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2017年12月19日火曜日

アベノミクス批判本に徹底反論! なぜ「成果」を過小評価するのか―【私の論評】雇用よりも労働生産性を優先する考え方は著しく不見識(゚д゚)!

アベノミクス批判本に徹底反論! なぜ「成果」を過小評価するのか

田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

田中秀臣氏 写真・グラフはブログ管理人挿入 以下同じ
 以前、保守系の討論番組「闘論!倒論!討論!」(日本文化チャンネル桜)に出たときに、出席者のクレディセゾン主任研究員、島倉原(はじめ)氏が、同志社大学教授の服部茂幸氏の『偽りの経済政策』(岩波新書)を援用して、アベノミクスの雇用創出効果について否定的な意見を提起した。服部氏の上記の本では、第二章「雇用は増加していない」という刺激的な見出しがついた、アベノミクスの雇用創出への否定的な意見が確かに展開されている。

同志社大学教授の服部茂幸氏
 そこで服部氏は「日本経済は実体経済が停滞しているだけではなく、雇用も労働生産性も停滞していることを明らかにした」(同書93ページ)とある。また同書を読むと、服部氏のいうアベノミクスはほぼ日本銀行のインフレ目標2%を目指す金融緩和政策、すなわちリフレ政策と同じものとみなしているようだ。

 実は服部氏の所論については、以前に学会の依頼で「アベノミクスをめぐる論争―日本は復活したか、それともまだ罠にはまったままか?」という批判的な書評を書いたことがある。冒頭に紹介したように、討論番組などでその所説が利用されるようならば、改めて服部氏の議論を再検討してみたいと思う。実際に、世論やネットの中では、アベノミクス期間中の雇用の改善を否定し、過小評価する傾向があるからだ。

有効求人倍率が「バブル期並み」の水準まで改善している
 もちろんこの連載の読者ならばおわかりだろうが、雇用状況にはまだまだ改善する余地がある。だが、それは雇用の停滞という状況ではない。雇用はアベノミクス導入以前に比べると改善しているし、その成果は金融緩和の持続に貢献している。それに加えて、もちろん海外経済の好調もある。

 金融緩和の雇用改善効果は、国内的には消費増税、国際的には2015年ごろの世界経済の不安定化によって一時期低迷したが(といっても底堅い状況だった)、現状では再び改善の度合いを深めている。ただし、消費の停滞は消費増税の影響が持続しているとみなしていいので、その面から日本の雇用の改善は抑制されてしまっている。

 金融緩和や財政政策の拡大による経済政策を採用することで、雇用状況はさらに改善するだろう。例えば、より一層の失業率低下や賃金上昇、労働生産性の上昇などがみられるだろう。

 さて、服部氏の主張を簡単にまとめておこう。
1)アベノミクス期間で就業者数は増えた。ただし、それは短時間就業者が増えただけで、「経済学上の正しい雇用あるいは就業の指標」である「延べ就業時間」でみるとむしろ減少した。 
2)また、実質国内総生産(GDP)を述べ就業時間で測った労働生産性だと、その上昇率はほぼゼロにまで低下している。 
3)安倍政権は2%の実質経済成長率を目指しているが、そのためには延べ就業時間を増加させるか、労働生産性を上昇させるか、あるいはその両方が必要である。だが、1)2)により実現は不可能に思える。特に、延べ就業時間増加率は人口構造の変化(現役世代の減少)からゼロとみても楽観的なので、労働生産性次第になる。ところが、2)もほぼゼロなので、安倍政権はその目的を達しない。 
4)「労働生産性の上昇なき雇用の改善は、政策の成果ではなく、失敗なのである」(同書94ページ)。
 以上が、服部氏の「雇用は増加していない」という主張である。働く場が増えることは失業している状況よりも望ましいと思うが、服部氏はそのように考えていないということだろう。

まず延べ就業時間数だが、例えば労働力調査をみてみると非農林業の延べ就業時間(週間)は、民主党政権の終わりの2012年の23・58億時間から2016年は23・60億時間になっている。確かに、この数字だけみると、安倍政権は民主党政権と比べて雇用が全く増えていないということになる。他方で就業者総数は増加しているので、パートや高齢者の再雇用といった短時間労働が貢献しているかのようである。

 だが、現状では、短時間労働の原因ともいえるパート労働などの非正規雇用の増加は頭打ちともいえる状況だ。最新の統計だと、2カ月ぶりに5万人ほど増加したにとどまる。対して正規雇用は、正規の職員・従業員数は3485万人。前年同月に比べ68万人増えて、35カ月連続の増加となっている。

 それに加えて、服部氏はどうも失業よりも雇用された状態がいいとは思っていないのかもしれないが、専業主婦層のパート労働の増加は家計の金銭的補助となるだろうし、また高齢者の再雇用もまた経済的な助力になるだろう。延べ就業時間の「低迷」をいたずらに過大評価すべきではない。服部氏もそれを冒頭の番組で援用した島倉氏も、働くことができる人間的価値を軽視しているのではないか。また、最近では正規雇用の増加が進んでいるので、2017年の統計は服部氏目線でもさらに「改善」されている可能性が大きい。


 次に労働生産性についてである。服部氏の定義だと確かにゼロ成長率になる。ただ、この労働生産性の定義の場合、景気が回復していけば、延べ就業時間総数が一定でも実質GDPは事後的に増加していく。現状のような総需要不足の状況であれば、それを解消していくことで実質GDPは増加し労働生産性も伸びていく。それだけの話にしかすぎない。ちなみに、総需要不足の失業がある段階で、労働生産性の向上を重視するのは奇異ですらある。なぜなら失業のプールから雇用されていく人たちは限界生産性が低い人たちであり、そのため労働生産性は低下するからだ。先に指摘したように、どうも職を得るよりも服部氏らは労働生産性が重要なのだろう。しかしそれでは国民の幸せは向上しないだろう。

 また、労働生産性の伸びがゼロに近くとも、正規雇用が増加し続け、それにより延べ就業時間も増加すれば、服部氏の定義でも問題はないだろう。そうであれば、答えは簡単だ。現状の「雇用の増加」傾向を強めることが必要である。そうである以上、少なくとも現状の金融緩和の継続をやめる理由はないし、また財政政策は現在明るみに出ている事実上の「増税シフト=緊縮主義」をますます正す必要があるだろう。

【私の論評】雇用よりも労働生産性を優先する考え方は著しく不見識(゚д゚)!

田中秀臣氏が主張するように、服部氏のようにアベノミクスを労働生産性の観点から批判するのは大きな間違いです。

もうすでに、有効求人倍率が「バブル期並み」の水準まで改善されています。これは、今ではもはや誰も否定しようがありません。これはすでに今年の5月頃には、明白になっていました。

同志社大学教授の服部茂幸氏の『偽りの経済政策』(岩波新書)は、5月20日に出版されていますから、こうした統計を見逃したのでしょうか。しかし、その前から雇用が改善されているのは誰の目からも明らかでした。

厚生労働省が今年3月に発表した有効求人倍率は、前月より0.02ポイント上昇して1.45倍となりました。これは1990年11月以来、26年4カ月ぶりの高水準です。バブル期のピークは1990年7月の1.46倍でしたので、3月の結果は「バブル期並み」を通り越して「バブル期のピーク並み」と言ってよいでしょう。

これほどに雇用が改善したことで、むしろ人手不足が深刻化していました。変化に敏感な人なら、正月時点で変化に気づいていたことでしょう。これについては、このブログでも掲載しました。
人手不足は金融緩和による雇用改善効果 さらに財政政策と一体発動を―【私の論評】年頭の小さな変化に気づけない大手新聞社は衰退するだけ(゚д゚)!
近所の商店で見かけた貼り紙 元旦の休みは近年なかったことだった
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事で結論部分でこのように締めくくりました。
今年の年頭の人手不足という一見小さくみえる現象は、将来の大きな変化の前触れだと思います。この変化に気づきそれを利用できる人と、利用できない人との間にはこれから、大きな差異が生まれていくものと思います。
今年の正月の時点で、さらなる人手不足が予測されるくらい雇用状況は改善していたことがわかります。

今年は、その後ヤマトホールディングスが1万人を新規採用するとのニュースが話題になりました。宅配業界は人員増加とともに、宅配サービスの見直しや値上げなど業務のあり方そのものを見直さざるをえなくなっています。

産業界では人材確保のため非正規従業員より正規社員の採用を増やしたり、パート従業員の時給をアップするなどの動きが広がり始めていました。総務省の労働力調査によると、3月の雇用者数は正規が前月より26万人増加し、非正規の増加数17万人を上回りまわっていました。

つい2、3年前まで多くの企業は正規従業員の採用をなるべく抑え、非正規従業員でまかなうというのが“常識”でした。2014年は正規雇用が月平均で13万人減少した一方で、非正規は57万人増加しました。ところが15年以降はわずかながら正規雇用の増加数の方が非正規の増加数を上回るようになり、今年1~3月の平均では正規雇用の増加が47万人、非正規が3万人と、その差が拡大しています。待遇の良い正社員の採用を増やして人材確保を図ろうとしている企業の姿が浮き彫りになっていました。

同時に、人材確保のためには非正規従業員の待遇改善も重要になっていました。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、3月(速報)の所定内給与は全体(事業規模5人以上)で前年同月比0.1%減少したのに対し、パート従業員の時給は2.4%増加しました。全体の伸びはこの1~2年は1%未満から横ばい前後で推移していますが、パートの時給の伸びは1%台から2%台へと拡大傾向にあります。直近4カ月連続して2%台の伸びとなっており、特に2月の2.4%という伸び率はアベノミクス景気が始まって以後で最大でした。


変化は今年の春闘にも表れていました。連合(日本労働組合総連合会)の春闘回答集計(4月13日発表)によると、組合員数300人未満の組合が引き出した賃上げ額(定昇分を除くベア)は1373円(賃上げ率は0.56%)で、300人以上の大手組合の1327円(同0.44%)を額、率ともに上回っていました。また300人未満の組合の中でも、99人以下の組合の賃上げ額は1513円(率は0.64%)となっており、規模が小さいほど賃上げが大きくなっていました。

定昇分も含めた賃上げ全体では大手組合の方が上回っていますしたが、ベアで中小組合の方が上回っていることは、わずかながら格差が縮小することを示していました。

こうしてみると、この時点ですでに労働市場の裾野から底上げが進み始めていることがわかります。これまで景気回復を示すデータは多いものの「消費が弱い」、「実感が伴わない」などと指摘されてきたことは周知の通りですが、その大きな原因の一つは賃金がなかなか増加しないことでした。

たしかに全体では賃金の増加は前述のようにまだわずかであり、消費者物価上昇分を差し引いた実質賃金では15年まではマイナス、16年にようやく0.7%増とプラスになった程度。生活水準としては切り下がったままというのが実感だったと思います。

しかし、今見てきたように正規従業員の増加、パートの時給アップ、中小企業の賃上げなどは明らかに新しい変化でした。人手不足が賃金アップをもたらしつつあったわけです。この動きは一時的あるいは散発的なものではなく、労働市場の構造を変える可能性を持っていると見ることができました。


これは、やがて消費増加につながっていくことが期待できました。実際の消費の動きを追うと、その兆しが出始めていました。経済産業省が毎月発表している商業動態統計によると、3月の小売業販売額は前年同月比2.1%増で、5カ月連続の増加となりました。しかも、2.1%という増加率は、消費増税(14年4月)後では実質的に最大です。

小売業販売額の統計は全国の大手百貨店、スーパー、コンビニの他、小規模小売店も調査対象に加えており、小売販売の実態をかなり広範囲にとらえた統計です。我が国では消費に関する網羅的かつ正確な統計があまりないことが問題点として指摘されていますが、その中にあってこの小売業販売額のデータは消費の動向を比較的正確に反映して表しているといえます。

同統計には外食や旅行、交通費、ネット通販などのサービス支出が含まれていないことに注意が必要ですが、少なくとも同じ「小売業販売額」の時系列での変化を見れば、一進一退が長く続いていた消費がようやく上向く兆しが出てきたと解釈することが可能でした。

最新の統計をみてみると、経済産業省公表の 10 月分の小売業販売額(税込み)を指数化し、季節調整を行っ た指数水準(平成 27 年=100)は 101.1 となり、季節調整済指数前月比は 0.0%の横ばいとなりました。

後方3か月移動平均で前月比をみると▲0.3%の低下 となりました。 後方3か月移動平均の前月比を個別の業種ごとにみると、通信家電に買い 控えのみられた機械器具小売業が同▲1.3%の低下、自動車小売業が同▲ 0.7%の低下、農産品の相場安から飲食料品小売業が同▲0.3%の低下となっりました。

 一方、石油製品価格の上昇から燃料小売業が同 1.7%の上昇となりました。 これらを踏まえて、同省の季節調整済指数前月比の 10 月までのトレンドでは「持 ち直しの動きがみられる小売業販売」としたとしています。

目覚ましい上昇などはみられませんが、「持ち直しの動き」がみられることには変わりはありません。多少の減少はあるものの大勢では「持ち直しの動き」にあるとみているのでしょう。

一方雇用に関しては、ブログ冒頭の田中秀臣氏の記事でも触れているように、良いことはあっても、悪い動きはありません。  これは、アベノミクスが機能して、良くなったということです。雇用が良くなっていることは最早誰にも否定できません。

にもかかわらず、服部氏はこれを否定しています。ブログ冒頭の記事で田中秀臣氏は、以下のように述べています。
次に労働生産性についてである。服部氏の定義だと確かにゼロ成長率になる。ただ、この労働生産性の定義の場合、景気が回復していけば、延べ就業時間総数が一定でも実質GDPは事後的に増加していく。現状のような総需要不足の状況であれば、それを解消していくことで実質GDPは増加し労働生産性も伸びていく。それだけの話にしかすぎない。ちなみに、総需要不足の失業がある段階で、労働生産性の向上を重視するのは奇異ですらある。なぜなら失業のプールから雇用されていく人たちは限界生産性が低い人たちであり、そのため労働生産性は低下するからだ。先に指摘したように、どうも職を得るよりも服部氏らは労働生産性が重要なのだろう。しかしそれでは国民の幸せは向上しないだろう。
「失業のプールから雇用されていく人たちは限界生産性が低い人たち」というのは、平たくいうと、失業していて雇用される人たちは、労働生産性が低いということです。

それは、当然のことです、たとえ能力的に高い人であっても、しばらく失業して、新たな職場に就いた場合、最初は生産性が低いです。低いどころか、最初は賃金を支給されながら、教育・訓練を受けたりします。そうなれば、当然ながら生産性は低下しますし、就業者全員の就業時間を平均すると、新たに人を採用した分だけ、平均では下がってしまいます。

企業が新人を採用すれば、最初は教育・訓練などでろうとせう生産性は落ちる
しかし、この人たちが教育・訓練の時期を終え、実際に仕事をすれば、生産性はあがります。さらに、この人たちが職場で仕事になれればさらに生産性はあがります。

それだけの話です。こんなことは、別に経済理論を知らなくても誰にも理解できることです。生産性のみを追求するなら、新たに人を雇用しないほうが良いということになります。

これは、ある意味、金融緩和をはじめて、雇用が増えて、実質賃金が下がったことをもって、アベノミクスは失敗したと批判したことに似ています。

これも、難しい経済理論を知らなくても理解できます。ある企業が、業容を拡大するために、大量に新人を雇ったとします。新人の場合、賃金は既存の就労者よりも低いのが普通です。

そうすると、新人を大量に雇えば、就労者全員の平均賃金は下がります。しかし、それでも、人手不足が続き、それでも新人を雇わなければならなくなれば、新人の賃金を他社なみか、他社より高くしなければ、新人を雇用できません。

新人の賃金をあげれば、既存の社員の賃金もあげなければならなくなります。そうでないと、既存の社員は不満を抱くようになり、他社に転職するようになります。こうして、社員全体の実質賃金も上がっていくことになります。

雇用よりも、労働生産性、賃金を重視するという考え方は明らかに間違いです。そういう考え方にたてば、どの企業も新人は雇用しないほうが良いということになります。

そんなことでは、企業は発展できませんし、若者にとっても良いことはありません。これでは、長い間にすべての企業が衰退することになります。よって、これをもって、アベノミクスを否定するという考え方は、著しく不見識といわざるをえません。

労働生産についてさらに付け加えれば、たとえば小売の店舗で、サービス向上を目指すとします。具体的にサービス向上を目指せば、それによって生産性は低下することになります。労働生産性だけを追求すれば、サービスなど何もしないほうが良いことになります。

しかし、同じ価格帯ならお客は、サービスの悪い店舗で購入するよりも、サービスの良い店で購入したいと思うに違いありません。単純に生産性で割り切るわけにはいきません。

私自身もこのブログの読者であれば、知っているようにアベノミクスの批判をすることがあります。しかし、アベノミックスの成果特に雇用状況がかなり良くなったことを無視したり、成果がないなどとは言ってはいません。あくまで、成果は認めた上で、さらにやるべきことや、足りないことを批判しているだけです。

しかし、彼らはアベノミクスの成果である雇用の改善そのものを批判しています。これでは、批判の方向が完璧に間違っています。現状で、アベノミクス特に金融緩和をやめてしまえば、また雇用が悪化するだけです。

このよう考え方をする人は、日本国の経済を考えるどころか、企業の経営も満足にできないと思います。こんな人たちにアベノミクスを過小評価されてはたまったものでありません。

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