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岡崎研究所
4月8日、米トランプ政権はイランの革命防衛隊を「テロ組織」に指定した。それに関するホワイトハウスの発表の概要は次の通り。
ソ連の軍事技術や核を継承すロシアだが、そのGDPは東京都を下回り
もはや米国と直接退治することはできないだろう。
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トランプ政権は、イランのグローバルなテロ活動に対抗すべく、イスラム革命防衛隊(IRGC)を 海外テロ組織に指定した。
政権は、イランの支援を受けた世界中のテロに向けてより広範な対処の一環として、この前例のない措置を執る。
政権のこの行動は、イランへの金融的圧力とイランの孤立化を高め、イランの体制がテロ活動に利用し得るリソースを奪うことになる。
この措置は、IRGCが世界中のテロに資金を与えるべくダミー企業を運営していることを、他国の政府、民間部門に知らしめることになる。
この措置は、米国が他国の政府組織を海外テロ組織に指定した初のケースである。指定は、イランの体制によるテロの利用がいかなる他国によるものとも根本的に異なるということを、強く示すことになる。
イランの体制は、テロを「外交手段」の中心的道具として用い、IRGCにグローバルなテロ活動を指揮させたり実行させたりしている。
IRGCは、テロ組織に資金、装備、訓練、兵站の支援を与えている。傘下のクッズ部隊を通じて、多くの国におけるテロ計画に関与している。
イランの体制は、世界でも第一のテロ支援国家であり、ヒズボラ、ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦などのテロ組織を支援するのに毎年10億ドル近くを費やしている。
参考:‘President Donald J. Trump Is Holding the Iranian Regime Accountable for Its Global Campaign of Terrorism’(White House, April 8, 2019)
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/president-donald-j-trump-holding-iranian-regime-accountable-global-campaign-terrorism/
今回のIRGCのテロ組織指定は、イラン核合意からの脱退をはじめとする、トランプ政権の対イラン強硬策の一環、またイスラエルの総選挙直前に発表していることを考えると、ネタニヤフ首相への支援が目的と思われる。しかし、IRGCをテロ組織に指定したことで何が達成できるのか、はっきりしない。上記ホワイトハウス発表を読んでも、よく分からない。
トランプ政権自身も認めている通り、他国の政府機関(IRGCはイランの政府機関)をテロ組織に指定するのは異例のことである。テロ組織指定制度は、国の組織全体を指定する趣旨で作られたものではない。IRGC傘下のクッズ部隊は既に2007年にテロ組織に指定されている。この指定制度をIRGCに適用すること自体大きな問題である。IRGCは正規軍であって、非正規軍ではない。イランは徴兵制であるから、IRGCには、徴兵された人が大勢いる。これを全体としてテロ組織に指定することは、イラン人であるからという理由でテロ指定するに等しい。それに、IRGCは参加希望者の多い軍種である。その一部司令官とか部隊とかを指定するのとは話が違う。
今回の指定には、イラン側が早速反発し、直ちに、米国をテロ支援国家、米中央軍(CENTCOM)をテロ集団とみなす、と発表した。米イラン対立は当然強まるであろうし、シーア派の民兵組織等に米軍への攻撃の「大義名分」を与えることにもなる。
エルサレムをイスラエルの首都と認めて大使館を移転し、ゴラン高原をイスラエルの領土と認めるといった、トランプ政権の一連のイスラエル寄りの行動は、イランに、パレスチナ人とアラブ人の唯一の擁護者であるとの姿勢をとることを可能にさせてしまっている。トランプ政権が肩入れしているネタニヤフがイスラエルの総選挙で勝利し続投が決まり、ネタニヤフの冒険主義も懸念される。
トランプ政権の中東における行動は、地域の混乱をもたらすとともに、その強硬な対イランのレトリックにも拘わらず、イランの地域における勢力伸長をかえって助けている。フィナンシャル・タイムズ紙のガードナーは、4月9日付けの記事‘Trump’s move on Iran’s Revolutionary Guard raises the temperature’で、「前例のないIRGCのテロ組織指定はイランに何の経済圧力もかけない。これはイランとの緊張を解決するためのもう一つの道を閉ざす。全てのドアが閉ざされ、外交が不可能になれば、戦争が本質的に不可避になる。」と指摘している。その通りであろう。
【私の論評】トランプ政権はイランと事を構える気は毛頭ない。最優先は中国との対決(゚д゚)!
トランプ大統領は8日の声明で「米国務省が主導するこの前例のない措置は、イランがテロ支援国家だというだけでなく、IRGCが国政の手段として積極的に資金調達し、テロを助長していることを認識してのことだ」と述べました。
トランプ大統領はさらに、今回の措置はイランに対する圧力の「範囲と規模を大幅に拡大」する狙いがあると付け加えました。
国務省によると、IRGCのテロ組織指定は今月15日に発効しました。
イラン強硬派のマイク・ポンペオ米国務長官とジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はいずれも今回の決定を支持しています。一方で、全ての米政府高官が支持したわけではありません。
ポンペオとボルトン |
ポンペオ国務長官は8日、記者団に対し、アメリカは今後もイランに対し「普通の国家のように振舞う」よう制裁と圧力を続けると述べ、アメリカの同盟国に同様の措置をとるよう求めました。
「イランの指導者たちは革命家ではない。国民にはより良いものを得る権利がある。指導者たちは日和見主義者だ」
国務長官はその後のツイートで、「我々はイラン国民が自由を取り戻すため支援しなければならない」と付け加えました。
ボルトン大統領補佐官は、IRGCのテロリスト指定は「正当」だとツイートしました。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長を含む国防総省の一部高官は、米軍の安全性について懸念を示したといいます。
米軍幹部は、今回の指定がイラン経済に大きな影響を与えず、中東に駐留する米軍への暴力を引き起こす可能性があると警告しました。米中央情報局(CIA)も反対していたと報じられています。
イラン国営のイラン・ニュースネットワーク(IRINN)によると、最高安全保障委員会(SNSC)は、ジャヴァド・ザリフ外相が対応を求める書簡をハッサン・ロウハニ大統領に提出した後、アメリカ中央軍(Centcom) をテロ組織に指定すると発表しました。
中央軍は国防総省の下部組織で、特にアフガニスタン、イラク、イラン、パキスタン、シリアなどの地域における米政府の安全保障上の利益を監督しています。
2015年のIRGC集会に出席したイランのハッサン・ロウハニ大統領(左) |
トランプ政権がIRGCのテロ組織への指定を検討していることが報じられた後、イランは対抗措置を取ると警告していました。
国営イラン通信(IRNA)によると、イランの国会議員290人のうち255人が署名した声明では「我々はIRGCに対するいかなる措置にも、対抗措置で応じるだろう」と強調しました。
一方、9日に総選挙を控えるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、アメリカの措置への支持を表明するツイートをしました。
国営イラン通信(IRNA)によると、イランの国会議員290人のうち255人が署名した声明では「我々はIRGCに対するいかなる措置にも、対抗措置で応じるだろう」と強調しました。
一方、9日に総選挙を控えるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、アメリカの措置への支持を表明するツイートをしました。
中国の習近平国家主席は今月20日、訪中したイランのラリジャニ国会議長と会談し、国際情勢にかかわらず、イランと親密な関係を築きたい意向に変わりはないことを伝えました。
ラリジャニ国会議長と会談した習近平 |
中国外務省が21日公表した文書によると、習主席は議長に対し、中国とイランは長年にわたり友好関係をはぐくみ、相互の信頼を築いてきたと発言。「国際社会や地域の情勢がどう変わろうと、イランと包括的かつ戦略的なパートナーシップを築くという中国の決意は変わらない」と述べました。
習主席はまた、中国とイランは戦略的な信頼関係をさらに深め、中核的な利益と主要な懸念について互いに支援し続けるべきとの考えを示しました。
さらに、中東地域を安定と発展に向かわせるため、国際社会と当事国は協力すべきと主張。「中国は地域の平和と安定の維持に向けてイランが建設的な役割を果たすのを支援するとともに、地域の問題において緊密に連絡を取り、協調する用意がある」と述べました。
ラリジャニ氏とともに、イランのザンギャネ石油相、ザリフ外相も中国を訪問。19日には外相会談が行われました。
中国はイランなど中東産の石油に大きく依存する一方、中東地域の紛争あるいは外交面で中国が役割を担うことはこれまでほとんどありませんでした。しかし、最近は特にアラブ諸国における存在感を強めようと動いています。
21日からはイランと長年にわたり中東の覇権争いを続けるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が中国を訪問します。
IRGCが中東地域の内外のあらゆる破壊行為に関与していると、このことに異議を唱える西側諸国の専門家はほとんどいないです。
しかし米国務省や国防総省の一部高官を含む大勢は、今回の措置について、ただ裏目に出て終わるだけではないかと懸念しているようです。
IRGCや関連組織が、イラクなどで勢力が脆弱(ぜいじゃく)な米軍やその他の標的に対して、何らかの行動を起こすことにつながる可能性があるのではないかと、専門家は心配しているのです。
トランプ政権はイランとの対立をひたすら激化したい意向で、今回の措置はその意思表示です。ただ、激化した対立はいつか、あからさまな軍事衝突に発展するのではないかという懸念もあります。
中東情勢というと、トランプ大統領による米軍のシリア電撃撤退発表は、米政府高官らも驚く突然の決定でした。その背景には、シリアをめぐって「大統領とエルドアン・トルコ大統領の思惑の一致」(ベイルート筋)という“裏取引”が浮かび上がってきました。この余波で、当時のマティス国防長官が辞任したのは記憶に新しいです。
トランプとしては、エルドアン大統領のトルコをアサド政権の拮抗勢力とみなし、トルコを支援することで、アサド政権を牽制する腹であるとみています。
そうして、これは中国との対峙に力を入れるためであると解釈しました。であれば、今回なぜ革命防衛隊を 海外テロ組織に指定したのでしょうか。
私は、これにより、トランプ政権はイランと厳しく対峙して、挙げ句の果てに本格的戦争にまでエスカレートさせる意図はないと思います。
これも表向きとは異なり、中国との対峙に専念するためのトランプ政権の布石の一つではないかと思います。
例外規定によって、イラクなどの諸国の当局者がIRGCと接触した場合に必ずしも米国の査証(ビザ)発給は拒否されないことになります。例外規定については、国務省の報道官がロイターの質問に答える形で説明しました。
IRGCはイランの精鋭部隊で国内の企業活動にも深く関わっています。例外規定によって、イランで事業を行う第三国の企業の幹部らやシリア北部、イラク、イエメンで活動する人道支援団体は米制裁の対象になることを恐れずに活動が継続できるようになります。
ただ、米政府は、米国が指定した外国のテロ組織(FTO)に「物質的な支援」を提供した外国政府、企業、NGOのいかなる個人にも制裁を科す権利を留保することを明確にしています。
米国務省の近東および南・中央アジア両局は、テロ組織指定の前に共同でポンペオ長官にメモを送り、その影響について懸念を表明しましたが、却下されたと2人の米当局者が匿名を条件に語っています。
議会筋によると、国防総省と国土安全保障省も反対していたのですが、決定を覆すには至りませんでした。
国務省の報道官はIRGCと接触した場合、同盟国はどのような影響を受けるのかとの質問に対し、「一般的に、IRGC当局者と対話するだけではテロ活動にはならない」と回答。
「最終目的は、他の諸国や民間団体にIRGCとの取引をやめさせることだ」と述べたましたが、標的とする国名や団体名は明らかにしませんでした。
このような措置をとるくらいですから、米国はイランと本格的に対峙して、戦争も辞さないということではないと考えられくます。
私としては、米国は中国との対峙を最優先にし、イランとの対峙を二の次にして中東情勢が米国に不利になるようなことがないように、革命防衛隊をテロ組織に認定することで、イランを牽制したのだと思います。
当面イランが不穏な動きを見せた場合、金融制裁などを強化し、それでもイランが不穏な動きを止めない場合は、国境を接するトルコへの支援を強化して、イランを牽制する腹であると思います。
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