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2018年10月4日木曜日

政府の“プロパガンダ”も成果なし? 世界中で中国の「好感度」が上がらないワケ ―【私の論評】中国の行き詰まりは、日本のパブリック・ディプロマシーにとってまたとないチャンス(゚д゚)!

政府の“プロパガンダ”も成果なし? 世界中で中国の「好感度」が上がらないワケ 

 「残念なことに、中国が11月の中間選挙に介入しようと試みていることが分かった」

 9月26日、国連安全保障理事会でドナルド・トランプ米大統領がそう発言して話題になっている。トランプは続けて、「彼らは、私が貿易問題で中国に盾突いた初めての米大統領だから、私、あるいは共和党に勝利してほしくないのだ」とも述べている。

 この翌日には、その根拠となるような話を、写真入りでTwitterにアップ。中国国営英字紙チャイナ・デイリーの写真とともに「中国は実際に(アイオワ州の地方紙)デモイン・レジスター紙や他の新聞で、ニュース記事のように見せたプロパガンダ広告を入れている」というメッセージをポストした。

 こうしたトランプの発言は、11月の中間選挙に向けたアピール以外の何物でもない。また米国のテリー・ブランスタッド駐中国大使も9月28日、「中国政府は、プロパガンダを広めるために、米国が守る言論と報道の自由という伝統を利用している」と発言している。こちらは中国だけでなく、トランプを意識したアピールだと見ることができるだろう。

 もちろん、中国によるプロパガンダは実際に行われているし、そもそも今に始まったことではない。最近、中国が世界的にイメージ向上を狙ったプロパガンダを強化していることも確かだ。だが、実は中国のプロパガンダは、トランプが懸念するほどの力はなく、成果も出ていない、というのが実情だと言える。そこで、世界に対する中国の「プロパガンダ」の実態について探ってみたい。

世界で展開されている中国のプロパガンダ。その実態とは?

■「世界は中国をもっと知る必要がある」

 2016年末、中国の国営テレビ局である中国中央電視台(CCTV)の外国語放送を行う部門が、「CGTN」という新たな部門として再スタートすると発表された。CGTNの発足は、中国政府による対外的な情報発信の強化を意図しており、プロパガンダ強化の一環だとされる。

 最近のプロパガンダの強化は、習近平国家主席の肝いりだとみられている。習はこれまで「世界は中国についてもっとよく知る必要がある」と主張したり、「中国のストーリーをうまく伝える能力を高めなければならない」などとコメントし、やる気をアピールしている。

 さらに18年3月には、中国政府がCCTVと、対外向けラジオ局である中国国際放送局(CRI)、そして国内向けの中央人民広播電台(CNR)を統合し、「ヴォイス・オブ・チャイナ(中国の声)」という組織の発足を発表。ヴォイス・オブ・チャイナは世界最大規模の放送局になり、60以上の言語で放送を行うという。公式発表によると、ヴォイス・オブ・チャイナは「中国共産党の見解と指針、政策を広めること」を目的に、「国際的な放送の力を強化する」ことになる。

 米CNNは、戦時中からある米国営放送「ヴォイス・オブ・アメリカ」をまねたヴォイス・オブ・チャイナは、「中国政府の新たなプロパガンダ兵器」だと指摘している。

 こうした最近の動きは、プロパガンダを今以上に組織的に行うのが目的であり、今後、世界的に中国のポジティブな情報を浸透させたいという狙いがある。

 これまでも、中国が世界でプロパガンダ工作を行ってきたことは知られている。中国政府は、対外的なさまざまなプロパガンダ工作のために、年間100億ドル(約1兆1000億円)を費やしているとも言われている。

 例えば、有名なところでは、孔子学院が最たる例だろう。孔子学院は世界140カ国以上に施設を設置しており、日本でも私立大学との提携でいくつもの学院が開設されている。そこで中国政府の方針にのっとった「中国文化」が教えられている。ただ、FBI(米中央情報局)は18年2月、スパイ工作やプロパガンダ行為をしているとして孔子学院を捜査していると述べている。

 また、中国政府の裏工作も暴露されている。中国は、CRIやフロント企業を使って、米国など世界14カ国にある33のラジオ局で主要株主になるなどして、目立たないように裏でコンテンツを支配していることが明らかになっている。そうした局では、中国寄りの放送はするが、中国に都合の悪いニュースを排除しているという。

■好感度は上がっていない

 冒頭でトランプが批判した中国国営英字紙のチャイナ・デイリーの件も、いまさら驚くような話ではない。チャイナ・デイリーは、デモイン・レジスター紙に「チャイナ・ウォッチ」という4ページにわたる広告セクションを入れていた。ただこのやり方は、欧米メディアでは珍しい話ではなく、チャイナ・デイリーは広告セクションにページを入れてもらうために「広告費」を支払っている。日本などでも広く行われている、いわゆる「記事広」(編集記事のように見せた広告)のようなものである。

 またこんなケースもある。英国では、デイリー・メール紙がオンライン版に中国国営の人民日報の記事を週40本掲載するという契約で契約料を受け取っている。デイリー・メール紙から見れば単なるビジネスだが、中国側からすればプロパガンダ戦略の一環である。

 筆者が留学していた米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)でも、学内の掲示板のあるコーナーには、学校新聞「ザ・テック」に並んでチャイナ・デイリーがいつも山積みにされていた。学内のあちこちで、無料で手に取れるように置いてあったのである。他の大学でも同じように置かれているところが少なくなく、さらには国連関連の機関などにも配られているという。

 このように、中国はあの手この手でプロパガンダを実施してきた。ただ残念ながら、こうした取り組みの効果は、これまでのところ微妙だと言わざるを得ない。米調査機関のピュー研究所が世界38カ国で実施した調査では、09年に中国政府が対外プロパガンダの強化を始めたとき、中国を好意的に見ている人は50%ほどいた。だが17年にはそれが3ポイント低下。少なくとも、好感度アップにはつながっていなかった。

 また、米ジョージ・ワシントン大学国際関係大学院中国政策プログラムのディレクターで中国専門家のデイビッド・シャンボー教授は、「圧倒的にネガティブな見方が多く、好感度は時間をかけて落ちている。09年と15年を比べると好感度は20%も落ちている」と指摘している。

 少なくとも、イメージは以前と比べて大して良くなっていないということだろう。そんな背景から、中国は最近になって、あらためて強化策を行っていると考えられている。

プロパガンダを強化してきたが、中国のイメージは大して良くなっていない

■国内弾圧でイメージ悪化

 ただ残念ながら、世界に向けて大枚をはたいて実施しているプロパガンダも、国内での過剰な弾圧によって、一瞬にして全てが台無しになってしまうケースが相次いでいる。最近でも、18年8月に山東大学の中国人元教授が、山東省の自宅から米国のラジオ番組に電話で生出演している最中に、治安当局者が自宅になだれ込む事態が起きた。

 元教授は生放送で政府に批判的なコメントをしていたのだが、最後に「表現の自由があるのだ!」という言葉を残して中継は切られた。結局、元教授はその場で拘束されたのだが、この顛末(てんまつ)は欧米メディアで大きく報じられ、多くが中国の強権イメージを再認識することになった。

 またアフリカ東部のケニアでも18年9月、ケニア警察が不法移民取り締まりのためにCGTNのアフリカ本部を強制捜査して中国人記者らを一時拘束する騒動が起きている。また在ケニアの中国人実業家がケニア人を「みんな猿みたいだ」などと発言する動画が拡散され、この中国人は逮捕された。この1件も世界的に大きく報じられている。

 政府がどれだけ中国政府や文化のイメージを向上させようと画策しても、SNSなどが広く普及している現代では、中国当局の恐ろしさと一部の中国人らの素行の悪さは隠し切れない。

 まずは国内の現実に目を向け、そこから改善しないことには、プロパガンダもなんら意味を成さなくなる。中国は、対外的なPR活動なんかよりもまずは国内に目を向けるべきである。

 ちなみに、11月の米中間選挙までは、トランプの対中ネガティブキャンペーンは話半分で聞いておいたほうがいいだろう。

【私の論評】中国の行き詰まりは、日本のパブリック・ディプロマシーにとってまたとないチャンス(゚д゚)!

「残念なことに、中国が11月の中間選挙に介入しようと試みていることが分かった」というトランプ大統領の発言は単なるネガティブキャンペーンとはいえないでしょう。実際にあらゆる手段を講じて中国はこれに介入しようとしているに違いありません。

中国の真の姿を知ってしまえば、このように考えるのが当たり前です。これを単純にネガティブキャンペーンと受け取る人は、米国のリベラルメデイアによるキャンペーンによりかなり偏向した見方しかできなくなった人だと思います。とはいいながら、中国の対米国プロパガンダもしくは対中国パブリック・ディプロマシーは最近効果がなくなってきているのは事実です。


今日、海外の世論をめぐり、各国はパブリック・ディプロマシー(PD)(定義は後に掲載します)を活発に展開するようになりました。特に米国はPDの主戦場であり、米国世論をめぐる各国のPD合戦は凄まじいものがあります。

しかし、今、その環境が変容しつつあります。その原因が、中国の対米世論工作、つまりはPDの行き詰まりです。中国ではPDを「公共外交」と呼び、中国のソフトパワーを行使する手段として、これを重視してきました。

ただし、中国は自らの民主化されておらず、政治と経済が分離されおらず、法治国家化もされていない現状は表に出さず、自らの良い面を強調し、日本などは貶めるような工作をしてきたので、これはPDというよりは、やはり本質的には旧来のプロパガンダと変わりはないだけで、目先を変えただけのものが中国のPDということできると思います。

中国は、これまで米国においても活発にPDを展開してきましたが、ここに来て手詰まり感を見せ始めました。その一例が、全米に設置されている孔子学院の相次ぐ閉鎖です。例えば、フロリダ州北フロリダ大学は、学内に設置されている孔子学院を、2019年2月には閉鎖する方針を固めました。

孔子学院の設置は、中国のPDの中でも特に重視される手法の一つです。孔子学院は中国政府の非営利教育機構であり、中国語や文化の教育をはじめ、宣伝、中国との友好関係の醸成などの一環として世界中の教育機関に設置されています。特に米国における文化・教育の普及活動には熱心です。

孔子学院をめぐっては、最近になって、米国内で「中国政府の政治宣伝機関と化している」などとの批判が高まる傾向にあります。孔子学院は中国政府から資金を得ており、米国の教育機関から、「学問の自由に反する」と批判され、また、学内で中国に有利なプロパガンダを宣伝していると懸念されています。

米国では孔子学院に逆風が吹いている

このように、日本PDの最大のライバルともいうべき中国の米国に対する働きかけは難航しています。日本においても、PDの必要性が叫ばれる今日、こうした状況をどのように捉えるべきなのでしょうか。

PDとは、海外における自国の利益と目的達成のために、メディアでの対外情報発信や、海外の個人や組織との文化や教育に関する交流などの活動を通じ、海外における自国のプレゼンスやイメージの向上を目指す活動を指します。

大戦期に各国が戦略として用いた「プロパガンダ」が元々の形態であるとされます。しかし、戦後は「プロパガンダ」という言葉がネガティブなイメージとして想起されるようになり、PDという言葉が誕生しました。冷戦終結後には、ソフトパワーの重要性が増大したことや、世論が政府の政策決定において果たす役割が増大したことなどから、米国を中心に、各国がPDを重視する政策を採用していきました。


中国のPDは、日本がPDの重要性について着目するかなり以前から政治、経済、文化など、あらゆる分野において活発に展開してきました。その起源は天安門事件にあるといわれています。1989年6月4日に生起した天安門事件によって欧米諸国のメディアなどが作り上げた中国のマイナスイメージを払拭することが、当初の目的であったのです。

21世紀に入ると、中国は目覚ましく台頭していきます。中国の経済発展が急速に進行し、米国をはじめ、国際社会における中国のプレゼンスは格段に高まっていくこととなりました。

そして中国は、天安門事件以降の経験などから、PDが米国内の世論形成に大きな役割を持っていることを認識し、米国向けに積極的な活動を行ってきました。米国の政府機関などを通じた間接外交だけでなく、例えば、米国在住の華人を同胞として重視した地方都市における草の根レベルでの働きかけ、企業や市民団体との連携など、政府が前面に出ない形のPDを展開してきたのです。

とりわけ米国一般世論に働きかけるためには多彩なメディア戦略が必要だとの認識から、米国メディアへの働きかけをはじめ、中国中央電視台米国 (CCTV America)の発足や、China Watchの広告広報など、多大な努力を払ってきました。

特に2012年に米国に開局したCCTV Americaは、演出戦略などが卓越しているといわれます。多くの米国人をはじめとする外国人に視聴してもらうために、キャスターの人選や多言語化など、多様な演出の工夫を凝らしてきたことが功を奏したのでしょう。

文化・教育面では、孔子学院の拡大をはじめ、米国メトロポリタン・オペラで中国を舞台とした巨大オペラを上演するなどして、中国のイメージ向上に努力してきました。

メトロポリタン・おベラ

特に孔子学院については、中国の代表的なPDとしても有名で、海外の大学などの教育機関に設立しています。中国が米国に設置した孔子学院の数は110であり、世界全体における同学院の総数525(2018年9月時点)の約21%を占めます。これは、ほかの地域や国における数と比較して、群を抜いて多いです。

こうした中国の対米PDの影響は、米国世論にも表れ始めました。米国における対日世論調査(2016年度末まで外務省が実施)において、自国にとっての「アジアにおける最も重要なパートナー」を、「日本」ではなく「中国」と位置付ける見方が増え始めたのです。特に、日本がPD強化戦略をとる以前は、有識者の間にもこの考え方が浸透しており、2010年には「中国」が「日本」を20ポイントも追い抜き、調査開始以来最大の開きとなりました(中国56%、日本36%)。

そして、その後しばらくの間、「中国」が「日本」を上回る情況が続くこととなりました(下グラフ参照)。

外務省データより作成(以下同じ)

さらに中国は、日本を劣勢に立たせる形で、米国の対中政策に有利に作用させようとするPDも展開してきました。例えば、中国や韓国が国際社会において対日批判を激しく行う状況が多発し、その韓国の活動に中国が協力する形でPDを展開しています。その影響は、徐々に米国国内でも現れるようになりました。現地メディアが日本の慰安婦問題や靖国神社参拝問題に関し、日本を批判的に取り上げるようになっていたのです。

中国にとって都合が良いのは、日米関係が悪化することです。しかし、中国が単独で、米国の対日感情を悪化させたわけではないです。米国内でも中国のプレゼンスが増大しており、米国自身が日米同盟を維持しながら中国とも良好な関係を構築しようとしたこともその一因です。

そうしたなか、同盟国の日本が歴史認識をめぐる問題や領土問題などで中国と対立することに対して、米国内で不快感が広がっていきました。さらに、歴史認識をめぐる日本政府の強硬な姿勢が、中国の反日的なPDを後押しする形となり、米国が「失望」という声明を出すこととなってしまいました。こうした状況を背景として、米国世論のなかでも、日本より中国をアジア最大のパートナーと見なす考え方が増えていったのだと考えられます。

このように、中国の米国におけるPD戦略は、日本にとって不利に作用していました。安倍政権による2015年度のPD強化戦略も、こうした事態に対する強い危機感があったからだと考えられます。

しかし、冒頭の記事にもみられるように、中国のプロパガンダ(PD)は、効き目がないようです。日米関係を悪化させるかに見えた中国の対米PDが、行き詰っているように見受けられます。しかも、文化、経済、政治と、多岐にわたる分野で上手くいっていないようです。

文化面でいえば、先に紹介した、米国各州の教育機関における孔子学院の相次ぐ閉鎖です。米議会では、共和党のルビオ上院議員をはじめ複数の議員が、孔子学院の閉鎖を働きかける活動を展開しており、これまで、シカゴ大学やペンシルバニア大学をはじめ、最近では2017年9月にイリノイ大学の、2018年4月にテキサス農工大学の孔子学院が次々に閉鎖を決定しています。

さらに2018年2月には、米連邦捜査局(FBI)が孔子学院に対して、スパイ活動容疑やプロパガンダ活動容疑で捜査を開始しました。

また、経済面では、トランプ政権誕生後、米中の貿易摩擦が「貿易戦争」と呼ばれるまでに緊迫しており、中国の通信機器大手であるHuaweiなどの通信機器の販売を制限・禁止する動きを見せています。そのHuaweiは、2018年に入ってから、米国におけるロビー活動費を大幅に削減し始めました。米国議会に対するロビー活動を縮小させたのです。

同社は民間企業でありながら、中国人民解放軍の退役軍人が創業した「人民解放軍のスピンオフ企業」ともいわれており、米国では中国人民解放軍や情報機関との関係が疑われていた企業です。

一見すると、米中の貿易摩擦の一環とも受け取られるこの問題は、実はPDの問題でもあります。政府が関係するロビー活動がPDの手法の一つといわれることに鑑みても、Huaweiは中国のPDの担い手の一部であるといえるからです。

さらに、政治面では、中国政府がワシントン所在の有力シンクタンクに資金提供を行っているとされており、それが最近になって米国内で問題となっています。2018年8月25日までに米議会が発表した報告書によると、中央統一戦線工作部(統戦部)が主体となり、米国政府に影響力を持つシンクタンクに資金提供し、中国寄りの立場をとるよう働きかけを行っていたといいます。

統戦部は、海外におけるPDを実施する組織であり、プロパガンダ工作も行っているとされます。報告書によると、統戦部と深い関わりを持つ中国の非営利団体「中米交流基金」が、ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院をはじめ、ブルッキングス研究所、戦略国際問題研究所(CSIS)、大西洋評議会、カーネギー国際平和基金など、米国の外交政策策定に影響力を持つ多数のシンクタンクと研究活動などを通して提携していたといいます。

さらに、同基金がワシントンにおいて数十万ドルもの予算を投じてロビー活動を行ったり、統戦部が全米の巨大留学生組織「中国学生学者連合会」と連携してスパイ活動に準ずる活動を行ったりしているともいわれています。共和党のクルーズ上院議員も、これを問題視し、今年1月にはテキサス大学に対して交流基金からの資金提供を受けないよう促しています。


中国のPDの強みは、共産党独裁体制のもと、予算や人員といった豊富な資源を状況に応じて自在に投与できることです。米国の議員や大手企業幹部に働きかけるために多額の予算を組み、ロビー活動を通じて親中派を増やしているともいわれます。

中国は、経済・文化交流を通じて世論を誘導あるいは分断し、敵の戦闘意思を削ぎ、戦わずして中国に屈服するよう仕向けることを目的とした「三戦:輿論戦(世論戦)、法律戦、心理戦」を掲げています。PDは中国にとって安全保障戦略の重要な一部でもあるのです。その中国の対米PDが、今、転換点を迎えています。この状況を受けて、日本はどうすべきでしょうか。日本のPDの今後のあり方について検討してみます。

以下に日本のPDのあり方について考える際に注意すべき3つの点を確認しておきます。

(1) 世論の変化に敏感に。中国の動向など外部要因を吟味。
二次安倍政権発足当初は日中間で揺れていた米国世論も、最近では再び日本寄りになってきています。前出の外務省の世論調査において、2014年以降は「日本」が逆転する一方、「中国」を「アジアにおける最も重要なパートナー」とする一般世論は、減少傾向にあります(下グラフ参照)。

しかし、こうした状況を楽観視して良いわけではないです。有識者に限っていえば、日本を「アジアにおける最も重要なパートナー」と見なす考え方が減少傾向にあるからです。2014年はこれまで最も多い58%が日本を「最も重要なパートナー」と見なしていたのですが、それ以降は年々減少し、2016年には前年より14ポイントも落としてしまいました(グラフ3参照)。


米国の有識者は、政府の政策決定に直接的な影響力を持ちます。アジア最大のパートナーとして「日本」を選ぶ有識者の割合は「中国」より上回っているものの、その考え方が減少傾向にあるのは望ましくないです。
2016年にネガティブな視点が出てきた背景には、2016年11月に行われた米大統領選で勝利したトランプ大統領の影響があります。トランプ氏が選挙中から日米同盟を軽視するような発言を繰り返したり、TPPからの離脱を表明したりしたことが、今後の日米関係に対する米国有識者の見方に影響したと考えることもできるでしょう。
ただし、トランプ氏は保守派であり、米国の保守派の歴史の見方は近年変わってきており、単純な「日本悪玉論」は忌避される傾向にあることは、以前のこのブログに掲載したことがあります。 
世論調査の結果と日本PDの関連についての判定は簡単ではないです。しかし、検証が困難だからといって、何もしなくて良い訳ではないです。日本は、米国におけるPD環境が変化しつつあることを認識し、中国の対米PDの行き詰まりを、自らのPDを一層推し進めるチャンスと捉えるべきです。PDの効果が表れるのには時間がかかります。中長期的な視点が必要とされるのです。
(2) PDに安全保障の視点を。日本主導で海外シンクタンクとのタイアップ。
日本のPDのあり方を考える時、PDを展開する国の関心を理解することが重要です。特に米国に対してPDを展開する際は、「中国の台頭」や日米同盟の存在を無視することはできず、安全保障の視点を交えてPD戦略を考えなければならないです。例えば、日本に対する米国社会の支持を得るべく、広報や宣伝活動に加えて、日本主導で米シンクタンクなどと共同研究や机上演習を行い、その成果物を、米国メディアを通じて米国内の一般世論に働きかけていくのも一案です。安全保障分野での、こうした双方向性を重視したPDは、新しい取り組みとなることでしょう。
(3) 感情的にならない。グローバル・スタンダードに沿った理知的な発信を。
歴史認識をめぐる問題については、中国や韓国が、海外(特に米国)において反日的ロビー活動を行ってきました。過去には、国際社会における中韓の反日ロビー活動は一定の「成果」を挙げており、当時は、日本もこうした海外の反応に抗議する形で発信してきました。
しかし、最近では、世界的に女性の権利擁護の意識が高まり、女性への性犯罪は厳しく断罪されています。そして慰安婦問題は、国際社会では今日の人権や女性の権利の問題として受け止られる傾向にあるのが現状です。
強硬な抗議を展開するだけでは、実情をよく理解しない国々に感情的な反応と捉えられかねないです。中韓に反発しているという印象を与えることは、かえって日本にとって不利になります。グローバル・スタンダードに沿った理知的な発信とするためには、間接的ではあっても、現在の日本がどのような国であるのかを発信することによって、日本の悪いイメージを植え付けようとする中韓の試みを無効化することができるでしょう。
中国は「日米離反」が中国の対米PDの主目的である。日本が歴史問題で中韓の挑発に乗ってしまえば、向こうの思う壺となってしまうのです。
対米PDの最終的な着地点は、日本に対するポジティブな米国世論が定着、拡大し、より幅広いグループや年代に日本に興味を持ってもらい、日米関係が発展することです。その鍵は、従来のPDが重視する広報や文化を通じた交流のみならず、政治や安全保障といった分野でも協力し、一般から有識者まで、幅広い米国の個人や団体などとの関係を発展させることにあります。

日本の多様な魅力の発信拠点であるジャパン・ハウスは、ロンドン、ロサンゼルス、サンパウロの世界の3大都市でオープンし、強力に発信し始めました。しかし、これらの都市が存在する国以外でも、中国をめぐる世論やPD環境が変化しているのです。そこには、日本にとって、有利な変化も不利な変化もあります。

ジャパンハウス・ロサンジェルス

日本におけるPDの考え方やその戦略は、未だ発展途上にあります。これからの時代の外交にあっては、周辺の国や地域の情勢や考え方の変化を敏感に受け止め、世界的な視野に立ち、独りよがりになることなく、相手から受け入れられるメッセージを発信ことが必要となってきます。また、PDの効果を左右させうる外部要因を上手く利用する形で、自らのPDの方途も柔軟に適応させていく能力が求められるでしょう。

特に「中国のPDの行き詰まり」は、日本のPDにとってまたとないチャンスであると考えられます。

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2018年8月15日水曜日

米国、非核化の成果なければ「海上封鎖」断行か 日本に激震の危機―【私の論評】北の海上封鎖は十分あり得るシナリオ、その時日本はどうする(゚д゚)!

米国、非核化の成果なければ「海上封鎖」断行か 日本に激震の危機

日本を守る

世界最強の米原子力空母「ロナルド・レーガン」。
正恩氏率いる北朝鮮の「海上封鎖」に乗り出すのか

 米中間で“関税合戦”による死闘(貿易戦争)が始まった。その脇で、いま中東が爆発しそうだ。米中間のデスマッチの幕が上がる一方、北朝鮮危機がどこかへ行ってしまったように、見える。米朝両国はここ当分の間は、交渉を続けてゆくのだろうか。

 8月初めに、シンガポールで東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議が催された。

 北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は「米国が同時並行する措置を取らなければ、わが国だけが『非核化』を進めることはあり得ない」と演説した。にもかかわらず、マイク・ポンペオ米国務長官は「北朝鮮の非核化」について、「北朝鮮の決意は固く、実現を楽観している」と述べ、李氏と固い握手を交わした。

 日本は、6月にシンガポールで「歴史的な」米朝首脳会談が行われてから、しばらくは緊張が解けたものと判断した。北朝鮮からのミサイル攻撃に備えて、東京の防衛省、北海道、島根、広島、愛媛、高知の各駐屯地に展開していた、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊が撤収した。

 北朝鮮は、米国から「南北平和協定」「制裁の緩和」など段階的な見返りを求めて、ドナルド・トランプ政権をじゃらしている。北朝鮮はワシントンを甘くみているのだ。

 だが、トランプ政権は北朝鮮をあやしながら、北朝鮮に鉈(なた)を振るう瞬間を待っている。

 もし、11月初頭の米中間選挙の前までに、北朝鮮が「非核化」へ向けて、米国の選挙民が納得できる成果を差し出さなければ、海軍艦艇を用いて、北朝鮮に対する海上封鎖を実施することになろう。米国民は何よりも力を好むから、喝采しよう。

 私は、前回の「日本を守る」連載(4月掲載)で、米国が北朝鮮に対して海上封鎖を断行する可能性が高いと予想した。

 海上封鎖という“トランプ砲”が発射されると、日本の政府と国会が激震によって襲われよう。米海軍が日本のすぐ隣の北朝鮮に対して、海上封鎖を実施しているのに、自衛隊が燃料や食糧の供給などの後方支援に役割を限定するわけにはいくまい。

 米国-イラン関係の険悪化など、中東情勢も不安定化している。中東は日本のエネルギーの80%以上を供給している。

 日本を揺るがしかねない危機が進行しているのに、日本の世論は目をそらしている。

 ■加瀬英明(かせ・ひであき) 外交評論家。1936年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、エール大学、コロンビア大学に留学。「ブリタニカ百科事典」初代編集長。福田赳夫内閣、中曽根康弘内閣の首相特別顧問を務める。松下政経塾相談役など歴任。著書・共著に『「美し国」日本の底力』(ビジネス社)、『新・東京裁判論』(産経新聞出版)など多数。

【私の論評】北の海上封鎖は十分あり得るシナリオ、その時日本はどうする(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事では、海上封鎖について定義も何もあげずに、使用していますが、平和ボケ日本では、海上封鎖について良く知らない人もいらっしゃると思いますので、以下に簡単な定義をあげておきます。

海上封鎖とは、ある国が海軍力を用いて、他国の港湾に船舶が出入港することを阻止することです。封鎖行動は宣言によって開始され、その前には中立国の船舶の退避時間が設けられます。

海上封鎖は戦時封鎖と平時封鎖に分類されます。戦時封鎖の場合は通商破壊や攻勢機雷戦を伴います。平時では非軍事的措置の一環とみなされ、海軍部隊による臨検が主となりますが、封鎖を突破しようとする船舶が現れた場合には攻撃が避けられないです。
米国によ海上封鎖に関しては、今年の3月に米国が、米国沿岸警備隊を朝鮮半島に派遣してより強化することも検討していることが報道されました。それに関してはこのブログでも、今年の3月に掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米、北に新たな一手“海上封鎖” 沿岸警備隊のアジア派遣検討 「有事」見据えた措置か―【私の論評】沿岸警備隊派遣の次には、機雷戦?その時には海自が活躍することになる(゚д゚)!
米国沿岸警備隊の艦船と航空機
ブログ冒頭の記事では、米軍が海上封鎖と掲載しているだけですが、実際に海上封鎖するということになれば、最初は平時海上封鎖ということで、沿岸警備隊の艦船が臨検することになるでしょう。無論もしもの軍事衝突に備えて、空母や潜水艦なども当然派遣するでしょうが、これらは臨検などには向いていません。

軍艦を臨検することは滅多にはないでしょうが、もしそのようなことがあれば、当然イージス艦などの軍艦がこれにあたることになるでしょう。

しかし、それ以外の小さな艦船であれば、やはり沿岸警備隊の艦船が臨検などにあたるのか適当であると考えられます。

ただし、そこから一歩踏み込んで、戦時封鎖ということになれば、最初からフリゲート艦や、駆逐艦などが主に担当し、機雷敷設などのことも当然行うことになります。

機雷の敷設や、それを取り除く掃海に関しては、日本の能力は世界でもトップクラスというか、現実には他国を引き離し断トツで世界一といって良いでしょう。これについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本単独で「核武装国」中国を壊滅させる秘策は機雷―【私の論評】戦争になれぱ中国海軍は、日本の機雷戦に太刀打ち出来ず崩壊する(゚д゚)!
平成20年6月12日、海上自衛隊による機雷の爆破処理で
海面に噴き上がる水柱。後方は神戸市街=神戸市沖

この記事では、日本単独で「核武装国」中国を壊滅させる秘策は機雷であるという元記事について論評しましたが、論評の過程で日本の掃海の現状や、歴史について触れました。

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、日本の海上自衛隊による掃海能力は世界一です。もし、米軍が北朝鮮を海上封鎖するということにでもなれば、当然日本も、怪しい艦船の臨検などを米国側から求められるでしょう。

ただし、海上自衛隊はすでに戦後長い間踏み込まなかった黄海にまで、艦船を派遣して、監視活動にあたっています。

ただし、北朝鮮そのものを海上封鎖するということになれば、港を封鎖するのとでは規模が違います。これを機雷敷設なしで、行うということになれば、想像もつかないくらいの莫大な数の艦船が必要になることでしょう。

これは、現実的ではありません。現実的に北朝鮮を海上封鎖するとすれば、やはり機雷の敷設は避けられないでしょう。

ただし、機雷で封鎖ということになれば、かなり効果があげられるでしょう。北朝鮮のほとんどを機雷で封鎖してしまえば、艦船などで監視や臨検を行う部分はかなり限られてくるので、莫大な数の艦船は必要ありません。

空においても、日々哨戒活動にあたり、北や北に協力する航空機などが北と外国との間の行き来を完全に封鎖し、韓国も北との国境は完璧に封鎖し、さらに北と中国との間の橋梁や道路など破壊してしまえば、北を完璧に封鎖できます。

この状況にまで追い込めば、北には石炭や石油の供給が絶たれてしまいますから、軍隊をはじめほとんどの組織が、身動きの取れない状態になります。

その状態で、交渉に持ち込むか軍事攻撃をすれば、すぐにでも北朝鮮は音を上げることになります。

トランプ砲が炸裂して、北朝鮮を海上封鎖するというシナリオは十分にあり得る

それにしても、ブログ冒頭の記事では「米海軍が日本のすぐ隣の北朝鮮に対して、海上封鎖を実施しているのに、自衛隊が燃料や食糧の供給などの後方支援に役割を限定するわけにはいくまい」と掲載していますが、まさにその通りです。

北朝鮮付近の海域に機雷の敷設や除去など、憲法上や法律上の制約があるので、できないと専門家などは言っていますが、これは時限立法を成立させてでも、少なくとも除去くらいはできるようにしておくべきものと思います。

そうして、海上封鎖をすることになれば、その後北の崩壊はかなり現実的になります。そのときに、拉致被害者や最近拉致された日本人の救出をするために、自衛隊を派遣できるように、これも憲法解釈の変更と、時限立法などでできるようにすべきです。

1962年のキューバ危機においては、米国はキューバ周囲を海と空から海上封鎖すると宣言し、実際にそうしました。

確かに、海上封鎖という“トランプ砲”が発射されると、日本の政府と国会が激震によって襲われることになるのです。日本の世論はこれから目をそらすべきではありません。

これを単に激震などとだけとらえるのでなく、日本が世界平和に大きく寄与するチャンスだと捉えて、必要な措置をとるべきです。

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2017年12月19日火曜日

アベノミクス批判本に徹底反論! なぜ「成果」を過小評価するのか―【私の論評】雇用よりも労働生産性を優先する考え方は著しく不見識(゚д゚)!

アベノミクス批判本に徹底反論! なぜ「成果」を過小評価するのか

田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

田中秀臣氏 写真・グラフはブログ管理人挿入 以下同じ
 以前、保守系の討論番組「闘論!倒論!討論!」(日本文化チャンネル桜)に出たときに、出席者のクレディセゾン主任研究員、島倉原(はじめ)氏が、同志社大学教授の服部茂幸氏の『偽りの経済政策』(岩波新書)を援用して、アベノミクスの雇用創出効果について否定的な意見を提起した。服部氏の上記の本では、第二章「雇用は増加していない」という刺激的な見出しがついた、アベノミクスの雇用創出への否定的な意見が確かに展開されている。

同志社大学教授の服部茂幸氏
 そこで服部氏は「日本経済は実体経済が停滞しているだけではなく、雇用も労働生産性も停滞していることを明らかにした」(同書93ページ)とある。また同書を読むと、服部氏のいうアベノミクスはほぼ日本銀行のインフレ目標2%を目指す金融緩和政策、すなわちリフレ政策と同じものとみなしているようだ。

 実は服部氏の所論については、以前に学会の依頼で「アベノミクスをめぐる論争―日本は復活したか、それともまだ罠にはまったままか?」という批判的な書評を書いたことがある。冒頭に紹介したように、討論番組などでその所説が利用されるようならば、改めて服部氏の議論を再検討してみたいと思う。実際に、世論やネットの中では、アベノミクス期間中の雇用の改善を否定し、過小評価する傾向があるからだ。

有効求人倍率が「バブル期並み」の水準まで改善している
 もちろんこの連載の読者ならばおわかりだろうが、雇用状況にはまだまだ改善する余地がある。だが、それは雇用の停滞という状況ではない。雇用はアベノミクス導入以前に比べると改善しているし、その成果は金融緩和の持続に貢献している。それに加えて、もちろん海外経済の好調もある。

 金融緩和の雇用改善効果は、国内的には消費増税、国際的には2015年ごろの世界経済の不安定化によって一時期低迷したが(といっても底堅い状況だった)、現状では再び改善の度合いを深めている。ただし、消費の停滞は消費増税の影響が持続しているとみなしていいので、その面から日本の雇用の改善は抑制されてしまっている。

 金融緩和や財政政策の拡大による経済政策を採用することで、雇用状況はさらに改善するだろう。例えば、より一層の失業率低下や賃金上昇、労働生産性の上昇などがみられるだろう。

 さて、服部氏の主張を簡単にまとめておこう。
1)アベノミクス期間で就業者数は増えた。ただし、それは短時間就業者が増えただけで、「経済学上の正しい雇用あるいは就業の指標」である「延べ就業時間」でみるとむしろ減少した。 
2)また、実質国内総生産(GDP)を述べ就業時間で測った労働生産性だと、その上昇率はほぼゼロにまで低下している。 
3)安倍政権は2%の実質経済成長率を目指しているが、そのためには延べ就業時間を増加させるか、労働生産性を上昇させるか、あるいはその両方が必要である。だが、1)2)により実現は不可能に思える。特に、延べ就業時間増加率は人口構造の変化(現役世代の減少)からゼロとみても楽観的なので、労働生産性次第になる。ところが、2)もほぼゼロなので、安倍政権はその目的を達しない。 
4)「労働生産性の上昇なき雇用の改善は、政策の成果ではなく、失敗なのである」(同書94ページ)。
 以上が、服部氏の「雇用は増加していない」という主張である。働く場が増えることは失業している状況よりも望ましいと思うが、服部氏はそのように考えていないということだろう。

まず延べ就業時間数だが、例えば労働力調査をみてみると非農林業の延べ就業時間(週間)は、民主党政権の終わりの2012年の23・58億時間から2016年は23・60億時間になっている。確かに、この数字だけみると、安倍政権は民主党政権と比べて雇用が全く増えていないということになる。他方で就業者総数は増加しているので、パートや高齢者の再雇用といった短時間労働が貢献しているかのようである。

 だが、現状では、短時間労働の原因ともいえるパート労働などの非正規雇用の増加は頭打ちともいえる状況だ。最新の統計だと、2カ月ぶりに5万人ほど増加したにとどまる。対して正規雇用は、正規の職員・従業員数は3485万人。前年同月に比べ68万人増えて、35カ月連続の増加となっている。

 それに加えて、服部氏はどうも失業よりも雇用された状態がいいとは思っていないのかもしれないが、専業主婦層のパート労働の増加は家計の金銭的補助となるだろうし、また高齢者の再雇用もまた経済的な助力になるだろう。延べ就業時間の「低迷」をいたずらに過大評価すべきではない。服部氏もそれを冒頭の番組で援用した島倉氏も、働くことができる人間的価値を軽視しているのではないか。また、最近では正規雇用の増加が進んでいるので、2017年の統計は服部氏目線でもさらに「改善」されている可能性が大きい。


 次に労働生産性についてである。服部氏の定義だと確かにゼロ成長率になる。ただ、この労働生産性の定義の場合、景気が回復していけば、延べ就業時間総数が一定でも実質GDPは事後的に増加していく。現状のような総需要不足の状況であれば、それを解消していくことで実質GDPは増加し労働生産性も伸びていく。それだけの話にしかすぎない。ちなみに、総需要不足の失業がある段階で、労働生産性の向上を重視するのは奇異ですらある。なぜなら失業のプールから雇用されていく人たちは限界生産性が低い人たちであり、そのため労働生産性は低下するからだ。先に指摘したように、どうも職を得るよりも服部氏らは労働生産性が重要なのだろう。しかしそれでは国民の幸せは向上しないだろう。

 また、労働生産性の伸びがゼロに近くとも、正規雇用が増加し続け、それにより延べ就業時間も増加すれば、服部氏の定義でも問題はないだろう。そうであれば、答えは簡単だ。現状の「雇用の増加」傾向を強めることが必要である。そうである以上、少なくとも現状の金融緩和の継続をやめる理由はないし、また財政政策は現在明るみに出ている事実上の「増税シフト=緊縮主義」をますます正す必要があるだろう。

【私の論評】雇用よりも労働生産性を優先する考え方は著しく不見識(゚д゚)!

田中秀臣氏が主張するように、服部氏のようにアベノミクスを労働生産性の観点から批判するのは大きな間違いです。

もうすでに、有効求人倍率が「バブル期並み」の水準まで改善されています。これは、今ではもはや誰も否定しようがありません。これはすでに今年の5月頃には、明白になっていました。

同志社大学教授の服部茂幸氏の『偽りの経済政策』(岩波新書)は、5月20日に出版されていますから、こうした統計を見逃したのでしょうか。しかし、その前から雇用が改善されているのは誰の目からも明らかでした。

厚生労働省が今年3月に発表した有効求人倍率は、前月より0.02ポイント上昇して1.45倍となりました。これは1990年11月以来、26年4カ月ぶりの高水準です。バブル期のピークは1990年7月の1.46倍でしたので、3月の結果は「バブル期並み」を通り越して「バブル期のピーク並み」と言ってよいでしょう。

これほどに雇用が改善したことで、むしろ人手不足が深刻化していました。変化に敏感な人なら、正月時点で変化に気づいていたことでしょう。これについては、このブログでも掲載しました。
人手不足は金融緩和による雇用改善効果 さらに財政政策と一体発動を―【私の論評】年頭の小さな変化に気づけない大手新聞社は衰退するだけ(゚д゚)!
近所の商店で見かけた貼り紙 元旦の休みは近年なかったことだった
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事で結論部分でこのように締めくくりました。
今年の年頭の人手不足という一見小さくみえる現象は、将来の大きな変化の前触れだと思います。この変化に気づきそれを利用できる人と、利用できない人との間にはこれから、大きな差異が生まれていくものと思います。
今年の正月の時点で、さらなる人手不足が予測されるくらい雇用状況は改善していたことがわかります。

今年は、その後ヤマトホールディングスが1万人を新規採用するとのニュースが話題になりました。宅配業界は人員増加とともに、宅配サービスの見直しや値上げなど業務のあり方そのものを見直さざるをえなくなっています。

産業界では人材確保のため非正規従業員より正規社員の採用を増やしたり、パート従業員の時給をアップするなどの動きが広がり始めていました。総務省の労働力調査によると、3月の雇用者数は正規が前月より26万人増加し、非正規の増加数17万人を上回りまわっていました。

つい2、3年前まで多くの企業は正規従業員の採用をなるべく抑え、非正規従業員でまかなうというのが“常識”でした。2014年は正規雇用が月平均で13万人減少した一方で、非正規は57万人増加しました。ところが15年以降はわずかながら正規雇用の増加数の方が非正規の増加数を上回るようになり、今年1~3月の平均では正規雇用の増加が47万人、非正規が3万人と、その差が拡大しています。待遇の良い正社員の採用を増やして人材確保を図ろうとしている企業の姿が浮き彫りになっていました。

同時に、人材確保のためには非正規従業員の待遇改善も重要になっていました。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、3月(速報)の所定内給与は全体(事業規模5人以上)で前年同月比0.1%減少したのに対し、パート従業員の時給は2.4%増加しました。全体の伸びはこの1~2年は1%未満から横ばい前後で推移していますが、パートの時給の伸びは1%台から2%台へと拡大傾向にあります。直近4カ月連続して2%台の伸びとなっており、特に2月の2.4%という伸び率はアベノミクス景気が始まって以後で最大でした。


変化は今年の春闘にも表れていました。連合(日本労働組合総連合会)の春闘回答集計(4月13日発表)によると、組合員数300人未満の組合が引き出した賃上げ額(定昇分を除くベア)は1373円(賃上げ率は0.56%)で、300人以上の大手組合の1327円(同0.44%)を額、率ともに上回っていました。また300人未満の組合の中でも、99人以下の組合の賃上げ額は1513円(率は0.64%)となっており、規模が小さいほど賃上げが大きくなっていました。

定昇分も含めた賃上げ全体では大手組合の方が上回っていますしたが、ベアで中小組合の方が上回っていることは、わずかながら格差が縮小することを示していました。

こうしてみると、この時点ですでに労働市場の裾野から底上げが進み始めていることがわかります。これまで景気回復を示すデータは多いものの「消費が弱い」、「実感が伴わない」などと指摘されてきたことは周知の通りですが、その大きな原因の一つは賃金がなかなか増加しないことでした。

たしかに全体では賃金の増加は前述のようにまだわずかであり、消費者物価上昇分を差し引いた実質賃金では15年まではマイナス、16年にようやく0.7%増とプラスになった程度。生活水準としては切り下がったままというのが実感だったと思います。

しかし、今見てきたように正規従業員の増加、パートの時給アップ、中小企業の賃上げなどは明らかに新しい変化でした。人手不足が賃金アップをもたらしつつあったわけです。この動きは一時的あるいは散発的なものではなく、労働市場の構造を変える可能性を持っていると見ることができました。


これは、やがて消費増加につながっていくことが期待できました。実際の消費の動きを追うと、その兆しが出始めていました。経済産業省が毎月発表している商業動態統計によると、3月の小売業販売額は前年同月比2.1%増で、5カ月連続の増加となりました。しかも、2.1%という増加率は、消費増税(14年4月)後では実質的に最大です。

小売業販売額の統計は全国の大手百貨店、スーパー、コンビニの他、小規模小売店も調査対象に加えており、小売販売の実態をかなり広範囲にとらえた統計です。我が国では消費に関する網羅的かつ正確な統計があまりないことが問題点として指摘されていますが、その中にあってこの小売業販売額のデータは消費の動向を比較的正確に反映して表しているといえます。

同統計には外食や旅行、交通費、ネット通販などのサービス支出が含まれていないことに注意が必要ですが、少なくとも同じ「小売業販売額」の時系列での変化を見れば、一進一退が長く続いていた消費がようやく上向く兆しが出てきたと解釈することが可能でした。

最新の統計をみてみると、経済産業省公表の 10 月分の小売業販売額(税込み)を指数化し、季節調整を行っ た指数水準(平成 27 年=100)は 101.1 となり、季節調整済指数前月比は 0.0%の横ばいとなりました。

後方3か月移動平均で前月比をみると▲0.3%の低下 となりました。 後方3か月移動平均の前月比を個別の業種ごとにみると、通信家電に買い 控えのみられた機械器具小売業が同▲1.3%の低下、自動車小売業が同▲ 0.7%の低下、農産品の相場安から飲食料品小売業が同▲0.3%の低下となっりました。

 一方、石油製品価格の上昇から燃料小売業が同 1.7%の上昇となりました。 これらを踏まえて、同省の季節調整済指数前月比の 10 月までのトレンドでは「持 ち直しの動きがみられる小売業販売」としたとしています。

目覚ましい上昇などはみられませんが、「持ち直しの動き」がみられることには変わりはありません。多少の減少はあるものの大勢では「持ち直しの動き」にあるとみているのでしょう。

一方雇用に関しては、ブログ冒頭の田中秀臣氏の記事でも触れているように、良いことはあっても、悪い動きはありません。  これは、アベノミクスが機能して、良くなったということです。雇用が良くなっていることは最早誰にも否定できません。

にもかかわらず、服部氏はこれを否定しています。ブログ冒頭の記事で田中秀臣氏は、以下のように述べています。
次に労働生産性についてである。服部氏の定義だと確かにゼロ成長率になる。ただ、この労働生産性の定義の場合、景気が回復していけば、延べ就業時間総数が一定でも実質GDPは事後的に増加していく。現状のような総需要不足の状況であれば、それを解消していくことで実質GDPは増加し労働生産性も伸びていく。それだけの話にしかすぎない。ちなみに、総需要不足の失業がある段階で、労働生産性の向上を重視するのは奇異ですらある。なぜなら失業のプールから雇用されていく人たちは限界生産性が低い人たちであり、そのため労働生産性は低下するからだ。先に指摘したように、どうも職を得るよりも服部氏らは労働生産性が重要なのだろう。しかしそれでは国民の幸せは向上しないだろう。
「失業のプールから雇用されていく人たちは限界生産性が低い人たち」というのは、平たくいうと、失業していて雇用される人たちは、労働生産性が低いということです。

それは、当然のことです、たとえ能力的に高い人であっても、しばらく失業して、新たな職場に就いた場合、最初は生産性が低いです。低いどころか、最初は賃金を支給されながら、教育・訓練を受けたりします。そうなれば、当然ながら生産性は低下しますし、就業者全員の就業時間を平均すると、新たに人を採用した分だけ、平均では下がってしまいます。

企業が新人を採用すれば、最初は教育・訓練などでろうとせう生産性は落ちる
しかし、この人たちが教育・訓練の時期を終え、実際に仕事をすれば、生産性はあがります。さらに、この人たちが職場で仕事になれればさらに生産性はあがります。

それだけの話です。こんなことは、別に経済理論を知らなくても誰にも理解できることです。生産性のみを追求するなら、新たに人を雇用しないほうが良いということになります。

これは、ある意味、金融緩和をはじめて、雇用が増えて、実質賃金が下がったことをもって、アベノミクスは失敗したと批判したことに似ています。

これも、難しい経済理論を知らなくても理解できます。ある企業が、業容を拡大するために、大量に新人を雇ったとします。新人の場合、賃金は既存の就労者よりも低いのが普通です。

そうすると、新人を大量に雇えば、就労者全員の平均賃金は下がります。しかし、それでも、人手不足が続き、それでも新人を雇わなければならなくなれば、新人の賃金を他社なみか、他社より高くしなければ、新人を雇用できません。

新人の賃金をあげれば、既存の社員の賃金もあげなければならなくなります。そうでないと、既存の社員は不満を抱くようになり、他社に転職するようになります。こうして、社員全体の実質賃金も上がっていくことになります。

雇用よりも、労働生産性、賃金を重視するという考え方は明らかに間違いです。そういう考え方にたてば、どの企業も新人は雇用しないほうが良いということになります。

そんなことでは、企業は発展できませんし、若者にとっても良いことはありません。これでは、長い間にすべての企業が衰退することになります。よって、これをもって、アベノミクスを否定するという考え方は、著しく不見識といわざるをえません。

労働生産についてさらに付け加えれば、たとえば小売の店舗で、サービス向上を目指すとします。具体的にサービス向上を目指せば、それによって生産性は低下することになります。労働生産性だけを追求すれば、サービスなど何もしないほうが良いことになります。

しかし、同じ価格帯ならお客は、サービスの悪い店舗で購入するよりも、サービスの良い店で購入したいと思うに違いありません。単純に生産性で割り切るわけにはいきません。

私自身もこのブログの読者であれば、知っているようにアベノミクスの批判をすることがあります。しかし、アベノミックスの成果特に雇用状況がかなり良くなったことを無視したり、成果がないなどとは言ってはいません。あくまで、成果は認めた上で、さらにやるべきことや、足りないことを批判しているだけです。

しかし、彼らはアベノミクスの成果である雇用の改善そのものを批判しています。これでは、批判の方向が完璧に間違っています。現状で、アベノミクス特に金融緩和をやめてしまえば、また雇用が悪化するだけです。

このよう考え方をする人は、日本国の経済を考えるどころか、企業の経営も満足にできないと思います。こんな人たちにアベノミクスを過小評価されてはたまったものでありません。

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2016年10月21日金曜日

【痛快!テキサス親父】日本は予算不足の国連に「アメとムチ」で対応せよ―【私の論評】腐れ組織国連抜本的組織改革をしなければ何も成果をあげられない(゚д゚)!


国連は、一般企業なら破綻必至だぜ
 ハ~イ! みなさん。

 先週に続き、俺が「無用の長物」と言い続けている国連について書くぜ。

 国連の2016年の通常予算は25億4900万ドル(約2640億円)なんだが、このうち11億8900万ドル(約1230億円)の分担金が加盟国から支払われていないという。率にして約47%にもなるんだ。

 加盟国193カ国中、2月の期日までに全額支払った国は27カ国しかなく、10月半ばまでに、やっと104カ国が払ったっていうんだから、「システム自体がまともに機能していない」と言えるよな。今年の不足分は、昨年に比べて1億3600万ドル(約141億円)も増加しているという。

 一般企業ならリストラに取り組むだろうが、国連は米ニューヨークと、スイス・ジュネーブ、オーストリア・ウィーン、ケニア・ナイロビなどに事務所を持ち、職員数は約4万4000人のままだ。慢性的な資金不足(=太り過ぎ)なのに、官僚体質のせいかダイエットする気もない。経営破綻、必至かもな。

 国連の分担金だが、国民総所得(GNI)の世界合計に対する比率を基準として、3年ごとに見直される。日本の負担率は16~18年、10%を切って9・68%となったが、依然として、米国(22%)に次ぐ2位だ。日米両国だけで31・68%、8億3100万ドル(約860億円)も支払っている。

 日本はこのほか、PKOやWHO(世界保健機関)、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)などに、毎年、1000億円程度を支出している。国連常任理事国の中国やロシア、フランスよりも、世界のために多額の資金を出している。

 それなのに、日本を対象にした国連憲章の「敵国条項」は削除されていない。朝日新聞が慰安婦問題の大誤報を認めたが「慰安婦=性奴隷」との認識を決定づけた国連のクマラスワミ報告書(1996年)は撤回されていない。米国人の俺でも「ふざけるな!」と思うぜ。

 日本政府が先日、ユネスコへの分担金など計約44億円の支払いを留保していることを明らかにした。ユネスコが昨年10月、「南京事件」関連資料を世界記憶遺産に登録したことに対抗したようだ。よくやった! 日本はもっと、「アメとムチ」で対応すべきだぜ。

 さて、俺の新著『テキサス親父の大予言 日本は、世界の悪を撃退できる』(産経新聞出版)が20日出版されたぜ。日本国が素晴らしい文化や伝統を守るために、周囲の野蛮な国にどう対処すべきかをまとめてある。ぜひ、読んでほしい。

 親愛なるみなさんと、日本と米国に神のご加護がありますように。

 では、また会おう!

 トニー・マラーノ 

【私の論評】腐れ組織国連抜本的組織改革をしなければ何も成果をあげられない(゚д゚)!

トニー・マラーノ氏

冒頭の記事、トニー・マラーノ氏のは、本当にもっともなことで、そもそも国連は何の成果もあげていないということがいえます。

さて、国連も公的機関であることには変わらず、やはりいずれの国の官僚組織にみられるように、機能不全に至っています。

さて、この国連を含めた公的機関について、ドラッカー氏が興味深いことを語っています。
公的機関が成果をあげるようにすることは容易でない。しかし、公的機関が成果をあげないようにすることは簡単である。6つの罪のうちどの2つを犯しても、成果は立ちどころにあがらなくなる。今日、公的機関の多くが6つの罪のすべてを犯しているが、その必要はない。2つで十分である。(『日本 成功の代償』)
 これは、1980年、ドラッカーが「パブリック・アドミニストレーション・レヴュー」誌に寄稿した論文の一文です。『日本 成功の代償』に収載されているのですが、日本の公的機関についてだけ書いたものではありません。世界中の公的機関が抱える問題を論じていくます。その中には当然のことながら、国連などの国際機関も含んでいます。

ドラッカーは、公的機関が成果を上げないようにするための第1の方法は、目的として、「保健」や「身体障害者福祉」などのあいまいなスローガンを掲げることであるとしています。
この種のスローガンは、設立趣意書に書かれるだけの値打のものであり、いかなる趣旨のもとに設立したかは明らかにしても、いかなる成果をあげるべきかは明らかにしないからである。
確かに、国連も設立の趣旨は明らかにしても、いかなる成果をあげるべきか明らかにしていません。今後10年以内に何をどの水準にするとか、何をどの程度なくすなどの具体的な目標を聴いたことがありません。

第2の方法は、複数の事業に同時に取り組むことです。優先順位を決め、それに従うことを拒否することです。優先順位がなければ、努力は分散するだけとなります。

国連は、まさにいくつもの委員会があり、複数の事業に同時に取り組んでいます。巨大な組織ですから、いたしかたないところもありますが、それにしてもあまりにも多くの委員会や部会や、組織まであり、何かはやっているようであるのですが、では具体的に何をどうしたのか、あるいはこれからどうするのか全く見えない組織です。

第3の方法は、「肥満が美しい」とすることです。ドラッカー氏は痛烈です。
金で問題の解決を図ることは間違いだと言われる。だが頻繁に目にするのは、人手で解決を図ることである。人員過剰は資金過剰よりも始末に負えない。
これも、国連にぴったりとあてはまります。上の記事でトニー・マラーノ氏は、「国連は米ニューヨークと、スイス・ジュネーブ、オーストリア・ウィーン、ケニア・ナイロビなどに事務所を持ち、職員数は約4万4000人のままだ。慢性的な資金不足(=太り過ぎ)なのに、官僚体質のせいかダイエットする気もない」と述べています。

第4の方法は、実験抜きに信念に基づいて活動することです。ドラッカーは、これについて以下のように語っています。
初めから大規模にやれ、改善はそれからだといのが今日の公的機関に一般的に見られる態度だ。
これもまさに、国連に当てはまります。本来は、どこかの国の何かを改善することに狙いを定めて、いくつか優先的な施策を実行し、それが成功すれば、それを手本として、様々な国々の事情にあわせて適用するというような方策をとれば良いものを、初めから大規模に実行して、何やら成功しているようなしていないような、成果の見えない状況に至っています。

第5の方法は、経験から学ぼうとしないことです。
何を期待するかを事前に検討することなく、したがって、「結果」を「期待」にフィードバックさせないことである。
これも国連によく当てはまります。そのため、まともなフィードバックもありません。

第6の方法は、何ものも廃棄しないことです。もちろん、この方法によれば、ほとんどただちに成果を上げなくなることができなくなります。
政府機関であれ民間機関であれ、公的機関はすべて不滅の存在と前提している。馬鹿げた前提である。そのような前提が、公的機関をして成果をあげなくさせている。
廃棄とは、もはや必要でなくなった事業やシステムなどをやめることです。ドラッカー氏は真にイノベーティブな企業は、これを定期的・体系的に行っていると語っています。確かに、いつまでも古いものにしがみついている組織は、成果をあげることはできません。しかし、国連ではそのようなことは滅多に行われません。

ドラッカー氏
こんな腐れ組織は、廃棄すべきときであると思います。なぜなら、国連は最早役にたたないだけではなく、悪を成す組織に堕ちたからです。たとえば、上の記事にもあったように、ユネスコが昨年10月、「南京事件」関連資料を世界記憶遺産に登録していますがこれは、中国が申請したものであり「南京大虐殺文書」登録がされています。

そもそも、中国の主張する数十万にも及ぶ「大虐殺」など、単なるフィクションに過ぎません。中国や台湾などの日本や他の先進国のように正規軍を数十万人以上投入した、会戦など経験をしたことがないので、正規軍が数十万人虐殺するということはどういうことなのかをまともに想像することすらできず、ファンタジーでこのな虚構をつくりあげ信じ込んでいるとしか思えません。このくらいの規模以上になれば、まともに考えれば、ナチスドイツの行ったような方法でなければ、到底不可能です。

それに、このブログでも以前述べたように、南京における蒋介石らの責任はいまだにそのまま放置されています。これは、どう考えても理不尽としか言いようがありません。

これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「尖閣は台湾のもの?」“二重国籍”蓮舫新代表が知っておくべき日本と台湾の対立点―【私の論評】南京・尖閣問題で台湾は決して親日ではない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に南京事件に関する部分を引用します。



日本軍の南京入場
『南京事件』は当時の新聞に、国民党軍(現在の台湾軍)が南京を去るとき8万人の市民を犠牲にした、と記載しています。南京虐殺の真実は、南京では通常の戦闘ではなく、異常な戦闘が行われたということです。 
なぜ、異常な戦闘になったかといえば、国民党政府軍軍事委員長・蒋介石が戦いの途中で麾下の数万の兵士を置き去りにして高級将校とともに南京から逃げたからです。この時蒋は督戦隊を残して逃亡しています。 
督戦隊とは、逃げる兵士を撃ち殺す部隊のことです。そのため、南京市内の国民党軍兵士は逃げるに逃げられなかったのです。 
1937年(昭和12年)12月13日に日本軍は南京城に入城しました。当時毛沢東の共産党軍は南京にはおらず、大陸中国の奥地を逃げまわっていました。日本軍は開城を勧告したが応じなかったというか、司令官も存在せず督戦隊が存在したので、国民党軍兵士は降伏することができませんせんでしたので攻城戦となりました。 
そうして、日本軍に包囲され、指揮官を失い、逃げ道を失った彼らは、投降するより軍服を脱ぎ捨てて便衣を着て民間人になりすましたのです。南京入した日本軍は、脱ぎ捨てられたおびたたしい数の国民党軍の軍服を発見しました。
日本軍は当惑しました。南京市内には一般市民がいる。彼らと便衣を着て、一般市民になりすましている便衣兵とを見分けるのは難しいです。 
結局当時の中支那方面軍司令官の松井石根大将は、便衣兵の掃蕩作戦を行わざるを得ませんでした。そうして、掃蕩した便衣兵の中には、一般中国人が含まれていた可能性は否定できません。ただし、この人数が20万人〜30万人というのは、虚構にすぎません。 
松井石根大将は、この事件のため戦後に極東軍事裁判において死刑になっています。しかし、この事件の大元の責任者である、蒋介石と高級将校たちには、いっさい何の罪にも問われていません。 
南京に蒋介石が残っていたら、あるい蒋介石ではなくとも、高級将校が一人でも残っていて、日本軍に降伏していたら、あるいは南京の国民党軍がはやめに全員が南京から逃れていたら事態は混乱せず、日本軍が便衣兵を処刑する必要もなかったはずです。 
この所業は、どこの国においても、とんでもない敵前逃亡です。国民党としては、この事実を隠蔽したかったのでしょう。すべての責任を日本軍押し付け「日本軍による市民大量虐殺」という虚構を作り出し、今に至っています。 
蒋介石らの責任を問うこともなく、日本が南京市民を数十万人も虐殺したという途方もないデマにすぎない「南京大虐殺文書」を世界記憶遺産に登録したのが、ユネスコです。このような事を平気でするのが、ユネスコです。日本に対して、このようなことをする組織ですから、他でもどのような悪さをしているかわかったものではありません。

南京事件の最大の責任者である蒋介石
このような悪に染まった組織は、廃棄すべきです。国連をまともにするには、まずは、この国連という組織そのものを解体すべきです。そうして、現在よりもはるかに小さな組織(現在の1/100以下の組織)として、この組織は新しい国連があげるべき成果を徹底的に検証し、その成果に沿った、目的・目標・アクションプランを明確にして、実際のアクションは自分たちがするのではなく、公募制にすべきです。

世界各地のNGOやNPOが新しい国連の公募に応じることができるようにして、実績のある組織を優先して、新しい国連はこれらを慎重に選ぶようにすべきです。そうして、実行させてみて、期限内になかなか成果を挙げられないようなNGOやNPOは容赦なく切り捨てるような方式で、新しい国連の事業を運営すべきです。

このようにしたほうが、はるかに大きな成果をあげられる可能性が高まります。とにかく、今のままの腐れ組織では結局何も成果をあげられません。

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2016年6月8日水曜日

続投に強い意欲の舛添知事に進退問う質問相次ぐ 都議会総務委で集中審議へ―【私の論評】舛添知事の都市間外交の成果は朝鮮人学校の生徒を韓国人学校に分捕ることだけ?


都議会で質問を受ける舛添要一東京都知事=7日午後、東京都新宿区
東京都の舛添要一知事の政治資金流用疑惑を巡り、都議会の一般質問が8日あり、各会派の都議から進退を問う声が相次いだ。知事は続投の意志を強く示し、これまでと同様の説明に終始した。各会派は反発を強めており、総務委員会に知事の出席を求め、集中審議でさらに追及する構えだ。

 総務委は9日に理事会を開き、集中審議の日程を協議する。来週にも開催する方向で調整するとみられる。

 一般質問で公明党の斉藤泰宏都議は「辞職を求める都民の声はますます広がっている。いかなる理由で知事にとどまろうとするのか」と指摘。知事は「厳しい状況にあることは自覚している。公表した(弁護士の)調査結果を基に反省を胸に刻み、地道に都民や都議会の理解を得たい」と、従来の主張を繰り返した。

【私の論評】舛添知事の都市間外交の成果は朝鮮人学校の生徒を韓国人学校に分捕ることだけ?

舛添知事に対する東京都議会での、追求はとどまるところを知りません。都議会での追求もさりながら、週刊文春がまた新たなスッパ抜きをしています。

それは、都庁内で湯河原の別荘通いよりも問題視されている舛添氏が奥さん同伴で、年末にNHKホールで開かれる“NHK交響楽団(N響)”の「ベートーヴェン『第9』コンサート」に公用車で出かけている事実です。昨年の年末にも行ってますが、この日は天皇誕生日で休日。当然、公務ではなく、公用車の私的利用に他なりません。どうやら、随分前からこれも年末の恒例行事のようになっていたようです。

詳細については、以下をご覧ください。
舛添都知事に新疑惑! 休日に公用車で「N響『第9』コンサート」へ
昨年2015年12月22日のN響「第九演奏会」
それにしても、次から次へと、いろいろでてきます。私自身としては、もう舛添都知事は政治資金や公用車の使い方など、無頓着に使っていたことはもうはっきりしていたので、あまり驚きません。それにしても、週刊文春の記者たちは、虎視眈々と何かないかとうかがっていたのでしょう。そうして、都職員などからこのようなことを聞き出したのだと思います。

なにやら、このような政治資金や、公用車の使い方などに関しては、不正があればそれを暴くというのも良いですが、何やら肝心かなめのことが忘れ去られているようで、気になります。

その肝心要のこととは、他でもない、都有地の韓国学校への貸出の件です。最近、この話題はまるでなきがごとしで、どこも報道しません。一体どうなっているのか、調べてみました。

まず一番最近(今年5月19日)の国内のものでは、夕刊フジの報道がありました。その記事のリンクを以下に掲載します。
舛添都知事“韓国優遇”内部資料 都有地貸し出しで新事実 夕刊フジ独自入手 
夕刊フジが独自に入手した都の内部資料。
韓国人学校の「充足率」は100%を切っていた

 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
東京都の舛添要一知事(67)が、旧都立高校を韓国人学校増設のために韓国政府に貸し出す方針を決めた問題で、注目すべき新事実が明らかになった。都の外国人学校に関する資料を夕刊フジで独自入手したところ、韓国人学校の充足率は100%未満だが、英国人学校など3校が定員を大きくオーバーしていたのだ。「政治とカネ」の疑惑だけでなく、舛添氏に「韓国優遇」との批判が高まる可能性がありそうだ。
舛添氏が、韓国人学校に旧都立高校(新宿区、約6100平方メートル)を貸し出すために動き出したのは、14年7月の訪韓がきっかけ。韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領と会談した際、朴氏から協力要請を受け、舛添氏は「全力で対応したい」と即答した。
舛添氏の疑惑を徹底追及している無所属の音喜多駿(おときた・しゅん)都議は「これまで何度も、韓国人学校への都有地貸し出しの数値的根拠を問いただしてきたが、都側からまともな回答は得られなかった。韓国人学校の充足率が分かると不都合なので、公表を控えたとしか思えない。結局、『舛添氏が朴大統領に約束した』という政治的パフォーマンスを優先したのではないか。政治資金をめぐる『公私混同』疑惑に象徴されるように、舛添氏は都有財産さえも私物化していると言わざるを得ない。舛添氏が知事を続ければ都政は停滞する。すみやかに辞職して、7月の参院選との同日選を実施すべきだ」と語っている。
上の記事で、気になった舛添氏の14年7月の訪韓に関する記事を調べてみました。すると以下の様な記事がみつかりました。この記事は、2014年12月21日のDaily NKのものです。
朝鮮学校 韓流に押され「存亡の危機」
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
東京の朝鮮学校が、「存亡の危機」に立たされている。北朝鮮系の民族団体・朝鮮総連が運営する朝鮮学校は、東京都には小学校から大学まで11校が所在するが、そのいずれもが深刻な生徒数の減少に悩んでいる。 
近年ではさらに、強力な「ライバル」の台頭にも悩まされるようになった。
11月28日に行われた東京韓国学校(新宿区)の新入生抽選会には、約170名の児童が応募した。来年度の新小学校1年生の定員は120名のため、50名近い児童が枠から漏れてしまったことになる。1954年、韓国民団の主導で開校した同校は、朝鮮学校とは逆に、生徒数が年々増加。スタート時わずか26名だった生徒数は、現在では小・中・高を合わせて約700名に達している。 
生徒数が増えている最大の理由は、近年になって新たに来日して定住する韓国人が増えていることにあるが、朝鮮学校の再編が進まないことも大きな要因となっているようだ。 
朴槿恵を訪問した舛添知事 
しかし、再編によって朝鮮学校を復活させるための時間的余裕は、あまり残っていない。7月に韓国を訪問した舛添要一都知事に対し、朴槿恵(パク・クネ)大統領は首都圏で「第2韓国学校」をつくるための用地確保に協力を要請した。民団関係者によれば、「すでに建設費用は本国から送られてきており、土地さえあればいつでもつくれる状態」だという。 
「第2韓国学校」が開校すれば、入学希望者の多くが受け入れられることになり、朝鮮学校からの流入にも拍車がかかる可能性が高い。
東京韓国人学校
さて、この状況、2016年の今日一体どうなったのでしょうか。2014年の時点では、上にあるように、入学希望者のほうが超過していたのですが、2016年の時点ではそうではないようです。

ただし、都内に第二韓国人学校ができた場合、朝鮮人学校から流入することも考えられるのでしょうか。現時点でも、間に合っているのですから、新しい学校ができたからといって、急激に増えるということは考えにくいと思います。

このあたりが全く報道されていません。ただし、これがどうなろうと、舛添知事の政治資金問題や公用車の使いみちが出鱈目であったことには変わりないですが、それにしても、全く報道しないというのも考えものです。

それにしても、舛添知事の都市間外交ですが、成果といえば、ひよっとしたら、朝鮮人学校の生徒を韓国人学校にぶんどることに加勢したことくらいというのであれば、あまりに情けないです。その他に何か舛添知事の都市間外交で成果があるというのなら、教えてほしいものです。

韓国人学校の定員が現在のところ、足りているというのであれば、やはり、最初に都が構想していたように、保育園などにするのが筋であると思いますが、それでも韓国人学校にするというのなら、舛添知事はその理由を公表すべきです。

結局のところ、舛添知事は都政を預かって2年が経過したのですが、明確な成果と呼べるものはないです。国に先駆けてディーゼル規制や認証保育所など、独自の政策を実現した石原都政に比べれば明らかに見劣りします。東京五輪という話題を抱えているにも関わらず、メディアへの露出や影響力は低下する一方です。

なんとしても目に見える実績を出したい舛添知事は、都市外交の一貫で貴重な都有地を韓国政府に貸し出し、韓国人学校の用地とすることを独断で決定してしまったのでしょう。

舛添知事は都有地である旧市ヶ谷商業高校跡地を韓国人学校に貸し出すと言うのだが・・・・
現在東京都で待機児童問題は深刻化の一途を辿っており、保育園に必要な用地はいくらあっても足りないです。加えて障がい者向けの特別支援学校や、高齢者向けの特養など、土地がなくて「順番待ち」をしている都民のための福祉施設は目白押しです。そんな中でどうして都市外交が、外国人学校の設立が優先されるのか。舛添知事の「政治パフォーマンス」と受け取られるのもやむを得ないでしょう。

最近の舛添知事に対する追求をみていると、政治資金の使いみちや、公用車の使いみちなどがほとんどで、本筋ともいうべき、都市間外交の是非、その象徴的な出来事でもある、舛添知事の独断による、韓国人学校への都有地の貸与など全く追求されません。本当に異様です。

最初は、高圧的で、公用車の使い方や、別荘通いなど、批判されても意に介さなかった舛添知事ですが、最近はそれを改める姿勢を見せています。

しかし、都有地の韓国人学校に対する貸付に関しては、全く追求されないので、今のままだといずれ本当に韓国人学校に貸与され、建物が建築されてしまうかもしれません。今のところ、今年度末まではこの都有地は、改築中の区立小学校の仮校舎として利用されています。しかし、来年からはこの小学校の改築も終わり、今のままでは来年は韓国人学校が建設されることになります。

この問題、このまま放置しておいて良いはずがありません。様々な事実を明確にして、決着をつけるべきです。

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2016年2月14日日曜日

【緯度経度】日本が発信しない「拉致」英文本 古森義久―【私の論評】政府の機関など、成果をあげず単なる「良き意図」で終わらせないためには何が必要か?

【緯度経度】日本が発信しない「拉致」英文本 古森義久

The Invitation-Only Zone: The True Story of North Korea’s Abduction Project
書籍『招待所・北朝鮮の拉致警告の真実』の表紙

ワシントンにある韓国政府系の研究機関「米国韓国経済研究所」(KEI)で2月3日、「招待所・北朝鮮の拉致計画の真実」と題するセミナーが開かれた。その題名の新刊書の内容を著者の米国人ジャーナリストのロバート・ボイントン氏が紹介し、米側専門家たちが討論する集いだった。

実はこの書は、北朝鮮による日本人拉致事件の内容を英語で詳述した初の単行本だった。事件を英語で紹介した文献は米側の民間調査委員会の報告書などがあるが、商業ベースの英文の単行本はなかったのだ。

だから拉致事件を国際的に知らせる点で意味は大きく、日本側も重視すべき書である。米国とカナダで一般向けのノンフィクション作品として、1月中旬に発売されたのだ。

ニューヨーク大学のジャーナリズムの教授でもあるボイントン氏は日本滞在中に拉致事件を知り「この重大事件の奇怪さと米国ではほとんど知られていない事実に駆られて」取材を始めたという。この本はニューヨークの伝統ある「ファラー・ストラウス・ジロー」社から出版された。

ボイントン氏は数年をかけて日本や韓国で取材を重ね、とくに日本では拉致被害者の蓮池薫さんに何度も会って、拉致自体の状況や北朝鮮での生活ぶりを細かく引き出していた。また同じ被害者の地村保志さん、富貴恵さん夫妻や横田めぐみさんの両親にも接触して、多くの情報を集めていた。その集大成を平明な文章で生き生きと、わかりやすく書いた同書は迫真のノンフィクションと呼んでも誇張はない。ただし、ボイントン氏は拉致事件の背景と称して、日本人と朝鮮民族との歴史的なかかわりあいを解説するなかで、日本人が朝鮮人に激しい優越感を抱くというような断定をも述べていた。文化人類学的な両民族の交流史を奇妙にねじって、いまの日朝関係のあり方の説明としているのだ。

しかし同セミナーでの自著の紹介でボイントン氏はそうした側面には触れず、ビデオを使って、もっぱら日本人被害者とその家族の悲劇に重点をおき、語り進んでいった。

「なんの罪もない若い日本人男女が異様な独裁国家に拘束されて、人生の大半を過ごし、救出を自国に頼ることもできない悲惨な状況はいまも続いている」

ボイントン氏のこうした解説に対して参加者から同調的な意見や質問が提起された。パネリストで朝鮮問題専門家の韓国系米人、キャサリン・ムン氏が「日本での拉致解決運動が一部の特殊な勢力に政治利用されてはいないのか」と述べたのが異端だった。そして、同じパネリストの外交問題評議会(CFR)日本担当研究員のシーラ・スミス氏が「いや拉致解決は日本の国民全体の切望となっている」と否定したのが印象的だった。

だがなお残った疑問は、日本にとってこれほど重要な本の紹介をなぜ日本ではなく韓国の政府機関が実行するのか、だった。KEIは韓国政府の資金で運営される。日本側にもワシントンには大使館以外に日本広報文化センターという立派な機関が存在するのだ。だが同センターの活動はもっぱらアニメや映画の上映など日本文化の紹介だけなのである。安倍政権の重要施策の対外発信はどうなっているのだろう。(ワシントン駐在客員特派員)

【私の論評】政府の機関など、成果をあげず単なる「良き意図」で終わらせないためには何が必要か?

古森義久氏
上の記事にある、この書籍私も、さっそくキンドル本をダウンロードして読み始めていますが、確かに平明な文章で生き生きと、わかりやすく書れた同書は迫真のノンフィクションのようです。これだと、比較的短時間で読めそうです。

さて、ブログ冒頭の記事で、古森氏は、「だがなお残った疑問は、日本にとってこれほど重要な本の紹介をなぜ日本ではなく韓国の政府機関が実行するのか、だった。KEIは韓国政府の資金で運営される。日本側にもワシントンには大使館以外に日本広報文化センターという立派な機関が存在するのだ。だが同センターの活動はもっぱらアニメや映画の上映など日本文化の紹介だけなのである。安倍政権の重要施策の対外発信はどうなっているのだろう」と批判しています。

まさしく、そのとおりだと思います。アニメ映画の上映などの日本文化の紹介だけするというのでは、日本公報文化センターの役割をまともに果たしているとはとても思えません。

すでにアニメなど、国の機関が紹介するまでもなく、世界中にファンが多数存在しており、そんな中で、国の機関が、一切放映するなどなどということは言いませんか、アニメ映画を放映したり、日本文化の紹介のみにとどまっているとしたら問題です。

安倍政権に限らず歴代の政府はこのような活動には、あまり熱心とはいえないようです。最近では、外務省あたりが、竹島や尖閣問題に関するYouTubeに複数言語で視聴できる動画をアツプするなど、多少改善されているようではありますが、まだまだすべきことがあると思います。

このような活動は、政府も直接取り組むべきとは思いますが、それにも限界があります。やはり、こういうことを使命とする、日本広報文化センターのような組織や、NPO、NGOなどの非営利組織が実行すべきものと思います。

非営利企業こそ、使命をはきりするべき。そのためには、
まずビジョンや価値観をはつきりさせなければならない。

そうして、そのような組織においては、使命が第一に重要あり、リーダーがまずなすべきことを、よくよく考え抜いて、自らあずかる機関が果たすべき使命を定めることが重要です。

そして使命があるからこそ、はじめて明確な目標に向かって歩くことができ、目標を成し遂げるために組織の人間を動員することができるのです。

そして使命には、「何が機会であり、何がニーズであるか」「しかるべき成果が上げらそうか」「能力を有しているか」「信念をもってやれるか」つまり、“機会”“能力”“信念”の3つが表現され、組織の一人ひとりが目標を達成するために自分が貢献できることはこれだと思える現実的なものにすべきです。

そうして、特に成果をあげるには、成果を定義するだけではなく、それと実行する時間も加えて、目標として具体的に定めるべきです。定量化できるものは、定量化し、定性的なものであっても、なるべく具体的にして、組織の誰もが理解できるものにしなければなりません。

このような組織の中には、“使命”を掲げていない、あるいは意識すらしていない組織もあります。たとえ“使命”があっても、きれいな言葉が並べられ、形式的ものだったり、職員ひとり一人には理解されていないような状況では、まともな成果などあげられません。おそらく、日本公報文化センターなどもそのような状況なのではないでしょうか。

非営利組織に限らず、すべての組織の最終的な評価は成果であるはずです。営利組織における、利益も成果を測定する尺度の一つに過ぎません。経済的利益だけでは、すべての成果を表すものとはいえません。

良き意図と、大儀があるがゆえに成果や結果を重視しない傾向にある非営利機関も多いようですが、何が成果であるのかをはっきりと定義して、その成果を上げ続ける努力をすることが、非営利組織のあるべき姿であり、高い成果をあげための努力をしない非営利組織こそ、社会にとって罪なのです。

特に、NPOやNGOと異なる、政府の機関ともなれば、特に存続の努力などしなくても、政府から資金を得て活動するわけですから、余程成果の定義と成果を達成するための、目標がはっきりしていないと、その存在がすぐに無意味なものになってしまいます。

そうして、何よりも、そんなことになれば、組織の構成員が堕落してしまいます。

そんなことにならないないように、日本文化広報センターなどもまともな成果をあげるよう努力していただきたいと思います。

やるべきことはいくらでもあります。たとえば、ブログ冒頭の書籍は、英語の書籍ですが、このブログでは、以前慰安婦問題に関わる、ハングル語の書籍で、日本語には翻訳されているものの、英語には翻訳されていない書籍を紹介したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「帝国の慰安婦」裁判 問われる韓国司法 弁護側は“メディア経由”の曲解報道を問題視 ―【私の論評】韓国で慰安婦ファンタジーが発祥する前の1990年代前に時計の針を戻せ(゚д゚)!
帝国の慰安婦 ハングル語版の表紙
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、「帝国の慰安婦」という書籍に関連して、私は以下のような論評をしました。
この書籍は、日本語には翻訳されていますが、残念ながら未だ英語には、翻訳されていません。この書籍が、他の多く国々の言語に翻訳されて、多くの国の人々に読まれることになれば、慰安婦問題に関して、他国でも理解が深まるものと思います。

日本側としては、この書籍はあくまで韓国人の視点によって書かれたものであり、レトリックによって、ファンタジーとはらないギリギリのところまで日本側に慰安婦問題での譲歩を求める方向で書かれていること、当時日本が植民地支配していたのだから、日本に責任があるという方向で貫かれていることを主張すれば良いと思います。

そのほうが、かえって、日本の保守派の人が日本人の立場から、書いたものより、理解を得られ易いと思います。

とにかく、この書籍やその他の歴史的資料などによって、日本でも韓国でも、韓国における慰安婦ファンタジーが発祥する前の1990年代より前に時計の針を戻すことが、この問題の早期解決につながると思います。
この書籍を英語に翻訳し、米国で公開することなども、日本広報文化センターなどのしこ度として、良いと思います。そのようなことをすれば、韓国政府は非難するかもしれませんが、この書籍を読んだ米国人など、学術書であるこの書籍を韓国政府がなぜ問題にするのか、理解に苦しむと思います。そこから、慰安婦問題への理解が深まると思います。

それにしても、ただ紹介するというだけでは、何も成果はあがらないと思います。たとえば、この書籍を紹介するにしても、慰安婦問題に関してあらかじめ多くの米国人にアンケートをとっておき、慰安婦問題に関する理解、それもはっきりと定義をした理解が5%程度であったとすると、5年以内に50%にするなどの目標を定めるべきです。

そうするこによって、はじめて、自らが成果をあげているのか、あげていないのかをはっきりと理解することができます。そうでなければ、このような活動はただの「良き意図」で終わってしまうのです。

これが、手弁当で集まっている有志の「勉強会」などであれば、それでも良いかもしれません。しかし、政府からの資金で動く政府の機関がそうであってはならないのです。まともな、組織はすべからく、成果をあげなければ、存在意義が失われるのです。存在意義が失われれば、その機関に属する人々は早晩堕落してしまうのです。

それは、当然のことです。自分たちの組織が、あってなくても良いどうでも良い組織なら、その構成員がいくらまともであったにしても、その状態が長く続けば、堕落するのは当然です。そうして、堕落した組織は、社会に悪をなすことになります。

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