10月のロイター企業調査に至っては、「実施すべき」との回答が57%と、「実施しない方がよい」の43%を大幅に上回った。ロイターはその理由として、「財政健全化を先送りすべきではない」というのが「代表的な意見」と報じている。「少子高齢化が進行する中で、『(増税しなければ)社会保障制度が維持できない』」、「これ以上の先送りは、国民の先行き不透明感をあおるだけ」などの意見も取り上げている。
筆者も財政再建を先送りすべきではないと考えているし、その際に消費増税が安定した財源となることにも異論はない。しかし、それが来年10月で良いのかは問われるべきだ。少なくとも最近の経済指標は、国内景気が増税を乗り越えられるほど強い状態でその時期を迎えられない可能性を示している。
2カ月ぶりに減少した9月の鉱工業生産は、小幅な落ち込みにとどまるという市場の予想をあっさり裏切り、前年比1.1%低下した。7─9月期は前期比1.6%減と、3%減少した14年4─6月期以来の大幅な落ち込みを記録した。主因は台風や地震などの自然災害が相次いだことだろう。日銀の黒田東彦総裁が10月31日の記者会見で述べた通り、そうした影響は「基本的には一時的で」、「政府、民間企業も復旧の投資を行い、むしろ成長率を押し上げる」可能性もある。
<経済指標は6月ごろから弱含み>
しかし、8月の本コラムで指摘した通り、経済指標は6月ごろから弱さが目立つ。たとえば、工作機械受注は18年1月(48.8%増)以降、9月まで8カ月連続で伸びが鈍化。とくに中国向けは17年8月に前年の2.8倍増加していたものが、18年3月にはマイナスへ落ち込み、9月は前年比22%減と、7カ月連続で減少した。
日本を訪れる外国人の数も9月は前年比5.3%減と、13年1月に1.9%減って以来のマイナス。季節変動をならしてみると前月比5.7%減となり、6月以降、4カ月連続で前月の水準を下回った。
インバウンドで湧く大阪府のシティホテルの客室利用率(全日本シティホテル連盟)は、同じく季節変動をならしてみると、18年5月の88.9%が直近のピークで、6月は83.2%へ急低下。それ以降、4カ月連続で低下し、9月は73.5%と12年3月以来の低水準となった。
重要なのは、こうした経済指標の悪化が9月のみならず、それ以前から見えるということだ。そうした前提に立つと、景気の代表的な先行指標である新規求人数が9月に前年比6.6%減と16年10月以来の減少に転じたこと、そのマイナス幅が金融危機の影響を引きずる10年1月に13.4%減少して以来であることを、「一時的」と簡単に結論付けるわけにはいかない。国内景気は9月の自然災害で「一時的」に落ち込んだというよりも、それ以前からの弱さが露呈してきた可能性がある。
日本経済を取り巻く環境も、決して良好とは言えない。中国は今春以降、習近平国家主席が掲げるデレバレッジ(債務圧縮)方針への忖度(そんたく)が行き過ぎ、地方を中心に金融危機をほうふつさせるほど信用収縮が進んだ。金融当局などが迅速に対応して大事には至らなかったが、景気に急ブレーキがかかった状態にある。ハードランディングは回避できるとみているが、習主席が方針転換を明示しない限り、中国景気の足取りは重いままだろう。
米国は減税の追い風もあり、景気の回復が続く可能性は高いものの、プラス3─4%だった4月から9月の成長ペースを維持できるとは考えにくい。11月6日の中間選挙で共和党が上下両院とも制し、一段の減税など拡張的な財政政策が選択されるシナリオはゼロではない。しかし、その場合は米連邦準備理事会(FRB)に早期の金融政策正常化を促したり、ドル高がトランプ米大統領が推進する輸出振興を妨げたりするだろう。金利上昇に敏感な住宅市場に減速感があることも気がかりで、堅調な個人消費に水を差しかねない。
こうした状況で無理に消費増税に踏み切れば、日本の景気が失速するのは不可避だろう。安倍晋三政権は負担軽減策を講じ、万全の態勢で臨む姿勢を示すが、前回増税した14年4月を振り返るまでもなく、効果は未知数と言わざるを得ない。増税は一時的ではなく、恒久的に所得を減少させる。本気で影響を最小化しようとするのであれば、その減少分のいくらかを恒久的に補てんする必要があるだろう。
「そんなことを言っていたら、いつまでたっても財政再建などできないだろう」という声が聞こえてきそうだ。繰り返すが、筆者は財政再建の必要性を否定しているのではない。なぜデフレからの完全脱却を待てないのか、と主張しているだけだ。財政再建には、需給ギャップが明らかにプラスへ転じ、物価が2%で安定的に推移するようになってから取り組むべきである。
<若者の人生を左右>
内閣府と日銀の推計値によると、確かに需給ギャップはプラスに転じている。しかし、国際通貨基金(IMF)の試算値では、17年がマイナス0.864%、18年がマイナス0.749%と、明らかなマイナス圏にある。需給ギャップを用いて議論をするに当たっては、相当の幅を見ておく必要があるという常識に従えば、IMFの数値も考慮に入れるのは当然だ。
ロイターによると、IMFのラガルド専務理事は10月4日にインドネシアで麻生太郎財務相と会談した際、日本の消費税率の引き上げに支持を表明した。一方で、5%から8%に引き上げた4年前の増税に言及し、景気への影響には注意を払うよう伝えたという。ラガルド氏の発言を筆者なりに解釈すれば、IMFに理事まで派遣している国が下した判断を尊重しつつも、需給ギャップがマイナスの状態で増税をするのだから影響は大きくなる、くれぐれも慎重に、ということだろう。
そのIMFの分析によれば、日本の政府債務は名目GDP(国内総生産)比で235.6%、いわゆる「GDPの2倍以上」であるが、資産を勘案した純債務では5.8%に過ぎない。IMFが試算した31カ国中、最も大きな純債務を抱えるのはポルトガルで135.4%。125.3%の英国がそれに続く。統計が揃わないイタリアを除いた先進6カ国では、カナダのみが資産超過で、フランス、ドイツ、米国はそれぞれ42%、19.6%、16.7%と、日本よりも純債務が大きい。
日本では財政の話になると、なぜか急に「将来世代にツケを回すな」という声が出て、増税は当然という結論になる。しかし、需給ギャップがマイナスのまま財政再建を急げば、景気に大きな負荷がかかり、デフレに陥るリスクすらある。若者が希望通りの仕事に就けない、それどころか仕事がないという、つい最近まで日本が経験していた縮小均衡の世界である。
今も日本企業の多くは新卒を一括採用し、社会人としてのスキルは就職後に時間をかけて習得させるのが基本だ。つまり最初に正社員として就職できないと、その後の選択肢は大きく制限される社会である。増税先延ばしが将来世代にツケを回すという議論だけでなく、デフレから完全に脱却しないまま来年10月に増税すれば、将来世代の人生を大きく左右しかねないという議論もすべきだろう。
嶋津洋樹氏 |
嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネジャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。共著に「アベノミクスは進化する」(中央経済社)
【私の論評】財政再建は既に終了、増税で税収減るので必要なし!財務省はバカ真似は止めよ(゚д゚)!
私は典型的なリフレ派であり、すでに財政再建は終わったと考えています。そのため、消費税の10%への増税は全く必要ないと考えています。それについて、このブログで何回も掲載しています。その典型的なもののリンクを以下に掲載します。
1000兆円の国債って実はウソ!? スティグリッツ教授の重大提言―【私の論評】野党とメディアは、安保や経済など二の次で安倍内閣打倒しか眼中にない(゚д゚)!
スティグリッツ氏 |
政府の連結資産に含められるのは、日銀だけではない。いわゆる「天下り法人」なども含めると、実に600兆円ほどの資産がある。これらも連結してバランスシート上で「相殺」すると、実質的な国債残高はほぼゼロになる。日本の財務状況は、財務省が言うほど悪くないことがわかる。
スティグリッツ氏は、ほかにも財政再建のために消費税増税を急ぐなとも言っている。彼の主張は、財務省が描く増税へのシナリオにとって非常に都合の悪いものなのだ。
彼の発言は重要な指摘であったが、残念ながら、ほとんどメディアで報道されなかった。経済財政諮問会議の事務局である内閣府が彼の主張をよく理解できず、役所の振り付けで動きがちなメディアが報道できなかったのが実際のところだろう。この記事は、2017年4月2日のものです。広い意味での財政再建はこの時点で終了していたといっても良いです。この状況では、増税などする必要性は全くありませんでした。
これが、いわゆるリフレ派というか、日本ではリフレ派というと異端のようにみられますが、世界標準でごく当たり前の見方です。日本の財務省の官僚などは、日本が本当に増税する必要があり、その明確な根拠があるとすれば、スティグリッツ氏と意見が異なるわけですから、もし財務省の見方が正しければ、ノーベル経済学賞を受賞できる可能性があるはずです。しかし、そのような話は全く聴いたことはあません。これは、日本の財務省の官僚の誤謬です。
日本ではなぜかリフレ派は少なく、日本は財政再建からはまだ遠い状況であるとする人が多いです。ブログ冒頭の記事を書かれた、嶋津洋樹氏もそのような見方をしています。
そうして、嶋津氏が語るように、たとえ日本が財政再建からまだほど遠い状況であるという立場からも、現在は増税などすべきではないです。
本日は、この立場から、データをあげつつ増税をすべきでない理由を以下にあげます。
図1 財務省データより作成 |
全体の税収は、前年度より0.8兆円少ない55兆4686億円でした。法人税も5000億円減り、所得税も2000億円減り、消費税も2000億円減っている。各税収項目が、軒並み下がっていました(上図)。
2017年7月7日付日経新聞の朝刊は、税収が減った理由について、「財務省は税収の大幅減は『特殊要因が大きい』と説明する」と報じていました。
法人税が下がった理由として、「年度前半の円高で企業業績に陰り」と説明されていました。「イギリスのEU離脱などの影響で、円高になったので、企業の輸出が減ったせい」という理屈です。しかし、日本の経済規模(GDP)に占める、輸出(純輸出)の比率は1%ほどに過ぎないです。
また所得税が減った理由については、「株価伸び悩みで譲渡所得減る」と書かれていました。「株価が上がらないので、株を売った時などの収入にかかる税金が減った」ということだ。しかし、所得税収における、「株式等の譲渡所得等」の内訳は、5%程度に過ぎないです。
財務省も各新聞も、税収が減った原因を、円高や株価など、経済全体にとっては"些細"なものばかりに求めているように見えました。
一方、様々な経済指標を見てみると、経済規模(GDP)の60%近くを占める消費が、悲惨な状況になっていました。
下の図は、世帯ごとの消費支出の推移です。2014年から、2017年の間に、各世帯の消費は年34万円も減ってしまっています。こはサラリーマンの月収、1カ月分に近いです。
法人税が下がった理由として、「年度前半の円高で企業業績に陰り」と説明されていました。「イギリスのEU離脱などの影響で、円高になったので、企業の輸出が減ったせい」という理屈です。しかし、日本の経済規模(GDP)に占める、輸出(純輸出)の比率は1%ほどに過ぎないです。
また所得税が減った理由については、「株価伸び悩みで譲渡所得減る」と書かれていました。「株価が上がらないので、株を売った時などの収入にかかる税金が減った」ということだ。しかし、所得税収における、「株式等の譲渡所得等」の内訳は、5%程度に過ぎないです。
財務省も各新聞も、税収が減った原因を、円高や株価など、経済全体にとっては"些細"なものばかりに求めているように見えました。
一方、様々な経済指標を見てみると、経済規模(GDP)の60%近くを占める消費が、悲惨な状況になっていました。
下の図は、世帯ごとの消費支出の推移です。2014年から、2017年の間に、各世帯の消費は年34万円も減ってしまっています。こはサラリーマンの月収、1カ月分に近いです。
図2 総務省統計を元に編集部作成。「1世代1カ月間の収支(2人以上の世帯)の各年1月の名目消費支出額を、消費者物価指数(2017年1月基準)を用いて実施値とし、年間の消費に調整。
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動機はある程度、察しが付きます。財務省には、「2019年秋の消費税10%への引き上げを、再延期させない」という目標があるのでしょう。
内閣が昨年6月に発表する、財政政策の方針のベースとなる「骨太の方針」から、前年まで書かれていた「消費税」についての言及が消えたことが、話題になりました。「消費税がいけなかった」ということを、政治家は知っていたのでしょう。今後、「消費税10%」を巡る、内閣と財務省の水面下の対決は、本格化してくるでしょう。
そうして今年の「骨太の方針」には、「消費税」という言葉が復活しました。今年に入ってから財務省が攻勢を強めたことがうかがえます。
そうした中で、財務省が「消費税のせいで、税収まで腰折れした」という認識を、持たれないようにしているようです。
各メディアも、財務省の公式発表を表立っては否定しません。日本中の経済情報を握っている財務省の機嫌を損ねてしまえば、経済記者は「商売上がったり」なのでしょう。それに、財務省から貰えるはずのスクープ情報も、もらえなくなるのでしょう。さらに財務省らから睨まれると、出世ができなくなるのでしょう。また、10%に上がったときの軽減税率の対象から、新聞を外されては困るという事情もあるのでしょう。
そうした中で、財務省が「消費税のせいで、税収まで腰折れした」という認識を、持たれないようにしているようです。
各メディアも、財務省の公式発表を表立っては否定しません。日本中の経済情報を握っている財務省の機嫌を損ねてしまえば、経済記者は「商売上がったり」なのでしょう。それに、財務省から貰えるはずのスクープ情報も、もらえなくなるのでしょう。さらに財務省らから睨まれると、出世ができなくなるのでしょう。また、10%に上がったときの軽減税率の対象から、新聞を外されては困るという事情もあるのでしょう。
今後、税収減の傾向はさらに続く可能性があります。というのも、今回の税収は2016年度のものでしたが、図2を見ると、2017年の消費はさらに落ち込んでいます。
下のグラフは、1989年、すなわち消費税を導入した年から2017年までの税収の推移です。どの税収も若干上がっています。これは増税はして消費は落ち込んだものの、幸い輸出などが増えたことによるものです。この推移を見ると景気動向に合わせて上下の変動はありますが、消費税導入以来随分税収が減ってきました。
一方消費税収の推移をみてください。こちらは逆にどんどん増えてきています。今や消費税収は17.5兆円で法人税収(約12兆円)を上回っています。
消費税を上げたダメージは、年々じわじわ積み重なって、3年後くらいから本格化すると言われています。「消費が減る→企業の売り上げが減る→給料が減る→さらに消費が減る」という悪循環が、少しずつ進行していくからです。
消費増税の本当の怖さは、直接消費を減らすこと以上に、その負のスパイラルの引き金を引いてしまうことだと言えます。2017年度は上記にもあげたように、輸出の増大があり、税収は増えていますが、もしそうでなかった場合を想定すると、税収の推移は以下のようになったと考えられます。
消費増税の本当の怖さは、直接消費を減らすこと以上に、その負のスパイラルの引き金を引いてしまうことだと言えます。2017年度は上記にもあげたように、輸出の増大があり、税収は増えていますが、もしそうでなかった場合を想定すると、税収の推移は以下のようになったと考えられます。
1990年に消費税を導入した時も、1997年に消費税率を5%に上げた時も、景気が絶好調の時に増税したので、税収は一瞬だけ上がりました。しかし、それから1~3年の間に徐々に景気が傾き、税収も落ち込み傾向に向かっていきました(下図)。
本当に、将来的に安定した税収を確保したければ、消費税率を5%に戻すべきです。ましてや、10%に上げることなど言語道断です。
以上は、財政再建などとは全く別にいえることです。税収という点からみても、10%増税などとんでもないということです。
財政再建という観点からはそもそも終了しているので増税の必要がないですし、税収という観点からも10%増税は全く正しくないのです。
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