2022年8月1日月曜日

バイデンがサウジアラビア訪問で得たものとは―【私の論評】多極化した世界秩序の中で成功した安倍外交を踏襲しようとしているバイデン大統領(゚д゚)!

バイデンがサウジアラビア訪問で得たものとは

岡崎研究所

 バイデン大統領は、7月13日から16日の日程で中東を歴訪した。ここでは、特に、サウジアラビア訪問について見てみる。


 米国とサウジとの関係は、バイデンが軽率にも大統領選挙期間中に「サウジを『のけ者』にする」と言ったり、カウンターパートはムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)ではなくサルマン国王であると言ったりして、冷え込んでいた。湾岸の米国の最大の同盟国との関係がぎくしゃくしているのは当然望ましいことではない。サウジとの関係改善自体が訪問の一つの大きな目標だったと言っても過言ではない。

 今回のバイデンの訪問で、米国とサウジとの関係は、安全保障、経済協力の両面で絆が再確認された。航空産業、防衛、工業全般、観光、インフラ、クリーンエネルギーなど広範な分野で多くの投資協力がなされることが発表された。

 バイデンの訪問に合わせて、サウジ当局は、イスラエルを含むすべての航空機に領空を開放することも発表した。これは、サウジとエジプトの間で領有権を争っていたティラン島をイスラエルに引き渡す合意において、引き渡しにはイスラエルの承認が必要だったところ、米国の仲介により7月14日にイスラエルが承認したことへの見返りとされる。

 イスラエルとサウジの関係改善を示す象徴的な出来事だったと言える。米国はイランの脅威を念頭にイスラエルとアラブ諸国が関係正常化と協力強化に向かうことを望んでいる。

 原油増産については確約を得ることができなかったが、いずれサウジが75万BD、UAEが50万BD、計125万BDを増産することが了解されているとの説もある。

バイデンのサウジ訪問につき米国内ではメディア、民主党左派、保守党、人権活動家等から強い批判が沸き上がっている。バイデン擁護論はほとんど見られない。

人権だけで外交はできない

 リベラル派は、反体制ジャーナリストのカショギ氏の殺害に深く関与したとされるMBSにバイデンが甘い態度をとったことを非難する。特にワシントン・ポスト紙は激しく攻撃している(例えば、7月17日社説‘In the Middle East, Biden’s policy bumps into U.S. principles’)。

 しかし、今回のサウジ訪問が綿密に計画され大成功だったとは言えないが、バイデンの意図したサウジ訪問の目的は十分に理解できる。バイデンは、7月9日付けのワシントン・ポスト紙への寄稿記事‘Why I’m going to Saudi Arabia’の中で、大きな地政学的問題や世界エネルギー市場の安定化のためにサウジに行くのだと説明していた。

 バイデンとしては、サウジ訪問のリスクを承知の上で最終的に訪問に踏み切ったのであろう。バイデンに他の策があったようには思えない。

 人権の重要性は言うまでもないが、人権だけでは外交にならない。独裁者とディールしないと言うだけでは外交にならない。人権は不可避的に、レアル・ポリティーク(現実政治)と併せて取り扱わなければならない。

【私の論評】多極化した世界秩序の中で成功した安倍外交を踏襲しようとしているバイデン大統領(゚д゚)!

安倍元総理大臣も存命中に、総理大臣としてサウジアラビアを訪れています。

在任中、安倍首相は外交政策、特にアラブ諸国との関係で知られていました。安倍元総理は中東と日本の協力関係、友好関係の強化に大きな役割を果たしました。

2020年、安倍首相はアラブ諸国を視察し、サウジアラビア、UAE、オマーンを訪問しました。

同年1月、安倍首相はサウジアラビアに到着し、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談し、両国の二国間関係について協議を行いました。

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談する安倍首相

同地域における日本関係船舶の安全航行のための情報収集を目的とした海上自衛隊の任務について、安倍首相は皇太子から全面的な支持を得ました。

海自のP-3C哨戒機2機は1月に任務に出発し、同じく海自のたかなみ型護衛艦は2020年2月2日に中東に向けて出港しました。

その際、両首脳は地域の安定と平和を確保するための努力を維持することに合意しました。

王国訪問中、安倍氏はナバティア人の遺跡であるアル・ウラーを視察した。これは、UAEとオマーンに向かう前の最後の訪問地となりました。

また、リヤドではサウジアラビアのサルマン国王と会談し、サウジアラビアが主催する「20カ国・地域(G20)」の成功に向けた協力関係を確認しました。国王は約40分間の会談で、日本と同国がエネルギー分野だけでなく、様々な分野で戦略的パートナーシップを深めていくことへの期待を表明しました。

UAEでは、アブダビ首長国の国軍副司令官シェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド皇太子が安倍首相を迎え、地域の緊張緩和のための外交関係強化に向けた取り組みについて協議しました。

安倍首相らはまた、アブダビ最高石油評議会(SPC)との間で交わされた「UAE-日本戦略的エネルギー協力協定」の調印に立ち会いました。

UAE国営通信WAMによると、この協定はアブダビ国営石油会社(ADNOC)と日本の資源エネルギー庁によって提示され、日本国内の貯蔵施設に800万バレル以上の原油を備蓄するためのものでした。

安倍首相のアラブ歴訪の最後の目的地はオマーンであった。スルタン・カブース前国王の死去に伴い就任したハイサム・ビン・タレック国王と会談しました。

ハイサム・ビン・タレック オマーン国王と会談する安倍首相

安倍首相はスルタン前国王の死去に哀悼の意を表しました。また、地域の安定のために協力し、二国間関係を発展させることで合意したと、日本外務省の声明は述べています。

2015年、安倍首相はエジプト、ヨルダン、イスラエル、パレスチナを訪問し、中東の主要国との友好関係を再確認しました。

安倍首相は、地域の安定に不可欠なイスラエルとパレスチナの和平の実現に向けた働きかけを行いました。

ヨルダンでは、ダーイシュ対策の最前線にいる同国を支援することを約束した。

日本とヨルダンは、皇室と王室の緊密な関係に基づく極めて友好的な関係にあり、両国首脳の間で活発な交流が続けられています。

ヨルダンのアブドッラー2世国王と安倍首相は、両国の戦略的関係をさらに発展させ、平和と安定の推進に協力していくことを再確認しました。

その際、安倍首相はイスラエルとパレスチナにおける暴力と不信の連鎖に懸念を示し、紛争をエスカレートさせる可能性のある行動を避けるよう要請しました。

また安倍氏は、イスラエルが実施しているパレスチナ自治区への税収返還の停止について見直しを強く要請し、国際法に違反する入植活動の停止も要請しました。

2015年に行われたパレスチナ自治政府のマフムード・アッバース大統領との会談では、安倍首相は、二国間解決に向けた1億ドルの支援など、パレスチナの国づくりに向けた日本のコミットメントと支援を強化する意向を直接伝えました。

また、国連や国際機関において外交的措置を講じているパレスチナに対し、交渉再開や中東和平に向けた努力を阻害するような行動をとらないよう要請しました。

「アベノミクス」という言葉は、2012年に安倍首相が日本経済をデフレから脱却させるために実施した経済政策から生まれました。日本は、安倍首相在任中にも2度も消費税増税をしたこともあり、デフレから未だ完璧には脱却していないものの、在任中に400万にもの雇用を新たに創造しました。安倍首相が就任した2012年当時、日本はまだ2008~2009年の不況から立ち直っていない時期でした。

また、2020年の東京オリンピックを勝ち取るために大きな役割を果たしたのも安倍元首相です。

人気ゲームのキャラクター「マリオ」に扮し、リオ五輪閉会式に登場した安倍晋三首相

安倍首相は2020年8月下旬、持病を理由に突然の辞任を届け出ました。同氏は、世界中の外国人指導者との個人的な関係や、サウジアラビアのサルマン国王、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子などアラブの指導者との強い結びつきで知られていました。

中東の対立構造はもはや、一昔前のイスラエル対アラブ諸国ではありません。「力による現状変更を現在進行形で実践しているイラン」対「中東地域の安全、安定、国家の主権、独立を保持したいその他諸国」というかたちへの地域再編が進んでいます。

世界は二極化ではなく多極化しています。多極化した世界秩序の中で国益を守るためには、「どちら側」とも取引をしなければならないと考える国が少なくないという現実を直視し、外交を実践したのが、安倍首相であったとえると思います。こうした、従来の外交とは異なる安倍外交を日本もこれからも継承すべきです。

まさに、人権を不可避的に、レアル・ポリティーク(現実政治)と併せて取り扱ったのが安倍元首相であったということができます。

これを実行しようとしている、バイデン大統領の今回のサウジアラビア訪問、一定の評価ができると思います。

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