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2020年8月21日金曜日

習近平も恐れ震える…米の経済制裁から始まる「中国崩壊」のシナリオ―【私の論評】中共の幹部は考え方を180度転換しなければ米国の制裁は続き、枕を高くして寝ることはできない(゚д゚)!




共産党幹部への「個人制裁」

米国のドナルド・トランプ政権が中国と香港の高官に対する制裁を連発している。空母2隻を動員した南シナ海での軍事演習や中国総領事館の閉鎖などと比べると、一見、地味で小粒な対抗手段のように見えるが、中国共産党には、実はこれが一番効くかもしれない。

まず、最近の動きを確認しよう。

第1弾は米国務省と財務省が7月9日、新疆ウイグル自治区での人権弾圧を理由に実施した制裁だった(https://www.state.gov/the-united-states-imposes-sanctions-and-visa-restrictions-in-response-to-the-ongoing-human-rights-violations-and-abuses-in-xinjiang/https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1055)。

グローバル・マグニツキー人権説明責任法に基づいて、中国共産党中央政治局委員であり、同自治区の党委員会書記でもある陳全国氏のほか、同自治区の現・元公安部ら計4人を対象に、米国内の資産を凍結し、米国企業との取引を禁止した。

続いて、7月31日には新疆ウイグル自治区の準軍事組織である新疆生産建設公団と、その幹部である彭家瑞氏と元幹部の孫金竜氏の2人を制裁した(https://www.state.gov/on-sanctioning-human-rights-abusers-in-xinjiang-china/https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1073)。トランプ政権は、公団がイスラム系少数民族の大量強制収容に直接関与した、とみている。

さらに、香港に国家安全維持法が施行されると8月7日、米財務省は香港の自治と自由、民主主義に対する弾圧を理由に、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官や香港警察トップら11人を制裁した(https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1088)。


トランプ大統領は7月中旬、中国との関係を極端に悪化させたくないという理由で一時、中国高官に対する制裁を見送る方向に傾いた、と報じられた。だが、以上を見れば、制裁続行は明らかだ。むしろ、今後も制裁は追加されていく可能性が高い。

こうした制裁は本人と中国に、どれほど打撃になるのか。

クレジットカードが使えない香港高官

米財務省には、制裁実務を監督する外国資産管理局(OFAC)という部局がある。制裁対象に指定された個人は「特別指定人物(SDN)」と呼ばれ、OFACの公開リストに掲げられる(https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20200807.aspx?src=ilaw)。

リストを見れば、各国政府はもちろん世界中の企業や個人、団体は、だれが米政府の制裁対象になっているか、ひと目で分かる仕組みだ。企業や個人は、自分が制裁されないように、SDNになった人物とは取引を中止せざるをえない。実際に、クレジットカード会社は林鄭月娥長官のカードを使用停止にした。


その点は、彼女自身が8月18日の記者会見で「個人的なことで多少の不便はあるが、気にするものではまったくない。たとえば、クレジットカードの利用が妨げられる」と認めた。この発言を受けて、米ブルームバーグはVISAとマスターカードにコメントを求めたが、返事はなかったという(https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-08-18/hong-kong-s-leader-has-credit-card-trouble-after-u-s-sanctions)。

クレジットカードの使用停止くらいなら、大した痛手ではないかも知れないが、次に大きな制約は、たとえば住宅ローンだ。SDNに指定された人物と銀行が住宅ローン契約を結んでいると、その銀行が制裁対象になる。それだけでなく、ローンごと住宅も没収されかねない。ローンが凍結されたら、銀行は担保の住宅を差し押さえざるをえないからだ。

では、どうするか。香港紙、サウスチャイナ・モーニング・ポストは8月18日付の記事で「制裁された香港警察のトップは、制裁の発動直前に別の中国系銀行にローンを乗り換えた」と報じている(https://www.scmp.com/business/banking-finance/article/3097848/hong-kongs-police-chief-shifted-his-mortgage-bank-china)。

同紙によれば、彼は2017年3月、ローンで香港のマンションを購入したが、トランプ政権が制裁を発表する3日前にローンを別の銀行に移し替えた、という。事前に制裁情報が漏れていたか、危険を察知したのかもしれない。

ちなみに、このマンションは広さ41平方メートルで80万6000米国ドル(約8500万円)という。警察トップが住むマンションにしては狭すぎる、と思われるだろうが、これは居住用でなく、投資用だった可能性が高い。記事は、彼が過去20年間に不動産取引で数百万香港ドルを稼いでいた、と報じている。

習近平政権は「内側から」崩壊する

話は、制裁される個人だけにとどまらない。

彼のローンはもともとHSBCが提供していたが、中国銀行(香港)に移された。HSBCは国家安全維持法を導入した香港当局を支持する姿勢を表明したが、一方で、米政府にも逆らえない。彼との取引を続けていたら、HSBCは米国に制裁されてしまう。そうなったら事実上、国際金融界から追放されたも同然になる。

中国銀行は中国政府の機関のようなものなので、米政府の意向を無視できるが、HSBCはそうもいかず、中国と米国の間で股割き状態になってしまった。同じようなケースはこれから、頻発するだろう。金融機関だけでなくホテルや航空会社など、高官が利用しそうな企業は、いずれも「中国をとるか、米国をとるか」二者択一を迫られるのだ。

クレジットカードや住宅ローンより強烈なのは、もちろん米国内にある資産の凍結、それから米国への入国制限である。中国共産党幹部の多くが米国に不動産などの資産を保有しているのは、よく知られている。これらの資産が凍結され、事実上、米国に没収されたら、彼らは怒り狂うに決まっている。

もともと米国の不動産を入手したのは、引退後、あるいは逃亡した後、米国で暮らすためだ。そのうえ、入国まで制限されたら、彼らの人生設計は完全に狂ってしまう。しかも、である。本人だけでなく、多くの場合、制裁は家族にも及ぶ。つまり、留学の形で先に逃した子弟や愛人の生活までが破綻しかねない。

トランプ政権は高官制裁を通じて、本人はもとより、本人と家族の日常生活に関わる、あらゆる「米国コネクション」を断ち切ってしまおうとしているのだ。

以上から、米国の制裁がいかに中国要人を痛めつけるか、分かるだろう。だが、米国の真の狙いは制裁そのものではない可能性もある。制裁によって、中国共産党内部の対立と分断を促して、習近平体制の基盤を揺るがそうとしている。

制裁された個人が「オレがこんな目に遭うのは、習近平のせいだ」と不満を募らせれば、政権の求心力が失われていく。真綿で首を絞めるように、ジワジワと周辺から締め上げて、最後にトップを倒す。トランプ政権はまさに、そんな作戦を展開しているように見える。1発の銃弾も使わずに、自己崩壊を狙っているのだ。

中共の浸透工作が日本にも…

さて、最後に私の身近で起きた中国共産党の浸透工作を紹介しておこう。中共が世界にばらまいている英字紙、チャイナ・デイリーが私の自宅に配られてきたのだ。

最初は購読している日本の新聞配達店が読者サービスでポストに入れたのか、と思った。そこで、配達店に聞いてみると「そんな新聞は配っていない」という。ご近所にも配られている形跡があり「これは誰かがポストに入れたのだ」と分かった。中共の工作員が1軒1軒、配って歩いていたのである。

英字紙だから、誰もが読むわけでもないだろうが、ご近所は外国人も多い。ちらっと目を通してもらうだけでも効果はある、と踏んでいるのだろう。

私は、見覚えのある著名エコノミストの写真が付いた解説記事に目が止まった。モルガン・スタンレー・アジアの元議長でイェール大学教授のステファン・ローチ氏だ。「エコノミストは『ギャング・オフ・フォー』を非難する」とタイトルにある。

ローチ氏は記事で最近、相次いで中国批判の演説をしたマイク・ポンペオ国務長官らトランプ政権の要人4人をやり玉に挙げて「彼らは米国経済のお粗末さから目を逸らすために、中国を攻撃しているのだ」と批判していた(ネット版は、https://epaper.chinadaily.com.cn/a/202008/10/WS5f309d28a3107831ec754257.html)。

これまで幾多の経済危機に際して、ローチ氏は鋭い見解を発信しつづけてきた。そのローチ氏がトランプ政権を厳しく批判し、中国の肩を持つとは、ファンの1人としてやや意外ではあった。
だが、考えてみれば「経済合理性に至上の価値を見い出すエコノミストとすれば、イデオロギー闘争の次元に行き着いた米中冷戦など、とんでもないと思うのだろう」と合点もいった。これは日本のエコノミストも同じである。
というわけで、タダで配られてきたチャイナ・デイリーはすぐゴミ箱行きにならず、こうしてコラムのネタにもなっている。暑い最中、誠にご苦労さまだが、ぜひ工作員の方は引き続き、私の自宅に配っていただけたら、と思う。
ただし、私はエコノミストではなく、ひたすら経済合理性重視でもない。中国批判の矛先が鈍るのを期待したら、がっかりするだろう。
8月18日に配信予定だった「長谷川幸洋と高橋洋一の『NEWSチャンネル』」は、政策工房社長の原英史さんをゲストにお招きし「コロナ下の規制改革」をテーマに議論する予定でしたが、高橋さんが軽い熱中症にかかったため、来週に延期となりました。高橋さんはすでに回復し、元気です。8月11日公開版は、大阪大学大学院の森下竜一寄附講座教授と学究社社長で元一橋大学客員教授の河端真一氏をゲストにお招きし、新型コロナワクチン開発の現状などについて徹底議論しています。ぜひ、ご覧ください。
【私の論評】中共の幹部は考え方を180度転換しなければ米国の制裁は続き、枕を高くして寝ることはできない(゚д゚)!

香港関連の制裁者名簿を以下に掲載します。
林鄭月娥(キャリー・ラム:Carrie Lam)香港特別行政区行政長官
陳國基(エリック・チャン:Eric Chan)香港特別行政区の国家安全保障委員会の事務局長 
鄭若驊(テレサ・チェン:Teresa Cheng)香港司法長官
李家超(ジョン・リー:John Lee Ka-chiu)香港特別行政区安全保障担当長官
鄧炳強(クリス・タン:Chris Tang)香港警察(HKPF)署長
盧偉聰(ステファン・ロー:Stephen Lo)元HKPF委員
曽国衛(エリック・ツァン:Erick Tsang)香港特別行政区憲法・本土問題担当秘書
駱恵寧(ルオ・フーニン:Luo Huining)香港連絡弁公室主任
夏宝龍(シア・バオロン:Xia Baolong)国務院香港・マカオ事務局長
張暁明(チャン・シャオミン:Zhang Xiaoming)国務院香港・マカオ事務局副局長
鄭雁雄(ツェン・ヤンシォンZheng Yanxiong)国家安全維持公署署長
⇒参照・引用元:『アメリカ合衆国 財務省』公式サイト「Treasury Sanctions Individuals for Undermining Hong Kong’s Autonomy(財務省、香港の自治を阻害したと個人に制裁を科す)」(原文・英語)

米国の制裁は過酷で、合衆国の金融機関の手の届く本人の資産、口座は全て凍結。新しく口座を作ることもできません。これは合衆国の金融機関だけではなく、イギリスの『HSBC』、さらには中国の金融機関も協力を始めています。


なぜかといえば、合衆国の制裁に協力しない金融機関もまた同様に制裁を受けるからです。合衆国に持つ口座を凍結されたりしたら、その金融機関の死活問題です。つまり、この11人、およびその家族は中国国内の金融機関においてもお金の移動などが制限される可能性が高いです。

合衆国の制裁について、「香港連絡弁公室」トップの駱恵寧主任は「海外に資産を持っていないので制裁は無意味」とうそぶいたそうですが、自分の家族にも累が及び、中国内の金融機関も制裁に協力するとしたらどうなることでしょうか。それでもうそぶいていられるでしょうか。

これは、日本で普通に暮らしている人や、中国人でもあまり資産を持たない一般人民には、想像できないところがあるでしょう。

多くの一般的な日本人は、貯蓄など円で行っています。わざわざドルに替える人は、特殊です。日本の円は国内では、無論のこと、海外でも信用力が高いので、その時々で為替の変動はあるものの、多くの日本人はそのようなことを気にしません。日本円で貯蓄するのが普通です。

日本国債は、ほとんどが日本の機関投資家が購入し、その金利はゼロに近いものや、マイナスになっているものもあるくらいです。この状況では、財務省やその走狗たちが、いくら財政破綻するなどといっても、多くの機関投資家は国債を購入します。

なぜでしょうか。円は非常に信用力があるので、国債を持っている限りにおいては、為替のリスクヘッジなど考慮する必要がないからです。わざわざドルにかえたり、米国債を大量に購入したりすれば、常に為替リスクがあるからです。日本円による貯蓄や、国債を所有することはこの為替リスクをヘッジ(避ける)ことになるがらです。

このような通貨を持つ日本と、中国の人民元とではまるで違います。人民元もある程度の信用がありますが、それはあくまで中国が所有するドルと、米国国債が信用の裏付けになっています。

仮に、中国政府のドル保有高や、米国債保有が少なくなれば、人民元の価値はかなり落ちます。

それと、貿易はほとんどの場合ドルで決済されています。人民元ではほとんど行われていません。中国政府のドル保有残高がなくなれば、ほとんどの貿易ができなくなります。

そうして、中国では、政府高官や富裕層は、ほとんどどの場合、ドルベースで蓄財しています。なぜなら、人民元は紙切れになる恐れがあるのですが、ドルはそうではないと信じているからです。

ここで、注目すべきは、米国はドル取引のほとんど全てに関する情報を把握できます。ということは、ドルベースのお金の流れは、ほとんど把握しているということです。

無論米国は、中国高官のドルベースでの預金や、金の流れなどほとんどを完璧に把握しています。

米国は、まずは香港関連の、高官などから、ドルベース資産の凍結や、米国への渡航禁止などの措置をはじめましたが、これは、どんどん対象が広がっていくのは目に見えています。

これに対して中国は米国に対して報復はできません。なぜなら、米国人で中国に大量を蓄財をしている人などいません。さらには、中国は米国高官の金の流れや信用情報など全く把握できていません。できることといえば、中国への渡航を禁止することくらですが、これはあまり意味を持ちません。

中国高官が、米国に入国できないことに比較すれば、米国高官が中国に入国できないことは、それほど深刻な問題ではありません。一生入国できなくても、ほとんど困ることはないでしょう。

「香港国家安全維持法」が施行された現状では、米国高官が中国に足を踏み入れれば、逮捕される可能性すらあるので、誰も行きたがらないでしょう。

さらに、米政府は米国在留中の中国共産党員とその家族のビザを取り消すことができ、そのうえ該当者の国外追放へと続けていく可能性もあります。こうなると、中共幹部の家族が米国から国外追放になり、さらに、資産も凍結ということで、二重苦、三重苦になるのは目に見えています。

私は米国がマグ二ツキー法を施行し始めた頃から、中共もこのような目にあうことを十分に予想できました。

米国には、まだまだ奥の手があります。究極の制裁は、米ドルと人民元の交換を禁止することと、中国の米国債を無効化することです。ここまで、実施された場合、中国経済は間違いなく、毛沢東時代に戻ることになるでしょう。贅沢に慣れ親しんだ、中共幹部にはこの状況は耐え難いものに違いありません。

中共もこれを十分に予想できたと思います。にもかかわらず、中共が新たな世界秩序をつくることを、わざわざ2018年時点で公表したのは、本当に愚かとしか言いようがありません。

先日もこのブログに書いたばかりですが、まさに中共高官は選択を迫られています。その記事より、以下に引用します。
中国共産党幹部は、厳しい選択を迫られているようです。習近平に従い続け、いずれ米国などにある個人資産を凍結されてしまい、家族がいる米国などに入国できなるどころか家族が米国から追い出されることを許容するのか、さらには米国による対中国冷戦により、経済が落ち込むだけではなく、あらゆる面で生活そのものが制約されるようになることを許容し続けるのか。
あるいは、習近平を失脚に追い込み、米国に親和的な体制に戻すのか?ただ一ついえることがあります。米国としては、まず習近平を失脚させることがすべての前提条件のようですが、その後に中共が根本的に体制を改めなければ、冷戦を継続するでしょう。
中国が、ドルの裏付けなしに、人民元を大量に刷りまくることもできますが、そのようなときに予想されるのは、深刻なインフレです。とてつもない、インフレが生じ中国国内は混乱の巷となることでしょう。

人民元を数える中国の銀行員
そのようなことを避けるには、二つに一つしかありません。一つは、中国を中心とした人民元を基軸通貨とする経済圏をつくり、細々と生きていく道です。この場合、米国や日本などの他の先進国との貿易はほとんどできず、日本から先端的な工作機械などを輸入できなくなり、中国はハイテク製品などは製造できなくなります。「中国製造2025」は絵に描いた餅にすぐなくなります。

二つ目は、まず習近平を失脚させ、中国の国内体制を変える道です。ただし、米国は中国の過去の裏切りには、ほとほと愛想がつきているでしょうから、習近平が失脚したくらいでは、制裁を継続することでしょう。

では、どうすれば、米国が制裁を解除できるかといえば、まずは中国共産党一党独裁をやめ、他の政党もつくり、全体主義をやめることです。

さらに、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を先進国並みに実施して、経済社会活動を自由にすることです。これをもって、多くの中間層を輩出して、自由に社会経済活動を実施させることです。

ここまで、実行するとおそらく、中国共産党は、統治の正当性を失い、崩壊することでしょう。

無論一足飛びにそれはできないでしょうが、それにしてもこの方向性で着実に前進していることを米国に示すことができなければ、米国は制裁を継続することでしょう。

ここで、大陸中国におおいに参考になるのは、台湾の民主化でしょう。とにかく、中共の幹部は考え方を180度転換しないかぎり、米国の制裁はおさまらず、いつまでも枕を高くして寝ることはできないでしょう。

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2020年8月13日木曜日

「沖縄独立」に中国暗躍! 外交、偽情報、投資で工作…米有力シンクタンク“衝撃”報告書の中身―【私の論評】国民の支持を失い、米国からも否定されれば、安倍政権が窮地に!親中派議員と官僚を成敗せよ(゚д゚)!

「沖縄独立」に中国暗躍! 外交、偽情報、投資で工作…米有力シンクタンク“衝撃”報告書の中身

「日本における中国の影響」の表紙

 沖縄県・尖閣諸島周辺海域に、中国の休漁期間明けの来週16日以降、中国漁船が大量に押し寄せ、日本領海を侵犯する危険性が指摘されている。日本政府は先月、外交ルートを通じて「日中関係は壊れる」と警告したが、中国政府側は「(尖閣は)固有の領土」と反発したという。こうしたなか、米国の有力シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」が発表した調査報告書「日本における中国の影響」にある「中国の沖縄工作」が注目されている。新型コロナウイルスの大流行を引き起こしながら、覇権拡大を強める中国の浸透工作とは。ジャーナリストで、日本沖縄政策研究フォーラム理事長の仲村覚氏が緊急寄稿した。


 注目の報告書は、2018年から2年間かけて、約40人の専門家にインタビューするなどしてまとめられた。約50ページの中では、「中国の沖縄工作」にも多くの文字数を割いている。

 日本の安全保障上の重要懸念の1つとして、沖縄の人々が日本政府や米国への不満を理由に「独立を宣言」する可能性を指摘している。中国の最重要ターゲットも、米軍基地が多い沖縄であり、「外交」や「偽情報」「投資」を通じて、この目的(=沖縄独立)を後押ししているという。

 報告書では、「日本の公安調査庁は、2015年と17年の年次報告(=『内外情勢の回顧と展望』)で、中国の影響力により沖縄の世論を分断する可能性の問題を取り上げた」と続く。

 この公安調査庁の『内外情勢の回顧と展望』には、《「琉球帰属未定論」を提起し、沖縄での世論形成を図る中国》というコラムがあり、次のように報告されている。

 《既に、中国国内では、「琉球帰属未定論」に関心を持つ大学やシンクタンクが中心となって、「琉球独立」を標ぼうする我が国の団体関係者などとの学術交流を進め、関係を深めている。こうした交流の背後には、沖縄で、中国に有利な世論を形成し、日本国内の分断を図る戦略的な狙いが潜んでいるものとみられ、今後の沖縄に対する中国の動向には注意を要する》

 CSISの報告書は、慶應義塾大学教授の言葉を借りて、「中国は日本に影響を与えるために間接的な方法を使用している。資金調達を通じて沖縄の動きに影響を与え、沖縄の新聞に影響を与えて沖縄の独立を推進し、そこに米軍を排除するなどの隠れたルートがある」とまとめている。

 現在、日本の対中国の安全保障課題としては、沖縄県・尖閣諸島周辺海域に、中国海警局の武装公船などが連日のように侵入していることが報じられている。だが、「中国主導の琉球独立工作」「沖縄と日本政府の分断工作」も真剣に警戒せざるを得ない。

 中国については16日の休漁期間終了後、尖閣諸島領海に多数の中国漁船を送り込んでくる可能性が指摘されている。海上保安庁と沖縄県警、自衛隊は、尖閣諸島で起きるさまざまな事態を想定して、対処方法を検討し、訓練を続けているとみられる。

 だが、中国による尖閣・沖縄侵略に対峙(たいじ)する「図上演習」は、これだけでは不十分といえる。

玉城デニー知事

 例えば、中国が日本政府を飛び越して、沖縄県と直接、「尖閣諸島と東シナ海の共同開発」を提案し、玉城デニー知事がこれを受け入れた場合、どうなるだろうか?

 常識的には、外交権は日本政府に属する。沖縄県には外交権がないから不可能だ。

 しかし、国連では、沖縄の人々を先住民族として、その権利を保護すべきとの勧告が2008年以来、5回も出ている。琉球独立派は、国連人権理事会などに「琉球の自己決定権がないがしろにされた」「中国と沖縄の外交を認めよ」と訴えかねない。国連も「琉球・沖縄の権利を保護せよ」と、日本政府に勧告を出す危険性がある。

 万が一、日本政府が妥協して、沖縄が中国と独自外交を展開することになった場合、その先がどうなるかは語るまでもないだろう。中国の思惑通りではないか。

 沖縄のマスコミや政治を見る限り、中国の工作活動の影響が広がっているとしか思えない。CSISの報告書が危惧するように、中国は尖閣関連の混乱に乗じて、あらゆる手を使って沖縄を日米から引き剥がしに動いてくるだろう。

 ぜひとも、尖閣有事の図上演習には、沖縄の政治や経済、マスコミ、国連の各組織の動向も、「要素・要因」として組み込んでほしい。それをしっかり米軍と共有して対処することこそ、「中国の野望」を打ち下す最善の策といえる。

 ■仲村覚(なかむら・さとる) ジャーナリスト、日本沖縄政策研究フォーラム理事長。1964年、那覇市生まれ。79年 陸上自衛隊少年工科学校(横須賀)入校、卒業後、陸自航空部隊に配属。91年に退官。企業勤務を経て、2004年にITソリューション会社を設立するとともに、沖縄の基地問題や尖閣問題、防衛問題の取材・執筆活動を続けている。著書に『これだけは知っておきたい沖縄の真実』(明成社)、『沖縄はいつから日本なのか』(ハート出版)など。

【私の論評】国民の支持を失い、米国からも否定されれば、安倍政権が窮地に!親中派議員と官僚を成敗せよ(゚д゚)!

この報告書は、米国で作成されたものであり、日本国内で作成されたものよりは、第三者的な立場から書かれ客観的な内容になっていると思います。まだ読まれていない方は、ぜひとも原点にあたるべきと思います。以下にこの報告書の入手先のリンクを掲載させていただきます。


上の記事では、紙幅の都合があるためか、中国の脅威のみが掲載されていますが、報告書にはこれに対する日本の防護壁についても記載されています。
日本は、中国に対して世界で最もネガティブな考えを持つ国として際立っている。2019年ピュー・リサーチの世論調査によると、日本人の中国に対する否定的な見方は、調査対象となった34カ国の中で最も高く、85%の否定的な見方を示した。 
歴史的な背景からも、長らく中国の権力を警戒してきた日本は、西洋諸国のような競争力ある民主主義国に比べて、中国の浸透工作が効果を出していない。日本は超党派的な中国への警戒心と中国の歴史や文化への親近感から、今日の共産党政権による悪質な活動に危機感を持っている。 
自民党よりもずっと親中とされる民主党政権でさえ、尖閣諸島の領有権では強硬姿勢を見せている。
中国が日本に影響を与えることができないのは、特に2000年代に領土問題が表面化して以来、中国の自称『平和的』な台頭に対する懐疑的な見方を含む、ネガティブな世論によるものである。これは、800万人もの中国人観光客が来て経済効果をもたらしているにも関わらず、好転しなかったことからも伺える。
この厚い壁があるからこそ、中国の浸透工作は日本ではなかなか成功しない部分もあるようです。

       国道246号線と山手通りがぶつかる交差点付近に建造された、
       首都高速道路の大橋ジャンクション「目黒天空庭園」の大壁

一方心配なこともあります。中国は日中関係の融和的な関係構築のために、政治家や大手企業幹部、退役将校などを招いた日中フォーラム「東京・北京フォーラム」を利用していると明かしています。

CSISの報告は、中国との結びつきや思想的背景から、日本の仏教団体である創価学会とその関連政党・公明党が、彼らの提唱する平和主義的な思想から、中国に同調的であると指摘する。

日中関係の回復と改善に向けて、公明党の竹入善勝党首は1971年6月に訪中しました。公表された記録によれば、竹入氏は周恩来首相との会談で、中国共産党側の意向を汲み取り、日中国交正常化の共同声明に反映させました。

メモによれば、声明には日米安保条約や日華(日蒋)条項に触れないと話していました。また、会談では、70年代は日中ともに尖閣諸島領有権をめぐる話題は重視していませんでした。さらに、中国は、日本に戦争賠償を求めておらず、戦後対応には漠然ではあるものの満足していたといいます。

公明党のウェブサイトによれば、1964年の党創立以来、「日中関係の正常化の推進」が優先事項だと主張しています。報告書のCSISの関係者インタビューによると、中国共産党は、創価学会を日本の憲法9条維持のため、政権与党に影響を与えるための「味方」とみていますが、宗教団体であることから距離を置いているといいます。

2018 年9月、公明党の山口那津男現党首は、周恩来氏の母校である天津の南開大学を訪問しました。同月、中国共産党が後援する中国人民対外友好協会は、池田氏の中日関係への貢献を評価して表彰しまし。2016年8月、南シナを巡って日中関係が悪化した際には、中国国営テレビCCTVの子会社ケーブルテレビ番組で、周恩来と池田大作の友好関係についてのドキュメンタリーを放映しました。

思想的に対中融和を促す人物として、CSISの報告は鳩山由紀夫氏を名指しています。贈収賄の記録はないにもかかわらず、鳩山氏は、日米同盟に疑問を投げかけたり、中国主導のアジア国際開発銀行(AIIB)の国際諮問委員会に参加するなどして一帯一路の日本参加を促しています。

いっぽう、CSIS研究員でジョージタウン大学のマイク・グリーン氏は、インタビューに対して、鳩山氏が2009年首相在任中に提案した「東アジア共同体」設立は、中国の情報機関が鳩山氏を通じた対日影響工作だったが、日本の情報機関がその試みを阻止したと語っています。

以上のようなことは、心配な事柄ではあるのですが、ほぼ日本国内では、しかし一番心配なのは、報告書では「安倍晋三首相がコロナウイルス対策で当初、中国に遠慮したのは中国共産党の最も効果的な対日影響力行使の結果かもしれない」としていることです。

報告書では、「日本に影響を及ぼす中国の戦術」という章で今年1月からのコロナウイルスの中国から日本への伝染を取りあげています。

その章では「中国のコロナウイルス利用の試み」という項目で中国当局がコロナウイルス感染を利用して日本側での中国への反応を融和的かつ友好的にしようと努めた実例として鳩山由紀夫元首相が南京の虐殺記念館にマスク1千枚を贈ったことを人民日報などが大々的に報じ、「日中友好」を改めて強調したことが記されています。

そのうえで同報告書はその時期の日本側の対応として以下の諸点を述べていました
・日本政府のコロナウイルスへの初期の対応は控え目だった。その原因は中国に対する畏敬の念だと思われた。日本政府が中国の武漢のある湖北省からの来訪者の入国の規制を始めたのは2020年2月1日だった。 
・その時点ではアメリカ政府は中国からのすべての外国人来訪者の入国を禁じていた。しかし日本には湖北省以外の中国全土からの直行便多数が平常のまま旅客を満載して到着していた。 
・安倍晋三首相はこの危機に対してこの時点では前面に出ず、厚生労働大臣にリーダーシップを委ねるという姿勢だった。
同報告書は以上のような背景を述べたうえで、安倍首相自身の動きについて次のように述べていました。
・安倍首相は4月に予定されていた中国の習近平国家主席への日本への国賓としての来訪計画を前にして中国に不快感を与えることを避けたため、コロナ対策の前面に出ず、中国からの日本入国者の停止の措置をとらなかったといわれる。 
・この解釈が正しければ、この安倍首相の対応は中国共産党の日本に対する影響力行使活動でも近年では最大の効果をあげた結果の一つとなるかもしれない。
同報告書はその「中国の対日影響力行使」の実態として以下のように説明していました。
・日本の時事通信は2月19日の報道で「日本政府関係者によると、中国政府は日本側に『習近平国家主席の国賓を控えて、コロナウイルス感染を大ごとにしないでほしい』と要望してきた」と伝えた。この中国の要望のための日本側の遠慮が日本のコロナウイルスに対する対応を遅すぎるものにしたのだ。
同報告書は以上のような記述を続け、中国側からの習近平主席国賓来訪に関する要請がまさに中国の対日影響力行使の実例であり、安倍首相がその点に配慮し入国者の規制を先延ばしにしたことはその影響力行使工作の「近年では最大の効果をあげた」実例だとの見解を明示したということです

同報告書が引用した時事通信の記事は「中国側からの『大ごとにしないでほしい』という要諦が日本のウイルス対応が後手に回った要因となった」とか「首相側近は『1月時点で中国人すべての入国を止めるしかなかったが、もう遅い』と頭を抱えた」とも報道していました。
習近平

このように、報告書では習近平国賓招聘を重んじたためにコロナの初期対応を誤ったのではないかという点を指摘していることが注目されます。

このブログでは、以前にも掲載させていただいたように、安倍政権の政策に関しては、是々非々でみており、安倍政権のこの路線を批判しましたが、これは米国にとっても好ましいことではないことを示しています。

日本の政府関係者は、この事実を真剣に受け止めるべきです。今のまま日本の政界内特に与党内の親中派を野放しにしておけば、いずれ親中派の与党議員の中にも米国から直接、米国内の個人資産の凍結や、米国内への渡航禁止の措置が取られることになるかもしれません。

いや、それどころか、親中派与党大物議員におもねる親中派企業も制裁の対象となるかもしれません。

安倍政権としては、親中派の議員を党内政治や調整のために無下にできない部分はあるとは思いますが、それにしても今日の時局をわきまえれば、党内の親中派は、排除するか、排除しないまでも、大きな声をださせないようにするべきです。

先にも掲載したとおり、"日本人の中国に対する否定的な見方は、調査対象となった34カ国の中で最も高く、85%の否定的な見方を示し"ていますし、コロナ後には、これが好転するわけもなく、親中派の議員がいまのまま、親中的な行動すれば、安倍政権は多くの日本人から支持を失うことにもなりかねないです。

国民の支持を失い、米国からも否定されれば、安倍政権が窮地に至るのは当然の成り行きです。まさに、安倍総理にとっては正念場です。

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2020年7月23日木曜日

米、対中制裁リストに11社追加。ヒューストン中国領事館閉鎖命令— 【私の論評】米中はトゥギディディスの罠に嵌って総力戦をすることはないが、局地戦あり得る!(◎_◎;)

米、対中制裁リストに11社追加。ヒューストン中国領事館閉鎖命令 宮崎正弘氏のメルマガ(7月23日1:43配信)

     中国総領事館の敷地内で、文書などが焼却される様子も見られ、
     現地の消防隊も出動するなど総領事館の周囲は騒然とした
米国商務省のブラックリスト(ELリスト)に中国の11社を追加
かつらの「和田浩林」から中国科学院傘下の「北京基因組研究所」まで
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 7月20日、米国商務省は「ウイグル少数民族の弾圧に使用された」監視カメラ製造あるいは、弾圧されて強制収容所内で作られた製品を製造販売した容疑で、11の中国企業をブラックリストに加えた。筆頭は「和田浩林髪飾品」。ウィグル強制収容所でウィグル族に作業させた製品としてボストン税関で13トンのカツラが押収された。

 またエスケル集団の「エスケル繊維」はYシャツやマスクの製造で知られ、グループ全体で5・7万人の従業員がいる。エスケルはラルフ・ローレン、ヒューゴ・ボスなどのアパレル、ポロシャツなどのOEM生産で急成長してきた。

 さきにあげられていたのはファーウェイ、ハイクビジョン、センスタイム、ダーファー、メグビーなどだが、ウィグル弾圧の監視カメラなどが中心だった。

新しいリストに新たに加わったのは、このほかに「KTK集団(今創集団)」、同社は鉄道、線路設備一連の製品、また「湯園技術」(音訳。アルミ製品)、そして「南昌Oフィルム」は、アップル、アマゾン、マイクロソフトへも部品を供給している企業だ。
 
 驚きは中国科学院傘下の「北京基因組研究所」(国家生物信息中心)までがリスト入りしていることで、理由をマルコルビオ上院議員は「この研究所は中国共産党直属である」とした。

 同日、トランプ政権はテキサス州ヒューストンのある中国領事館の閉鎖を命じた。外交的に前代未聞の措置、まるで戦争前夜の様相を呈してきた。

【私の論評】米中はトゥギディディスの罠に嵌って総力戦をすることはないが、局地戦あり得る!(◎_◎;)

中国は眠らせておけ。目を覚ましたら、世界を震撼させるから・・・・・。

ナポレオンがそう警告したのは、200年前のことです。そして今、中国は目覚め、世界を揺るがし始めているようです。

新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、新旧二国間に危険な緊張が生じます。現代の米中の間にも、同じような緊張が存在するようです。それぞれが困難かつ痛みを伴う行動を起こさなければ、両国の衝突、すなわち戦争は避けられないかもしれません
猛烈な勢いで成長を遂げてきた中国は、米国の圧倒的優位に挑戦状を突きつけています。このままでは米中両国は、古代ギリシャの歴史家トゥキディデスが指摘した致命的な罠に陥る恐れがある。2500年前のペロポネソス戦争を記録したトゥキディデスは、「アテネの台頭と、それによってスパルタが抱いた不安が、戦争を不可避にした」と書いています。
過去500年の歴史では、新興国が覇権国の地位を脅かした事例が多数あります。よく知られるのは、100年前に工業化して力をつけたドイツが、当時の国際秩序の頂点にいたイギリスの地位を脅かした事例でしょう。
その対立は、第一次世界大戦という最悪の結果を招きました。このように戦争に行き着いた事例は多く、戦争を回避したのはわずかです。このように、戦争が不可避な状態まで従来の覇権国家と、新興の国家がぶつかり合う現象を米国の政治学者グレアム・アリソンは、「トゥキディデスの罠」と命名しました。

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第二次世界大戦後、米国主導でルールに基づく国際秩序が構築された結果、70年にわたり大国間で戦争のない時代が続きました。現代人のほとんどは、戦争がない状態が普通だと思っています。
ところが、歴史家に言わせれば、これは史上まれにみる「長い平和」の時代です。そして今、中国はその国際秩序を覆し、現代人が当たり前のものとして享受してきた平和を、当たり前でないものにしようとしています。
2015年の米中首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席はトゥキディデスの罠についてじっくり話し会いました。オバマは、中国の台頭が構造的ストレスを生み出してきたが、「両国は意見の不一致を管理できる」と強調しました。また両者の間で「大国が戦略的判断ミスを繰り返せば、みずからこの罠にはまることになる、と確認した」と習は明らかにしています。

習近平とオバマ
そのとおりだと私も、思いたいです。米中戦争は今ならまだぎりぎり回避できるかもしれません。
トゥキディデスも、アテネとスパルタの戦争も不可避ではなかった、と言うでしょう。「トゥキディデスの罠」は、運命論でも悲観論でもありません。メディアや政治家のレトリックにまどわされず、米中間に巨大な構造的ストレスが存在することを認め、平和的な

関係構築に努めなければならない、という警鐘だと思います。

迫りくる米中両国の衝突は、戦争に発展するのか。トランプと習、あるいはその後継者たちは、アテネとスパルタ、あるいはイギリスとドイツの指導者と同じ悲劇的な道をたどるのでしょうか。それとも100年前の英国と米国、あるいは冷戦時代の米国とソ連のように、戦争を回避する方法を見つけるのでしょうか。もちろん、その答えは誰にも分からないです。しかし、トゥキディデスが明らかにした構造的ストレスが、現状でもかなり大きくなっているのは間違いないです。
ブログ冒頭の、宮崎正弘氏のメルマガを読むと、現在はまさに戦争前夜のような状況です。ただし、私自身は、現在の米中の関係が、「トゥキディディスの罠」にはまり込むような関係にはなっていないと思います。
というのは、米国は明らかに世界唯一の超大国になっていますが、中国はそうでないという現実があります。
中国が経済的に台頭したとは言っても、GDPでさえ米国には追いついていませんし、一人あたりのGDPでは米国には遥かに及びません。軍事力も軍事費は伸ばしてきたとは言いつつも、軍事費でも、軍事技術、ノウハウでもこれも米国には遥かに及もつきません。
技術などのイノベーション力も、中国は米国に遥かに及びません。中国の技術のかなりの部分が、米国などをはじめとする国々のそれを剽窃したものです。だから、一見効率が良いように見えても、大規模なイノペーションはできません。
中国の5G技術も元々は他国から剽窃したものをベースにして開発したものであり、この方面のイノベーションも現時点の少し先を行くことはできますが、6G、7G、それ以降など遥かに先端に行くことはできません。できるとすれば、リバースエンジニアリングによって他国の技術を分析するか、剽窃によるしかないのです。
さらに金融の面でも、世界金融市場をカジノに例えると、米国は胴元であり、中国は一介のプレイヤーに過ぎません。中国は、大金を回せるかもしれませんが、そもそも人民元の信用はドルに裏付けされたものです。
それに今でも人民元は、国際取引ではほとんど用いられておらず、そのほとんどはドルで決済されています。米国はいくらでもドルを刷ることができますが、中国にはそれはできません。一方、中国は米国からドルの供給を断たれることにでもなれば、その日からほとんど貿易ができなくなります。
この状況では、いくら中国が国単位としては、経済的、軍事的に力をつけてきたとはいえ、超大国とは言えず、現在でも米国には足元にも及ばないというのが現実です。現在の世界では、米国のみが唯一の超大国です。旧ソ連も、崩壊するずっと前に、超大国の地位を失っていました。
2015年の調査では、中国が超大国になると
考えている人の割合は、日本が最低だった
米国を頂点とする自由主義陣営の国々は、中国が経済大国になれば、自由主義陣営のように体制に変わるだろうと思っていたのですが、その期待はことごとく裏切られました。
そうして。最近では米国は、中国は米国に成り代わって、世界に新たな秩序を作ろうという疑念を抱くに至りました。
中国はその米国の態度に対して、正面から答えることがなかったのですが、2018年中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩を構築していくことを宣言しました。
習近平氏のこの宣言は、中国共産党機関紙の人民日報(6月24日付)で報道されました。同報道によると、習近平氏は6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したといいます。

この会議の目的は、中国の新たな対外戦略や外交政策の目標を打ち出すことにあり、これまで2006年と2014年の2回しか開かれていません。
この会議での対外戦略の総括は、その初めての回答となりました。つまり、米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という米国の疑念に対し、まさにその通りだと応じたのです。
旧ソ連のように、超大国にもなれていない中国が、超大国米国に対してあからさまに、新たな世界の秩序づくりを宣言されたわけですから、これを捨て置くわけにはいきません。
だからこそ、この直後より米国の対中国対策はかなり厳しいものになり、今日に至っているのです。
私に言わせば、世界の新秩序を作り出すなどの考えは、単なる中国というか、習近平の妄想にすぎないと思います。私自身は、2015年の米中首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席はトゥキディデスの罠についてじっくり話し会ったことが、習近平に勘違いをさせたのではないかと思います。

オバマ大統領、本来ならば、中国は超大国米国には、到底及ばないことを習近平にはっきりと言うべきだったと思います。軍事力でも、技術力でも、金融の面でも、遠く及ばないことを自覚させるべきでした。米国にたてつけば、石器時代に戻してやるくらいの脅しをかけるくらいでも良かったと思います。
妄想ではあっても、中国がその妄想を実現すべく邁進しているわけですから、当然米国は、これに対峙せざるを得ないのです。

習近平やその取り巻きは、中国国内では、とにかく金は無尽蔵にあり、金で人民のほっぺたを叩き付けたり、それでもだめなら、城管や、警察、人民解放軍で鎮圧すれば、いかなる人民も自分たちの言うことを聞くので、外国でもそれができると、勘違いしているのかもしれません。

彼らは、中国内では、人民元など好きなだけ刷れるし、ドルも潤沢なので、自分たちは何でもできるという極度の自己肯定感に浸っているのではないかと思います。しかし、実際に米国と対峙してみると、経済でも軍事でも、技術面でも彼我の差があまりに大きいことに気づくことになるでしょう。
トゥギディディスの罠に話を戻すと、先にも述べた通り100年前に工業化して力をつけたドイツが、当時の国際秩序の頂点にいたイギリスの地位を脅かした事例がありますが、当時のイギリスとドイツの関係は、軍事力、技術力、経済力とも現在の米国と中国との関係よりも、かなり伯仲したものでした。
だから、米中がトゥギディディスの罠に嵌る可能性は低いと思います。米中が総力戦に入る遥か手前で、米国の対中冷戦で中国の方がお手上げなるでしょう。
ただし、場合にはよっては局地的な戦争になることは大いにあると思います。たとえば、南シナ海の中国軍基地をなきものにするということは大いに考えれます。

中国が発生源と思われる新型コロナウイルスの蔓延などによって、米国人の対中感情は、1979年の米中国交正常化以降、最悪と言えるほど悪化しています。そうした国内世論を受けて、共和党のトランプ陣営と民主党のジョン・バイデン陣営は、どちらが対中強硬派かという争いをしているからです。
米国の戦略家ルトワック氏からいわせると、南シナ海の中国の軍事基地など象徴的な意味しかなく、米国が本気になれば、5分で吹き飛ばせると言います。
南シナ海は、中国本土から1000kmも離れているため、中国との全面戦争にもなりにくいでしょう。それでも米国内では、「悪の中国の基地をぶち壊した」とアピールすれば、トランプ氏は、支持率を上げるでしょう。東南アジアの国もこれを、歓迎するかもしれません。

そもそも中国の南シナ海の実効支配は、国際司法裁判で根拠がないと裁定されています。米軍がこれを爆撃したとしても、それなりの手続きを踏んで実行すれば、国際法上は問題はありません。

1999年5月7日に、米軍のB-2がベオグラード市内に出撃、誤って駐中華人民共和国大使館JDAM爆弾で攻撃し、29人の死傷者を出しました。後に緊急会議が開催され、NATOや米合衆国連邦政府は、中華人民共和国に対し誤爆を謝罪しましたが、当時中華人民共和国は、セルビア側を支援していたため、故意に攻撃したのではないかという観測も報道されました

この際には、無論中国は、米国を非難しましたが、目立った報復ありませんでした。中国人はこの出来事に激怒し、北京市にあるマクドナルドを襲撃、10店舗を破壊するデモ活動をしました。なお、この爆撃の目標を指示した米中央情報局中佐のウィリアム・J・ベネット氏が2009年に殺害されたという事件が起こりました。

ただ米軍がそこまでやると、トランプ大統領にはとっては、かえって選挙に悪影響となるかもしれず、そこまではせず、例えば潜水艦と艦艇を用いて。南シナ海の中国軍基地の周辺を封鎖して、兵糧攻めにするなどのことは、十分に考えられます。場合によっては、機雷による封鎖ということも考えられます。

ただし、米国と中国の国力の差異などからみて。両国がトゥキディディスの罠に嵌って、総力戦に入るということはないでしょう。そのはるか以前に中国はお手上げになります。
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2020年7月18日土曜日

米、中国共産党員の渡航禁止を検討! ハイテク排除、ハリウッドの対中協力も非難 識者「習政権への宣戦布告」— 【私の論評】中国は超大国になるために海洋進出を諦めるかもしれないが、それでも油断は禁物!(◎_◎;)


米、中国共産党員の渡航禁止を検討! ハイテク排除、ハリウッドの対中協力も非難 識者「習政権への宣戦布告」

トランプ氏(写真)は習氏の入国も認めない?
 米国の対中「宣戦布告」なのか。ドナルド・トランプ政権は、全ての中国共産党員と家族による米国への渡航禁止を検討していると米メディアが報じた。8月には通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)など中国企業5社の製品を使う企業が米政府と取引することを禁じる法律も施行される。米中対立は全面戦争状態に突入しそうだ。
 ロイター通信は関係筋の話として、中国共産党員と家族の渡航禁止について、政府高官が大統領令の草案を準備し始めたと報じた。検討は初期段階で、トランプ大統領にはまだ諮られていないというが、複数の連邦機関が関与し、党員の子供が米国の大学に在籍することを拒否するかどうかも検討されているという。

 米国の大学に留学する中国共産党幹部の子供も多く、実現すれば影響は小さくない。

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は、「中国共産党員は約9000万人とされ、配偶者や子息を合わせると数億人になるのではないか。いったん入党すれば離党しづらく、世界中に党員は存在する。中には党の任務を負う人もいると考えられ、中国本土だけの問題ではないだろう」とみる。

 一方、米政府が取引停止の対象としたのは、ファーウェイのほか、中興通訊(ZTE)、海能達通信(ハイテラ)、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)の5社の製品。

 官報に8月13日から実施する規則を掲載。施行されれば、原則として対象企業の製品やサービスを利用する企業との新規契約や契約更新も行わない。各社は米政府と中国企業のどちらと取引するのか選択を迫られる。

 中国に協力するハリウッドの映画業界や米IT企業にも注文を付けた。ウィリアム・バー司法長官は16日、ハリウッドにが興行収益のため中国当局を怒らせないよう「恒常的に自主検閲している」と指摘。中国のイメージを悪くするシーンを自ら削除することが横行していると説明し、「中国共産党の一大プロパガンダ作戦」に利用されていると懸念を示した。

 IT企業についてはグーグル、マイクロソフト、アップルなどが「中国の手先になっている」と主張した。

 人もモノも中国排除が進む。前出の石平氏は、「米国への留学生や共同研究者などを経た技術の流出もあるが、ハイテク競争の域を越え、党自体を否定することで、習近平政権への事実上の宣戦布告になる」と指摘した。
【私の論評】中国は超大国になるために海洋進出を諦めるかもしれないが、それでも油断は禁物!(◎_◎;)
最早、米国は宣戦布告をしたのも同様という石平氏の見解は、正しいと思います。米国は、このように様々な方策を講じて、米国内やインド太平洋地域から中国を排除し、中国を封じ込めようとしています。
これは、いずれ成功し、中国は、米国や他の国々によって封じ込められるのでしょうか。私は、そうではないと考えています。
その根拠になることが、米国のニュース・ウイーク紙日本版に掲載されています。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで浮上する第2の道とは
詳細は、この記事を読んでいただくものとして、この記事では、中国が超大国になるための道筋は二つあると言います。

以下に一部を引用します。
1つは、アメリカの多くの戦略専門家が予測してきた道だ。この道を選んだ場合は、まず自国の周辺の西太平洋に君臨し、それを踏み台にしてグローバルな超大国の座を目指すことになる。もう1つは、これとはまるで違う道だ。こちらは、戦略と地政学の歴史的法則に反するアプローチに思えるかもしれない。
まず、最初の道筋は、時刻周辺の南太平洋に君臨し、それを踏み台にしてグーロバルな超大国の道を目指すことです。

これは、困難が伴うとこの記事にも書かれています。なぜなら、最大の障害として日本が立ちはだかっているからです。

中国にとっては、日本は単独でも脅威です。先日中国の潜水艦が日本の接続領域を潜航したのですが、これはあっさりと日本に発見され、河野防衛長官がその事実を大々的に発表しました。その内容は、日本のマスコミでも公表されました。

中国としては、自国の最新鋭原潜が日本や米国に探知されるか否かを試しに、日本の接続領域に潜航させて見たのでしょうが、あっさりと発見されてしまったわけです。

これは、日本のマスコミはいずれも公表しなかったのですが、中国の潜水艦は未だ、日本に簡単に発見されてしまい、日本の敵ではないことを暴露されてしまったわけです。

これに対して、中国は日米の潜水艦の行動をいまだに探知できないようです。これは、機密事項なので、公には公表されませんが、おそらく日米の潜水艦は、中国側に発見されず、自由に南シナ海は無論のこと、東シナ海や黄海あたりを潜航していると思います。

中国が日米の潜水艦の行動を探知できるなら、今まで一度くらいは、日本の高野防衛大臣が行なったように、日米の潜水艦の行動を公表するに違いありません。そうすることによって、中国として、対潜哨戒能力の技術が向上したことをアピールするとともに、日米に対する牽制ができます。

これは、日本単独でも、日本の潜水艦は中国の潜水艦を含む艦艇を、中国に発見されることなく、探知して撃沈できることを示します。これに対して、中国海軍は日本の潜水艦に撃沈は愚か、どこにいるかさえ把握できないのです。

これでは、最初から勝負が決まったようなものです。これでは、尖閣上陸も恐ろしくてできないはずです。無論、私自身は、このブログでも以前から指摘しているように、中国の艦艇の尖閣での狼藉を放置せよと言って訳ではありませんが、それにしても、中国は今のところ、日米の潜水艦が障害となって、未だ尖閣諸島に上陸できないばかりか、尖閣諸島を含む第一列島線すら確保できないでいます。

中国海軍のロードマップでは、今年中には、第二列島線まで、確保する予定なのですが、今のところ、全く不可能な状態です。さらには、英海軍がインド太平洋地域に空母「クリーンエリザベス」を派遣するとの報道もあり、中国海軍のロードマップはますます絵に描いた餅に近づいてきました。


中国がこのように海で苦戦するのは、やはり自らは未だシーパワー国にはなり切れておらず、ランドパワー国でもあるにも関わらず、海洋進出をしようとしているからでしょう。

これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
台湾問題だけでない中国の南太平洋進出―【私の論評】海洋国家を目指す大陸国家中国は、最初から滅びの道を歩んでいる(゚д゚)!
詳細は、この記事をごいただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
現在の中国は鄧小平が劉華清(中国海軍の父)を登用し、海洋進出を目指した時から両生国家の道を歩み始めました。そして今、それは習近平に引き継がれ、陸海併せ持つ一帯一路戦略として提示されるに至っています。しかしこれは、マハンの「両生国家は成り立たない」とするテーゼに抵触し、失敗に終わるでしょう。
劉華清(中国海軍の父)
事実、両生国家が成功裏に終わった例はありません。海洋国家たる大日本帝国は、大陸に侵攻し両生国家になったため滅亡しました。大陸国家たるドイツも海洋進出を目指したため2度にわたる世界大戦で滅亡しました(ドイツ第2、第3帝国の崩壊)。ソビエト帝国の場合も同じです。よもや、中国のみがそれを免れることはないでしょう。一帯一路を進めれば進めるほど、地政学的ジレンマに陥り、崩壊への道を早めてゆくことになります。
中国の海洋進出には、日本が巨大な壁として立ちはだかっているだけではなく、シーパワー国の雄である、米国の軍隊が駐留しています。さらには、中国の香港などでの横暴に、脅威を抱き、中国の海洋進出に脅威抱いたこれもシーパワー国である英国が、「空母クイーンエリザベス」を太平洋に常駐させる計画を立てています。

シーパワー国になることは、容易ではないのです。まずは、優れた海軍を持つには、資本の蓄積が必要です。資本があれば、艦艇は作れますが、それだけでは優れた艦艇は作れません。高度の技術が必要です。

高度な技術を用いて、優れた艦艇を多数作れるようになってもそれだけでは駄目です。今度は、優れた多数の艦艇を操るノウハウが欠かせません。そうなると、シーパワー国になるための敷居はかなり高いです。かつて、世界には英国だけがシーパワー国だった時期があり、その頃には日本も米国もランドパワー国だったのですが、数十年かけて、シーパワー国に変貌しました。

中国がこれから、本格的にシーパワー国になろうとすれば、少なくとも今後20年くらいはかかるでしょう。

そうして、今後ますます多くの国々がインド太平洋地域において、中国に対して反旗を翻することでしょう。そうなると、中国としては、インド太平洋地区を治めることは、ほとんど不可能といって良いです。

これでは、中国周辺の西太平洋に君臨し、それを踏み台にしてグローバルな超大国の座を目指すことはほぼ不可能です。

では、先ほどのニューズウィークの記事に出てきた、中国が超大国になるもう一つの道とはどのようなものなのでしょうか。

その第二の道は、中国が自国の東に位置する西太平洋ではなく、自国の西に目を向けることです。ユーラシア大陸とインド洋に中国主導の安全保障・経済秩序を確立し、それと並行して国際機関で中心的な地位を占めることを目指すのです。

先のニューヨークタイムズの記事によれば、このアプローチの土台を成すのは、世界のリーダーになるためには、軍事力よりも経済力と技術力のほうがはるかに重要だという認識です。そうした発想に立てば、東アジアに勢力圏を築くことは、グローバルな超大国になるための前提条件ではありません。西太平洋では軍事的バランスを維持するだけでよく、軍事以外の力を使って世界に君臨することを目指せば良いということになります

元々、ランドパワー国である、中国がこの道筋を取ろうと方針転換をすれば、これは今よりも大きな脅威になります。

軍事力以外の力を使って君臨することを目指すにしても、やはり軍事力は重要です。それに関しては、すでにミサイルや核兵器も開発してきた中国ですから、それなりのノウハウも持っており、ランドパワー国としての技術力やノウハウを開発することは、中国に取っては、シーパワー国を目指すよりは、遥かに簡単です。

このブログでも以前示したように、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させています。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとし、それだけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。今のままだと、中国も同じ運命を辿りそうです。

このように、米国と比較すると、今のところ世界中で攻勢に出ているように見える、中国は超大国になるための2つの道の両方を同時試そうとしているようですが、いずれ中国は海洋進出の拡大を諦めて、ユーラシア大陸とインド洋に中国主導の安全保障・経済秩序を確立し、それと並行して国際機関で中心的な地位を占めることを目指すことに、集中するかもしれません。

そうなるとかなり厄介です。ただし、それ以前に中国の経済か政治制度が揺らいだり、競争相手の国々が賢明な対応を取れば、どちらの道もうまくいかない可能性も大いにあります。

米国などの自由主義陣営は、そのことも考慮に入れて、中国と対峙すべきでしょう。そうして、今はインド太平洋地域を最重要点として、中国と対峙していくべきでしょう。そのようにすれば、当面中国はますます、シーパワー国を目指して、多大な経費や労力を無駄に浪費することでしょう。

そうすれば、中国がランドパワーを強化し、ユーラシア大陸とインド洋に中国主導の安全保障・経済秩序を確立しょうとしても、疲弊してうまく行かなくなる可能性が大です。

ただ、我々が気をつけなければならないのは、中国が早めに海洋進出を諦めたように見えた場合、それは自由主義陣営に敗北したためとすぐに判断すべきではないということです。

もしかすると、それは、中国がユーラシア大陸とインド洋に中国主導の安全保証・経済秩序を確立することに転じたサインかもしれないということです。

もし中国がそれに転じたとしても、現在の失敗続きで懲りた中国は、鄧小平が残した「韜光養晦(とうこうようかい)」という言葉を思い出し、今度は細心を注意をしながら、自由主義陣営になるべく気がつかれずに、行動するようになるかもしれません。



ユーラシア大陸の、ロシアや中央アジアの国々に対して、過去の強権的なやり方ではなく、もっとスマートな形で、自らの経済圏に取り込むように働きかけるようになるかも知れません。

気がついたときには、ヨーロッパ、ロシア、中央アジア、インドなどの地域が実質的に中国に飲み込まれているかもしれません。これもかなり困難なことですが、太平洋のハワイの西側まで中国の海とすることよりは、簡単です。

日米を含めた自由主義陣営は、過去には中国が経済成長して豊かになれば、まともになるだろ等として、過去には中国の暴挙を許容してきました。それが今日の危機を招きました。

中国が第二の道を選んだ場合にも、自由主義陣営も過去の失敗を繰り返すことなく、早めにその芽を積むべきです。どのように外見や態度を変えて見せたところで、現在の中共の本質は変わりません。中共が消えるまで、戦いは続くと見るべきです。

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2020年6月26日金曜日

笑えぬ現実。米が朝日新聞「中国の宣伝機関」として認定する日— 【私の論評】中国を不当に利する企業は、ある日ふと気づくと、事業継続不可能という悪夢のような事態に見舞われる!(◎_◎;)

笑えぬ現実。米が朝日新聞「中国の宣伝機関」として認定する日

朝日新聞本社
アメリカ政府が中国メディアを相次いで「外国の宣伝機関」に認定し、合計9社が米国内で様々な制約を受ける状態となっています。この決定に中国当局は「政治弾圧だ」として強く反発していますが、そもそも中国メディア自体が中国共産党のプロパガンダ機関であることは明白とするのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんは今回、自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』にその証拠を記すとともに、朝日新聞が米国から「中国の宣伝機関」に認定される可能性についても言及しています。

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年6月24日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【米中】朝日新聞が「中国の宣伝機関」としてアメリカに認定される可能性

米政府、中国メディア4社を「外国の宣伝機関」に追加で認定

アメリカの国務省は、中国の中央テレビ局(CCTV)、人民日報、中国新聞社(CNS)、環球時報の4社を、「外国の宣伝機関」に認定しました。2月に新華社、中国国際テレビ(CGTN)と中国国際放送(CRI)、英字紙チャイナ・デーリー、米国海天発展の5社を「外国の宣伝機関」に認定したことへの追加措置であり、これで同認定を受けた中国メディアは9社になりました。

これらのメディアは原則的に中国の外交官と同じ扱いを受け、アメリカ政府に従業員のリスト提出が義務づけられ、またビザ(査証)や財産取得も制約を受けることになります。保有資産の届け出や新規物件取得前の事前認可なども義務付けられるそうです。

これに対して中国外務省は、「中国メディアへの政治的弾圧だ。誤ったやり方をやめるよう促す」と強く反発し、対抗措置も辞さない考えを示しました。

4社を「宣伝機関」 米政府認定で中国反発

しかし、中国のメディアが中国共産党の宣伝機関であることは、子どもでも知っている周知の事実です。中華人民共和国の建国以降、中国のメディアは、中国共産党の「喉と舌」とされてきました。つまり、プロパガンダということです。

それを統括しているのが、中央宣伝部です。報道の統制を行い、国内世論をコントロール、さらには中国共産党に都合の悪い情報は隠し、都合のいいニュースだけを海外にも発信しています(対外工作機関には統一戦線工作部もある)。

そもそも、習近平は2017年の第19回党大会において、「党政軍民学、東西南北中、党是領導一切的」という、文革時代に毛沢東が使った言葉を引用して、すべてを中国共産党が指導することを強調しています。自ら、メディア統制を行っていることを公言しているわけです。

毛沢東時代から、中国では「公正、公平な報道」は、ブルジョワ階級によるプロレタリアへの攻撃であり、敵視されてきました。そのことを理解していない日本の知識人などは、中国メディアの実態を見誤ってしまうわけです。

たとえば、かつて劉少奇は外国記者が客観的で公正な報道を求めるのに対して、中国では自らの立場を強調する主観主義の報道が蔓延していると発言しましたが、これに対して毛沢東思想教育を主導した文革派は、「(劉少奇の)こういった考えこそが外国のブルジョワ階級の記者に対する全面降伏であり、プロレタリア階級の報道機関に資本主義の考えを全面的に持ち込もうとするものだ」として切り捨て、劉少奇を「外国の奴隷」だと断罪しました。そのことは、樋泉克夫氏の以下の寄稿に詳しく書かれています。

昔も今も変わらない!中国共産党のメディア戦略

毛沢東は中国を統治するためには「搶杆子(鉄砲)」と「筆杆子(ペン)」という2つの「両杆子」が必要だと主張し、それを実践してきました。軍事力とメディアによって人民を押さえつけてきたというわけです。

そして「筆杆子(ペン)」については、外国のメディアにも強要してきました。よく知られているのが、「日中記者交換協定」です。1968年、中国側と、田川誠一ら日本の親中派政治家によって、それまでの日中記者交換協定が破棄され、新たな日中記者交換協定が結ばれましたが、そこでは、「中国を敵視しない」「2つの中国をつくる陰謀に加担しない」「日中国交正常化を妨げない」という「政治三原則」の厳守が求められました。

つまり、これらの3つの項目に抵触するような記事は、日本の新聞は書かないということを、中国に約束したわけです。もしそれを破れば、中国に支局を置くことができなくなり、記者は追放されることになります。

こうして、日本のメディアは中国批判がまったくできなくなってしまい、中国のプロパガンダ機関に堕してしまったのです。「なんでも戦前の日本が悪い」とする自虐史観も、こうした中国のプロパガンダに乗って、日本に広まりました。いまだ一国の首相が靖国神社に参拝できないでいるのも、そのためです。

作家の曽野綾子氏は、『この世の偽善』(金美齢氏との対談、PHP研究所)において、次のように語られています。

曽野綾子氏
この40年あまり、産経新聞と時事通信を除く日本のマスコミは、絶えず中国の脅しを受けながら、特派員を受け入れてもらうために、完全に中国政府の意図を代弁する記事を書き続けてきということです。

『朝日』『毎日』『読売』などの全国紙、東京新聞他のブロック紙などは、中国批判はただの一行たりとも書かず、私たちにも書くことを許さなかった。私が少しでも中国の言論弾圧を批判すれば、その原稿は私が内容表現を書き直さないかぎり、ボツになって紙面に載らなかったのです。

ちゃんと曽野綾子という署名を入れた小さな囲み記事ですら、印刷中の輪転機を止めてまで掲載を許さなかった新聞もあります。
さて、アメリカが中国メディアを「宣伝機関」と認定したことで、何が起こるでしょうか。参考になるのはファーウェイです。アメリカ政府は安全保障上の理由から、アメリカ企業に対して、ファーウェイとの最先端技術を使用する製品の取引を禁じました(米国輸出管理改革法=ECRA)。

さらには、ファーウェイに対してアメリカの先端技術を含む製品を取引する外国企業との取引も禁じました。つまり、日本企業であっても、ファーウェイに対して、アメリカの先端技術を含むパーツやソフトを提供すると、アメリカ企業と取引できなくなるわけです。

当然、アメリカの銀行が取引を停止しますから、ドル取引ができなくなります。また、そのような日本企業と取引をしている日本の金融機関もまた「同罪」と見なされ、アメリカの銀行と取引ができなくなりますから、国内銀行はそうした日本企業とは取引停止せざるをえなくなります。

要するに、アメリカ企業のみならず、日本国内のどの企業からも縁を切られることになるわけで、そのような企業は倒産するしかなくなるわけです。だから2019年5月、グーグルはファーウェイへのOS提供を停止し、日本のメーカーはファーウェイへの製品出荷を一時的に停止せざるをえなかったわけです。ドコモなどの通信キャリアもファーウェイの新製品の発売を延期しました。

その後、アメリカの意向を見ながら、恐る恐るファーウェイとの取引は続けられてきましたが、今年5月、アメリカ商務省がファーウェイへの輸出規制強化を打ち出したことで、世界最大の半導体デバイス企業である台湾のTSMCがファーウェイへの部品供給を停止することが決まり、半導体業界に衝撃が走りました。

半導体の歴史に重大事件、ファーウェイは“詰んだ”

このアメリカのやり方を見れば、前述の中国メディアと協力関係にあるメディアもまた「中国の宣伝機関」と見なされる可能性が高いと言えるでしょう。つまり、アメリカで取材活動をしたいならば、その構成員リストをアメリカ企業に提出し、さまざまな取引についても、制限を加えられるということです。

さらにアメリカの規制が強まれば、ファーウェイ同様の措置が取られる可能性も否定できません。すなわち、アメリカでの取材活動も禁じられるばかりか、内外の銀行や企業との取引が規制される可能性があるわけです。

人民日報のホームページを見ると、朝日新聞、日経BP社、日経QUICK、みずほ銀行などとニュース提携を結んでいることが書かれています。

人民網日本株式会社へ ようこそ!

とくに朝日新聞は「人民日報日本支社」と揶揄されるほど、人民日報と同じような主張を展開することでも有名です。朝日新聞元北京特派員だった人物が人民日報海外版の日本代理人を務めたこともあります。

朝日新聞がアメリカから「中国の宣伝機関」と認定される可能性も、揶揄や冗談ではなく、現実になる可能性があるわけです。

【私の論評】中国を不当に利する企業は、ある日ふと気づくと、事業継続不可能という悪夢のような事態に見舞われる!(◎_◎;)

オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は24日、西部アリゾナ州フェニックスでの経済会合で「中国共産党のイデオロギーと世界的野望」と題した対中政策演説を行いました。オブライエン氏は「中国は米国民と米政府を操作しようとし、米国の経済に打撃を与え、主権の侵害を図っている」と非難し、「同盟・パートナー諸国と手を携えて中国に対抗していく」と強調しました。

オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)

オブライエン氏はまた、国防総省が米国内で経済活動をしている中国企業のうち、人民解放軍と関係が深い企業のリストを作成し、週内に議会に提出すると明らかにしました。国防総省によるとリストは24日に完成しました。

国防総省のリストによると、対象企業は20社。中国航空工業集団、中国兵器工業集団(ノリンコ)などの国有企業に加え、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)、監視カメラ大手のハイクビジョンなど日本で事業展開している複数のハイテク企業も含まれています。

ニューヨーク証券取引所に上場している中国電信と中国移動通信もリストに含まれました。

リストの作成と提出は、1999会計年度の国防権限法に基づく措置ですが、実施されるのは初めてです。

議会はこれらの企業に関し、制裁をかける権限を大統領に付与できます。20社は「米国の安全保障へのリスクがある」と名指しされた形で、米国内で資金を調達したり米企業と取引したりすることが困難になると見込まれています。

オブライエン氏は「中華人民共和国に対して受け身で甘い考えを抱いていた時代は終わった」と指摘。中国による知的財産の窃取、少数民族ウイグル族などの人権侵害、ソーシャルメディアを通じた政治宣伝や偽情報工作といった中国の行動を列挙し、「米国人は懸念すべきだ」と訴えました。

オブライエン氏によると、この日の演説はトランプ政権高官らが今後数週間で相次ぎ行う中国演説の第1弾で、ポンペオ国務長官やバー司法長官、レイ連邦捜査局(FBI)長官も近く演説するとしています。

トランプ氏は11月の大統領選に向け、高官らによる演説を通じて対中強硬姿勢を改めて打ち出し、「中国に弱腰」との評判が付きまとう民主党のバイデン前副大統領への攻撃を強めていくとみる向きもありますが、多くの米国人の中国への見方は厳しくなっており、これは世論に合わせた動きと見るべきと思います。

対中強硬姿勢により、大統領選挙を有利にしようとするよりは、世論を汲み取り、それを実行することにより、大統領選挙で不利にならないようにするための措置と言えるでしょう。

大統領選挙の候補は、トランプ氏の限らず、バイデン氏や他の候補者たちもかなり厳しい対中政策を公約としなければ、選挙戦に不利なるでしょう。

トランプ氏は今選挙をすると負けるが、まだ予断は許されない情勢

何しろ、米国の対中強硬姿勢は、米国議会の意思であり、それは多数の米国民の意思でもあるからです。このブログにも何度か触れたように、米国は中共が、中国の中共一党独裁制をやめて別の民主的な体制に移行するか、中共が現在の中国の体制を変えないなら、大国に影響力を行使できなくなる程度まで、中国の経済を弱体化させることになります。

その途上で、米国内での中国関連企業への制裁が一巡すれば、その後は米国内の中国を不当に利する米国企業が対象になるでしょう。それが一巡すれば、米国内の中国を不当に利する米中以外の外国企業が対象になるでしょう。それも一巡すれば、その後米国外の中国を不当に利する外国企業企業に対しても制裁が課されることになるでしょう。

この流れはもう止まることはありません。米国は、最後の段階まで、詰将棋のように進めることになるでしょう。そうして、これはトランプ氏が次の大統領になるならないなどのことは全く関係なく、米国の意思として行なわれることになります。

その時には、黄文雄氏が語るように、朝日新聞が米国の制裁の対象になるかもしれません。そのようなことがあれば、無論それ以外の中国を不当に利する日本企業も対象になるでしょう。

この米国の対中制裁の方針に関する方向性は2018年あたりには、しっかりと決まっていたのですが、それを実行に移す段階では結構時間がかかっていました。ここまで具体的で厳しくなるには、コロナ以前だと、5年から10年もかかったでしょうが、コロナ後では、米国の対中制裁の実行速度がかなりはやくなっています。同じことが、短ければ、2年、遅くても4年で起こる可能性が高いです。

朝日新聞などの中国を不当に利する企業は、ある日ふと気づくと、事業ができなくっているという悪夢のような事態に見舞われる可能性も十分あります。

そのようなことにならないように、あらゆる組織や個人が、中国との関係を見直すべきです

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2020年5月23日土曜日

米、中国に激怒!コロナ禍に香港で“火事場泥棒” 国防予算も異常な高水準で軍事大国へ突き進み ―【私の論評】実績をつけたい習近平は、これからも火事場泥棒的なことも平気で繰り返す(゚д゚)!

米、中国に激怒!コロナ禍に香港で“火事場泥棒” 国防予算も異常な高水準で軍事大国へ突き進み 
第2の天安門に!?香港デモ

開幕した中国の全人代で、習国家主席は拍手で迎えられた

 中国の習近平政権が、「火事場泥棒」的体質をあらわにした。新型コロナウイルスの感染拡大で世界各国が混乱するなか、22日に北京で開幕した全国人民代表大会(全人代=国会)で、香港に直接「国家安全法」を導入する方針を示したのだ。香港立法会(議会)を無視した暴挙であり、「一国二制度」を事実上終了させる。香港市民だけでなく、ドナルド・トランプ米政権も激怒している。さらに、覇権拡大のため、国防予算も異常な高水準を維持した。

 「(中国の今後の出方次第で)強く問題視するだろう」

 トランプ大統領は21日、ホワイトハウスで記者団に、こう語った。マイク・ポンペオ国務長官も22日の声明で「(国家安全法の香港導入は)破滅的な提案」と非難し、中国に再考を求めた。英国とオーストラリア、カナダの外相も同日、共同声明を発表し「深い懸念」を表明した。

 中国が香港に導入するという「国家安全法」では、国家分裂や政権転覆行為、組織的なテロ活動、外国勢力による介入が禁止される見通しだ。制定されれば、1989年の天安門事件の犠牲者を追悼する集会なども恒久的に禁止される可能性がある。王晨副委員長が22日の全人代で提案。最終日(28日)に採決される見通しという。

 香港の民主派は「(言論や集会の自由が認められた)『一国二制度』は、正式に『一国一制度』になってしまう」と激しく反発し、インターネット上でも抗議デモが呼びかけられている。22日の香港株式市場は混乱の拡大を懸念し、前日終値比で大幅下落した。

 自国で発生した新型コロナウイルスの影響で、2カ月半延期されていた全人代。「2020年の国内総生産(GDP)の成長率目標」や「台湾問題」「感染第2波」などが注目されていたが、習政権は「香港問題」で強権を発動してきた。

 さらに、習政権は「軍事大国」に突き進んでいる。

 中国の2020年国防予算は1兆2680億500万元(約19兆1000億円)で、前年実績比6・6%増と高水準を維持した。日本の20年度当初予算の防衛費5兆3133億円の約3・6倍にあたる。中国の国防予算の実態は、公表額の2倍以上との見方もある。

 習政権は、南シナ海や台湾問題をめぐって、世界最強の米軍との対立が今後激化するとみている。民主主義国家が、新型コロナ禍で軍事・防衛費が抑制される流れになるなか、共産党独裁国家は異様な軍備増強路線を止める気はなさそうだ。

【私の論評】実績をつけたい習近平は、これからも火事場泥棒的なことも平気で繰り返す(゚д゚)!

習近平は、今回に限らず、米国等を苛立たせる火事場泥棒的な行動を何度もくりかえしてきました。そうして、特に最近そが目立つようになってきました。それはなぜなのでしょうか。中国は元々、対外関係などよりも、自国の都合で動く国であり、最近の一連の火事場泥棒的な行動も、そのほとんどが中国国内の都合によるものです。

コロナ禍で忘れ去られた感がありますが、本年2020年は、中国の二つの100年計画の一つ「小康社会の全面的実現」目標の期限である建党100周年の2021年より一年前であり、もし、習近平が、過去の主席らに匹敵するような、大きなことをやってのければ、習近平政権にとっては長期独裁を全党および人民に納得させるだけの効果を持つ歴史的偉業となるからです。

      2000年台「全面的な小康社会の実現」に向けて、実現程度は年々スピードアップ
      していると言われた。写真は2007年、将校社会のポスターの前を歩く女性

コロナ禍に関しては、これはマイナスになると考えるのが普通ですが、習近平はこれを無理やりに終息させ、それも他国に先駆けて終息させ、巧みに自分の手柄としました。しかし、これだけでは、全党や人民に納得させるだけの歴史的偉業とはなりません。

習近平としては、コロナ終息に加えて、何か一つでも良いので、両方で歴史的偉業になる、何かを付け加えたいのです。それが、台湾統一や、香港問題の解消なのかもしれません。とにかく、時宜を得た歴史的偉業を達成するための何かを追い求めるあまり、米国などからすれは、火事場泥棒のようなことを平気でやってしまうようです。

実際のところ、習近平は過去の主席と比較すれば、何も実績があったとはいえません。特に、権力闘争の相手方にみせつけられるようなものはありません。

習近平の唯一ともいえる有利な点は、中国の政治において最も重要なファクターは「客家人ネットワーク」だと言わており、習一族もこの客家に属しているということです。「アジアのユダヤ人」とも言われる彼等は、中国、シンガポール、台湾、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、米国などの中枢に強固な繋がりを持つ華僑ネットワークを形成しています。

客家は、孫文、鄧小平、宋美齢、江沢民、習近平、李登輝、蔡英文、李光耀など、アジアを中心として多くのキーパーソンを排出しています。

ところが、習近平は、2018年3月11日、全国人民代表大会において中国憲法の改正案が採択された結果、国家主席や副主席の任期が連続して2期を超えてはならないとしてきた従来の規定が削除され、終身主席の道を拓きました。

習近平が2012年11月15日に党総書記に就任(翌年3月14日に第7代国家主席に就任)した時点で、現在の空前の権力集中を予測した者はほとんどいませんでした。

習近平政権を特徴づけるのが、党幹部に対する強烈な反腐敗運動です。政権第1期の5年間で200万人以上の党幹部がなんらかの処分を受け、なかには前政権での政法部門のトップだった周永康、軍制服組のトップだった郭伯雄や徐才厚、次世代の総理候補と目されていた孫政才など、高官までもが失脚の憂き目に遭いました。

周永康のような党常務委員経験者については、従来は党内規律違反による摘発や刑事訴追がおこなわれない不文律が存在していたとされますが、そのタブーをあえて踏み越えた習近平政権の特殊性は際立ちます。

法定に姿を見せた周永康氏、わずかの期間で白髪頭となり、中国内で話題となった

中国では江沢民・胡錦濤時代に腐敗が進行し、庶民の怨嗟の的となっていました。反腐敗運動は国民的な支持を得やすい政策なので、党内の引き締めという意味の他に、一種のポピュリズムの側面も持つと見られます。

腐敗幹部たちが地位を失った後、習近平派の幹部がそのポストを襲う形で出世する例も多く、反腐敗運動は習近平による自派の官僚団へのポストのばら撒き政策としての側面もあります。

なお、習近平派の官僚たちの多くは習近平の過去の地方勤務時代の部下や、習近平及び父の習仲勲と過去に縁があった人物で占められています。こうした官僚は、習近平がかつて浙江省の書記を務めていた時代に地元紙に連載していたコラム「之江新語」から名前を取って「之江新軍(しこうしんぐん)」と呼ばれています。

他に個人崇拝の復活も特徴的です。中国では文化大革命時代の極端な毛沢東崇拝への反省から、1970年代末からは鄧小平のもとで個人崇拝の忌避や集団指導体制が打ち出されてきたのですが、習近平はそのタブーを破った形となっています。

プロパガンダポスターなどに、習近平(および妻の彭麗媛)の肖像や名前がしばしば大きく取り上げられ、また習近平個人を礼賛する楽曲も登場しています。はなはだしくは、習近平の顔が大きくプリントされた置物用の景徳鎮の皿なども、党員の研修先に指定されやすい革命聖地の売店などではよく売られています。

  前任者の江沢民・胡錦濤時代はあまり見られなかった、習近平個人を前面に出した
  プロパガンダが目立つようになった。地方都市や、一部の革命聖地では、しばしば
  「習近平グッズ」が売られるようになってもいる。

こうした現象は前任の胡錦濤時代まではほぼ見られなかったものです。習近平の書籍や語録が大量に出版されていることも興味深いです。

2018年の改憲では、ついに憲法の中に「習近平新時代中国特色社会主義思想」なる、習近平個人の名前を冠したイデオロギーが国家の指導思想として明記されるに至りました。

中国の憲法のなかで、過去に個人名を冠したイデオロギーが含められた例は毛沢東(毛沢東思想)と鄧小平(鄧小平理論)だけであり、習近平はこうした過去のストロングマンに並ぶ場所に押し上げられた形となりました。

しかし、習近平には毛沢東は建国の父として、鄧小平は改革・開放で経済を伸ばしたという実績がありますが、習近平にはそのような実績はありません。

その実績のない習近平が、コロナ禍に関しては、無理やり終息させたため、人民には根強い不信感が残っています。共産党内部でも、実績のない習近平は当然権力闘争の相手方からは、不興を買っています。

だからこそ、香港で弱みを見せられない習近平は、米国などから火事場泥棒のようにみられることを承知でも、香港に直接「国家安全法」を導入する方針を示したのです。

実績をつけたい習近平は、これからも、国外からみれば火事場泥棒的なことも平気で繰り返すことになるとみられます。

台湾や、日本の尖閣諸島などは、格好の標的です。日台はもとより、米国などもこのことをわきまえ、中国の今後の動きに対応していくべきです。まずは、習近平を失脚するようにもっていくべきです。

そのようのなか、習近平の国賓待遇での訪日など、あり得ないことです。習近平としては、日本の天皇謁見を自らの権威付けとして期待しているだけのことです。日本は、絶対にそのようなことをさせるべきではありません。

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