を主張する中国の手法に反発は根強く、火種は今年もくすぶり続きそうだ。

 インド英字紙インディアン・エクスプレスなどによると、工事が発覚したのは昨年12月28日。中国人数人のグループが中国南西部チベット自治区から、同州側に1キロほど入り、重機を使って600メートルほど道路を建設していた。

 一団はインドの国境警備隊に発見されて中国側に戻ったが、立ち去った際に掘削機などをその場に残していったという。同紙はインド政府高官の「このような一方的な活動は激しく非難される」というコメントを掲載し、反発している。

 両国は昨夏に中印ブータンが国境を接するドクラム地区で、約2カ月半にわたって軍が対峙したが、発端は中国軍が道路の建設を始めたことだった。「それだけに今回の動きには敏感にならざるを得ない。インフラ整備を進めて領有権を主張するのは中国の常套手段だ」とインド紙記者は分析する。

 インド側の反発に中国側も敏感に対応した。中国外務省の耿爽報道官は3日の記者会見で、道路作業員についての言及は避けつつも、「中国はいわゆるアルナチャルプラデシュ州という存在を認めていない」と改めて強調した。中国は同州を「蔵南」(南チベット)と呼んで自国領土と主張しており、2016年には中国軍が実効支配線を越えて約45キロ侵入し、数日駐留した経緯がある。

 インドが実効支配し中国も領有権を主張する印北東部アルナチャルプラデシュ州で、中国の作業員グループがインドが主張する実効支配線を越えて道路を建設していたことが判明し、インド側が反発を強めている。歴史的に国境をめぐって摩擦が続く両国だが、インフラを整備して領有権を主張する中国の手法に反発は根強く、火種は今年もくすぶり続きそうだ。

 インド英字紙インディアン・エクスプレスなどによると、工事が発覚したのは昨年12月28日。中国人数人のグループが中国南西部チベット自治区から、同州側に1キロほど入り、重機を使って600メートルほど道路を建設していた。

 一団はインドの国境警備隊に発見されて中国側に戻ったが、立ち去った際に掘削機などをその場に残していったという。同紙はインド政府高官の「このような一方的な活動は激しく非難される」というコメントを掲載し、反発している。

 両国は昨夏に中印ブータンが国境を接するドクラム地区で、約2カ月半にわたって軍が対峙したが、発端は中国軍が道路の建設を始めたことだった。「それだけに今回の動きには敏感にならざるを得ない。インフラ整備を進めて領有権を主張するのは中国の常套手段だ」とインド紙記者は分析する。

 インド側の反発に中国側も敏感に対応した。中国外務省の耿爽報道官は3日の記者会見で、道路作業員についての言及は避けつつも、「中国はいわゆるアルナチャルプラデシュ州という存在を認めていない」と改めて強調した。中国は同州を「蔵南」(南チベット)と呼んで自国領土と主張しており、2016年には中国軍が実効支配線を越えて約45キロ侵入し、数日駐留した経緯がある。

【私の論評】中華サラミ戦術には逆サラミ戦術で対抗せよ(゚д゚)!

2016年の人民解放軍によるアルナチャルプラデシュ州侵入については、このブログでもとりあげました。
孤立浮き彫りの中国 ASEAN懐柔に失敗 あの外相が1人で会見の異常事態―【私の論評】海洋戦略を改めない限り、これから中国は大失態を演じ続けることになる(゚д゚)!
中国の王毅外相
この記事は、2016年6月15日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事では当時の南シナ海での中国の侵略に加えて、当時人民解放軍がインドのアルナチャルプラデシュ州に侵入していたことを掲載しました。その部分のみ以下に引用します。
インドと中国が領有権を争い、インドの実効支配下にある印北東部アルナチャルプラデシュ州に今月(一昨年6月)9日、中国人民解放軍が侵入していたことが分かりました。印国防省当局者が15日、産経新聞に明らかにしました。中国は、インドが日米両国と安全保障で連携を強めていることに反発し、軍事的圧力をかけた可能性があります。 
中国兵約250人は、州西部の東カメン地区に侵入し、約3時間滞在しました。中国兵は3月にも、中印とパキスタンが領有権を主張するカシミール地方でインドの実効支配地域に侵入し、インド軍とにらみ合いになっていました。アルナチャルプラデシュ州への侵入は、最近約3年間、ほとんど確認されていませんでした。
アルナチャルプラデシュ州 地図の赤い斜線の部分
 ドクラム地区への人民解放軍の侵入もこの記事でとりあげています。その記事のリンクを以下に掲載します。
中印紛争地区、離脱合意のはずが「中国固有の領土だ」 軍駐留を継続、トンネル建設も着手か―【私の論評】この動きは人民解放軍による尖閣奪取と無関係ではない(゚д゚)!

この記事は、昨年12月3日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくもとして、一部を以下に引用します。
インド、中国、ブータンの国境付近のドクラム地区で中印両軍の対峙(たいじ)が続いた問題をめぐり、中国側が最近、「ドクラム地区は固有の領土」と改めて発言し、軍隊駐留を示唆したことが波紋を広げている。中国軍が付近でトンネル建設に着手したとの報道もあり、インド側は神経をとがらせる。双方「要員の迅速離脱」で合意したはずの対峙だが、対立の火種はくすぶり続けている。
 中国国防省の呉謙報道官は11月30日の記者会見で、ドクラム地区をめぐり、「冬には撤退するのが慣例だが、なぜ(部隊が)依然、駐留しているのか」と質問され、「中国の領土であり、われわれはこの原則に従って部隊の展開を決定する」と応じた。

中国国防省の呉謙報道官

 ドクラム地区はヒマラヤ山脈の一角に位置し、冬は積雪のため部隊配備が困難となる。中国側は現在も軍隊が駐留していることを否定せず、配置を継続させることを示唆した格好だ。 
 発言にインドメディアは反応し、PTI通信は「中国が軍隊を維持することを示唆」と呉氏の発言を報じた。中国側の動きに敏感になっていることがうかがえる。 
 ドクラム地区では、中国軍が道路建設に着手したことを契機に6月下旬から中印両軍のにらみ合いが発生。8月28日に「対峙地点での国境要員の迅速な離脱が合意された」と宣言され、事態は収束したかのように見えた。
この中国のやり方、本格的な衝突にまではならないように、すこしずつ国境をずらしているようなものです。南シナ海でも、最初は人一人がようやっと、上陸できるようなところに掘っ立て小屋を立て、人一人を交代で常駐させるようにして、中国の占拠がはじまりました。

あれから、何十年もたって、今では環礁が埋め立てられ、港はもちろんのこと空港まで整備している有様です。

この戦術何やら、どこかで聴いた話と似ています。それは、バス停をずらした婆さんの話です。以下にその話を掲載します。

むかしむかし、小さな駄菓子屋を一人できりもりしているばあさんがいました。その駄菓子屋は広い道路に面していて近くに中学校もあったのですが、売り上げは思わしくなくばあさんは質素な暮らしを強いられていました。 
その中学校は田舎の中学校のため、バスで通学している学生も多かったのです。バス停はばあさんの店から十メートルほど離れたところにあり、登下校の時間になると学生たちで賑わっています。あの学生たちが店に来てくれれば……。そう考えたばあさんは一計を案じました。その日から、毎日夜になるとこっそりとバス停を店の方向に動かしたのです。バレないように、一日に五ミリずつ。 
そして数年後。バス停はばあさんの店の真ん前に移動し、店はバス待ちの学生たちで賑わうようになった、といいます。 
この話は、本当なのかどうかはわかりませんが、何かを一気に動かすと多くの人々に気付かれるのですが毎日少しずつ動かしていると意外とバレないものなのです。カツラも同じです。ある日突然、急激に髪の毛が増えるとこれは絶対にカツラだとバレます。だから少しずつ植毛していき、不自然にならないように増やしていくのです。

それはともかく、この現象はやはり人間の認識能力の盲点を突いたものでしょう。大脳の空間識野は、特に急激な変化、すなわち微分情報を抽出するように働きます。それゆえ、微分量が少ない緩やかな変化は認識されにくくなっているのです。

なぜこのような働きをするようになったのかは、進化論で簡単に説明がつきます。ある動物の認識する外界は、動くものと動かないものに大別されます。動かないものというのは、大地・山・樹木などです。これらはその動物にとって、友好的ではないが敵対的でもありません。中立なのです。ゆえに、特殊な場合をのぞいてはこれらの動かないものに注意する必要はないです。

これに対して動くものは要注意です。動くものは、さらに三種類に分けられます。すなわち、敵・餌・同種の異性です。敵からは逃げねばならぬし、餌と同種の異性は追いかけねばならないです。これらを素早く発見することは、生きていくためには重要な能力です。したがって、動くもの、すなわち微分量が大きいものを認識する能力が進化の過程で身についたのでしょう。



これと、似たような話で、「サラミ戦術」というのがあります。サラミ戦術(サラミせんじゅつ、ハンガリー語: szalámitaktika [ˈsɒlɑ̈ːmitɒktikɒ] サラーミタクティカ)とは、敵対する勢力を殲滅または懐柔によって少しずつ滅ぼしていく分割統治の手法です。 別名サラミ・スライス戦略、サラミ・スライシング戦略ともいわれます。


ロバート・ハディック米特殊作戦司令部の契約要員が、2014年11月24日付のナショナル・インタレスト誌に、「中国のサラミ戦術に対抗する6つの方策」という論説を寄せています。
ロバート・ハディック氏

戦争の理由になるには小さすぎる行動も、積み重なると、相当な戦略的変化になります。この中国のサラミを切るような戦術に対抗するには、ハディック次の6つのことをすべきであるとしています。
第1:東・南シナ海での漁船団を拡大すること。中国の民間船舶プレゼンスに対抗し、国家安全保障上の優先事項として漁船団を拡大すべきである。これは法執行および沿岸警備の船舶(白塗りの船舶)のプレゼンスも正当化する。 
第2:海洋での法執行と沿岸警備の能力、プレゼンスを拡大すべきである。各国は軍艦よりも非軍事的な船舶(白塗り船舶)に予算を回すことで、より速く能力改善を達成し得る。中期的には中国の海軍の能力増強に隣国は対抗しえない。しかし白塗り船舶での競争はより有利に行える。 
第3:米国と同盟・パートナー国の海洋当局(軍も含む)は情報交換、将校交流、多数国間訓練を拡大すべきである。これは低コストの能力向上になる。 
第4:米国などは、即時情報共有システムを樹立すべきである。事件の時の対応に役立つ。 
第5:米国と同盟・パートナー国の政策・企画担当者は多数国間の危機対応の準備をすべきである。 
第6:地域の関心国をこの構想に加わるように招請し、この構想への国際的支持を広めるべきである。
この対抗策というのも、悪くはないとは思いますが、これではあの傍若無人な中国に対しては不十分だと思います。ただし、ロバート・ハディック氏は、中国がいわゆる「サラミ戦術」を用いているということを多くに人々に認識させたという点で、大きく貢献したと思います。そうして、中国は南シナ海でも、尖閣でも、中印国境でもこのような戦略をとっています。

私はサラミ戦略に対しては、「逆サラミ戦略」という戦略を採用すべきだと思います。 それは、さきほどのバス停を動かした婆さんのたとえでいえば、バス停が動いたと認識した段階で、それを元に戻すのです。元に戻すにしても、いきなり元の位置に戻すというのではなく、これも一度に5mm程度を戻すのです。

これは、婆さんが毎日5mm動かしているとすると、ある時点で、婆さんが日々5mm移動しても、バス停は全く動かなくなることを意味します。そうすると婆さんは、動かしても無駄だと思うようになり、諦めてしまいます。

諦めた後でも、毎日5mmずつ動かすのです。そうして、元の場所に戻ったら動かすのをやめるのです。このやり方を「逆サラミ戦略」とでも名付けたいと思います。

ただし、現実にはバス停とは異なるので、もっと複雑なものになるでしょう。尖閣であれば、最初は尖閣諸島に何らかの理由をつけて、とにかく人を常駐させるようにします。次の段階では、少人数の武装兵力を常駐させるようにします。

そうして、最終的に尖閣を要塞化するのですが、要塞化するまでに20年〜30年かけるようにするのです。尖閣諸島付近の海域にも、自衛隊の艦艇や空母が日々往来するようにしますが、そうなるまでにやはり、数十年の年月をかけるのです。そうこうしているうちに、中国は尖閣を諦めることでしょう。諦めなければ、本格的な武力衝突になりますが、そうなったら、それでやむを得ないという精神で望めば良いのです。

そのときは、尖閣を日々往来する艦艇、空母、尖閣の要塞が一気に火蓋をきり、尖閣付近の中国軍を一掃すれば良いだけのことです。しかし、こうした覚悟は中国にも事前に十分に伝わることでしょう。いままで、他国にそのようなことをされたことがないので、中国は思い違いをしてきたものと思います。そうして、オバマの戦略的忍耐がこれに拍車をかけたのです。



ブログ冒頭の記事の事例では、アルナチャルプラデシュ州で、中国の作業員グループがインドが主張する実効支配線を越えて道路を建設したという事例では、掘削機など捕獲し、道路は破壊し、今度は逆に中国領に数百メートルインド側が中国領内に進み、その地点に掘削機を置くようにします。

中国側が何も言ってこなければ、インド側はそこに居座りつづます。中国側がクレームを言ってくれば、削岩機をそこに残して、元の国境線内に戻すようにします。このようなことを繰り返し、中国側が1mmもインド側に入ってこれないようします。

南シナ海の場合は、中国の環礁を多数の艦艇で取り囲み、燃料・食料・水などを補給できないようします。その場合、中国側の平和的な撤退は許すようにします。その後は、米国や近隣諸国が中国の環礁を共同管理し、破壊するなり、軍事基地として使うなりします。

ただし、こうしたことをするにしても、あくまでもサラミ戦術で数十年かけて行うようにします。オバマの戦力的忍耐を元に戻すには、これくらい長い年数をかける必要があります。ただし、諸状況が好転すれば、その時点では速度をはやめるべきですが、基本はあくまで逆サラミにすべきです。

とにかく、中国が今後も国境線を破るようなことをすれば、このようにすべて逆サラミ戦術で押し返すのです。それも、日米印露豪、ASEAN諸国すべてが合同でこれを行うのです。

この中で、露はすでに、中国と国境問題を解決ずみです。ソ連時代には国境紛争がありました。しかし、2004年、中国とロシアは国境問題を最終決着させ、国境河川の中州である黒瞎子島/大ウスリー島・タラバロフ島の半分などが中国に引き渡されました。

中露の国境紛争は、さかのぼれば17世紀から存在し、たび重なる武力衝突をも引き起こしてきました。にもかかわらず、最後は“交渉”によって決着するという、きわめて珍しいケースとなっています。これについては、本日述べると長くなるので、いずれ日を改めてまた掲載しようと思います。

大規模紛争や本格的戦争にならずに、中国の野望を完璧に打ち砕くには、このようなやり方が有効だと思います。

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