2024年3月21日木曜日

”イランの術中にはまる米国とイスラエル”米国で「中東撤退論」が出た背景とイランの思惑と限界―【私の論評】イランの中東覇権戦略と日本の対応策 - イスラム過激派支援の実態と危機

”イランの術中にはまる米国とイスラエル”米国で「中東撤退論」が出た背景とイランの思惑と限界

まとめ
  • イランは代理勢力を使って、米国をアラブ世界から追放し、イスラエルを孤立化させ、中東での覇権を獲得しようとしている
  • イランの目的は、イスラム革命の思想を輸出し、中東での地域覇権を確立すること、さらにはユーラシア大陸の勢力と渡り合い、最終的に米国への挑戦勢力となること
  • イスラエルと米国は、空爆だけでなく、イランと代理勢力への経済制裁強化や要人への直接攻撃など、より強硬な対応が必要
  • バイデン政権の中東撤退の中で、イランはその機会を活用して中東での影響力拡大を狙っている
  • フーシ派による紅海での船舶攻撃など、イランの動きで中東情勢の不安定化が危惧される

米国とイランの国旗 AI生成画像

 元米海軍副次官でヨークタウン研究所理事長のセス・クロプシーが、2月27日付けウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘The U.S. and Israel Play Into Iran’s Hands’で述べたところによれば、最近のイスラエルによるガザ地区への軍事作戦の背後には、イランが中東地域での覇権を獲得しようとする野心的な狙いがあった。

 イランは長年にわたり、ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦機構、ヒズボラなどの過激組織を経済的・軍事的に支援してきた。これらの組織は「抵抗の枢軸」と呼ばれ、イランの革命防衛隊の監督下にあるイランの代理勢力のネットワークを形成している。イランはこの代理勢力を動員し、米国とその同盟国イスラエルを中東からおしのけ、イランの影響力下に置こうとしている。

 その根本的な目的は、イスラム革命の思想を中東全域に輸出し、この地域での覇権を確立することにある。さらにはユーラシア大陸に勢力範囲を広げ、ロシア、中国、インドといった勢力と渡り合い、最終的には米国への政治・経済・軍事面での挑戦勢力となることをイランは目指している。このようにイランは、単なる宗派対立を超えた地政学的な戦略を追求しているのである。

 そのため、イスラエルと米国はこのイランの脅威を看過してはならない。代理勢力への一時的で限定的な空爆では不十分であり、イラン国内の指導者や革命防衛隊の中枢への直接攻撃、経済制裁の大幅強化、原油価格操作などによる経済的措置が必要不可欠である。現状では米国がイランの巧妙な戦略に付け込まれ、的確な対応を怠っている。

 他方、バイデン政権下で中東地域からの撤退が着実に進行する中、イランはこの窓口を狙ってさらなる中東進出を企図していると見られる。しかし、米国は中東の主要産油国の安全保障にイスラエルを位置付け、連携を深める構想を有しているため、イランとイスラエルの対立はさらに先鋭化する恐れが大きい。また、イエメンに拠点を置くイランの代理勢力フーシ派による紅海での船舶攻撃が継続され、同海域の航行の安全が脅かされていることからも、イランの動きによる中東情勢の更なる不安定化が危惧されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】イランの中東覇権戦略と日本の対応策 - イスラム過激派支援の実態と危機

まとめ
  • イランは中東地域でイスラム革命思想を輸出し、覇権を確立することを目指している
  • さらにその影響力をユーラシア大陸に広げ、米国への挑戦勢力となることが最終目標
  • そのため中東全域の過激組織(ハマス、ヒズボラ等)への長年の支援を行い、代理軍事組織ネットワークを構築
  • イラク、シリア、イエメン、アフガニスタンなどでも同様に過激組織支援を行い、影響力拡大を企図
  • このイランの地政学的覇権追求に対し、日本は危機意識を持ち、多角的な強硬対応が必要不可欠

イラン革命防衛隊

上の記事にもある、イランが追求している地政学的戦略とは、イスラム革命の思想の輸出を通じて、まず中東地域での覇権を確立することです。さらにその影響力をユーラシア大陸に広げ、ロシア、中国、インドといった勢力と渡り合い、最終的には米国への挑戦勢力となることを目指しています。

この地政学的戦略を裏付ける具体的な事実は以下の通りです。
  1. イランは中東全域に散らばる過激組織ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦機構、ヒズボラなどを長年支援してきました。これらを「抵抗の枢軸」と位置づけ、自らの代理軍事組織のネットワークとして機能させています。
  2. 特にレバノンのシーア派過激組織ヒズボラへは1980年代から年間数億ドル相当の資金援助と最新武器の提供を行い、中東における最大の代理軍事組織に育成しました。
  3. イラクでは革命防衛隊が複数のシーア派民兵組織を組織し、訓練・武器供与を行っており、米軍撤退後のイラク政権への影響力維持を企図しています。
  4. シリア内戦ではアサド政権に人員と資金を投入し、シリアをイランの影響圏に留める狙いがあります。
  5. イエメンのフーシ派へは地対空ミサイル、ドローンの供与が確認されており、紅海に面したイエメンの戦略的価値を重視しています。
  6. アフガニスタンでも、イラン人エスニシティ(民族、民族集団)を持つハザラ人組織への支援を継続し、同国でのイランの影響力維持を狙っている。
このように、イランは特定の宗派に囚われず、中東から中央アジアに至る広範囲で、さまざまな過激組織への支援を行い、米国に対抗する影響圏の拡大を地政学的に企図している実態が見て取れます。

こうした、イランに対処するため、日本はどうすべきかを以下に述べます。

日本の自衛隊員

こうした、イランに対処するため、日本はどうすべきかを以下に述べます。

イランの動機と手法の冷徹な分析 
イランの宗教的レトリックの奥にある現実的な権力追求の動機を看破することが重要です。具体的には、イランによるシーア派過激組織支援の実態を徹底的に分析する必要があります。例えばイラクのシーア派民兵組織への資金・武器の流れ、レバノンのヒズボラへの軍事的バックアップなど、イランの代理勢力活用の実態を的確に捉えるべきです。
反イラン勢力への積極的な支援 
日本はイランの中東支配に反対するイスラエル、サウジアラビアなどの国々との協力関係を一層緊密化する必要があります。例えば、サウジに対する防衛装備の供与、イスラエルとの軍事技術交流の拡大、両国との情報共有の強化などが考えられます。
価値観対決への文化的自信 
日本は、民主主義や自由の理念を日本的的価値観から正当化し、それをイランのイデオロギーに対する宣伝で活用すべきです。具体的には、中東各地での知日層の育成や、日本の価値観を発信するための放送媒体整備なども有効でしょう。
反テロ体制の徹底強化 
イスラム過激派へ の譲歩は一切認められません。日本は国内外のテロリストへの監視能力を高め、有事の際の武力行使オプションを確保する必要があります。具体的には情報機関の人的・技術的強化、領空侵犯時の武器使用容認、対テロ部隊の実働能力の向上などが求められます。
イランの経済的な痛手
日本はイランへの経済制裁を一層強化し、原油価格の操作やイラン金融機関の締め上げなどを通じ、イランの経済的痛手を狙うべきです。
このように、日本にはイランの現実主義的な動機分析、反イラン勢力支援、価値観宣伝、徹底した反テロ体制強化、経済的圧力の行使といった多角的アプローチがイランの覇権主義に対して求められることになります。

イランの地政学的な覇権追求に対し、日本政府やメディアの一部には危機意識の希薄さや寛容な姿勢さえ見受けられる有り様は、極めて憂慮すべき状況です。

イランが中東での影響力を増大させ、その野心を実現に向けさせれば、日本は多方面で深刻な被害を被るリスクがあります。中東情勢の不安定化により、日本のエネルギー安全保障が脅かされかねません。

さらに、イランが支援する過激組織によるテロの脅威が高まり、邦人や企業の安全が危険にさらされます。加えて、ホルムズ海峡が封鎖されれば、日本の命綱である海上交通路が遮断され、経済に壊滅的打撃となるでしょう。

ホルムズ海峡(矢印)

一方、中東に勢力基盤を得たイランは、次にアフガニスタンやパキスタンなど、日本の対アジア外交や経済活動にも影響を及ぼしかねません。さらに、自由・民主主義と対立するイランの価値観の広がりにより、日本は国際社会から孤立を余儀なくされる恐れもあります。

このように、イランの覇権主義を放置すれば、日本は安全保障と経済の両面で極めて重大な脅威にさらされることになり、看過できない重大課題といえます。

日本政府は、一部のマスコミや自らの姿勢の問題点を認識し、危機感を新たにして、包括的な対イラン強硬姿勢への転換が求められています。経済制裁の実行、治安体制強化、中東同盟国との連携推進など、イランの覇権阻止に向けた総力戦が不可欠な段階にあります。

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