2024年1月26日金曜日

港求めるエチオピアから読む中東・アフリカ地政学―【私の論評】東アフリカの不安定化要因と将来展望

 港求めるエチオピアから読む中東・アフリカ地政学

まとめ

  • エチオピアがソマリランドから海岸線を租借し、海へのアクセスを確保
  • エチオピアにとっては悲願の達成だが、ソマリアは反発
  • ソマリランドにとっては、エチオピアからの国家承認の可能性
  • UAEがエチオピアを支援し、地域での影響力拡大を狙う
  • エジプトやサウジアラビアなど周辺国の反発も予想され、地域の不安定化が懸念される

 1993年のエリトリアの独立により内陸国となったエチオピアは、海へのアクセス確保を長年の悲願としていた。ジブチ港への依存は使用料の問題もあり、海軍力回復と地域影響力拡大を狙って、エチオピアはソマリランドから軍港を含む海岸線を租借する合意を結んだ。

 ソマリランドにとっては、エチオピアによる国家承認の可能性獲得が対価であるが、ソマリア政府は猛反発。国際社会でのソマリランド承認も困難だ。

 UAE(アラブ首長国連邦)がエチオピアの後ろ盾となり、地域の代理勢力としてこの合意を支援している。湾岸アラブ諸国はポスト石油を見据えアフリカ進出を強めている。トルコとの対立もあり、UAEはエチオピアを頼りに地域での影響力拡大を狙っている。

 しかし、エチオピア・UAE側に味方する国はなく、むしろエリトリア、ジブチ、エジプトなどの反発が予想される。サウジアラビアの対応が鍵となるだろう。

 トルコはソマリアでのプレゼンスを高めており、その領土保全を支持する可能性が高い。イランもシーア派との対立から、サウジ・UAE側につくことは考えにくい。

 複雑な地域の勢力図の中で、エチオピアの海へのアクセス確保という長年の悲願が、地域の不安定化を招く恐れが指摘されている。その行方は地域の複雑な力関係次第である。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】東アフリカの不安定化要因と将来展望

まとめ
  • 東アフリカは、ソマリランドの独立承認をめぐるエチオピアとソマリアの対立、テロ組織の活動、ロシアや中国の地域への進出など、さまざまな要因により不安定化している
  • 今後の東アフリカの将来は、以下の3つのシナリオが考えられます。・地域紛争の増加・外交的解決策・予期せぬ出来事
  • これらのシナリオは、いずれも地域の安定と繁栄にとってマイナスの影響を与える可能性がある
  • 東アフリカの安定を維持するためには、地域の主要国による協力と、外部勢力による干渉の抑制が重要

上の記事を読むにあたっては、まずはソマリランドという言葉を理解しなければなりません。

世界地図のどこを探しても見つからない、そんな不思議な「国」がアフリカ大陸に存在します。それが、1991年にソマリアからの独立を一方的に宣言した「ソマリランド共和国」です。

ソマリアやエチオピアのあるアフリカ大陸東端は、その形状から「アフリカの 角 」と呼ばれます。ソマリランドは、その角の根もと、アデン湾に面するソマリア北部に位置する。全土を独自の政府が統治し、ソマリア政府の支配は及びません。事実上、独立した状態が続いています。

アフリカの角

東アフリカには様々なテロ組織が存在し、さらにはロシアや中国も様々な利権を狙いこの地域の不安定化に寄与しているといえます。

この地域が今後どのようになっていく可能性があるのか、最新のデータ等を用いていくつかのシナリオを描くと以下のようになります。

1. 地域紛争の増加
引き金: エチオピア軍がソマリア軍と衝突。
激化: ジブチとエリトリアが介入し、エチオピアの拡張主義を恐れてソマリアを支援。ナイル川支配への懸念からエジプトも参戦。
複雑化: UAEとトルコがソマリアとエチオピアを通じて代理戦争。ロシアと中国は異なる派閥に武器と支援を提供。
結果: 紛争は長期化し、壊滅的な人道的被害をもたらし、ソマリアは分断され、地域の不安定化は何年も続く可能性がある。
2. 外交的解決策
引き金: きっかけ:アフリカ連合が主導する可能性のある国際的圧力と調停努力により、エチオピアとソマリアが交渉するよう説得される。
妥協点:ソマリランドはソマリア内で何らかの国際的承認または自治権を獲得し、エチオピアは直接的な領土支配を伴わない協定を通じて港湾アクセスを確保する。
キーパーソン サウジアラビアが取引の仲介役として重要な役割を果たし、UAEの影響力を均衡させ、地域の安定を確保する。トルコはソマリアとの関係を維持するため、この結果を受け入れる。
成果: 地域に相対的な平和と安定が戻り、経済発展と協力が促進される。湾岸アラブ諸国とトルコは、アフリカでの競争に別の道を見出す。
3. 予期せぬ出来事
引き金: エチオピア、ソマリア、エジプトなどの主要国の内政的混乱により、既存の協定や同盟が崩壊する可能性がある。
混乱: テロ攻撃や大規模な環境災害が地域を不安定化させ、安定に向けた前進を頓挫させる可能性がある。
不確実性: ロシアや中国のような外部アクターの関与は、彼らの利害が必ずしも地域の安定と一致するとは限らないため、状況にさらなる予測不可能性をもたらす。
結果: ボラティリティが高まり、予測不可能な展開が起こる可能性が高まるため、長期的な予測が困難になる。

アフリカと中東の主なテロ組織

考慮すべき追加要因:
テロ集団や民兵のような非国家主体の役割は、今後も地域の力学に重要な役割を果たす。
東アフリカにおける経済開発イニシアティブの成功は、安定に寄与し、紛争の魅力を減らす可能性がある。
気候変動と資源不足は、将来の紛争や地政学的緊張において、ますます重要な要因となる可能性が高い。
全体として、東アフリカの将来は依然として不透明であり、プラスとマイナスの両方の発展の可能性がある。今後数カ月から数年の間に、地域および国際的な主要アクターが下す決断は、この地域の軌跡に大きな影響を与えるだろう。
なお、これらは考えられるシナリオのほんの一部であり、実際の成り行きは大きく異なる可能性があります。この地域の最新動向を常に把握し、この地域の将来を形成しうるさまざまな要因を認識しておくことが重要です。

私が最も恐れるのは、東アフリカの不安定化に乗じて、中国やロシアがこの地域にの自らの覇権の及ぶ範囲としてしまい、米国やその同盟国による世界秩序を自分たちの都合の良いように作り変えようとすることです。

懸念を裏付ける要因:

機会: 東アフリカが不安定化することは、中国やロシアのような強力な外部アクターに利用されやすい脆弱な地域を生み出すことになります。
既存のプレゼンス: 両国はすでに東アフリカのさまざまな国々と経済的・安全保障上の関係を築いています。
動機: 中国は世界的なリーダーシップと資源へのアクセスという野心を抱いており、ロシアは欧米の影響力に対抗し、自国の勢力圏を拡大しようとしています。
戦略: 資源取引、デット・トラップ外交、軍事的関与、偽情報キャンペーンなどの戦術を用い、影響力を強固なものにする可能性がある。

対抗要因:

地元の抵抗: 東アフリカ諸国は、内部分裂にもかかわらず、より大きな地政学的ゲームの単なる駒になることに抵抗するかもしれないです。
国際的圧力:米国を筆頭とする西側諸国は、この地域における中国やロシアの覇権を受け入れそうになく、外交的、経済的、さらには軍事的手段によって対抗する可能性があります。
アフリカ連合の役割: アフリカ連合が仲介役となり、アフリカでの解決策を提唱し、外部からの支配を阻止する可能性があります。
予測不可能な結果: ロシアと中国内部の力学、不測の事態、地域の勢力争いが、予期せぬ結果を招き、彼らの計画を複雑にする可能性があります。

中国とロシアが東アフリカにおける地域覇権の確立に成功するかどうかを確実に予測することは不可能です。可能性がある一方で、彼らの成功を制限するかもしれない対抗勢力を考慮することは重要です。


以下は、検討すべき追加的なポイントです。

21世紀における「覇権」の性質は、過去の歴史的モデルとは異なる可能性が高いです。中国やロシアのような国々が、軍事的優位性よりも、経済力、技術的優位性、パートナーシップを通じて影響力を行使することで、より拡散的で多面的なものになる可能性があります。

米国主導の世界秩序の将来は依然として不透明です。課題に直面しているとはいえ、その終焉を宣言するのは時期尚早です。同盟関係の回復力、新たな経済的現実への適応力、そして効果的なリーダーシップが、その関連性の継続を左右するでしょう。

東アフリカ諸国の機関は極めて重要な役割を果たしています。東アフリカ諸国が団結し、地域的な解決策を追求し、外部からの操作に抵抗する能力は、自らの運命を切り開き、望ましくない覇権主義を阻止する上で極めて重要です。

東アフリカとそれ以外の国々の動向について常に情報を入手し、多様な情報源からの情報を批判的に分析し、これらの複雑な地政学的問題について建設的な議論に参加することが重要です。

【関連記事】

北大で発見 幻の(?)ロシア貿易統計集を読んでわかること―【私の論評】ロシア、中国のジュニア・パートナー化は避けられない?ウクライナ戦争の行方と世界秩序の再編(゚д゚)!

戦争ドミノに入った世界情勢 いかに秩序を守るか―【私の論評】自由世界の守護者としてのトランプ:米国第一主義が拓く新たな世界秩序再編(゚д゚)!

0 件のコメント:

経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき―【私の論評】エネルギー政策は確実性のある技術を基にし、過去の成功事例を参考にしながら進めるべき

高橋洋一「日本の解き方」 ■ 経産省が素案公表「エネルギー基本計画」の読み方 欧米と比較、日本の原子力強化は理にかなっている 国際情勢の変化を反映すべき まとめ 経済産業省はエネルギー基本計画の素案を公表し、再生可能エネルギーを4割から5割、原子力を2割程度に設定している。 20...