日銀 |
日銀の公表文によると、中村氏は「業績回復が遅れている中小企業の賃上げ余力が高まる蓋然(がいぜん)性を確認するまで継続すべきだ」と主張。野口氏は「賃金と物価の好循環を慎重に見極めるとともに、金融環境に不連続な変化をもたらすリスクを避ける観点」から、長短金利操作とマイナス金利の同時撤廃に反対した。
中村氏は日立製作所出身。野口氏は積極緩和論者「リフレ派」として知られる。
【私の論評】金融政策の効果発現に時間はかかる - 日本経済の過ちと教訓
まとめ
- 金融政策の効果発現には通常1年半~2年の時間遅れがある
- 誤った金融政策の悪影響も同様に時間を経てから現れる
- マスコミは金融政策の影響が出る頃には別の問題に注目が移すことになり、過去もそうであったように本質が見失われる可能性がある。
- 日本は過去、この時間の遅れを考慮せずに政策判断を誤り続けてきた。だからこそ、日本人の賃金は過去30年にもわたりあがることがなかった。
- 金融・財政出動すべきときに、構造改革や生産性の問題にすり変えられ、長い間間違いを繰り返してきた。これを繰り返すべきではない。
その主張の要旨を以下に再掲します。
まずは、先進国の比較の表を以下に掲載します。
2020年〜直近までの先進国のコアコアCPI
参考資料:
- 国際通貨基金 (IMF) World Economic Outlook database: https://www.imf.org/en/Publications/WEO
- OECD Economic Outlook, Interim Report, March 2024: https://www.oecd.org/economic-outlook/
上の表からは、日本のコアコアCPIの伸び率が2020年から2024年予想まで、ほとんどの年でアメリカやユーロ圏、カナダなどの主要国に比べて大幅に低い水準にあることが分かります。確かに現状では物価高ではあるのですが、それは海外から輸入するエネルギーや資源が値上がりしてそれが物価をおしあげているのであり、それを除いた日本国内では物価は低水準にあるといえます。
これを見誤るべきではありません。正しい政策は、金融政策においては、金融緩和を継続することです。財政としては、輸入企業などを支援しながら、金融緩和を継続というのが、当面の正しいあり方です。
以下に日米コアコアCPI比較と米国の金利政策を併記した表を掲載します。
日米の四半期毎の失業率とコアコアCPIの推移 (前年比)
情報源失業率
- 米国: 米国労働統計局 (BLS) - 雇用統計
- 日本: 総務省統計局 - 労働力調査 ([無効な URL を削除しました])
コアコアCPI
- 米国: 米国労働統計局 (BLS) - 消費者物価指数
- 日本: 総務省統計局 - 家計調査
その他
- 国際通貨基金 (IMF)
2024年度1期目は予測値。
物価上昇率が低水準 2023年1-2月の消費者物価指数は3.8%と高水準ですが、食料品とエネルギーを除くコア指数は上でも述べたように低水準です。日銀の物価目標2%に届いていません。米国が、2019年に利下げを行ったのは、コロナ禍のため、失業率が上がることが予め予想されたからだとみられます。失業率は典型的な遅行指標であり、現在の失業率の数値は、数ヶ月から1年前の政策に結果とみなされます。逆にいえば、現在の政策は数ヶ月から1年後に現れるということになります。米国の失業率は、2020年第二期には、14.7%となりましたが、2022年第一期で3.8%ととなり、安定しました。コアコアCPIが4%台から、6%台になった2022年の第一期ではじめて利上げに踏み切っています。
日本の失業率が米国より若干低めということを考慮しても、2023年4期目で、失業率が2.1%、コアコアCPIが0.5%の日本が、近日中にマイナス金利解除(実質上の利上げ)などする必要性がないことは明らかです。
賃金上昇率が低迷 2022年の実質賃金は0.8%減少しています。企業は人件費抑制を続けており、賃金の伸び悩みが物価上昇を押し上げる前に解消される可能性は低いでしょう。
円安による物価押し上げ圧力 円安は輸入品価格を押し上げ、家計や企業のコストプッシュ圧力になっています。しかし、これは一時的な要因であり、根本的な需給ギャップを反映したものではありません。
成長減速リスク 世界経済の減速が輸出や設備投資を抑え、国内需要の下押し要因になるリスクがあります。金融引き締めがこのリスクをさらに高める可能性があります。
以上から、日本経済にはデフレ脱却や2%の物価安定目標達成に向けて、金融緩和政策を継続する必要性が依然としてあると考えられます。マイナス金利解除は時期尚早です。
一方で、政府による不適切な財政出動や金融当局の過剰な金融引き締めがあれば、この勢いすら失われかねません。昨年の所得減税の遅れや、能登半島地震への対応で補正予算を組まずに予備費で対応するという手落ち、そして最近の日銀のマイナス金利解除は、そうした景気下押しリスクの具体例と言えるでしょう。
特に金利引き上げについては、「Behind the Curve」と呼ばれるインフレ亢進に後れを取って利上げをするとのが通常の方法ですが、日銀は早々と利上げする過ちを冒している可能性があります。銀行などの金融機関は金利引き上げを歓迎するでしょうが、現下の低消費・低賃金環境下では景気減速を招きかねません。
日銀植田総裁 |
日銀の動きには、金融緩和政策からの早期解除を求める財界やマスコミ、財務省などの影響に加え、民間にいたときからマイナス金利の弊害を主張していた植田総裁の個人的思い込み等で国民経済を犠牲にするべきではありません。
デフレ脱却への道のりは平坦ではありませんが、政府・日銀には着実な進展を妨げるような政策決定は慎むべきです。専門家の力強い批判を念頭に置き、機動的な対応を期待したいところです。
金融政策の実体経済への影響が現れるまでには、おおむね1年半から2年程度の時間を要します。例えば利上げの場合、住宅ローン金利の上昇から不動産市況の冷え込み、雇用・所得環境の悪化へと波及していくためです。一方で、金融緩和策の効果が賃金や消費に現れるまでも同程度の時間がかかります。つまり、金融政策の影響には相当の時間遅れが存在するのです。
過去の日本は、間違った金融政策の悪影響が現れたときには、それが金融引締の悪影響であると気付かないマスコミや、政治家などにより、金融政策の失敗という事実が認識されず、批判もされず、他の構造問題や生産性の問題にすり替えられ、長い間誤った金融政策が正されることがありませんでした。そのため、日本人の賃金は過去30年上昇しませんでした。
過去の轍を踏まぬため、今こそ我々は、日銀の政策の間違いを指摘し続けるべきです。さらに、金融・財政出動との有機的な連携を期すべきです。経済の復活には個々人の努力も必要ですが、金融・財政政策は個々人の力の結集ではどうにもできません。水漏れがあるときに、個人の努力で水を汲み上げたとしても、元栓が閉まっていなければ水は溢れ続けます。まず、元栓をとめるしかないのです。それから、パイプを取り替えるなどのことをすべきなのです。
水漏れを元栓を止めることなく、必死で水を汲み出して対処しようとする人々 AI生成画像 |
金融・財政政策も同じことです。まずは、優れた政策と言う前に、間違った政策をしないことが肝要です。特に金融政策が優れていなくても、間違った政策さえしなければ、経済はいずれ正常な軌道にのります。正常とは、デフレでないということです。デフレは、正常な経済循環(好景気、不景気の繰り返し)を逸脱した、経済の異常な状態です。
一朝一夕には景気は変わりませんが、着実な政策運営こそが経済再生への確かな一歩となり得るはずです。そのことを多くの政治家に認識していただきたいものです。そうして、これこそが政治家の大きな仕事の一つであることを認識していただきたいものです。
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