2024年1月13日土曜日

ウクライナ・イスラエルでのバイデンの苦境 ―背景に民主党の分裂―【私の論評】ウクライがロシアのGDPを凌駕するロードマップを描け

 アメリカ現状モニター

ウクライナ・イスラエルでのバイデンの苦境
―背景に民主党の分裂
 

渡部 恒雄
笹川平和財団上席研究員

まとめ
  • ニューヨーク・タイムズとシエナ大学の共同世論調査により、イスラエル・パレスチナ衝突におけるバイデン政権の支持が33%、不支持が57%となり、トランプとの比較でもトランプが優位とされた。
  • 同調査では大統領候補としての支持でもトランプが優位であり、共和党優位の選挙人団制度を考慮すると、バイデン陣営にとって厳しい状況となった。
  • ウクライナ支援に関しても共和党との交渉が難航し、ウクライナ支援の予算に対する民主党左派の反発が生じている。
  • イスラエル情勢においても左派が政権に圧力をかけ、外交政策での難航が左派の不満の対象となっている。
  • バイデン政権がこれらの矛盾を脱却し、支持を得るためには、イスラエル・パレスチナ紛争とウクライナ戦争に対する左派と有権者の認識を変える必要がある。
バイデン

12月10日から14日にかけて行われたニューヨーク・タイムズとシエナ大学の共同世論調査によると、イスラエル・パレスチナ衝突におけるバイデン政権の政策に対する支持は33%で、不支持が57%となった。トランプとの比較では、イスラエル・パレスチナ衝突をどちらがうまく処理できるかについて、バイデン38%、トランプ46%となり、トランプが優位だった。また、大統領候補としての支持もトランプが49%、バイデンが43%で、共和党候補が優位とされている。これが共和党優位の選挙人団制度を考慮すると、バイデン陣営にとっては艱難な状況となっている。

同調査によれば、回答者の44%はガザの死者が既に2万人を超えている状況で、イスラエルはハマスに対する軍事作戦を停止すべきだと考えており、48%はイスラエル軍が十分な配慮をしていないと回答している。

バイデン政権はウクライナ支援のために共和党議会の支持を得ようとしているが、ウクライナ支援の予算に対する厳しい交渉が続いている。ウクライナ大統領のゼレンスキー氏はバイデン大統領や議員らと面会し、ウクライナへの支援継続を訴えた。一方で、共和党はウクライナ支援の条件として国境対策を求め、これが民主党左派の反発を招いている。

中東政策でもトランプ支持が増え、特にイスラエル情勢においては左派が政権に圧力をかけている。これにより、バイデン政権は外交政策での難航が左派の不満の対象となり、米国内外のストロングマンたちが優位に立つ状況となっている。これらの矛盾から脱却するためには、バイデン政権がイスラエル・パレスチナ紛争とウクライナ戦争に対する左派と有権者の認識を変え、支持を獲得する必要がある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライがロシアのGDPを凌駕するロードマップを描け

まとめ
  •  共和党と民主党内の左派がウクライナ支援に反対していると報じられ、トランプ政権成立時には支援の削減が懸念されている。
  • 大統領が誰になっても、ウクライナへの強力な支援が必要。ウクライナの主権支持や、プーチンのロシアに対抗する必要性が党派を超えたものである。
  •  ウクライナが戦後復興やEU加盟により経済的に大きく成長する可能性があり、ロシアを経済的に凌駕することもあり得る。
  • ウクライナが過去に経済成長できなかったのは、ソビエト連邦崩壊後の腐敗した民営化や、中央集権的統制の影響、汚職との腐敗の蔓延によるものである。
  •  ウクライナがEUに加盟することができれば、脅威の経済発展しロシアを凌駕することも夢ではなく、これをウクライナと支援国がロードマップに描くべき

ウクライナ支援に関しては、共和党も民主党内の左派も反対なようですが、もしトランプ政権が成立した場合、トランプ氏はウクライナへの支援を減らすか取りやめる可能性も取りざたされています。

私自身は、誰が大統領になったとしても、ウクライナへの強力な支援を維持してほしいです。プーチンのロシアに立ち向かい、ウクライナの主権を支持することは党派を超えて行われるべきだと思います。

ウクライナの自由と民主主義は米国の国益にかなうものです。米国はウクライナに対する見方を変えるべきと思います。

現状のウクライナに対する、共和党や民主党内の左派の見方は、民主主義の砦を守るための費用という見方しかしていないと思われます。しかし、これを費用としてだけとらえるのではなく、投資として見方を変えるべきと思います。現在は、発展途上国なみのウクライナですが、見方を変えれば、ウクライナには大きな洗剤可能性があります。

ウクライナ経済がロシア経済を凌駕する可能性

ウクライナの自由と民主主義が維持発展されれば、ウクライナはかなりの経済発展をする可能性があります。その根拠は、以下の表をご覧いただければ、ご理解いただけるものと思います。なお、以下の表は2021年のウクライナ戦争開戦の前年のデータです。

戦争中のデータは、特殊であるのと、正確性にも欠ける場合もあるので、2021年のデータを用いています。

まずは、一人当たりのGDPです。
GDP(ドル)一人当たりのGDP(ドル)
ウクライナ1,557億ドル3,745ドル
ロシア連邦1.7兆ドル10,610ドル
ウクライナのGDPは、ロシアの約10分の1であり、一人当たりのGDPも約3分の1でした。ウクライナは、ロシアに比べて経済規模が小さく、経済水準も低い国でした。これは、発展途上国の部類に入ると言って良い水準です。しかし、これは逆にいえば、かなりの伸びしろがあるということです。

次は、人口です。
人口
ウクライナ4,159万人(クリミア半島を除く)
ロシア連邦1億4,623万人

ロシア連邦と比較すれば、ウクライナの人口はロシアの1/3しかありません。それに、中国、インドの人口は14億人で、ロシア連邦の10倍です。このような国と比較すれば、確かにしウクライナの人口は少ないです。

しかし、ヨーロッパの他国と比較すれば、この人口は少ないとはいえません。また、モスクワ周辺に位置する、ロシア共和国の人口は、1000万人程度です。これを考えると、ロシアとウクライナの人口差は、絶望的に異なるという次元ではありません。

一人当たりのGDPと、人口から、ウクライナがロシア連邦のGDPを超えるには、一人当たりのGDPをどの程度にすれば良いのかを計算します。

2021年のウクライナとロシア連邦の人口は、ウクライナが約4,400万人、ロシア連邦が約1億4,600万人でした。

この人口差を考慮した計算式は、以下のようになります。
(ロシア連邦のGDP) / (ウクライナの人口) = 一人当たりのGDP

これを計算すると、以下のようになります。
1.7兆ドル / 4,400万人 = 38,636ドル

つまり、ウクライナがロシア連邦のGDPを追い越すためには、一人当たりのGDPが38,636ドル以上になる必要があります。

一人あたりの、GDPが38,636ドル付近の国を以下にあげます。比較の対象として日本、米国、ロシアも含めます。
一人当たりのGDP(ドル)
韓国38,740
台湾39,030
ポーランド32,250
スロバキア31,830
ロシア11,370
日本42,820
米国63,540

この表から、ウクライナは、一人当たりのGDPが韓国並になれば、ロシアのGDPと並ぶ水準になり、台湾並になれば、ロシアのGDPを追い越すことになることがわかります。

無論、これは戦争前の比較ですから、ウクライナが戦後復興して、それからの経済成長によりこうなるということになりますが、それにしても、一人あたりのGDPが台湾位の水準になれば、ロシアの GDPを完璧に追い越すというのですから、これはまったく不可能であり得ないということとは言えません。

もし、これが、日本やドイツ、フランス並とか、それ以上というなら、かなり難しいです。さらに、人口面でも、ウクライナとロシアの人口が、10倍以上もあれば、これもかなり難しいです。

しかし、ロシアとウクライナとの比較ということであれば、これは全く不可能とはいいきれないです。

ただし、これは数年ではなく数十年のスパンで達成できるということになると思います。ただ、日本の高度成長のような成長が可能となれば、10年くらいで達成できるかもしれません。

そのような目でみると、なぜウクライナは過去には経済発展できなかったのかという疑問がわきます。

ウクライナはなせ経済成長できなかったのか

ウクライナが過去に経済成長できなかった理由はいくつあります。

まず、ソビエト連邦の崩壊は、ウクライナの工業生産高、特に鉄鋼や鉱業のような重工業の急激な減少につながりました。これは雇用、輸出、全体的な経済成長に大きな影響を与えました。

ソ連時代には他の部門を犠牲にして重工業に重点を置いたため、ウクライナの産業基盤は時代遅れで硬直化し、変化する世界的な需要に対応するのに苦労しました。その結果、経済の多様化と競争力の欠如を招いてしまいました。

ソビエト連邦崩壊

次に、ウクライナがロシアの干渉を受け続けてきたことです。ロシアはウクライナの政治に関与してきた長い歴史があり、しばしば影響力を行使し、ウクライナの軌道を形成しようとしてきました。これには、クリミア併合やウクライナ東部で進行中の紛争に見られるように、特定の政治派閥を支援したり、誤った情報キャンペーンを行ったり、さらには軍事介入に訴えたりすることも含まれます。

ウクライナの犠牲の上にロシアが利益を得ているとされる不公正な貿易慣行や資源操作への懸念が提起され、経済的搾取への非難もあります。さらに、ソ連時代のホロドモール飢饉のような歴史的な出来事は、ロシア国家による意図的な搾取の例とみなされています。

さらに、ウクライナ国内の汚職や腐敗です。ソビエト体制は、ウクライナの社会とビジネスの多くの側面に浸透し続けているビジネス主体に対する後援と縁故主義の文化を育みました。これが公正な競争を妨げ、外国からの投資を抑制し、生産活動から資源を遠ざけています。

インフォーマルなネットワークと官僚主義 複雑な官僚制度を利用した経験から、ビジネスを行うための複雑なインフォーマル・ネットワークが発達してしまったのです。こうしたネットワークは近道を提供してくれるかもしれないですが、法的枠組みの外で運営されていることが多く、不透明で不公正なビジネス環境を助長しています。

1990年代の民営化 ソビエト連邦崩壊後、ウクライナは国有資産の大規模な民営化を実施しました。しかし、このプロセスは汚職にまみれ、価値ある企業が政治的につながりのある人物に割安な価格で売却されました。その結果、富と経済力が一部の人間に集中し、経済全体が投資と競争の欠如に苦しむことになりました。

ウクライナでは汚職との戦いが続いており、近年はさまざまな改革やイニシアチブが実施されています。

計画経済から市場システムへの移行は、法的・制度的枠組みの不備により困難なものとなっています。このことが企業や投資家に不確実性をもたらし、リスクの増大と経済活動の低下を招いています。

 数十年にわたる中央集権的な統制が、個人の自発性やリスクテイクを抑制し、起業家精神の欠如を助長し、活力ある民間セクターの発展を妨げてきました。

しかし、この複雑な問題に完全に対処し、ウクライナの経済的潜在力を最大限に引き出すには、まだ多くの課題が残されています。

ウクライナのソ連時代からの負の遺産は、根深いものがあるのです。こうした負の遺産を解消すれば、ウクライナの経済がのびる余地はかなりあります。

ウクライナ

計り知れないウクライの急速な経済発展の可能性

戦争終結、汚職撲滅、EU加盟などの条件が満たされれば、ウクライナの急速な経済発展の可能性は計り知れないです。

強固な基盤

ウクライナは、強固な基盤(インフラ)を持っており、これは他の発展途上国等にはないものです。

多様な産業基盤: ウクライナには、農業、鉱業、冶金、化学、機械、IT、宇宙、軍事など、確立された産業部門があります。宇宙産業に関しては、ロシアがウクライナから部品を輸入しており、これが絶たれると、ロシアの宇宙開発に支障がでるかもしれないとい割れるほどの水準にあります。また、これはあまり知られていませんが、中国の軍事技術の母体となったのは、ウクライナの技術です。 

この多様な基盤は、さらなる経済成長と新市場への進出を可能にする強力な土台となります。

高学歴の労働力: ウクライナは識字率99.4%という高い教育水準を誇っています。ヨーロッパの大学教育の統一基準・水準は、「バチェラー・マスター・ドクター(Bologna Process)」と呼ばれています。これは、1999年にイタリアのボローニャで開催された欧州高等教育会議で採択された「ボローニャ宣言」に基づき、欧州の大学教育の質と国際競争力を向上させるために制定されたものです。

ウクライナの大学・院にもBologna Processが適用されています。ウクライナは教育という面でヨーロッパと変わらず、物価も安いということから、戦前は、中国人の手頃な留学先として人気がありました。

また、人口あたりのエンジニアの数は、世界でトップクラスにあります。工学、科学、技術などさまざまな分野に長けた人材が容易に確保できることは、海外からの投資を誘致し、イノベーションを促進する上で貴重な資産となります。

戦略的立地: EUとロシアの間に位置し、中東のトルコと黒海を経て接するウクライナは、重要な貿易・中継拠点となりうる地理的優位性を享受しています。インフラとロジスティクスの改善により、この優位性を活かして市場を結びつけ、地域の経済活動を活性化させることができます。

これらの基盤は、他の発展途上国等には見られないものであり、ウクライナの高い潜在可能性を示しています。 

EU加盟

単一市場へのアクセス: EUに加盟すれば、4億5,000万人以上の消費者を抱える世界最大の単一市場へのシームレスなアクセスがウクライナにもたらされます。これにより、ウクライナの企業が商品やサービスを輸出する機会が大きく広がり、海外からの投資を呼び込み、経済成長を促すことができます。

金融・技術支援: EU加盟には、インフラ整備、制度改革、事業開発を目的とした多額の資金・技術支援プログラムが付随しています。これらの資源は、ウクライナの経済的進歩と近代化を加速させる上で有益です。

ガバナンスと法の支配の改善: EUの基準に合わせるためには、制度を強化し、法の支配を堅持し、腐敗と闘うことが必要である。これにより、より予測可能で透明性の高いビジネス環境が構築され、信頼が醸成され、海外からの投資が誘致されるでしょう。

その他の要因

豊富な天然資源: ウクライナは肥沃な農地、鉱物資源、黒海へのアクセスに恵まれています。これらの資源を持続的に管理することで、環境を保全しながら大きな経済的利益を生み出すことができます。

起業家精神: ウクライナ人は回復力があり、機知に富み、起業家精神に富むことで知られています。こうした資質は、長年のロシアの軛から開放され、支援的な環境と相まって、イノベーションと新規事業の創出を促進し、経済のダイナミズムに貢献することができます。

技術的潜在力: ウクライナには、熟練した労働力と活発な新興企業エコシステムを擁する成長著しいIT分野があります。このセクターを育成し、AIや再生可能エネルギーなどの新興技術への投資を呼び込むことで、ウクライナ経済を将来に向けて推進することができます。

もちろん、現在はロシアの侵攻を受けており、様々なインフラが破壊されていますし、先にあげたような課題も残っています。しかし、潜在的な見返りは大きいです。戦争が終わり、適切な条件と継続的な決意さえあれば、ウクライナは独自の強みと戦略的優位性を活かして急速な経済発展を遂げ、豊かで繁栄する国家としての地位を確立することができるでしょう。そうして、それはEU諸国にとって、ロシアの隣国にEUの味方である、強力な国ができあがることを意味します。これは、EUの安全保障にとっても良いことです。

そうした観点で、ウクライナ支援をとらえるべきです。ウクライナ支援はこうしたことを見据えて行うべきですし、ウクライナ側もこうした視点を支援国に示すべきです。

米国、日本、EUもウクライナと協同で、叡智を絞り、ウクライナがいずれロシアのGDPを追い越し、経済発展をつづけ、西側諸国とともに栄えるパートナーとなり、ロシアに対する強力な防波堤になることをロードマップに落とし込み、その上で支援をするようにすべきです。

これによって、米国は誰が、大統領になっても支援はやりやすくなるでしょう。それは、日本もふくむ、西側諸国も同じです。

イスラエルに関しても、イスラエル、ガザ地区(パレスチナ)の双方が経済発展し、テロリストを一掃し、安全保障での中東の要となれるようなロードマップを描くべきです。

日本こそ、このようなことに関してリーダーシップを発揮すべきと思います。

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