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2019年4月30日火曜日

「脱原発」は世界の流れに逆行する―【私の論評】「脱原発の先進国ドイツを見習え」という考えの大間違い(゚д゚)!

「脱原発」は世界の流れに逆行する

メディアが報じない欧米・アジアの大半が「原発推進」という現実

フランス中部のサン・ローラン・ヌーアンにある、サンローラン・デ・ゾー原子力発電所
  (2015年4月20日撮影、資料写真)

2018年9月12日の日本経済新聞電子版は「世界の原発発電、30年に10%以上減少 IAEA報告」という見出しの記事を報じた。

 この見出しだけを見ると、IAEA(国際原子力機関)でさえ「脱原発」を予測しており、まさに脱原発は世界の流れなのだ、と多くの読者は思い込んでしまうだろう。

メディアリテラシーとはメデイアを安易に信用しないこと

 だが、記事本文を読むと、前段で「17年に392ギガワットだった発電容量は、最も低く見積もった場合で30年に352ギガワットまで減少すると予測」と書いているものの、後段では「最も大きく見積もった場合、原子力発電の発電容量は30年に511ギガワットに拡大するとみている」と書いている。

 要するに、IAEAの予測は、「30年までに、最低だと10%以上減少、最高だと30%以上増加」なのである。

 記事本文の全体ではバランスは取れているようだが、見出しには読者を脱原発へと誘導する恣意性を感じる。多くのマスコミ報道にはそうした傾向がある。

 バイアスのかかったマスコミ報道に踊らされないためには、個人が「メディアリテラシー」を高める必要がある。筆者は今年3月、東京・八重洲ブックセンターで開かれた西澤真理子氏の出版講演会を聴きに行ってきた。リスクコミュニケ―ションの専門コンサルタントである西澤氏は、福島第一原発(1F)事故後の2011年9月から福島県の浜通りに入り、現地で放射能に関する様々な誤解の除去に努めた人物だ。

「メディアリテラシーとはメデイアを安易に信用しないことである」

 西澤氏は講演会で歯切れよくこう語った。「メデイアリテラシー」とは、一般的には「メディアが報じる情報を主体的に読み解き、理解する能力」とされるが、さらに踏み込んで「メディアを安易に信用するな」というのである。

 というのも、「日本人はメディアに接すると、なんと7割の人が信じてしまう。ドイツは4割、米国は2割しか信じない」(西澤氏)という日本人固有の性向があるからだろう。偏向報道であっても、メディアでいったん報じられれば、それをそのまま信用しやすい性向が私たち日本人にはある。

 確かに、フィンランドの原子力施設をほんのちょっと見学してきただけで、「まだ原発を進めていかなきゃいかんという勢力がいて、これに任せてはならない」と叫び始めた小泉純一郎元首相の思い付きの言説が報じられると、その後の世論調査で約6割が原発反対(=潜在的な原発ゼロ支持)といったレポートが出てくるのが日本だ。これもその性向のせいなのかもしれない。

 原子力との付き合い方を考える上でも、まずは事実を正確に把握することは何よりも大切だ。以下では、小泉元首相も誤解ないし曲解している「脱原発は世界の流れ」であるはずの海外諸国の現況を紹介しておきたい。これらは、国内メディアで報じられることがほとんどない。

脱原発は世界の流れではない

 現在も原発を利用しており、将来的にも利用しようとしている国は、米国・フランス・中国・ロシア・インド・カナダ・英国など19カ国ある。

 現在は原発を利用していないが、将来は利用しようという国は、イスラエル・インドネシア・エジプト・サウジアラビア・タイ・トルコ・ポーランド・ヨルダン・UAEなど14カ国に上る。

 そして、現在は原発を利用しようとしているが、将来は利用を止めようとしている国は、韓国(2080年閉鎖見込み)、ドイツ(2022年閉鎖予定)、ベルギー(2025年閉鎖予定)、台湾(2025年閉鎖予定)、スイス(閉鎖時期未定)の4カ国・1地域。韓国の駐日大使館員は、米朝首脳会談の行方を勝手に楽観視しているのか、ロシアの天然ガスを北朝鮮経由パイプラインの敷設を通じて韓国に導入する予定だと公言している。

 さらに現在も将来も原発を利用しない国はイタリア(1990年閉鎖済み)、オーストリア、オーストラリアの3カ国。

 この他に、スタンスを明らかにしていない国が多数ある。

 下記に掲載した資料を見れば、原発ゼロの国や、原発ゼロを目指している国がいかに少ないか、よく分かるだろう。脱原発は「世界の流れ」にはなっていないのだ。


原発輸出に熱心なロシア

 少し長くなるが、主な諸外国の実情に触れておきたい。これは筆者が駐日の各国外交官・大使館員から聴取した話などをまとめたものだ。

<米国>
 米国のエネルギー自給率は約9割(2017年)。コスト合理性あるシェールガスや石炭を保有する一方で、原子力や再エネも進めている。トランプ大統領自身の原子力に対する関心の度合いは不明だが、側近である安全保障の専門家たち原子力推進の牽引役を担っているのは間違いない。

 近年、新型原子炉である小型モジュール原子炉(SMR)に注力し始めている。現行の大型原子炉は、1基当たりのコストが高く、建設期間が6~7年と長いので資金調達面でリスクがあるからだ。

 GE日立が進める小型モジュール炉「BWRX」(30万kW)については、低コストを理由として英国が関心を寄せている。

 また、NRCは「NEXIP」(Nuclear Energy × Innovation Promotion)と称して、次世代の原子力技術開発の検討を進めている。ビル・ゲイツ氏が出資する原子力企業テラパワー社も前向きで、日本にも秋波を送っているようだ。

<ロシア>
 ロシアは、ロシア型加圧水型原子炉「VVER」(110万kW級)を携えた「原発輸出ビジネス」を展開している。その技術水準は相当高く、国際的な評価も高い。フィンランド・オルキルオト原発4号機に係る受注を受けたという情報もある。

 ロシアは、原発を導入した当初から、核燃料サイクルの完結と高速炉の開発を積極的に進めてきており、世界的にも突出して高い技術を有している。現在、BN-600(60万kW)とBN-800(88万kW)の2基の高速炉が稼働実績を重ねてきており、大型商用炉BN-1200(120万kW)の建設も計画されている。

<中国>
 中国では18年に、AP1000(三門1号)とEPR(台山1号)の最新2タイプの原発が竣工しており、国産第3世代炉である華龍1号が建設中である。中国は、今や原子力技術も先進的であり、日本としても学ぶべき国となっている。中国国務院は、原発に関して、2020年の運転中設備容量を5800万kW、建設中設備容量を3000万kW以上とする目標を掲げている。

 フランス・オラノ社が、フランス国内のラ・アーグ再処理工場とメロックスMOX燃料加工工場をモデルとして、年間処理能力800トンという再処理・リサイクル工場を中国に建設するプロジェクトを進めている。このように、中国は核燃料サイクルにも本腰を入れ始めている一方で、天然ガスを豪州やカタールから輸入し、今後は米国からも輸入していく予定であるなど、エネルギー多様化にも注力している。

<インド>
 インドでは22基の原発(大半が国産の22万kWの小型重水炉PHWR)が稼働しているが、電源比率は3%程度に過ぎない。そして、慢性的な電力不足を補うために、大規模な原発拡大を計画中で、2024年までに発電能力を3倍に増やすとしている。しかしその実現はかなり厳しいと言える。

 現時点では新たに7基が建設中。内訳は国産の重水炉4基(カルクラパー原発、ラジャスタン原発に各2基。1基当たり70万kW以上)、ロシア製の軽水炉VVERをクダンクラム原発に2基(1基は完成済み)、国産の高速増殖炉原型炉をカルパッカム原発に1基となっている。

 それでも計画の達成には程遠いのだが、原発による発電比率が低いのは、インドが原子力供給国グループ(NSG)に加盟できていないことが大きな原因になっている。NSGとは、核兵器開発への技術転用が可能な原子力関連資機材の流通規制を目的とする国際的枠組みで、現在48カ国が加盟しているが、インドは含まれていない。そのためインドは、長らく原発に関する資材や機材の輸入が出来ない状況にあったが、2008年になってNSGのガイドラインが修正され、インドに対する関連品目の供給がようやく認められるようになったという経緯がある。

 そのため原発拡大計画を目指すインドに対して、ロシア、フランス、米国は大型軽水炉の建設を目論んでいる。今年3月には、米国からインドに向けて原発6基を輸出することで合意したと、両国政府が発表している。

原子力技術が空洞化した英国

<英国>
 英国は、北海油田の枯渇を見据えて、エネルギーの安全確保・安定供給・コスト低減による経済成長・低炭素を目指している。以前、石炭の電源比率は20%を占めていたが、今は7%にまで低減、将来的に全廃する予定になっている。原発は、2030年までに既設プラントは全て閉鎖するが、その代替として新設プラントにより電源比率30%を確保していく方針だ。

 こうした努力もあって2050年までにCO2などの温室効果ガス(GHG)を80%削減するための法律が制定されているが、すでに37%削減を達成している。電力業界では温室効果ガスの62%削減を推進し、輸送部門でEV(電気自動車)化を進める方針だ。「クリーン成長戦略」を掲げて、低炭素産業での雇用を拡大し、再エネのコスト低減も進めている。エネルギー関係の投資の半分は、安定供給・低コスト・低炭素に資する原子力に振り向けるという。

 英国はかつて原子力技術先進国だったが、長きにわたって原発新設を行ってこなかった結果、国内の原子力技術が空洞化してしまった。新設するヒンクリーポイントC原発は、フランスEDF(電力公社)によって進められることになったが、工事は順調に進んでいるようだ。

 現在、原発は15基が稼働し、電源比率は2割強。原発新設だけでなく、廃炉や放射性廃棄物・バックエンド対策も年20億ポンドを投じて進めている。特に、セラフィールドではクリーンアップ(汚染除去)に取り組んでおり、地層処分も進めている。

 日立製作所が取り組んでいたホライズン社の原発計画は延期になったが、中国がアプローチを始めているとの情報がある。また、英国のロールスロイスが小型モジュール原子炉(SMR)に関心を寄せており、小型炉で英国の原発技術の再興を目指している。カナダもSMRには前向きである。

<フランス>
 フランスは資源小国であり、エネルギー輸入量を減らすために原発を積極的に利用している。原発比率は7割に上っており、周辺諸国に原発電気の輸出も行っている。それでも、エネルギー自給率は50~55%程度というのが現状だ。

 原発は安価かつ安定な電源で、安全保障水準の向上や低炭素化にも資する。EU(欧州連合)内ではもちろんのこと、世界的にも電力コスト負担は最も低い国の一つである。特に、再エネを推進する隣国ドイツと比べても、それは一目瞭然だ。

 フランスでは、使用済み核燃料は、放射性廃棄物ではなく、「再利用率95%のリサイクル資源」と考えられている。日本と同様に、使用済み核燃料をMOX燃料に転換して利用する方向で進んでいる。

 フランス国内の原発は、19カ所・58基が稼働している。最新のものは第四世代の欧州加圧水型炉(EPR)で、フラマンビル3号(156万kW)として建設中だ。

 原発の運営主体には、EDF(電力公社)、日本からの投資も受けているオラノ社やフラマトム社、CEA(原子力庁)、ASN(原子力安全機関)、IRSN(放射線防護原子力安全研究所)、ANDRA(放射性廃棄物管理機関)などがある。福島第一原発事故後の対応として、32の追加安全基準を導入し、避難基準も新設した。

 直近の電源構成は、原子力7割、水力1割、再エネ1割、化石燃料1割となっており、今後さらに低炭素化を進めようとしている。原発に関しては投資額の大きさがネックになっているが、再エネはコストが低下しつつある。石炭・石油は今後数十年でゼロ化する予定だ。

 2025年までに原発比率50%・再エネ比率30~40%とする方針を2015年に宣言したが、2018年11月になって原発比率50%とする目標年を2025年から2035年に後ろ倒しした。原発比率が低下するのは古い原発を閉鎖するからで、新設も行うので全体の設備容量は変わらない見通し。

 フランス国内世論は、原発を受け入れることを極めて重要視している。原発の地元住民への情報公開を目的としたCLI(地方情報委員会)というものがある。様々な社会の構成員で組織され、対話や討論を促す。フランス国民は原発推進を評価しており、その便益・利益も広く理解を得られている。

2022年までの「脱原発」を決めたドイツだが・・・

<ドイツ>
 ドイツでは、再生可能エネルギーの導入を進めてきた。だが、不安定な再エネ(風力・太陽光)を補完する電源として火力発電の稼働が必要であるため、温室効果ガス排出量がなかなか減少しない。またドイツ北部に大量に導入された風力発電施設から、電力大消費地であるドイツ南部を結ぶ送電線の整備が、住民の反対があって捗っていないという問題に直面も直面している。

 2020年までに温室効果ガスを40%削減し、CO2フリー電源を50%にする計画だが、2050年までに温室効果ガスを80%削減するのは困難な見通しだ。また現在の電源構成で再エネ14%、原子力12%となっているところを、2022年までに「脱原発」を実現する予定。

ドイツ南部オブリハイムで、廃炉作業が進められる原子力発電所、2014年7月1日

 ただ、この突然の政治的決定により、電子力発電を行ってきたエネルギー会社は莫大な経済的損失を被ることになる。その損失に対する補償の規定を整備しようとしてはいるが、実際にそれが実現するか予断を許さない状況になっている。脱原発に大きく舵を切り注目を集めたドイツだが、実現の見通しはかなり険しくなっていると言えるだろう。

<東欧4カ国(チェコ・スロバキア・ポーランド・ハンガリー)>
 この4カ国は、どの原子炉が最適か、どのような資金調達方法が適切かについて、IEAに検討を依頼するなど、原発導入に向けて取り組んでいる。

 こうした動きの背景には、この4カ国がロシアの天然ガス依存に危機感を強めている一方、CO2排出量増大に繋がる石炭火力を削減するようEUから圧力を受けているという事情がある。ポーランドは、高温ガス炉についても関心を寄せている。

世界の大半は「脱原発」ではなく「原発推進」

<サウジアラビア>
 サウジアラビアでは、8基の原発新設が予定されている。米国・中国・ロシア・フランス・韓国の5カ国が受注を目指している。米国はウェスチングハウス社の受注を目指しているが、「カショギ事件」の影響がどう出るか。ロシアの原発輸出も相当進展している模様。

<アセアン>
 フィリピンでは、ロシアの原発新設が進んでいる。インドネシア・タイ・カンボジアでは、中国が原発ビジネスを進めている。

――ここまで見てきたように、世界の大半の国々は「脱原発」どころか、「原発推進」だ。上記の国々の中で唯一、脱原発に取り組んでいるドイツもかなり混乱している。

 そうした中で日本の姿は、福島第一原発の事故以来、原発についてまるで「思考停止状態」に陥っているかのように見える。

 世界の潮流に逆行しながら、未来のエネルギー戦略を正しく描けるのだろうか。次回は日本の現状と、今後取るべき方策について詳しく述べてみたい。

【私の論評】「脱原発の先進国ドイツを見習え」という考えの大間違い(゚д゚)!

冒頭の記事では、「脱原発に取り組んでいるドイツもかなり混乱」としていますが、ではどのような混乱ぶりなのか、より詳細に以下に掲載します。

『FOCUS』誌の最新号によると、INSA研究所が3月19日と20日に行ったアンケート調査の結果、回答者の44.6%が、原発の稼働年数延長に賛成を表明したといいいます。一方、3分の1の人は反対。22%が「わからない」だそうです。

あれほど自分たちの脱原発計画を礼賛していたドイツ人が、今になって「稼働延長」だの、「わからない」だのと言っているとすれば、ひどい様変わりです。

ドイツは、福島第1の原発事故の後、2022年ですべての原発を停止すると決めました。多くの日本人が手放しで賞賛したメルケル首相の「脱原発」政策です。脱原発政策自体はシュレーダー前首相の時からありましたが、それをメルケル首相が急激に早めました。

さらに彼らは今、空気を汚す褐炭による火力発電もやめ、その上、2038年には石炭火力まで全部廃止するという急進的な計画に向かって突き進んでいます。

ドイツは石炭をベースとして成り立ってきた産業国なので、石炭と褐炭の火力発電がなくなれば、炭田、発電所、そして、その関連事業の林立する地域で膨大な失業者が発生して、ドイツ全体を不景気の奈落に落とすことは目に見えています。だから、石炭・褐炭火力の廃止を決めたは良いのですが、いったい、それをどうやって実行するかは検討中のままで、なかなか結論が出ません。

その上、さらに困るのは、原発と石炭・褐炭火力のすべてが無くなれば、電力の安全供給が崩れることです。原発を止めると決めた段階でさえ、すでにそれを警告していた人や機関は多くあったにもかかわらず、主要メディアはその警告を無視し続けました。その代わりに、「自然エネルギーでドイツの電気は100%大丈夫!」という緑の党や、一部の学者や、環境保護団体の主張ばかりが報道されてきたのです。

しかし、いくら何でも、2022年というリミットが近づいてくると、そんな夢物語ばかりでは済ませられなくなってきました。

いうまでもなく、太陽光や風力といった再エネ電気は天候に左右されるので、供給が不安定です。再エネ派は、「余った電気を蓄電しておけば問題なし」というが、採算の面でも、技術の面でも、まだ、それができないから困っているのです。

大々的な蓄電方法が完成しない限り、石炭と風力以外にたいした資源を持たない産業大国ドイツが、再エネだけで電気需要を賄えないことは、少し考えれば中学生でもわかります。いくら送電線が繋がっているとはいえ、産業国の動脈である電気を、他国からの輸入に依存するわけにはいかないです。

つまり、原発と石炭・褐炭火力が本当になくなれば、頼りになるのはガスしかなく、その重要性は、将来ますます高まるわけですが、建設が遅々として進まないのです。なぜかというと、ガス火力発電所を建設しても、今の状態では、これまた採算が合わないからです。揚水発電所も同じです。

採算の合わない理由は要するに、再エネが増えすぎたせいです。再エネで発電した電気は、法律により、優先的に電力系統に入ることになっているので、太陽が照り、風が順調に吹くと、系統が満杯となります。系統が満杯になると、大停電の危険が高まるので、火力など他の発電施設が発電を絞って調整しなければならないのです。

それでも電気が余れば、捨て値で外国に流します。それを緑の党などは、「ドイツが再エネ電気の輸出国になった」と喧伝していますが、赤字分は国民の電気代に乗せられています。要するに、ドイツの電力供給の現実は、時々刻々と変化する需要に合わせて計画的に発電することが叶わず、火力の発電量も、結局、お天気任せという状態なのです。

しかも、再エネ電気の氾濫で、電気の市場値段は恒常的に押し下げられていますし、当然、火力発電の総量は減っています。だから、とくに、原価の高い天然ガスは、稼働しても絶対に赤字となるため動かせないのです。こんな状態で、新規の投資が進まないのは当然です。

稼働する石炭化学発電所。昨年9月ゲルゼンキルヒェン

4月1日に、BDEW(Bundesverband der Energie- und Wasserwirtschaft = エネルギーと水経済のドイツ連合)が、現在、建設予定の2万キロワット以上の発電施設のリストを公表しました。それによれば、進行中のプロジェクトは60以上あります。すべて、将来の電力の安定供給のためのものです。

その中で、実際に建設中のものが10ヵ所。そのうち4つが天然ガスで計57万2000kW、5ヵ所がウィンドパークで計152万8000kW、残りが、なんと、石炭火力発電所で105万2000kWもあります。石炭による発電を2038年に止めると決めたのは最近のこととはいえ、これはどうなるのでしょうか。

一方、まだ建設に取り掛かっていないプロジェクトはというと、ガス火力の19ヵ所が計画中で、8ヵ所が許可申請中、3ヵ所が認可済み。ウィンドパークは、認可済みが17プロジェクト。バイオマスは2プロジェクトが計画中。揚水発電プロジェクトは、計画中が1つで、申請中が2つ。そして、石炭とバイオマスと水素のコンビ型発電所が1カ所、申請中となっています。

しかし、BDEWのCEOシュテファン・カプフェラー氏によれば、「ドイツの市場は目下のところ、必要な発電所を建設するための条件を満たしていない」。送電線建設も、電力の安定供給も、電力系統を支えるための運営資金も、すべてがドイツのエネルギー政策の不手際の下で滞ったままなのです。

そして、「ドイツはそれを知りながら、何の対策を施すことなく、遅くとも2023年にやってくる安定供給の崩壊に向かって歩んでいる」そうです。

結局、国民が負担を強いられる

しかし、現実問題として、EUのCO2規制はどんどん厳しくなります。2018年12月のポーランドのCOP(気候変動会議)において、EUは2030年までに、1990年比でCO2を40%削減という意欲的な目標を掲げました。

ドイツは2020年までのCO2削減目標は、すでに達成できないことがわかっているのですが、この2030年の目標は絶対に守れると見栄を切っています。しかし、それが達成できるかどうかは、まさにCO2の排出の少ない発電所を十分な数、新設できるかどうかにかかっています。そうでなくては、カプフェラー氏のいう通り、安定供給が崩壊し、産業が大打撃を受けます。

BDEWの試算では、石炭火力を2030年に本当に止めるなら、その時点で再エネの発電量を全体の65%まで引き上げる必要があります。

再エネの中で頼りになるのは、太陽光ではなく、ドイツ北部、あるいはバルト海、北海などの洋上風力なので、それを南の工業地帯に運んでくる送電線も早急に建設しなければならないはずです。ところが、現在、主要な超高圧送電線は、各地で巻き起こっている住民の反対運動で、そのルートさえ定まっていない状況です。

ドイツ北海での風力発電

しかも、それと並行して、風の吹かない時や、太陽の吹かない時にすぐに立ち上げられる「お天気任せではない発電所」、つまり、ガス火力発電所の増設も必要です。

ただ、ガス火力は最終的に、お天気任せの再エネのバックアップという立場であり続けることから、待機時間が多く、儲からないです。そこで建設の費用にも、その後の待機費にも、莫大な補助金が注ぎ込まれることになるでしょう。それらは税金ではなく、すべて電気代に乗せられている「再エネ賦課金」で賄われることになるのです。

結局、国民は、再エネにもガスにも多額の負担を強いられることになるのです。

ちなみに「再エネ賦課金」は、日本の電気代にもきちんと乗せられています。再エネの買取費用もここから出ているので、将来、再エネ施設が増えれば増えるほど、「再エネ賦課金」も増えていくことになります。電力系統は、日照時間の多い日はすでに満杯になっています。ドイツの話は、対岸の火事ではありません。

かつて緑の党は、エネルギー転換による電気代の増加は、国民にとって月にアイスクリーム1個分の負担でしかないといいましたが、今やドイツの電気代は天井知らずで、EU国で1番高くなってしまいました。しかも、まだまだ上がる予定です。

ドイツ国民の間では、「脱原発」決定当時の感動はすでに雲散霧消しています。これからさらに真実が明らかになるにつれ、なぜ、あのような話を丸ごと信じてしまったのかと、夢から覚める国民はますます増えるでしょう。

欧米・アジアの大半が「原発推進」という現実と、2022年までの「脱原発」を決めたドイツが大混乱している現実を考え合わせると、脱原発などと大声で絶対善であかのように単純に主張するのはいかがなものなのかと思ってしまいます。脱原発はそのように軽々しく論じることができるものではないです。

人間は常にプラス=ベネフィット(利益)とマイナス=リスク(危険性)を考えあわせながら、現実的な判断をしてきました。原子力をやるリスクとやらないリスクがありますが、国家、社会レベルで考えたとき、ある程度のリスクがあっても、それを相殺するだけのプラスがあると思われるときには、それを実行する理性的な判断力が求められるのです。

私自身は、当面まともな代替エネルギーが出現するまでは、原発を維持するのが日本の進むべき道だと思います。それまでは、完璧な脱原発などとんでもありません。

怖いから、嫌いだから、ということだけで原発ゼロにしてしまったら、日本はどうなるでしょうか。信頼できる安定的な電気が失われると、日本は沈没してしまいます。そのようなことは、事故があるからといって、日本では自動車を使わないことにしてしまえば、どうなるかを考えあわせるとすぐにわかると思います。

ちなみに、日本国内で、事故を起こさないために、自動車の運用をすべて停止したとしたら、どうなることでしょう。日本が自動車の運用をやめても、他国はそのようなことは絶対にしません。

そうなれば、いくら通信インフラが整っていたとしても、それに物流が追いつかず我々は、江戸時代のような生活を強いられることになります。とても、まともに経済発展などできません。それだけならまだしも、現在助かるような疾病でも多くの人々が亡くなることになります。

明治維新になってはじめて、政府が日本人の平均寿命の統計をとったときの日本人の平均寿命は何歳だったかご存知ですか?実は、38歳だつたのです。新生児の死亡率の高さも平均寿命の短さに寄与していますが、それにしても信じられないような短さです。脱原発をしてしまえば、このようなことも起こり得るのです。

東日本大震災の、事故後、原発の安全性はどこまで向上したでしょうか。 世界で最も厳しい新規制基準を作ったのが、極めて高い独立性と権限を持つ原子力規制委員会と原子力規制庁です。津波防護壁の設置と建屋の防水化、電源車や可搬式ポンプ・移動式ポンプ車などの配備、過酷事故への備えも万全です。福島事故の再来があっても、必ず防ぐことができます。

その上で、現在のような不安定な再生エネルーギーではなく、新たなエネルギー源がでてくる時期を待つべきです。こんなことを言うと楽天的といわれるかもしれませんが、100年前の都市の最大の環境問題は何だったか皆さんご存知ですか?

100年前というと、一部の都市などでは、大気汚染などもで初めていましたが、最大の環境問題は馬糞の処理でした。なにせ、馬が最大の交通機関であった時代です。この問題など、もう随分前から、すべての都市で解消されています。

100年後には、原発など過去の遺物になっているかもしれません。ただし、100年後そうであるからといって、現状で単純に脱原発を推進するというのは無責任というものだと思います。

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2019年4月5日金曜日

安倍首相は「令和」機に消費税と決別を デフレ不況深刻化の元凶 ―【私の論評】令和年間を「消費税増税」という大間違いから初めてはいけない(゚д゚)!


元号を発表する菅官房長官

 5月から「令和」の時代に移ることになった。漢和辞典によれば、「令」の原義は神々しいお告げのことで、清らかで美しいという意味にもなるという。日本の伝統とも言える「和」の精神にふさわしい。

 だが、ごつごつとした競争を伴う経済社会では、清らかに和やかに、では済まされない。

 野心と挑戦意欲に満ちた若者たちがしのぎを削り合ってこそ、全体として経済が拡大する。経済成長は国家が担う社会保障の財源をつくり出し、競争社会の安全網を充実させ、和を生み出す。社会人になっていく若者たちの負担が軽くなるし、家庭をつくり子育てしていけるという安心感にもつながる。

 そこで、新元号決定直後の安倍晋三首相の会見をチェックしてみると、「次の世代、次代を担う若者たちが、それぞれの夢や希望に向かって頑張っていける社会」「新しい時代には、このような若い世代の皆さんが、それぞれの夢や希望に向かって思う存分活躍することができる、そういう時代であってほしいと思っています。この点が、今回の元号を決める大きなポイント」と「若者」に繰り返し言及し、若者が「令和」時代を担うと期待している。

 だが、超低成長のもとでは「令」も「和」も成り立ち難い。若者は経済成長という上昇気流があってこそ、高く飛べると楽観できる。ゼロ成長の環境下では、殺伐とした生活しか暮らせないケースが増える。

 グラフは、平成元年(1989年)以来の日本の実質経済成長率の推移である。日本と同じく成熟した資本主義の米欧の年平均の実質成長率が2~3%台だというのに、日本はゼロコンマ%台のまま30年が過ぎた。原因は人口構成の高齢化、アジア通貨危機、リーマン・ショックなどを挙げる向きが多いが、ホントにどうなのか。



 高齢化はドイツなど欧州でも進行している。アジア通貨危機では直撃を受けた韓国はV字型回復を遂げたし、リーマンでは震源地の米国が慢性不況を免れた。いずれも日本だけがデフレ不況を深刻化させた。経済失政抜きに日本の停滞は考えにくい。

 最たる失政は消費税にある。政府は平成元年に消費税を導入、9年(97年)、そして26年(2014年)に税率を引き上げた。結果はグラフの通り、実質成長率はよくても1%台に乗るのがやっとで、家計消費はマイナス続き、外需頼みである。

 消費税はデフレ圧力を生み、経済成長を抑圧するばかりではない。所得が少ない若者や、子育てで消費負担が大きい勤労世代に重圧をかける。今秋の消費税率10%への引き上げは、首相が力説した、若者が担うはずの「令和」時代に逆行すると懸念せざるをえない。

 首相はデフレ下の増税に決別し、経済成長最優先という当たり前の基本路線に回帰すべきだ。その宣言は秋の消費税増税中止では物足りない。思い切って消費税率の引き下げを打ち出す。平成が終わり、令和にシフトする今こそ、政策転換のチャンスではないか。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】令和年間を「消費税増税」という大間違いから初めてはいけない(゚д゚)!

最たる失敗は確かに冒頭の記事にもあるように、諸費税増税です。他が駄目であっても、少なくとも消費税増税をしていなけれは、日本の経済はこれほど低迷することはありませんでした。

トリンプは、2018年11月29日、世相を映すブラジャーの新作として、東京スカイツリーを
モチーフにした「平成ブラ」(非売品)を発表しました。トリンプは1987年から世相を反
映した下着を定期的に発表し、今回が63作目でしたが、世相ブラは今回で終了するそうです。

「平成」には経済に関して本当に良い思い出は少ないです。先進国の中で、日本だけが経済成長しませんでした。世界各国の国内総生産(GDP)の推移をグラフで書くと、日本だけが横ばいで、この意味で「平に成った」と皮肉ることもできるかもしれません。

先進国で唯一ともいっていいくらいの「デフレ」で悩まされました。少なくとも「失われた25年」といえるでしょう。平成30年間のうちの25年ですから、ほとんどの期間が失われていたということになります。

そうして。もう一つ日本を駄目にしたのは、日銀による金融政策です。日本が最初にデフレになったのは、インフレ率が高くないにもかかわらず、日銀がバブル潰しとして金融引き締めを行ったからです。それは間違いだったのに、その後も日銀が間違いを続けたため、日本はデフレ状況から抜け出すことができませんでした。さらに、これに消費税増税が追い打ちをかけました。

新しい元号「令和」の決定を受け、記者会見で談話を発表する安倍首相

しかしそれは、平成最後の安倍晋三政権でただされました。2013年4月から、異次元の金融緩和を行い、日本経済が急速に改善しはじめました。ただし、その後2014年4月から、消費税を8%にあげ、さらには2016年9月で事実上の金融引き締めを行い、景気も17年12月あたりがピークとなってその後下降気味で、すでに腰折れしているようです。

今月1日に公表された日銀短観は、これらを確認するものでした。大企業・製造業の業況判断指数は、前回の昨年12月調査から7ポイント悪化し、悪化幅は12年12月調査以来、6年3カ月ぶりの大きさとなりました。

平成は、日銀の間違いから始まって、間違いで終わるのでしょうか。そうして、「令和」元年は、10%への消費税増税という間違いから始まるのでしょうか。

もし、そうなれば、「若い世代の皆さんが、それぞれの夢や希望に向かって思う存分活躍することができる、そういう時代」とは程遠い時代になります。

また、若者が真っ先に苦しむ時代になります。それだけは、避けたいです。令和年間を「消費税増税」という大間違いから初めてはいけないのです。

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