(天皇陛下)
皆さん新年おめでとうございます。
(皇后陛下)
おめでとうございます。
(天皇陛下)
今年の正月は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、残念ながら一般参賀の場で皆さんに直接お話をすることができなくなりました。そこで、今回は、ビデオで新年の御挨拶をしようと思います。
振り返りますと、昨年7月に、豪雨により多くの尊い命が失われたことは痛ましいことでした。御家族を亡くされた方々や、住む家を無くし、仮設住宅などで御苦労の多い生活をされている方々の身を案じています。
この1年、私たちは、新型コロナウイルスという、今の時代を生きる私たちのほとんどが経験したことのない規模での未知のウイルスの感染拡大による様々な困難と試練に直面してきました。世界各国で、そして日本でも多くの方が亡くなり、大切な方を失われた御家族の皆さんのお悲しみもいかばかりかと思います。
そのような中で、医師・看護師を始めとした医療に携わる皆さんが、大勢の患者さんの命を救うために、日夜献身的に医療活動に力を尽くしてこられていることに深い敬意と感謝の意を表します。同時に、感染の拡大に伴い、医療の現場がひっ迫し、医療従事者の皆さんの負担が一層厳しさを増している昨今の状況が案じられます。
また、感染拡大の防止のために尽力されている感染症対策の専門家や保健業務に携わる皆さん、様々な面で協力をされている多くの施設や、国民の皆さんの努力や御苦労も大変大きいものと思います。
この感染症により、私たちの日常は大きく変わりました。特に、感染拡大の影響を受けて、仕事や住まいを失うなど困窮し、あるいは、孤独に陥るなど、様々な理由により困難な状況に置かれている人々の身の上を案じています。感染症の感染拡大防止と社会経済活動の両立の難しさを感じます。また、感染された方や医療に従事される方、更にはその御家族に対する差別や偏見といった問題などが起きていることも案じられます。その一方で、困難に直面している人々に寄り添い、支えようと活動されている方々の御努力、献身に勇気付けられる思いがいたします。
私たち人類は、これまで幾度も恐ろしい疫病や大きな自然災害に見舞われてきました。しかし、その度に、団結力と忍耐をもって、それらの試練を乗り越えてきたものと思います。今、この難局にあって、人々が将来への確固たる希望を胸に、安心して暮らせる日が必ずや遠くない将来に来ることを信じ、皆が互いに思いやりを持って助け合い、支え合いながら、進んで行くことを心から願っています。
即位以来、私たちは、皆さんと広く接することを願ってきました。新型コロナウイルス感染症が収まり、再び皆さんと直接お会いできる日を心待ちにしています。
そして、今年が、皆さんにとって、希望を持って歩んでいくことのできる年になることを心から願います。ここに、我が国と世界の人々の安寧と幸せ、そして平和を祈ります。
(皇后陛下)
この1年、多くの方が本当に大変な思いをされてきたことと思います。今年が、皆様にとって少しでも穏やかな年となるよう心からお祈りいたします。
また、この冬は、早くから各地で厳しい寒さや大雪に見舞われています。どうぞ皆様くれぐれもお体を大切にお過ごしいただきますように。
新年を迎えられる天皇ご一家=2020年12月21日、東京都港区の赤坂御所(宮内庁提供) |
天皇があっての日本であり、天皇はいわば日本そのものを守り続けている存在であるといえるのではないでしょうか。宮中は古いものを残すことに価値を見出してきた世界です。日本の古きよきものが、社会では失われていても、宮中で継承されています。
三種の神器とは神代に神々の手によってつくられた剣、勾玉、鏡であり、初代天皇以来、第125代にあたる現在の天皇陛下まで継承されています。
三種の神器 |
その価値とは物質的なものではなく、そこに天照大御神 (アマテラスオオミカミ。日本神話の中の最高神。天皇の祖先であり、すべての国民の祖神(おやがみ)として伊勢の神宮(内宮)をはじめ、日本の多くの神社に祀られている) の御神霊が宿るということなのです。
そして2000年以上の長きにわたって、歴代天皇は国民一人ひとりを我が子のように愛し、その幸せを祈り続けてきました。ですから天皇とは何かと問われば、祈る存在だとお答えするのが一番正確かもしれません。
日本とはどんな国かを考えるとき、国歌である「君が代」を知ればその姿が見えてきますね。外国の国歌と比較すれば、君が代がいかに素晴らしいかがわかります。
多くの外国の国歌は、国家のために敵を打ち負かし、正義の戦いに勝ち抜いてきたという誇りを歌い上げた軍歌という性格を有しているものが多いです。
君が代はその対局にあります。もともとは、五七五七七からなる和歌であり、古今和歌集に祝いの歌として収録されていたものです。
「君」は大切な人という意味で、国歌では天皇陛下を指します。つまり天皇陛下に長生きしてもらいたいということを神に祈る歌なのです。
それに対して我々が天皇陛下にできることは、君が代を歌って陛下の長寿を祈ることぐらいなのです。
君が代にさざれ石という言葉を用いたのが、なんとも日本らしいと思います。古事記では岩そのものが永遠の象徴です。さざれ石はただの石ではなく、もともと小さな石が何万年、何十万年という時間を経て岩に成長する、という悠久の時間と永遠性を秘めた存在です。しかもそこにびっしりと苔がむす、それほど君が代が続いてほしいという意味です。
日本人の豊かな精神性に改めて気づかされます。今後の儀式の中で多くの国民が万歳をすると思います。その万歳 (いつまでも生き、長く栄えること。まためでたいこと、 喜ぶべきこと) にも意味があります。日々国民の幸せを願ってくれる天皇陛下が、お元気で長く生きていただきたいというお返しなのです。
さて、天皇の“お仕事”として、最も重要な儀式とされる1月1日の「新年祝賀の儀」でどのようなことを天皇がされているのかみてみます。
午前10時、天皇、皇后両陛下は皇居・宮殿「松の間」(最も格式の高い部屋)で各皇族からの(新年の)祝賀を受けます。両陛下で正面に立ち、皇太子さま、皇太子妃雅子さま、秋篠宮さま、秋篠宮妃紀子さま、他の宮家皇族……(それぞれ男性皇族、妃殿下の順)。
11時になると、松の間の向かって右隣にある「梅の間」で首相、各大臣、官房長官・副長官、各副大臣らの夫妻から祝賀のあいさつ。続いて再び松の間に移動、衆・参両議院の議長・副議長、正月も東京に残っている国会議員らの夫妻から同様に。その後、左隣の「竹の間」に移動し、最高裁判所長官、同判事、各高等裁判所長官らの夫妻から。
11時半からは、各中央省庁の事務次官、都道府県の知事や都道府県議会議長ら(宮内庁が毎年交代で複数指名する)の夫妻から。
午後2時半になると、松の間で、各国の駐日大使夫妻から祝賀を受けるが、午前に行われた各あいさつのように代表だけが行うのではなく、約130カ国全ての夫妻が順番に両陛下の前に進み出てあいさつします。これだけで約1時間。その間、両陛下は立ちっ放しです。
儀式としての新年祝賀の儀は以上ですが、実は元日は、午前10時からのこの儀式開始前、住まいの御所(宮殿から約500メートル離れている)で、普段、両陛下の身の回りのお世話をする宮内庁侍従職の職員からの新年のあいさつも受けられています。今年は、コロナウィルスの影響もあり規模は縮小されます。
ところが、天皇の仕事はこれのみではないのです。さらにそれをさかのぼること約4時間、午前5時半に陛下は宮中三殿に付属する神嘉殿(しんかでん)の前の庭で、古式装束を身に着け、国家の安寧と豊作を四方の神々に祈る「四方拝(しほうはい)」という祭祀を行われます。この時間はまだ暗く、気温は例年は約3度です。さらに5時40分から、宮中三殿で拝礼する年始の祭祀「歳旦祭(さいたんさい)」に臨まれます。
これらのほか、天皇の公務には、社会のさまざまな功労者と面会しねぎらう「拝謁」(年約100件)、訪日した外国の要人と皇居で面会する「会見」(約50件)、既に紹介した儀式に含まれていますが、外国から日本に赴任する大使が持参の信任状(派遣する側の国の元首が、任命した大使の人格・能力を保証し、外交特権を与えてほしい旨を記した文書)を天皇が宮殿で受け取る「信任状捧呈式」が約40件。
2004年現上皇陛下が天皇であらせられたときには、年間119日の土・日曜、祝日のうち、代休が取れず、陛下が“休日出勤”された日が計30日、つまり1カ月分ありました。また、春・秋など式典が多く、叙勲シーズンとも重なれば、1日に6件の公務が入る日もあります。
こうして公務を積み重ねていくと年間約700件もの公務を行われることになります。式典は土・日曜に多く、平日も公務があるため“代休”もままならないのです。
上皇陛下から今生天皇へのご譲位の背景は、こうした実態があったことをぜひ、皆様知っておいてほしいです。
先に述べたように「万歳」が「日々国民の幸せを願ってくれる天皇陛下が、お元気で長く生きていただきたいというお返し」という意味が決して大げさなものではないことを御理解いただけるものと思います。
最後に、私たち「いやさか」(日本人が守り伝えてきた大和言葉で、本来の生命力をいきいきと発現させ、ますます栄えるという意味) という言葉を使います。これも君が代や万歳に通ずるものです。天皇陛下がお元気であられ、日本が栄え、そして私たちみんなお幸せにというイメージをもって「天皇彌榮」(すめらぎいやさか)と唱えるのです。これは言霊ですから。すると日本そのものがまた力をもち、国民も幸せで、一人ひとりは自分らしく生きていくことになるのです。これは「八絃為宇」(はっこういちう。日本書紀に神武天皇の言葉として記されたものに基づく。私たち日本人はさかのぼれば皆親戚で、日本列島は家である。だからみんなで協力して幸せになろうと説いた) という言葉をもって日本を束ねていった神武天皇の建国の精神そのものです。
天皇陛下が4月末に譲位なさり、新天皇陛下が御即位になります。これは祭祀の継承ということで、三種の神器を受け継ぎ、現在の天皇陛下がなさっている祈りを、今度は新天皇陛下がお引き継ぎになります。
世界ではたくさんの国ができては崩壊すことを繰り返してきました。いろいろな国家統治のスタイルがあったと思います。軍事力、カリスマ性、頭脳……。
では日本の天皇はといえば、「祈り」なのです。
誰も見ていないところで、祈りを通じて国を束ね上げていらっしゃったのです。人々の心がひとつに束ねられ、国土、文化、経済などあらゆるものが強固になり、いまこうして日本という国が存在しています。これが我が国の国体なのです。
人は、決して自分一人では生きていけない、だからこそお互いを思い合い、その和の心で国家が成り立っています。国民を思って常に祈り続けてくださる天皇陛下という存在を忘れずに、私たちも生き続けていきたいです。
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