2024年3月2日土曜日

トランプ政権の対日の日本側の錯誤―【私の論評】「反トランプ錯乱症候群」からFOXニュースの変遷まで: 米国政治とメディアの舞台裏

トランプ政権の対日の日本側の錯誤

まとめ
  • 米大統領選予備選で、トランプ支持陣営から「反トランプ錯乱症候群」という言葉が発せられる。
  • トランプ政権下、日本側の一部の同大統領が理不尽で強硬な要求を突きつけるという予測は、錯誤だった。
  • 日本の「識者」がトランプ氏の片言隻句(へんげんせきく)を切り取り、悪い方向への絵図を描く悪習は終わりにすべき。

 アメリカの大統領選予備選で、トランプ支持者から「反トランプ錯乱症候群」と呼ばれる激しい論議が生じている。この言葉は、トランプ氏への嫌悪からくる感情的な悪口が事実に基づかずに拡散している傾向を指し、トランプ支持層からの反撃の一環とされている。特に、日本のメディアでは「もしトラ」現象として、次期トランプ政権が北大西洋条約機構(NATO)からの撤退や日米同盟の破棄の可能性が広がっているという予測が取り上げられている。

 しかしこのような主張を裏付けるためには、トランプ政権が過去4年間にどのような政策を取ってきたかを検証する必要がある。トランプ大統領の在任中においてNATOからの離脱政策が実際に採用されたかどうか、また日本との関係において自動車や為替問題で要求や抗議が行われたかどうかを見るべきである。

 まず、NATOに関しては、トランプ大統領は離脱の方針を取ることはなく、西欧諸国に対しては防衛費の増額を促すなど姿勢を見せた。日本においても、トランプ政権は日米同盟を強化し、安倍首相との関係は緊密で安定していた。日本側の一部識者がトランプ政権に対して無責任かつ的外れな予測を立ており、それが反トランプ錯乱症候群の一端である可能性がある。

 具体的には、自動車や為替問題に関しては、日本の一部メディアが予測した厳しい要求や抗議が実際には行われなかった。トランプ大統領は日本に対して自動車貿易や為替政策についての要求を行わず、逆に在日米軍駐留経費についてはジェームズ・マティス国防長官が日本の負担を称賛する発言を行った。

 以上のようなトランプ政権に対する日本側の対応は無責任かつ錯誤であり、これも反トランプ錯乱症候群の一例といえるだろう。日本の「識者」がトランプ氏の片言隻句を切り取り、悪い方向への絵図を描くという定型だろう。そんな悪習はそろそろ終わりにすべき時期である。

この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】「反トランプ錯乱症候群」からFOXニュースの変遷まで: 米国政治とメディアの舞台裏

まとめ
  • 「反トランプ錯乱症候群」とは、トランプ批判者が感情的で非合理な攻撃を行う傾向を指す言葉。「人種差別主義者」などの過剰な攻撃が挙げられ、感情に基づく嫌悪が正当な反対意見を超えている。
  • 米国のメディアは大手新聞はすべてリベラル系、大手テレビ局はFOXだけが例外的に保守系だったが、最近これが変質し、バイデン勝利早期宣言が保守派離れを引き起こす可能性が指摘されている。
  • 名物司会者のタッカー・カールソンがFOXを離れ、プーチンインタビューを通じて反ロシア姿勢に反発する一部の保守派の立場を示唆。
  • トランプのロシア観は複雑で変動的。戦略的な視点からロシアを利用しようとする姿勢が見られる。
  • 米国の大手メディアはリベラル系であり、FOXも左傾化が指摘される。日本のメディアは主に米国大手メディアの報道を流し、保守派視点の情報不足が懸念される。
  • 現代ではAIや翻訳技術を駆使して、米国の情報を容易に入手可能であり、米国の保守系メディアにもアクセスすべき

トランプ反対派の抗議活動に耳を塞ぐトランプ支持派

「反トランプ錯乱症候群」とは、英語では"Anti-Trump Derangement Syndrome(ATDS)"であり、ドナルド・トランプ前米大統領に対して誇張されたり非合理的な批判をするある人々の傾向を指す言葉です。

この言葉は、トランプ支持者によって、事実の分析よりもむしろ感情や敵意に駆り立てられたと見なされるトランプに対する言過ぎた攻撃を特徴付けるのに使われます。

「反トランプ錯乱症候群」に関する主なポイントは以下の通りです。

このフレーズは、トランプに非合理的に敵対的な人々を揶揄するものであり、トランプへの嫌悪に目がくらんでいるために、根拠のない暴言を吐く傾向を含意しています。
  • 文章で例示されているのは、「トランプは人種差別主義者だ」、「トランプは民主主義の脅威だ」、「トランプはヒトラーに似ている」、「トランプはナルシストだ」といった主張です。他にも、トランプへの感情的な反発から、彼の全ての言動を否定的に解釈すること。 たとえば「トランプが言ったことはすべて間違っている。」と決めつける。トランプ支持者すべてを「教育程度が低い」などとステレオタイプ化することなど。
  • この症候群は、トランプに対する強い嫌悪感から、正常な判断力を失うほどの強い敵意や拒絶反応が引き起こされることによるものです。
  • これは、トランプの政策や行為への合理的な反対意見というよりは、トランプへの非合理的な「嫌悪」として、トランプ批判を一蹴するのに用いられます。
要約すると、「反トランプ錯乱症候群」は、トランプの批判者が彼を嫌悪するあまり、事実が裏付ける以上の歪められた、根拠のない攻撃をすることを意味しています。

以前このブログでも指摘したように、米国のメディアは大手新聞は、すべてリベラル系であり、大手テレビ局もほとんどがリベラル系です。従来はFOXTVが唯一保守系ともいわれてきましたが、最近ではそうでもないと指摘する人もいます。

FOXニュースに関して、従来の保守的な立場からの変化が指摘される理由には以下のようなものが考えられます。
  • トランプ政権批判のコメンテーターを多く起用するようになった。保守派の論客が減っている。
  • 2020年の大統領選で、FOXは早い段階でバイデンの当選を宣言。トランプ陣営の不正論を批判的に報道。
  • 視聴者からの反発で、保守派の視聴者がFOXから離れているとの指摘がある。
  • 社内での性的暴行告発事件で保守的な社風への批判が高まった。
  • 保守派論客の一部がFOXを「裏切り」と非難し、新保守系メディアに移籍する動きが出ている。
  • FOXの親会社が経営権売却で左派寄りの方針転換を懸念する声がある。
このように、FOXの保守的立場の変質を示唆する動きがあるとされています。保守派からの批判を招く一方、リベラル層への訴求を強める動きが見て取れると指摘されています。

これは、FOX TVを退局した元キャスターであるタッカー・カールソンがプーチン大統領にインタビューしたことでも顕となりました。FOXの保守的立場の変化とこのことには以下のような関係があると考えられます。
  • タッカー・カールソンは2022年12月にFOXを退局し、新保守系メディアのThe Blazeに移籍しました。彼がFOXを去ったのは、FOXの保守的立場の変化に失望したためとされます。
  • タッカー・カールソンは、2023年2月にロシアのプーチン大統領にインタビューを行い、その映像がThe Blazeで放送されました。プーチンインタビューは、FOXの反ロシア的報道姿勢への反発の表れと見られます。
  • 保守系の視聴者の中にはロシア寄りの姿勢を支持するものも多いとみられ、それとのギャップがFOXの変化を示唆しているようです。
  • プーチン氏への同情的インタビューは、FOXの反ロシア姿勢へのアンチテーゼを提示しようとしたものと受け取られています。
  • タッカー・カールソンは保守系メディアへ移籍しており、FOXでの発言の自由が制限されたことへの不満があるようです。
  • FOXの親ロシア派保守派の立場放棄が、元キャスターの行動の背景にあるようです。
このように、元キャスターの行動はFOXの保守的立場の変更と無関係ではないと考えられ、その変化を象徴する出来事の一つと言えそうです。

タッカー・カールソン氏

以下にプーチンに対するタッカー・カールソンのインタビューの概要を掲載します。
  • 2023年2月にロシアのモスクワで行われた。ロシアによるウクライナ侵攻について、プーチンは「特別軍事作戦」の正当性を主張。
  • NATOの東方拡大がロシアを脅かしたとの立場を表明。
  • カールソンはウクライナへの意見介入を避け、プーチンの主張を傾聴する姿勢だった。
  • 西側メディアの対ロシア報道の偏向性を問題視する発言があった。
  • ロシア寄りの保守派の立場を代弁する役割をカールソンが担った。
  • 友好的な雰囲気の中で1時間以上にわたり対談が行われた。
  • カールソンはFOXニュースでの発言の自由を求めて辞めた経緯があり、その意味でも象徴的なインタビューとなった。
保守派のロシア観については以下のように整理できます。
  • 保守派の一部には親ロシア的な人々がいるが、保守派全体が親ロシアとは限らない。リベラル派を敵視することから、ロシアを戦略的な同盟相手と見る向きがある。
  • ロシアの伝統的価値観を重視する保守派が、プーチン体制を評価する場合がある。国粋主義的な保守派にとって、西側諸国よりもロシアの方が味方と見えることがある。
  • 一方で、冷戦時代の反共的姿勢を重視する保守派も依然として多く、親ロシアとは限らない。
  • トランプ派と旧来の共和党保守派とでも見方が異なる。保守派内でも親ロシア派と反ロシア派に分かれることがある。
概して、保守派の一部にロシア寄りの傾向があると言えますが、保守派全体が一様に親ロシアとは言い切れないのが実情だと考えられます。

トランプ氏のロシア観については、親ロシア的というよりは複雑であいまいな面があると言えます。大統領在任中は、対ロ制裁を強化する一方、プーチンとの個人的な関係構築を目指しました。
  • NATOへの批判的な言動があり、ロシアの警戒感を和らげる狙いがあったとされる。ただし、軍事面では対ロシアの警戒姿勢は緩めませんでした。
  • 大統領選に際しては、ロシアによる選挙介入を疑いましたが、後にロシア寄りの言動もありました。
  • ウクライナ侵攻後はプーチンを「天才」と持ち上げるなど、親ロシア的な言動が目立ちました。ただ一方で、ウクライナ支援も訴えており、立場は一貫していません。
  • 戦略的にロシアを利用する意図が強く、イデオロギー的な親ロシアではないとみられます。
このように、トランプのロシア観は状況に応じて変化する側面が大きく、単純な親ロシアとは言い難いです。

私自身は、保守派を自認していますが、ロシアは未だウクライナと交戦中であり、ロシアを支持するにしても、批判するにしても、それは戦後になって情報が十分に集まった段階で行うべきであり、現時点で、それを表明したり、ロシアを支持したりする姿勢をみせれば、それはロシアに利用されるだけだと思います。

ただしFOXニュースの保守的立場の変質を示唆する動きとして、ロシア観以外にも以下の点が挙げられます。
  • トランプ元大統領に批判的なコメンテーターを多く起用するようになったこと
  • 2020年の大統領選で、他の保守系メディアより早い段階でバイデン勝利を宣言したこと
  • 気候変動問題の重要性を訴える番組が増え、保守層の反発を招いており、さらに人種や性的マイノリティー問題でのリベラル寄りの姿勢が目立つようになったこと
  • 視聴者からの批判で、保守派の視聴者が減少傾向にあること
  • 社内の性的少数者への配慮を強化し、保守的な企業文化を改める改革していること
このように報道姿勢や社内運営の面で、FOXの左傾化されつつある兆候がみられ、保守派メディアとしての色合いが薄れていると言えます。


この傾向が強まりつつある現在、大手テレビ局も、大手新聞もほぼすべてがリベラル系ということがいえ、このような状況では、「反トランプ錯乱症候群」が強まることはあっても弱まることはないでしょう。

日本のメディアのトランプ報道は、米国の大手メディアの内容をそのまま垂れ流す傾向があり、それでは、真のトランプ像や、少なくとも米国の人口の半分くらいは存在する保守派の考えなどは、日本のメデイアは報道しないということになります。

それでは、日本では、メディアの報道をみている限りでは、米国の半分しか見ていないことになり、後の半分のことはわからないということになります。

「反トランプ錯乱症候群」になることを防ぐためには、自ら米国の情報を仕入れて判断するしかなさそうです。ただ、従来と比較すれば、生成AIなどで、すぐに翻訳できようになった現在では、その敷居は従来よりはかなり低くなったといえます。

アメリカの保守系メディアは、政治的な視点や思想によって分類されます。以下はいくつかの代表的な保守系メディアです。

  1. The Blaze: 保守派の視点を提供するメディアで、元フォックスニュースのホストであるグレン・ベックが設立しました
  2. The Drudge Report: ウェブベースの保守系ニュースアグリゲーターで、政治的な話題をカバーしています
  3. Newsmax: 保守的な視点を持つニュースサイトで、政治、経済、社会問題などを報じています2

これらのメディアは、保守派の視点を提供する一部の選択肢ですが、アメリカのメディアは多様であり、さまざまな意見や視点を反映しています。

ただ、日本のメディアだけに頼っていては、米国という国を正しく理解することはできません。米国の保守系メディアの情報も参照することをおすすめします。

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