2017年2月7日火曜日

支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序―【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!

支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序

孤立主義ではいられないトランプ政権

ロバート・ケーガン氏
 世界に国際秩序の崩壊と地域戦争の勃発という2つの重大な危機が迫っている。

 米国は、第2次大戦後の70余年で最大と言えるこれらの危機を招いた責任と指導力を問われている。米国民がドナルド・トランプ氏という異端の人物を大統領に選んだ背景には、こうした世界の危機への認識があった──。

 このような危機感に満ちた国際情勢の分析を米国の戦略専門家が発表し、ワシントンの政策担当者や研究者の間で論議の波紋を広げている。

 自由主義の世界秩序が崩壊へ向かう

 この警告を発したのは、ワシントンの民主党系の大手研究機関「ブルッキングス研究所」上級研究員のロバート・ケーガン氏である。

 ケーガン氏は米国学界でも有数の国際戦略研究の権威とされ、歴代政権の国務省や国家情報会議などに政策担当の高官として登用されてきた。従来は保守派の論客とされてきたが、近年ではオバマ政権でも政府の諮問機関に招かれ、国際戦略情勢に関する政策などを提言してきた。昨年の大統領選ではヒラリー・クリントン候補の政策顧問を務めている。

 ケーガン氏は1月24日に「自由主義的世界秩序の衰退」と題する同論文を発表した。同氏はこの論文で、第2次大戦以降の70余年の間、米国主導で構築し運営してきた自由主義の世界秩序は、崩壊に向かう最大の危機を迎えたと指摘する。

 危機の原因となっているのは、支那とロシアという反自由主義の二大国家の挑戦だ。1991年のソ連崩壊以後の米国の歴代政権が「唯一の超大国」の座に安住し、とくにオバマ政権が軍事力を縮小して「全世界から撤退」したことがその状況を招いたという。

 支那、ロシアの軍事力行使の危険性が高まる

 ケーガン氏の論文の要点をまとめると以下の通りである。

・世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきた。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきた。

・しかしこの世界秩序は、ソ連崩壊から25年経った今、支那とロシアという二大強国の挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたった。

・支那は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしている。ロシアはクリミア併合に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっている。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れている。

・支那とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止だった。

・だが、近年は米国の抑止力が弱くなってきた。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまった。

・その結果、いまの世界は支那やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきた。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかない。

 米国はリーダーシップを取り戻すべき

 ケーガン氏は論文で以上のように、いまの世界では支那とロシアの軍事行動による地域的な戦争の危機が高まっており、その結果、自由主義的な世界秩序の崩壊がありうると警告していた。

 トランプ政権は米軍の再増強や「力による平和」策を宣言しながらも、世界における超大国としての指導的立場や、安全保障面での中心的役割を復活させることには難色をみせている。

 だがケーガン氏は、世界の危機への対策としては、米国が世界におけるリーダーシップを再び発揮することだという。

 ケーガン氏は、今回の大統領選で米国民がトランプ氏を選んだのは、オバマ政権の消極的政策のために世界の危機が高まったという認識を抱き、オバマ路線とは異なる政治家を求めたからだとみる。トランプ大統領は、まさに非常事態だからこそ生まれた大統領だということだろうか。

【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!

世界の危機が高まっていると、警告するのは、ロバート・ケーガン氏だけではありません。たとえば、ジョセフ・ナイ氏も警告しています。ジョセフ・サミュエル・ナイ・ジュニア(Joseph Samuel Nye, Jr.、1937年1月19日 - )は、アメリカ合衆国の国際政治学者。ハーバード大学特別功労教授。アメリカ民主党政権でしばしば政府高官を務め、知日派としても知られます。

この、ジョセフ・ナイ氏が、「キンドルバーグの罠」という論文を先月9日に発表しています。この論文なかなかの優れものなので、以下にナイ氏の写真ととも、この記事の要約を掲載します。

ジョセフ・ナイ氏
キンドルバーグの罠 
トランプ次期大統領が対中政策の方針を準備するにあたって、歴史の教える注意すべき二つの大きな「罠」がある。 
一つ目は、習近平主席も引用した「ツキュディデスの罠」(Thucydides Trap)である。これは古代ギリシャの歴史家が発したとされる「既存の大国(例:米国)が台頭しつつある大国(例:支那)を恐れて破壊的な大戦争が起こる」という警告だ。 
ところがトランプ氏が気をつけなければならない、もう一つの警告がある。それは「キンドルバーガーの罠」(Kindleberger Trap)であり、これは支那が見た目よりも弱い場合に発生するものだ。 
チャールズ・キンドルバーガー
 チャールズ・キンドルバーガー(Charles Kindleberger)は「マーシャル・プラン」の知的貢献者の一人であり、後にマサチューセッツ工科大学で教えた人物だ。 
彼は破滅的な1930年代が発生した原因として、アメリカが世界大国の座をイギリスから譲り受けたにもかかわらず、グローバルな「公共財」(public goods)を提供する役割を担うことに失敗したことにあると指摘している。 
その結果が景気後退であり、民族虐殺であり、世界大戦へとつらなる、国際的なシステムの崩壊だというのだ。 
では力を台頭させている今日の支那は、グローバルな「公共財」を提供できるのだろうか? 
一般的な国内政治において、政府は国民全員の利益となる「公共財」、つまり警察による治安維持やクリーンな環境を生み出している。 
ところがグローバルなレベルになると、安定した気候や金融・財政、航行の自由のような「公共財」というのは、世界で最も強力な国が率いる同盟関係によって提供されるのだ。 
もちろん小国はそのようなグローバルな「公共財」のために貢献するインセンティブをほとんどもたない。彼らの小さな貢献は、そこから得られる利益の差を生むことはないため、彼らにとっても「タダ乗り」が合理的なものとなるからである。 
ところが最も強力な国は、小国たちの貢献の効果や差を感じることができる。だからこそ最も強力な国々にとって「自ら主導する」のは合理的なことになるのだ。もし彼らが貢献しないとなると「公共財」の生産は落ちてしまう。 
この一例がイギリスである。第一次世界大戦後に彼らがその役割を果たせないほど弱体化した後、孤立主義的なアメリカはそのまま「タダ乗り」を続けたために、破滅的な結果を生んだのだ。 
何人かの専門家は、支那は十分な力をつけても(自分たちが創設したわけではない)その国際秩序に貢献せずに、「タダ乗り」を続けると見ている。 
これまでの経過は微妙なところだ。支那は国連体制から利益を受けており、たとえば安保理では拒否権を持っている。平和維持軍では第二の勢力となっており、エボラ熱や気候変動の対処のような国連の計画にも参加している。 
また、支那は世界貿易機関(WTO)や世界銀行、そしてIMFのような多国的経済制度からも大きな恩恵を得ている。

2015年にはAIIBを創設し、これを世銀の対抗馬にすると見る人もいたが、実際は世銀と協力しながら国際的なルールを遵守している。 
その一方で、去年の南シナ海の領土問題におけるハーグの判決の拒否は、支那に対する大きな疑問を投げかけることになった。 
それでもこれまでの支那の行動は、自らが恩恵を受けているリベラルな世界秩序をつくりかえようとするものではなく、むしろその中で影響力を増そうというものだ。 
ただしトランプ政権の政策によって追い込まれると、支那は世界を「キンドルバーガーの罠」に落とす、破滅的な「タダ乗り」をする国になる可能性が出てくる。 
同時に、トランプはより有名な「ツキュディデスの罠」にも警戒すべきである。つまり弱すぎる支那よりも、強すぎる支那である。 
もちろんこの「罠」は、不可避であるわけではないし、その効果も誇張されることが多い。 
たとえば、政治学者のグレアム・アリソン(Graham Allison)は、1500年以降の既存の大国が台頭する大国に直面した16のケースのうち、12回が大戦争につながったと論じている。 
グレアム・アリソン氏
ところがこの数は不正確である。なぜならどれがその「ケース」に該当するのかが不明確だからだ。 
その一例として、イギリスは19世紀なかばに世界大国であったが、それでもヨーロッパ大陸の中心部に新たなドイツ帝国が誕生するのを見逃している点などが挙げられる。 
当然ながら、イギリスはそのおよそ50年後となる1914年にドイツと戦うことになったのだが、これは一つのケース、もしくは二つのケースとしてカウントされるのか微妙なのだ。 
第一次世界大戦は、単に台頭するドイツに直面した既存の大国であるイギリスというケースではなく、それに加えてドイツ国内におけるロシアの台頭に対する恐怖が原因であるし、衰退しつつあったオーストリア=ハンガリーにおけるスラブ系のナショナリズムの盛り上がりに対する恐怖のように、古代ギリシャの例とは違う無数の要因によるものであった。 
現在のアナロジーに関していえば、今日の米中間のパワー・ギャップは、1914年当時におけるドイツとイギリスの間よりもはるかに大きい。注意を促すという点ではたしかに比喩というのは有用だが、歴史的に不可避なような感覚を醸し出しはじめると危険なものになってくる。 
さらに古代ギリシャのケースでも、ツキュディデスが解説したようなシンプルなものではない。 
彼は第二次ペロポネソス戦争の原因はアテナイの力の台頭がスパルタの恐怖を起こしたことにあると主張しているが、イエール大学の歴史家であるドナルド・ケーガン(ブログ管理人注:ブログ冒頭の記事にでてくるロバート・ケーガンの父)の研究によれば、アテナイの国力は実際は台頭しておらず、紀元前431年に戦争が勃発した時のバランス・オブ・パワーは安定化し始めていたのだ。 
ドナルド・ケーガン氏
むしろスパルタに「リスクを冒しても戦争をすべきだ」と思わせたのは、アテナイの政策面での間違いだった。 
アテネの台頭は同世紀初期の第一次ペロポネソス戦争のほうの原因となったのだが、その後の30年間は停戦が続いた。ケーガンによれば、より破壊的なものとなった第二次ペロポネソス戦争が発生するためには、まだ消えさっていない火種を再び点火する火花と、それをマズい政策の選択を選び続けることによって煽ることが必要だったのだ。 
これをいいかえれば、この戦争は「非人間的な力」ではなく、難しい状況におけるマズい決断によって発生したのだ。 
これこそが、支那の台頭に直面する現在のトランプにとっての課題だ。彼は「強すぎる支那」と「弱すぎる支那」に同時に対処しなければならないからだ。つまり彼は「キンドルバーガーの罠」と「ツキュディデスの罠」の両方を避けなければならないのである。 
究極的にいえば、彼が避けるべきなのは、人類の歴史をむしばんでいる「計算違い」や「思い違い」、そして「早とちりの判断」なのである。
結論をリーダーの失策というところに求めているのは実務経験のあるナイ氏だからでしょうか。

それにしても、最近もトランプ政権のカオスぶりが目立ちます。

ドナルド・トランプ(Donald Trump)次期米大統領が国防長官への起用を発表しているジェームズ・マティス(James Mattis)元中央軍司令官(66)は先月12日、上院軍事委員会で開かれた指名承認公聴会の場で、ロシアが北大西洋条約機構(NATO)を破壊しようとしていると非難し、米国はかつての敵国ロシアに立ち向かう必要があるとの考えを示しました。

狂犬との異名を持つジェームズ・マティス氏
元海兵隊大将のマティス氏によるこの痛烈なロシア批判は、近く上司となるトランプ氏の対ロシア観とは懸け離れています。トランプ氏はこれまで、「非常に頭が切れる」などとウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の指導者としての手腕を繰り返し称賛し、両国間の関係改善を訴えてきました。

公聴会でマティス氏は、現在の世界秩序が直面している緊迫した状態をどのように認識しているかという質問に対して、第2次世界大戦(World War II)以後で最も大きな攻撃にさらされていると回答。「(その攻撃は)ロシアやテロ集団によるものであり、南シナ海(South China Sea)で支那が行っていることもそうだ」と指摘しました。

さらにマティス氏は、トランプ氏同様、ロシアとの関わり合いを深めることは受け入れるとしながらも「プーチン氏との協力の範囲については、ごく控えめな期待」しか抱いていないと強調しました。

ということで、アメリカという超大国も、政権中枢が混乱すると余計で無駄な戦争を起こす可能性もなきにしもあらずです。

ただし、ジョセフ・ナイ氏は、もっぱらトランプ大統領が「計算違い」や「思い違い」、そして「早とちりの判断」をする可能性を述べていますが、私としては、習近平やプーチンのそれのほうが、可能性は大きいと思います。

習近平やプーチンは、オバマ政権が軍事力を縮小して「全世界から撤退」したことを受けて、支那は海洋進出し周辺諸国の隷属化する道を歩み、ロシアはクリミア併合に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっています。

そうして、支那はもともと、建国以来ウイグル、チベット、内蒙古、満州などに侵略して版図を広げました。旧ソ連は、建国から崩壊まで、毎年平均するとオランダと同程度版図を拡大してきました。

これを考えると、ロバート・ケーガンが主張するように、支那、ロシアの軍事力行使の危険性があることを前提に、自由主義的な世界秩序の崩壊を防ぐために、米国はリーダーシップを取り戻すべきです。

米国がリーダーシップを取り戻すことにより、支那・ロシアが今後軍事力の行使を諦めればそれで良いですが、もし行使すれば、米国としてもこれに対抗するため行使する他ないでしょう。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は先月25日、米当局者の話として、トランプ政権が国連などへの拠出金の削減や、一部の多国間条約からの離脱を目指す二つの大統領令署名を検討していると報じました。国連への関与を大幅に見直し、政権が掲げる「米国第一」主義を推進する狙いがあるとみられます。

ご存知のように、国連とは英語では"United Nations"であり、これは直訳すれば、「連合国」です。国連とは、第二次世界大戦の戦勝国のための組織です。米国がここへの関与を大幅に見直し、関与をあまりしないようにするということは、米国が戦後体制から離脱することを意味します。

トランプ氏は大統領選で、支那の対米輸出拡大を批判して「45%の関税をかける」と繰り返していました。また、支那が通貨安誘導によって輸出を促進していると訴えていました。

しかし、これは事実上WTO加盟国に対してはできない措置です。どうしても、米国が支那に対して「45%」の関税をかけるということになれば、WTOを脱退しなければなりません。これも、戦後体制からの脱却を意味します。

ここまでしないとしても、米国としては、支那に対して金融制裁措置をとることもあり得ます。

戦後体制を概要を決定したヤルタ会談(前列左よりチャーチル、ルーズベルト、スターリン)
日本の保守層は、「戦後レジーム」からの脱却ということを主張してきました。私も、当然のことながらこれには賛成です。

ただし、私たちは現在米支露が「戦後レジーム」を崩壊させるほうに動いていることを理解すべきです。そうして、最悪のシナリオでは米・支・露三つ巴の戦争が起こる可能性さえあり得るということを銘記すべきでしょう。さらに、このことは日本を含めた世界中の国々に大きな影響を与えます。日本は、遅ればせながら今からでもそれに備える必要があります。

戦後体制が崩れれば、そのときには、北朝鮮のミサイル発射にも、支那の海洋進出にも、あらゆる外交課題について日本はアメリカに全面的に頼ることはできないと考えて臨むべきです。

日本の後ろにもうどのような場合でも、アメリカが存在していて、必ず助けるてくれるとは限らないと、覚悟するよりないのです。もう与野党で馬鹿な議論、誹謗合戦をしている暇はないのです。

しかしこれは、当たり前のことなのです。自分の国のことを他国に憚らず自分で決め、自分で守るのは、トランプ(大統領)に言われることなく、自明の理屈なのである。無論その時に、米国との対等同盟関係を築くことも選択肢の一つです。

しかし、アメリカに頼りきって、アメリカに守られながら生きる日本の時代、日本にとっての「戦後レジーム」は、間もなく終了するとみなすべきなのです。そもそも、これは当然のことです。どんなに強固な体制であっても同じ体制が永遠に続くことなどあり得ないのです。時代の変化にあわせて変わっていくのが自明の理です。

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