イランを警戒していたボルトン氏は正しかった
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ウォール・ストリート・ジャーナル
赤の囲みは、今回ドローン攻撃を受けた箇所 |
ドナルド・トランプ米大統領が2015年のイラン核合意からの離脱を表明して以来、イランは中東各地で軍事的緊張を高め、米国の決意を試してきた。サウジアラビア石油施設への攻撃にイランが関与した疑いがあることは、この不安定化の動きが新たな段階に入ったことを意味する。トランプ氏がイラン政策の軟化を検討しているときに攻撃が起きたことは偶然ではない。
14日の攻撃を受けて、サウジの原油生産量は日量約570万バレル減少した。イランの支援を受けるイエメンの反政府武装勢力「フーシ派」が犯行声明を出したが、マイク・ポンペオ米国務長官はツイッター上でイランの関与を主張し、「攻撃がイエメンから行われた証拠」はなかったと述べた。イランは攻撃への関与を否定しているが、直接的な衝突を避けるために代理組織を使うのがイランの常とう手段であり、他に思い当たる犯人もいない。
今回の攻撃は2つの地域大国間の局地的紛争以上の意味を持つ。攻撃によって世界の1日当たりの原油生産量は約5%減少した。サウジは減少分を相殺するための備蓄放出を約束しているが、生産を早急に回復させることができなければ、原油価格が上昇し、既に不安定な世界経済が痛手を受ける恐れがある。
米国のシェールオイル生産が不足分の一部を補うことは可能だが、それも時間がかかる。原油供給へのダメージが長期化すれば、米国は、トランプ氏が検討していたイラン産原油輸出制裁の緩和をさらに強く求められるだろう。
今回の攻撃は、米国の重要な同盟国であるサウジとイランの激しい代理戦争の一環だ。被害の大きさを考えると、サウジが今後、ドローン攻撃から十分に自国を防衛できるかは疑問だ。サウジの情報体制と防空システムはその任に堪えられそうもない。原油生産の減少はサウジの歳入に響く。先行きが不透明になれば、国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)に悪影響が及ぶだろう。
攻撃を行ったのがフーシ派ではなかったとしても、イランはイエメンでアラブ有志連合と戦うフーシ派を支援している。フーシ派はサウジ国内や紅海を航行する石油タンカーへの攻撃を激化させている。もしサウジがイエメンをフーシに奪われれば、イランはアラビア半島をめぐる代理戦争にも勝利したことになる。サウジは理想的な同盟国とは言い難いが、サウジへの支援打ち切りを求める米上院議員は、イランに中東地域の覇権を握らせないための代替案を考えるべきだ。
ホワイトハウスによると、トランプ氏はサウジのムハンマド皇太子と電話会談し、米国による支持を約束した。しかしホワイトハウスは言葉だけで終わらせるべきではない。
ムハンマド皇太子 |
イランはサウジに対してだけではなく、トランプ氏にも探りを入れている。「最大限の圧力」をかけるというトランプ氏の決意を試し、弱みをかぎつけている。イランが夏に米国の無人機を撃墜したが、トランプ氏は軍事的報復の提案を拒否した。イランの対外工作を担うコッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官はこれまで、こうした抑制的な動きがあると、イラン側に分があり事態をエスカレートさせても問題ないと解釈してきた。
トランプ氏はイランのハッサン・ロウハニ大統領との直接会談についても前向きで、ポンペオ氏は国連総会の場での首脳会談を提案した。トランプ氏はエマニュエル・マクロン仏大統領が提案したイランへの150億ドル(約1兆6200億円)の支援への支持も検討している。週末の攻撃はそうした米国の動きに対するイランの答えだ。
米国による制裁でイランの原油輸出はダメージを受けたが、イランはまだ他の石油製品から1カ月当たり数億ドルの収入を得ている。米国のリンゼー・グラム上院議員はイランの原油生産に対する直接攻撃を検討すべきだと主張しており、イランはその選択肢がないわけではないことを知っておくべきだ。
サウジ主導の有志連合も、フーシ派に対するイランの武器供給を遮断するには多くの支援が必要だ。米国がイエメンへの関与を深めることに慎重になるのも理解できるが、イランが勝利し、イエメンでヒズボラのような体制が台頭すれば、米国の安全保障上の利益が損なわれる。そうなればシリアとレバノンの二の舞だ。
トランプ氏がジョン・ボルトン氏に謝罪することになるかもしれない。ボルトン氏は、イランがホワイトハウスの弱点を見つけてはそこを突いてくると繰り返し警告してきた。そのボルトン氏は先週、イラン政策などをめぐる意見の相違から大統領補佐官を辞任した。週末の攻撃はボルトン氏が正しかったことをはっきりと証明した。トランプ政権の圧力キャンペーンは効果を上げている。今それを断念すれば、イランはこれまで以上に軍事的リスクを取るだろう。
【私の論評】原油輸入依存する日本、石油危機も!本当は、増税している場合ではない(゚д゚)!
イラン製ドローン |
重要なのはフーシ派がドローン攻撃を行った地域が「サウジアラビアの石油産業の中心地」(アブドラアジズ新エネルギー相)だったことです。ブルームバーグは「今回の攻撃はサウジアラビアの心臓発作を誘った」と報じていますが、サウジアラビアへの心臓部への攻撃が続けば、サウジアラビアは突然死しかねないです。
さらに「ビジョン2030」を掲げ脱石油依存型経済に邁進するムハンマド皇太子の夢が水泡に帰する可能性すらあります。
原油価格の下支えに向けたOPECプラスの協調減産のため、日量1200万バレルの生産能力を有しているサウジアラビアの実際の原油生産量は、日量1000万バレル弱に減少していますが、原油価格は一向に上がる気配を示さないことから、原油収入が大幅に落ち込み、サウジアラビアは今年再びマイナス成長となるリスクが高まっています(9月5日付ロイター)。
国家財政の「穴埋め」を行い、なんとしてでも経済成長への道筋に戻さなければならないムハンマド皇太子が当てにしていたのが、サウジアラムコの新規株式公開(IPO)の早期実施でした。ムハンマド皇太子は8日、IPOに消極的だったとされるファリハ氏の首をすげ替える荒療治を行ったばかりでしたが、今回のドローン攻撃でIPOは振り出しに戻ってしまうでしょう。
サウジアラビアの安全保障環境が改善されない限り、サウジアラムコのIPOばかりか、サウジアラビアへの外国投資も一層低調になるのは火を見るより明らかです。
ムハンマド皇太子に対する王族の非難が高まり、「宮廷クーデター」が勃発するなど地政学リスクが一気に高まるというシナリオも現実味を帯びてきました。市場関係者の間では「サウジリスクが長期化すれば、原油価格は1バレル=100ドルに高騰する」との声が出ています(9月14日付OILPRICE)。
世界経済を支える米国ですが、過去5回の景気後退のうち4回(1973年、1980年、1990年、2008年)で直前に原油価格が急騰していました。このことを鑑みれば、サウジリスクにより原油価格が高騰すれば、先行き不安が強まり世界経済への大きな打撃になることは間違いないです。
国家財政の「穴埋め」を行い、なんとしてでも経済成長への道筋に戻さなければならないムハンマド皇太子が当てにしていたのが、サウジアラムコの新規株式公開(IPO)の早期実施でした。ムハンマド皇太子は8日、IPOに消極的だったとされるファリハ氏の首をすげ替える荒療治を行ったばかりでしたが、今回のドローン攻撃でIPOは振り出しに戻ってしまうでしょう。
サウジアラビアの安全保障環境が改善されない限り、サウジアラムコのIPOばかりか、サウジアラビアへの外国投資も一層低調になるのは火を見るより明らかです。
ムハンマド皇太子に対する王族の非難が高まり、「宮廷クーデター」が勃発するなど地政学リスクが一気に高まるというシナリオも現実味を帯びてきました。市場関係者の間では「サウジリスクが長期化すれば、原油価格は1バレル=100ドルに高騰する」との声が出ています(9月14日付OILPRICE)。
世界経済を支える米国ですが、過去5回の景気後退のうち4回(1973年、1980年、1990年、2008年)で直前に原油価格が急騰していました。このことを鑑みれば、サウジリスクにより原油価格が高騰すれば、先行き不安が強まり世界経済への大きな打撃になることは間違いないです。
では、米国はどのような手を打つのでしょうか。あるいは、何ができるのでしょうか。それが問題です。答えはもしかすると、「あまりなにも」かもしれないです。
米政府は断固として、サウジ政府を支持しています。しかし、サウジアラビアが主導するイエメン内戦への軍事介入は、米連邦議会ではすでに評判が悪いです。サウジによる空爆は無意味ですし、ただでさえ貧困にあえぐイエメンを人道危機に陥れているだけだという認識が、日に日に高まっているのです。
ところが、今回のようなインフラ施設への攻撃によって、奇妙な側面もあらわになりました。トランプ政権はしきりにサウジ政府を応援するし、イランへの「最大限の圧力」をしきりに強調します。しかし実際には、米政府がイラン政府に発するシグナルの内容は、とても玉虫色なのです。
それというのも、トランプ氏は実は近く開かれる国連総会にあわせて、イラン政府幹部と対面して会談する用意がありそうな様子ですし、ジョン・ボルトン氏を国家安全保障担当補佐官の職から更迭したばかりです。そしてトランプ政権で特にイランの政権変更を強硬に主張していたとされるのは、ボルトン氏でした。
米政府は断固として、サウジ政府を支持しています。しかし、サウジアラビアが主導するイエメン内戦への軍事介入は、米連邦議会ではすでに評判が悪いです。サウジによる空爆は無意味ですし、ただでさえ貧困にあえぐイエメンを人道危機に陥れているだけだという認識が、日に日に高まっているのです。
ところが、今回のようなインフラ施設への攻撃によって、奇妙な側面もあらわになりました。トランプ政権はしきりにサウジ政府を応援するし、イランへの「最大限の圧力」をしきりに強調します。しかし実際には、米政府がイラン政府に発するシグナルの内容は、とても玉虫色なのです。
それというのも、トランプ氏は実は近く開かれる国連総会にあわせて、イラン政府幹部と対面して会談する用意がありそうな様子ですし、ジョン・ボルトン氏を国家安全保障担当補佐官の職から更迭したばかりです。そしてトランプ政権で特にイランの政権変更を強硬に主張していたとされるのは、ボルトン氏でした。
ジョン・ボルトン氏 |
イランとフーシ派は、強大な敵に立ち向かう弱者として、典型的な戦法をとっています。軍事戦略の教科書が「ハイブリッド紛争」と呼ぶものです。否認性、代理の使用、サイバー作戦、情報戦など、ロシアが得意とする作戦の中から、様々な戦術を借りて使っています。
トランプ氏がどれほど大げさに騒いで予想もつかない振る舞いをしようと、実のところは厄介な軍事対立から撤退したいし、新しい武力紛争にアメリカを巻き込みたくないのが本音だと、イラン政府は承知しています。そのためイランはイランで、「最大限の圧力」を米国にかけることができるのです。
しかし、計算を間違えれば全面紛争につながる危険はあります。そのようなことは実際、誰も望んではいません。
原油価格高騰を防止するため、米国政府は「戦略石油備蓄(SPR)」の放出準備に入りましたが、原油輸入の4割をサウジアラビアに依存する日本も「国家石油備蓄」の放出の準備をただちに開始すべきです。
そうして日本では今回の出来事は、単なる石油価格の高騰だけではすまない可能性があることを認識すべきです。
これらが10月の消費増税の後の日本経済にかなり悪影響を与える可能性があると強調してきましたが、④ホルムズ海峡はできればなければ良いと望んでいました。まったくやっかいなことになってきました。臨時国会では、これらに対する対策を本気で議論し、何らかの対応をしておくべきです。
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