2021年1月13日水曜日

「トランプ言論封殺」騒動で見え隠れ、巨大IT企業と欧州の下心―【私の論評】日本の産業界のイノベーションが、中国の世界覇権、GAFAの世界市場制覇を抑制し、平和な世界を築く礎になり得る(゚д゚)!

 「トランプ言論封殺」騒動で見え隠れ、巨大IT企業と欧州の下心

田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

米ワシントンで開かれた大規模集会で演説するトランプ大統領=2020年1月6日

 米連邦議会の議事堂襲撃事件後に、会員制交流サイト(SNS)のツイッターがトランプ大統領のアカウントを「永久凍結」し、フェイスブックも同様の措置をとった。

 ネットの世界だけではなくリアルな国際政治の場でも議論が起きた。ドイツのメルケル首相は報道官を通じて、言論の自由を制限する行為は一企業の判断によるべきではなく、立法府の決めた法に基づくべきだとして両社の対応を批判した。フランスの閣僚らもメルケル首相と同様に批判し、ウェブサービスの基盤を提供する「プラットフォーマー企業」への規制も視野に入れるべきだと、より立ち入った主張をしている。

 だが、トランプ大統領に関する規制はさらに進展している。トランプ支持者が集うとされるSNS「パーラー」はネットの世界から姿を消した。アップルとグーグルは1月9日までに、それぞれのスマートフォン向けアプリストアからパーラーのアプリを排除していた。さらに、ウォール・ストリート・ジャーナルなどの報道によれば、パーラーのウェブサイトやデータを支えていたアマゾン・コムが支援を停止した。事実上の「消滅」だ。

 ツイッターやGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)などが、トランプ大統領とその支持者への言論の機会を根元から奪った行為は、まさに大企業による私権の制限と言えるだろう。端的に不適切極まりない行為だと思う。

 ただし、冒頭のメルケル首相やフランスの閣僚たちの発言を、単なる「言論の自由」の観点からのみとらえるのは妥当ではないだろう。経済金融アナリストの吉松崇氏から教えを受けたが、これは巨大IT企業と先進国政府のどちらが表現の自由をめぐる規制の実権を握るかの争いと見るのが正しいのではないか。

 つまり、メルケル首相らは言論の自由をトランプ大統領やその支持者に認めるべきだ、という観点から発言したというよりも、実はその規制も含めて旧来の政府が担うのが正しいのだ、と言ったにすぎないのだ。

 この吉松氏の指摘は興味深い。このことは今までの「デジタル課税」をめぐるフランス、ドイツと大手IT企業との攻防戦を見ても傍証することができる。GAFAなどのIT企業は「拠点なくして課税なし」という各国の課税ルールの原則から多額の「税逃れ」をしてきた。例えば、ネットを経由して大手IT企業が、ある国の消費者にさまざまなサービスを提供して利益を得ても、その国に恒久的な拠点(本店、支店、工場など)がなければ課税されない。

 このため自国に拠点を持っている国内企業と大手IT企業との間には、税負担の点で不公正が発生し、また国際競争力の点で国内企業が不利になってしまう。欧州委員会は国内企業の課税負担は23・2%であるのに対して大手IT企業は9・5%だと報告している。

 この税制上の大手IT企業への「優遇」を国際的な協調として是正しようという動きが、欧州勢には強かった。今までの国際課税のルール「拠点なくして課税なし」を変更して、IT企業に直接課税する提案や、また各国個別の対応が相次いで出されてきた。それに反対してきたのがトランプ政権であった。

 最近は妥協点を見いだそうという動きもあったが、基本的にトランプ政権のGAFAなどへの課税議論は消極的なものだった。米国では、共和党よりも民主党のほうが大手IT企業の独占力への規制に積極的であり、バイデン政権になればその動きが加速化すると言われてきた。

 現時点の大手IT企業の「トランプ封じ込め」ともいうべき現象は、発足まで秒読み段階に入ったバイデン政権への政治的「賄賂」に思えなくもない。そんな印象を抱いてしまうほど、あまりにも過剰な「言論弾圧」である。

 もちろん、メルケル首相らのIT企業への批判をトランプ寄りと見なすことはできない。一国の大統領の発言を封じてしまうような大手IT企業の危険性を世界に知らせることで、デジタル課税などの規制強化をしやすくしたいという思惑もあるのではないだろうか。

 米国の大統領選出をめぐっては、米国だけでなく日本でも、意見の分断や対立は激しい。トランプ大統領の業績について支持派は全肯定、反対派は全否定という大きな意見の隔たりも見られる。だが、誰が大統領であるにせよ、日本の備えを強めればいいだけではないか、と筆者は思う。

 バイデン氏は中国の環太平洋地域への覇権的介入に、トランプ大統領ほど関心がないかもしれない。対中国よりも対ロシア、つまり大西洋の方をバイデン氏は重視しているという見方が有力である。現在の日米の基本的な外交方針である「自由で開かれたインド太平洋構想」という、事実上の中国包囲網をバイデン氏は積極的に推進しないかもしれない。

 だが、他方で米国では党派を超えて中国への警戒が強まっているのも事実である。バイデン氏は同盟国との協調も訴えているのだ。ならば、日本が積極的にバイデン氏に働きかけ、韓国を除いた環太平洋の同盟諸国が共通して抱いている、中国の覇権主義に対する枠組みを進展させるべきである。

 米国に依存するのではなく、米国を日本の国益のために利用する。言うは簡単で行うのは難しいかもしれない。しかし、その気概がなくては、日本国の行方は危うい。

【私の論評】日本の産業界のイノベーションが、中国の世界覇権、GAFAの世界市場制覇を抑制し、平和な世界を築く礎になり得る(゚д゚)!

独占それもグローバルな独占ということでいうと、現在のGAFAに匹敵するのは、業種もそこで使われる技術も全く異なるのですが、セブンシスターズとも呼ばれた石油メジャーかもしれません。

20世紀の世界の経済を動かしてきたものは石油でした。時価総額でも石油メジャーと呼ばれる企業群がトップを走ってきたのですが、この石油メジャー4社の売り上げが2012年にデータメジャーと言われるGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)4社に抜かれました。

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それからわずか数年で、GAFAはさらに数倍の大きさになっています。例えば多くの日本の人々が知るよりもAmazonの成長速度はずっと早いです。現時点で高い利益率を挙げているのはEコマースではなくAWS(Amazon Web Service)で知られるクラウドビジネスで、そのシェアIaaS(Internet as a Service)の分野で50%以上を占めています。

ただ彼らによると、2000年初頭には日本企業にこそチャンスはあったといいます。ただ、既存のサービスとのカニバリゼーションの心配などで躊躇しているうちにチャンスを逃がしてしまったのです。

また、日本では優れたコンピュータというと、速いコンピュータを指していました。もちろん速さも重要ですが、クラウド時代には電力効率の良さが重要な要素です。AmazonやMicrosoftはこの点を踏まえた投資を行い、日本の企業が追従することが困難な差を作り上げました。

2位じゃだめなのですか?という議論がありました。もちろん1位を目指すべきです。しかしながら転換期においては既存のゲームだけでなく、新しいゲームで1位を目指すことが重要なのです。

21世紀の現在、世界で生じていることは20世紀の「石油」にかわる「ビッグデータを巡る争い」だと私は認識しています。ここで「世界」というのは、地理的な意味での「世界」でもあるのですが、あらゆる産業分野や生活分野に関わる概念的な意味での「世界」でもあります。つまり、我々の経済や経営、生活、思考方法まで大きく変革させているのが第四次産業革命であり、その中核になっているのがビッグデータなのです。

1位アップル、2位アルファベット(グーグル)、3位マイクロソフト、4位アマゾン・ドット・コム、5位フェイスブック、6位テンセント、これは2017年12月末時点における株式時価総額の世界ランキングです。

トップのアップルの時価総額は8688億ドル、2位のアルファベットも7294億ドルです。アリババ・グループも8位につけており,時価総額は4361億ドルです。ちなみに、日本企業で最高位に位置しているのは42位のトヨタ自動車であり、その時価総額は1891億ドルに過ぎません。


株式時価総額は投資家がその企業をどのように評価しているかの表れですが、私が指摘したいのは、上位にある企業は2017年時点ですべてビッグデータを収集・確保している企業であるということです。いまや、「ビッグデータを制するものが世界を制する」と投資家が判断していることの証左です。

ビッグデータは、あくまでただのデータであり、それを制御・活用してこそ意味があります。ビッグデータの制御に関わるのがAIであり、未来の量子コンピューターやニュロモーフィック・チップでしょう。

現在、世界が注目する日本のスタートアップ企業、プリファード・ネットワークスの西川徹社長・岡野原大輔副社長がファナックの「機械が機械を作る」工場を見て、「これだ」と着想を得たことはその象徴です。

プリファード・ネットワークスの西川徹社長(右)・岡野原大輔副社長(左)

ファナックの工場には大量のビッグデータが収集されていました。1つの超音波センサーだけでも毎分1GBのデータを収集するのですが、それが1つの工場の至るところにあり、かつ世界中いたるところに工場があります。

そのデータ量は莫大なものですが、ファナックはそれらを十分に活用できていなかったのです。西川社長らはそれらをAI活用の「エッジヘビーコンピューティング」で制御できないかと着想し、創業したばかりのスタートアップ企業を飛び出しプリファード・ネットワークスを創業しました。

同社に対してはトヨタ自動車も関心を寄せ追加出資も含め115億円の出資をするとともに自動運転で緊密な提携をしています(対等提携)。提携はトヨタ自動車やNTTといった日本企業のみならず、マイクロソフトやエヌビディアとも行っています。

車の自動運転は,人間の生命に関わる問題でもあるので、とりわけ正確なビッグデータ解析が必要になります。しかも、従来のコンピューターが得意としてきた「0,1」の構造データのみならず、人間や生物,信号,他車など数多くの非構造データを瞬時に解析し、ブレーキやハンドル、アクセルを制御しなければならないです。

通常のCPUよりもはるかにコア数が多く並列処理が得意なGPUが必要とされる所以です。また、それらのビッグデータをクラウド(サーバー)で解析しようとすると高速の通信が不可欠となります。

現在の4Gが5Gに置き換わる20年代以降、自動運転のレベル3が普及するでしょう。レベル4やレベル5に到達するためには、さらに10年ずつの時間が必要になるかもしれないですが、エッジ・コンピューティング(利用者や端末と物理的に近い場所に処理装置を分散配置して、ネットワークの端点でデータ処理を行う技術の総称)が可能になれば通信速度に頼らずに自己制御することも可能です。そうなると、自動運転の時期はもっと早まるかもしれないです。

工場のおけるビッグデータ、すなわちIoTもこの流れにあります。ファナックに限らず機械に数多くのセンサーを取り付け、ビッグデータを収集し、それらを活用することがコスト削減やメインテナンス、品質向上などに大きく役立ちます。

ドイツのインダストリー4.0もジェネラル・エレクトロニクスのGE Digitalも、課題はビッグデータの収集・活用です。つまり,ビッグデータを制するものが支配権を握るのです。中国が中国国内のビッグデータの国外流出に規制をかけているのもそのためです。

その中国においては、テンセントやアリババ・グループがビッグデータの収集・活用に余念がありません。もともとはSNSとそれを活用したゲームの販売あるいはeコマースで名を上げた企業ですが,インターネット空間で活用するウィーチャット・ペイやアリペイを開発することによって、サイバー空間のみならずリアル空間にも進出してきました。

滴滴出行などのタクシー手配アプリを使うにも、モバイク,Ofoなどシェア自転車を利用するにも、そのようなスマホ決済を使わざるを得ないですが、さらに進んで買い物や食事、友人との割り勘にも活用されています。最近では、浮浪者がお恵みを迫る際にもスマホ決済のQRコードを提示します。このような事態になると、ネット空間のデータのみならず、日常生活の買い物行動、移動、友達関係まですべて上記2社は把握することになります。これが、彼らの利益源となるのです。

ビッグデータの収集はビジネスの世界に限られたことではありません。2017年あたりから日本でも流行したスマートスピーカーは、消費者に利便性を与えるとともに、企業に生活のビッグデータを提供しています。アマゾン・エコーやグーグル・ホーム、アップル・ホームポッドなどの米国勢に加え、ラインもライン・クローバを発売しています。

ネットで「スマートスピーカー」を検索すると、名前も知らないようなブランドが数多く出てきます。これらは確かに商品ではありますが、単に機器として販売している企業はいずれ淘汰されるでしょう。ここでも生き残るのはビッグデータを制するものであり、彼らがスマートスピーカーから収集したビッグデータに基づき、音楽や本、家電、食品、日用品もろもろのマーケティングに活用したとき、彼らの競争優位は決定的なものになります。

正直なところ、ビッグデータの収集と活用という点においては、日本企業は世界のトップから2、3周遅れています。プリファード・ネットワークスのような企業が雨後の筍のように勃興しない限り先行きは暗いです。そうでなくても日本の起業率5.2%(2015年)は他国と比較しても低いのに、最先端分野で遅れをとれば日本経済にとって致命的になるでしょう。

では日本企業はお先真っ暗かと言えば、そうではありません。ビッグデータもAIも、フィンテックのようにサイバー空間の中だけで完結するものもありますが、多くはリアルの世界と繋がって初めて効果を発揮します。

それは自動車であったり工作機械であったり、コンピューターやスマホであったり、多くは「ものづくり」に紐付いています。この分野においては、日本企業はかなりの競争力を有しています。いち早くその「ものづくり」をAIと結びつけていけば、まだ復権の可能性はあります。ソニーが新型アイボをリリースしたのも、そのような決意の表れではないでしょうか。日本企業にもっと頑張ってもらいたいです。

ビッグデータ関連においても、デジタルが有効に機能するには半導体など中枢分野だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサーそこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になります。

また中枢分野の製造工程を支えるには、素材、部品、装置などの基盤が必要不可欠です。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では遅れをとったものの、周辺と基盤で見事に生きのびています。また円高に対応しグローバル・サプライチェーンを充実させ、輸出から現地生産へと転換させてきました。

世界的なIoT(モノのインターネット)関連投資、つまりあらゆるものがネットにつながる時代に向けたインフラストラクチャー構築とビッグデータの活用がいよいよ本格化しています。加えて中国がハイテク爆投資に邁進しているのですが、ハイテクブームにおいて日本は極めて有利なポジションに立っています。

新たなイノベーションに必要な周辺技術、基盤技術のほぼ全てを兼ね備えている産業構造を持つ国は日本だけです。中国、韓国、台湾、ドイツはハイテクそのものには投資していながら、その周辺や基盤技術の多くを日本に依存しています。GAFAも例外ではありません。そもそも、半導体製造の工作機械が日本の独壇場です。

日本のエレクトロニクス企業群は、このイノベーションブームの到来に際して、最も適切なソリューションを世界の顧客に提案・提供できるという唯一無二の強みを持っているのです。

これからは、バソコン、タブレット、スマホ以外でもたとえば車自体がビッグデータ取得のためのツールになります。あるいは、ビル、駅、スーパー、コンビニ、ラーメン店など飲食店自体がビックデータ収集のツールになります。いやそれどころか、学校、病院、役所もそうなります。いやそれどころか、町や村、都道府県、日本国そのものがツールになるのです。

最初から意図して、意識して、このようなことをするのと、既存のインフラにビッグデータの入り口を設置するのとでは、全く別モノになる可能性があります。これについては、世界でも、新たなイノベーションに必要な周辺技術、基盤技術のほぼ全てを兼ね備えている産業構造を持つ日本しか本格的に取り組むことはできないと思います。

日本がビッグデーターの入り口のインフラで、大きな地位を占めることになれば、これはもう日本が打ち出の小槌を持ったようなものです。それどころか、安全保障でも強みを発揮することもできます。

たとえば、GPSを搭載したコマツの建設機械がいま世界で約30万台稼働しています。これは「KOMTRAX(コムトラックス)」と呼ばれる機械稼働管理システムで、どの機械がどの場所にあって、エンジンが動いているか止まっているか、燃料がどれだけ残っているか、昨日何時間仕事をしたか、すべてがコマツのオフィスで分かる仕組みになっています。

コマツの重機はビックデータを収集するツールでもある

中国の建設現場などでは、ほとんどの現場でコマツの重機が使用されています。ここまで、いうと、私の言っている意味が理解できると思います。

これは、ビッグデータで先頭を走る、米国、中国、GAFAに対しても強力な抑止力、牽制力になります。日本は、特定の企業ではなく、日本の産業界がこの方向で進み、政府はその方向にすすめるように支援をすべきでしょう。

ビッグデータ関連でも、独占体制になればそれが中国であれ、GAFAであれ、良いことは一つもありません。日本がその一角の大きな部分を占めることは、この独占体制を打破することにつながります。

日本のこうした取り組みが、中国の世界覇権、GAFAの世界市場制覇を抑制して、平和な世界を築く礎になるかもしれません。日本はこのチャンスを逃がすべきではありません。

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