2023年12月15日金曜日

政権浮揚狙った首相に翻弄された自民税調、問われる存在感―【私の論評】 自民税調の衰退と政局の混乱の果にみえるもの

 政権浮揚狙った首相に翻弄された自民税調、問われる存在感

まとめ

  • 所得税と住民税の定額減税は、岸田政権の経済対策で打ち出され、金額などの重要事項は既に決まっていた。与党税調の議論は、所得制限を設けるかなど細部の調整に限られた。
  • ガソリン税の一部軽減については、首相の指示で自公と国民民主党の政調会長での議論が中心となり、自民税調は実質的に〝蚊帳の外〟だった。
  • 防衛費増額のための増税は、開始時期の議論が迷走。自民の宮沢洋一税調会長は「今年の年末に決めるべきだ」と強調していたが、自民のパーティー券問題が浮上し、開始時期の明示は見送られた。
  • かつての自民税調は絶大な影響力を持っていた。しかし、第2次安倍晋三政権以降は官邸と自民税調の力関係が逆転し、重要事項が税調の頭越しに決まるようになっていた。
 令和6年度税制改正大綱は、物価高対策や防衛費増額などの観点から、所得税と住民税の定額減税、トリガー条項の凍結解除、防衛増税などを盛り込んだ。

 その過程では、所得税減税やトリガー条項の凍結解除は、岸田政権の浮揚を狙う首相官邸の主導で決まり、自民、公明両党の税制調査会は調整に追われた。

 防衛増税の開始時期については、自民税調会長の宮沢洋一氏が今年の年末に決めるべきと強調していたが、自民党のパーティー券を巡る問題が浮上するなど、政権への増税批判なども重なり、開始時期の明示は見送られた。

宮沢税調会長 こちらが本当の増税メガネ?

 かつての自民税調は、時の首相でも踏み込めない別格の組織だったが、第2次安倍晋三政権以降は官邸と自民税調の力関係が逆転。重要事項が税調の頭越しに決まるようになっていた。

 岸田政権は支持率が低く、政権基盤も脆弱だが、そのことがかえって、政権浮揚を視野に入れた官邸主導の税財政政策につながったようだ。

 宮沢氏は「税調の役員になりたい人は多い」とアピールするが、ある自民税調の幹部は官邸中心で6年度の税制改正の方針が次々と決められた状況に「税調が軽んじられてはいないか」と危機感を吐露した。

 内閣支持率の低迷が続くなど、官邸側が期待した政権浮揚効果はこれまでのところ得られていない。政権への求心力が弱まる中、来年以降、自民税調がいかに税制改正の議論をリードしてかつてのような威信を取り戻せるかが注目される。

【私の論評】 自民税調の衰退と政局の混乱の果にみえるもの

まとめ
  • 自民税調は、かつて与党税制の議論を独占していたが、第2次安倍政権以降、官邸との力関係が逆転し、影響力が低下している。
  • 岸田政権は、所得税と住民税の定額減税を打ち出したが、この決定は、自民税調の意向を反映したものではなく、官邸主導で行われた。
  • 高橋洋一氏は、岸田首相の減税方針は、財務省の思惑とは相反するものであり、財務省は倒閣運動を始めた可能性かある。
  • 現在の政局は、財務省の倒閣運動によるものであり、特に安倍派に対するパーティー券問題にの背後に、その可能性が高い。
  • 今後、減税などの政策は、官邸主導で行われるようになる可能性がある。現在自民党税調が機能しないのは、その予兆であると思われる

まず、はっきりさせたいのは自民税調がかつのような威信を取り戻す必要性など全くないことです。私自身は、実体経済におかまいなしに、増税ばかりを提言してきた自民税調など、解体すべきと思います。

これについては、以前このブログに掲載した記事をご覧いただければご理解いただけるものと思います。その記事のURLを以下に掲載します。
民間企業なら絶対許されない…政治家が繰り返す「減税の法改正は時間がかかる」の大嘘「本当は能力がないだけ」―【私の論評】国民を苦しめる与党税調の独占!自民党は国民の声を反映した迅速な減税を!

増税メガネをかけると誰もが増税したくなるらしい AI生成画像

詳細は、この記事もしくは、この記事の元記事をご覧いただくものとして、この元記事のさらに要約したものを以下に掲載します。 

岸田政権は経済対策の一環として所得税と住民税の定額減税を提案し、金額などの大まかな内容は決定された。与党税調は細部の調整に留まり、所得制限などの議論は限られた。 
ガソリン税の一部軽減については、自公と国民民主党の政調会長が中心となり、自民税調は実質的に排除された。防衛費増額のための増税については開始時期についての意見が分かれ、宮沢洋一税調会長は年末までの決定を主張したが、自民のパーティー券問題が浮上し、具体的な開始時期は見送られた。 
かつて影響力を持っていた自民税調は、第2次安倍政権以降官邸との力関係が逆転し、重要な決定事項は税調の意向を無視して決められるようになっていた。

 この記事の【私の論評】の要約したものを以下に掲載します。

税制改正は与党税調で要望が審議され、その結果を基に翌年の通常国会で法案が提出される。しかし、法的には通常国会や臨時国会でしか法案を提出できないという制約はない。 
多くの先進国では、複数回の機会があり、米国や英国では大統領や財務大臣が法案を提出できる。このようなルールが民間企業にあった場合、経営効率の低下が懸念される。 
日本では与党税調に権力が集中しており、渡瀬氏はこの点を批判している。税制改正のための法案を国会で迅速に成立させられるようにすることは、国民の声を反映し、政治の透明性と効率性向上につながるとして、自民党はこのプロセス改革を実施すべきだと提言している。
高橋洋一氏は、岸田首相が2023年10月に所得税の減税を打ち出したことを「岸田首相が自我に目覚めた」と評しました。これは、岸田首相がこれまでは財務省の意見に従って財政再建を優先し、減税に消極的だったことを踏まえた指摘です。


高橋氏は、岸田首相の減税方針は、財務省の思惑とは相反するものであり、財務省は減税をしない総理を擁立するために倒閣運動を始めた可能性を指摘しています。

具体的には、高橋氏は以下の点を指摘しています。
  • 財務省は、財政再建のためには増税が必要だと主張しており、減税は財政を悪化させると考えている。
  • 岸田首相の減税方針は、財務省の権威を失墜させる可能性がある。
  • 財務省は、自民党内の増税派と結びつき、倒閣運動を進めている可能性がある。
高橋氏の指摘は、財務省が岸田首相の減税方針に不満を持っていることを示唆するものであり、注目を集めました。

現在の政局は、財務省の倒閣運動によるものであることを示唆しており、特に安倍派に対するパーティー券問題にの背後は、その可能性が高いと指摘しています。

その理由として、高橋氏は以下の点を挙げています。

  • パーティー券問題は、安倍派の資金集めに関わる問題であり、財務省は安倍派と対立関係にある。
  • パーティー券問題は、岸田首相の支持率を低下させる材料として利用することができる。
  • 財務省は、安倍派の弱体化を図ることで、岸田首相を倒しやすくなる。
高橋氏の指摘は、財務省が財政政策を巡って対立する安倍派を弱体化させることで、岸田首相の退陣を狙っている可能性を示唆するものであり、注目を集めました。

いずれにしても、パーティー券問題は、岸田政権の支持率を低下させるとともに、政局の不安定化を招く可能性があり、今後の政局に大きな影響を与える可能性があります。

具体的には、以下のようなシナリオが考えられます。
  • 安倍派の弱体化が進み、岸田首相の支持率がさらに低下した場合、自民党内で総裁選挙が行われる可能性が高まります。
  • 総裁選挙で岸田首相が敗北した場合、財務省が支持する候補が総裁に就任し、財務省主導の政治が復活する可能性があります。
ただし、これらのシナリオはあくまでも可能性であり、今後の政局の展開を予測することは困難です。

岸田首相が、安倍派からの提言でもあった減税を言い出さなければ、財務省は倒閣運動に走らず、政権支持率もある程度維持できたでしょう。

そうして、検察も岸田政権の支持率の低下で「パーティー疑惑」に目をつけはじめたといえます。これは、安倍派の狙い撃ちになっているので、岸田派にとってはダメージはほとんどなく。野党が脆弱であり、自民党内力学で政局が動いており、岸田派、麻生派、茂木派も、実質的にはダメージはあまりありません。

財務省としても、安倍・菅政権で増税せずに100兆円の補正予算を組むなど、財務省の意向に逆らい続ける等ことをされ続けたので、検察の安倍派叩きは好ましいものでしょう。

ただ、こうした大掛かりの政局は、官僚機構だけで仕掛けられるものでありません。麻生派としては、財務省や検察が安倍派、二階派を叩くのは好都合です。また、大宏池会構想があるので、岸田首相を下ろしても大宏池会の中、例えば麻生派から首相が出ればいい、と思っているでしょう。これが、官僚機構の背景にある「自民党内派閥力学」です。

安倍派6人の幹部

岸田文雄首相は14日、政治資金問題で疑惑が浮上した自民党安倍派(清和政策研究会)所属の閣僚4人を入れ替え、政権の要である官房長官に林芳正前外務相を任命した。4ポストとも安倍派以外の閣僚経験者を後任に据えることで、党と内閣への信頼回復を目指す。

ただ、岸田政権は既にレームダック化しており、早ければ来年度政府予算を決定する年内、遅くとも来年度予算成立か来春の渡米までしかもたないでしょう。

安倍派もこのまま排除されるだけではないでしょう、激しい抵抗が水面下で行われるのは必至です。

しかし、現状だけをみると、岸田首相の自民税調無視の行動と連日の裏金疑惑により税調は機能せず、改革が行われしまったかのような状況になっています。これは、財務省にとっては、良い動きとはいえません。

さらに安倍派の抵抗が、財務省の予期せぬ結果招く可能性もあるかもしれません。そうして、いわゆる裏金疑惑は、減税のきっかけを生み出すかもしれません。その1つは「ガソリン税」です。

ちなみに、現状は補助金政策を行っていますが、これは裏金作りを助長し、しかも約6兆円の財政負担がかかっています。一方で直接ガソリン税を値下げすれば、国民にとってありがたいだけでなく、財政負担も約1.5兆円にまで抑えられ可能性があります。ガソリン税だけではなく、そもそも補助金政策は裏金作りを助長するものです。減税はその対象者に直接及ぶものであり、他者が介在しません。だから、裏金作りなどを助長することはありません。

もう1つの減税チャンスは、「消費税」です。消費税が下がれば、政府に対する国民の信頼は少なからず回復します、このブログでも指摘してきたように数年間減税したとしても、財源には全く問題がありません。

今後このような改革が行われる可能性は否定できません。なぜなら、自民党自体は、岸田政権がもたなくなることは許容するかもしれませんが、自民党政権が存立の危機に直面すれば、存立を危うくする財務省の意向を聴いている余裕などなくなるからです。

現在の自民党税調が機能していない状況は、私にはその予兆ともみてとれます。

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