2018年11月28日水曜日

今も残る「ロスジェネ」の苦境…正社員比率や賃金に世代格差 90年代の政策は非難に値する―【私の論評】本当の愛国者は、子どもは私達の未来であることを片時も忘れない(゚д゚)!




 このところ雇用は急速に改善しているが、デフレやバブル崩壊後の不況で、「就職氷河期世代」と呼ばれた1970年~82年ごろに生まれた人たちの雇用や給与なども改善しているのか。そして、個別の政策的な手当は必要なのだろうか。

 池井戸潤氏の経済小説には、「バブル世代」の半沢直樹と「ロスジェネ(ロスト・ジェネレーション)」の森山雅弘が登場する。そこではロスジェネは厳しい就職戦線を勝ち抜いてきたので、有能な社員として描かれている。

 ただし、就職できなかった人の物語はほとんどないのではないか。筆者の知っているロスジェネには、就職に苦労して非正規の渡りを繰り返して現在に至っている人もいる。

 一般的な人は、日本企業に正規社員で採用されると、当初の給料は低いが、40歳ごろにはそこその水準に上昇することが多い。ところが前述のロスジェネのように最初の就職に失敗すると、この賃金上昇カーブの恩恵を受けられない。

 40代になると、中途採用を受け入れる企業も少ない。一般的な日本企業では、50代前半で賃金はピークになるので、40代は人件費コスト高なのだ。

 ロスジェネの後には、「ゆとり世代」がくる。2002年から10年に改訂されるまでの学習指導要領に基づく「ゆとり教育」を受けた1987~2004年生まれを指す。

 ゆとり世代の前半部分は、リーマン・ショックと民主党時代の雇用政策の無策を受けて、就職はやはり困難だった。しかし、アベノミクスの雇用環境の改善から、かなり救済されている。この点で、ロスジェネとは好対照だ。

 労働力調査で各年齢階級の正社員比率をみると、25~34歳は17年が74・16%で、18年(9月まで)が74・97%。35~44歳が71・45%と71・11%、45~54歳が67・73%と67・81%だ。

 ロスジェネにあたる35~44歳では正社員比率が低下しているが、その前後の世代は上昇しているという状況だ。たしかに、ロスジェネは苦しい。

 次に賃金構造基本統計をもとに各年令階級の正社員賃金をみると、25~34歳は16年が26万2100円、17年が26万2700円、35~44歳は32万9000円と32万8100円、45~54歳が38万9900円と38万6300円だった。25~34歳は上昇しているがが、35~44歳と45~54歳は低下している。ここでも、ロスジェネは苦しい。

 一方で、データを見る限り、他の年齢階級と顕著な差があるわけではないことも分かる。となると、個別の政策的な手当が必要かというと、疑問である。ロスジェネの実例を挙げて苦境をリポートすることは難しくないが、それが統計データとしてひどい格差とはいいがたいからだ。

 とはいえ、1990年代の就職困難な状況を招いたマクロ経済政策の不在、特に引き締め基調の金融政策は、十分に非難するに値する。雇用の確保は政府として当然の責務だと筆者は考えているからだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】本当の愛国者は、子どもは私達の未来であることを片時も忘れない(゚д゚)!

ロスジェネについては、上記の高橋洋一氏の記事ではあまり説明していないので、ここでその意味や特徴等について掲載しておきます。

ロスジェネ」は「ロスト・ジェネレーション」の略です。つまり失われた世代という意味になります。

この「ロスジェネ世代」にあてはまるのはバブル崩壊後から約10年間の期間に就職活動をした人たちのことです。つまり、1970年~1982年頃に生まれた世代がそう呼ばれているのです。年齢でいうと、現在48歳〜36歳くらいです。


「バブル景気」と呼ばれた好景気の急激な後退が起こったのが1980年代後半になります。それまで高騰し続けていた株価や地価が下落に転じたのです。

そもそもバブルが崩壊する前に日本がバブル景気に入ったのには円安を武器に輸出産業で大幅な黒字をあげるのに対し、自国の製品が売れず大幅な貿易赤字に陥っていた米国が円高に誘導するべくプラザ合意を締結したことにありました。

プラザ合意によって1ドルが約250円から1年後には約150円まで円高が進んだのです。輸出産業にとって大きな打撃となり一時的な不況に日本はみまわれました。

この状況を打破するために当時、日銀が行ったのが金融緩和政策で、企業にお金を貸し出す時の金利を下げたのです。企業はこぞってお金を借り、株や土地に投資するようになりました。当時は「土地を買えば必ず儲かる」といういわゆる土地神話が信じられており、不動産をみんなが欲しがりました。結果、不動産価格は上昇し続けたのです。

また、金利が安いうちに買っておこうという考えから株価も高騰します。消費が活発なこの状態がバブル景気です。ただし、この頃土地や株などの資産価格は上昇していましたが、一般物価はさほどでもなく、インフレとはいえない状況でした。

ところが、日銀の官僚があまりに馬鹿で、統計のまともな見方すら理解せず、このバブル景気は一般物価を下げないと収まりがつかないと信じ込み、あろうことか金融引き締めに走ります。

また、この時期にど愚かな財務官僚も、経済統計などまともにみることができずに、何かと緊縮財政に走りました。

そのため、金利が上がったことでお金が借りづらくなり不動産は買い手がつかなくなり、株価も急速に下がっていきました。

多額の資金を借り入れていた企業が続々倒産し、不良債権の山となり銀行の経営すら危うくなりますした。一般社会にもボーナス減少、リストラなどの影響を及ぼし急激に景気は後退しました。これが「バブル崩壊」です。

このような状態であれば、通常ならば財務省は積極財政、日銀は金融緩和をするのが正しい対応ですが、なぜか日銀と財務省の無能官僚どもは、緊縮財政、金融引締めにあけくれました。

この誤謬も数年ですめば良かったのですが、それ以降日本はデフレ状況に陥り、愚かな官僚どもは、本来なすべきことをなさず、緊縮、引き締めを20年にもわたって繰り広げ「失われた20年」と呼ばれる長い経済停滞の時代に突入しました。中でも、バブル崩壊から10年間は特に景気が悪く、企業における新入社員の採用意欲も下がりました。

この就職氷河期という厳しいタイミングで就職活動をすることとなった人たちが「ロスジェネ世代」なのです。

バブル崩壊後の不景気の最中に就職活動をしたロスジェネ世代の正社員には他の世代にはない特徴があるとされています。

まずは、仕事に対する姿勢についてです。当時の社会的な背景から厳しい戦いになることを分かった上で就職活動に臨んだ彼らはより専門的な知識であるとかスキルといった自分の強みになるものを身に着けることに対して一生懸命である傾向があります。

仕事にありつけることの難しさを知っているからか、仕事に対してとても前向きな人が多いのです。指示に対しても忠実な世代であると言われています。

もちろん個人差はありますが、考え方にも特徴があります。バブル世代という浮ついた雰囲気が一変する瞬間を目の当たりにしてきたロスジェネ世代には将来を悲観的に考えてしまう傾向が強いようです。

将来への不安から収入を貯蓄に多く回す人が多いのもその考え方によるものであると言えるでしょう。結婚に消極的な人が増えたのもロスジェネ世代以降です。

考え方についてはネガティブな印象が強いようですが、一方でロスジェネ世代は優秀な人材が多い世代でもあります。非正規雇用で働き続けなければならなくなった人も少なくないタイミングで正規採用を勝ち抜いたという事実はその実力の高さを証明していると言うことも可能です。

また、希望する企業よりもワンランク落として就職活動をした人が多いのも優秀な人材が多いと感じさせる要因の1つと言えます。

これらの事からロスジェネ世代は、考え方はやや慎重すぎることがあるのですが、仕事に熱く、スキルも確かな人が多い世代と考えられます。

ただし、これはあくまで正社員として雇用された人たちのことです。普通に大学を卒業して、普通に就職活動をしてもなかなか正社員になれなかった人が多いというのもこの世代の特徴です。

しかし、以上は私の感覚のようなものです。実際に数字はどうなっているのか、確認してみます。これには、田中秀臣氏の以下の記事が大いに参考になります。
雇用大崩壊を経験した「ロスジェネ」はあれからどうなったか
田中秀臣氏


この記事から下に一部を引用します。
 非正規雇用の増加とそれに伴う経済格差拡大の「象徴」としてロスジェネ世代が取り上げられることを、今日でもしばしば見かける。40代の給与減少の報道もその関連で行われたのかもしれない。

 だが、10年前に比べると、ロスジェネ世代の雇用状況はかなり改善している。失業率の低下はすでに説明した通りだ。ここでは正規雇用者数と非正規雇用者数の変化をみてみよう。

 まず、筆者が『雇用大崩壊』を出版した2009年、ロスジェネ世代の雇用状況をみると、男性の正規雇用は599万人、非正規は90万人だった。女性の正規は303万人、非正規は219万人であった
 ロスジェネ世代は、今やだいたい35歳から44歳になっている。この世代を2018年4月と5月の平均値で考えると、男性の正規は649万人で、09年に比べて50万人増加し、非正規は24万人減少して66万人になっている。一方、女性の正規は290万人で、09年に比べて13万人減少し、非正規は88万人増加して306万人となっている。

 女性の非正規雇用の大幅増加は、主婦層がアルバイトやパートなどを始めたことで、求職意欲喪失者層から非正規層に流入したことが主因だろう。この場合、家計の所得補助となる可能性が大きく、世帯的にはむしろ所得の安定に寄与する。それゆえ、非正規の増加がそのまま所得の不安定化をもたらすと考えるのは間違いである。

 さらに注目すべきなのは、ロスジェネ世代で正規雇用が10年前に比べ、男女合計で31万人増、率でいうと3・3%大きく増加したことだ。増加に伴って、男性の非正規雇用も大幅に減少し、10年前と比べて約27%減少している。

 この正規雇用の増加により、いわゆる「ニューカマー効果」を生み出すだろう。非正規層や求職意欲喪失者層にいた人たちが正規層に入っても、そこで同じ世代の人たちが従来手にしていた待遇と同レベルのものを得ることは難しいだろう。要するに、給与が抑えられる可能性が大きいのである。この雇用改善と平均賃金の低下の関係性をニューカマー効果という。

 ただし、経済の安定化が継続すれば、やがて平均賃金も上昇していくことを注意しなくてはいけない。このニューカマー効果が、冒頭で言及した40歳代の給与が5年前と低下した可能性を、ある程度は説明できているかもしれない。いずれにせよ、ロスジェネ世代の雇用環境は大幅に改善していることだけは確かなのである。

 それでは、ロスジェネ世代の象徴といわれた経済格差はどうだろうか。経済格差を示す指標である「ジニ係数」をみてみると、2009年と比べれば、世帯主が40歳代の世帯でも、30歳から49歳までの世代でも低下している。つまり、経済格差は改善しているのである。

 これがさらに継続しているかどうかは今後の調査をみなければいけない。だが、拙著でも言明したが、ロスジェネ世代による経済格差が雇用改善とともに縮小するのは大いにあり得る事態である。
 もちろんロスジェネ世代が生み出されたのはこの世代の人たちのせいではない。すでに指摘したように、政府と日銀の責任である。そして、さらなる改善もこの二つの政策に大きく依存しているのである。 
 また、ロスジェネ世代が、マクロ経済政策だけでは改善できないほど生涯所得が落ち込んだり、所得の落ち込みが将来の年金など社会保障の劣化を招くとしたら、今まさに積極的な社会保障政策を先行してこのロスジェネ世代に活用することも必要だろう。あくまで、まだ議論されている最中だが、ロスジェネ限定のベーシックインカム(最低所得保障)の早期導入も考えられるのではないか。
今後、雇用が改善されていくという時期に、入管法が改正されました。これによって、どの程度ロスジェネ世代に影響がでるか未知数なところがあります。

いずれにしても、ロズジェネの障害所得が落ち込んだり、所得の落ち込みにより、将来大きな影響があると予測される場合は、やはり田中秀臣氏が主張するように、抜本的な手を打つ必要があるでしょう。

無論、資金的手当だけではなく、雇用のミスマッチの是正策も実施すべきです。人は、経済的に満たされればそれで満足というわけではありません。尊厳というものがあります。それは、働いて人の役に立っているという実感がなけば、なかなか満たせるものではありません。

今後弊害がでてきたとき、これをそのまま放置しておけば、ロスジェネだけの問題ではなく、他の年齢層の人々も大きな悪影響を及ぼすことは必至です。

それに、高橋洋一氏が語るように、確保は政府として当然の責務であり、雇用面で著しく不利益を被った層への救済もそうであると思います。ある世代だけが、著しく不利益を被るということは許されることではありません。

最後に、以前このブログにも掲載した。ルトワックの言葉を掲載します。これまでで述べたこととはちょっと趣が違いますが、日本にとって大切なメッセージでもあると思います。
私は日本の右派の人々に問いたい。あなたが真の愛国者かどうかは、チャイルドケアを支持するかどうかでわかる。民族主義者は国旗を大事にするが、愛国者は国にとって最も大事なのが子どもたちであることを知っているのだ。
愛国者は国とってもっとも大事なのが子どもたちであることを知っている

全くそのとおりだと思います。無論国旗を大事するなと言っているわけではありません。子どもとは、私達の未来であるということを言っているのです。それも、間近な未来なのです。たとえ、どのような仕事をしていたとしても、何に興味があろうと、政治信条がどのようなものであれ、子どもたちにとって良い国、社会をつくることこそが、私達大人の最大の任務なのです。 

もう、すでに起こってしまったことは、消すことはできません。そのため、ロスジェネ世代の人たちが、マクロ経済の改善だけでは生涯賃金において他世代よりもかなり低くなるということでもあれば、何らかの形で埋め合わせをすべきです。

そうして、現在の子どもたちが、大人にになって就職する頃には、「就職氷河期」などがあってはならないです。そのようなことをなくすのが、私達大人の責務です。それは、無論経済面はもちろん、安全保障面でも、尊厳の面についても、私達のせいで将来の子どもたちの住む社会が毀損されることがあってはならないのです。

そのために、私たちは日々働いているのだということを片時も忘れるべきではないのです。それを大半の人が忘れたとき、国の衰退、衰亡が始まるのです。

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