- マネタリーベース(MB)増加と名目GDP増加には正の相関があるが、日本ではこの関係性が希薄である。
- 日本のMB増が名目GDP押し上げに結びつかない主因はデフレ経済の持続にある。
- 主要国ではMB増による金融緩和時に物価も上昇し、名目GDPも増加している。
- 日本でもマイルドなインフレ(2%程度)があれば、MB増が実体経済を押し上げる効果が高まる。
- したがって、デフレ脱却なくしては金融緩和の実効性に乏しく、当面は緩和継続が不可欠である。
日本銀行 |
この主因は、日本経済がデフレ経済に長らく陥っていたことにある。デフレ下では、中央銀行がMBを増やしても、家計や企業がキャッシュや預金という形で資産を保有し続ける傾向が強く、マネーが実体経済に滲み出ず、有効需要や設備投資の増加につながらないためである。
実際、本文で示された回帰分析の結果によれば、2009年以降の日本におけるMB1億円増に対する名目GDP増加分は僅か0.1億円にすぎず、米国の2.3億円、英国の0.6億円、ユーロ圏の0.7億円と比べて格段に小さい。
一方、金融緩和に伴いMB増加の際に、物価も上昇(インフレ)傾向となった主要国では、マネーが実体経済の活性化に結びついている実態が確認できる。マイルドなインフレ経済下では、MB増加が有効需要の創出や、企業の設備投資を喚起し、名目GDPを押し上げる効果を持つと考えられる。
仮に日本が2%程度のマイルドなインフレ経済に転じることができれば、MB増による名目GDP押し上げ効果が大きく高まる可能性がある。つまり、デフレ脱却なくしては金融緩和の実効性が乏しいということである。
したがって、現時点で日本が異次元の金融緩和政策からの解除に踏み切れば、再びデフレ経済に逆戻りするリスクが高まり、それによって金融緩和の効果がさらに低下し、ひいては経済成長を阻害する恐れがある。そのため、当面は金融緩和の継続が不可欠であると本文は結論づけている。
【私の論評】たった一表で理解できる、日銀が現状でマイナス金利解除をすべきでない理由
まとめ
- 市場では日銀による金融引き締め(マイナス金利解除)への警戒感から、株価が下落している。
- 日本のコアコアCPIの伸び率は主要国に比べて大幅に低水準にある。
- 金融引き締めを行えばデフレ再発のリスク、経済成長の鈍化、金融政策の機能不全などの重大なリスクが生じかねない。
- デフレ下で金融引き締めを行えば、マネタリーベース増による物価上昇やGDP押し上げ効果が得られにくくなり、金融政策の実効性が失われる可能性がある。
- したがって、当面は現行の金融緩和政策を継続し、物価の安定的な上昇を実現することが日本の金融当局に求められる。
日銀植田総裁 |
3月18日-19日に行われる「金融政策決定会合」が行われることになっているため、市場関係者の中に、マイナス金利解除(実質的な利上げ、金融引締)がなされるのではということで警戒を強める関係者も多いようです。
14日午前の東京株式市場の日経平均株価は続落しました。下げ幅は一時300円に迫りました。前日の米国市場でハイテク株の値動きが軟調だった流れを引き継ぎ、日経平均への影響が大きい半導体関連株が下落しました。
午前10時現在は前日終値比254円16銭安の3万8441円81銭。東証株価指数(TOPIX)は6・32ポイント安の2642・19。
日経平均の急上昇をけん引してきた東京エレクトロンなどの半導体関連株を中心に、朝方から売り注文が優勢でした。
前日は今春闘の集中回答日で、製造業大手を中心に高水準の賃上げ回答が相次ぎました。これを受け、市場では日本銀行の金融政策の修正スピードが速まるとの警戒感が強まり、積極的な取引を控える雰囲気もあったとされています。
この市場の反応は、まともです。原田泰氏は、MBの観点から、現在は金融引締すべでなく、緩和を続けるべきと主張していましたが、別の観点からもそれはいえます。以下にコアコアCPIの推移の国際比較を掲載します。
2020年〜直近までの先進国のコアコアCPI
コアコアCPIは、消費者物価指数(CPI)から酒類を除いた天候や市況など外的要因に左右されやすい食料と、エネルギーを除いた指数のことです。 毎月総務省が発表している指標として、金融関係者から注目されています。 何故酒類は省くのかというと、酒類以外の食料品は気象条件によって大きく価格が変わることがあるからです。参考資料:
- 国際通貨基金 (IMF) World Economic Outlook database: https://www.imf.org/en/Publications/WEO
- OECD Economic Outlook, Interim Report, March 2024: https://www.oecd.org/economic-outlook/
消費者物価指数(CPI)だけをみていると、エネルギーや食料品などが含まれていて、これらは変動が激しいことと、これらは、特に日本では、海外から輸入する割合が多いので、国内経済を正しく反映した指標とはいえません。
そのため、正しい状況を見る場合は、コアコアCPIを用いるのです。
これを見誤るべきではありません。正しい政策は、金融政策においては、金融緩和を継続することです。財政としては、輸入企業などを支援しながら、金融緩和を継続というのが、当面の正しいあり方です。
物価上昇率が低位にある状況下で、日本が金融引き締め政策に転じた場合、以下のようなリスクが考えられます。
したがって、この表が示すコアコアCPIの推移から、当面は現行の金融緩和政策を継続し、物価の安定的な上昇を実現することが、日本の金融当局に求められていると言えるでしょう。当面、マイナス金利解除(実質的な金融引締)もすべきではありません。
日銀、3月のマイナス金利解除に傾く政策委員が増加-報道―【私の論評】日米の四半期毎の失業率とコアコアCPIの推移から読み取れる、マイナス金利解除の無鉄砲
物価上昇率が低位にある状況下で、日本が金融引き締め政策に転じた場合、以下のようなリスクが考えられます。
- デフレ再発のリスク: 日本の物価上昇率はすでに低水準にあり、金融引き締めによってさらに需要が減退すれば、デフレ経済に逆戻りする可能性が高まります。デフレ下では家計や企業のキャッシュ保有が増え、マネーの実体経済への波及が阻害されるため、金融政策の効果が著しく低下します。
- 経済成長の鈍化: 物価上昇率が低水準の段階で金融引き締めを行うと、実質金利の上昇を招き、家計の消費や企業の設備投資を減速させかねません。需要の押し下げを通じて経済成長が鈍化するリスクがあります。
- 金融政策の機能不全: デフレ経済下で金融引き締めを行えば、上の元記事で原田泰氏が主張しているように、マネタリーベース増によっても物価上昇やGDP押し上げ効果が得られにくくなり、金融政策の実効性が失われてしまう可能性があります。
以上のように、日本がいまだ物価安定の目標に届いていない状況で、金融引き締め政策に転じればデフレ再発や、さらなる経済減速、金融政策の機能不全などの重大なリスクが生じかねません。
デフレ・スパイラル AI生成画 |
したがって、この表が示すコアコアCPIの推移から、当面は現行の金融緩和政策を継続し、物価の安定的な上昇を実現することが、日本の金融当局に求められていると言えるでしょう。当面、マイナス金利解除(実質的な金融引締)もすべきではありません。
これは、上の一表をみただけでもあまりにも明らかなのに、なのになぜマスコミはマイナス金利解除など言い出すのか全く理解に苦しみます。このようなことをいうマスコミは、無論上の表なものを提示しません。示せば、すぐに間違いが露呈するのでできないのでしょう。あるいは、小鳥脳なのか・・・・・?
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