2024年3月23日土曜日

モスクワ郊外コンサートホール銃撃 60人以上死亡 テロ攻撃か―【私の論評】モスクワ テロ事件が意味するプーチン体制の危機的状況

モスクワ郊外コンサートホール銃撃 60人以上死亡 テロ攻撃か

まとめ
  • ロシア・モスクワ郊外の大規模コンサートホールで22日夜に銃撃テロ事件が発生し、これまでに60人以上が死亡、115人以上がけがを負った。ISの関連組織が犯行声明を出した。
  • 事件の詳細は、コンサート開始前に複数の人物が建物に侵入し銃撃を開始、最大6200人が館内にいた可能性があり、目撃者は「多くの人が死傷した」と証言した。
  • 1週間前、在ロシア米大使館がモスクワでの大規模集会に対するテロの恐れを注意喚起していた。ISはシリア・イラクを支配し各地でテロを重ねてきた過激組織。
  • ロシアでは1990年代以降、モスクワや南部で同様のテロ事件が多発し、過去には爆破や人質事件などで数百人が犠牲となっていた。
  • ウクライナ側とロシア人義勇兵組織は関与を否定、米政府も「ウクライナの関与を示す情報はない」と述べた。
襲撃されたコンサートホール X投稿より

 22日夜、ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで銃撃が発生し、建物に火災が起きた深刻な事件となった。ロシア当局によると、これまでに60人以上が死亡し、115人以上がけがを負っている。

 過激派組織IS(イスラミック・ステート)と関係の深い「アマーク通信」は、ISの戦闘員がキリスト教徒の群衆を襲撃し、数百人に被害を与えたと主張する犯行声明を出した。事件の経緯として、コンサートが始まる前に複数の人物が建物に侵入し、銃撃を開始したという。

 当時、最大で6200人がホール内にいた可能性があり、目撃者は「多くの人が死傷した」と証言している。注目すべきは、在ロシア米大使館がこの事件の1週間前に、過激派がモスクワの大規模集会を標的にする計画があるとの情報を受け、注意を呼びかけていたことである。

 ISはかつて、シリアとイラクにまたがる広大な地域を支配下に置き、各地でテロを重ねてきた。ロシアでも1990年代以降、モスクワや南部地域で同様のテロ事件が多発しており、過去には爆破や人質事件、自爆テロなどで数百人の犠牲者が出ている。

 ソチオリンピックの前年にもテロが発生するなど、政府の警戒が続いていた。一方、ウクライナ側とロシア人義勇兵組織は今回の事件への関与を否定した。米政府も「ウクライナの関与を示す情報はない」と述べている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】モスクワ テロ事件が意味するプーチン体制の危機的状況

まとめ
  • 首都近郊でのテロは、治安維持の失敗を示し、プーチン体制の権威と統治力の低下を物語る。
  • 一般市民の不安感が高まれば、反体制運動が活性化するリスクがある。
  • ロシアの対外的信頼性の低下は避けられず、国際社会からの締め付けを招きかねない。
  • プーチン体制が適切な対策を取れなければ、体制不安定化につながる深刻な事態となる。
  • プーチン政権にとって、求心力の早期回復が最重要課題となった。


今回の深刻なテロ事件は、プーチン体制の求心力の低下を示す重大な徴候と考えられます。首都近郊で無差別テロが発生したことは、治安維持の失敗を露呈し、権威主義体制の弱体化を物語っています。

一般市民の間に不安が広がれば、反体制運動が活性化するリスクも高まります。さらに、国際社会からのプーチン政権への信頼感の低下も避けられないでしょう。適切な対策が取られなければ、体制不安定化にもつながりかねない深刻な事態と言えます。プーチン政権にとって、求心力回復が喫緊の課題となったといえます。

上の記事にもあるように、在ロシア米国大使館は、モスクワでの銃撃事件の1週間前、過激派がモスクワの大規模集会を標的にする計画があるとの情報を受け、注意を呼びかけていました。しかし、カービー大統領補佐官は、この注意情報は今回の特定の攻撃とは関係なかったと述べました。

カービー補佐官はさらに、今回の攻撃について事前に情報があったことは承知していないと説明しました。また、ウクライナやウクライナ人の関与を示す情報はないと述べた。一方で、犠牲者に対する哀悼の意を示しました。

カービー補佐官の発言を、そのまま受け取れば、他にも大規模なテロがある可能性もあります。

在ロシア米大使館が広範なテロの可能性を危惧して注意を促していたこと、過去のロシアにおける大規模テロの歴史、ISなどの過激組織の残存能力、ウクライナ情勢をめぐる地政学的緊張から、今回に限らずロシアで追加の大規模テロが起こりうる可能性は否定しきれません。

カービー補佐官

今回のモスクワ郊外の銃撃事件の地政学的な意味合いについて、より詳しく解説します。

ロシア国内の治安と統治への脅威 
この事件はロシアの首都圏で発生した重大な無差別テロであり、プーチン政権の治安維持能力に大きな疑問を投げかけています。テロリストが首都に近接した場所で自在に行動できたことは、治安当局の重大な失態を示しています。このことは、国内におけるプーチン体制の統治力の低下を物語り、権威主義体制の根幹を揺るがす可能性があります。
過激組織の残存能力とグローバルな脅威
ISなどの過激組織が実行犯だったとされれば、中東から撤退した後も、彼らがグローバルにテロ能力を維持していることが改めて示されます。ロシアは標的化できる的であり続けているということです。これは単にロシアのみならず、世界各国の安全保障上の重大な脅威となります。
ウクライナ情勢への影響 
ウクライナ側は関与を否定していますが、ロシア国内でのこのようなテロは、ウクライナ戦線の泥沼化と相まって、プーチン政権に対する重大な打撃となります。国内での反発を招き、対ウクライナ政策の見直しを迫られる可能性があります。ウクライナ側の優位に働く可能性もあります。
中東情勢への影響 
もしISなどが実行犯だった場合、中東の過激組織の動きが改めてクローズアップされることになります。シリア、アフガニスタンなどの情勢が有事の際に国際テロの前線基地となるリスクが高まります。ロシアは中東に軍事的に介入しているだけに、この地域への影響は大きくなります。
プーチンとバイデン

米露対立と情報戦の影響 
可能性としては低いですが、米国が事前に何らかの情報を把握していたことから、米露の対立構図の中で、米側がテロ組織を操ってロシアに打撃を与えた可能性も完全には排除できません。 
冷戦時代に米国がアフガンのムジャヒディーンを支援した前例があり、現在の米露対立が極端な事態に発展すれば通常を越えた対応がなされる可能性や、米国内の過激派勢力が政府の関与なしにロシアを攻撃する可能性があることから、この問題における米国の関与を完全に否定することはできません。
一方、ロシア政府関与の可能性も低いものの否定しきれいないということもいえます。体制の求心力を維持したり、ウクライナ情勢を活用して国を戦時体制に持ち込んだり、過激派を味方につけるため、ロシア政府がテロを自作自演した可能性は完全には排除できないものの、これらはあくまで憶測に過ぎず、一般市民を巻き添えにするリスクは極めて高いため、現状ではロシア政府関与の可能性は低いと考えられます。 
しかし、今後の客観的な情報次第では、権力側の介入の有無が判明する可能性は否定できません。
少なくとも、世界各国の情報筋はその可能性について認識しているでしょう。
また、ロシア側はこの事件を米国の陰謀であるかのように印象操作、米国側もロシアの陰謀であるかのように印象操作する可能性も考えられ、両国の対立が一層激化する恐れがあります。
このように、今回の事件は単なる一過性のテロ事件ではなく、ロシア国内のみならず、ウクライナ情勢、米露の対立、中東の過激組織の動きなど、広範な地政学的なリスクを孕んでいます。

プーチン体制の求心力の低下は、さまざまな地政学的火種を噴き出す可能性があり、国際情勢に大きな影響を及ぼすでしょう。

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