2020年11月20日金曜日

これが安保の真実、米軍は尖閣に駆けつけてくれない―【私の論評】日本は独力で尖閣を守れない、占領されても奪還できないとは都市伝説か(゚д゚)!

これが安保の真実、米軍は尖閣に駆けつけてくれない

菅・バイデン電話会談でまたもや繰り返された悪しき前例

尖閣諸島の魚釣島(出典:内閣官房ホームページ

(北村 淳:軍事社会学者)

 日本の主要メディアの報道によると、日本時間の11月12日、菅義偉首相と次期大統領就任が確実となりつつあるバイデン前副大統領が電話で会話を交わした際、バイデン氏は「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象である」と明言したとのことである。

またも繰り返されたパターン

 国防とりわけ尖閣諸島防衛に関しては、菅首相も歴代政権の悪しき前例から一歩も脱却しようとはしていないようである。

 すなわち、アメリカ政府高官たちに「尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用範囲である」と明言させ、日本の主要メディアに「アメリカの○○○○○は、アメリカによる日本の防衛義務を定めた日米安保条約第5条が、尖閣諸島に適用されることを確認した」といった報道をさせる。それによって、「尖閣諸島において中国が何らかの形で武力を行使した場合には、アメリカ軍が出動して日本を救援してくれる」というイメージを日本国内に流布させる、というパターンを繰り返しているのである。

 日本の歴代政権にとっての尖閣諸島防衛戦略は、このようなパターンを繰り返すことだけと言っても過言ではない。

日本に広まっている願望的期待

 昨今の現状はどうあれ、中国によって尖閣諸島が占領されているといった事態がいまだに生じていない限り、日本政府が「尖閣諸島の施政権は日本にある」と公言している以上、第三国間の領土紛争には介入しないことを基本原則としているアメリカ政府(とりわけ国務省や国防総省)としては「尖閣諸島は安保条約第5条の適用対象である」と判断せざるを得ない。したがって、米政府高官たちが日米安保条約と尖閣諸島との関係に触れる際に、「尖閣諸島は安保条約第5条の適用対象である」との立場を表明することは当然である。

 もちろん日本政府は、この事情は百も承知だ。そこで日本政府はアメリカ側にそのような「当然の表明」を述べさせることによって、日米同盟が対中牽制になっているかのごとき印象を日本国内向けに宣伝するのだ。

 そして“仕上げ”は日本メディアの報道である。多くの報道が「日米安保条約第5条はアメリカの日本防衛義務を定めている」と表現してしまっている。そのため、日本社会では「中国が尖閣諸島を占領したり、何らかの形で軍事力を行使した場合には、同盟国アメリカが強力な軍隊を投入して中国軍を追い払い日本を護ってくれる」という願望的期待が広まってしまうのだ。

米軍人たちの危惧

 本コラムでも幾度か触れたことがあるが、「日米安保条約第5条はアメリカの日本防衛義務を定めている」という表現は正確ではない。この点に関しては、筆者周辺の東アジア戦略環境それに日米安保条約に精通している米軍将校や軍関係法律家たちも、筆者同様に大いに危惧している。

 菅首相とバイデン氏の電話会談のニュースを受けて、日本で「日米安保条約第5条はアメリカの日本防衛義務を定めている」と考えられている状況を是正するために「アメリカ軍や国務省関係の法律家の間では常識とも言える“事実”を日本の人々に理解してもらわねばならない」といった声も寄せられてきている。

日米安保条約第5条の本当の中身
 日米安保条約第5条からは、尖閣諸島を巡って中国が軍事攻撃を仕掛けた場合、米海軍第7艦隊は直ちに横須賀や佐世保から南西諸島に急行し日本の敵勢力を撃退する、といった解釈が自動的に生ずることは決してありえない。

 日米安保条約第5条が取り決めているのは、このような事態が発生した場合、アメリカ側(国務省、国防総省、太平洋軍司令部など)としてはアメリカ合衆国憲法や各種法令・手続きに従って行動する、ということである。

 具体的には、尖閣周辺で進行中の軍事的状況を分析し、米側としての対処策を討議し、おそらくはホワイトハウスや連邦議会は、「尖閣諸島(という無人岩礁群)での日中間のトラブルに対してアメリカ軍を投入することは、核保有国である中国との軍事衝突の可能性を勘案すると、アメリカとしては価値を認められない」と判断することになるであろう。

 もちろん、日本はアメリカにとり重要な同盟国の1つである。しかし、そうだからといってアメリカとしては、核戦争へとつながりかねない危険を冒してまで、日本の“岩”のために軍隊を投入する価値は見出せない、というのが現実の姿である。

 上記のような解釈は、東アジア情勢ならびに日米安保条約に精通している米軍関係者などに尋ねれば、ごく普通のものであることが容易に理解できるであろう。

 要するに、日本社会に浸透してしまっている「日米安保条約第5条はアメリカによる日本防衛義務を定めたものであり、万が一にも尖閣諸島を巡って日中軍事衝突が発生した場合には、強力なアメリカ軍が中国侵攻部隊を撃退し日本を防衛してくれる」などというシナリオは、日本だけで信じられている手前勝手な都市伝説にすぎないということなのである。

中国軍相手の島嶼奪還は不可能に近い(写真:米海兵隊)


【私の論評】日本は独力で尖閣を守れない、占領されても奪還できないとは都市伝説か(゚д゚)!

尖閣諸島に人民解放軍が上陸したら、米国の助けがないと日本は尖閣諸島奪還は不可能の近いのでしょうか。ましてや、日本が尖閣に上陸した中国軍や民兵などに対して手も足もでないのでしょうか。私は、そうではないと思います。

これはおそらく軍事機密なのであまり公表されていなのでしょうが、もし尖閣諸島に中国軍が上陸したとしても、日本には20隻以上の潜水艦からなる、潜水艦隊が存在ししかもその潜水艦はステルス性がかなり高く最新型はほとんど無音に近く、対潜哨戒能力の低い中国にはこれを発見できず、これで十分反撃可能であると思います。

尖閣に中国軍が上陸すれば、これを日本の潜水艦隊で包囲し、近づく艦艇や航空機を破壊するかそこまでいかなくとも牽制して近づけないようにすれば、尖閣に上陸した中国や民兵などは補給ができずに、お手上げになります。これに対して既存のメディアや軍事評論家らは、なぜか潜水艦を用いない作戦ばかりを想定して、到底中国にはかなわないような説明をします。

これと似たようなことは、南シナ海の中国軍基地に対して最近何度が述べてきました。というのも、米軍の海洋戦術が明らかに変わったと思われる節があったからです。

米軍はすでに5月下旬に潜水艦の行動に関して公表しています。潜水艦の行動は、通常どの国も公表しないのでこれは異例ともいえます。

この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて今年5月下旬にマスコミで報道されました。太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされました。

その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされています。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられます。

無論、当時空母でコロナが発生したという事情もからんでいるでしょう。空母打撃群が水平のコロナ罹患で出動できない間隙をぬって中国が不穏な動きを見せないように牽制したものと思います。逆に、米軍は空母打撃群でなくても潜水艦隊があれば、中国の動きを牽制できると考えているともいえます。

原潜は構造上どうしても騒音がでて、静寂性は通常型には劣るのですが、それでも中国の対潜哨戒能力よりは米軍のほうが世界一の能力を持っていることから、米軍にとっては明らかに有利です。中国の原潜は米国に比較しても、かなりの騒音を出すので、世界一の哨戒能力を持つ米軍に簡単探知されてしまいます。

これは、明らかに戦術の変更を示していると思います。仮に戦闘が起こったとして、それに対抗するために空母打撃群を派遣すれば、中国にとっては格好の標的になるだけです。すぐに撃沈されてしまうでしょう。そのような戦術は時代遅れです。

現代の米国の潜水艦は、核武装も含む様々な武装をしており、単純には比較できませんが、その破壊力は空母打撃群に匹敵します。これからの時代は相手を牽制したり、戦闘における初戦においては、過去のように空母打撃群か最初に出るのではなく、潜水艦隊が最初にでて、敵の艦艇や航空機やミサイルなどの脅威を取り除き、その後に空母打撃群が追撃戦をするという形に変わるでしょう。

5月の太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中という公表は、米海軍の戦術の変更の現れと見るべきと思います。私自身は、この発表よりも随分前から、米軍は戦術を変更していたと思っています。そうして、日本もそれに近い戦術をとっていると思われます。

日本では、海上自衛隊の3,000トン型潜水艦の1番艦が先月の14日に進水、旧日本海軍の潜水母艦に因んで「たいげい」と命名されました。

10月14日に進水した最新鋭3000トン型潜水艦「たいげい」

この「たいげい型潜水艦」はそうりゅう型潜水艦の後継艦で最新の「18式長魚雷」や海自の潜水艦として初めて「女性自衛官専用の居住区画」を備えるなど話題になっていますが、海外メディアが最も注目しているのは通常動力型潜水艦のゴールデンスタンダードである「AIP機関」ではなく「リチウムイオン式電池」による推進方法を採用している点です。

AIP機関を採用した「そうりゅう型潜水艦」の11番艦と12番艦は既にAIP機関を廃止してリチウムイオン式電池を採用しているため特に目新しさは感じないのですが、たいげい型潜水艦はリチウムイオン式電池採用を前提に設計された初めての潜水艦なので海外からすると11番艦「おうりゅう」よりも注目度が高いです。

特に米メディア「The Drive」は中国海軍の存在が日本のリチウムイオン式電池採用の決断を後押ししたと指摘しています。

中国海軍は攻撃型原潜「Type093」と比較して音紋が大幅に減少していると予想されている「Type095」の建造準備に取り掛かっており、国産AIP機関を搭載した通常動力型潜水艦「Type039A」を計20隻建造(内17隻が就役)するなど潜水艦戦力を急速に増強中で、遼東半島と山東半島の間にある中国唯一の原子力潜水艦建造施設「渤海造船所」の拡張中(5隻以上の原潜を同時建造できる規模らしい)です。

そのため日本は潜水艦の静粛性能を高めるためAIP機関よりも低振動な「リチウムイオン式電池」採用に踏み切ったと説明、リチウムイオン式電池は火災や発熱問題など安全性に対するリスクが付き纏いますが、AIP機関採用の潜水艦よりも優れた水中加速性能を日本の潜水艦にもたらすだろう言っており、日本は静粛性能と水中加速性能で中国に対抗するつもりだと評価しています。

さらにThe Driveは、リチウムイオン式電池による推進方式が通常動力型潜水艦のゴールデンスタンダードになるのかは今のところ不明ですが、少なくとも日本は潜水艦へのリチウムイオン式電池採用に自信を持っており、実用化に向けて順調にスケジュールを消化しているのは明らかだと付け加えました。

スウェーデン発祥のドイツによって普及されたAIP機関と同じように、日本がリチウムイオン式電池を採用した潜水艦の運用実績を積み重ねれば通常動力型潜水艦のゴールデンスタンダードに近づくと言う意味で、世界中の国が日本の「たいげい型潜水艦」に注目しているのは間違いないです。

因みに進水した潜水艦「たいげい」は艤装工事を行い2022年3月頃に就役する予定で、同艦の就役をもって海自の潜水艦22隻体制が完成することになります。

現在でも20隻以上の潜水艦隊をもち、旧式のAIP機関のものも含めて、その静寂性は世界のトップであり、リチュウム電池式は、ほとんど無音に近いです。これは、リチュウム電池にしただけでなく、元々日本の工作技術が世界トップ水準だからできることです。これを中国軍の対潜哨戒機は探知できません。逆に中国の潜水艦は日本が、簡単に発見できます。

であれば、尖閣が中国軍に占領されたとしても、ここに艦艇や航空機などを派遣したり、レインジャー部隊を派遣して、わざわざ中国軍の的にするのではなく、最初に潜水艦艇5隻くらい派遣して、尖閣諸島を包囲してしまえば良いです。

近づく中国の補給線や補給用航空機などは、近づけば破壊すると脅せば良いです。それでも近づけば本当に破壊すれば良いです。さらに、日本は機雷の掃海能力は世界一ですから、尖閣付近に機雷を敷設して、潜水艦隊の戦術を補うこともできます。

中国もこれに対抗して、機雷を敷設すると、掃海能力が格段に劣っているので、逆に自分で自分の首をしめることになりかねません。これに対して、日本は日本が設置した機雷はもとより、中国の機雷も容易に除去できます。

中国軍や民兵などが尖閣諸島に上陸したとしても、上記のような戦術をとれば、日本単独で上陸した勢力の補給を断ち、無能力化することができます。

そんなこと、日本ができるわけがないではないかという声も聞こえてきそうですが、実際に中国が尖閣諸島に上陸し、基地でも設置するそぶりを見せれば、状況は大きく変わるでしょう。そうなれば、中国が沖縄や日本に対して触手を伸ばしてくるだろうことは、誰にも予想がつきます。

しかも、米国の大手世論調査専門機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が10月6日に発表した世界規模の世論調査報告によると、多くの先進国における反中感情は近年ますます強まり、この1年で歴代最悪を記録しています。

同調査によると、反中感情を持つ14か国とその割合は、高い順番から日本では86%にも及びます。


尖閣にまかり間違って、中国が尖閣に上陸すれば、中国に対する国民感情はとりかえしがつかない程に硬化し、政府はどのような形にせよ、中国排除の方向で進むことになるでしょう。それとごろか、親中敵な自民党の派閥や、野党、マスコミなどは、国民の憤怒のマグマを直接浴びてとんでないことになるでしょう。そうして、憲法改正がなされ、日本も普通の国になるどころか、中国にとって大きな脅威になるでしょう。核武装についても国会で審議され、実行されるかもしれません。

国会で議論していると中国に既成事実化されてしまうなどという方もいらっしゃるかもしれませんが、3年や5年も放置しておけば別ですが、少なくとも2年以内くらいに決心して十分準備して中国の上陸部隊を兵糧攻めにすれば、中国軍はこれに対して何もできずお手上げになるだけですから、十分に間に合います。中国は怒りまくるでしょうが、どうしようもありません。

まかり間違って小型中距離核兵器でも使おうものなら、全世界から総スカンをくらうだけではなく、日本も核武装しかねず、そうなれば日本は中国にとって大きな脅威となるでしょう。

そんことになるのが、分かりきっているので、中国は尖閣地域で様々な示威活動をしたとしても、尖閣にはなかなか上陸しないのです。上陸して維持できる自信があれば、とうの昔に上陸しています。だから、尖閣諸島付近で示威敵行動を繰り返して、既成事実を作ろうとしているのです。裏返せば、軍同士で直接対決すれば、負けるのは明らかなので、それしかできないということです。

潜水艦隊戦ということになれば、米国も加勢しやすいので、おそらく早い時期から加勢すると思います。いやそれどころか、英国、インド、豪州も加勢するかもしれません。これで潜水艦隊の各国の合同チームができるかもしれません。日本の潜水艦隊はほとんど無音に近いステルス性を駆使して、情報収集の尖兵となり同盟国に中国軍の最新動向を伝えることになるでしょう。

これがうまくいけば、インド太平洋地域全域で日米英豪印協同で同じようなことをすれば良いです。そうすれば、中国軍はインド太平洋地域から駆逐できます。

そんなうまい話があるものかという方には、現実の中国の海洋進出がどうなっているかを示せばある程度ご理解いただけると思います。中国海軍のロードマップでは、2020年の今年は太平洋において第二列島線を確保することになっていますが、それどころか未だに尖閣を含む第一列島線すら確保できていません。それが中国海軍の実力です。

これは、どう考えてもいくら中国が空母や最新鋭といわれる艦艇や、宇宙兵器や超音速ミサイルを開発したとしても、そもそも哨戒能力が格段に劣っているので、結局中国の護衛艦や潜水艦もすぐに撃沈されてしまうので空母を護衛できず、中国艦隊も島嶼上陸部隊も用をなさないということです。結局中国海軍は政治的な意味しかもたず、海洋の戦いは、金をかけてもボロ船(哨戒能力が極度に低い)しかつくれない陸上国の中国には無理なのです。

とはいえ、油断は禁物です。以前にもこのブログに述べたようにランドパワーの中国が、海洋進出を諦めて、陸に専念するようになれば、国境を接している国々にとって大きな脅威となります。

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