2021年2月22日月曜日

文系マスコミが叩く「株価3万円」がまったく不思議なことではないワケ―【私の論評】株高も円高も、明快に説明できないマスコミには、日本経済への提言などできない(゚д゚)!

 文系マスコミが叩く「株価3万円」がまったく不思議なことではないワケ

数字を見れば一目瞭然だった! マスコミは「経済が悪かった」と…

先週15日(月)、東京株式市場で日経平均株価が3万円を超える高値を記録した。3万円台の大台に乗ったのはバブル期以来、約30年ぶりで、週末19日(金)の終値は3万0017.92円だった。

これに対して、マスコミの報道は、2020年は、新型コロナの影響で、完全失業者数は前年に比べ29万人、休業者数は80万人増加と、経済が悪かったことを指摘する。実態経済と株価が乖離していて、この株高はバブルではないのか、株高の要因は、日銀が低金利を続けていることと、日銀が株へ投資しているからだという。

つまるところ、単純な論調でマスコミは冷ややかに株高を見ているようだ。

筆者は、株式投資を実際に「職業柄」やらない。筆者はもともと財務省で公務員だったので、インサイダー情報に触れることも少なくなかった。そのため、財務省の内規で株式投資をやらないように言われていたため、公務員時代はまったくやっていない。

公務員を辞めてからも、発言が自己のポートフォリオに有利になるようにといわれないように、株式投資をやっていない。

ただし、標準的なファイナンス論は米国留学の時に勉強したので知っている。このファイナンス論は、日本ではあまり大学でやっていない。率直に言えば、ファイナンス論はほぼ数学と同じなので、日本の文系経済学部ではちょっと荷が重いのだろう。

もちろん、日本にもファイナンス学会はあり、筆者も会員であるが、その研究は欧米に見劣らない。

ちなみに、日本の数学者の故伊藤清氏は東大数学科の大先輩であり、筆者は現役学生時に同氏の講義を聴いたことがあるが、同氏が開発した確率微分方程式など確率解析はファイナンス論では必須で、世界中のファイナンス学者が使っており、同氏を尊敬している。

 株高を説明できないマスコミ

余談だが、伊藤氏は実は戦前1938年に大蔵省に入省され、筆者はそれ以来4人目の東大数学科卒の大蔵省官僚だと聞いた。伊藤氏は戦時中内閣統計局で勤務しているときに、確率解析の基礎理論を生み出されたらしく、今でも信じられないほどの世界的な業績だった。

いずれにしても、標準的なフィアナンス論では、確率解析以前の話であるが、株価は将来収益の現在価値の総和で決まるとされている。もちろん、この単純な定式化をベースとして、実戦的で様々な応用バージョンがあり、それぞれで優劣を競っている。

しかし、単純な基本形でも、今の株価について、マスコミが言っている解説が的外れであることくらいは言える。

株価が将来収益の現在価値の総和になるということは、将来収益/金利が大きな要素になる。これを定性的にいえば、将来収益予想が高まったり、金利が低くなると、株価が上がるわけだ。

まず、日銀が低金利を継続しているというのはその通りだが、金利はイールドカーブコントロールなので、ここ1年くらいあまり変動していない。今の株高は昨年10月あたりから始まっているので、金利引き下げによるものではない。

株価をきちんと式で理解していれば、金利が変わらないので、金利要因は排除できるはずだが、文系マスコミの悲しいところで、式が理解できないから、ロジカルな議論ができない。

それでは、日銀が株式を購入しているという話はどうだろうか。根拠となるのは、昨年3月にETF購入枠を6兆円から12兆円へと拡大したことだ。しかし、3月と10月の間はどうだったのか、説明できない。

しかも、購入枠は6兆円増である。株式市場全体の時価総額は700兆円もあるが、その1%にも満たない額なので、それが大きな影響を与えているとも思えない。定量的な議論が苦手な文系マスコミは大げさに話しがちだ。

  まったく驚く株高ではない

基本に返って、株価が将来収益/金利で決まるとして、金利要因でないとすれば、将来収益予想の高まりがしっくりくる。

将来収益といっても、半年から1年以内の将来予想を取り込んで、株価は決まることが多い。「桐一葉、落ちて天下の秋を知る」という諺があるが、一枚の葉が落ちるのを見て、秋の訪れを察することで、わずかな前兆から将来を予知することだ。

筆者は、この言葉が好きだったので、現役官僚のころ、匿名コラムのペンネームに使っていたくらいだ。

予兆は、昨年4,5月に行ったコロナ対策であった。もちろん、新型コロナにより経済は落ち込むが、それでも落ち込みがどれだけ少なくできるか、特に世界と比べてどうかという視点が重要だ。

マスコミはいろいろな論調を述べるときに、何と比較しているのかさっぱりわからないことが多いが、それは評価する座標軸が定まっていないからだ。そのため、ただ単に政権批判をしたいために、都合のいい数字を取り上げたりするので、マスコミ記事を読んでも参考にならない。

これを、これまでの株価を踏まえてみると、株価3万円はそれほど不思議ではない。

まず、これまでの日米の株価の推移を見ておこう。


この図を見れば、日本の株価は、バブル崩壊後、10年余の長い調整局面が続き、2000年代はじめから、やっとアメリカと同じ歩調で上がりだした。こうした中、他の先進国よりコロナの落ち込みが少なければ、それなりに株高になるのは不思議な現象ではない。

経済を2019年10-12月第四四半期と昨2020年10-12月第四四半期で比較してみてみよう。この期間が、新型コロナ対応により大きく影響を受けるからだ。

 「経済と乖離」は本当ではない

OECD諸国で比較可能な国をすべて選ぶと、この間、日本の財政支出の高さと行動制限の緩さは世界でトップクラスだった。ここで、財政支出はIMFデータ、行動制限指数はオックスフォード大学が公表している厳格度指数のデータを用いている。引用先は、資料を参考にしてほしい。


実は、財政支出の多寡と行動制限の強弱で、経済落ち込みがほとんど説明できる。つまり、財政支出が大きいほど、行動制限が緩いほど、経済落ち込みが少ないのだ。


日本は、先進国中で、経済落ち込みがトップクラスで少なかった国だ。これから、株価に悪いはずないだろう。今年の後半の経済を見通すと、世界中で新型コロナワクチンが徐々に行き渡り、行動制限は緩くなる。

となると、スタートダッシュで、財政支出の多さで有利になった日本とその他の先進国も同じように、経済拡大のメリットが出てくる。

ということを、昨年10月前に読んでいた投資家が、半年から1年先の将来を「買って」、その読みが当たって、今の株高になっているのだろう。

以上が、筆者の今の株高の説明である。もちろん、この説明はこれまでの株高を説明するだけで、今後の株価については何もいっていないのも同然だ。これからの株価となると、来年、再来年がどうなるかを当てるに等しい難作業、というか、これからの政策対応でいかにでも変わりうるので、言わないのが無難だろう。

こうした説明からみると、マスコミはよくいう今の株価が実態から乖離しているというのは、陳腐で意味のない表現であることがわかるだろう。単に、9ヶ月前にあった1,2次補正予算によるその後の出来事を予想できなかった人の戯言だ。

あの時、1、2次補正予算が大きすぎると批判したのはマスコミである。今考えてみると、いかに勘違いだったのかがわかる。株価は将来を少し映し出す鏡なのだ。

【私の論評】株高も円高も、明快に説明できないマスコミには、日本経済への提言などできない(゚д゚)!

株価については、上記の高橋洋一氏の解説は過去の推移により、現在の株価を十分に説明できると思います。現在の株高は、なるべくしてそうなったのです。マスコミは現在の株高を、説明できず、現在の株価が実態から乖離しているようなことを語るのみです。

これと、同じようなことが、為替についてもいえます。マスコミは、円高や円安になる理由を説明できません。

昨年7月に、外国為替市場の円相場で一時1ドル=104円台と約4カ月半ぶりの円高水準をつける場面がありました。日本と米国の金融緩和の状況を受けて、中長期的に為替はどのように動くと考えられるのでしょうか。

当時の新型コロナウイルス感染拡大の状況を見ると、欧州では落ち着きが見られるのに対し、米国では拡大が収まっていませんでした。このため、欧州より米国のほうが景気回復が遅れそうだという見方になっていました。

日本はコロナ「第2波」になっていましたが、感染者数や死亡者数は欧州の落ち着いたときの水準程度かそれを下回る。やはり日本より米国のほうが景気回復が遅れそうでした。

そうなると、米国は日欧に比べて、失業がより多く出てくるので、雇用対策である金融政策をより長く、さらに強力に実施せざるを得なくなりました。

為替の説明にはいろいろありますが、経済学的には、2国間の金融政策の差で決まるというのが一番しっくりきます。為替が2国間の通貨の交換レートであることから、2国の通貨量の比率で決めるというのが最も自然であるからです。

であれば、当時日欧に比べて米国の金融政策がより強力になるという見方から、ドルが相対的に円・ユーロに比べて多くなり、相対的に多いものの価値は安くなります。つまりドル安になると説明できます。この現象を、円からみれば、円高です。

このような見方を、マスコミはできないようです。長期的にみれば、ドルが円に比較して多くなれば、ドルの価値は下がりドル安になり、円の価値は上がり、円高になります。無論短期的には為替は様々な要因があり、明快に説明できない場合もあります。

しかし、中長期的には米国が金融緩和政策をとりドルが円に比較して多くなれば、間違いなくドル安、円高傾向になります。

これは、誰でも理解できるでしょう。ドルが多くなり、相対的に円が少なくなれば、ドルの価値は下がり、円の価値は上がるので、ドル安、円高になります。この当たり前のことを知らない人がマスコミ関係者には結構多いです。

それどころか、金融関係者にも知らないのではないかと考えてしまうような人が、多いです。いわゆる金融アナリストとわれる人々が、金融緩和なと無視して、「米国では○○が起きていて、■■だから、円高になる」などの不可解な解説ばかりする人がいます。

このようなことは、中短期であたることはあっても、中長期的にみれば、為替は各国の金融政策によって、決まりまるのでは、長期的にはあたることはありません。

以上が経済的な見方ですが、これに米中対立の激化という政治的な側面も為替動向に大きく影響していました。米政府がテキサス州ヒューストンの中国総領事館を閉鎖したのに対し、中国政府は中国の四川省成都にある米国の総領事館を閉鎖するという対抗措置に出ました。

また、米司法当局は、サンフランシスコの中国総領事館でかくまわれていた中国人研究者を拘束しました。こうした有事にも通じるようなとき、とりあえずドルを売っておくという連想になりがちでした。

ただし、短期的にはドル売りという動きがあったにしても、中長期的には、米国および関係国のの金融政策がドルの価値を決めることになります。他国に比較して、緩和の度合いが高ければ、当然のこといずれドル安になります。

ともあれ、世界経済はコロナショックで大変で、世界各国で一定程度の金融緩和が行われています。リーマン・ショックの時のように、日本だけが金融緩和しないというのはありえないでしょう。となれば、為替は、一時的な変動はあるものの、長い目で見れば大きく変動しないのと考えるのが無難なようです。

マクロ経済を理解するための基本中基本

それにしても、株高も円高も、明快に説明できないマスコミには、当然のことながら、日本経済への提言など全くできないと考えるべきでしょう。

この大きな2つの項目ですら、明快に説明できないですから、当然のことながら、雇用も、財政も、金融政策も駄目でしょう。雇用というと、欧米では社会人の常識でもある、金融政策=雇用政策であることを理解できていない人が多いです。

これは、マスコミも理解していないのはもとより、多くの日本人が理解していないようです。そのためか、金融政策=雇用政策という話てもしようものなら、目を丸くして、信じられないという人も多いです。それどころか、胡散臭いやつと思われてしまうことすらあります。内容としては、高校の政治経済程度の話なのですが・・・・・・。

雇用が激減していた、平成年間の真ん中あたりのときに、ハローワークで働いていた女性が上司の課長が「自分は雇用というものを理解していない」と語ったので驚いたという話を聞いたことがありましたが、この課長さんは正直だといえます。

厚生労働省は、雇用の主管官庁ではありません。厚生労働省は、あくまで労務とか、雇用統計の主管場所であって、厚生労働省がいくら頑張っても、雇用を増やすことなどできません。できるのは、せいぜい雇用のミスマッチをある程度是正するくらいです。雇用を創出することはできません。それができるのは、日銀です。中央銀行こそ、雇用に責任があるというのが、欧米の社会常識です。

さらにマスコミは、財政赤字、経常収支の赤字もまるで家計のように赤字自体が悪い事のように報道します。このようなマスコミに日常的に接している、多くの日本人がマクロ経済音痴になってしまうのも無理からぬところがあります。

日本でも、高校や大学あたりで、一般教養として実践的なマクロ経済学を教えたほうが良いと思います。

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