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岡崎研究所
- 米統合参謀本部議長のブラウン大将は、東京で講演し、中国が台湾を武力侵略する意図に確信はないと述べた。
- ブラウン大将は、中国が台湾に軍を送り込む沿岸上陸の難しさを指摘し、米国とその同盟国は、台湾への「軍事的、外交的、経済的」圧力を強めようとする習近平の他の手段に注意を払う必要があると述べた。
- この発言は、バイデン政権成立の時期に、台湾をめぐる戦いの可能性について安全保障当局者が発した警告とは対照的である。
- 米中首脳会談がサンフランシスコでのAPEC首脳会談の機会に行われることを受けて、米国は対中評価で多少の中国への配慮を効かせたトーンをセットしているとの見方がある。
- 日本は、安全保障の力量を早急に手当てする必要がある。
この発言は、バイデン政権成立の時期に、台湾をめぐる戦いの可能性について安全保障当局者が発した警告とは対照的である。
背景
米中首脳会談がサンフランシスコでのAPEC首脳会談の機会に行われることを受けて、米国は対中評価で多少の中国への配慮を効かせたトーンをセットしているとの見方がある。
他方、中国の前国防相やロケット部隊幹部の失踪や自殺との関連で、その中のいずれかから機微情報が米国側に遺漏したのではないかとの推測から、中国軍の台湾侵攻が軍事的にし辛くなっているのかもしれないという見方もある。
今後の展望
米中首脳会談後の両軍間の対話の成否、とりわけ中国軍の動向に注目が集まる。日本は、安全保障の力量を早急に手当てする必要がある。
考察
ブラウン大将の発言は、中国の台湾侵略の意図について言及したものの、能力については触れていない。脅威は意図と能力について測られると言うが、意図は一夜にして変わる可能性はあるが、能力はそうは行かない。中国が台湾を併合する能力は急激に高まっているのであり、これについて米当局者の見方に相違はないであろう。
また、米国の軍のトップの安全保障に対する姿勢は、安全保障は常に最悪、想定外を想定して準備しなければならないという原則に沿っていない。たとえ「差し迫っていない」としても、万が一の緊急事態に対処できるようにしておく、強い姿勢を見せておくのが抑止力につながる。2021年のアフガン、22年のウクライナと、米国の発言と行動の弱さから教訓を学ぶべきであろう。
- 中国は、台湾を武力侵攻する意図は確信できない。
- 中国は、軍事的抑止力、経済的統合、政治的圧力、文化的統合の4つの手段を組み合わせた多面的な戦略で台湾統一を目指す。
- 中国は、台湾の沿岸侵攻は困難と認識しており、他の手段を優先する可能性もある。
- 米国やその同盟国は、中国の多面的な戦略を認識し、それに対処する準備をすべきである。
米統合参謀本部議長のブラウン将軍 |
上の記事にあるように、米統合参謀本部議長のブラウン将軍は、東京で講演し、中国が台湾を武力侵略する意図に確信はないと述べましたが、この発言は、単に中国が台湾に武力侵攻しないということを意味するものではなく、中国の台湾統一戦略の理解と一致するものといえます。
習近平の側近である中国国防大学教授劉明福は、台湾統一のために「多方面からの」アプローチを提唱しています。このアプローチは、軍事的抑止力と経済的統合、政治的圧力、そして文化的・歴史的物語の共有促進を組み合わせたものです。
ブラウン将軍が強調する「軍事、外交、経済」の圧力は、この多面的な戦略を反映しているものです。これは、中国が軍事力だけに頼るのではなく、目標を達成するために複数の戦術の組み合わせを利用する可能性があることを示唆しています。
また、ブラウン将軍が指摘した人民解放軍による台湾の沿岸侵攻の難しさは、この解釈をさらに裏付けています。中国が直接攻撃を仕掛ける上で大きな困難に直面するのであれば、他の選択肢を模索するのは理にかなっています。
ブラウン将軍は、米国やその同盟国が、人民解放軍の軍事侵攻だけを想定して、他の要素を軽視すれば、それこそ大きな危機を招きかねないことを示唆しているとみられます。
劉明福国防大学教授 |
劉明福の台湾統一戦略
劉明福は、強いナショナリストとリアリストの視点を堅持しています。彼は中国を、世界の舞台で正当な地位を取り戻そうとしている台頭する大国と見なしています。彼の世界観は、国家の若返り、中国の例外主義、西側の価値観や意図に対する懐疑を強調しています。彼は、中国の利益を脅かすいかなる脅威をも抑止し、打ち負かすことのできる強力な軍隊を信じています。
劉明福の人民解放軍に対するビジョンは、3つの重要な柱を中心に据えています。
- 近代化:人工知能、極超音速ミサイル、宇宙ベースの能力など、先進的な兵器や技術の開発を加速させることを提唱
- 改革:効率性と統合作戦の有効性を向上させるため、PLAの組織再編と合理化を強調
- 軍民融合:軍事と民間のリソースの統合を推進し、中国の技術力と産業力を軍事的な優位性のために活用する。
劉明峰は台湾との統一を中国指導部が直面する最も重要な課題と考えています。彼は以下のような多方面からのアプローチを提唱しています。
- 軍事的抑止力:圧倒的な軍事的優位を築き、台湾の独立宣言を阻止する
- 経済統合:経済的な結びつきと相互依存関係を深め、より緊密な協力を促す
- 政治的圧力:国際外交や世論を利用し、台湾の現状の代償を引き上げる
- 統一の物語:文化的・歴史的アイデンティティの共有を促進し、海峡両岸の中国人の一体感を醸成する
劉明福の戦略は、中国の戦略的方向性を形成する上で極めて重要な役割を果たしています。彼の世界観と人民解放軍に関するビジョンは、アジア太平洋地域と世界全体の未来に大きな影響を与えるでしょう。最近彼の著書が日本でも翻訳出版されています(写真下)。
しかし、状況は複雑かつ流動的であり、さまざまな要因が中国の最終的な行動に影響を及ぼしていることに注意することが重要です。劉明福の戦略は貴重な示唆を与えてくれますが、それは決定的な青写真ではなく、唯一可能なアプローチと見なすべきではないでしょう。動向を先取りし、効果的な対応を確保するためには、継続的な監視と分析が不可欠となるでしょう。
さらに、日本や米国を含む国際社会は、この進展する状況を踏まえ、自らの戦略と対応を慎重に検討しなければならないです。協力、協調的な努力、そして中国の意図に対する微妙な理解が、今後の課題と機会を乗り切る上で不可欠となるでしょう。
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