2018年11月29日木曜日

【石平のChina Watch】中国経済の「10月ショック」 自動車販売台数も落ち込み、「半死半生」に―【私の論評】米国の対中国「冷戦Ⅱ」は確実にボディブローのように効きつつある(゚д゚)!


広州国際モーターショー2018  16日 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

今年10月の中国経済状況を示す、いくつかの重要数字が今月中旬から続々と発表された。そのいずれもが衝撃的なものである。

 1つは、自動車の販売台数に関する数字だ。中国自動車工業協会によると、10月の全国の自動車販売台数は238万台で、前年同月比で11・7%も減った。今年6月以来、自動車販売台数は5カ月連続の前年同月比減となったが、それは、1992年以来初めての異常事態である。

 大型商品である自動車販売台数の激減は当然、中国における消費の萎縮と消費心理の冷え込みを意味する。

 今月11日に行われた恒例の「独身の日セール」は、開始2分で売り上げが100億元(約1630億円)を突破したことで世界中を驚かせた。だが、それは単に、独身者などの消費者が普段買わなければならない生活必需品をセールに合わせてまとめ買いしただけのことであって、消費の拡大や消費意欲の堅調を意味するものではない。

 人々が以前のように自動車を買わなくなったこと、それこそが消費意欲の低減と、将来の経済状況に対する不安の拡大を確実に表しているのである。

 自動車が以前のように売れなくなると、産業全体が受ける悪影響は計りきれない。自動車産業の関連産業の裾野があまりにも広いからである。

 さらに、中国の産業全体の萎縮を表す、もう1つの重要数字も出てきた。

 中国の中央銀行である人民銀行が今月13日に公表した統計によると、10月中に各金融機関から貸し出された新規融資の総額は、6970億元で、9月の1兆3800億元と比べれば、半分程度に減った。

 一国の経済の中で、新規融資減少の理由が、国の行う金融引き締めであることは多いが、今回の場合はそうではない。アメリカとの貿易戦争開始以来、中国政府はむしろ経済刺激のための積極的な金融緩和政策を実施してきている。それにもかかわらず、10月の新規融資が半分以上も激減したことは、まさに異常事態である。

 さらに問題となっているのは、10月の新規融資の内訳である。貸し出された6970億元の新規融資のうち、80%以上は個人向けの融資であって、企業向けの融資は約2割でしかない。

 このことが意味するところは実に大きい。要するに中国国内企業の大半は、銀行からお金を借りて生産拡大や設備投資を行おうとは、まったくしていない、ということである。

 政府が金融緩和を断行しても、銀行が「お金はいくらでも貸すよ」と言っても、企業は興味を全然示さない。それでは中国の産業が停滞しているというよりも、もはや「半死半生」のような状態となっていることを示している。

 産業の停滞と関連して、中国の税収も大幅減となった。中国財務省(財政部)が15日に公表した数字によると、10月の全国一般公共予算収入は前年同月比で3・1%減り、そのうち、一般公共予算収入の大半を占める税収入は前年同月比で5・1%減ったという。

 税収の大幅減は中国政府にとっての深刻問題であると同時に、税収源となる企業活動と個人の消費活動の低迷を意味している。

 以上のように、今の中国で、個人消費と企業活動の両方が急速に冷え込んでいることは明らかだ。

 今後、消費の低迷はより一層の企業活動の萎縮を招き、企業活動の萎縮は失業の拡大や賃下げを生むことによって消費のさらなる低迷を招くという悪循環が生じてくるのであろう。中国経済のますますの沈み込みは、もはや避けられない。

【私の論評】米国の対中国「冷戦Ⅱ」は確実にボディブローのように効きつつある(゚д゚)!

ブログ冒頭の石平氏の記事は、10月の統計数値をもとに分析を行っています。ここでは、上半期の数字から読み取れることを掲載しようと思います。

中国国家統計局のデータによると、2018年上半期の全国社会消費品小売総額は18兆18億元(約300兆円)、前年同期比9.4%のプラスでした。この数値はこれまで、ほとんど10%から12%の間におさまり、失業率と並び、最も動きの少ないデータでした。しかし昨年の12月以降は下落基調となり、2ケタに届かなくなってきました。消費は減速しているようです。項目別に動向を見てみます。
伸長率トップ5化粧品14.2%、日用品類12.6%、石油及び製品類11.9% 家用電器・音像器材類10.6%、通信機材類10.6% 
伸長率ワースト5自動車類2.7%、文化事務用品6.6%、金銀宝石類7.4%、建築及び内装材料8.1%、酒煙草類8.9%
どれをとっても大差なく、消費のダイナミズムは伝わってこないです。ただ実物商品ネット通販売上だけは、3兆1277億元、29.8%の大幅増です。ただしこれも、ここ数年30%台前半で推移し、ほとんど変わっていません。

このように、上半期からすでに、中国の個人消費は落ち込んでいました。中国国内の一部の専門家は、個人消費の低迷を示す「リップスティック効果」現象が、中国で現れているとの見解を示しました。

「リップスティック効果」とは、経済が厳しい時代になると女性は「安価な贅沢品」、とくに口紅に代表される化粧品を好んで消費する、という説のことです。

アメリカの学者たちは、進化心理学的な観点から「女性は厳しい環境におかれると、優秀な男性を手に入れるために自分の容姿を飾り、魅力をアップさせるようなアイテムを求める傾向がある」とこの現象を説明しています。



中国国家統計局の公表によると、18年上半期の社会消費財小売総額は18兆18億元で、前年同期比9.4%増となりました。2004年以来の低水準だ。また、物価上昇要因を除いた実質の上半期社会消費財小売総額の伸び率は7.7%にとどまりました。1995年以来の最低水準となった。

項目別の消費動向をみると、上半期において消費が最も拡大したのは化粧品です。同14.2%増となりました。伸び率の2位は日用品類で、同12.6%増。石油および石油製品類は同11.9%増と3位になりました。

一方、自動車の消費は不振となりました。伸び率はわずか同2.7%増です。

ここで、一つ注意しておきたいのは、日本の感覚では2.7%増は決して悪くないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、経済成長が著しかった中国では二桁成長も珍しくなく、2.7%の伸びは、伸びがあまりに少なく成長したとは捉えられないのです。

経済成長そのものも、従来は「保八」という言葉があり、これは政府が保証するGDPの伸び率でした。発展途上の中国においては、少なくともGDPの伸びが8%くらいないと、雇用を吸収しきれず、政府としては8%の経済成長を人民に約束するという意味合いで「保八」という言葉が生まれてたのです。

現在の中国は、ここ数年「保八」を守れていません。

過去の中国では経済成長8%を約束し、実際に守ってきたがここ数年は守れていない


中国金融情報サイト「金融界」は8月12日、証券会社「海通証券」チーフアナリストの姜超氏の評論記事を掲載しました。姜氏は、6月中国の選択的消費の縮小と必需的消費の拡大が、リップスティック効果の現象だと指摘しました。

自動車や家電、家具、外食など、生活上に必ずしも必要ではない選択的消費の6月の伸び率はマイナス0.3%で、2002年以来の低水準。一方、食品や日用品などの生活上で必要不可欠な商品、必需的消費の伸び率は11.9%で、14年以来の高水準となりました。

また、リップスティック効果の恩恵を受ける中国映画市場の興行収入額では、8月5日に400億元(約6500億円)の大台を突破しました。中国メディアは「過去最速だ」としました。

中国の映画興行収入の推移

専門家は、現在中国株式市場が低迷している一方で、漬物やインスタントラーメンの生産企業の業績は拡大していると指摘しました。

前述の姜氏は、現在元安・株安、当局の住宅価格抑制政策で個人資産が減少したことと、国内経済失速による所得減少の見通しが、消費低迷の主因との見解を示しました。

この記事の、冒頭の石平氏の記事では、「アメリカとの貿易戦争開始以来、中国政府はむしろ経済刺激のための積極的な金融緩和政策を実施してきている」と述べていますが、これはそうでもないところがあります。

中国人民銀行(中央銀行)は10月7日、金融機関から預金の一定割合を強制的にあずかる預金準備率を15日から1・0%引き下げると発表しました。大型商業銀行の預金準備率は15・5%から14・5%に下がる。引き下げは今年に入り3回目。人民銀は7500億元(約12兆4千億円)を市場に供給する効果があるとしています。

中国では米国との貿易摩擦が激化するなか、景気の先行き不透明感が強まり、上海の株式市場は年初から15%下落。人民元の対ドルレートも9%程度下がっています。人民銀は準備率引き下げで零細企業などへの貸し出しを強化し、実体経済を下支えする狙いです。

ただし準備率引き下げが金融緩和とみなされれば、人民元の売り圧力が強まり、資金流出が加速する恐れもあります。このため人民銀は「金融は穏健で中立的であり、通貨政策の方向性に変更はない」と説明。「今回の措置は流動性の不足を補うもので、金融緩和ではない」としています。

中国当局は7月の共産党政治局会議などで、「穏健で中立」としてきた金融政策について「中立」を削除するなど緩和方向に修正しましたが、過度な元安への警戒感も高めているといいます。

本当は、このような状況であれば、量的緩和をすれば良いのでしょうが、それを実行すると海外への資金流出が加速してしまう恐れがあるので、預金準備率を下げるという、あまり効果の期待できない方法しか実施できないというのが実体です。

今後も、大規模な金融緩和ができない状況が続くことが予想されます。そうなると、やはり個人消費の伸びは期待できないです。

さらに、財政政策に関しても、中国国内の公共投資によるインフラ整備は一巡して、国内の整備は終わったため、中国は一帯一路で海外に投資しようとしていますが、このブログでも掲載しているように、これはうまく行っていません。

そうなると、国内の消費低迷に関して、大規模なマクロ政策を打つことはできず、今後も個人消費が回復する見込みはありません。

上半期は、米国の貿易戦争による悪影響はまだ少なかったと考えられます。上の記事で石平氏が示すように、10月の数値も良くなかったということですから、今後ますます個人消費が低迷していくのは必至のようです。

やはり、米国の冷戦Ⅱは、じわりじりとボディーブローのように効き始めているようです。

【関連記事】

E・ルトワックが断言「“米中冷戦”は中国の現政権崩壊で終わる」―【私の論評】中共崩壊はすでに既成事実、日本はそれに備えなければならない(゚д゚)!

米国が本気で進める、米中新冷戦「新マーシャル・プラン」の全貌―【私の論評】日本は中国封じ込めと、北方領土返還の二兎を追い成功すべき(゚д゚)!

冷戦Ⅱ?米中関係の新たな時代の幕開け―【私の論評】冷戦Ⅱは、先の冷戦と同じく米国が圧勝!中国には微塵も勝ち目なし(゚д゚)!

米国に桁外れサイバー攻撃、やはり中国の犯行だった―【私の論評】サイバー反撃も辞さないトランプ政権の本気度(゚д゚)!

【古森義久のあめりかノート】中国の「統一戦線工作」が浮き彫りに―【私の論評】米国ではトランプ大統領が中共の化けの皮を剥がしはじめた!日本もこれに続け(゚д゚)!

0 件のコメント:

経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき―【私の論評】エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべき

高橋洋一「日本の解き方」 ■ 経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき まとめ 経済産業省はエネルギー基本計画の素案を公表し、再生可能エネルギーを4割から5割、原子力を2割程度に設定している。 20...