2024年1月10日水曜日

EUのウクライナ支援を阻む「オルバン問題」―【私の論評】EUのウクライナ支援をめぐるオルバン首相の反対論点 - ハンガリーの国益優先かEUの団結損なうか

EUのウクライナ支援を阻む「オルバン問題」

岡崎研究所

まとめ
  • オルバン首相は、ウクライナに対するEUの500億ユーロの支援を阻害し続けている。
  • オルバンの行動の動機は、経済支援の継続である。
  • オルバンはEUの「スポイラー」として機能しており、EUは彼の不適切な行動を制止しなければならない。
  • EUは、オルバン首相と汚い取引をせずに、ウクライナ支援の方途を見出さなければならない。
  • EUは、オルバン首相の行動がEUの機能や存在意義を脅かすことを認識し、毅然とした対応をとるべきである。
オルバン首相


 フィナンシャル・タイムズ紙の12月19日付け社説‘The EU has a messy Orbán problem’は、ハンガリーのオルバン首相が欧州連合(EU)の500億ユーロの対ウクライナ支援を依然として妨害し続けていることについて、EUがオルバン首相と汚い取引をすることなく、「オルバン問題」に対処する方途を見出さねばならない、と論じている。

 社説は、オルバンの行動の動機は、大方カネであり、経済を押し上げ、自分に対する支持を支えるためには、EUの資金がハンガリーに流入し続ける必要があるとしている。また、オルバンはEUを離脱するつもりはなく、有志の諸国とともにEUを「乗っ取ろう」と欲しているが、その目標から遠いところにあると指摘している。

 しかし、オルバンは「スポイラー」としての能力を証明したとし、EU諸国は、彼と彼の仲間の不適切な行動を制止するために、持てる道具を断固使うべきであると主張している。具体的には、EU条約第7条を発動し、ハンガリーの投票権を停止することも可能であることを明確にすべきであるとしている。

 また、加盟国が民主主義や法の支配に逆行する場合、EU資金の提供を封鎖する仕組みを使うことをEU首脳はひるむべきではないと述べている。さらに、ウクライナに対する援助資金については、EUは26カ国の政府間合意による他のルートを見出さねばならないと提言している。

 最後に、社説は、欧州のより広い範囲の安定のために、EUの拡大の可能性が戻って来たことは歓迎であるが、EUはその機能が少数派の人質に取られることを認めることは出来ないと強調している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】EUのウクライナ支援をめぐるオルバン首相の反対論点 - ハンガリーの国益優先かEUの団結損なうか

まとめ
  • オルバン首相はEUのウクライナ支援策に反対している。これはハンガリーの国益を優先するためだと支持者は主張する。
  • しかし、多くのEU加盟国からは、オルバン氏の行動はEUの団結を損ない、ウクライナ支援を妨害するものだと批判されている。
  • 一方、オルバン氏はハンガリーの国益に資する独立したウクライナの重要性を認識しており、完全にウクライナ支援に反対しているわけではない。
  • ただし、支援の在り方には慎重で、資金流用のリスクがあるとして直接支援には反対している。
  • 汚職や資金流用の疑惑が絶えないウクライナで、オルバン氏の懸念は決して杞憂とはいえない。
  • EUはウクライナ支援の正当性と同時に、資金の透明性・適正使用の確保にも配慮が必要だ。
上の記事に出てくるフィナンシャル・タイムズの記事は、煎じ詰めれば「オルバン首相の行動は、EUの機能や存在意義を脅かすものであり、EUは毅然とした対応をとるべきであると主張している」ということです。

EUの旗

ただ、この見解が正しいか、間違いかは、一概には言えないところがあります。

オルバン氏の行動を支持する議論としては、以下のようなものがあります。
 オルバン首相が500億ユーロの援助パッケージに反対することでハンガリーの国益を優先していると主張する人たちがいます。 彼らは、ハンガリーには、特に景気低迷下においては、これほど多額の拠出金を支払う余裕はないと考えています。

ウクライナが援助資金をどのように使用するのかを疑問視し、汚職や不正管理の可能性について懸念を表明する人もいます。

オルバン首相は一部のEU政策を声高に批判しており、この機会を利用して不支持を表明したり譲歩したりしている可能性があります。
オルバン氏の行動に対する反論する議論としては、以下のようなものがあります。 
多くの人は、オルバン首相の行動は、危機の際にEUの団結と団結を弱体化させようとする試みであると見ています。

援助パッケージを阻止すれば、ロシアの侵略からウクライナを防衛する能力に大きな損害を与える可能性があります。

オルバン首相はほとんどの加盟国が重要視している大義への貢献を拒否しながら、EUの資金提供から恩恵を受けていると主張する人もいます。

オルバン首相の行動は、民主主義と法の支配というEUの中核的価値観に対する攻撃であると一部の人は見ています。
オルバン首相は「ハンガリーの安全はウクライナの安全に大きく依存している」と述べています。 オルバン氏はウクライナ政府に直接送金することに懸念を抱いていますが、ウクライナの安定がハンガリーの国益にかなうことを認識しています。

ハンガリー国旗

 オルバン氏によれば、「我々はウクライナが独立した一体国家であり続けることに既得権益を持っている」と語っています。 ウクライナがロシアの支配下に置かれた場合、ハンガリーにとって脅威となり、欧州の安全保障が損なわれる可能性があります。

 オルバン氏は「最も重要なことは、ウクライナが西側世界に属するべきだということだ…ロシアに属すべきではないと信じている」と語っています。 同時にオルバン氏は、大規模な援助を受ける前に、汚職などの問題に対処するために「ウクライナは政治経済改革をする必要がある」と主張しています。

 同氏は、EUは指導者に「白紙小切手」を切らずにウクライナの安全と独立を支援する方法を見つけるべきだと考えています。 鍵となるのは、資金が責任を持って使われ、実際にウクライナ国民の利益となるようにすることです。 [出典:2014年から2017年にかけてロイター通信、ポリティコ、その他メディアとのインタビューから得たヴィクトル・オルバン氏の引用]

オルバン氏は国家主権の忠実な擁護者である一方、ハンガリーの安全保障はウクライナの抵抗や、独立に依存していることを認識しています。 

 しかし同氏は、EUがウクライナ政府に援助や保証を提供する方法については慎重でなければならないと考えています。 現在の支援の仕方では、ウクライナそのものを支援することにはならず、汚職や政治的失政で資金を浪費することになってしまいかねないことを危惧しています。そうでななく、責任ある指導者を支援すべきとしています。

最近でも、汚職や不正の疑いは絶えないです。

ゼレンスキー大統領は9月3日夜のビデオ演説で、オレクシー・レズニコフ国防相(57)を交代させると発表した。国防省では軍の調達などをめぐる汚職疑惑が相次いで発覚しており、事実上の更迭とみられる。ウクライナ側の反転攻勢が続く中での重要閣僚の交代となり、戦況への影響が注目されました。

オレクシー・レズニコフ氏

ゼレンスキー氏は演説で、「国防省には新しいアプローチや軍、社会との新たな関係が必要だ」と述べた。国防省では今年1月、兵士らの食料調達が小売価格の2~3倍で行われていた疑惑が浮上。当時の国防次官が解任され、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされます。

ウクライナでは、徴兵逃れなどでも汚職が指摘されている。ゼレンスキー氏は汚職対策に取り組む姿勢を強調し、米欧からの支援に影響しないよう腐心しています。

レズニコフ氏は2021年11月、国防相に就任しました。ロシアの侵略以降、米欧諸国からの軍事支援取り付けで中心的な役割を果たしてきました。

国防省では昨年1月、食料調達をめぐる汚職が浮上しました。当時の国防次官が解任され、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったのですが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされています。国防省ではその後、別の汚職疑惑も伝えられていました。

レズニコフ氏は、弁護士出身で2021年11月に国防相に就任しました。ウクライナメディアは国防相を辞任後、駐英大使に就任する可能性があると伝えていました。ただ、現在時点では、レズニコフ氏が駐英大使になったという公式の情報はありません。

ウクライナは、ソビエト連邦の崩壊後、汚職と腐敗に苦しんできました。ウクライナは、世界の腐敗指数であるトランスペアレンシー・インターナショナルの調査によると、2012年には180カ国中122位でした。しかし、2014年以降、ウクライナは汚職対策に取り組んでおり、改善傾向が続いています。

 2023年8月には、ウクライナの大統領であるゼレンスキー氏が、汚職に対する取り組みを強化するための法律に署名しました。 この法律は、汚職に関与した公務員や政治家に対する厳しい罰則を設けることを目的としています。しかし、ウクライナはまだ汚職と腐敗に苦しんでおり、改善が必要な状況にあります。

ウクライナ国防省内で汚職や不正行為が懸念されているのは事実です。 ただし、一般化する前に、聞いた情報を注意深く分析し、信頼できる情報源に相談したり確認することが重要です。

ただ一ついえることは、オルバン氏の懸念は決して杞憂として片付けられるものではないということです。

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