2020年11月18日水曜日

ロシアの脅威に北欧スウェーデンが選んだ軍拡の道―【私の論評】菅政権が財務省と戦う姿勢をみせなければ、経済も安保も安倍政権の域を出ないとみるべき(゚д゚)!

 ロシアの脅威に北欧スウェーデンが選んだ軍拡の道

岡崎研究所

 10月19日付の英Economist誌が「スウェーデンは、数十年間で最大の軍事力増強に着手した。理由はロシアである」との解説記事を掲載している。


 スウェーデンでは、10月14日に新国防法案が提出され、過去70年間で最大の軍拡を予定している。理由は、暗殺から侵略まで、ヨーロッパにおけるロシアの脅威が増し、スウェーデン人の対露警戒心が高まっているからである。

 近年、スウェーデンは、ロシアが領空と領海を頻繁に侵犯したとして非難してきた。それでスウェーデンは、NATO(北大西洋条約機構、注:スウェーデンは非加盟国)や、米国、他の北欧諸国と、軍事的関係を深めてきた。 

 新国防法案が成立すれば、国防予算を2021年~2025年の間に275億スウェーデン・クローネ(約31億ドル)増加することになる。これは、軍隊の50%増も賄う。軍隊は、正規兵の他、徴兵兵士、地元の予備役を含め9万人になる見通しである。

 冷戦終結後、徴兵制は10年前に廃止されたが、ロシアの脅威の高まりによって2017年に男女ともに復活した。スウェーデンの議会や国民から大きな反対はなかった。18歳以上の男女が年間8千人、徴兵される。また、上陸部隊がスカンジナビア最大の港、ゴーテンブルグに再び置かれることになる。

 民間防衛では、サイバーセキュリティ、電力網、および保健の分野のために、より多くの資金が投じられるだろう。

 スウェーデンは中立国であるが、ロシアの脅威を強く認識するに至り、軍拡路線にかじを切ったという興味深いエコノミスト誌の解説記事である。国際情勢全般に与える影響は大きくないが、ご紹介する。

 北欧は、ノルウェーがNATOの加盟国、フィンランドが親ロシア、そしてスウェーデンが中立国ということで微妙なバランスを保ちつつ、平和を維持してきた。が、ロシアの最近の動きがスウェーデンを刺激し、スウェーデンが脅威に対応する必要を感じ、軍拡しているということである。国防費を一挙に40%増にするのは予算に飛躍はないという中でかなり強い対応である。スイス、スウェーデンは武装中立国であるが、周辺の国に脅威を与えることはほぼない。

 ロシアは何の意図でスウェーデンの領海、領空を侵犯し、スウェーデンのような国の警戒心を高めているのか、理解できない。北方領土に軍を配備し、演習をして、日本から抗議されているのと同じような愚行ではないかと思われる。

 ロシアの経済は、いまやIMF(国際通貨基金)のGDP統計で韓国以下であり、かつ石油価格は新型コロナ・ウィルス、温暖化対策等で今後回復しそうにもない。プーチン大統領は国際的に大国として大きな役割を果たしているロシアを演出するために、シリアやリビアに進出し、ベネズエラに傭兵を出すなど、やりすぎている。こういうことは、ロシアの衰退につながると思われる。

【私の論評】菅政権が財務省と戦う姿勢をみせなければ、経済も安保も安倍政権の域を出ないとみるべき(゚д゚)!

さて、スウェーデンとロシアということになると、経済はどのくらなのかということになります。なぜか多くの日本人は、ロシアの経済を大きくみる傾向があります。等身大でみるべきでしょう。

実際どうなのでしょうか。2014年の数値では、関東圏とロシアはほぼ同じぐらいだったのですが、資源価格の下落により、ロシアの2015年の名目GDPは1兆3684億ドルとなり、中部と近畿を足した額(約1兆4015億ドル)に近い規模となりました。ロシアがアメリカに挑むのは、経済規模で言えば、中部と近畿でアメリカに経済競争をしかけるようなものなのかもしれません。

北海道と東北をあわせたくらいが、スウェーデンです。そのため、中部と近畿を足した程度のロシアのほうがGDPは大きいですが、それにしても何倍ということもないです。

これに関して興味のあるかたは、是非以下のサイトをご覧になってください。


この程度のロシアが軍事費では世界第4位の軍事費を資質しています。


しかし、ロシアは周辺を中国、日本などに囲まれ、日本などには米軍が存在するということで、今回スウェーデンが軍事費を大幅に増大することは意味のあることです。これで、ロシアに対してかなりの牽制になるでしょう。

では、日本はどうかといえば、できれば軍事費1%の枠など取り払い少なくとも2%にすべきです。2%にすれば、現状の2.5%から5%近くになり、インドより多くなります。なぜそのようなことを言うのか、日本と米国との関係から紐解いていきます。

トランプ大統領は台頭する中国に対決姿勢を示してきました。これに関しトランプの暴走との誤解があるようですが、実体は違います。トランプ大統領は議会で超党派を組んで中国と対決しています。

仮にバイデン政権になったとしても、温度差はあるでしょうが、方向性は変わらないでしょう。そもそも、米国民主党といえども、強すぎる中国は好まないです。

ただ全面的な対決姿勢かというと、トランプですら違いました。かつて、ロナルド・レーガンはソ連を潰すと宣言、自らの任期8年では果たせなかったのですが、後任のジョージ・ブッシュの時代に実現しました。

レーガンとブッシュは、景気回復を成し遂げた後、軍拡競争を挑み、国際協調体制による包囲網を構築、あらゆるインテリジェンスを駆使して、ソ連崩壊に導きました。 

では、今の中国が滅び際のソ連のような状態かと言えば、違います。習近平の共産党支配は強固であるし、経済力はアメリカに追い付け追い越せの世界第二位の実力、外交的にはむしろ攻勢をかけているほどです。

このような中国をすぐに捻り潰す力は、今の米国にはありません。ただ、様々な手段を用いて、かつてのソ連が崩壊して、現在のロシアのような状況にすることはできるでしょう。だからこそトランプは、中国に圧力をかけて、政治的経済的取引を有利に持ち込もうとしていたのです。

バイデンも、基本路線は変わらないでしょう。中国の方は、仲間があまりいないトランプよりも、国際協調による対中包囲網を実現しかねないバイデンこそ警戒しているともいわれています。もっとも中国は、それを黙って見ているほどお人よしではないでしょう。

さて、こうした流れの中で安倍外交はなにをやってきたのでしょうか。孤立するトランプの友達でいました。この場合の「友達」とは「仲良し」であって「仲間」ではありません。

「仲間」とは何かといえば、いざという時に、一緒に武器を持って戦う存在のことです。たとえば、英国は米国の政権が共和党だろうが民主党だろうが、米国の戦いには兵を派遣して戦ってきました。もちろん、時に独自の判断で米国についていかない時もありますが、「原則として一緒に戦う仲間」です。

「仲間」とは、場合によっては対立する場合もありますが、その対立を超えて結びつくものです。「仲良し」とは根本的に異なります。

翻って安倍外交はどうだったのでしょうか。トランプは、日本に対等の同盟国にならないかと持ち掛けてきました。その為に自主防衛を容認する発言をしました。ところが安倍首相は早々に拒否しました。

軍事抜きの外交を選んだのです。確かに孤立するトランプは日本を無下にすることはできませんでした。しかし、それが日本の国益となったでしょうか。安倍政権は結局日本がマトモな軍事力を付けることを嫌がる勢力と戦うのを回避したのです。

 では、日本がマトモな軍事力を付けることを嫌がる勢力とは誰でしょうか。国内においては最大の勢力は財務省です。テレビ局や野党などは、大したものではありません。彼らは、財務省の走狗であるに過ぎません。そうして、現在の財務省は財布の紐を締めることだけが仕事です。

マクロ経済も理解せず、経済を発展させて、税収を増やすなどということは眼中になく、悪すぎる頭で国家の財政をまるで家計のように考えています。そうして、国家予算つまり国の支出は、大半が福祉と地方へのバラマキに消えています。

そのバラマキを支える為に財務省は増税と緊縮財政に走っています。そんな中で、防衛費は額が大きくて抵抗力が小さいです。福祉や土木を削ろうものなら族議員から業界団体までが束になって抵抗してくるのですが、防衛に関心を持つ国民や政治家は少ないです。財務省には「防衛費を削れなければ、何を削るか」という頭しかないのです。経済を発展させるという考えは全くありません。日本が、中国の脅威にさらされているという現実も無視です。

そうはいっても、財務省は様々な手をつかい、政治家、官僚、マスコミを籠絡したため、安倍政権に限らず歴代の政権が財務省と対峙できなかったのも事実です。民主党の野田政権などその最たるものです。野田政権は財務省なしでは何もできない情けない政権だったと、渡辺喜美氏が喝破していました。財務省の意向に逆らい、増税を二度も延期した政権は安倍政権がはじめです。それだけ、財務省の権力は強大なのてす。歴代の政権が、少なくと安倍政権と同程度抵抗し続けていれば、日本は今頃もっとまともな国になっていたと思います。

かつてバイデンは日本の憲法はわれわれが書いたと発言していた

今までの歴代米国旗大統領は、強い日本を本質的に忌避し、首輪をつけた状態に置きました。では、それが今後の米国の国益になるのでしょうか。バイデンがは「弱い日本」を首輪につないでおきたいのでしょうか、それとも「自立した強い日本」を望むのでしょうか。我が国は、後者こそが日本だけでなく米国の国益になるのだと説得すべきでしょう。

そして強い日本となるには裏付けが必要です。安倍内閣のGDP0.95%の防衛費では合格最低点に達していません。平時で2%が標準でしょう。本気で中国を潰すなどと考えるなら、7%も視野に入れなければならないでしょう。

ただ、精神論だけ言っても裏付けが無ければ意味がありません。では、その防衛費を増額させる財源はどこからひねり出せば良いのでしょうか。 経済成長以外にありえないです。安倍内閣は8年も政権を独占しながら、雇用は回復したものの、景気回復自体は達成できませんでした。
それどころか2度の消費増税により景気回復を腰折れさせていたところに、現在のコロナ禍です。

今でこそ巨額の給付により国民経済は何とか支えられていますが、ではいつまでこれを続けるのでしょうか。財務省やその走狗たちが、言うよりははるかに持ちこたえられます。しかし、いつまでもとはいきません。それとて、今すぐ金融緩和をやめてしまえば、リーマンショック以上の大不況が押し寄せてくることになります。

コロナ禍を収拾、そして景気回復を成し遂げなければ、外交などできはしません。古い格言に「外交と軍事は車の両輪」とある。軍事抜きの外交など、発言力は十分の一です。

もし菅内閣が本気で外交をやるならば、防衛費GDP2%程度の軍事力を持たねば話にならないですし、その為にはコロナ禍とデフレ経済を早々に退治しなければ、軍事力の裏付けとなる経済力が回復しないです。

米中対立の中で、我が国の選択肢は二つしかありません。一つは翻弄され続けるだけの存在。もう一つは自分の力で生きる国となることです。

この記事の冒頭で示したように、日本の経済力は未だ侮れません。ただ、それは他国に比較すれば人口が多いということで、国全体ではGDPが比較的大きいということです。その日本は、財務省の緊縮一辺倒の姿勢、過去の日銀の金融引締一辺倒の姿勢により、今日経済が落ち込み、一人あたりのGDPが韓国を下回る程の水準に落ち込みました。

これは、ありえないことです。金融緩和をせずに、最低賃金だけをあげるという明らかな間違いをした文在寅大統領の韓国に負けているのです。それだけ、日本が過去に、特に平成年間のほとんどの期間において、誤った財政政策、金融政策をしてきたことは、日本を凋落させたのです。

この体たらくは、一重に財務省の財政政策と、日銀の金融政策が根本的に間違っていたからです。国民のせいではありません。財務省や日銀さえ、間違った政策を繰り返さなければ、日本のGDPはもっと大きく、一人あたりで韓国に追い越されるなどという悪夢のようなことはなかったでしょう。

ただし、現在の韓国は金融政策に失敗して、雇用は最悪の状態となっており、日本の最近の経済対策は雇用を良くしたということでは合格点だったといえます。実際、雇用が悪化しなければ、経済対策はうまくいったというのが、まともな経済アナリストの見方です。


菅政権としては、財務省を有名無実にして、金融政策のなんたるかが全くわかっていない日銀官僚も有名無実にして、まずは経済を立て直し、一日もはやく軍事費を最低2%にして、日本の国力の増強に努めるべきです。

スウェーデンですら、ロシアに翻弄され続けることを潔しとせず、軍事費を大幅に増強するのですから、中国に翻弄され続けることになりかねない日本も最低でも2%にすべきです。そのためには菅政権は日本がマトモな軍事力を付けることを嫌がる最大勢力であるマクロ経済に疎い財務省と戦う姿勢を貫くべきです。そうして、国民経済を良くして、防衛費も拡張すべきです。日本はそれができるだけの十分な潜在能力があります。

菅政権が財務省と戦う姿勢をみせなければ、結局経済も安全保障も安倍政権の域を出ないとみるべきでしょう。そうして、長期政権にもなり得ないでしょう。

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