2021年2月26日金曜日

各国で激化する宇宙開発競争、軍事予算と表裏一体の側面も 日本は豪印との協力が現実的 韓国も候補だが… ―【私の論評】日本では、宇宙開発を「研究開発」主体から、「宇宙ビジネス」へと高めていくことが必要不可欠(゚д゚)!

 各国で激化する宇宙開発競争、軍事予算と表裏一体の側面も 日本は豪印との協力が現実的 韓国も候補だが… 

高橋洋一 日本の解き方

母船からつり下げられ火星に着陸する探査車パーシビアランスの想像図)

 米航空宇宙局(NASA)の探査車が火星に着陸した。中国やアラブ首長国連邦(UAE)も火星に探査機を投入しているが、各国が宇宙開発を積極的に進める背景と、日本の技術力や資金力の現状はどうか。

 火星には、これまでにも、米国、欧州宇宙機関(ESA)、ロシア、インドが探査してきた。今回、中国とUAEがこれらの国に加わることになる。中国は、今年5月に搭載している探査車を火星に着陸させることを目指しており、成功すれば、米国に次いで2番目となる。

 なぜ、宇宙開発をするのかという素朴な問いに答えるのは案外と難しい。なぜ山に登るのかと聞かれて、そこに山があるからだと答えた人がいるが、それに似ている。意味がないようにみえるが、フロンティアスピリット(開拓者精神)が答えだ。もちろん宇宙開発には目先の利益は考えられないが、開発の過程でさまざまな技術が生み出されて、日常生活に応用される。どのような応用が出てくるのか分からないから、基本的にはフロンティアスピリットに委ねつつ研究開発をするのだが、実務上いろいろな名目も考えられている。その一つが、軍事だ。

 正直にいえば、世界の大国は、軍事を隠すために宇宙開発をしているのか、宇宙開発のスピルオーバー(余剰)分野として軍事が主力なのか、判然としないのが実情で、軍事予算と宇宙開発予算はかなり連動している。実際、軍事開発は国力を上げるし、その逆に国力があれば軍事もついてくる。

 宇宙開発をリードしている米国、中国、ロシア、インドはいずれも軍事大国だが、欧州のESAも主要メンバー国は北大西洋条約機構(NATO)の欧州国とかなり重複している。

 それぞれの軍事支出を、ストックホルム国際平和研究所の2019年データから見ると、米国が7318億ドル(約77兆円)で国内総生産(GDP)比3・4%、中国が2611億ドル(約28兆円)で同1・9%、ロシアが651億ドル(約7兆円)で同3・9%、インドが711億ドル(約8兆円)で同2・4%、ESAメンバー国が2503億ドル(約26兆円)で同1・4%だ。ちなみに日本は476億ドル(約5兆円)で同0・9%だ。

 宇宙開発当局の予算をみても、軍事費の格差ほどではないものの日本は貧弱だ。ちなみにNASAとESAの予算は、それぞれ日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)予算の10倍、2・5倍になっている。

 欧州諸国は、軍事同盟をベースとしつつ、宇宙開発で協力して、ESAを運営している。ESAは有人飛行をやらないので、日本と似ている。

 日本も単独で宇宙開発予算を確保するのが大変なので、そろそろ国際協力も視野に入れたほうがいい。その場合、クアッドで連携をとっているインドがパートナーとなるのが一番現実的だろう。それに、昨年7月オーストラリア宇宙庁とJAXAは協力覚書を結んだので、オーストラリアもいい。本来であれば、韓国も候補であるが、日韓間では軍事情報包括保護協定(GSOMIA)でも問題になったので絶望的だ。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本では、宇宙開発を「研究開発」主体から、「宇宙ビジネス」へと高めていくことが必要不可欠(゚д゚)!


日本の宇宙開発は予算も少なく、他国と比較して遅れているようにも報道されることがありますが、それは「はやぶさ2」のことを全く無視しているのではないかと思います。

日本の「はやぶさ2」をはじめとする宇宙航空技術は世界有数の水準にあると言って良いと思います。これだけの技術水準を軍事は無論宇宙ビジネスに転用すれば、かなりの水準のものになるのは確かです。

小惑星でのクレーター作製に世界で初めて成功した「はやぶさ2」

「はやぶさ2」は2014年13月に打ち上げられ、4年という時間をかけて果てしなく遠くに存在する小惑星リュウグウに到着し、その後は1年半にわたってリュウグウの探査を行い、2度にわたるサンプル採取にも成功しました。はやぶさ2の功績によって太陽系の誕生の秘密が解き明かされるかもしれないです。

「はやぶさ2」の難易度の高いミッションを遂行することで、日本の宇宙機が持つ高い信頼性を世界中に示したと同時に、はやぶさ2が無事に地球にサンプルを持ち帰ったことで、日本の小惑星探査は世界をリードしていることを示したと言えます。

将来的には、はやぶさ2が採用したサンプル採取の手法は宇宙資源の開発における「スタンダード」な手法になるかもしれないです。つまりは日本の宇宙開発技術の潜在価値は予測できないほど大きく、前途も途方もなく大きいといえます。

「はやぶさ2」が成し遂げたことは消えることのない偉業であり、将来的には世界中で小惑星探査ブームが起きるかもしれないです。

「はやぶさ2」のような小惑星の地下物質を持ち帰るプロジェクトは、難易度が高く、これと同じようなことをするには米国などは20年はかかるともいわれています。

従来のように小惑星の地面にドリルで穴を掘る方法は、重力が非常に小さいため、反動で探査機が浮いたり動いたりします。

一方、人工クレーターで地下物質を地表に噴出させれば、①観測で地表・地下物質の性質の違いがある程度分かり、②採取・帰還して地球で詳細分析できます。

さらには、③人工クレーター形成時やその後の状況の観測によって、小惑星の固さ、岩石の大きさ、内部構造など、小惑星の様々な情報が得られます。

「はやぶさ2」のブロジェクトでは、世界初の画期的なこの一連の探査手法を確立できたのです。

ただし、今後日本も宇宙開発に取り組むためは、様々な改革が必要になるでしょう。

日本の宇宙機器産業に携わっている従業員数をご存知でしょうか。実は、日本では1万人を下回る規模で、日本の自動車産業就業人口が534万人ということと比較すると著しく少ないと感じます。


関係者数が非常に少ない背景のひとつには、日本の宇宙分野の実に9割が官需により成り立っているという事実があります。宇宙用の製品は、一度打ち上げたら修理が難しいことから非常に高い信頼性が求められる一方で、需要自体が少なく一品モノが多いです。

まさに、超高品質な製品の少量生産が求められることから、対応できる企業が限られ、参入障壁が非常に高くなっており、宇宙分野へ新規参入する企業は少ないのです。日本では、三菱電機/重工、NEC、IHIエアロスペースが有名どころでしょう。

そのため、宇宙関係が集まる場に出席してもすでに見知った顔が多く、定期的に開催される親戚の集まりのような空気感になることから「宇宙村」という自虐的な単語が関係者から発せられることがしばしばあるのです。

もちろん日本の宇宙ビジネスも海外の発展を指をくわえて傍観しているというわけではなく、日本から新たな宇宙ビジネスの種も続々と生まれてきています。そもそも「宇宙村」を生んだ背景には、日本だけではどうしようもなかった国際政治的な要因が少なからずあります。

日本は1970年に初めての人工衛星「おおすみ」を打ち上げて以降、米国からの技術供与も受けながら、衛星開発能力を高めてきました。日本は日本の衛星開発能力を高めるために、日本の企業に限定して衛星製造を発注してきていました。

日本初の人工衛星「おおすみ」の組立作業

しかし、日本が着実に経験を積み、商用化できるレベルまであと少しと迫った1989年、米国は、商用に資する衛星の調達先を国内に限ることは不当な貿易制限であり、人工衛星の調達は国際調達であるべきだと迫ったのです。

これはすなわち、商用衛星を政府が調達する場合、その時点で日本よりも力のある米国の衛星メーカーも入札に含めなければならず、日本の衛星メーカーが受注することが困難になることを示していました。事実、その後しばらく、気象衛星「ひまわり」はアメリカの衛星メーカーが受注することになりました。

この事態を危惧した日本政府は、日本の衛星メーカーに衛星受注の機会を与えるために、”商用”ではない”研究開発”のための人工衛星を企画し、国内メーカーに限定した入札を行えるように配慮しました。これが、日本の宇宙産業が”商用”すなわちビジネスよりも、”研究開発”に注力せざるを得なかった事情の顛末です。

2001年にこの制約は解除されたものの、この一件で日本は世界に対し大きな後れを取りました。1990年以降、2009年までに行われた国際競争入札15機のうち、日本は落札できたのはわずか3機のみでした。

この約10年の間に、欧米諸国の衛星メーカーでは商用衛星のための競争力(設計の共通化によるコスト低減、納期短縮など)を着々と高めて来ました。他方日本の衛星メーカーは政府から守られる形で、”研究開発”の名を冠するために、コストや納期を後回しにしました、オンリーワンの衛星を作り続けていたのです。

他業種への展開に向けては、徐々に潮目が変わる予兆もありますが、「宇宙村」の村人は村から飛び出し、自ら市場を開拓しなければならないのです。もちろん、金額の大きいビジネスであるため、民間企業単独での脱却は難しく、政府の関与は不可避ですが、政府の資金援助の仕方は十分に考慮される必要があります。(各国政府の宇宙施策についてはこちら)。

また、宇宙ビジネスの発展のためには宇宙産業界隈の変化だけでは不足です。なぜならば、宇宙を利用しようと他産業が思わなければ話が前に進まないからです。

宇宙ビジネスが他産業の既存の課題を解決する種を持っている可能性があるにもかかわらず、
宇宙ビジネス≒ロケット、宇宙ビジネス≒ロマンと言ったイメージはなかなか払拭できず、距離を置かれてしまうことが多いようです。

そのイメージを払拭するためには何か衝撃的な宇宙ビジネスのインパクトを生み出すか、宇宙ビジネスがどのようなものかということを他産業の人にとって親しみやすい言葉で丁寧に届けていくしかないでしょう。

一般に知られていない、すでに実用化されている宇宙ビジネスを以下にあげておきます。

農業×宇宙

たとえばデータを用いた農業が進んでいるオランダでは、例えばDacomという会社が衛星データを使って、顧客の畑情報の「見える化」を行っている。衛星データだけでなく、地上で取れるデータや気象データを組み合わせて、効率的に農業が行えるように支援しています。

これは、テレビドラマ「下町ロケット」でも、その内容が知られるようになりました。

  ドラマ『下町ロケット』(TBS、2018年10月~2019年1月放送)の撮影から。
  クボタの農業機械がドラマ内で使用された。

私の親戚の人でも、こうした宇宙ビジネスに携わっている人もいますが、衛星データ+ドローンによるデータ+気象データできめ細かいデーターの取得により、効率的に農業が行えるような支援事業をしています。

漁業×宇宙

漁業においては、衛星から得られる海の情報をサービス提供している会社もあります。Raymarineは衛星データを用いて、海面温度の情報などを提供します。漁師はそれをみて効率的に漁場にたどり着きます。

貿易(船)×宇宙

宇宙から察知が出来て嬉しいのは魚の動きだけではなく、船の動きもまた同じです。国際海事機関(IMO)のデータによれば、世界における貿易の約90%は海上輸送で行われています。そこでSpireは特定の地域における船の位置を宇宙から網羅的に把握することで、どこかで海難事故が発生したことを早い段階で察知したり、危険物を運んでいる船の情報提供、違法漁船の検知などといったトラッキングデータを提供しています。Spireが提供する船舶トラッキング情報Credit : Spire

さらに、船の燃費代は40日間の航海で1億円を超えることはざらであり、今後もしも効率的な船の航路を算出することができれば、大幅なコストダウンにつなげられるというメリットがあります。

現在は実用化されていませんが、今後航空機のトラッキングシステムの登場が期待されています。

エネルギー(金融)x宇宙

上から俯瞰的に見るということは、視点を変えれば他国の領空を衛星が周回することもあるということです。つまり、各国が本来であれば自国しか把握し得ないであろうことも宇宙から見れば分かることがこれから増えてくるでしょう。

その代表例として、石油の貯蔵量があげられます。世界中の石油の貯蔵量が分かることで、投資家は生産量を正確に把握し、今後の石油価格を予想する目安にできるのだ。データを提供する企業としては「Orbital insight」「Ursa Space Systems」「BlackSky」などが上げられます。

今後様々な産業が宇宙ビジネスと結びつく可能性が大です。政府が宇宙開発をすることも大切なことですが、まずは宇宙開発を「研究開発」の分野に留めるのではなく、「宇宙ビジネス」へと高めていくことが、日本の宇宙開発を発展させるためには必要不可欠です。

そうして、日本は宇宙ビジネスで成功する可能性は大きいです。なぜなら、ほとんどすべての産業技術を蓄積しているのが日本だからです。たとえば、工作機械や素材産業は、世界のトップ水準にあります。

あらゆる技術の結晶ともいえる潜水艦でも、日本は通常型潜水艦で、その静寂性は世界一です。米国は、原潜を作る能力はありますが、それに特化し、もはや通常型潜水艦は製造できない状況です。

中国は、おもいっきり背伸びをしていますが、様々な技術分野で未だに遅れているところがあり、技術水準が日本のようにすべての産業が一定レベル以上にはなっておらず、優れているところがあると思えば、極端に劣っているところもあり、極端に凸凹であるというのが実情です。

その象徴が、現代の海洋戦で雌雄を決するといわれている、現在最先端をいっている日米の対潜哨戒能力です。現状では、中国のそれは著しく劣っています。

日本では、あるりとあるゆる産業が宇宙産業と提携し、新たな宇宙ビジネスを生み出せる可能性は非常に高いです。

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