2018年8月3日金曜日

【瀕死の習中国】トランプ氏の戦略は「同盟関係の組み替え」か… すべては“中国を追い込む”ため―【私の論評】中国成敗を最優先課題にした決断力こそ企業経営者出身のトランプ氏の真骨頂(゚д゚)!

【瀕死の習中国】トランプ氏の戦略は「同盟関係の組み替え」か… すべては“中国を追い込む”ため
 
プーチン大統領(左)とトランプ大統領(右)

 ドナルド・トランプ米大統領が仕掛けた米中貿易戦争によって、新局面が拓(ひら)かれた。

 中国株は2年前の最低値に接近しつつあり、人民元は下落を続けている。対照的に米国株が上昇し、米国ドルが強くなった。原油相場は高値圏に突入した。米中の金利差が縮小したため、中国から外貨がウォール街に還流している。一方で、金価格が下落している。

 市場は微妙なかたちで、世界情勢を反映するのである。

 リベラルな欧米のメディアは相変わらずトランプ批判を続け、フィンランドの首都ヘルシンキにおける米露首脳会談(7月16日)は「大失敗だった」と興奮気味である。

 筆者は、トランプ氏の戦略は、究極的に中国を追い込むことにあり、そのために「同盟関係の組み替え」を行っていると判断している。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会い、体制を保証する示唆を与え、「核実験・ミサイル発射実験の停止」を約束させて、完全非核化まで制裁を解除しないと言明した。北朝鮮の中国離れを引き起こすのが初回会談の目的だった。

 そのことが分かっているからこそ、中国の習近平国家主席は、正恩氏を3回も呼びつけて、真意を執拗(しつよう)に確かめざるを得なかった。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との首脳会談も、長期的戦略で解釈すれば「ロシアの孤立を救い、対中封じ込め戦略の仲間に迎えよう」とする努力なのである。

 カナダでのG7(先進7カ国)首脳会議で、「ロシアのG8復帰」と「制裁解除」をほのめかしていたように、トランプ氏はプーチン氏を次はホワイトハウスに招待すると持ち上げた。

 しかも、ヘルシンキの米露首脳会談では、戦略的核兵器削減交渉の継続で合意している。

 米国政府がもっとも懸念するのは、軍事技術の向上につながる知的財産権の守秘だ。中国による米国ハイテク企業への買収阻止にある。このトランプ氏の考え方は、ロシアにも伝播した。ドイツでも、親中派のメルケル政権のスタンス替えを引き起こした。

 ドイツ政府は、中国煙台市台海集団が狙った、独精密機械メーカー「ライフェルト・メタル・スピニング」の買収を却下する見通しになった。

 このような欧米の変化を、北京は見逃さなかった。

 中国はあれほど激越だった米国批判を抑制し、異様な静けさである。あまつさえ、トランプ氏が批判した「中国製造2025」計画は口にも出さなくなった。「対米交渉のキーパーソン」の地位も、習氏の子飼いの部下、劉鶴副首相から取り上げる動きも表面化している。

 ■宮崎正弘(みやざき・まさひろ) 評論家、ジャーナリスト。1946年、金沢市生まれ。早大中退。「日本学生新聞」編集長、貿易会社社長を経て、論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評があり、同時に中国ウォッチャーの第一人者として健筆を振るう。著書に『アメリカの「反中」は本気だ!』(ビジネス社)、『習近平の死角』(扶桑社)など多数。

【私の論評】中国成敗を最優先課題にした決断力こそ企業経営者出身のトランプ氏の真骨頂(゚д゚)!

さて上の宮崎氏の見方、私は正しいものと思います。トランプ氏の戦略は、究極的に中国を追い込むことという見方は特に正しいと思います。

トランプ大統領あるいは、トランプ政権の当面の最大の敵は中国なのです。その理由は簡単です。経済力・軍事力など総合的に判断して、今後米国の敵になりそうなのは、中国だけです。それは以下のグラフをご覧いただければ、十分おわかりいただけるものと思います。

世界の名目GDPランキング(USD、2015年)


世界の名目GDPシェア(%、2015年)

米国は未だに軍事力でも、経済力でも世界一です。その次の経済力ではEUが続くわけですが、これは多くの国々の集合体です。意思決定にもかなり時間がかかりますし、軍事的にも多国籍軍ということですし、NATOを構成していることから米国の敵ではありません。

GDPではその次に中国が続くわけですが、この中国も多民族国家であり、本来中国は一つの国などではなく、各省が一つの国といっても良いくらいの人口を抱えています。その中国は近年、経済を伸ばし、軍事力も急速に伸ばしています。

経済的には、個人あたりのGDPでみれば、日米や、EUと比較しても未だに格段に低いですし、軍事的にみてもまだまだ発展途上にある段階です。とはいいながら、この多民族国家を中国共産党政権が統治をしています。現状のままであれば、20年後くらいには、確実に経済的にも、軍事的にも米国を脅かす存在になります。

日本は、米国の最大の同盟国であり、覇権国家として米国に挑戦しようなどということは、すくなくても今後20年間はないと見て良いです。

さて、次にロシアですが、ロシアについては日本では超大国などとみられていますが、実体はそうではありません。

ロシアは大量の核兵器を保有する核大国ではありますが、もはや経済大国ではありません。ロシアの名目国内総生産(GDP)は1兆5270億ドル(約171兆円)、世界12位にすぎないです。中国の約8分の1にとどまり、韓国さえ若干下回っています。

韓国といえば、韓国のGDPは東京都のそれと同程度です。ロシアのGDPはそれを若干下回るというのですから、どの程度の規模かお分かりになると思います。さらには、人口も1億4千万人であり、これは日本より2千万人多い程度であり、中国などとは比較の対象にもなりません。

輸出産業はといえば、石油と天然ガスなど1次産品が大半を占め、経済は長期低迷を続けています。

ロシアはかつてのソ連をイメージして、超大国の1つに数えられがちですが、実態は汚職と不況、格差拡大にのたうち回っている中進国なのです。そんな国だから、米国に真正面から対決して、世界の覇権を握ろうなどという気はありません。

そんなことよりも、国内の経済を立て直し、さらには台頭する隣国の中国への備えをどうするかというのが最大の課題でしょう。

それに最近は、プーチンのロシア国内での支持率は急速に落ちています。ロシア連邦議会の最大勢力を誇る与党・統一ロシアの人気は、プーチンあってのものでした。ところが、サッカー・ワールドカップ(W杯)の開幕直前に年金受給開始年齢を引き上げる改革案を発表し、急いでそれを可決しようとする議会の動きが伝わると、あらゆる世論調査で統一ロシアとプーチンに対する支持率は急降下しました。
全ロシア世論調査センター(WCIOM)によれば、最新のデータでは、政府の改革案を最も強く推した統一ロシアへの支持率は、37%にまで下落。2011年に記録した史上最低の34.4%に非常に近いです。
プーチン政権に対する支持率低下はさらに激しく、31.1%でした。別の国営調査機関や独立系のレベダ・センターによる調査も、同じような結果になっています。なぜこのようなことになるかといえば、当然のことながら、経済がうまくいっていないからです。
このようなことから、ロシアが世界の覇権国家を目指すというのは当面無理な話です。
では、北朝鮮はどうかといえば、核はあるものの、もともと米国の覇権に挑戦する能力がないことは明白です。そんなことより、米朝交渉は米中関係と連動しているとみるべきです。北朝鮮は米国が中国と本格的な貿易戦争に突入したのを見て、米国に対して強気に出ているようです。
しかし米国からみれば、北朝鮮問題は中国問題の従属関数であり、派生問題に過ぎないです。北朝鮮を片付けようと思えば、中国を本格的片付けなければならず、中国を片付けずに北朝鮮を片付けることはできないとみていることでしょう。
そうなると、米国にとって経済的・軍事的にも20年後あたりに脅威になるのは、中国のみということになります。

そうして、その中国は数年前から、強力な覇権国家目指していることを隠さず公にするようになりました。さらに、最近はっきりと覇権国家を目指すことを公言しました。

それについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると表明―【私の論評】中華思想に突き動かされる中国に先進国は振り回されるべきではない(゚д゚)!
ドナルド・トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部を引用します。
 中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩序を構築していくことを宣言した。この宣言は、米国のトランプ政権の「中国の野望阻止」の政策と正面衝突することになる。米中両国の理念の対立がついにグローバルな規模にまで高まり、明確な衝突の形をとってきたといえる。 
 習近平氏のこの宣言は、中国共産党機関紙の人民日報(6月24日付)で報道された。同報道によると、習近平氏は6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したという。
米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という指摘に対し、まさにその通りだと応じたのである。米国と中国はますます対立を険しくしてきた。
トランプ政権としては、こうした中国の野望を打ち砕くように動くのは当然といえば当然です。そうして、中国の態度は一言でいえば、思い上がりの身の丈知らずというところだと思います。

ここまで、野望を露わにすると、米国にとっても対中国戦略がかなりやりやすくなります。今から10年前あたりに、米国が中国に対峙して、本格的な貿易戦争などをはじめたら、中国はもとより他の多くの国々から反発をくらったことでしょう。しかし、今ならそのようなことはありません。

中国のこの宣言は20年はやすぎたと思います。先ほども述べたように、20年後なら中国は覇権国家を目指すことができた可能性もありますが、現在では全く無理であるにもかかわらず、覇権国家を目指す野望を明らかにしたため、その芽は完璧に米国によって摘み取られようとしているのです。20年後であれば、また違ったことになっていたかもしれません。

米国、特にトランプ政権にとっては、北朝鮮問題もクリミアの問題も、小さなものに過ぎず、本命は中国なのです。中国こそが、米国にとっての安全保証上、そうして経済上の最大の脅威なのです。この問題が解決すれば、他の問題などおのずと解決するか、解決するための労力も少なくてすみます。
そうして、本命の中国への対決へとトランプ政権はシフトしたとみるべきです。要するに、中国成敗を最優先としたのです。
ロシアと対峙し、EUと対峙し、北と対峙しつつ、中国と対峙するようなことをしていては、すべてが虻蜂取らずの結果に終わるのは目に見えています。トランプ以前の大統領は結局そのようなことをして、何も達成できなかったのだと思います。
中国成敗を最優先課題として、これに成功すれば、北朝鮮の問題など自ずから解決するでしょうし、ロシアも中国を成敗した世界の覇者米国に挑むことはないでしょう。そんなことをすれば、ロシアも成敗されてしまいかねません。他の国々も同様です。
トランプ大統領は実業家出身です。実業家は限られた資源の中で、優先順位をはっきりつけて、物事に取り組まない限り成功は覚束きません。米国は軍事的に強大で、富める国ではありますが、その米国でさえ、限界はあります。
経営学の大家ドラッカー氏は優先順位と劣後順位について以下のように述べています。
いかに単純化し組織化しても、なすべきことは利用しうる資源よりも多く残る。機会は実現のための手段よりも多い。したがって優先順位を決定しなければ何事も行えない。(『創造する経営者』)
誰にとっても優先順位の決定は難しくはありません。難しいのは劣後順位の決定。つまり、なすべきでないことの決定です。一度延期したものを復活させることは、いかにそれが望ましく見えても失敗というべきです。このことが劣後順位の決定をためらわせるのです。
優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。
 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 
 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。
 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。
 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。
容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る。(『経営者の条件』)
長い間経営者をしていると、ドラッカーの考え方に近づいていくというところがあります。トランプ氏も長い間経営者をしてきた経験から、多数の失敗や成功を積み重ね、ドラッカーの考え方に近い考え方になっているのではないかと思います。
トランプ大統領にとっては、米国を頂点とする戦後秩序に挑戦して、少なくと世界の半分を中国を頂点とする新秩序につくりかえようとする中国に対処することが最優先の課題なのだと思います。
中国の体制を変えるか、弱体化させることを最優先に考えており、他のロシアや北朝鮮の問題などはそれを達成する上での制約要因とみているのです。
米国の未来を考え、機会に焦点をあわせ、独自性を持ち、変革をもたらすには、中国を成敗することこそ最優先課題にしなければならないと決断したのです。
さすが、民間企業の経営者出身のトランプ大統領です。他の元々政治家出身の大統領とは違います。中国成敗が成功しなければ、トランプ大統領は未だ大きな成果をだしたとはいえないと思いますが、この成敗はいまのところ成功しそうな勢いです。
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