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2019年9月12日木曜日

韓国で「恐怖のスタグフレーション」進行中か 消費者物価上昇率が8カ月連続0%台、新「漢江の奇跡」に疑問―【私の論評】韓国経済の悪化の根本原因は、誤った金融政策にあり(゚д゚)!

韓国で「恐怖のスタグフレーション」進行中か 消費者物価上昇率が8カ月連続0%台、新「漢江の奇跡」に疑問

現在韓国では若者が「ヘル朝鮮」と呼ぶ状況が続いている

韓国の8月の消費者物価指数が、対前年同月比でマイナス実数値(マイナス0・04%)を記録した。1965年に統計を取り始めてから初めてのマイナスだ。8月は気候によって農水産物が変動しやすいが、2019年1月から連続して0%台なのだから、これはすごい。

 輸入依存度が高い国で、その通貨はこの1年間、対ドルでも、対円でも下落してきた。それなのに消費者物価上昇率が8カ月連続して0%台とは、新「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ぶべきかもしれない。

 ところが、この1年間の物価関連ニュースをチェックすると、「奇跡」への疑問は広がる一方になる。

 韓国の場合、最低賃金引き上げで、賃金は上昇しているが、税金や年金支払いの増額で、世帯当たりの可処分所得は減っている。

 さらに、生計費に占める外食費の比率がとても高い。外食費比率(17年)は日本が4・8%なのに対して、韓国は13・3%にも達する。自炊をしない単身世帯が多いことが背景にある。

 そういう構造的要因を抱えるなかで、韓国の喫茶店、ハンバーガーショップなど軽食店は今年1月、5~20%の値上げに踏み切った。法定最低賃金の大幅引き上げに伴う措置だった。が、消費者物価指数は対前年同月比0%台。

 3月には、市外バス運賃が平均11%値上げした。タクシーも27%値上げした。しかし、0%台行進は続いた。

 今年1-3月期の消費者物価動向を、中央日報(19年4月30日)が以下のように総括していた。

 「上昇率は前年同期比0・5%だが、同じ期間に必須消費品目の価格は大きく上昇した。穀物価格が急騰してコメが18・5%、玄米が23・1%、もち米が24・7%、大豆が21・4%上がり、牛肉は国産が2・2%、輸入が2・8%、鶏肉が10・9%上昇した。水産物もスルメが15・6%、タコが21・1%、練り製品が9・9%、塩辛が4・2%など大幅な上昇を示した。牛乳が5・4%、醗酵乳が4・2%上がった。ここにリンゴが6・9%、ナシが41・1%、モモが22・6%など主要果物価格も上昇した」

 それでも0%台行進の理由を、同紙はこう書いている。

 「(物価指数の計算を)構成する項目の中にはマイナス上昇率を示し価格が下がった品目もあるが、高いプラス上昇率を示したものもある。ところが価格が下がったのは、たいてい消費者が買わなかった結果の可能性が大きい。購入していない品目の低い価格は体感できない」

 おかしな日本語訳文だが、要は国民の日常生活とはほとんど関係ない物品が消費者物価指数の計算項目に入っていて、それらの物品の値下がりが、全体の指数を0%台に抑えているということだ。

 となると、韓国は何のために消費者物価統計を取っているのだろうか。

 最近は安い居酒屋も値上げしている。焼酎シェア1位の「チャミスル」の出庫価格が6・45%上がったことがきっかけだ。ソウルの冷麺は、盛岡冷麺の名店よりも高くなった。

 韓国の民間シンクタンクは9月8日、19年の予測成長率を2・1%から1・9%に引き下げた。「スタグフレーション」進行中と思われるが、韓国の国営放送は、おかしな消費者物価指数を根拠に「デフレへの憂慮が広がる」と報じている。

 ■スタグフレーション 景気後退と物価上昇が同時に発生する現象。賃金が上がらないのに物価が上昇し、資産価値が減っていく。国民生活は困窮し、「最悪の経済状態」と言われている。

 ■室谷克実(むろたに・かつみ) 1949年、東京都生まれ。慶応大学法学部卒。時事通信入社、政治部記者、ソウル特派員、「時事解説」編集長、外交知識普及会常務理事などを経て、評論活動に。著書・共著に『悪韓論』(新潮新書)、『崩韓論』(飛鳥新社)、『韓国リスク』(産経新聞出版)など多数。

【私の論評】韓国経済の悪化の根本原因は、誤った金融政策にあり(゚д゚)!

確かに、室谷氏の語るように、価格の0%台行進についての、中央日報の記事は、何を書いているのか全く意味不明です。しかし、これについては、日本の報道機関も似たりよったりです。

このようなことは、新聞記者の経済知識があまりに乏しい(室谷氏も含めて、ただし室谷氏は、経済記者ではないので致し方ないか???)ため、「個別価格」と全体の「一般物価」がしばしば混同されていることに起因しています。つまり、雇用改善などを受けた値上げや消費の伸び悩みを受けた戦略としての値下げなど個別企業の動きと、マクロ経済を反映した物価全体の動きについて、区別されていないのです。

個別価格は、それぞれの商品に付けられている価格であり、誰でもイメージできるできるでしょう。

一般物価については、例えば消費者物価指数が典型例ですが、イメージが難しいです。それぞれの個別物価を指数化して、各商品の加重平均ウエートで平均を取るという作り方です。これは、韓国でも同じような方法で計算されています。韓国の統計がおかしいということではありません。

この手法だけを見れば、各商品の積み上げによって一般物価が算出されるので、ある商品の個別価格の上昇がそのまま一般物価に反映されると思ってしまうかもしれません。しかし、そうならないところが、マクロ経済学のポイントです。

これは、ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマン氏が指摘した「スイッチ効果」と呼ばれます。ある財の個別価格が上昇すると他の財を節約し、その消費が減少することでその財の個別価格が低下するので、結果として一般物価には変化がないというものです。

ミルトン・フリードマン氏

もっとも、現実にはある個別価格の変化がただちに他の個別価格の変化をもたらすような価格伸縮性があるわけでありません。このため、短期的には大きな個別価格の変化があった場合、それは一般物価の変化にも影響しますが、数年単位でみれば、価格は伸縮的になるので、スイッチ効果が認められます。

いずれにしても、こうした事情を踏まえると、長期的な視点を含む政策論で考えるときには、個別価格と一般物価は区別したほうが良いです。

個別価格は各財の競争状態で決まります。つまり、ニーズが高かったり、供給が少ないと個別価格は上昇します。

一般物価はどうかといえば、スイッチ効果で説明したように、所得が一定であれば、高いものを買うときは他のものを控えるのですが、所得が大きくなれば、他の財の節約は必要なくなります。ということは、所得に応じて一般物価が決まってくるわけです。

これをマクロ経済の言葉で言えば、有効需要によって基本的には一般物価が決まります。このため、GDPギャップ(潜在GDPと実際のGDPの差)によって、インフレ率(一般物価の変化率)が決まるのです。

その際、インフレ率のみならず失業率も決まります。ここがマクロ経済学のキモです。有効需要をコントロールするために、金融政策と財政政策があるので、それらの即効性や遅効性を考慮しながら、マクロ経済管理をするわけです。
こうしてみても、個別物価の動きと中期的なインフレ目標の関連は薄いです。

韓国の場合は、2019年1月から連続して物価上昇率が0%台というのですから、これはもうすぐに量的緩和策をとるべきです。

韓国消費者物価指数の推移 2019年 1月-9月

さらに、マクロ経済的には、インフレ率のみならず失業率もきまるわけですから、失業率を減らすためにも、何をさておいてもまずは、金融緩和しなければならないはずです。

ちなみに、韓国では昨年金融緩和をせずに、最低賃金だけをあげるという、立憲民主党の枝野代表の主張する経済政策を実行して、雇用が激減しました。


韓国は7月12日、2020年の最低賃金を前年比2.9%増の8590ウォン(約790円、時給ベース)とすることを決めました。1988年の制度開始以来3番目に低い伸び率となります。文在寅(ムン・ジェイン)政権は「所得主導」の成長を掲げ、18年(16.4%)、19年(10.9%)と2桁上昇が続いたのですが、賃上げが雇用減を招いているため一転して抑制に転じことになったのです。

では、韓国銀行(韓国の中央銀行)はどのような政策を採用しようとしているのでしょうか。

韓国銀行(中央銀行)は7月18日、市場の据え置き予想に反して政策金利を1.75%から1.50%に25ベーシスポイント(bp)引き下げました。利下げは2016年6月以来、3年ぶりです。

しかし、その後の動きはありません。最低賃金の引き上げで雇用が激減、物価の上昇率がo%台の状況が1月から続いているというのですから、利下げは当然のこととして、量的緩和もすぐに実施すべきです。

なぜ実行しないのか、本当に不思議です。この状況に陥っても、なお金融緩和しないことこそ、私は"新「漢江の奇跡」"の奇跡と呼びたいです。

文在寅大統領は、金融緩和せずに最低賃金だけ上げて、雇用を激減させるという愚かな政策をしたということからも、経済、特にマクロ経済がわからないのははっきりしていますが、誰か取り巻きで理解している人はいないのでしょうか。

韓国が金融緩和するとすぐに、キャピタルフライトするなどという人もいますが、これはこのブログの過去の記事にそうでないことを示しました。韓国自体が外国から多額の借金をしていれば、その可能性はありますが、実体はそうではありません。あれから多少時がたっていますが、現状ではこれはまだあてはまると思います。

最近では、日本との関係悪化が、韓国経済を悪化させているという人も多いですが、私はそれ以前に文在寅大統領の、金融緩和をしないで、最低賃金だけあげるという、マクロ経済政策に反した政策が大失敗し雇用が悪化し、なおかつ物価上昇率が0%台であっても量的緩和をしないということが、根本の原因であると思います。

これなしに、たとえ日本との関係を良好にしたとしても、それだけで韓国経済は良くならないです。無論、日韓関係を良くすれば、経済の伸びしろを増やすことはできるでしょうが、それだけでは根本原因が除去されるわけではありません。

何があっても、量的緩和を行わない韓国銀行は、まるで白川総裁までの日銀のようです。そうして、最近の日銀は、イールドカーブコントロールを採用してから、引き締め気味です。そのため、消費税増税ともあいまつて、日本でも物価目標がなかなか達成できていまん。とはいいながら、緩和はしているので、韓国よりはましです。特に、雇用状況は良いです。

いまのままでは、韓国では雇用は改善されず、物価上昇も、賃金上昇も見込めず若者にとってはヘル朝鮮の状況はまだまだ続くことでしょう。

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2016年8月2日火曜日

日銀の資金供給 8か月連続で過去最高を更新―【私の論評】金融緩和政策は限界でなく、まだまだ不十分なだけ(゚д゚)!

日銀の資金供給 8か月連続で過去最高を更新



日銀が市場に供給しているお金の量を示す「マネタリーベース」は、大規模な金融緩和を続けていることから先月末時点で403兆円余りとなり、8か月連続で過去最高を更新しました。

マネタリーベースは、世の中に出回る紙幣と硬貨、それに、民間の金融機関が日銀に預けている資金「当座預金」の残高を合わせたもので、日銀が市場に供給している資金の量を示します。

日銀の発表によりますと、先月末時点のマネタリーベースは403兆9463億円で、前の月と比べて91億円増え、8か月連続で過去最高を更新しました。これは、日銀が、目標としている2%の物価上昇率の実現に向けて、国債などを買い入れて市場に資金を供給する大規模な金融緩和を続けているためです。

ただ、大規模な緩和にもかかわらず物価上昇率は先月下旬に発表された最新の統計で4か月連続のマイナスとなっていて、目標の達成は遠い状況です。このため、日銀は、来月開く次の金融政策決定会合で今の金融緩和策の効果を総括的に検証することにしています。

【私の論評】金融緩和政策は限界でなく、まだまだ不十分なだけ(゚д゚)!

先月の29日から、31日まで、私は札幌から函館、仙台まで行っていましたので、その間の出来事などこのブログに掲載できませんでした。知事選関連はいろいろと掲載していましたが、日銀関連は掲載していませんでした。そのため、この間の重要な出来事であった、先月日銀の金融政策決定会合について掲載することにしました。

先月29日開催された日銀金融政策決定会合 中央奥は黒田日銀総裁
ブログ冒頭の記事では、マネタリーベースは8か月連続で過去最高を更新したことを伝えており、これだけだと、金融緩和は十分であるかの印象を受けます。しかし、そんなことはありません。実は、日銀の金融緩和政策は、まだまだ不十分です。

このような報道の仕方は、2012年のWBSという報道番組が報道したように、かなりのミスリーディングなものです。その報道番組についてはこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日銀総裁、インフレ目標に否定的 「現実的でない」―【私の論評】インフレ目標を否定する、白川総裁本音炸裂!!マスコミはその協力者!!
この記事は、2012年11月13日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、WBSの紛らわしい報道に関する部分のみ以下に抜粋します。
たとえば、昨日のWBSでは、以下のような画像が流されました。 
この画像驚くべきことに、日本のマネタリーベース(市場に出回っているお金)が世界一であるかの印象を植え付けるようなものです。これをみると、大方の人は、あたかも日銀がかなりの金融緩和をやっているように曲解すると思います。これは、実額を示しているものなのでしょうか、それとも・・・・・・。とにかく、実額にしても、対比にしてもあり得ないことです。WBSは、このような誤解を招くような報道をしたことを謝罪するべきです。
わかりやすくするには、どこかを基準として、そこからどのように伸び率が変わったかを複数の国で比較すべきで。たとえば、2000年を100とすると、以下のようになります。このような表示の仕方が一番わかりやすいです。こうしてみると、いかに、日銀が金融緩和をしていないか、一目瞭然です。こういう表示をすべきです。

それにしても、WBSの表示、なぜあのようになるのか、理解に苦しみます。そうして、WBSでは日本は、流動性の罠にはまっているので、財政出動をしても効き目はなく、規制緩和や金利の引き上げをしろと報道しています。需要がないので、現状では金利が下がっているのに、無理やり金利を引き上げれば、需要はますます冷え込むだけです。WBSは、リチャード・クー氏などがでているときは、本当に良い番組だったのですが、最近は日銀御用メディに成り下がってしまったようです。

ブログ冒頭の記事は、このWBSの報道のように酷くはないですが、それにしても誤解を招くような報道です。まるで、現在の日本が金融緩和は十分にすぎるほどに実施されているかのような印象を与えます。それは全く違います。本日は、それについて掲載します。

日銀は先月29日、金融政策決定会合を開き、追加金融緩和を賛成多数で決めました。緩和は1月のマイナス金利政策の導入決定以来、6カ月ぶり。株価指数連動型の上場投資信託(ETF)の買い入れを現在の年3.3兆円から6兆円に増額します。企業や金融機関の外貨調達の支援強化も決めました。金融機関が預ける日銀当座預金の一部に適用するマイナス金利は現行水準のマイナス0.1%に据え置きました。

日銀は政府が8月2日閣議決定する総合的な経済対策と「相乗効果を発揮する」と表明。政府と日銀が連携し、デフレ脱却へ向け、2%の物価上昇目標の実現を目指す強い決意を示しました。

ETF買い入れの増額は政策委員9人のうち、賛成7人、反対2人でした。通貨供給量を増やすため実施している現在の年間80兆円の国債購入は増額を見送りました。

今回の会合でまとめた日銀の最新予測である「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、2%の物価上昇目標の実現時期について、従来通りに「2017年度中」としながらも「海外経済の不透明感から不確実性が大きい」との文言を加えました。

しかし、二年ほど(2015年終わり)でインフレ目標2%を達成するはずが、いまや2017年真ん中を見込むという一年半も後倒しになっている状況があります。




これは日本銀行の政策への信頼性・やる気を毀損していることは疑いありません。その原因は、消費税増税と国際環境の不確実性にあります。政府は消費増税の悪影響を回避するために、今回再延期に踏み切りました。当然にその認識を日銀が共有しているのなら、早期に追加緩和により積極的な対応を準備すべきでした。ところが、それをしていませんでした。

その認識の甘さが、今回のようなほとんど政策効果がないような、「追加緩和」に帰結しまった主な原因です。これは、やらないよりはましな、まさに政府の圧力への官僚的回答に過ぎません。

日銀は追加緩和の理由に関し、英国の欧州連合(EU)離脱問題や新興国経済の減速など海外経済の不透明感が高まり、金融市場は不安定な動きが続いていることから「企業や家計のコンフィデンス(心理)悪化につながるのを防止する」のが狙いだと説明しました。

展望リポートでは、16年度の消費者物価(除く生鮮食品)上昇率見通しを前年度比0.1%(従来0.5%)に下方修正。17年度は1.7%と従来見通しを維持しました。

今後の金融政策に関しては「必要な場合は追加的な金融緩和措置を講じる」と改めて強調。次回9月の決定会合で、現行の大規模緩和政策の効果などについて、総括的検証を行うことを明らかにしました。

しかし、この追加金融緩和策は、市場の期待を裏切る内容でした。黒田東彦(はるひこ)総裁は9月にも一段の緩和を示唆していますが、後がありません。専門家は、黒田総裁が対応を誤れば次期総裁人事に影響が出てくるほか、日銀内での「クーデター」の可能性についても言及しています。

日銀は上記のように、上場投資信託(ETF)の買い入れ額を年3・3兆円から6兆円に増やした一方で、市場に供給するお金を年間80兆円のペースで増やす「量的緩和」は拡大せず、出し渋りの感は否めません。

上武大学教授 田中秀臣氏
日銀の金融政策をウオッチし続けてきた上武大教授の田中秀臣氏は、「批判の矢面に立たないようにETFを増額するが、量は増やさないというやり方は、昔の日銀の発想に戻ってしまったようだ」と批判しています。

黒田総裁は、2013年以降の金融緩和について「総括的な検証」をしたうえで、9月にもさらなる緩和を実施する可能性があるとしました。サプライズ狙いから、市場との対話路線に転じる構えですが、効果は不透明です。

しかし、この「総括な検証」の指示でも、いまのインフレ目標2%達成の遅れが、消費増税などの悪影響という国内要因ではなく、あくまで国外要因の責任にしています。これではいつまでたっても国内の経済低迷の原因について真摯な「総括的な検証」は行われないのではないでしょうか。

このまま黒田日銀が政府とのポリシーミックスに適応不全を続けるようであるならば、日銀法の改正やまたそれに伴う幹部の一掃が要される事態になるのではないでしょうか。 いまの日本では財務省出身や日本銀行プロパーにこだわる人材選択、または悪しきエリート主義への信奉こそ、政策の実現を遅らせるものはないと思います。黒田日銀にはその病理がいま集中して現れているように思えてなりません。

本田悦朗スイス大使
前出の田中氏は「日銀の組織防衛的なスタンスが続けば、安倍政権自体も追い込まれかねない。次の決定会合に政府側の委員として位の高い人物を送り込むほか、日銀法改正をちらつかせるなど政治的なプレッシャーをかけることがありうる。18年の次期総裁人事では、積極的な緩和論者である本田悦朗スイス大使を起用する可能性も高まったのではないか」と指摘します。

田中氏は、黒田総裁や日銀事務方のスタンスが変わらない場合、理論上は、決定会合で「クーデター」を起こせるという大胆な仮説を立てています。

「リフレ政策に理解のある委員は(9人中)5人いる。1回限りであれば、総裁らが反対しても大胆な量的緩和を可決することは可能だ」

黒田総裁にとっては、9月が信頼を取り戻すラストチャンスなのかもしれません。

田中氏は、本日以下のようなツイートをしています。
本当に、マスコミも識者でも、日銀の政策決定に関する批判について勘違いしている人が大勢います。特に田中氏のツイートの中の"1)政策手段や手段が尽きたから批判する"不思議な人が大勢いて困ります。そういう人の中には「アベノミクスは限界」などという、頓珍漢、奇妙奇天烈な批判をする人がいるので困ります。私は、こういう人々の仲間ではありません。

"8月3日 訂正:上のツイートで、ヘッドダイン寄生は「ヘッドライン寄生」の間違いでした。田中氏自身も間違えていたのでそのまま掲載しました。田中氏も本日ご自身で訂正されています"

あくまで、田中氏もそうですが、私も"2)政策手段や手段はあるのにやらないことを批判"しているのです。

そうして、その根拠は以前にもこのブログに掲載しました。それを以下に再掲します。その記事のリンクを以下に掲載します。
日銀 大規模な金融緩和策 維持を決定―【私の論評】日銀は批判を恐れずなるべくはやく追加金融緩和を実行せよ(゚д゚)!
この記事は、今年の6月のものです。やはり、6月の金融政策決定会合が開催され、この時も追加金融緩和が見送られました。今回の追加見送りも、結局このときの見送りと同じような理由によるものと考えられます。以下に一部引用します。
結論からいうと、日銀は追加金融緩和を行うべきでした。以前このブログにも掲載したように、いくら金融緩和しても下げられない失業率を「構造的失業率」といい、実際の失業率が構造的失業率まで下がらないと、物価や実質賃金は本格的に上昇せず、インフレ目標の達成もおぼつかないことになります。
構造的失業率などについて以下に簡単に解説しておきます。 
総務省では、失業を発生原因によって、「需要不足失業」、「構造的失業」、「摩擦的失業」の3つに分類しています。 
  • 需要不足失業―景気後退期に労働需要(雇用の受け皿)が減少することにより生じる失業 
  • 構造的失業―企業が求める人材と求職者の持っている特性(職業能力や年齢)などが異なることにより生じる失業 
  • 摩擦的失業―企業と求職者の互いの情報が不完全であるため、両者が相手を探すのに時間がかかることによる失業(一時的に発生する失業)
日銀は、構造失業率が3%台前半で、直近の完全失業率(4月時点で3・2%)から下がらないので、これ以上金融緩和の必要がないという考えが主流のようです。 
過去の失業率をみてみると、以下のような状況です。
過去20年近くは、デフレなどの影響があったので、あまり参考にならないと思ういます。それより前の過去の失業率をみると、最低では2%程度のときもありました。過去の日本では、3%を超えると失業率が高くなったとみられていました。
このことを考えると、日本の構造失業率は3%を切る2.7%程度ではないかと考えられます。 
であるとすれば、現在の完全失業率3.2%ですから、まだ失業率は下げられると考えます。だとすれば、さらに金融緩和をすべきでした。

しかし、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は、すでに実際の失業率が構造失業率に近い水準まで下がっているのに、なぜ賃金が上昇しないのか、疑問を持っていたようです。にもかかわらず、今回は追加金融緩和を見送ってしまいました。
構造的失業率が2.7%程度あろうことは、高橋洋一氏も述べていますし、他のまともな経済学者もそう考えている人が多いです。無論、マスコミや日本の主流の経済学者や民間エコノミストたちはそう考えていないようですが、彼らは8%増税の影響は軽微などとしていたくらいですから、全く信用できません。

本来は、この時期に追加金融緩和を実施すべきでした。大規模な追加金融緩和を行えば失業率は2.7%程度にまで下がり、そこからほとんど下がらなくなり、賃金が本格的に上昇することになります。そうなると、物価上昇が始まることになります。

「アベノミクス」の特に金融緩和政策は、限界に来たのではなく、8%増税などを実行してしまっため、まだやり足りないのです。もし、8%増税をしていなければ、物価上昇2%はもうすでに達成できていたかもしれません。とにかく、失業率が2.7%まで下がらないようでは、十分とはいえないのです。

この認識ができない、黒田総裁にはやめていただく以外に道はないのかもしれません。あるいは、日銀法を改正して、日本国の金融政策の目標は政府が定めて、その目標を実現するための手段を日銀が専門家的立場から自由に選ぶことができるという具合に改めるしかないかもしれません。

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