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2020年6月11日木曜日

消費の落ち込みは当面は続く…安倍政権は消費増税一時停止を! いまこそドイツを見習うとき— 【私の論評】日本では緊縮命のぶったるみドイツのように期間限定の減税ではなく、物価目標を達成するまで減税せよ!(◎_◎;)

消費の落ち込みは当面は続く…安倍政権は消費増税一時停止を! いまこそドイツを見習うときだ

安倍首相と麻生財務大臣

 総務省は5日、4月の家計調査を発表した。それによると、2人以上世帯当たりの消費支出は26万7922円、物価変動を除いた実質では前年同月比11・1%減だった。これは統計が比較可能な2001年以降最大の落ち込みだ。食料などが堅調な一方、外食や飲酒代が大きく落ち込んでいる。こうした消費の落ち込みはいつごろ回復基調となるのか、落ち込みをカバーするための施策はないのか。

 大きく落ち込んだのは、パック旅行費97・1%減、交通73・0%減、外食67・0%減、洋服58・9%減、理美容サービス41・9%減、保健医療サービス14・8%減など。それぞれ3月も減少していたが、4月になってその減少幅が拡大した。これらの多くは外出する人数の減少に伴うものである。

 逆に伸びたものもある。光熱・水道が7・4%増、麺類34・2%増、パソコン72・3%増、保健用消耗品123・9%増など。逆に、これらは外出が減り、家の中にいることで増えた需要だ。

 例えば、外食するかわりに、家で飲食をするので、麺類、生鮮肉、「宅飲み」用アルコール飲料が増えた。もっとも、人はどこかで3食するが、外食の代わりに内食だと、経済活動全体についてはマイナスである。

 新型コロナウイルスは生活様式も変化させてしまった。「3密」回避やソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保により、消費の基本構造も一部は変わった。これまで外食は会話をする意味も大きかったが、これからは食事中の会話そのものを控えるというのであれば、機会は減少してしまうだろう。

 テレワークも意外に使えることが分かったので、これまでのような出張が絶対に必要かというと、そうでもなくなり、出張による人の移動も確実に少なくなるだろう。

 政府の緊急事態宣言を受け全国で外出自粛が広がったが、宣言が解除され外出自粛がなくなった後も、元には戻らない部分が残るだろう。あと半年か1年くらいは、新しい行動様式への調整過程であるので、消費は今一歩の状態が続くのではないか。これが、構造変化に伴う消費減退だ。

 さらに、これから雇用環境が悪化するとともに、可処分所得が落ち込むので、それに伴う消費減退もあるはずだ。こうした雇用・所得環境の変化に伴う消費減退も半年か1年くらいは出てくるだろう。

 消費は国内総生産(GDP)の過半を占めるので、このような消費減退は、GDP成長率にも悪影響である。もともと昨年10月からの消費増税により消費が弱含んでいたのが根本原因であるので、少なくとも昨年の増税分は一時的に止めるべきだ。さらには安倍晋三政権によって引き上げられた14年4月の消費増税分も含めて一時的に停止したらいい。

 財務省周辺は「緊縮財政のドイツを見習うべきだ」と言ってきたが、そのドイツでさえ、今年7月から12月までの期間限定で、付加価値税の税率を19%から16%へ引き下げる消費減税を行う。今こそ、これを見習うべきだ。定額給付金と異なり、すぐに実施でき効果が出る政策だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本では緊縮命のぶったるみドイツのように期間限定の減税ではなく、物価目標を達成するまで減税せよ!(◎_◎;)

高橋洋一氏は、ドイツを見習えと言っていますが、ドイツはもともとは緊縮財政の権化のような国で本来は見習えるような国ではありませんでした。これについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
メルケル独首相、与党党首再選を断念 首相は継続…後継選び議論加速―【私の論評】「ぶったるみドイツ」の原因をつくったメルケルの敗退は当然(゚д゚)!

この記事は、2018年10月のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。この記事ではドイツの緊縮財政についてまとめて記した部分があるので、まずはその部分を引用します。
ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に“深刻な問題”が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっています。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したが、その有効性は疑問視されるばかりです。 
ドイツは“緊縮予算”を続けており、その煽りを受けてドイツの防衛費不足は切迫しています。空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などといった実態も報告されています。 
こうした状況に追い込まれた原因の一つとして、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。
ドイツの主力戦車「レオパルド2」
昨年(ブログ管理人注:2017年)10月15日、ドイツ潜水艦U-35がノルウェー沖で潜航しようとしたところ、x字形の潜航舵が岩礁とぶつかり、損傷が甚大で単独帰港できなくなったのです。 
ドイツ国防軍広報官ヨハネス・ドゥムレセ大佐 Capt. Johannes Dumrese はドイツ国内誌でU-35事故で異例の結果が生まれたと語っています。
ドイツ海軍の通常動力型潜水艦212型。ドイツが設計 建造しドイツの優れた造艦技術と
最先端科学の集大成であり、世界で初めて燃料電池を採用したAIP搭載潜水艦である。
紙の上ではドイツ海軍に高性能大気非依存型推進式212A型潜水艦6隻が在籍し、各艦は二週間以上超静粛潜航を継続できることになっています。ところがドイツ海軍には、この事故で作戦投入可能な潜水艦が一隻もなくなってしまったというのです。 
Uボートの大量投入による潜水艦作戦を初めて実用化したのがドイツ海軍で、連合国を二回の大戦で苦しめました。今日のUボート部隊はバルト海の防衛任務が主で規模的にもに小さいです。 
212A型は水素燃料電池で二週間潜航でき、ディーゼル艦の数日間から飛躍的に伸びました。理論上はドイツ潜水艦はステルス短距離制海任務や情報収集に最適な装備で、コストは米原子力潜水艦の四分の一程度です。 
ただし、同型初号艦U-31は2014年から稼働不能のままで修理は2017年12月に完了予定ですが再配備に公試数か月が必要だとされています。
日本でも財務省の緊縮財政により、一方ではF35などの装備品を新規購入されているなどのこともありながら、その他の自衛隊の予算が減らされており、トイレットペーパーの節約が励行されたり、陸自では実弾を用いた訓練が減らされ、米国の軍楽隊よりも、実弾訓練がなされていないということを聞いたことがありますが、それにしてもドイツのように酷い状態ではありせん。

ドイツの軍事的脅威といえば、まずはロシアでしょうが、ロシアのGDPは東京都並みであり、しかも現状では、最大の財源である原油価格はコロナ以前から低迷して世界的な需要減になっています。だから、軍事的脅威はあまり感じていないのかもしれません。日本は、中国や北朝鮮に隣接しているという特殊事情がありますから、ドイツのようなわけにはいかないのかもしれません。それにしても、ドイツでは、なぜこのように緊縮財政がまかり通るのか、不思議というほかありません。

08年の世界金融危機はアングロ・サクソン型の資本主義が作り出したものだとドイツ人は考えているようです。しかし、自分たちは別の道を歩んでいると考えているようです。確かにドイツは英米とは同じではありません。例えば、ドイツは労働規制が厳しく、労働時間は世界最短です。

しかし、こうした考え方は欺瞞です。実際、ドイツ銀行は強欲さにおいてウォール街に決して引けを取りません。市場の自由と規律を重んじるドイツ政府は、計画経済とケインズ主義に反対し、他国に緊縮財政を押しつけています。ドイツ連邦銀行を模範として作られた欧州中央銀行は物価安定に固執しています。

ギリシャなど危機に陥った国は外部からの助けを必要とし、ドイツに大きな期待が寄せられていました。ところが、ドイツは覇権国として弱小国を助ける力と意思を持っていないようです。逆に準覇権国として、弱小国に緊縮と構造改革を押しつけたのです。これが危機を悪化させ、ヨーロッパを分裂させました。

しかし、ドイツ人から見れば、こうした行動は防衛的なものなのでしょう。その意味で、現在の「ドイツ帝国」は覇権を強化し、他国に侵略し続けたナチス時代の第三帝国とは異なるようです。

破壊はたやすく、建設は難しいです。現在のドイツは、中東、世界環境、貿易などの問題で、秩序を建設する力も意思もないようですが、破壊するための力と意思は有り余っているようです。

このようなドイツの財政政策が日本の参考になるはずもありません。見習うべきは、米英の財政・金融政策だと思います。金融政策にいては、ドイツはEUに属しており、EUの中央銀行がこれを定めるので、これも日本には参考になりません。

しかし、そのドイツの財政政策を高橋洋一氏が見習うべきと言うには、それなりの理由があります。それは緊縮大好きのドイツでさえ、今年7月から12月までの期間限定で、付加価値税の税率を19%から16%へ引き下げる消費減税を行うからです。

何しろ定額給付金と異なり、すぐに実施でき効果が出る政策です。実施しない手はありません。

ドイツではさらに、大きな動きがあります。

ドイツのメルケル首相(右)とショルツ財務相( 左)

ドイツのショルツ財務相は大規模な景気刺激策の資金調達のために追加で最大500億ユーロ(568億ドル)の借り入れを検討しているそうです。協議に詳しい政府高官がロイターに話したそうです。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による景気への打撃に対処するため、これまで緊縮財政派だったドイツが域内で最も支出が大きい国の一つに政策を転換する動きとなりそうです。

高官によると、メルケル政権は1300億ユーロの景気刺激策を賄うため第2次補正予算案を17日に承認させる計画。別の高官も、政権が17日に補正予算を可決させたい意向だと話したそうです。ドイツ財務省は借り入れ規模が当初想定の250億ー300億ユーロを上回るとみているといます。

高官2人によると、財務省は下半期に起き得る予想外の状況に対し、財政的な余裕を広げたい意向だそうです。

ドイツでは3月、国債発行による1560億ユーロの補正予算が成立。追加で最大500億ユーロを発行した場合、今年の新規発行額はドイツの国内総生産(GDP)の約6%に当たる2000億ユーロを超える可能性があります。

財務省の報道官は追加の国債発行について明確な数字を明らかにしませんでした。 政府は今年の債務残高がGDP比で75%を超えるとみています。大規模な景気刺激策を導入した10年以上前の世界金融危機以来の高水準です。2019年は60%をやや下回る水準でした。

緊縮大好きドイツが、このように域内で最も支出が大きい国の一つに政策を転換しそうな状況になってきました。

一方日本はどうなのでしょうか。日本では、昨年の消費税を10%に引き上げたことによって、日本経済はかなり低迷していました。そこにさらに今回のコロナ禍が追い打ちをかけました。

安倍首相は増税前に「リーマン級の経済悪化がない限り増税」と言っていました。今回のコロナ禍は、間違いなくリーマン級の経済悪化を超えるものになります。さらに、あの緊縮大好きのドイツでさえ、減税と、支出を大幅に増やすと言っているのですから、これ以上の減税の口実はないかもしれません。

これで、財務省を説得して、減税に踏み切るか、財務省を説得できないなら、解散総選挙の公約にしてでも、減税を実施すべきです。

その動きは、もうあります。例えば、安倍晋三首相は10日午後、麻生太郎副総理兼財務相と官邸で約1時間会談しました。麻生氏は安倍首相の「相談相手」として知られますが、平日の日中に、これほど長時間話し合うのは異例です。

新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を受けて国内外に難題が山積するなか、今後の政権運営について協議したとみられ、さまざまな臆測を呼んでいます。

国会会期末(17日)を前に、第2次補正予算を成立させた後、第3次補正予算を編成すべきかなどを話し合った可能性があります。第2次補正の財源では、かなりの国債を充てているものの、それでも国債の金利が上がることもなく、まだまだ国債を刷り増し、日銀による買取で、第3次補正にも十分に資金が割り当てられる余地があることも確認したかもしれません。

経済政策では、「消費税減税」を求める声があります。「消費税減税」と「衆院解散」は検討課題になった可能性があります。

私も減税は賛成です。ただし、緊縮大好きのドイツを見習うべきでない点もあります。それは、ドイツが今年7月から12月までの期間限定で、減税を行う点です。さすがドイツです。どこまでも、緊縮が大好きなようです。

本来は、期間限定ではなく、物価目標や雇用目標を定めて、その目標が達成されるまで、財政政策や、金融政策を継続すべきなのです。

日本では、ドイツ方式ではなく、物価目標2%を実現してもすぐに消費税を元に戻すのではなく、明らかにインフレになった時に元に戻すべきです。物価目標が達成できないなら、最初は8%への減税から、それで物価目標が達成できないのなら5%に、それでもまだ駄目なら0%にして、物価目標が達成できるまで、続けるべきです。

それで令和時代は、平成時代の負の遺産であるデフレときっぱりと決別できます。

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2018年7月20日金曜日

貿易戦争で中国を待つ未来 外資系企業が資本を逃避、EUや韓国は投資見直しも―【私の論評】習近平が失脚しようがしまいが、米国の対中国貿易戦争は目的を達成するまで継続される(゚д゚)!

貿易戦争で中国を待つ未来 外資系企業が資本を逃避、EUや韓国は投資見直しも 

米中両国の報復合戦で苦しくなるのは一般的にみれば中国だ 写真はブログ管理人挿入以下同じ

 米国は中国に対して追加制裁を行う方針を打ち出した。中国も報復する方針だ。両国が報復合戦をすると、それぞれの国への輸出量の差から、一般的には中国が苦しくなる。

 一方、関税と言っても、米国にとっては自国民への課税であるので、中国の輸出業者が先に音を上げるか、それとも中国製品を購入する米国民が先に参るかという我慢比べの側面もある。

 中国としては、報復関税の対象を米国で政治的パワーを持つ農産物に絞るなどして政治的な揺さぶりをかけるが、それでも、輸出量の差から不利にならざるを得ない。

 中国が報復関税ではなく、人民元の為替レートを操作すると、米国が為替や資本の自由化を持ちだしてくるので、これも中国にとって分が悪くなる。こうして中国が不利な状態で米国と貿易戦争をしている限りでは、日本が漁夫の利を得る可能性もある。

 そうなると、米中貿易戦争は、欧州連合(EU)、韓国など米中以外の国にどのような影響が出てくるのか。これらの国も、基本的には米中間で報復関税をしている間は静観の姿勢であり、米中のとばっちりが自国に来ないように注意するだけだ。

 そこで、まず、米国の対中輸入品目をみよう。従来の軽工業品に加え、近年、電気機器(電話用アプリ、テレビ受像機など)、機械類(自動データ処理機械、コンピューター部品など)のシェアが増加している。これらの中国製品の大半は、中国に進出した外資系企業によって生産されている。

 トランプ大統領が中国から米国への輸出品に関税をかけ続けると、これらの外資系企業は、どうなるだろうか。もともと、安価な労働力を利用して対米輸出するために中国に進出したのであるから、その目的が達成できないとなると、中国進出をあきらめ、他の国へ資本を振り向けるだろう。

 中国の安価な労働力も、中国が経済発展するにつれてそれほど魅力的な水準ではなくなっている。しかも、中国に進出した外資系企業についても、習近平思想を強要する動きもある。企業内に共産党委員会の設置を義務付けたことだ。

 こうした状況になると、中国ではなく、東南アジアなどに進出先を変更する動きも出てくるだろう。実際、日本企業でも、中国リスクを考慮して、ベトナムで展開するという動きがある。

 対中国への投資を国別に見ると、7割が香港、次いで台湾、シンガポール、日本、韓国、米国となっている。香港を経由して多くの国から対中国投資が行われている。その中には、EUからの対中投資も少なくない。先日の本コラムで書いたように、中国は人民元を安く操作しているが、これも中国からの資本逃避を促す。

 EUや韓国などは対中投資を見直すだろう。そうした資本逃避は、中国の成長エネルギー源を失わせるので、長い目で見れば中国経済に打撃を与えるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】習近平が失脚しようがしまいが、米国の対中国貿易戦争は目的を達成するまで継続される(゚д゚)!

今月6日、トランプ米大統領が知的財産権侵害に対する報復の第1弾として340億ドル分の対中輸入品に対して25%の追加関税を発動したのに対し、習近平政権はただちに同額の対米輸入品に同率の報復関税をかけました。

報復品目には農産物が多く、大豆やトウモロコシが代表的ですが、よほど品目探しに苦労したのか、鶏の足や豚の内臓まで加えました。いずれも米国内ではほとんど消費者に見向きもされずに、廃棄されていたのですが、巨大な中国需要に合わせて輸出されるようになりました。

米国ではゴミとして捨てられていた鳥足が、中国ではごちそうになる・・・・

習政権は、屑(くず)に値がついて、ほくほく顔だった米国の養鶏農家に打撃を与え、養鶏地帯を選挙地盤とするトランプ支持の米共和党議員への政治的メッセージになると踏んで、報復リストに加えたのでしょうが、これは中国人民の胃袋も直撃することになります。

どのくらいの量の鶏足が米国から対中輸出されているのかは不明ですが、国連食料・農業機構(FAO)統計(2016年)では鶏の飼育数は中国の50億羽に対し、米国は20億羽に上ります。そのうち約1割の足が中国向けだとすると、約4億本が中国人の胃袋におさまる計算になります。

それに対して高関税が適用されると、輸入が減り、かなりの品不足に陥ることになります。13億羽の鶏を生産するブラジルが代替源になるかもしれないですが、増産態勢が整うまでには長い時間がかかるはずです。すると、需給の法則で鶏足の値が上がることになります。

さらに、中国人民全体の食にもっと広汎で深刻な影響が及びそうなのは、もちろん大豆です。米国の対中大豆輸出量は昨年3300万トンで、同5000万トンを超えるブラジルに次ぎますが、中国の国内生産は1400万トンに過ぎないです。


米国産は中国の大豆総需要のうち、約3割を占めています。輸入大豆は搾って食用油になり、粕が豚や鶏の餌になります。米国の大豆産地が鶏と同様、中西部のトランプ支持基盤とはいえ、その輸入制限は、中国人民の胃袋と家計を直撃することになります。

折も折、中国経済は減速局面に突入し、上海株価の急落が続いています。トランプ政権は10日には2000億ドルに上る追加制裁品目を発表しました。中国の対米輸入1600億ドルを大きく上回り、報復しようとすれば対米輸入全品目を対象にするしかなくなります。

17日付の産経新聞朝刊によれば、中国の国営メディアは習氏への個人崇拝批判を示唆、習氏の名前を冠した思想教育も突然中止されるなどの異変が相次いでいるといいます。米国との貿易戦争に伴って景気悪化で所得が下がるうえに、胃袋も満たせないと大衆の不満は募ることになります。そこで独裁権力を強める習氏への党内の批判が噴出する気配です。

ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事にあるように、米中貿易戦争は、中国からの資本逃避を促し、中国の成長エネルギー源を失わせ、さらに人民の胃袋と家計を直撃することになります。

米中戦争がさらにエスカレートすれば、米国は金融制裁に打って出ることになります。貿易戦争でも、金融制裁でも中国には全く勝ち目はありません。勝ち目のない戦にいどまなければならなくなったのは習近平の自業自得といえるます。

こういう事態を招いた、責任の大きな部分は習近平の対米戦略を見誤ったことにあります。オバマ政権の初期が中国に対して非常に融和的であったことから、習近平政権が米国をみくびった結果、鄧小平が続けてきた「韜光養晦(とうこうようかい:「才能を隠して、内に力を蓄える)」という中国の外交・安保の方針)」戦略を捨て、今世紀半ばには一流の軍隊を持つ中国の特色ある現代社会主義強国として米国と並び立ち、しのぐ国家になるとの野望を隠さなくなりました。

オバマの戦略的忍耐は美しい空言にすぎず、中国を増長させることになった

このことが米国の対中警戒感を一気に上昇させ、トランプ政権の対中強硬路線を勢いづけることになりました。

1976年10月、毛沢東の後継者として中国の最高指導者の地位に就いた華国鋒は、自らに対する個人崇拝の提唱や独断的な経済政策を推進したため、当時の党内の実力者、鄧小平ら長老派と対立しました。

78年末に開かれた党の中央総会で華が推進する政策が実質的に否定されたあと、影響力が低下し始めました。華はその後も党内から批判され続け、側近が次々と失脚するなか、約3年後に自らが辞任する形で政治の表舞台から去りました。

華国鋒

今年7月末から8月中旬にかけて、河北省の避暑地、北戴河で党長老も参加する党の重要会議があります。習派と反習派が激しく衝突する可能性があります。

ただ、現在は、78年当時と違って、いまの党内の反対派の中に、鄧小平のような軍内でも影響力がある大物政治家がいません。直近で習近平降ろし成功するとはとても思えません。

しかし、そのことがさらに中国内での習近平派と反習近平派の争いを激化させる可能性もあります。

まもなく観光シーズンのピークを迎える北戴河 昨年7月27日

反習近平派は、米国の対中国貿易戦争を習近平叩きに利用することでしょう。ただし、それが功を奏し、習近平を失脚させたとしても、米国による貿易戦争は継続されることでしょう。

なぜなら、米国トランプ政権の今回の貿易戦争の目的は、中国の現在の体制では民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていないので、そもそも自由貿易などはできない体制であり、この体制を変えさせるか、変えないままであれば中国を経済的に凋落させ、影響力のない存在にすることだからです。

習近平体制であろうが、なかろうが、この米国の路線は継続され、中国はいずれかの道を選ばなければない状況に追い込まれます。

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2017年8月10日木曜日

安倍内閣内閣が問われる「20兆円財政出動」で物価目標2%達成―【私の論評】今国債を刷らずして、一体いつ刷るというのか?

安倍内閣内閣が問われる「20兆円財政出動」で物価目標2%達成
高橋洋一:嘉悦大学教授

 秋の臨時国会では補正予算が提出される。政府が掲げる「2%物価目標」を実現するには、その規模はどの程度が適切なのだろうか。

 そのカギを握るのが、「GDPギャップ」である。それを埋めるには25兆円程度の有効需要を上乗せすればよく、いまの国債市場の玉不足を考えれば、国債増発による財政出動は正当化される。

 インフレ目標の達成に経済政策の余地はある

「GDPギャップ」は、実際のGDP(国民総生産)と潜在GDPの差の、潜在GDPに対する比率と定義されている。

 問題なのは、潜在GDPである。一般的には、経済の過去のトレンドから見て平均的な水準で、資本や労働力などの生産要素を投入した時に実現可能なGDPとされているが、GDPギャップの大きさについては、前提となるデータや推計方法によって結果が大きく異なるため、相当の幅をもって見る必要がある。

 このことはGDPを推計している内閣府や日銀でも注意事項として認識はされている。

 内閣府は最近、GDPギャップの推計方法を若干、改訂した。その値は2017年1-3月期では+0.1%としている。もっとも、この結果をもって、GDPギャップがないから既に完全雇用だ、経済対策は必要ないと早合点はできない。内閣府の潜在GDPは必ずしも完全雇用を意味していないのだ。

 その理由を簡単に言えば、まだインフレ率は上がっていない以上、まだ失業率は下がる余地があり、インフレ目標達成とさらなる失業率の低下のために、経済対策の余地はあるということだ。

 日銀の算出しているGDPギャップについても、内閣府と似た傾向になっており、注意が必要だ。いずれにしても、内閣府と日銀によるGDPギャップの絶対的な水準をそのまま鵜呑みにしないほうがいい。

 ただしGDPギャップについては、その絶対的な水準ではなく、その変化はおおいに参考になる。内閣府のデータは公表されているので、それを活用してみよう。

 2%の物価上昇には25兆円の有効需要が必要

 まず、失業率とインフレ率の関係(フィリップス曲線)を整理しておこう。

 それを子細に見ていくと、ちょっと違った姿が見える。

 失業率とインフレ率は、逆相関になっているが、実は、両者の間を、GDPギャップが介在している。

 例えば、GDPギャップがマイナスで大きいと物価が下がり、失業率が大きくなる。逆にGDPギャップがプラスで大きいと物価が上がり、失業率が小さくなる。

 下の図1は、2000年以降四半期ベースで見たGDPギャップとインフレ率の関係である。左軸にGDPギャップ率、右軸にインフレ率(消費者物価総合対前年比)をとっている。GDPギャップは半年後(2四半期後)のインフレ率とかなりの相関関係がある。

◆図表1:GDPギャップ率とインフレ率(半年後)
 ここで、GDPギャップとインフレ率の関係から、「2%インフレ」にするために必要なGDPギャップ水準を算出してみると、+4.5%程度である。

 それを埋め合わせるためには、有効需要25兆円程度が必要になる。1単位の財政出動による需要創出効果を示す財政乗数が、内閣府のいう1.2程度としても、この有効需要を作るための財政出動は20兆円程度である。

 財政出動で構造失業率2%程度まで下げられる

 また、この財政出動はGDPギャップを縮小させるので、インフレ率の上昇とともに、これ以上、下げられない「構造失業率」までは失業率の低下をもたらすはずだ、

 下の図2は、2000年以降の、四半期ベースで見たGDPギャップと失業率の関係である。左軸にGDPギャップ率、右軸に失業率をとっている。図をわかりやすくするために、左軸は反転させて表示しているが、GDPギャップはやはり半年後(2四半期後)の失業率とも、かなりの逆相関関係がある。

◆図表2:GDPギャップ率と失業率(半年後)
 GDPギャップと失業率の関係式から見た、GDPギャップ+4.5%程度に対応する失業率は2.7%程度である。

 ここで、筆者が、2016年5月19日付けの本コラム(「日銀の「失業率の下限」に対する見方は正しいか」)で書いたことを参照してもらいたい。

 その構造失業率の推計値は、同じく2.7%である。もちろん、経済学は精密科学ではないので、2.7%ピッタリということではなく、2%半ばという程度である。

 ただし、2016年5月の本コラムでは、UV分析を用いている。、構造失業率の推計方法には、UV分析とフィリップス曲線による分析(特にNAIRU[インフレを加速させない失業率]の推計)がある。

 今回のコラムは、フィリップス曲線による分析と本質的に同じだが、いずれにしても、二つの異なる分析によっても、日本の構造失業率が2%半ばと同じになっているのは興味深いことだ。

 数学の証明問題では、二つ以上の方法により証明すると、その命題はより正しいとされるが、経済学でも別の二つの方法で同じ結果であれば、よりもっともらしいといえるだろう。

 以上の分析を総合すると、構造失業率は2%半ば程度であろうとともに、それに対応するインフレ率はインフレ目標の2%である。

 であれば、有効需要25兆円、財政出動に換算して20兆円規模を求めることは、インフレ目標2%を達成し、同時にこれ以上下げられない構造失業率2%半ばを達成することになる。つまり適度なインフレの下で、回避できない失業を除いて人々に完全雇用を実現する合理的な政策である。

 国債は玉不足増発も正当化される

 ただし、財政出動しても、その効果がただちに発揮されずに、実体経済への影響が出た後、インフレ率と失業率に波及するには時間差がある。

 もっとも、インフレ率も失業率もともに、GDPギャップから半年程度のラグなので、インフレ率がまだ2%に達しないようであれば、金融緩和しても実害はあまりない。

 急激にインフレ率が高くなることを心配する向きもあるが、物価が上がるとしても1年以内にインフレ率5%ということはほとんど考えられない。5%のみならず、一桁インフレであっても、その社会的コストは大きいとはいえないので、今のような状況ではインフレを過度におそれる心配はないだろう。

 いずれにしても、内閣府や日銀が示しているGDPギャップは、完全雇用とインフレ目標達成の観点から見ると、“過大評価”の数字である。筆者の分析では、たとえGDPギャップがプラスになっても、そう簡単にはインフレ率は上昇しないし、インフレを過度に心配すべきでないことをデータが示している。

 これに対して、そうした過大な財政出動は財源の裏付けが必要であり、国債発行では財政再建に反するという、いつもの財務省の声が聞こえて来そうだ。

 だが、その心配が無用であることは、2月23日付け本コラム(「日本の財政再建は「統合政府」で見ればもう達成されている」)などで何度も繰り返して述べている。

 むしろ問題は、現在の国債市場において、国債の玉不足になっており、日本銀行の「異次元緩和」にも支障が生じている事態であることも付け加えておこう。そうした観点から、国債発行による財政出動も正当化できる。

 こうしたまともな政策を安倍政権が実施できるかどうか、内閣改造の真価が問われている。

(嘉悦大学教授 高橋洋一)

【私の論評】今国債を刷らずして、一体いつ刷るというのか? 

ブログ冒頭の記事で、高橋洋一氏は2つの計算方式で計算した結果日本の構造失業率の推計値は、同じく2.7%としています。

私は、過去の統計値からこのくらいではないかと思っています。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

日銀 大規模な金融緩和策 維持を決定―【私の論評】日銀は批判を恐れずなるべくはやく追加金融緩和を実行せよ(゚д゚)!


この記事は、2016年6月16日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとしして、以下にこの記事から、構造失業率に関する部分のみを引用します。

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構造的失業率などについて以下に簡単に解説しておきます。

総務省では、失業を発生原因によって、「需要不足失業」、「構造的失業」、「摩擦的失業」の3つに分類しています。 
  • 需要不足失業―景気後退期に労働需要(雇用の受け皿)が減少することにより生じる失業 
  • 構造的失業―企業が求める人材と求職者の持っている特性(職業能力や年齢)などが異なることにより生じる失業 
  • 摩擦的失業―企業と求職者の互いの情報が不完全であるため、両者が相手を探すのに時間がかかることによる失業(一時的に発生する失業)
日銀は、構造失業率が3%台前半で、直近の完全失業率(4月時点で3・2%)から下がらないので、これ以上金融緩和の必要がないという考えが主流のようです。

過去の失業率をみてみると、以下のような状況です。

過去20年近くは、デフレなどの影響があったので、あまり参考にならないと思ういます。それより前の過去の失業率をみると、最低では2%程度のときもありました。過去の日本では、3%を超えると失業率が高くなったとみられていました。

このことを考えると、日本の構造失業率は3%を切る2.7%程度ではないかと考えられます。

であるとすれば、現在の完全失業率3.2%ですから、まだ失業率は下げられると考えます。だとすれば、さらに金融緩和をすべきでした。

しかし、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は、すでに実際の失業率が構造失業率に近い水準まで下がっているのに、なぜ賃金が上昇しないのか、疑問を持っていたようです。にもかかわらず、今回は追加金融緩和を見送ってしまいました。
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この長期のグラフをみても、日本の構造的失業率はどうみても2%台であることは間違いないです。

ただこの数値自体には私自身は、それほどこだわっていません。これは、政策判断するときのひとつの目安にしかすぎないものです。ただいずれにせよ日銀の3%台との見方は高すぎです。

実際には構造的失業と思われていた部分でも循環的要因に反応するところがあります。そのため金融政策で考えたときは、やはり期待インフレ率と実際のインフレ率を目安にしなくてはいけないです。2.7%が真の構造的失業の水準か否かはそれで判断できます。

それにしても、物価目標も未だ達成できないのですから、これはどう考えてみても、未だ失業率は、構造的失業率には達していないとみるべきです。日銀は、すぐにでもさらなる量的緩和を実施すべきです。

次に、国債についてですが、日本銀行は今年の3月24日、約8年ぶりとなる国債売り現先オペを実施しました。大規模な国債買い入れを背景に深刻化している民間金融機関の国債保有不足を受けたもので、レポ市場で国債の貸し手が特に少なくなる年度末に対応した。短期国債買い入れオペも取りやめ、期末の短期金利は急上昇しましたた。

午前9時30分の金融調節で日銀は国債売り現先オペ1兆円を通知。国債を売却して一定期間後に買い戻す同オペには2兆601億円の応札があり、1兆2億円が落札された。按分レートはマイナス0.11%。応札する金融機関からの銘柄指定がない売り現先オペの実施は2008年11月28日以来となりました。今回の対象期間は年度末をまたぐ3月27日から4月3日までの1週間物でした。

日銀の大規模な国債買い入れによる金融緩和が続く中、今後は国債需要が強まる四半期末ごとにレポ市場での需給逼迫(ひっぱく)が強まる可能性があります。日銀は短国の買い入れを減らして流通量を増やしていますが、それでも国債が足りなかったのです。

このような状況では、本来は国がこの状況に対応するため、国債を刷り増すべきでした。政府(財務省)が本来すべき仕事をしなかったため、日銀はこのようなことをせざるを得なくなったのです。

まさに、高橋洋一氏が語っているように、「現在の国債市場において、国債の玉不足になっており、日本銀行の「異次元緩和」にも支障が生じている事態である」のです。

このようなときは、当然のことながら、国債を刷り増す必要があります。こんなことを言うと、自民党内部のたとえば小泉進次郎のような若手議員ですら、「国債は、将来世代へのつけ」などという、奇妙奇天烈、摩訶不思議な反論が出るかもしれません。

しかし現実に市場に流通している国債が少なくこのままでは金融緩和にも支障が出るほどなのですから、当然のことながら、国債発行による財政出動は正当化されるどころか、いままさに実行しなければならないはずのものなのです。

今国債を刷らずして、一体いつ刷るというのか? と言いたいです。

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