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2019年3月8日金曜日

米朝首脳会談は「大成功」。金正恩と北朝鮮に残された3つの道―【私の論評】トランプ大統領「大勝利」の背後に何が(゚д゚)!

米朝首脳会談は「大成功」。金正恩と北朝鮮に残された3つの道

米朝会談は米国にとっては「大成功」だった

米国が北朝鮮から「核戦力廃棄の確約を得られなかった」ことを主な理由として、「失敗」との報道がなされがちな第2回米朝首脳会談ですが、米大統領補佐官は「成功」だと反論しました。これに同調するのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で北朝鮮の今後を予測した上で、米の対北政策が日本にも有益な点を詳しく解説しています。

ボルトンさん「米朝首脳会談」は【大成功】

先日行われた米朝首脳会談について、「大失敗だ!」という意見が多いです。しかし、皆さんご存知のように、REPは「大成功だ!」という立場。それで、3月1日に、こんな記事を出しました。

金正恩の姑息な作戦に乗らず。米朝首脳会談が成功と言える理由

ところで、私と同じ意見の人がいました。ボルトンさん(アメリカ大統領補佐官)です。トランプ政権中枢にいる人が、「大成功!」というのは、当たり前ですが…。
米朝首脳会談は「成功」 米大統領補佐官が擁護
3/4(月)6:32配信 
【AFP=時事】米国のジョン・ボルトン(John Bolton)大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は3日、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領との間で先週行われた米朝首脳会談について、双方で合意に至らず会談が失敗だったとの見方を否定した。
「失敗だったとの見方を否定した」そうです。
ボルトン氏はCBSの報道番組「フェイス・ザ・ネーション(Face the Nation)」で、トランプ氏が北朝鮮から核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったことは、「大統領が米国の国益を守り、高めたという意味で成功」と見なされるべきだと語った。
「トランプ氏が核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったこと」=「大統領が国益を守って成功」だそうです。どういう意味でしょうか?
ボルトン氏は、争点はトランプ氏の言う「大事業」すなわち完全な非核化を北朝鮮が受け入れるかまたはそれ以下の「われわれには受け入れ難い」ことのどちらかだったと説明。「大統領は自分の考えを断固として貫いた。大統領は金正恩氏との関係を深めた。米国の国益は守られており、私はこれを失敗だとは全く見ていない」と述べた。
同感です。トランプさんは、「完全な非核化」を要求しました。その見返りは、「体制保証」「経済制裁解除」です。

まあ、アメリカはこれでカダフィを03年にだまし、丸裸にした。結果、彼は11年、アメリカが支援する反体制派に捕まり殺されました。だから金正恩がアメリカを信用しないのは当然。

一方、金正恩は、「一部非核化して、制裁解除」を狙ってきました。これは、過去の「成功体験」を繰り返したのです。1994年、北朝鮮は「核開発凍結」を確約し、見返りに軽水炉、食料、毎年50万トンの重油を受け取った。しかし、彼らは密かに核開発を継続していた。2005年9月、金正恩の父・正日は、「6ヵ国共同宣言」で「核兵器放棄」を宣言。しかし、現状を見れば、それもウソだったことは明らか。今回も「これでいける!」と思ったのですね。

このように、アメリカは北をだまそうとしている。いえ、ひょっとしたらトランプさんは、だまそうとしていないのかもしれない。しかし、カダフィの例があるので、金正恩からは「だまそうとしている」ように見える(それに、トランプ後の大統領が政策を変更するかもしれない)。そして、北はアメリカをだまそうとしている。で、結果、「トランプさんは、金正恩にだまされなかった」。だから、RPEも、ボルトンさんも「成功だ」というのです。

これが、「少し非核化して、制裁解除」となったらどうです?金は、「核兵器保有」と「経済発展」の二つを同時に成し遂げた。まさに「偉大な指導者」になることでしょう。

トランプ、金正恩の交渉決裂でどうなるのでしょう?
  • 金は、核実験、ミサイル実験を再開できません。再開したら、アメリカは、「金は交渉を断念したようだ。しかたない…」といって、北を大攻撃するでしょう
  • 北朝鮮は、豊かになりません。現状、中国、ロシアが北支援をつづけている。しかし、これは「国連制裁違反」なので、大々的に、大っぴらにできない。せいぜい「体制が細々と存続していく程度」にしか支援できない
金はこれから、
  • トランプを信じるか?つまり、「完全非核化して、体制保証、制裁解除を勝ち取る」か?(繰り返しますが、アメリカがだますリスクはあります)
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくか?
  • 核実験、ミサイル実験を再開して、アメリカに殺されるか?
いずれかを選ばなければならない。現状、もっとも可能性が高いのは、
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
でしょう。そして、中国、ロシア、韓国に、「制裁違反の支援をもっと増やしてください!」と懇願するかもしれない。もしそれで中国が支援を増やせば、米中覇権戦争中なので、アメリカは、「中国は国連安保理の制裁に違反して、北を助けている!」と非難する。そして、対中制裁を強化することでしょう。中国としても悩ましいところなのです。

こう考えると、アメリカの対北政策は、実にうまくできています。アメリカも困らないし、日本も困りません。そのように見る人は、あまりいないのですが。

【私の論評】トランプ大統領「大勝利」の背景に何が(゚д゚)!

私自身は、米朝会談は米国にとっては大勝利だったと思っています。上の記事は、その私の考えをさらに補強するものでした。特に、ボルトン氏が「大成功」としていることで、私の考えは裏付けされたものと思いました。

さて、この大勝利について、「大勝利」とは掲載していないものの、失敗ではないことをこのブログも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 ―【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!
米朝決裂であてのはずれた文在寅
詳細は、この記事をご覧いただくものとして以下に一部を引用します。 
北朝鮮は、外見は中国を後ろ盾にしてはいますが、その実中国の干渉されることをかなり嫌っています。金正男の暗殺や、叔父で後見役、張成沢氏の粛清はその現れです。 
韓国は、中国に従属する姿勢を前からみせていましたが、米国が中国に冷戦を挑んでいる現在もその姿勢は変えていません。 
この状態で、北朝鮮が核をあっさり全部手放ばなすことになれば、朝鮮半島全体が中国の覇権の及ぶ地域となることは明らかです。これは、米国にとってみれば、最悪です。そうして、38度線が、対馬になる日本にとっても最悪です。
もし今回北朝鮮が米国の言うとおりに、全面的な核廃棄を合意した場合、米国は、米国の管理のもとに北朝鮮手放させるつもりだった思います。まずは、米国に到達するICBMを廃棄させ、冷戦で中国が弱った頃合いをみはからい、中距離を廃棄させ、最終的に中国が体制を変えるか、他国に影響を及ぼせないくらいに経済が弱体化すれば、短距離も廃棄させたかもしれません。
しかし、これを米国が北朝鮮に実施させた場合、多くの国々から非難されることになったことでしょう。特に、日本は危機にさらされ続けるということで日米関係は悪くなったかもしれません。さらに、多くの先進国から米国が北朝鮮の言いなりになっていると印象を持たれかなり非難されることになったかもしれません。 
しかし、今回の交渉決裂により、悪いのは北朝鮮ということになりました。米国は、他国から非難されることなく、北朝鮮の意思で北の核を温存させ、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐことに成功したのです。まさに、「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という結果になったのです。
この記事にも掲載したように、本来「北朝鮮の核が結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいる」という点を抜きに、今回の米朝首脳会談が大成功であったと認識するのは困難でしょう。

大方のメディアにはこのような認識がないので、「失敗」と報道するしかなかったのでしょう。

今回の首脳会談後についての金正恩 選ぶ道について、ブログ冒頭の記事では、
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
これは、米国にとっては、当面北が核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくにしても、核が存在すること自体には変わりはなく、それは中国の脅威となり、中国の朝鮮半島への浸透が防止されることになることには変わりありません。

これについては、米国が北を屈服させて、そこに米国が中距離核を配備すればよいではないかと考える人もいるかもしれませんが、それをやってしまえば、米国と中国、ロシアとの対立がかなり深まることになります。さらには、国際的に非難されることにもなります。

そうではなく、北の意思によって、核か北朝鮮に存在するといことが重要なのです。

現状を保てたことは、まさに米国にとって大勝利です。ただし、米国としては北朝鮮に核があることが米国にとって有利などということは、口が裂けても公言することはできません。

だから、ボルトン氏もそのことについては、特に言及しないのでしょう。そのことが、米国の大勝利を一般からは理解しにくいものにしています。

トランプ大統領は6日、北朝鮮がミサイル発射施設の復旧を進めているとの情報について、「本当なら非常に失望する」と述べました。
ボルトン補佐官は5日、非核化をめぐる今後の協議について「ボールは北朝鮮にある」と指摘、北朝鮮が本当に核計画を放棄する意思があるかどうか見極めていく考えを示した。

その上で、完全な非核化に応じなければ「経済制裁の強化を検討する」とけん制した。

これらによって、トランプ大統領もボルトン氏も、現所維持を確固なものにするとともに、「ボールを北」に投げたのです。



そうして、米朝会談は今後の中国の動向により、方向付けられるでしょう。現在米国による対中冷戦が繰り広げられています。

この冷戦は、中国が体制を変えるか、さもなくば、中国の経済力が弱体化して他国に影響をおよぽせなくなるまで、継続します。

そうして、私の見立てでは、中国は体制を変えることはしません。体制を変えるといことは、中国共産党1党独裁でなくなるのは無論のこと、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめるということです。

そうなれば、中国共産党の統治の正当性が崩れ、中国共産党は崩壊します。そのような道を中国共産党は選ぶことはないでしょう。

では、残された道は、経済を弱体化され、体制を維持したまま細々と生きていくという道です。

そのようになれば、中国は図体が大きいだけの凡庸な、アジアの独裁国家になりはて、自国のことだけで精一杯になり、朝鮮半島に影響力を及ぼす余力もなくなります。

その時に、次の本格的な米朝会談が始まることになります。というより、中国が弱体化してしまえば、朝鮮半島問題もおのずと、解決することになり、かなり楽に交渉ができるようになると思います。アジアの問題は、やはり中国が最大のものであり、その他は従属関数であるに過ぎないとみるべきなのです。

金正恩

そのことを理解したのか、金正恩は、米朝会談の帰路に、先回の会談後には帰路に習近平と会談したのですが、今回は習近平とは会談せずに北朝鮮に戻りました。一般の報道では、これについて金正恩は「会談に失敗してあわせる顔がない」からなどと報道していますが、それは上で示したような文脈を理解していないからだと思います。

金正恩としては、中国に対峙する米国に対して、当面どちら側につくかを意思表示したのでしょう。

金正恩としては、冷戦においていずれ中国が敗北すると踏んでいるのでしょう。であれば、残された道は、冷戦で中国が弱体化するまで、核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きのび、頃合いをみはからって、核を放棄し制裁解除をしてもらい、経済発展の道を模索するということしかありません。

今回の米朝首脳会談でのトランプ大統領「大勝利」の背景に何があったのかを理解することは、今後の世界情勢を理解する上でかなり重要なことだと思います。

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