2020年2月29日土曜日

台湾の新型コロナ対策が「善戦」しているワケ―【私の論評】日本の国会は、台湾の立法府を見習え(゚д゚)!


早川友久 (李登輝 元台湾総統 秘書)

新型コロナへの対応を高く評価され、支持率が急上昇している台湾の蔡英文総統。その政策を支える土台にあるものとは――?

蔡英文総統

 李登輝が台湾社会に大きく貢献したもののひとつに、全民健康保険制度がある。1995年にスタートした「全民健康保険」は、全国民はもちろん、居留証(外国人登録証に相当)を持つ外国人も加入が義務付けられる。それまでの台湾では、軍人や公務員、教師だけが社会保険制度を享受してきたが、その制度から漏れていた約4割の国民にも安心して医療を受けられる国民皆保険の環境を整備したのである。

 それと同時に、健康保険カードも導入した。このカードはのちにICチップが内蔵され、様々な情報を収められるようになった。氏名や生年月日などの個人情報のほか、いつ、どこの病院で診療を受けたのか、処方箋や薬物アレルギー、過去の予防接種記録、女性の場合は妊娠や出産に関する記録なども収められている。

マスクの「買い占め」を防止

 目下、日本も台湾もコロナウイルスによる新型肺炎の感染拡大防止に躍起になっている。台湾は2003年にSARSを経験したこともあり、政府がとった動きは迅速かつ厳格だった。中国の感染拡大が報じられると、中国人の団体旅行客の入国を拒否したことを手始めに、矢継ぎ早に入国制限(現在は、中国籍の人間は一律入国拒否)した。

 また、折悪しく旧正月とぶつかったため、マスク工場が稼働しておらず、マスク不足のパニックかと思われたが、政府は即座に備蓄を放出すると発表。その後、買い占めや転売を防ぐため、台湾国内で製造されたマスクはすべて政府が買い取ったうえで「記名制」によるマスク販売を行った。

 この「記名制」で活用されたのが健康保険カードである。政府は身分証(外国人の場合は居留証)の末尾によって購入できる曜日を指定し、購入間隔を7日以上空けなければならないと定めた。薬局には必ず処方箋を処理するための健康保険カード読み取り機が設置されているため、ICチップに購入履歴が残る。一人が代理購入できるのは他の一人分までと決まっており、イカサマがやりにくい、公平性のある制度になっている。

 現在ではマスクの増産も順調で、来週あたりから購入できる枚数が増えるものと報じられている。台湾でマスク不足が叫ばれていた旧正月前は、日本から大量にマスクを持ち込む人の姿がニュースで流れたが、もう少し経てば、今度は台湾から日本へマスクが売られていく事態になるかもしれない。

感染拡大地域への「渡航歴」も登録

 また、2月21日には、感染拡大地域として指定されている日本や韓国などへの渡航歴を健康保険カードに登録すると発表された。仮に体調を崩して診察を受けた際、医師がその場で患者の渡航歴を確認できるようにするものだ。こうした取り組みは「性善説」でなく「性悪説」に立つものだ。患者のなかには、自宅隔離を嫌うなどして虚偽の申告をする場合もあるという。こうした「悪意」を出来うるかぎり排除して、徹底的に防疫しようという台湾政府の真剣さがうかがえる。一方、日本政府は中国から日本に入国する旅客に、(感染発生源とされる)湖北省への滞在の有無を自己申告させているという。国家の非常事態に、あまりにもお人よし過ぎるのではないか。

台湾と中国の「決定的な違い」

 中国は今回のコロナウイルス騒動で、東アジアどころか、全世界をパニックに陥れた。感染はむしろますます拡大している。それでもなお、中国は台湾がWHOに参加することを「『一つの中国』の原則のもとで許可」と発言した。SARSのときと同様、人命や健康よりも、イデオロギーを優先する国家なのだ。

 李登輝は2018年に訪れた沖縄での講演で次のように語った。

「中国の覇権主義に直面する台湾は、自主的な思想を持たなければならない。自分たちの道を歩む必要があるのだ。(中略)民主改革を成し遂げ、民主国家となった台湾は、もはや民族国家へと後戻りするべきではない。私たちは、幻の大中華思想から、脱却しなければならないのだ。台湾の国民が持つ共通の意識は『民主主義』であって『民族主義』ではないのだ」

 中国は「一つの民族に二つの国家はいらない」と明言している。中華民族には、中国はひとつだけ(中華人民共和国だけ)存在すればよく、中華民国は存在しない、という論法だ。李登輝は「民族主義」に走るべきではないと主張するが、個人的には、台湾が中国のいう「一つの中華民族」に入らない、別の「台湾民族」を打ち立てるべきではないかと考える。

 例えば、コロナウイルスの感染拡大の問題が報じられた当初から台湾政府の行動は素早かった。今のところ、台湾社会は冷静を保ち、感染者数も抑えられているようにみえる。ネット上では「我OK、你先領」というスローガンが踊った。「私たちは大丈夫だから、マスクが必要なところに優先して届けて」という意味である。

 政府が情報を公開し、国民の安全健康第一を掲げるとともに、国民も公徳心を発揮して行動する姿は、中国のそれと対をなすものである。これがまさに「台湾民族」を「中華民族」と決定的に異ならせる価値観になるだろう。台湾と中国の決定的な差を国際社会に示しつつ、やはり台湾が誇るべき最大の価値観は、李登輝が打ち立てた「民主主義」ではなかろうか。


早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

【私の論評】日本の国会は、台湾の立法府を見習え(゚д゚)!

確かに今回の台湾政府の対応は、打てば響くような速さでした。衛生福利省の疾病管制署(CDC、疾病対策センター)は、1月15日に早くも同肺炎を法定伝染病に指定。20日にはCDCに専門の指揮所を開設しました。1月26日には中国本土観光客の台湾入りを躊躇なく禁止。2月6日には中国人全員の入国を禁止したほか、中国から戻った台湾人には、14日間の自宅待機を求めました。なお、CDCは米国にもありますが、日本にはないことも台湾で不思議がられています。

台湾・基隆に1月31日に寄港した国際クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から同肺炎の患者が出たことが2月1日に分かると、6日には国際クルーズ船の寄港を一切禁じました。8日夜には、台北などの住民約700万人の携帯端末に警報のショートメッセージを一斉発信。乗客約2700人の全遊覧先51カ所を赤丸で示した地図をつけ、乗客と接触した台湾人に、14日間の自己観察を求めました。

なお、陳時中・衛生福利相が毎日、出動服姿で記者会見を続けていることは、国民に安心感を与えています。台湾民意基金会が2月24日に発表した世論調査結果だと、蔡英文政権の感染対策を信頼する台湾人は85.6%に上っています。

陳時中・衛生福利相
ただし、運の良さもあります。今年1月の台湾総統選で蔡英文総統が圧勝し、中国当局が嫌がらせのため、中国人の台湾観光旅行を規制していました。この見方は、反政権側の国民もしぶしぶ認めています。国民党の対立候補、韓国瑜氏は観光を含む中国との交流強化を訴えていました。ある市民は「韓氏が当選して、中国の観光客が押し寄せていたら、今ごろどうなっていたか」と話しています。

それにしても、今回の打てば響くような台湾の反応は、今回の新型肺炎の直前にもみられらました。それについては、このブログにも掲載しています。当該記事のリンクを以下に掲載します。
台湾・蔡総統「一国二制度は信用破産」 新年談話で中国の圧力牽制―【私の論評】日本こそ、台湾のように『中国反浸透防止法』を成立させるべき(゚д゚)!
12月月31日、台北市内の立法院で、「反浸透法案」に反対し、本会議場で座り込む国民党の立法委員ら
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 台湾の蔡英文総統は1日午前、台北の総統府で新年の談話を発表し、「(台湾の)主権を守り民主主義と自由を守ることが総統として堅持すべき立場だ」と述べ、中国の圧力に屈しない姿勢を改めて強調した。
    台湾の立法院(国会に相当)は12月31日の本会議で、中国を念頭に域外からの選挙運動などへの介入を禁止する「反浸透法案」を採決し、法案を提出した与党・民主進歩党の賛成多数で可決した。10日以内に蔡英文(さい・えいぶん)総統の署名を経て成立する。野党・中国国民党は、来月11日の総統選直前の立法は「100%選挙目的だ」と反発しています。
要するに、12月31日台湾立法院本会議で「反浸透法案」を採決、可決し、1月1日にはこの法律に関する内容も含めた、 蔡英文総裁による、新年の談話を発表したということです。

野党が反対しようがしまいが、とにかく必要とあらば、大晦日でも立法院で審議し、そうそうに法律を成立させ、元旦にはもう、それを発表するという超スビードぶりです。

日本の国会と、台湾の立法院を単純に比較するわけにはいかないと思いますが、いずれにしても、蔡英文総裁の並々ならぬ決意がみられます。

日本の国会といえば、野党は28日に衆院を通過した2020年度予算案について「新型コロナウイルス関連の予算が全く入っていない。考えられない」(立憲民主党の安住淳国対委員長)と一斉に批判しました。3月2日に始まる参院予算委員会の審議では、初動態勢の在り方などを厳しく追及する方針だそうです。

安住氏は感染拡大に関し「安倍晋三首相がリーダーシップを取り、初期の段階から対応していれば後手後手に回ることはなかった」と酷評。国民民主党の玉木雄一郎代表は、野党が共同提出した予算案の組み替え動議が否決されたことに触れ「われわれの反対を一顧だにせず、数の力で成立させた」と指摘しました。

しかし、新型コロナウィルス対策には、新年度予算に計上されている予備費当面あてることにし、後から補正予算組めば良いことです。すでに組まれた2020年度予算は、すぐにでも実行しなければ、国政等に支障が出てしまいます。

このようなことは、予算に関する知識がある人なら、誰にでもわかることであり、野党の批判は、全くの筋違いです。野党は、コロナウィルスの撲滅よりも、これを政治問題にすることを企図しているとしか思えません。

それに、国会のはじめには、コロナウイルス関連ではなく、桜問題の追求をすると宣言していました。これでは、全く説得力がありません。野党としては、国会当初にはコロナウイルスよりも、桜問題のほうが重要だとしていたのですから、私はあの時点で全く呆れ返っていました。以下に、コレに関するフィフィさんと、世耕大臣のツイートを掲載しておきます。



野党は、長期間にわたる審議拒否を繰り替えたことでも、すっかり国民から信用を失っていることに気づかないのでしょう。台湾の野党は「反浸透法案」に大反対していましたが、さすがに審議拒否など思いもつかないことでしょう。

安倍政権も長期にわたったので、政権内にも足を引っ張る勢力が多くなったようですし、特に財務省とその走狗は安倍政権の邪魔ばかりしています。また、財界の親中・媚中派の蠢きが大きくなってきたようです。安倍政権としては、これらの勢力を弱体化させないとますます身動きがとれなくなるでしょう。

これらを弱体化させるには、まずは、目前のコロナウィルスの終息宣言をなるべく早くだせるようにし、大規模な減税なども含む十分な経済対策を行い、国民に安心感を与えたうえで、衆参両院同時選挙に打ってでるしかないでしょう。

日本の国会も台湾の立法府を見習ってほしいものです。

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