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2020年8月21日金曜日

習近平も恐れ震える…米の経済制裁から始まる「中国崩壊」のシナリオ―【私の論評】中共の幹部は考え方を180度転換しなければ米国の制裁は続き、枕を高くして寝ることはできない(゚д゚)!




共産党幹部への「個人制裁」

米国のドナルド・トランプ政権が中国と香港の高官に対する制裁を連発している。空母2隻を動員した南シナ海での軍事演習や中国総領事館の閉鎖などと比べると、一見、地味で小粒な対抗手段のように見えるが、中国共産党には、実はこれが一番効くかもしれない。

まず、最近の動きを確認しよう。

第1弾は米国務省と財務省が7月9日、新疆ウイグル自治区での人権弾圧を理由に実施した制裁だった(https://www.state.gov/the-united-states-imposes-sanctions-and-visa-restrictions-in-response-to-the-ongoing-human-rights-violations-and-abuses-in-xinjiang/https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1055)。

グローバル・マグニツキー人権説明責任法に基づいて、中国共産党中央政治局委員であり、同自治区の党委員会書記でもある陳全国氏のほか、同自治区の現・元公安部ら計4人を対象に、米国内の資産を凍結し、米国企業との取引を禁止した。

続いて、7月31日には新疆ウイグル自治区の準軍事組織である新疆生産建設公団と、その幹部である彭家瑞氏と元幹部の孫金竜氏の2人を制裁した(https://www.state.gov/on-sanctioning-human-rights-abusers-in-xinjiang-china/https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1073)。トランプ政権は、公団がイスラム系少数民族の大量強制収容に直接関与した、とみている。

さらに、香港に国家安全維持法が施行されると8月7日、米財務省は香港の自治と自由、民主主義に対する弾圧を理由に、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官や香港警察トップら11人を制裁した(https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm1088)。


トランプ大統領は7月中旬、中国との関係を極端に悪化させたくないという理由で一時、中国高官に対する制裁を見送る方向に傾いた、と報じられた。だが、以上を見れば、制裁続行は明らかだ。むしろ、今後も制裁は追加されていく可能性が高い。

こうした制裁は本人と中国に、どれほど打撃になるのか。

クレジットカードが使えない香港高官

米財務省には、制裁実務を監督する外国資産管理局(OFAC)という部局がある。制裁対象に指定された個人は「特別指定人物(SDN)」と呼ばれ、OFACの公開リストに掲げられる(https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20200807.aspx?src=ilaw)。

リストを見れば、各国政府はもちろん世界中の企業や個人、団体は、だれが米政府の制裁対象になっているか、ひと目で分かる仕組みだ。企業や個人は、自分が制裁されないように、SDNになった人物とは取引を中止せざるをえない。実際に、クレジットカード会社は林鄭月娥長官のカードを使用停止にした。


その点は、彼女自身が8月18日の記者会見で「個人的なことで多少の不便はあるが、気にするものではまったくない。たとえば、クレジットカードの利用が妨げられる」と認めた。この発言を受けて、米ブルームバーグはVISAとマスターカードにコメントを求めたが、返事はなかったという(https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-08-18/hong-kong-s-leader-has-credit-card-trouble-after-u-s-sanctions)。

クレジットカードの使用停止くらいなら、大した痛手ではないかも知れないが、次に大きな制約は、たとえば住宅ローンだ。SDNに指定された人物と銀行が住宅ローン契約を結んでいると、その銀行が制裁対象になる。それだけでなく、ローンごと住宅も没収されかねない。ローンが凍結されたら、銀行は担保の住宅を差し押さえざるをえないからだ。

では、どうするか。香港紙、サウスチャイナ・モーニング・ポストは8月18日付の記事で「制裁された香港警察のトップは、制裁の発動直前に別の中国系銀行にローンを乗り換えた」と報じている(https://www.scmp.com/business/banking-finance/article/3097848/hong-kongs-police-chief-shifted-his-mortgage-bank-china)。

同紙によれば、彼は2017年3月、ローンで香港のマンションを購入したが、トランプ政権が制裁を発表する3日前にローンを別の銀行に移し替えた、という。事前に制裁情報が漏れていたか、危険を察知したのかもしれない。

ちなみに、このマンションは広さ41平方メートルで80万6000米国ドル(約8500万円)という。警察トップが住むマンションにしては狭すぎる、と思われるだろうが、これは居住用でなく、投資用だった可能性が高い。記事は、彼が過去20年間に不動産取引で数百万香港ドルを稼いでいた、と報じている。

習近平政権は「内側から」崩壊する

話は、制裁される個人だけにとどまらない。

彼のローンはもともとHSBCが提供していたが、中国銀行(香港)に移された。HSBCは国家安全維持法を導入した香港当局を支持する姿勢を表明したが、一方で、米政府にも逆らえない。彼との取引を続けていたら、HSBCは米国に制裁されてしまう。そうなったら事実上、国際金融界から追放されたも同然になる。

中国銀行は中国政府の機関のようなものなので、米政府の意向を無視できるが、HSBCはそうもいかず、中国と米国の間で股割き状態になってしまった。同じようなケースはこれから、頻発するだろう。金融機関だけでなくホテルや航空会社など、高官が利用しそうな企業は、いずれも「中国をとるか、米国をとるか」二者択一を迫られるのだ。

クレジットカードや住宅ローンより強烈なのは、もちろん米国内にある資産の凍結、それから米国への入国制限である。中国共産党幹部の多くが米国に不動産などの資産を保有しているのは、よく知られている。これらの資産が凍結され、事実上、米国に没収されたら、彼らは怒り狂うに決まっている。

もともと米国の不動産を入手したのは、引退後、あるいは逃亡した後、米国で暮らすためだ。そのうえ、入国まで制限されたら、彼らの人生設計は完全に狂ってしまう。しかも、である。本人だけでなく、多くの場合、制裁は家族にも及ぶ。つまり、留学の形で先に逃した子弟や愛人の生活までが破綻しかねない。

トランプ政権は高官制裁を通じて、本人はもとより、本人と家族の日常生活に関わる、あらゆる「米国コネクション」を断ち切ってしまおうとしているのだ。

以上から、米国の制裁がいかに中国要人を痛めつけるか、分かるだろう。だが、米国の真の狙いは制裁そのものではない可能性もある。制裁によって、中国共産党内部の対立と分断を促して、習近平体制の基盤を揺るがそうとしている。

制裁された個人が「オレがこんな目に遭うのは、習近平のせいだ」と不満を募らせれば、政権の求心力が失われていく。真綿で首を絞めるように、ジワジワと周辺から締め上げて、最後にトップを倒す。トランプ政権はまさに、そんな作戦を展開しているように見える。1発の銃弾も使わずに、自己崩壊を狙っているのだ。

中共の浸透工作が日本にも…

さて、最後に私の身近で起きた中国共産党の浸透工作を紹介しておこう。中共が世界にばらまいている英字紙、チャイナ・デイリーが私の自宅に配られてきたのだ。

最初は購読している日本の新聞配達店が読者サービスでポストに入れたのか、と思った。そこで、配達店に聞いてみると「そんな新聞は配っていない」という。ご近所にも配られている形跡があり「これは誰かがポストに入れたのだ」と分かった。中共の工作員が1軒1軒、配って歩いていたのである。

英字紙だから、誰もが読むわけでもないだろうが、ご近所は外国人も多い。ちらっと目を通してもらうだけでも効果はある、と踏んでいるのだろう。

私は、見覚えのある著名エコノミストの写真が付いた解説記事に目が止まった。モルガン・スタンレー・アジアの元議長でイェール大学教授のステファン・ローチ氏だ。「エコノミストは『ギャング・オフ・フォー』を非難する」とタイトルにある。

ローチ氏は記事で最近、相次いで中国批判の演説をしたマイク・ポンペオ国務長官らトランプ政権の要人4人をやり玉に挙げて「彼らは米国経済のお粗末さから目を逸らすために、中国を攻撃しているのだ」と批判していた(ネット版は、https://epaper.chinadaily.com.cn/a/202008/10/WS5f309d28a3107831ec754257.html)。

これまで幾多の経済危機に際して、ローチ氏は鋭い見解を発信しつづけてきた。そのローチ氏がトランプ政権を厳しく批判し、中国の肩を持つとは、ファンの1人としてやや意外ではあった。
だが、考えてみれば「経済合理性に至上の価値を見い出すエコノミストとすれば、イデオロギー闘争の次元に行き着いた米中冷戦など、とんでもないと思うのだろう」と合点もいった。これは日本のエコノミストも同じである。
というわけで、タダで配られてきたチャイナ・デイリーはすぐゴミ箱行きにならず、こうしてコラムのネタにもなっている。暑い最中、誠にご苦労さまだが、ぜひ工作員の方は引き続き、私の自宅に配っていただけたら、と思う。
ただし、私はエコノミストではなく、ひたすら経済合理性重視でもない。中国批判の矛先が鈍るのを期待したら、がっかりするだろう。
8月18日に配信予定だった「長谷川幸洋と高橋洋一の『NEWSチャンネル』」は、政策工房社長の原英史さんをゲストにお招きし「コロナ下の規制改革」をテーマに議論する予定でしたが、高橋さんが軽い熱中症にかかったため、来週に延期となりました。高橋さんはすでに回復し、元気です。8月11日公開版は、大阪大学大学院の森下竜一寄附講座教授と学究社社長で元一橋大学客員教授の河端真一氏をゲストにお招きし、新型コロナワクチン開発の現状などについて徹底議論しています。ぜひ、ご覧ください。
【私の論評】中共の幹部は考え方を180度転換しなければ米国の制裁は続き、枕を高くして寝ることはできない(゚д゚)!

香港関連の制裁者名簿を以下に掲載します。
林鄭月娥(キャリー・ラム:Carrie Lam)香港特別行政区行政長官
陳國基(エリック・チャン:Eric Chan)香港特別行政区の国家安全保障委員会の事務局長 
鄭若驊(テレサ・チェン:Teresa Cheng)香港司法長官
李家超(ジョン・リー:John Lee Ka-chiu)香港特別行政区安全保障担当長官
鄧炳強(クリス・タン:Chris Tang)香港警察(HKPF)署長
盧偉聰(ステファン・ロー:Stephen Lo)元HKPF委員
曽国衛(エリック・ツァン:Erick Tsang)香港特別行政区憲法・本土問題担当秘書
駱恵寧(ルオ・フーニン:Luo Huining)香港連絡弁公室主任
夏宝龍(シア・バオロン:Xia Baolong)国務院香港・マカオ事務局長
張暁明(チャン・シャオミン:Zhang Xiaoming)国務院香港・マカオ事務局副局長
鄭雁雄(ツェン・ヤンシォンZheng Yanxiong)国家安全維持公署署長
⇒参照・引用元:『アメリカ合衆国 財務省』公式サイト「Treasury Sanctions Individuals for Undermining Hong Kong’s Autonomy(財務省、香港の自治を阻害したと個人に制裁を科す)」(原文・英語)

米国の制裁は過酷で、合衆国の金融機関の手の届く本人の資産、口座は全て凍結。新しく口座を作ることもできません。これは合衆国の金融機関だけではなく、イギリスの『HSBC』、さらには中国の金融機関も協力を始めています。


なぜかといえば、合衆国の制裁に協力しない金融機関もまた同様に制裁を受けるからです。合衆国に持つ口座を凍結されたりしたら、その金融機関の死活問題です。つまり、この11人、およびその家族は中国国内の金融機関においてもお金の移動などが制限される可能性が高いです。

合衆国の制裁について、「香港連絡弁公室」トップの駱恵寧主任は「海外に資産を持っていないので制裁は無意味」とうそぶいたそうですが、自分の家族にも累が及び、中国内の金融機関も制裁に協力するとしたらどうなることでしょうか。それでもうそぶいていられるでしょうか。

これは、日本で普通に暮らしている人や、中国人でもあまり資産を持たない一般人民には、想像できないところがあるでしょう。

多くの一般的な日本人は、貯蓄など円で行っています。わざわざドルに替える人は、特殊です。日本の円は国内では、無論のこと、海外でも信用力が高いので、その時々で為替の変動はあるものの、多くの日本人はそのようなことを気にしません。日本円で貯蓄するのが普通です。

日本国債は、ほとんどが日本の機関投資家が購入し、その金利はゼロに近いものや、マイナスになっているものもあるくらいです。この状況では、財務省やその走狗たちが、いくら財政破綻するなどといっても、多くの機関投資家は国債を購入します。

なぜでしょうか。円は非常に信用力があるので、国債を持っている限りにおいては、為替のリスクヘッジなど考慮する必要がないからです。わざわざドルにかえたり、米国債を大量に購入したりすれば、常に為替リスクがあるからです。日本円による貯蓄や、国債を所有することはこの為替リスクをヘッジ(避ける)ことになるがらです。

このような通貨を持つ日本と、中国の人民元とではまるで違います。人民元もある程度の信用がありますが、それはあくまで中国が所有するドルと、米国国債が信用の裏付けになっています。

仮に、中国政府のドル保有高や、米国債保有が少なくなれば、人民元の価値はかなり落ちます。

それと、貿易はほとんどの場合ドルで決済されています。人民元ではほとんど行われていません。中国政府のドル保有残高がなくなれば、ほとんどの貿易ができなくなります。

そうして、中国では、政府高官や富裕層は、ほとんどどの場合、ドルベースで蓄財しています。なぜなら、人民元は紙切れになる恐れがあるのですが、ドルはそうではないと信じているからです。

ここで、注目すべきは、米国はドル取引のほとんど全てに関する情報を把握できます。ということは、ドルベースのお金の流れは、ほとんど把握しているということです。

無論米国は、中国高官のドルベースでの預金や、金の流れなどほとんどを完璧に把握しています。

米国は、まずは香港関連の、高官などから、ドルベース資産の凍結や、米国への渡航禁止などの措置をはじめましたが、これは、どんどん対象が広がっていくのは目に見えています。

これに対して中国は米国に対して報復はできません。なぜなら、米国人で中国に大量を蓄財をしている人などいません。さらには、中国は米国高官の金の流れや信用情報など全く把握できていません。できることといえば、中国への渡航を禁止することくらですが、これはあまり意味を持ちません。

中国高官が、米国に入国できないことに比較すれば、米国高官が中国に入国できないことは、それほど深刻な問題ではありません。一生入国できなくても、ほとんど困ることはないでしょう。

「香港国家安全維持法」が施行された現状では、米国高官が中国に足を踏み入れれば、逮捕される可能性すらあるので、誰も行きたがらないでしょう。

さらに、米政府は米国在留中の中国共産党員とその家族のビザを取り消すことができ、そのうえ該当者の国外追放へと続けていく可能性もあります。こうなると、中共幹部の家族が米国から国外追放になり、さらに、資産も凍結ということで、二重苦、三重苦になるのは目に見えています。

私は米国がマグ二ツキー法を施行し始めた頃から、中共もこのような目にあうことを十分に予想できました。

米国には、まだまだ奥の手があります。究極の制裁は、米ドルと人民元の交換を禁止することと、中国の米国債を無効化することです。ここまで、実施された場合、中国経済は間違いなく、毛沢東時代に戻ることになるでしょう。贅沢に慣れ親しんだ、中共幹部にはこの状況は耐え難いものに違いありません。

中共もこれを十分に予想できたと思います。にもかかわらず、中共が新たな世界秩序をつくることを、わざわざ2018年時点で公表したのは、本当に愚かとしか言いようがありません。

先日もこのブログに書いたばかりですが、まさに中共高官は選択を迫られています。その記事より、以下に引用します。
中国共産党幹部は、厳しい選択を迫られているようです。習近平に従い続け、いずれ米国などにある個人資産を凍結されてしまい、家族がいる米国などに入国できなるどころか家族が米国から追い出されることを許容するのか、さらには米国による対中国冷戦により、経済が落ち込むだけではなく、あらゆる面で生活そのものが制約されるようになることを許容し続けるのか。
あるいは、習近平を失脚に追い込み、米国に親和的な体制に戻すのか?ただ一ついえることがあります。米国としては、まず習近平を失脚させることがすべての前提条件のようですが、その後に中共が根本的に体制を改めなければ、冷戦を継続するでしょう。
中国が、ドルの裏付けなしに、人民元を大量に刷りまくることもできますが、そのようなときに予想されるのは、深刻なインフレです。とてつもない、インフレが生じ中国国内は混乱の巷となることでしょう。

人民元を数える中国の銀行員
そのようなことを避けるには、二つに一つしかありません。一つは、中国を中心とした人民元を基軸通貨とする経済圏をつくり、細々と生きていく道です。この場合、米国や日本などの他の先進国との貿易はほとんどできず、日本から先端的な工作機械などを輸入できなくなり、中国はハイテク製品などは製造できなくなります。「中国製造2025」は絵に描いた餅にすぐなくなります。

二つ目は、まず習近平を失脚させ、中国の国内体制を変える道です。ただし、米国は中国の過去の裏切りには、ほとほと愛想がつきているでしょうから、習近平が失脚したくらいでは、制裁を継続することでしょう。

では、どうすれば、米国が制裁を解除できるかといえば、まずは中国共産党一党独裁をやめ、他の政党もつくり、全体主義をやめることです。

さらに、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を先進国並みに実施して、経済社会活動を自由にすることです。これをもって、多くの中間層を輩出して、自由に社会経済活動を実施させることです。

ここまで、実行するとおそらく、中国共産党は、統治の正当性を失い、崩壊することでしょう。

無論一足飛びにそれはできないでしょうが、それにしてもこの方向性で着実に前進していることを米国に示すことができなければ、米国は制裁を継続することでしょう。

ここで、大陸中国におおいに参考になるのは、台湾の民主化でしょう。とにかく、中共の幹部は考え方を180度転換しないかぎり、米国の制裁はおさまらず、いつまでも枕を高くして寝ることはできないでしょう。

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2020年8月18日火曜日

米トランプ政権の対中強硬路線―【私の論評】ポンペオ長官の楔は中共を震撼させ、北戴河会議で異変が(゚д゚)!

米トランプ政権の対中強硬路線

アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

昨年10月、ペンス米副大統領が、対中政策転換を示唆する演説を行った。それは、あたかも「現代版ハル・ノート」のようであった。

だが、今年7月、ポンペイオ米国務長官が習近平主席を名指しで非難する演説を行った。今、思えば、今度のポンペイオ長官の演説の方が、より「現代版ハル・ノート」に近いのかもしれない。


おそらく、米トランプ政権は、いつでも対中戦争を始められる準備をしているのではないか。よく知られているように、目下、米国の世論調査では、民主党のバイデン候補がトランプ大統領をリードしている。しかし、仮に、米軍が東シナ海・南シナ海で中国軍と開戦して勝利すれば、11月の大統領選挙でトランプ大統領の再選される可能性が高まるだろう。

一部の論者が指摘しているように、確かに、現在置かれている中国の状況は、戦前の大日本帝国のそれに似ているかもしれない。(ロシアや朝鮮半島を除き)中国は四面楚歌の状態である。

けれども、今の中国と昔の日本との最大の違いは、戦争のできる態勢にあるか否かではないか。現在、中国は、表向き「戦狼外交」を展開している。だが、それは国内の矛盾を隠すため、海外に強気な姿勢を見せているに過ぎないのではないだろうか。

1)経済の悪化、(2)「新型コロナ」の第2波・第3波の襲来、(3)長江・黄河流域の洪水(特に、前者の場合、三峡ダムを死守するために上下流の堤防を決壊させている)、(4)蝗害等、中国共産党が対米戦争を遂行するに当たっての障害には枚挙にいとまがない。

かつての大日本帝国は、戦争も辞さない「強硬派」と戦争を回避しようとする「融和派」に分かれていた。しかし、一旦、「大東亜戦争」が始まったら、国内は一致団結した。

だが、今日の中国は「習近平派」と「反習近平派」に分かれ、激しい党内闘争を行っている。例えば、今年の夏、非公式の北戴河会議が開催された。だが、その期間が非常に短かったのである(中国共産党ナンバー3の栗戦書<全国人民代表大会常務委員長>がすでに北京へ戻ったという情報もある)。

こんな状況下で、中国共産党が対米開戦に踏み切れるのか、甚だ疑問である。

さて、最近、トランプ政権は具体的にどんな対中強硬政策(「ウイグル人権法」及び「香港国家安全維持法」への報復措置を含む)を採ってきたのか、主な政策を列挙してみよう。
ファーウェイ(華為技術)と関連企業114社への輸出管理を強化した。 
米国人にファーウェイ(華為技術)の使用を禁じている(規制はTikTokやWeChatまで及ぶ)。 
米国では「クリーン・ネットワーク計画」と呼ばれる取り組みを拡充し、通信分野での中国企業を排除した。 
テキサス州ヒューストンの中国総領事館を閉鎖した。 
中国人記者に対し、駐米ビザの延長を厳格にする。 
米国への中国人留学生を厳しく規制する。 
中国高官の米国資産を凍結する。 
中国高官の米国へのビザ発給を厳格化する。 
米国は西太平洋に、2つ、ないしは、3つの空母打撃群を展開させた。トランプ政権は、いつでも中国軍を迎え撃つ準備が整っている。 
米政府は、台湾との関係強化、および台湾の国際的地位向上を目指し、今年8月9日、アレックス・アザール厚生長官を同国へ送り込んだ(2014年、マッカーシー環境保護局長官以来、6年ぶりの閣僚訪台となる)。 
米国上院は、2021年度「国防権限法(NDAA 2021)」を可決した。その中で、台湾を環太平洋軍事演習(リムパック)に招請することが提案された。
その他、トランプ政権の意向を受けてか、米戦略国際問題研究所(CSIS)は、日本の「親中派」の代表、自民党の二階俊博幹事長や今井尚哉首相補佐官を名指しして非難した。米国が日中間の緊密な関係を憂慮している証左ではないか。

ところで、米『ワシントン・タイムズ』紙は、今年6月15日付で、余茂春(Miles Yu、マイルズ・ユー)米海軍兵学校(USNA)教授との独占インタビュー記事を掲載した。

実は、余茂春は、ポンペイオ国務長官のアドバイザーであり、トランプ政権で対中政策を担う重要人物である。余は、重慶市で生まれ育ち、「文化大革命」を経験した。1979年に南開大学歴史学部に入学している。1983年、余茂春は同大学を卒業後、渡米し、1985年にペンシルバニア州のスワースモア大学(Swarthmore College)に入学した。そして、1994年、カリフォルニア大学バークレー校で歴史学博士号を取得した。

その後、余は、米海軍兵学校で近代中国と軍事史の教鞭を執る。現在、余茂春の教え子の中に、米国防省や国務省で要職についた人が少なくないという。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。元拓殖大学海外事情研究所教授。専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等。

【私の論評】ポンペオ長官の楔は中共を震撼させ、北戴河会議で異変が(゚д゚)!

ポンペオ氏の今回の演説は、まさにハル・ノートのようなものです。

    「ハル・ノート」(1ページ)
    (外務省外交史料館提供)
昭和16年(1941年)11月27日(木)6:45から8:45にかけて(米時間 26日 16:45から18:45にかけて)、野村吉三郎駐アメリカ大使と来栖三郎特命全権大使は、ハル米国務長官と会談します。ここでハルは「乙案」の拒否を示す「ハル・ノート」を提示しました。これによって、「乙案」を最終案とする第7回御前会議以来の日本の交渉は破綻しました。

今年の北戴河会議は、2年前と較べても、さらに強烈なアメリカ発の「津波」が押し寄せている中で開かれました。米国と対決するのか、妥協を図るのか。21世紀前半の中国の命運を左右する「大英断」を、習近平政権は迫られたのです。

日本でたとえるなら、太平洋戦争を決断した1941年(昭和16年)の御前会議のようなものです(無論実体は全く違います、あくまで単なるたとえです)。

御前会議

 習近平総書記は、2018年3月に国家主席の任期を撤廃し、「半永久政権」の道筋をつけました。来年7月に控えた中国共産党創建100周年で、「過去4000年でどの皇帝や王も成し得なかった貧困撲滅の達成」を宣言する予定です。 

その功績を掲げて、2022年秋の第20回中国共産党大会で、総書記再任を決めます。続いて、2023年3月の全国人民代表大会で国家主席を再任させるのです。これが習近平総書記が狙う半永久政権構想と思われます。 

ところが今回、米国はそこに大きな楔(くさび)を打ち込んでのです。「トップを替え、国家体制を替えなければ、戦争も辞さない」というわけです。

こうしたポンペオ氏の演説の直後に、北戴河会議は開催されたのです。この楔は相当に効いたようです。

国営新華社通信電子版は8月14日、中国共産党機関紙・人民日報の評論記事を転載しました。記事は「なぜ人民軍隊に対する党の絶対的な指導制度を揺るがしてはならないのか(中国語は、党対人民軍隊的絶対領導制度為何動揺不得?)」とのタイトルがつけられ、中国共産党による軍の支配権について持論を展開しました。

同記事は終始、中国の軍は共産党の軍であると主張しました。

「国家は、階級の矛盾による調和不可能の産物である。軍隊は階級統治の暴力的ツールだ。(中略)国家政権を奪取し、政権を強化していくにはまず、軍を掌握しなければならない」

「政権を奪取するため、必ず強い武装力量(軍)を持たなければならない。(政権奪取で)勝利した後、武装力量を借りて…自らの統治を維持していくべきだ」

「この軍隊は最初から最後まで、党の指示に従う。いかなる人がいかなる方法で、軍を党から離脱させようとしても、失敗に終わるだろう」

「(文化大革命の)四人組は常に軍権の掌握を狙っていた。しかし、軍は彼らの指令に従わなかった。四人組が失脚した際、軍権の掌握ができなかったと嘆いた」

中国国民にとって、人民解放軍が共産党の支配下にあることは言うに及ばないことである。北戴河会議の開催中に、官製メディアが軍権掌握に関する記事を発表したのは意味深長で、党内で軍権をめぐる激しい論争、または争奪戦が勃発した可能性があると推測できます。中国共産党の歴代最高指導者が自らの権力基盤を強固にするには、軍権の掌握を必須条件としてきたからです。

記事の中では、「(軍に対する)最高領導権と指揮権は、党中央にある。(中略)軍事委員会主席の責任制度を貫徹し、(軍の)すべての行動について、党中央、中央軍事員会および習近平主席の指揮に従うことを確実に守っていく」との内容があります。

この内容から、北戴河会議において、一部の人物が中央軍事委員会主席を務める習近平氏に異議を唱えたとみられます。または、軍への指導権を分権化すべきだという意見もあったと見て取れます。

しかし、習近平氏らはこれらの意見をすべて却下したようです。「絶対的な領導制度というのは、『絶対的な』要求に達するということだ。(中略)これは手抜きしてはいけないうえ、議論の余地もないということだ。いわゆる『絶対』とは、…唯一性、徹底的にかつ無条件に行うことを意味する。全軍の絶対的な忠誠心、絶対的な純粋さ、絶対に信頼できることを守っていく」

この記事は一部の内容にも関わらず、文脈から軍権をめぐって、会議中に習派閥とその反対勢力の間に生じた張りつめた気配が強く感じとれます。

さらに、記事が示唆した他の内情も多くあります。

例えば、「敵対勢力は、『軍の非党化、非政治化』と『軍隊の国家化』を大々的に宣伝しており、(中略)軍隊を党から分離させようとしている」

「いわゆる『政治的遺伝子組み換え』を行い、軍の『色』を変えようとする狙いがある。その下心ははっきりしている」

「『軍の非党化』という主張を持つ人は、西側国家の軍と政党の関係性の表面しか見ていない。政権を担う政党が変わる時、軍の指導権は資産階級の『左手』から『右手』に変わったに過ぎない」

これには、多少説明を要するかもしれません。中国人民解放軍は他国にみられるような軍隊ではありません。国に所属するのではなく、共産党に所属する共産党の私兵であり、さらに驚いたことには、様々な事業を展開する日本で言えば総合商社のような存在でもあるのです。いわば、武装した総合商社のような存在なのです。

「いわゆる『軍の非政治化』は、軍が政治問題に介入しないことを指すが、これも実際には、資産階級の嘘のスローガンである」などがあります。

これらの情報から、北戴河会議の一部の出席者が、人民解放軍を党の軍隊ではなく、国の軍隊にすべきだという異例の声があったことが読み取れます。しかしながら、党の指導者に軍への支配を放棄させることは、権力を放棄させることを意味します。党の最高指導者はこのような声を絶対に容認できません。習陣営は、この記事を通じて強く反論したのでしょう。

人民解放軍の実体は、中共の私兵である同時に、様々な事業を行う武装した総合商社である

党内の激しい対立を露呈したこの記事は、まもなく新華社通信電子版から取り下げられました。いずれにせよ、人民解放軍の所在は中国共産党の根幹にかかわる大問題です。ポンペオ長官の楔は相当に中共を揺るがしたとみるべきです。

中国共産党幹部は、厳しい選択を迫られているようです。習近平に従い続け、いずれ米国などにある個人資産を凍結されてしまい、家族がいる米国などに入国できなるどころか家族が米国から追い出されることを許容するのか、さらには米国による対中国冷戦により、経済が落ち込むだけではなく、あらゆる面で生活そのものが制約されるようになることを許容し続けるのか。

あるいは、習近平を失脚に追い込み、米国に親和的な体制に戻すのか?ただ一ついえることがあります。米国としては、まず習近平を失脚させることがすべての前提条件のようですが、その後に中共が根本的に体制を改めなければ、冷戦を継続するでしょう。

いずれにしても、中共幹部は、厳しい選択を迫られているのです。

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米国、中国に“宣戦布告”…米英が水面下で戦争の準備、テロ支援国家に指定の可能性も— 【私の論評】トランプの5人の騎士が、中共の息の根を止める!(◎_◎;)


2020年7月28日火曜日

米国、中国に“宣戦布告”…米英が水面下で戦争の準備、テロ支援国家に指定の可能性も— 【私の論評】トランプの5人の騎士が、中共の息の根を止める!(◎_◎;)

米国、中国に“宣戦布告”…米英が水面下で戦争の準備、テロ支援国家に指定の可能性も
文=渡邉哲也/経済評論家

アメリカのマイク・ポンペオ国務長官

 アメリカと中国の対立が、お互いの総領事館を閉鎖し合うという異例の事態に発展している。

 アメリカがテキサス州ヒューストンの中国総領事館を「スパイ活動および知的財産窃盗の拠点」という理由で閉鎖し、対抗措置として、中国は四川省成都の米総領事館を閉鎖した。そのため、今度はアメリカが次に何をするかが注目される。仮に追加の制裁に動けば、中国も再び対抗し、応酬がエスカレートしていくだろう。

 ここで問題になるのは、「タイミング」と「さじ加減」だ。アメリカとしても、自国への悪影響を考えれば、時間をかけて段階的にデカップリング(切り離し)を進める方が得策だと思われる。マスク問題などにみられるように、日本を含む西側諸国は中国に依存している部分もあるため、急激なデカップリングは危険をはらむことになる。生産や調達の代替が可能になってからでないと、国内への影響が大きくなりすぎてしまうわけだ。

 しかし、時間がかかりすぎると、その間に中国はさまざまな方法でアメリカへの対抗手段を確保し、安全保障上のリスクが拡大しかねない。そのため、猶予期間は限られており、今は嵐の前の静けさとも言える状況なのだ。

 これらの背景には、中国が香港国家安全維持法を一方的に施行した問題がある。これは、香港に保障されていた「一国二制度」を反故にすると同時に、自由主義社会への挑戦状とも言えるものである。

 アメリカのマイク・ポンペオ国務長官は演説で「習近平国家主席は破綻した全体主義思想の真の信奉者」「中国共産党から自由を守ることは私たちの時代の使命」などと語り、対中強硬路線を改めて打ち出した。これは、事実上の宣戦布告といえる発言だろう。

米英と中国の対立が激化、戦争の準備へ

 また、悪化する米中関係に、香港問題の当事者であるイギリスおよびイギリス連邦が加わる形で混迷を極めている。

 イギリスは香港に居住する約290万人の「英海外市民」について、ビザなしでイギリスに滞在できる期間を6カ月から5年間に延長し、市民権の取得を促す緩和策を発表した。また、香港政府と結んだ犯罪人の引き渡し条約の停止を表明し、2027年までに中国企業の華為技術(ファーウェイ)を次世代通信規格「5G」から完全排除する方針を決定した。

 これらの動きに猛反発した中国は、英海外市民が持つ旅券を「有効な旅券として認めない」と表明し、さらに追加措置の行使も示唆している。イギリスおよびイギリス連邦としては自国の旅券を否定されたことになり、これは戦争の理由として十分なものだ。今後は、相互主義に基づき、中国の旅券を無効化するかどうかが注目されるが、その場合は香港市民の出国に大きな制限が課せられることになってしまう。

 また、ポンペオ国務長官はイギリスのボリス・ジョンソン首相、ドミニク・ラーブ外務大臣と会談を行い、香港問題などでの連携を確認し、中国と対峙するための連合構築も示唆した。さらに、アメリカのマーク・エスパー国防長官は年内に訪中し、対話の手段を探る意向を示しているが、これらの動きは戦争の準備行為とみることもできるだろう。


 そもそも、領事館や大使館の閉鎖というのは宣戦布告の正当な理由となる行為であり、戦争の前段階と言える動きだ。


 また、中国が国家的に、全米の領事館を通じて極左暴力集団「ANTIFA」や黒人差別に対する抗議デモ「「Black Lives Matter」を主導し、援助したとの報道も出てきている。アメリカはこれらの動きに対して背後関係を含めて徹底的に調査するとしており、事実関係が確認されれば、国内のテロ行為の陽動および支援ということで、テロ支援国家の指定に向けて動き出すことも考えられる。


 テロ支援国家に指定された場合、輸出管理におけるアメリカ原産の割合が25%から10%にまで引き下げられ、ハイテク関連製品などの輸入はほぼできなくなる。また、金融制裁など追加オプションを発動する大義名分にもなり、中国に対して北朝鮮と同様の処置が可能になるわけだ。

 米中対立は、今後も予断を許さない状況が続きそうである。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】トランプの5人の騎士が、中共の息の根を止める!(◎_◎;)


トランプの5人の騎士が中共をこらしめる?

ここ最近立て続けに、オブライエン補佐官、FBIのレイ長官、バー司法長官が、相次いで対中政策の演説を行ないました。また、中国共産党を厳しく批判してきたポンペオ国務長官も、上の記事にあるように、演説をしました。

オブライエン氏は6月24日、アリゾナ州フェニックス市での講演で、「中国共産党がマルクス・レーニン主義を信奉する全体主義の政党である」「習近平主席は自分をスターリンの後継者としている」と述べ、「米国が中国共産党に対して受動的で未熟な時代は終わった」「中国共産党の信条と陰謀を暴くことは、米国人だけでなく、中国人や世界の人々の福祉のためでもある」としました。

FBIのレイ長官は今月7日、米シンクタンク・ハドソン研究所での演説で、中国共産党の対米攻勢について、民主国家への勢力浸透、秘密情報網の構築、大量のサイバー攻撃などあらゆる手段を用いたことで、米国経済および国家安全に計り知れないダメージをもたらしたと述べました。

同氏によると、中国共産党によるスパイ活動は2500件に達し、この10年で中国がらみの経済スパイは1300%増加したそうです。約10時間ごとに中国人が関わるスパイ事案が発生しているといいます。

バー司法長官は16日、ミシガン州での講演で、中国共産党の世界征服の野望にいかに対応するかが、21世紀に向けて全米ひいては全世界が直面する最も重要な議題であるとし、「世界の偉大な古代文明の一つを鉄拳で支配する中国共産党は、中国の人々の計り知れない力、生産性、創造性を悪用し、ルールに基づいて構築された世界秩序を覆そうとしており、それによって世界で独裁政権が定着することを目指している」と述べました。

それに続き、ブログ冒頭の記事にもある、27日のポンペオ長官の演説です。

米トランプ大統領の元首席戦略官のスティーブ・バノン氏は7月20日、米FOXニュースとのインタビューで、トランプ大統領は中国共産党に対して「一貫性のある計画」を持っており、それによって中国共産党を解体していくとの見解を述べました。

同氏によると、まず中国共産党と「対抗」し、次に中国共産党を「崩壊させる」という2つのステップで計画を進めている。「最初に立ち向かい、それから中国共産党を打ち負かし、彼らの虚勢を暴くという総合的な作戦を目にすることになるだろう」というのです。

バノン氏は、トランプ大統領の陣営が、中国共産党の脅威に対抗するため、ロバート・オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官、クリストファー・レイ連邦捜査局(FBI)長官、マイク・ポンペオ国務長官、そしてウィリアム・バー司法長官という「四騎士」を配置していると述べました。

「この4人は、技術や情報戦、経済戦で中国共産党と対峙するほか、同盟国とともに南シナ海で開放的な海洋秩序を構築し、中印国境紛争でインド側を支援するなど、一貫性のある包括的な戦争計画を立てている」

トランプ政権が、中国共産党の脅威に対抗するため、配置した「四騎士」

また、バノン氏は「私は財務長官の参戦を望んでいる」と述べ、「この戦争計画はすでに目の前に浮かんでいる。米国に侵入した中共ウイルス(CCP Virus、新型コロナウイルス)と同じレベルの一貫性を維持する必要がある」としました。

南シナ海では依然として緊張の高まりが続いています。17日付けの米政府系メディア、ラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、最新の衛星画像で、中国当局が南シナ海のパラセル諸島最大の島であるウッディー島(中国名・永興島)に、戦闘機8機を配備していることが確認されたといいます。

米軍も南シナ海への軍事関与を強化しています。米海軍の「ニミッツ」と「ロナルド・レーガン」のニミッツ級航空母艦(原子力空母)2隻は17日、南シナ海で2回目の演習を行いました。また、米空軍のE-8C偵察機1機が過去1週間で4回も、中国の海岸に対して接近偵察飛行活動を行ったのは極めて異例のことです。

マーク・エスパー米国防長官は21日、中国共産党が過去1年間に南シナ海で軍事的挑発行為を繰り返し、地域的緊張を高めているとし、中国共産党と対峙する可能性に備え、アジア全域に米軍を配置していると述べました。

このブログでは、様々な根拠から中国は、世界のいずれかで局地戦を行う可能性が高いことを主張してきました。

トランプ政権による、四騎士の配置は、これに対する牽制と、中国が何らかの局地戦や米国へのテロ攻撃、浸透工作などを実施した時の、備えであると考えられます。

安全保障関連だけではなく、司法や、国内の治安維持も含めた総合的対応を目指していることを示すものです。従来は、中国にはサラミ戦術などでしてやられてきた米国ですか、今度はたとえサラミ戦術であろうとなんであろうと、中国が何か行動に出た場合、それを最終的には軍事力を用いてでも絶対に阻止するという意思の現れです。

さて、バノン氏は5番面の騎士としての財務長官の登場を望んでいるようですが、これはどういうことかといえば、中国による対米投資の本格的な制限等を実行することを意味していると解釈できます。いやそれどころか、中国が所有する米債権の無効化や、ドルと人民元の交換停止などの、措置もあり得るかもしれません。

5人目の騎士? ムニューシン米財務長官
ただし、現状では、ブログ冒頭の渡邊氏の記事にもあるように、「タイミング」と「さじ加減」から行って、本格的な財務的措置は、今のところ米国にとっても害が大きすぎると考えているのでしょう。

米国としては、米国と中国デカップリング(切り離し)が進んだ段階で本格的な財務的制裁措置を行えば、米国にとっても害が少なくなると考えているのでしょう。

今の段階では、四人の騎士が、中国が米国外であろうと、米国内であろうと、何か手を打って来た場合、迅速に対応できる体制ができていることを表明したという段階でしょう。そうして、実際に何かが起きれば、迅速に手を打つでしょう。

そうして、何かが起これば、この四人は互いに緊密に連携して対応をするというような、愚かなことはしないでしょう。そんなことをすれば、”Too Late”ということになりかねません。

この四人は、何かが起これば、自分ができる範囲の中ですぐに行動を起こし、その後に連絡を取り合うことになるでしょう。これで、どのような中国の迅速な動きも、制することができるでしょう。

そうして、いずれ5人目の騎士、ムニューシン米財務長官が加わり、米国による中国への本格的制裁が始まることになるでしょう。

最後の財政的制裁措置に関しては、すぐに全部を展開することはないとしても、大統領選挙の前に、かなり衝撃的な手を一つくらいは、打つ可能性があると思います。

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2020年7月26日日曜日

未来学者フリードマン氏が看破する中国の致命的弱点— 【私の論評】中共は米国に総力戦を挑むことはないが、国内で統治の正当性を強調するため、世界各地で局地戦を起こす可能性大!(◎_◎;)

未来学者フリードマン氏が看破する中国の致命的弱点

米中間に「トゥキディデスの罠」が当てはまらない理由

中国、北京の道路

(平井 和也:翻訳者、海外ニュースライター)

 近年、米中対立が激しさを増している中で、国際政治の専門家の間で米中間の「トゥキディデスの罠」という考え方が浮上している。トゥキディデスの罠とは、新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、2国間で生じる危険な緊張の結果、戦争が不可避となる状態を指す言葉だ。ハーバード大学のグレアム・アリソン教授が古代ギリシャの歴史家トゥキディデスにちなんで提唱した概念として注目されている。

 アリソン教授は、東京新聞のインタビュー記事(2019年12月2日)の中で「トゥキディデスの罠に米中が陥り、全面戦争に発展する可能性は高まっているのか」という問いかけに対して、「もしトゥキディデスが今の米中関係、特に中国の国益を追求する姿を見ていたら、新興国(中国)と覇権国(米国)は、衝突する方向に明らかに加速している、と言うだろう」と答えている。

 この米中のトゥキディデスの罠について、米ジオポリティカル・フューチャーズ(GPF)の創設者であり、世界的なインテリジェンス企業ストラトフォーを創設したことでも知られている未来学者・地政学アナリストのジョージ・フリードマン氏が、7月14日にGPFのサイトに一読の価値がある論考を発表した。

 フリードマン氏はこの論考で、「中国の台頭」にまつわる言説には誤解があると指摘し、米中間に「トゥキディデスの罠」は当てはまらないと述べる。中国には経済面、軍事面で「弱点」があり、依然として米国には対抗できないというのだ。以下では、フリードマン氏の論考の概要を紹介したい。

「台頭する中国」は誤認

 記事の冒頭でフリードマン氏は、アテネとスパルタの間で戦われたペロポネソス戦争から数千年後に、評論家たちは「この戦争が、権威主義的な政府は民主的な政府を打ち破るだろうということを示した」と論じたとし、この考え方は第2次世界大戦の初期段階に広く唱えられ、冷戦の間も繰り返し唱えられたと述べている。

 ただしフリードマン氏は、「実際には、民主主義国と圧政的な体制についてトゥキディデスが言ったことは、敗北主義者が引き合いに出す単純なスローガンよりもはるかに洗練されて、複雑なものなのだ」と指摘する。

 トゥキディデスの罠が持ち出される言説には、しばしばいくつかの間違っている点があるという。フリードマン氏は次のように述べている。

 「間違っているのは、中国が台頭する大国だという考え方だ。中国は毛沢東の死後から急激に盛り上がったという意味で台頭という言葉を使っているのだとしたら、それは正しい。しかし、中国が米国に挑戦することができるくらいまで台頭したと言われているのは、誤認に基づいた言説だ。米国が過剰反応するかもしれないという議論は、この間違った認識に基づいている。米国は中国に強い圧力をかけるという戦術を選んでいるが、そのリスクは低い」

中国の輸出依存体質

 フリードマン氏によると、中国に関して最も重要な点は、中国の国内市場が、工場で作られた製品を資金的に消費できないことである。

 「中国は確かに成長したが、その成長ゆえに海外の顧客に囚われの身となってしまったのだ。中国の国内総生産(GDP)の20%は輸出によって生み出されており、輸出の5%を買っているのは、中国にとって最大の顧客である米国だ。長期的に見て中国経済を約20%減少させる可能性があるのは、このどうしようもない脆弱性だ。新型コロナウイルスが今後も多くの国を傷つけ続けるだろうが、中国にとっては、国際的な貿易が崩壊すれば、国内消費の減少が海外市場の損失の上に現われることになる」

 「中国は米国からの非軍事的な脅威にさらされている。米国はそのGDPの1%のわずか半分を中国からの輸出に依存しているにすぎない。米国は中国製品の購入を減らすだけで、中国にダメージを与えることができる。中国が台頭する大国だとしても、その台頭は非軍事的な非常に滑りやすい傾斜の上に成り立っている」
 加えてフリードマン氏は、米国にはさらに軍事的な破壊的なオプションがあるとしている。

 「中国は、大きく依存している世界市場に、東海岸の港からアクセスしなければならない。そのため、南シナ海は中国にとって特別な利益を握る境界だ。

 中国は海洋にアクセスするために少なくとも1カ所の出口から通商航路をコントロールしなければならない。しかし、米国はこれらの通商航路をコントロールする必要はなく、中国に航路を与えなければいいだけの話だ。この違いには極めて大きな意味がある。中国はアクセスを確保するために、米国を深くまで後退させる必要があるが、米国は、巡航ミサイルを発射するか、または地雷を設置するための適所にいるだけでいいのだ」

中国が太刀打ちできない洗練された同盟システム

 さらにフリードマン氏は、米国の同盟システムの有効性について述べている。

 「米国海軍は、アリューシャン列島から日本、朝鮮、台湾、フィリピン、インドネシア、オーストラリアに至るまでの太平洋をコントロール下に置いており、中国が太刀打ちできないような洗練された同盟システムを持っている。

 同盟国を持たないということは、紛争時に他の国を巻き込む戦略的なオプションを持たないということだ。中国は周辺の1カ国と同盟関係を結ぶだけで、戦略的な問題は解決するかもしれない。同盟国を獲得できないことは、中国の力と信用を地域的に評価する上での指標となる。中国の戦略的な問題には、中国の国益に対して敵対的なベトナムやインドといった国と国境を接しているという面もある」

 「仮想的には、中国はロシアと同盟関係を構築できるかもしれない。だが問題は、ロシアが西方とコーカサス地方に注力しなければならないという点にある。ロシアには中国に貸せるような陸軍はなく、太平洋の作戦で決定的な意味を持つような海軍も持っていない。ロシアによる西方からの、そして中国による東方からの同時攻撃は、一見すると興味深いものに思えるが、米国と同盟国を分断するには至らず、中国に対する圧力を排除でき
ない」

輸出依存のままで戦争を始めるのは無理な話

 次にフリードマン氏は、中国の輸出依存体質について再度強調する。つまりグローバルな貿易システムに組み込まれた中国の脆弱性について、である。

 「中国が台頭する大国であることは確かだが、前述のとおり、中国は毛沢東時代から台頭している。中国は相当程度の軍隊を持っているが、その軍事力は輸出依存という脆弱性が排除されない限り、縛られたままだ。このような状況では、戦争を始めるなどというのは無理な話だ。中国はたぶん世界のどこの国よりも、グローバルな貿易システムを破綻させるようなリスクを冒すことができない国だ」

 「米国は西太平洋での戦争には興味がない。西太平洋の現状は満足のいく状況であり、紛争を起こしても、何も得るものはない。ただ、米国は太平洋をあきらめてはおらず、これまでにも太平洋を維持するために、第2次世界大戦や朝鮮戦争、ベトナム戦争を戦ってきた。米国は中国大陸を侵略したり征服したりすることはできないし、巨大な中国陸軍に対して軍を差し向けることもできない。その意味で、中国は安全だ。中国が恐れているのは、世界市場からの孤立という海洋にある」
トゥキディデスの罠は米中には当てはまらない

 軍事力そのものに関しても、米国は今なお中国に対して圧倒的に優勢だという。フリードマン氏は以下のように述べる。

 「戦争に勝つためには、経験豊富な人員と、勇敢でモチベーションの高い軍隊、へまをしない工場が必要だ。工学技術は戦争の一部だが、その本質ではない。もちろん、テクノロジーは重要だが、それは実戦経験を積んだ人々の手の中にあって初めて決定的な意味を持つ。

 しかし、中国はそれを欠いている。ハードウェアとテクノロジーを持っているとは言っても、中国は1895年以来、海戦を戦っていない。中国は陸上での戦闘経験と比べて、海戦の伝統がない。それに対して、米国は、航空機で陸上の標的に対抗したり、対潜水艦調査を実施したり、実戦環境で艦隊用の防空システムを運用したりしてきた豊富な経験がある」

 「私が誤認した識者の意見に反対するのは、この点においてである。彼らは、米国が追いついていないテクノロジー面での優勢に着目して、中国は台頭していると考えている。たぶんその通りだと思うが、米国は依然として経済的な優勢、地理的な優勢、同盟関係における政治的な優勢、海と空、宇宙における経験の優勢を誇っている。テクノロジーは、これらの点における不足を相殺するだけだ」

 以上のような考察からフリードマン氏は、「トゥキディデスの罠という概念は米中には当てはまらない、と私は考えている。中国はいかなる側面においても、米国を追い詰めてはいない」と結論づける。米国は実戦経験など様々な分野において依然として圧倒的な優勢を誇っているため、トゥキディデスの罠の理論は米中には通用しない、というわけである。
【私の論評】中共は米国に総力戦を挑むことはないが、国内で統治の正当性を強調するため、世界各地で局地戦を起こす可能性大!(◎_◎;)
私は、フリードマン氏の主張には全面的に賛成です。なぜかについては、もうすでにこのブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
米、対中制裁リストに11社追加。ヒューストン中国領事館閉鎖命令— 【私の論評】米中はトゥギディディスの罠に嵌って総力戦をすることはないが、局地戦あり得る!(◎_◎;)

習近平とオバマ


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事ではそもそも中国は超大国ではないし、超大国になる見込みもないことから、米中はトゥキディディスの罠に嵌って、総力戦をすることはないが、米軍が南シナ海の中国軍基地を爆撃するなどの、局地戦はあり得ることを掲載しました。

上の記事で、フリードマン氏は指摘はしていませんでしたが、いわずもがなの、米ドルは基軸通貨でありながら、人民元はそうではないということも、中国にとって徹底的に不利です。

何しろ、元々人民元は、中国が多数の米ドルや米国債を所有していることにより、保証されているわけです。

そもそも、米国が中国による米ドルの使用禁止を実施したり、中国米国債の無効化をしてしまえば、人民元は紙切れになる可能性もあります。

そうして、それ以前に、国際貿易のほとんどが、ドル決済されているため、中国は貿易ができなくなります。

このような状況では、中国が米国に対して戦争を挑むようなことは到底考えられません。

トゥキディデスの罠とは、新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、2国間で生じる危険な緊張の結果、戦争が不可避となる状態を指す言葉ですが、中国が米国にとってかわろうことなど到底できません。

にも関わらず、中国はなぜ、戦浪外交を展開するのでしょうか。それには、二つの可能性があります。一つは、先にリンクを掲載した当ブログ記事の記事にもあるとおり。中国もしくは習近平の妄想によるものです。

この記事では、以下のように掲載しました。いかに一部を引用します。
2015年の米中首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席はトゥキディデスの罠についてじっくり話し会いました。オバマは、中国の台頭が構造的ストレスを生み出してきたが、「両国は意見の不一致を管理できる」と強調しました。また両者の間で「大国が戦略的判断ミスを繰り返せば、みずからこの罠にはまることになる、と確認した」と習は明らかにしています。
以下に、これに関連する部分をさらに引用します。
私自身は、2015年の米中首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席はトゥキディデスの罠についてじっくり話し会ったことが、習近平に勘違いをさせたのではないかと思います。
オバマ大統領、本来ならば、中国は超大国米国には、到底及ばないことを習近平にはっきりと言うべきだったと思います。軍事力でも、技術力でも、金融の面でも、遠く及ばないことを自覚させるべきでした。米国にたてつけば、石器時代に戻してやるくらいの脅しをかけるくらいでも良かったと思います。
妄想ではあっても、中国がその妄想を実現すべく邁進しているわけですから、当然米国は、これに対峙せざるを得ないのです。
パラク・オバマは、習近平の妄想を最終的に、後押ししただけで、それ以前からこのような論調は、ありました。

最近、私は英語の読解力を上昇させようとして、”速読速聴・英単語 Advanced 1100 ver.4”という教材を読んでいます。本日で61回目の読み込みに入ったのですが、この教材の中に、”China’s biggest exports growing nicely”(The Sydney Morning Herald, June 21. 2012)という記事が掲載されていました。

オーストラリアは今でこそ、中国に対して厳しい態度をとっていますが、2012年あたりだと、政権そのものが親中的でした。 この記事の中に、以下のような記載がありました。(日本語訳の方を掲載します)
彼ら(ブログ管理人注:中国のこと)は、2017年に世界最大の経済国として米国を追い越す過程にあるに違いないのだから、消費をあおるプロセスの中で投資と建築はそのコアメンバーとともに重要な要素なのである。 
現在、オーストラリアが中国に依存しているほど、中国はヨーロッパ経済に依存してはいない。したがって、準備銀行取締役会の議事録における我々の最大の貿易相手国に関する残りの段落がとりわけ重要なのである。
現在では、中国に対して厳しい態度をとっている、米英豪加、あたりでもこのような見方をしている人は大勢いました。

2012年というと、このブログでは、すでに中国経済の脆弱性や、他の様々な問題について論じていました。それどころか、中国の崩壊に関することも論じていました。

しかし、当時は、米国でもパンダハガー(親中派)が主流でした。米国在住のある日本の国際政治学者 は、米国では中国に対するエンゲージメント(関与)派が米国エスタブリッシュメント(支配層)の主流を占めているので、米国の親中国的姿勢はこれからも続くとしていました。

結局、多くの国々が通商により、あらゆる面で伸びゆく中国と取引をして金儲けのビジネスをしようとしていたので、つい数年前までは、中国に対して親和的的でした。それが、中国を増長させて、特に習近平を増長させて。超大国幻想を助長した面は否めません。この超大国幻想が、現在の中国の戦浪外交を後押ししている可能性が大です。

もう一つの見方としては、習近平は、建国の父毛沢東や、経済改革をして今日の中国の経済の基礎を作った鄧小平などと比較すると、誇るべき実績がなく、自らの統治の正当性を強く主張できないという状況にあることです。

中国には、選挙はありませんが、それでも全人代で幹部に指名されたり、幹部になった後に自分の思い通りに国を動かすには、強力に統治の正当性を主張する必要があります。特に、共産党幹部や長老たちを納得させなければなりません。そうでなければ、権力闘争が凄まじくなります。

この側面から見ると、習近平には誰をも納得させる実績が全くと言って良いほどありません。だからこそ、党内でも諸外国に対しても、弱みを見せられないのです。だからこそ、外国に対して戦狼外交を展開しているのです。

この二つの見方のいずれが正しいのか、あるいは、両方とも正しいのかもしれません。しかし、今のところははっきりとはしません。いずれ、わかる時期が来ると思います。

しかし、厄介なのは、いずれの場合であったにしても、中国は米国と総力戦に入ることはありませんが、三戦などを駆使しつつ、南シナ海や東シナ海、台湾、あるいはインドやロシアとの国境で、あるいは全く思いがけないところで、局地戦を起こす可能性が高いということです。下表に、中国による日本に対する「三戦」で想定されるものを掲載します。


これらのいずれかの戦争を起こし、プーチンがクリミア併合を成し遂げたように、勝利を収めれば、プーチンがそうだったように、習近平は国内で統治の正当性高めることになるからです。中国の場合は、中国共産党の統治の正当性も大いに高めることになるからです。

中国に対峙する我々自由主義陣営の国々は、米中が総力戦に入ることはないと見て良いですが、局地戦ありうるとの認識のものと、対抗策を講じるべきです。そうして、局地戦が起こった場合には、必ずこれを勝利に導くべきです。

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2020年7月17日金曜日

顕在化する中国によるカナダへの〝人質司法〟— 【私の論評】人質を取って相手国を脅し確信的利益を守ろうとする中共は、世界の敵!(◎_◎;)

顕在化する中国によるカナダへの〝人質司法〟

岡崎研究所

 ワシントンン・ポスト紙のコラムニストであるデビッド・モスクロップ(オタワ在住)がHuaweiのCFO孟晩舟の解放と引き換えに中国が拘束しているカナダ人2人を釈放するという中国の取引の誘いをトルドー首相が拒否したことを支持する論説を、6月27日付の同紙に書いている。


 2018年12月1日に孟晩舟がカナダで逮捕されて間もなく、カナダ人の2人が中国においてスパイ容疑で拘束された。Michael Kovrig(元外交官でシンク・タンクInternational Crisis Group勤務、12月10日に北京で拘束)とMichael Spavor(コンサルタント、同じ頃居住していた丹東で拘束)の2人である。中国による報復に違いない。拘束されて既に1年半が過ぎた。報道によればKovrigの妻は夫の解放のために各方面に働き掛けを行っている様子である。

 6月24日、中国外務省報道官の趙立堅(Zhao Lijian)は記者会見においてMichael Kovrigの妻の「司法相は孟晩舟の米国への引き渡しを止める権限を有する」とのメディアへの発言に言及して「そのようなオプションは法の支配の範囲内にあり、2人のカナダ人の状態の解決のための空間を開き得よう」と述べた。

 趙立堅は「(孟晩舟の件)は深刻な政治的事件である。それがカナダ側が主張するように法的なケースだとしても、Kovrigの妻が言ったように、カナダの司法相は如何なる時点においても引渡しのプロセスを停止する権限を有する。このことはカナダ政府がこの事件をカナダの法律に従い正しい方法で現に扱うことが可能であることを示している。我々はカナダ側に対し法の支配の精神を真に尊重し、中国の厳粛な立場と懸念を真剣に受け止め、政治的ごまかしを止め、孟晩舟を直ちに解放し、彼女の中国への安全な帰還を確保するよう、再度強く要請する」とも述べた。

 中国は2人の逮捕は孟晩舟の件とは無関係との立場を維持して来たが、ここに来て、孟晩舟の件との取引をあからさまに示唆するに至った。趙立堅による法の支配についてのレクチャーは噴飯ものである。

 カナダ人2人の境遇は悲劇である。同情の他ない。引渡し法(Extradition Act)の下で司法相が進行中の裁判所による引渡しの審理を止める権限を有することは確かなようである。モスクロップの論説では、トルドー首相宛の19人の元政治家や外交官からの書簡について書かれている。書簡は、このままでは結局カナダ人2人は孟晩舟が中国に帰国するまで中国の牢獄に繋がれることになること、引渡しの可否の審理は2024年までかかり得ること、パンデミックのために2人の生命が重大なリスクに晒されていることなどを指摘するとともに、孟晩舟の1件は2人だけでなくカナダの外交をも人質に取っている(5Gの構築にHuaweiの参加を認めるかの決定を為し得ず、香港問題についても発言に注意を強いられる)と指摘して司法相が引渡しの審理を停止すべきことを進言している。

 トルドー首相は、この進言を斥けた。そうするしかない。モスクロップの論説もこの決定を正しいと支持している。しかし、論説はどこか歯切れが悪い。米国に言及している部分は意味が判然としないが、どこか米国の行動に釈然としないものを感じているように思われる。

 カナダは実に苦しい立場にある。カナダ当局が孟晩舟を逮捕した時、中国が米国あるいはカナダの企業幹部を逮捕する危険は予知出来た。カナダは米国から逮捕の要請を受けた時点で或る程度の時間的余裕をもって中国が汚い手で報復に出る危険を予知出来たはずである。あるいは、それを理由に米国の要請を断ることも出来たかも知れない。どうしてカナダは予め危険を防ぐ手を打たなかったのか。

 日本としても、他山の石とすべき1件である。

【私の論評】人質を取って相手国を脅し確信的利益を守ろうとする中共は、世界の敵!(◎_◎;)

うえの記事にもあるとおり、カナダが孟氏の身柄を確保した直後に、カナダ人2人が中国によくわからない理由で逮捕されました。

このカナダ人逮捕に対して、中国側は「拘束されたカナダ人と孟氏の問題は無関係」と公式見解を述べていますが、カナダのトルドー首相は「明確な関連がある」と述べています。

トルドー首相

確かに、いくら国際法無視の中国であっても、「孟氏が外国の法律を犯したとしても、中国の要人なのだから逮捕するのは許せない。だから、何も法律を侵していないカナダ人を2人の身柄を拘束する。カナダ人を返してほしければ、孟氏を返せ」とは表立っては公言できないのだと思います。

しかしながら、尖閣で何かがあった時や、中国政府が日本政府の対応に怒った時には、日本人もよく中国で逮捕されています。

こうしたことから、中共は人質を取って相手国を脅して中共の我儘(彼らの言葉では中国の革新的利益)を通そうとする事を、外交交渉の一つの手法として採用している可能性が高いです。

閣僚経験者や外交官など19人が「孟氏の身柄引き渡し手続きを停止すれば、中国がカナダ人2人を釈放する可能性が高まる」とトルドー首相に書簡を送ったこと自体も本当なのでしょうか。

閣僚経験者や外交官など19人が、何の根拠もなくて首相に書簡を送ることは、ありえないでしょう。私の考えでは、この19人は中国の外交官と接触した際に「孟子を米国に引き渡さなければカナダ人一人を開放する。孟子を中国に返せば2人とも開放する」などなどの中国側からの要求を、その耳で聞いたのだと思います。

しかし中国政府は、国民の信任を得ていなければならない、トルドー首相の考えが全く読めないようです。

現在、欧米ではコロナ発症国でありながら謝罪もせずに我がもの顔で振る舞っている中国に対して、国民レベルで怒りが燃え上がりつつあります。彼らの心の奥底には、自由・平等・人権という価値観を生み出し、先日もこのブログにも掲載した世界初の近代的な条約であるウエストファリァ条約により生み出された世界秩序による、西欧文明こそが、世界の本質であると考えています。

価値観が全く異なる、異質な成金の中共が国際社会で我儘一杯にふるまうのが不愉快でたまらなかったのでしょうが、自国の経済の繁栄のために我慢していたところがあります。元々嫌いだったのが、今回のコロナ禍の原因を作っても、謝罪するどころか、世界中で我が物顔で振る舞い、さらにマスク外交で攻勢に出た中国に対して、怒りが頂点に達したものと見えます。それが、ネガティプな面に繋がり、欧米でアジア系に対する差別や、暴力事件が起こっています。

  イギリスに留学していたシンガポール人男性が現地の男達に「コロナを持ち込むな」等の
  差別的暴言を吐かれ、殴る蹴る等の暴行を受けた

確かに、差別や暴力はいけませんが、こうなると欧米は、中国叩きでは一致団結します。なぜなら、中国嫌いは国民レベルなのですから、中国の嫌がらせによる不快感は、国民を反中国で団結させる原動力になるからです。政府も、こうした国民感情を無視することはできません。

このようなことから、中国がオーストラリアに対して、「牛肉を買わない」と脅しても、オーストラリアは「すいません。ご意向通りにします」と態度を変えずに、「買わないのは、そちらの自由」と却って反発したのです。

今まで欧米諸国の首脳が中国に対して「買ってください」と低姿勢だったのは、その方が国内で支持が集まると判断したからです。つまり、中国に牛肉を売りつけるのは、自分の政権を盤石にするための《手段》であって《目的》ではありません。真の目的は自らの政権の支持率を上げることです。牛肉を中国に売る事ではありません。

そのため、「オーストラリアが、中国のコロナの調査を求めるという正しい行動をしたにも関わらず、中国は牛肉を買わないと脅してきた。こんな強迫に屈するわけにはいかない。国民の皆さん、中国のせいで広がったコロナ感染の危機を乗り切る為に一致団結を」と呼び掛けた方が、支持率が上がるのですから、そちらを選ぶのです。

だからカナダのトルドー首相も、中国の提案を蹴りました。「中国を軽蔑する」と言外に述べながら…。

このように欧米と世界の人達の中国への嫌悪感は、中国との外交関係を左右する所まで大きく広がっています。

しかし、この嫌悪感や軽蔑は人の心の中にあるので、目には見えません。だから中共には見えないのか、見て見ぬ振りをしているのかは解りませんが、とにかく現状の彼らは、西欧の常識から見れば、やめた方がよい事ばかりしています。

中共からすれば、自国内では、それが当たり前であり、何か問題が起きれば、警察や軍隊を用いて、すぐに鎮圧してしまうのが習い性になっているので、鈍感になっているだけかもしれません。元々、中国はこのブログでも何度か掲載してきたように、他国との関係も自国の都合で動く国柄です。そのため、外交にあまり重きを置いていません。

日本では、日本の外務大臣と同様に思われている、王毅氏は、王氏は党政治局(25人)メンバーではなく、200人ほどいる党中央委員の一人にすぎないです。画数順で公表される中央委員の序列は不明なので、26位から200位までの間ということになります。

さらにいえば、王氏は外務省トップとはいえ、中国外交の責任者ですらないのです。とにかく中国では、外交はもともと重要視されていないのです。そもそも、いよいよになれば、人質をとって脅して、革新的利益を守れば良いのですから、外交など重要視する必要性などありません。

王毅氏は日本で言う外務大臣ではない、かなり下のレベルの位置づけ

そのような国柄ですから、先に述べたように、中共は人質を取って相手国を脅して中共の我儘(彼らの言葉では中国の革新的利益)を通そうとする事を、外交交渉の一つの手法として採用している可能性が高いのもうなずけるところです。

日本も、この問題に関して深刻に考えているようには見えません。どのように対応して良いのかわからず右往左往しているようにも見えますが、はた眼には何にも考えず深刻に捉えてないようにも見えます。

せめて、冒頭の記事のように、カナダのニュースを大きく報道して、中国は人質外交をする国なのかもしれない、スパイ罪なら、中共の恣意で誰でも逮捕できるので、渡航は注意すべきとか、中国ビジネスは危険とか、世論を盛り上げるくらいのことはすべきです。

とにかく、国際法は無視、西欧的価値観やイスラム圏の価値観には鈍感というか、日本も含めた世界中の文化・価値観に鈍感で、先日も述べた弁証法的な考えすらできなくなった中共は、今後西欧的価値観から計り知れない、とんでもないことをしでかす可能性が大です。そのことは、心に留めておくべきでしょう。

現在中共に親和的とみられる国々にもいずれ離反していくでしょう。

そうして、中共は西欧のみならず、世界中の敵になる可能性が高いです。

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2020年7月12日日曜日

中国軍が中東に基地を構える日――中国は「第二のアメリカ」になるか— 【私の論評】中共が力を分散すれば、対中勢力にとってますます有利になる!(◎_◎;)

中国軍が中東に基地を構える日――中国は「第二のアメリカ」になるか

訪中したイランのザリーフ外相を迎える王毅外相(2019.8.26)
  • 中国は中東イランのキーシュ島を25年間租借する権利を得て、ここに軍事基地を構えようとしていると報じられている
  • 事実なら、中国はアジア、中東、アフリカを結ぶ海上ルートを確立しつつあるといえる
  • ただし、イランに軍事基地を構えた場合、中国自身も大きなリスクを背負うことになる
 海洋進出に合わせて中国はアジア、アフリカ各地に軍事基地を構えてきたが、今度は中東がそのターゲットになっている。

ペルシャ湾に中国軍基地ができる?

 中東の大国イランは今、コロナだけでなく、あるウワサによって揺れ動いている。イラン政府が中国との間で、4000億ドルの資金協力と引き換えにキーシュ島を25年間貸し出すことに合意したというのだ。

 ペルシャ湾のキーシュ島は91.5平方キロメートルで、約4万人が暮らす小島だが、大きな港がある他、平坦な地形のため飛行場もあり、交通の便は悪くない。



 その立地条件から古代から人が行き交い、古い街並みが観光名所にもなっている。最近では自由特別区としてショッピングセンターや高級ホテルが立ち並ぶリゾート地としての顔ももつ。

 このキーシュ島を中国に長期リースするという情報は、債務をタテに中国がスリランカの港の使用権を手に入れた一件を思い起こさせるため、イランで政府への不信感と批判が高まっているのだ。何が合意されたのか

 では、この情報は確かなのか。

 問題になっているのは、2016年に交わされた「中国・イラン包括的パートナーシップ協定」だ。昨年9月、米ペドロリアム・エコノミストは関係者の証言として、8月にイラン外相が北京を訪問した際、この協定に以下の内容がつけ加えられたと報じた。

・中国がエネルギー開発に2800億ドル、インフラ整備に1200億ドル、それぞれイランで投資すること

・その引き換えに、中国はイラン産原油を12 %割引き価格で購入できること

・中国の施設を警備するため中国兵5000名がイランに駐留できること(イランへの訓練も含まれるといわれる)

 これだけでも中国のプレゼンスがかなり増す内容だが、さらに追い討ちをかけるように今年2月、イランの民間メディア、タスニム通信が内部情報として「修正された協定にはキーシュ島のリース契約も含まれる」と告発した。それによると、キーシュ島に中国が恒久的に軍事拠点を構えることになる。
これをきっかけに、イラン国内の様々な立場から批判が噴出。反米的な保守強硬派のアフマディネジャド元大統領がナショナリストらしく「イラン国民はこの協定を拒否すべき」と主張する一方、もともとイラン現体制に批判的な亡命イラン人組織、イラン国民抵抗会議も「イラン史上最悪」と酷評している。

 イラン政府は合意内容を明らかにしておらず、中国政府もこの件には沈黙したままだ。しかし、いずれも明確に否定しないことは、キーシュ島租借に関するウワサに真実味を与えている。

誰がリースに向かわせたか

 仮に一連の報道が事実なら、中国はイランが困り果てた状況でキーシュ島の租借権を手に入れたことになる。イラン外相が北京を訪問し、協定が修正されたといわれる昨年8月は、ちょうどアメリカとの対立が激しくなった時期にあたるからだ。

 トランプ大統領は「イランが核開発に着手している」と主張し、2015年のイラン核合意を一方的に破棄。2018年暮れには経済封鎖を再開し、特に2019年春頃からは段階的に制裁を強化しただけでなく、戦略爆撃機などを派遣してイランを威嚇し始めた。

 トランプ大統領の主張はオバマ政権の業績を否定するとともに、北朝鮮との協議が行き詰まるなかで、大統領選挙に向けたアピールだったとみてよい。
ともあれ、アメリカによるこれまでにない圧力は、イランをそれまで以上に中国に接近させ、国内から批判が噴出することが目に見えていたキーシュ島の租借にまで足を踏み入れさせたといえるだろう。
中国の軍事展開への警戒感

 いずれにしても、このままキーシュ島に軍事施設ができれば、中国はユーラシアからアフリカにかけてのインド洋一帯での展開能力を高めることにもなる。

 「一帯一路」構想を掲げる中国は、その沿線上にこれまでにもジブチやセーシェルに軍事基地を構え、南沙諸島にも施設を建設してきた。


 これは「中国企業関係者の警備のため」というのが中国側の言い分だ。

 中国は2011年、「アラブの春」でカダフィ体制が崩壊したリビアに、油田で働く中国人労働者を救出するため軍艦を派遣した。この一件は、中国に中東・アフリカ一帯での展開能力を高める必要性を感じさせたとみられる。

 とはいえ、中国軍の海外展開が警戒感を招きやすいことも確かだ。それは西側諸国やインドなど周辺の大国だけでなく現地でも同じで、特にイランの場合、ジブチやセーシェルなどの小国と異なり、地域の大国としての自負もある。だとすると、イラン政府が協定の内容を明らかにしないことは不思議でない。
中国は「第二のアメリカ」になるか

 その一方で、キーシュ島に軍事拠点を構えれば、中国にとって新たなリスクが浮上することにもなる。

 外国軍隊の駐留はどこでも摩擦を生みやすいが、イスラーム圏ではとりわけ「異教徒の軍隊」への拒絶反応が強い。国際テロ組織アルカイダを率いたオサマ・ビン・ラディンがアメリカを断罪した一つの理由は、湾岸戦争(1991)でイラク軍を攻撃する拠点としてサウジアラビアに米軍が基地を構えたことにあった。

 このパターンに照らしてみると、イランに軍事拠点を構えた場合、中国はインド洋からペルシャ湾にかけての一帯でのプレゼンスを高められるだろうが、そのプレゼンスが大きいだけに、過激派から標的にされる公算も大きくなる。それは中国の中東進出におけるアキレス腱になり得る。

 中国政府はこれまで米軍の海外展開をしばしば「帝国主義」と批判し、「中国はアメリカと違う」と強調してきた。しかし、イスラーム圏で敵意の的になった場合、中国とアメリカの違いはこれまでになく小さくなるとみられるのである。

【私の論評】中共が力を分散すれば、対中勢力にとってますます有利になる!(◎_◎;)

上の記事の主張に関しては、私は概ね賛成です。中国が中東に本格的に、進出することは、そもそも不可能と私は思います。

これに関しては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
中東で、中国が米国に取って代わることはできない―【私の論評】中国は中東への危険な一歩を歩みだした(゚д゚)!
イランのザリフ外相(左)と中国の王毅外相
この記事は、今年1月22日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事から以下に一部を引用します。

 ロシアはロシア帝国とソ連の後継であり、ロマノフ王朝時代から中東と深い関係にある。ソ連時代も中東において米国と覇を競った。土地勘もあり、やり方も知っている。しかし今日のロシアは、依然として強大な軍事力を誇っているものの、英国際戦略研究所(IISS)によれば2017年の軍事支出は日本より少ない。GDP(国内総生産)は韓国より小さく日本の3分の1にまで縮んでいる。総合国力において昔の面影はもはやない。影響力においても限りがあるということだ。 
 中国はどうか。国力を急速につけてきているが、歴史上、中東と全く関わってこなかった。中国の経験と知識には限界がある。 
 中国の一帯一路構想が、世界制覇に向けた中国のグランドデザインのように喧伝(けんでん)されている。しかし中国の現場から伝わってくる感触は、それとはほど遠い。大きなスローガンを次々に打ち出すものの、それを支え実行する理念、原則、ルール、実施の仕組みは、現場に近づけば近づくほど中身が見えなくなるのだ。 
 それに進出地域における経験と知識の不足という壁が立ちはだかる。これが中国の実態と言ってよい。 
 中国の中東への進出は、中国が新たに大きな危険を抱え込むということでもある。 
 一帯一路構想を、中国を中心にかつて存在した朝貢貿易システムの再現と捉える人もいる。だが昔は、マルコポーロの例から分かるように、中国に来る人たちが道中のリスクをすべて負担した。しかし今度は中国が自ら出かける。リスクは中国が負わなければならない。中国が中東に積極的に関与するということは、宗教や民族など様々な理由から怨念が渦巻き、複雑で、世界一危険とみられる場所に足を突っ込むということなのだ。

最近ロシアと中国の中東進出を懸念する向きもありますが、ロシアには中東に関する知識や経験があるものの、GDPは東京都並で、これでは如何ともしがたいです。

中国は、最近は米中冷戦で経済は低迷気味ですが、国家単位で見れば、ロシアよりはかなり潤沢ながら、中国には中等の知識も、経験もありません。これでは、どうしようもありません。

結論から言えば、中露とも中東に本格的に進出することは困難です。この記事から、【私の結論】部分からも以下に引用します。
やはり中国の中東における経験と知識の不足という壁が立ちはだかっています。これが中国の実態です。中国の中東への進出は、中国が新たに大きな危険を抱え込むということでもあります。 
そもそも、イスラム教の本質など中国人の多くはほとんど理解していないのではないでしょうか。私達の先進国の人間が、想定する平和とは、戦争のない状態です。少なくとも、中国でもこの考えは、先進国と変わらないかもしれません。

ところがイスラム教の想定する平和は、これとは随分違います。いくら戦争がなくてもイスラム教が世界を支配していない場合は平和ではなく、だからその平和を実現するために戦い続けなければならないというのがイスラムの考えで、これをジハードというのです。私達から見るとテロでも彼らから見ると宗教的な義務なのです。そういう観点からすると、イスラム教は平和の宗教ではありません。
テロも宗教的義務
これは、意外と習近平の考えとあい通ずるところがあるかもしれません。なぜなら習近平も世界の新たな秩序、それも中国の価値観でそれをつくりあげようとしているからです。
ただし、中国の国内のようなやり方で、中東でもゴリ押しすると、とんでもないしっぺ返しを食らうかもしれません。東南アジアでやっているように、多額の借款で中東諸国の港や、施設などを取り上げる等のことをすれば、それこそテロの標的になるということも十分考えられます。
日米にとって、中国の中東進出はどうなのかといえば、一言で言ってしまえば、歓迎すべきことかもしれません。なぜなら、中国が中東に進出すれば、テロ攻撃などにより、泥沼に嵌まり込み、とんでもないことになり、中東での軍事力を増強せざるを得なくなり、インド太平洋地域での、中国の軍事力が削がれることになるからです。

以前のこのブログにも述べたとうり、米国の外交、安全保障は、対中国を最優先としているようであり、その他のことは、中国と対峙するための制約要因としか見ていないようです。マスコミなどでは、トランプ大統領が個人的に北朝鮮に興味がないような報道をしているのを見かけますが、あれは間違いだと思います。

それにしても、中国は先日も述べたように、中東だけではなく、アフリカでも存在感を強めようとしています。さらには、EUでもマスク外交などを展開して、存在感を高めようとしています。

トランプ大統領が中国との対峙に集中しようとしているのとは、対照的です。とにかく、中共は、なんでも総合的に実施しようとしているようです。実施すべき事柄に優先順位をつけたり、当面何かに集中するという方式は、しばしば成功を修めることになりますが、何でも同時並行的に実施するとか、総合的に様々なことに取り組むことは、必ずと言って良いほど大失敗します。

軍事でも、外交でも、企業における仕事でも同じことが言えます。どのような仕事でも、実務上では、優先順位をつけて実行しなければ、物事はうまくは進みません。なぜなら、実務に投入する資源は限られているからです。

これは、企業でまともに、マネジメントをした経験のある人間なら、誰でも知っている原則です。トランプ大統領は長い間実業のマネジメントをしてきたので、これを骨身に染みているでしょう。しかし、中共はそうではありません。。

物事に集中しない、優先順位をつけないのは、官僚の特性でもあります。どこの国でも官僚は、総合的なやり方を好むようであり、毎年総合的対策を実施し、結局何も達成していないということが多いようです。

中国では選挙制度がないので、先進国のように選挙で選ばれた政治家はいません。その意味では、習近平を含む中国の指導者は、全員が指名制で選ばれ、その本質は官僚のようなものです。そのため、集中したり、優先順位をつけたりして、仕事をこなしていくべきことを理解していません。

特に民間であれば、営利企業であろうと、非営利企業であろうと、優先順位をつけずに業務を遂行すれば、いずれ弱体化し倒産します。しかし、官僚は違います。何をしようが役所は潰れることはありません。

これからも、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させる一方、日米加豪、EUなどは、中国との対峙を最優先すれば、中共にとってはますます不利な状況になります。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとし、それだけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。今のままだと、中国も同じ運命を辿りそうです。

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2020年7月8日水曜日

国際法秩序を無視した中国外交に歯止めを— 【私の論評】国際法を無視し、弁証法すら捨てた中共に未来なし!(◎_◎;)


岡崎研究所

6月19日付のワシントン・ポスト紙で、同紙コラムニストのジョシュ・ロウギンが、「もし中国が米国と良い関係を持ちたいのなら、中国はもっと良い行動をしなければならない」と題する論説を寄せ、6月17日のハワイでのポンペオ国務長官と楊潔篪共産党政治局委員(外交統括)との会談の内容を紹介しつつ、それが実質的には物別れであったと論じている。一部その要旨を紹介する。


 ポンペオ国務長官は、楊潔篪と6月17日ハワイで会談と晩餐のため数時間会った。最近の米中関係で顕著となっている相互非難を抑制する方法を探すため、中国側から今回の会談を要請してきたと言われる。それまでは、習近平がトランプに電話をすれば良かったが、トランプは3月27日の電話会談後、習近平と話すことに興味はないと言っていた。

国務省の声明は、「2人の指導者は意見交換をし、ポンペオは商業、安保、外交の分野で中国が不公正な慣行をやめる必要があると強調した。また、進行中のCOVID-19パンデミックと戦い、将来の大発生の防止のためには完全な透明性と情報共有の必要性があると強調した」と述べている。一方、中国の外務省によると、楊はより良い関係を望んでいるとポンペオに言ったが、香港への国家安全法、台湾への威嚇、新疆でのウイグル人の強制収容などあらゆる争点について、中国の立場を擁護した。

北京のやり方のパターンはよく知られている。北京の悪い行為を批判する人を侮辱または攻撃する。その後、緊張の高い状態を非難し、通常の関係に戻ることを、行動を何一つ変えずに提案する。しかし、今回は通常の関係に戻ることはない。

ロウギンの論説は、6月17日のハワイでのポンペオ国務長官と楊潔篪政治局委員との会談がうまくいかなかったこと、現在の米中関係悪化の傾向に歯止めがかからなかったことを指摘している。

米中外相会談の成果は、今後も話し合おうという合意だけである。中国側はこれまでの行動を擁護し、行動を変えることを拒否したが、そういうことでは再度話し合っても何も出てこないことになろう。

香港への国家安全法制の押し付け、新疆でのウイグル弾圧、台湾への恫喝は内政問題ではない。香港については、1984年の英中共同声明と言う条約に違反している問題であって、条約を守るかどうかの国際的な問題である。ウイグル問題については、国連憲章下で南アのアパルトヘイトなどに関連して積みあがってきた慣行は、人権のひどい侵害は国際的関心事項であるということである。台湾が中国とは異なるエンティティとして存在しているのは、事実である。

中国が台湾は中国の一部と主張していることを理解し、尊重するということは、中国が台湾に武力行使をしていいことを意味しない。

そのほか、インドとの国境紛争、豪州に対する経済制裁、ファーウェイ副社長のカナダでの拘束に絡んでの中国でのカナダ人拘束など、中国の最近のやり方には、国際法秩序を無視した遺憾なものが多い。中国が大きな国際的な反発の対象になり、そのイメージが特に先進国で悪化してきていることは否めない。

中国の緊張を高め、その緩和を申し出、その緩和の代償として相手側に何らかのことを譲らせるやり方は、ソ連、北朝鮮、中国などの共産国が多く使用してきた外交戦術であるが、すでに使われすぎて、相手側に見透かされるものになって来ている。

中国が行動を変えるべきであるとのロウギンの論説は、そういう状況の中で適切な論であると言える。

【私の論評】国際法を無視し、弁証法すら捨てた中共に未来なし!(◎_◎;)

国際関係で、中国の最大の問題は中国共産党の政治局常務委員に国際法を理解する者がいないことです。例えば南シナ海問題で中国が直面する国際司法環境の厳しさについて政治局常務委員に正しく伝えられたでしょうか。全く伝えられていないと思います。

中国の外交担当トップの「国務委員」は政治局委員どころか、さらに格が下の中央委員でしかありません。中国は、もともと他国のことは無視して、自国の都合で動く傾向のある国であることは、このブログでも何度が掲載したことがありす。それが、国の統治制度にも反映されているのです。

中国外交トップの楊潔チ・共産党政治局員

政策立案権限のない外務省は仲裁裁判所判断を「紙くず」と切り捨てました。担当する国際法に対し最低限の敬意すら払おうとしませんでした。

中共は現在の国際法が「西洋の産物」にすぎないと考えているのか。半世紀近くも国連に加盟し常任理事国の特権を享受しながら、常設仲裁裁判所の判断を否定する中国の態度は自己矛盾以外の何ものでもありません。国際法を完全無視するというのら、本来は国連から脱退すべきです。

そもそも中国には欧米型の「法の支配」という発想がありません。中国は全知全能の神と被造物である不完全な人間との契約(法)に基づく一神教の世界ではありません。日本にも、そのような考え方は、ありませんでしたが、明治以来それを理解しようと努めてきました。

これを日本では、「和魂洋才」として、とにかく西欧の考え方を学んだ上で、西欧列強に国際社会で伍していこうと努力しました。その努力は、最初は英国に認められ、日英同盟に結実しました。そうして、日本は名実ともに、国際社会の一員となりました。これは、後で述べ弁証法的な考え方に、基づいたものとも解釈できます。現在の中共にはそのようなことをするつもりは全くないです、本当に矛盾しています。

無論、様々な不幸な出来事があり、日本はその後、日英同盟も破棄し、大東亜戦争に月すすけわけですが、戦後には国際法を遵守し、国際社会に復帰しました。

その後の日本は、様々な矛盾を抱えつつも国際社会に貢献し、今日を迎えています。現状では、国内では様々な矛盾を抱え、憲法改正もできない有様です。しかし、そうは言っても、中国のように国際法を無視するようなことはありません。

中国の戦国時代に法家が説いた「法治」とは儒家の「徳治」に対する概念であり、法は権力者がつくるものです。被統治者は法の支配ではなく「立法者の支配」を受けて当然と考えます。

その意味で今2016年の中国の南シナ海実効支配に関する、国際司法判断は、人権や法の支配など欧米的概念と中華的法秩序との相克の新局面と見ることも可能です。

それと、今の中国政治指導者には共産主義者がよく用いていた弁証法的発展という考え方が身についていないようです。

弁証法とは、物の考え方の一つの型です。形式論理学では、「AはAである」という同一律を基本に置き、「AでありかつAでない」という矛盾が起こればそれは偽だとするのに対し、矛盾を偽だとは決めつけず、物の対立・矛盾を通して、その統一により一層高い境地に進むという、運動・発展の姿において考える見方です。

図式的に表せば、定立(「正」「自」とも言う)Aに対しその(自己)否定たる反立(「反」「アンチテーゼ」とも言う)非Aが起こり、この否定・矛盾を通して更に高い立場たる総合(「合」「ジンテーゼ」とも言う)に移る。この総合作用を「アウフヘーベン」(「止揚」「揚棄」と訳す)と言います。
弁証法の極めて理解しやすい事例

今の中国に見られる、ただ圧倒的に強い力関係にあるとき、単純に強行政策をとって力ずくで自らの意思を相手に押し付けるのはいかがなものでしょうか。弁証法的発展とは、自分たちの意思や行動に対する反作用の効能もよく計算に入れながら、その先に生まれる新しい関係性を戦略的に考える、いわゆる正→反→合という考え方です。

「一国二制度」をどのようにして香港住民も納得できる制度にすることができるのか。これを香港市民や当局者などを巻き込んで本格的に討議するならば、「弁証法的発展」の成果が出てくるかもしれないです。

米中対立はそもそもそれほどイデオロギー性の強いものではなく、超大国の座を目指すイニシアティブの争いの側面も強いです。したがってイデオロギー、政治・経済体制、陣営などで争った「米ソ冷戦」とは異なる面が多いです。

イニシアティブの調整さえうまくできれば、難しいことではありますが、米中共存は可能でしょう。そしてその道を探ることと香港「一国二制度」の再生は連動しています。香港に対する国家安全維持法が全人代で可決され、実施されました。

香港問題は米中新冷戦のフロントラインになりつつあります。香港に対する中国の過剰な強硬姿勢は、香港の良さを失わせる「愚策」以外の何ものでありません。

香港と中国との違いに基づき、香港社会にも受け入れ可能な香港政策を作り出す「弁証法的発展」の成果でもあった「一国二制度」は、返還から23年目で中国によって一方的に廃止されてしまいました。

中国の成長を支えた香港を強引に変化させることは、中国自身の「凋落の第一歩」を意味します。

中共は、本来であれば、西欧諸国が作った国際社会秩序を認めた上で、国際社会でビジネスをすべきでした。それと、国内が矛盾するなら、日本の「和魂洋才」ような、弁証法的な考え方で、矛盾を解消すべきでした。

下の写真は、平成11 8 23日発行の日本郵便の切手です。明治維新後、文明開化とともに外国から様々な文化がもたらされ、 当時のファッションもその影響をうけました。ハイカラとは、 当時大いに流行ったシャツの立て衿(ハイカラー)から来ており、 新しく小綺麗でしゃれた物事をハイカラと呼び、 また、そのような人をハイカラさんと呼びました。


これも、「和魂洋才」を示すエピソードの一つと言えます。とにかく当時の日本は、西欧の考え方を理解することが急務だったのです。

しかし、中共のやり方は、様々な矛盾を自国内を弁証法的に変えようとするのではなく、自国外を自国内部に合わせようとしています。その典型例が、最近の香港の「一国二制度」の破壊です。

先日もこのブログで述べたように、香港住民でない外国人までを「香港国家安全法」の適用対象とした習近平政権はもはや、世界の主人となって世界中の人々を支配てしまおうとするような狂気にとられているようです。

これは、とてつもないことです。個人でも、自分を変えずに、世界を変えることは困難です。それに比較して、まず自分を変えれば、世界が変わって見えてくるものであり、その世界で、自分の価値観を反映した何事かを実現することもできるようになります。

しかし、自分を全く変えないで、世界を変えようとだけすれば、ほとんどの場合失敗します。それどころか、どこまでもそれを推し進めようとすれば、精神に異常をきたしかねません。国も同じことです。

中国は、まさにその道を進んでいるようです。

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