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2018年7月21日土曜日

【日本の解き方】リーマン危機前の日銀「議事録」 引き締めが必要との姿勢強調、金融機関重視で国民生活軽視―【私の論評】物価目標2%を達成前に量的緩和をやめれば、旧白川日銀のように中国を利し米国からの反発は必至(゚д゚)!

【日本の解き方】リーマン危機前の日銀「議事録」 引き締めが必要との姿勢強調、金融機関重視で国民生活軽視

日銀元総裁 白川氏

 日銀の2008年1~6月の議事録が公開された。リーマン・ショック直前の日銀内でどのような議論が行われていたのか。危機への備えは適切だったのだろうか。

 この時期、日銀人事は混乱していた。08年3月19日には福井俊彦総裁の任期が終了したが、ねじれ国会の与野党の対立により、総裁が約3週間不在になる異例の事態もあった。

 4月上旬には、副総裁に就いたばかりの白川方明(まさあき)氏を総裁に昇格させる案が国会に提示され、4月30日の決定会合から総裁不在は解消された。

 そして、白川氏は6月会合で「たぶん、危機、最悪期は去ったのだろうと思う」と発言した。これは、大手の金融機関が突然破綻するという意味での「最悪」であり、白川氏が金融機関ばかりを見ていたことを示している。

 筆者は、白川氏が同年9月のリーマン危機を想定していなかったことを問題とするつもりはない。あのような数十年に1度のことを予想するのは難しいからだ。

 かつてアラン・グリーンスパン元米連邦準備制度理事会(FRB)議長も「バブルは崩壊して初めてわかる」という名言を残している。

 重要なのは事前の予想ではなく、事後の対応だったが、白川日銀はそれに失敗し、リーマン・ショック後大規模な金融緩和を怠った。その萌芽(ほうが)も1~6月の議事録に見られる。

 この間、FRBは1月に緊急利下げを行ったが、日銀は政策金利を据え置いた。1月の会合で当時の福井総裁は「物価安定のもとでの成長軌道をたどるのであれば、金利水準を徐々に引き上げていく方向にある」と、金融引き締めが必要との立場だった。

 このスタンスは白川日銀にも引き継がれ、4月下旬の会合で須田美矢子委員は「持続的な成長軌道をたどる蓋然性が高い場合は利上げという考えに変わりがない」としている。このほかにも、資源高に伴うインフレ懸念から利上げを検討すべきだとの声すら出ていた。

 白川日銀は、金融引き締めが必要との予断があったために、その真逆の大規模な金融緩和に思い至らなかったのだろう。

 また、白川日銀は金融機関を重視していた。白川氏が、金融機関を見て、「最悪を過ぎた」と発言したとの議事録は既に紹介したが、リーマン・ショック後、日本の金融機関がそれほど打撃を受けていないことが分かると、リーマン・ショックを過小評価したことにつながっている。これは当時の与謝野馨経済財政担当相が「蜂に刺された程度」と述べたことからもうかがえる。与謝野氏は白川日銀の執行部との距離感が近かったので、この発言は日銀の状況を表している。

リーマンショックを「蜂に刺された程度」と述べた与謝野馨経済財政担当相(当時)

 楽観論を戒める場合でも、「金融機関のサドン・デスが重なるとかなり大きなことになるので、十分注意しないといけない」(西村清彦副総裁)というように、金融機関が対象であり、円高などの国民生活への影響は顧みられなかった。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】物価目標2%を達成前に量的緩和をやめれば、旧白川日銀のように中国を利し米国からの反発は必至(゚д゚)!

この当時の日銀の明らかな失策については、過去のこのブログにも何度となく掲載してきました。

それらを簡単に以下にまとめます。

97年には、日銀法が改正され、98年間より、日銀はデフレの中での金融引き締め政府を実施し、日本はこの年から、完璧にデフレに陥りました。この年から、自殺者が前の年まで、2万人台だったものが、3万人台に膨れ上がりました。

バブル期に判断ミスをした日銀の金融政策は、その後もずっと間違い続きとなり、第一次安部内閣のときには、もう少しで、日本経済がデフレから脱却できそうだったにもかかわらず、バブルの最中に金融引き締め転じ、日本をデフレ・スパイラルの泥沼に再びひきずり下ろし、その後第一次安部内閣は、崩壊しました。

過去ほとんど金融緩和をしなかった日銀

リーマンショックのときには、日本を除く欧米先進国などすべてが、大規模な金融緩和を行ったにもかかわらず、日銀はほとんど実施せず、その結果、ショックの震源地であるアメリカや、直接の影響をかなりこうむったEU諸国などが、すぱやく立ち直ったにもかかわらず、本来ほとんど影響のなかった日本が、大きな影響をこうむり一人負けの状況でした。こうした意味では、日本におけるリーマンショックは実は、日銀の不手際によるものであって、日銀ショックと呼んでも差し支えないものでした。

実際リーマンショック震源地の米国よりも、2008、2009年の実質落ち込みは激しいものでした。それは以下の表をご覧いただければご理解いただけるものと思います。



その後も日銀の不手際は続きます。なにやら、おかしげな基金を設置して、短期の国債(短期の国債を買い取っても現金を現金に替えているようなもので、ほとんど金融緩和の効果はない)などを買取るようなことをして、いかにも金融緩和をやっているようにみせかけつつ、実質的に金融引き締めを続けていた日銀は、東日本大震災が発生したときでさえ、基本的には金融引き締めを実施し、緩和はしませんでした。


そのためにどういうことになったかといえば、震災などの大規模な自然災害が発生すれば、救援活動や復興活動で、当然のこととして円の需要が高まります。にもかかわらず、日銀は、金融引き締めをしたままので、その結果として、当然円の需要はますます高まり、かなりの円高となりました。

どの国でもまとも国であれば大規模な自然災害が発生すると、多少通貨高になるのが普通ではあります。確かに、東日本大震災の前の年にあった、オーストラリアの水害のときも、オーストラリアドルが高くはなりました。しかし、日本の場合は、高くなりすぎただけでなく、長期間続きました。やはり、日銀歩が金融引き締めばかりに実施して、円を市場に投下しなかったためです。

この馬鹿な日銀による、金融政策の失敗続きは、2014年の4月に黒田体制となってから、異次元の包括的金融緩和が実施されて以来、終止符が打たれたわけです。

それにしても、日銀はなぜこのようなデフレ円高誘導をしてきたのか疑問が残ります。白川総裁を始め、その前の福井俊彦総裁、さらにその前の速水優総裁はとにかく頑なにお札を刷りませんでした。

デフレ脱却議連が当時の民主党政権に抵抗して『白川、お札刷れ!』と言っても、そのたびに中国人民銀行の周小川(しゅうそうせん)総裁が『お札するなよ』と命令をしてくるので、実行しなかったのでしょうか。

周小川は2013当時『日本の金融緩和は許せない』などと語っていました。なぜあんなことを言えたのかと、冷静に考えれば、周は白川の上司だったと考えれば納得がいきます。無論白川氏が本当に周の部下だったのかどうかはわかりませんが、白川氏が総裁だったこの日銀が実行していることをみれば、そういわれても無理はないです。

現在も中国自民銀行のトップである周小川

日本銀行は日本の銀行ではなかった、というこかもしれません。当時日銀が金融緩和をしなかったため、中国はかなり緩和をしても、インフレになる心配がない状況になりました。

デフレ円高によってほぼ固定相場制のごとく元安が約束されますから、中国は元安で貿易黒字が続きました。その当時は、日本に工場があると、同じものを製造しても中国で製造するよりも高くなるので売れなくなりました。

そのため、産業が空洞化しました。それを一気に逆転する方法が安部総理の『日銀をとるのは天王山』だったわけです。日銀が中国の手先だとわかった以上は、戦うしかないわけです。ただし、戦うとはいっても無論武力で戦うわけではありません。

金融というのは非常に重要で、日銀を動かすことができれば、これは中国に対しては、核武装に匹敵するくらいの威力があります。だから安倍総理は日銀にこだわったのです。日銀を手中にすれば、中国を『滅ぼす』ことは容易なのです。
15年間デフレで安倍さんが日銀に金融緩和しろといった途端に、景気が回復軌道に入りました。東京から10大都市に向けて順々に派遣やフリーターの時給が上がり始めました。

誰がデフレ不況の元凶だったかは明らかです。安倍総理が前の日銀総裁の白川方明に『お札刷れ!』と言ったら、なぜか、あくまでなぜかですが、尖閣諸島に戦闘機とか軍艦が押し寄せてきました。しかし、いまや中国バブルは崩壊寸前です。

日銀が文字通り日本の銀行になったことで中国は別の手を打ってくる可能性もあります。中国が打つ手は三つあります。一つはチャイナ系ヘッジファンドが株価の操作を試みることです。アベノミクスそのものをひっくり返そうとすることです。

いまも疑わしき状況があって、円安要因しかない局面でなぜか円高株安に触れています。何かきな臭いところがあります。

もう一つは、尖閣抱きつき作戦です。中国の得意技にプロパガンダがあります。特に歴史問題を持ち出すのが大得意。だから尖閣でさんざん日本を挑発して、日本が殴ったら、『ああ、日本に殴られた。昔と同じようにいじめられた』みたいなことを世界中にプロパガンダして、『歴史問題、頑張るアルヨ』とばかりに、バカなアメリカ人を騙して、他人の力を使って日本を制裁させるといシナリオです。

三つ目の作戦としては、安倍晋三の暗殺です。これは本気でやりかねません。中国の理想的なシナリオ、これは中国に限らず、日本を滅ぼしたい勢力の理想は、今年秋の総裁選で安倍総理が、『自民党は盤石政権』だと言ったあとに安倍さんがなくなることです。

なぜなら、安倍さんがいなくなれば、自民党の政治家は、残念ながら一部を除いて能力が低いです。いかようにでもなるからです。これは本当に困ります。チャイナ系ヘッジファンドの株価操作、尖閣抱きつき作戦、三つ目はちょっと特殊な話ですけど、これらに対して打つ手はいくらでもあります。結論からいうと、安倍さんが生きているかぎり大丈夫です。

そうして、この3つの作戦は、オバマ政権のときにはかなりやりやすかったのですが、トランプ政権になってからがらりと風向きが変わりました。そもそも、オバマ政権のときには、「戦略的忍耐」としてオバマは中国のすることを実質的に見逃してきました。

ところがトランプ大統領は大統領選挙のときから、中国と対峙することを公約としていました。安倍総理は安倍政権成立の直前の2012年12月に、海外のサイトに「安全保障のダイヤモンド」という論文を寄稿して、対中国封じ込め戦略を提唱していました。

そのためこの二人が最初から馬が合うのは当然といえば当然でした。そうして、日米は対中国封じ込めで強力し合うようになりました。

そうして、現在ではトランプ政権は対中国貿易戦争を開始し、本格的に中国を潰しにかかっています。この戦争は、中国が国内市場を開放したり、元を完璧に変動相場制に移行するだけですむことはありません。

トランプ政権としては、現在のところはっきりと中国には言っていませんが、究極的には民主化、政治と経済の分離、法治国家化をせまるものと思います。しかし、これを中国が実行すれば、おのずと中国の現状の体制は崩壊するというか、させることになります。

それは、中国としてはできないと判断することでしょう。であれば、米国としては中国が二度と米国を頂点とする戦後の国際秩序を維持するため、中国がこれに対抗することができないように、経済的にかなり弱体させることを目的とするでしょう。実際、米国はこれを目的として今後、貿易戦争、金融制裁をエスカレートさせていくことでしょう。

このような状況のときに、日本が金融緩和を中途半端にやめてしまえば、白川日銀のときにのように中国を利するだけであり、米国の対中国は貿易戦争の勢いを削ぐことになり、米国からかなり反発されることになるでしょう。

とにかく、日本は物価目標2%を達成するまで、デフレから完全脱却するために、量的緩和を継続し、間違っても中国を利することのないようにすべきです。

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2018年5月7日月曜日

高橋洋一 日本の解き方 物価目標2%は実現できる 黒田日銀の壁は消費再増税、財政出動で景気過熱が必要だ―【私の論評】次の総理はやはり安倍晋三氏しか考えられない(゚д゚)!


2期目に入った日銀の黒田東彦総裁

 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁体制は2期目がスタートした。今度こそ2%のインフレ目標(物価目標)達成はできるのか。2014年4月の消費税率8%への引き上げは悪影響をもたらしたが、19年10月に予定されている10%への再増税はその二の舞いにならないのか。

金融政策の基本は、インフレ率を設定した目標(現在は2%)に、失業率をこれ以上は下がらない水準のNAIRU(インフレを加速しない失業率。筆者は2%代半ばと推計)にコントロールするというものだ。

インフレ率について、消費者物価指数(総合)は黒田日銀スタート時の13年4月は▲0・7%だったが、18年2月には1・5%にまでなった。目標の2%まで2・7ポイント改善すべきところが直近では2・2ポイント。これは100点満点で80点と評価できる。

失業率についてみると、13年4月は4・1%だったが、18年2月には2・5%まで改善した。目標2・5%を達成できたので100点である。インフレ率と失業率を合わせてみれば90点といえる。これは、間違いなく及第点である。

もちろん、インフレ率については、生鮮食品を除く指数が1・0%、生鮮食品及びエネルギーを除く指数は0・5%にとどまっており、まだインフレは弱いと見ることもできる。

失業率も一時的に良くなっている可能性を否定できず、もう少し様子を見るべきだとも思える。

統計として、良い数字であることは事実だが、問題は引き続き及第点が取れるかどうかである。個別価格の変動がなければ、消費者物価は総合指数に収束していく。失業率がNAIRU、インフレ率がインフレ目標になると、おのずとそうなる。そこでポイントはNAIRUがいくらかということになる。

日銀は、正式にはNAIRUについて言及していない。物価リポートでは、構造失業率という言葉を使っている。かつては、NAIRUと構造失業率の関係を聞くと、口頭では似たようなものと答えていたが、今や物価リポートでは「違う」と明確に否定している。それでは、NAIRUはいくらと思っているかと聞くと、答えない。

これは、世界の中央銀行から見れば奇妙なことだ。筆者のように、2%台半ばといえば、一応2・5%くらい、統計の誤差を考えると2・3%でもおかしくないとなるが、答えないのは、中央銀行としての説明責任を果たしていないだろう。少なくとも、物価リポートで公表している「構造失業率が3%台」というのは、ミスリーディングである。

インフレ目標2%はこのままなら達成できるだろう。問題は消費増税が予定されている19年10月までに、失業率がNAIRUとなり、インフレ率がインフレ目標を超えるくらいの過熱状態になっているかどうかだ。

過熱していれば、消費増税が冷やし玉になるかもしれない。過熱していなければ、インフレ目標の達成は遠のくだろう。過熱するかどうかは、今後の財政政策次第である。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】次の総理はやはり安倍晋三氏しか考えられない(゚д゚)!

NAIRUとインフレ目標、失業率の関係は、以下のようになっています。インフレ目標の数値、NAIRUの数値は高橋洋一氏が計算したものです。


この関係がはっきり頭に入っていれば、ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事を良く理解できるでしょうし、そもそも金融政策や財政政策がその時々でどうあるべきかなどもはっきりと理解できるでしょう。これを知っていれば、金融政策や財政政策に関して、かなり理解が深まります。知らなかった人是非この際、頭の中に入れて、ことあるごとに利用すると良いと思います。

上の記事で、インフレ率、失業率に関しては、現状の日銀は90点であり、及第点であるとしています。私もそう思います。

しかし、このグラフが頭に入っていないと、高橋洋一氏の言うように、日銀が今のまま量的緩和の姿勢を崩さない限り、インフレ目標2%はこのまま日銀が量的緩和を継続するならいずれ達成できるであろうことも、消費増税が予定されている19年10月までに、失業率がNAIRUとなり、インフレ率がインフレ目標を超えるくらいの過熱状態になっているかどうかが大問題であるということなど理も解できないです。

そうして、インフレ率が完璧に2%を完璧に超える状態になれば、消費税の増税をしても問題はないことや、そのような状態にもっていくのは、今後の財政政策次第であることも理解できないでしょう。

まずは、これが頭に入っている前提で、以下に金融政策と財政政策の違いなど掲載します。これは、経済政策のラグ(ズレ、タイムラグ)を理解するとその違いがより鮮明になります。

経済政策には以下のようラグがあります。

1)内部ラグ
経済情勢の把握から経済政策の実行迄
1-1)認知ラグ
経済現象を認知する迄
1-2)決定ラグ
政策当局が経済情勢を判断し経済政策の発動の決定を行う迄
1-3)実行ラグ
決定した政策を実行に移す迄
2)外部ラグ
 政策実行から経済に効果が生じる迄

金融政策は決定ラグ、実行ラグが財政政策に比べて短く、外部ラグが長くなります。これは、日銀の9人が金融政策決定会合(時には緊急開催もあり)で、即座に決定、実行することができます。過半数の5票を取ることが出来れば良いので、追加緩和が必要であれば、その政策提案に5人の賛成で決定・実行できます。

財政政策は、与党内の調整や国会での議論などを通じて法制化しないと実行できず、決定から実行までに時間がかかります。安倍晋三総理が消費増税延期のために(修正法案提出・可決に必須ではない)衆院解散したことを見ても、財政政策の決定から実行に時間とコストがかかることが分かります。

外部ラグですが、財政政策はどの部分にいくら、と直接的にお金を使うため効果が早く出ますが、金融政策は様々な波及経路を通じて経済に効果を及ぼすため、半年〜1,2年程度のラグがあります。


以上のようなラグがあるからこそ、金融政策と財政政策をうまく組み合わせる必要があるのです。世の中には、財政政策と金融政策を比較してどちらが良いとか悪いとか語る人もいますが、医療の分野では同じ病気を治療するにしても、患者のその時々の状況にあわせて、複数の薬を使い分けるのが普通です。金融政策と財政政策も同じようなものであり、どちらか一方というのでは、経済を速やかに立て直すことはできません。

これには、世界恐慌のときに当時の大蔵大臣であった、高橋是清が財政政策と金融政策を組み合わせて世界で一番はやく恐慌から脱出したという事例があります。世界恐慌の原因は、長らく明らかにされてきませんでしたが、1990年代の研究でその原因はデフレであったことが解明されています。

昭和恐慌からの早期の脱出をみると、デフレ脱却には金融政策が有効であることが実証されました、特に昭和恐慌のような深刻な不況においては財政政策と金融政策のポリシーミックスが有効であることが明らかになりました。

そしてこれらの政策により人々の期待を上向きに変えることが必要であるということです。高橋是清の経済政策はまさにこれを狙ったものでした。

高橋是清

現代日本において「デフレは構造問題」「資金需要がない中で日銀がいくら資金供給しても無駄」というかつての「日銀理論」から、「デフレは日本銀行の責任で解決する問題」で、「断固としてデフレに立ち向かう」という能動的なレジームへの転換を意味するのです。

そしてこの転換こそが、日本に先駆けてリーマンショック時の金融危機において実際に各国が行ってきたことなのです。

山崎元氏が、日銀について以下のようなTweetをしていました。


山崎元氏は「人々の期待を上向きに変える」というのを恋愛にたとえたわけです。そうして、私は同僚の助けということで、財務省の積極財政も必要としたのです。

金融政策と財政政策は対立するものではなく、それぞれの特徴(政策決定に関わる人数やプロセスの多寡、ラグなど)を考慮して、適切な政策割り当てが必要なのです。

いずれにせよ、現状では日本がデフレから完璧に脱却して、緩やかなインフレにもっていくためには、金融政策だけでも何とかなるかもしれませんが、それでは時間がかかりすぎるし、2%のインフレ目標を達してもいないうちに、10%増税などしてしまえば、2%の達成はかなり先に伸びてしまうのは明らかです。

そうして、速やかに2%を達成するためには、財政出動が必要不可欠なのです。というより、10%増税を実行するのであれば、今こそ大規模な財政出動をし経済を加熱させておかないと、また個人消費が落ち込み、デフレになり、2%のインフレ目標はまた先延ばしになってしまいます。増税を先延ばしするなら、金融政策だけでも何とかインフレ目標が達成できるかもしれません。このいずれかの選択肢しかないということです。

これを理解しているのは、政治家では安倍総理とその側近だけです。後は、誰も理解していません。マスコミも理解していません。財務省の官僚は知らないふりをしているだけです。この状況だと、やはり現状ではポスト安倍は安倍総理しかないという結論になります。

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2017年8月10日木曜日

安倍内閣内閣が問われる「20兆円財政出動」で物価目標2%達成―【私の論評】今国債を刷らずして、一体いつ刷るというのか?

安倍内閣内閣が問われる「20兆円財政出動」で物価目標2%達成
高橋洋一:嘉悦大学教授

 秋の臨時国会では補正予算が提出される。政府が掲げる「2%物価目標」を実現するには、その規模はどの程度が適切なのだろうか。

 そのカギを握るのが、「GDPギャップ」である。それを埋めるには25兆円程度の有効需要を上乗せすればよく、いまの国債市場の玉不足を考えれば、国債増発による財政出動は正当化される。

 インフレ目標の達成に経済政策の余地はある

「GDPギャップ」は、実際のGDP(国民総生産)と潜在GDPの差の、潜在GDPに対する比率と定義されている。

 問題なのは、潜在GDPである。一般的には、経済の過去のトレンドから見て平均的な水準で、資本や労働力などの生産要素を投入した時に実現可能なGDPとされているが、GDPギャップの大きさについては、前提となるデータや推計方法によって結果が大きく異なるため、相当の幅をもって見る必要がある。

 このことはGDPを推計している内閣府や日銀でも注意事項として認識はされている。

 内閣府は最近、GDPギャップの推計方法を若干、改訂した。その値は2017年1-3月期では+0.1%としている。もっとも、この結果をもって、GDPギャップがないから既に完全雇用だ、経済対策は必要ないと早合点はできない。内閣府の潜在GDPは必ずしも完全雇用を意味していないのだ。

 その理由を簡単に言えば、まだインフレ率は上がっていない以上、まだ失業率は下がる余地があり、インフレ目標達成とさらなる失業率の低下のために、経済対策の余地はあるということだ。

 日銀の算出しているGDPギャップについても、内閣府と似た傾向になっており、注意が必要だ。いずれにしても、内閣府と日銀によるGDPギャップの絶対的な水準をそのまま鵜呑みにしないほうがいい。

 ただしGDPギャップについては、その絶対的な水準ではなく、その変化はおおいに参考になる。内閣府のデータは公表されているので、それを活用してみよう。

 2%の物価上昇には25兆円の有効需要が必要

 まず、失業率とインフレ率の関係(フィリップス曲線)を整理しておこう。

 それを子細に見ていくと、ちょっと違った姿が見える。

 失業率とインフレ率は、逆相関になっているが、実は、両者の間を、GDPギャップが介在している。

 例えば、GDPギャップがマイナスで大きいと物価が下がり、失業率が大きくなる。逆にGDPギャップがプラスで大きいと物価が上がり、失業率が小さくなる。

 下の図1は、2000年以降四半期ベースで見たGDPギャップとインフレ率の関係である。左軸にGDPギャップ率、右軸にインフレ率(消費者物価総合対前年比)をとっている。GDPギャップは半年後(2四半期後)のインフレ率とかなりの相関関係がある。

◆図表1:GDPギャップ率とインフレ率(半年後)
 ここで、GDPギャップとインフレ率の関係から、「2%インフレ」にするために必要なGDPギャップ水準を算出してみると、+4.5%程度である。

 それを埋め合わせるためには、有効需要25兆円程度が必要になる。1単位の財政出動による需要創出効果を示す財政乗数が、内閣府のいう1.2程度としても、この有効需要を作るための財政出動は20兆円程度である。

 財政出動で構造失業率2%程度まで下げられる

 また、この財政出動はGDPギャップを縮小させるので、インフレ率の上昇とともに、これ以上、下げられない「構造失業率」までは失業率の低下をもたらすはずだ、

 下の図2は、2000年以降の、四半期ベースで見たGDPギャップと失業率の関係である。左軸にGDPギャップ率、右軸に失業率をとっている。図をわかりやすくするために、左軸は反転させて表示しているが、GDPギャップはやはり半年後(2四半期後)の失業率とも、かなりの逆相関関係がある。

◆図表2:GDPギャップ率と失業率(半年後)
 GDPギャップと失業率の関係式から見た、GDPギャップ+4.5%程度に対応する失業率は2.7%程度である。

 ここで、筆者が、2016年5月19日付けの本コラム(「日銀の「失業率の下限」に対する見方は正しいか」)で書いたことを参照してもらいたい。

 その構造失業率の推計値は、同じく2.7%である。もちろん、経済学は精密科学ではないので、2.7%ピッタリということではなく、2%半ばという程度である。

 ただし、2016年5月の本コラムでは、UV分析を用いている。、構造失業率の推計方法には、UV分析とフィリップス曲線による分析(特にNAIRU[インフレを加速させない失業率]の推計)がある。

 今回のコラムは、フィリップス曲線による分析と本質的に同じだが、いずれにしても、二つの異なる分析によっても、日本の構造失業率が2%半ばと同じになっているのは興味深いことだ。

 数学の証明問題では、二つ以上の方法により証明すると、その命題はより正しいとされるが、経済学でも別の二つの方法で同じ結果であれば、よりもっともらしいといえるだろう。

 以上の分析を総合すると、構造失業率は2%半ば程度であろうとともに、それに対応するインフレ率はインフレ目標の2%である。

 であれば、有効需要25兆円、財政出動に換算して20兆円規模を求めることは、インフレ目標2%を達成し、同時にこれ以上下げられない構造失業率2%半ばを達成することになる。つまり適度なインフレの下で、回避できない失業を除いて人々に完全雇用を実現する合理的な政策である。

 国債は玉不足増発も正当化される

 ただし、財政出動しても、その効果がただちに発揮されずに、実体経済への影響が出た後、インフレ率と失業率に波及するには時間差がある。

 もっとも、インフレ率も失業率もともに、GDPギャップから半年程度のラグなので、インフレ率がまだ2%に達しないようであれば、金融緩和しても実害はあまりない。

 急激にインフレ率が高くなることを心配する向きもあるが、物価が上がるとしても1年以内にインフレ率5%ということはほとんど考えられない。5%のみならず、一桁インフレであっても、その社会的コストは大きいとはいえないので、今のような状況ではインフレを過度におそれる心配はないだろう。

 いずれにしても、内閣府や日銀が示しているGDPギャップは、完全雇用とインフレ目標達成の観点から見ると、“過大評価”の数字である。筆者の分析では、たとえGDPギャップがプラスになっても、そう簡単にはインフレ率は上昇しないし、インフレを過度に心配すべきでないことをデータが示している。

 これに対して、そうした過大な財政出動は財源の裏付けが必要であり、国債発行では財政再建に反するという、いつもの財務省の声が聞こえて来そうだ。

 だが、その心配が無用であることは、2月23日付け本コラム(「日本の財政再建は「統合政府」で見ればもう達成されている」)などで何度も繰り返して述べている。

 むしろ問題は、現在の国債市場において、国債の玉不足になっており、日本銀行の「異次元緩和」にも支障が生じている事態であることも付け加えておこう。そうした観点から、国債発行による財政出動も正当化できる。

 こうしたまともな政策を安倍政権が実施できるかどうか、内閣改造の真価が問われている。

(嘉悦大学教授 高橋洋一)

【私の論評】今国債を刷らずして、一体いつ刷るというのか? 

ブログ冒頭の記事で、高橋洋一氏は2つの計算方式で計算した結果日本の構造失業率の推計値は、同じく2.7%としています。

私は、過去の統計値からこのくらいではないかと思っています。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

日銀 大規模な金融緩和策 維持を決定―【私の論評】日銀は批判を恐れずなるべくはやく追加金融緩和を実行せよ(゚д゚)!


この記事は、2016年6月16日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとしして、以下にこの記事から、構造失業率に関する部分のみを引用します。

"

構造的失業率などについて以下に簡単に解説しておきます。

総務省では、失業を発生原因によって、「需要不足失業」、「構造的失業」、「摩擦的失業」の3つに分類しています。 
  • 需要不足失業―景気後退期に労働需要(雇用の受け皿)が減少することにより生じる失業 
  • 構造的失業―企業が求める人材と求職者の持っている特性(職業能力や年齢)などが異なることにより生じる失業 
  • 摩擦的失業―企業と求職者の互いの情報が不完全であるため、両者が相手を探すのに時間がかかることによる失業(一時的に発生する失業)
日銀は、構造失業率が3%台前半で、直近の完全失業率(4月時点で3・2%)から下がらないので、これ以上金融緩和の必要がないという考えが主流のようです。

過去の失業率をみてみると、以下のような状況です。

過去20年近くは、デフレなどの影響があったので、あまり参考にならないと思ういます。それより前の過去の失業率をみると、最低では2%程度のときもありました。過去の日本では、3%を超えると失業率が高くなったとみられていました。

このことを考えると、日本の構造失業率は3%を切る2.7%程度ではないかと考えられます。

であるとすれば、現在の完全失業率3.2%ですから、まだ失業率は下げられると考えます。だとすれば、さらに金融緩和をすべきでした。

しかし、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は、すでに実際の失業率が構造失業率に近い水準まで下がっているのに、なぜ賃金が上昇しないのか、疑問を持っていたようです。にもかかわらず、今回は追加金融緩和を見送ってしまいました。
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この長期のグラフをみても、日本の構造的失業率はどうみても2%台であることは間違いないです。

ただこの数値自体には私自身は、それほどこだわっていません。これは、政策判断するときのひとつの目安にしかすぎないものです。ただいずれにせよ日銀の3%台との見方は高すぎです。

実際には構造的失業と思われていた部分でも循環的要因に反応するところがあります。そのため金融政策で考えたときは、やはり期待インフレ率と実際のインフレ率を目安にしなくてはいけないです。2.7%が真の構造的失業の水準か否かはそれで判断できます。

それにしても、物価目標も未だ達成できないのですから、これはどう考えてみても、未だ失業率は、構造的失業率には達していないとみるべきです。日銀は、すぐにでもさらなる量的緩和を実施すべきです。

次に、国債についてですが、日本銀行は今年の3月24日、約8年ぶりとなる国債売り現先オペを実施しました。大規模な国債買い入れを背景に深刻化している民間金融機関の国債保有不足を受けたもので、レポ市場で国債の貸し手が特に少なくなる年度末に対応した。短期国債買い入れオペも取りやめ、期末の短期金利は急上昇しましたた。

午前9時30分の金融調節で日銀は国債売り現先オペ1兆円を通知。国債を売却して一定期間後に買い戻す同オペには2兆601億円の応札があり、1兆2億円が落札された。按分レートはマイナス0.11%。応札する金融機関からの銘柄指定がない売り現先オペの実施は2008年11月28日以来となりました。今回の対象期間は年度末をまたぐ3月27日から4月3日までの1週間物でした。

日銀の大規模な国債買い入れによる金融緩和が続く中、今後は国債需要が強まる四半期末ごとにレポ市場での需給逼迫(ひっぱく)が強まる可能性があります。日銀は短国の買い入れを減らして流通量を増やしていますが、それでも国債が足りなかったのです。

このような状況では、本来は国がこの状況に対応するため、国債を刷り増すべきでした。政府(財務省)が本来すべき仕事をしなかったため、日銀はこのようなことをせざるを得なくなったのです。

まさに、高橋洋一氏が語っているように、「現在の国債市場において、国債の玉不足になっており、日本銀行の「異次元緩和」にも支障が生じている事態である」のです。

このようなときは、当然のことながら、国債を刷り増す必要があります。こんなことを言うと、自民党内部のたとえば小泉進次郎のような若手議員ですら、「国債は、将来世代へのつけ」などという、奇妙奇天烈、摩訶不思議な反論が出るかもしれません。

しかし現実に市場に流通している国債が少なくこのままでは金融緩和にも支障が出るほどなのですから、当然のことながら、国債発行による財政出動は正当化されるどころか、いままさに実行しなければならないはずのものなのです。

今国債を刷らずして、一体いつ刷るというのか? と言いたいです。

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