2022年8月9日火曜日

ペロシ訪台の陰で“敗北”した人民解放軍―【私の論評】海中の戦いでも負けていたとみられる中国海軍(゚д゚)!

ペロシ訪台の陰で“敗北”した人民解放軍

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)




【まとめ】
  • 「台湾関係法」によって米国は台湾の防衛を支持するという厳粛な誓いを立てた。
  • 現時点で中国の戦闘機や空母などが臨時転用や機動展開の能力に欠けているので、米軍と対抗するのは難しい。
  • ペロシ議長が台湾訪問後の実弾演習はあくまでも習政権が“面子”を保つための行動。

今年(2022年)8月2日、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問した。ペロシ議長の訪台に関しては様々な議論がある。同2日付『ワシントン・ポスト』紙に、議長本人が自らの信念を吐露(a)しているので、一部紹介したい。

(「台湾関係法」によって)米国は台湾の防衛を支持するという厳粛な誓いを立てた。私達は、弾力性のある島、台湾の側に立たなければならない。台湾は現在、新型コロナのパンデミックに対処し、環境保全と気候変動を擁護するリーダーである。また、台湾は平和、安全保障、経済的ダイナミズムのリーダーであるし、台湾は、起業家精神、革新の文化、そして世界が羨む技術力を持っている。

以上のように、台湾を持ち上げた。けれども、周知の如く、ペロシ訪台は、中国側の反発を招く結果となった。

ここでは、軍事的観点から、その訪台を考えてみよう。最近、『中国瞭望』に掲載された沈舟の論考(b)が優れているので、大雑把に抄訳する。

今回、ペロシ訪台の際、米軍が護衛する動きを見せた。そこで、台湾海峡で、米中間に緊張状態が生じている。

7月28日、中国国防部報道官は、記者会見で(ペロシ訪台を)「絶対に容認せず、断固として反対する」などと話した。この発言を聞く限り、中国軍には十分な対応時間があったと思われる。極端な話、中国戦闘機が台湾海峡「中央線」を越えてペロシ機を迎撃することも、“理論上”可能だった。

8月2日、中国軍は主に第4.5世代戦闘機「J-16」(第4世代「J-15」の改良型)等21機を投入し台湾西南防空識別圏に進入したが、「中央線」を越えていない。ペロシ機は台北松山空港に着陸予定だったので、もし中国戦闘機が本当に同機を迎撃するつもりなら、あるいは、少なくとも接近するつもりなら、台湾東部の台北付近の空域か、台湾北部の空域に現れるはずだった。しかし、中国戦闘機は台湾の同空域を封鎖するような動きを見せていない。

実際、東部戦区の安徽省蕪湖市には、第5世代戦闘機「J-20」が駐留している。だが、台湾海峡方面への移動が間に合わなかったという。これは中国軍の同戦闘機が、臨時転用や機動展開の能力に欠けていることを反映しているのかもしれない。

また、8月2日までに、空母2隻、遼寧号が青島港を、山東号が三亜港を出港したと伝えられた。ところが、台湾海峡到達に間に合わなかったのである。こちらは、中国海軍が空母を迅速に展開できないことを示す象徴的な出来事となった。

中国初の空母「遼寧号」

一方、米軽空母トリポリは、第5世代戦闘機「F-35B」を搭載して日本の周辺部から南下し、沖縄、宮古海峡、台湾北東部の空域を制圧した。中国軍の第4.5世代戦闘機「J-16」等では、米軍の「F-35B」に対抗するのは難しいだろう。

また、米原子力空母ロナルド・レーガンは南シナ海からフィリピン海に入り、台湾南東部の海域と空域を制圧している(ただし、ひょっとして、7月28日の米中首脳会議で、ペロシ訪台の際、解放軍は一切、手を出さないという“合意”がなされていた可能性も捨て切れない)。

さて、8月2日、新華社は、突然、台湾周辺6地域を区切り、中国軍が8月4日から7日まで、これらの海域と空域で実弾演習を行うと発表した。しかし、ペロシ議長は8月3日、すでに台湾訪問を終えている。これは、あくまでも習政権が“面子”を保つための行動だろう(なお、その軍事演習については別稿に譲りたい)。

中国は極超音速中距離ミサイル「東風17号」等、台湾海峡周辺でミサイル試射の準備を進めている。だが、今度の海峡危機で、中国軍は自らの軍事能力を露呈してしまった感は否めない。

ところで、近頃、中国の短編動画プラットフォームで、ある動画が流れた(c)。この映像は、ペロシ議長が無事、台湾を訪問したが、中国軍機が同行しなかった事について、中国軍関係者が解説したモノとされる。

実は、ペロシ議長機が無事に台北松山空港に到着した時、中国軍の(第5世代戦闘機)「Su-35」は離陸したばかりだったという。

実際、中国戦闘機が台湾付近上空を飛行している間、台湾はペロシ議長の到着を生中継していた。これも米軍の強力な電子対策能力を証明するものだろう。

軍事筋によると、台湾はペロシ機の機種、位置、人員をあえて世界に発信した。台湾は電子遮蔽、電子対決能力が極めて高く、中国軍では敵わないという事を示している。

他方、米空母等から発する電磁波が、中国の「北斗衛星導航系統」(中国が独自に展開している衛星測位システム)を撃破したという。

結局、今度の台湾海峡危機で、中国軍は米軍に“敗北”したと言えるかもしれない。

〔注〕

(a)「オピニオン ナンシー·ペロシ: 議会代表団を率いて台湾に行く理由」
(https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/08/02/nancy-pelosi-taiwan-visit-op-ed/)。

(b)「ペロシの台湾訪問が、中国軍の正体を暴露する」(2022年8月2日付)
(https://news.creaders.net/china/2022/08/02/2511135.html)。

(c)『万維読者網』
「中国、米中電子戦の敗北 ペロシが無事に到着した理由は」(2022年8月4日付)
(https://news.creaders.net/china/2022/08/04/2511560.html)。


【私の論評】海中の戦いでも負けていたとみられる中国海軍(゚д゚)!

先日は、このブログで、中国の台湾周辺での軍事演習に反応して、多くの国々がこれを脅威に感じ、これに備えようとし、大国は小国に勝てないというパラドックスの新たな事例がまた生み出されていくことになるであろうと主張したばかりです。

上の記事によれば、今度の台湾海峡危機で、中国軍は米軍に“敗北”したといっても良い状況であり、中国にとっては、まさに踏んだり蹴ったりの様相を呈してきたようです。

この事実を反映してか、米国防次官は、台湾侵攻「2年以内はない」の評価維持すると表明しています。


「今、我々にとって重要なことは、中国政府に理解させることです。米軍は国際水域のどこでも飛行・航行し、それには台湾海峡も含まれます」 

カール国防次官は8日、会見で数週間以内にアメリカ軍が台湾海峡を通過するとの見通しを明らかにしました。そして、中国軍の多数の航空機や艦艇が台湾海峡の中間線を越えていることについて、台湾支配という目標に向け、少しずつ現状を変える「サラミ戦術だ」と警戒感を示しました。

 一方で、中国による台湾侵攻の可能性を「今後2年はない」としてきたアメリカ軍の見通しについて、「変更はない」としています。

台湾は世界の半導体供給の最重要拠点であり、中国が演習を継続すれば「台湾だけでなく世界経済に影響を及ぼす時期がありうる」とも指摘。「米国の政策は『自由で開かれたインド太平洋』の現状を堅持すること」とし、「航行の自由作戦」で台湾海峡の艦船通過を今後も継続すると強調しました。

バイデン米大統領も8日、中国が台湾周辺の軍事演習を継続している状況を「懸念している」と述べました。

中国軍が4日から台湾近海で実施していた「重要軍事演習」は7日に最終日を迎え、爆撃機や地上部隊などが連携し、対地攻撃や長距離対空攻撃を行う訓練を実施しました。中国軍は8日も引き続き、台湾周辺の海空域で実戦に向けた統合演習を実施したと発表し、早くも台湾周辺での演習の常態化を進めている。

中国軍で台湾を担当する「東部戦区」によると、7日には爆撃機などが地上のミサイル部隊と連携。対空迎撃訓練や、一斉発射で迎撃を難しくする飽和攻撃を多種類のミサイルで行う精密打撃訓練を実施しました。8日には海空統合で、対潜訓練などを重点的に行ったといいます。有事の際に台湾周辺海域に集結する米軍潜水艦への対処を念頭に置いている可能性があります。

ここで、軍事筋が注目するのは、やはり対潜訓練でしょう。このブログでは、現在の海戦の主役は潜水艦であることを述べてきました。

米国の著名な戦略家ルトワック氏も引用しているように、昔から「艦艇には2種類しかない、一つは水上艦艇であり、もう一つは潜水艦である。水上艦艇は現在ではミサイル等の標的でしかないが、潜水艦は違う、現代の海戦の主役は潜水艦である」と言われています。

台湾近海に米軍が巨大攻撃型原潜を潜ませていれば、中国にとってはかなりの脅威です。この一隻で米国は台湾海峡危機を勝利に結びつけることができます。

オハイオ級であれば、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

オハイオ級攻撃型原潜 ミサイル発射口 中国のサイトより 一部秘密保持のめ米国側のぼかしが入っている

これが一斉に中国の軍のレーダー施設、監視衛星の地上施設にめがけて、発射され破壊れば中国軍は米軍の位置を確認できなくなります。米軍はインテリジェンスにより、これらの位置を把握しているものとみられます。

さらに攻撃型原潜は今や水中のミサイル基地と言ってもよいくらいで、これに続き対艦ミサイルを打ち込めば、中国海軍は崩壊します。

実際、ルトワック氏は台湾危機には、このような原潜を2〜3隻派遣すれば十分に対応できるとしています。実際は1隻でもできるのでしょうが、24時間体制で監視し確実に攻撃をする体制にするには余裕をみて2〜3隻派遣しなければならないという意味なのだと思います。

中国軍はこのような脅威についても当然認識していると思われます。ただ、中国海軍のASW(対潜戦)能力は米国に比較して、かなり劣っていますから、これに有効に対応することはできません。

ペロシ訪台中に米軍は当然のことながら、攻撃型原潜を台湾海峡のいずれかに潜ませていたでしょうが、中国としては中国軍が目立った動きをすれば、米国側を刺激することになりかねず、ペロシが台湾を去ってから数日後の8日になって、しかも予定では7日で終わるはずたったものを8日になってようやっと海空統合で、対潜訓練などを重点的に行ったのです。

これは、米国を刺激したくないか、あるいは米国側に中国のASWが未だに弱いことを再確認されたくないという考えの現れであるとも解釈できます。もし、中国側がASWに自信があるといのなら、もっと早い時点で実施して、米側にこれみよがしに見せつけたと考えられます。

いやそれどころか、すでに台湾や尖閣に侵攻どころか、第二列島線を確保していたかもしれません。それが未だにできない中国には、何か弱点があるのであり、それがASWであると考えられます。

このあたりは、潜水艦の行動はいずれの国も隠すのが普通なので、表にはでてきませんが、私は米軍は当然のことながら、台湾付近で攻撃型原潜が監視にあたっていたものと推察します。

そうして、ペロシ訪台の陰で海中の戦いでも中国は米国に“敗北”していたと推察します。

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