2016年11月10日木曜日

トランプ旋風でわかった“インテリの苦悩” ハーバードの学生がトランプ支持を表明できない事情―【私の論評】従来の私たちは、実は半分のアメリカにはノータッチだったことを認識すべき(゚д゚)!


■「ハーバード大学」にも吹き荒れた「隠れトランプ旋風」

粗野で無教養、差別意識を隠そうともしない南部の白人男性たち――そんなイメージで語られがちな共和党候補ドナルド・トランプ(70)の支持層だが、世界中の英知が集うハーバード大学にも、隠れた支持者たちはいる。昨年の夏から1年間、同大学のロースクール(法科大学院)に留学していた山口真由氏が、“隠れトランプ旋風”の実状を明かす。

 ***

トランプ氏
さて、ここまでハーバードにおけるトランプ支持者の“思惑”に触れてきた。だが、トランプを支持していたのは彼らのような熱心な共和党支持者や、キリスト教徒だけなのだろうか。

私は思い出していた。ハーバード・ロースクールの友人であるケヴィンが、

「ヒラリーは信用できない。トランプの方がまだ信用できるよ」

と、酔った勢いで呟いていたことを。

「表現の自由」について学ぶクラスで、リベラルな教授は言う。

「共和党の指名争いは、歴史上稀に見る恥ずべき状態になっている」

トランプを「差別する人」、マイノリティを「差別される人」と表現した教授に対し、授業後の立ち話でケヴィンは不快感を隠そうとしなかった。

その決めつけこそが、ステレオタイプな差別だというのだ。

「すべての人がすべての人を差別していると言った偉人がいるけど、僕も同感だ。マイノリティだってある意味でトランプを“差別”しているんだと思う」

と説く彼の言葉は、ハーバード生だけあって説得力がある。そこで私が、

「なぜ、授業中に教授に反論しなかったの?」

と聞くと、

「一度、授業で同性婚に反対したことがある。授業が終わるとLGBT団体が僕の机まで来て、泣きながら抗議した。“あなたは私たちのことを嫌いなのね。だから、差別するのね”って。もううんざりだよ」

■「差別主義者」のレッテル

ハーバードを卒業した白人男性は、「僕らは自分の意見を自由に表明することができない」という。ポリティカル・コレクトネスが行き過ぎた現在のアメリカでは、白人男性であることはむしろ「原罪」なのだ。努力して好成績を修めても、「優遇されてるからでしょ」と批判されることもあるという。下手に反論すれば「差別主義者」のレッテルを貼られてしまう。

私の留学中に、人種差別に抗議した黒人学生がロースクールのロビーを何カ月も占拠する事件があった。学校側は黒人学生たちに「どきなさい」とは言わないし、彼らが大量に貼り付けたポスターもそのままだ。にもかかわらず、ロビー占拠に抗議した白人至上主義の学生が、トランプのポスターを貼ると学校側によって瞬時に撤去された。

親しくなったハーバードの学生たちも「ロビーを自由に使いたい。占拠はやり過ぎだ」と口を揃えていた。

だが、どうして学校側に抗議しないのか尋ねると、

「自分が矢面に立って“人種差別主義者”のレッテルを貼られたら、この国ではまともに就職できないよ」

とあきらめ顔。

ケヴィンも酔った席での戯言を除いてオフィシャルにトランプ支持を表明することはない。

ポリティカル・コレクトネスが何より重んじられるアメリカ。インテリ層がこれを間違うと大変なことになる。信用を失い、名誉を失い、将来を失う。

トランプ支持を堂々と表明できる、粗野で素朴な南部の白人男性たちはよい。それを公表できない白人インテリ層のなかにこそ、ふつふつと不満が堆積していたのかもしれない。そして、溜りに溜まった鬱憤が、トランプ旋風に一役買ったのではないか。

■アメリカが抱える闇

そう考えると、突然の大失速にも説明がつく。

皆さんはトランプが批判の集中砲火を浴びたビデオについて、少し疑問に思われなかっただろうか。

確かに、下品極まりない内容だ。放送禁止用語の連発である。しかし、11年前の「ロッカールーム・トーク」が、これまで散々、暴言を吐いてきたトランプをここまで追い込むものだろうか。「輪姦は元気な証拠」、「女性は産む機械」等々、日本の政治家だって失言を繰り返してきたではないか。

このトランプのロッカールーム・トークに関する、ハーバードの男子学生たちの見解は興味深い。

トランプが移民を差別し、中国人を敵視しようと、コアなトランプ支持層(主に白人男性)にとって、それは「他者」に対する攻撃だ。どこかの知らない誰かが、トランプの餌食にされているくらいのことだった。

だが、今回は違った。

既婚女性を誘惑したことを、実名を出して告げ、その直後、ブロンドの美しい白人女性にエスコートされる。彼女の肩に手を置くトランプの締まりのない顔を見た時、彼らは一様に生々しさを覚えたらしい。

ギラギラとしたトランプの視線の先にいる白人女性が、自分の恋人や妹、妻や娘と重なった。その瞬間、トランプのむき出しの欲望が自分の愛する家族に向けられたような気持ちになった。彼らはそれに生理的嫌悪感を禁じ得なかったと言うのである。

トランプの「他者」に対する攻撃は、ポリティカル・コレクトネスに疲れ切った人々にとって、ある意味で爽快だったのかもしれない。しかし、「自分の守るべき家族」がトランプの欲望の射程に入っていると知ったとき、共和党のインテリ層の知的な思惑は、「気持ち悪っ……」という感情的な反発の前に、脆くも崩れ去ったのである。

トランプ現象の爆発的な広がりと、あからさまな失速はこう説明できる。

アメリカの行き過ぎたポリティカル・コレクトネスに反発したインテリ層は、自分たちが決して口にできない言葉を連発するトランプに喝采を送った。しかし、結局は、著しくポリティカル・コレクトネスに欠けるトランプの俗物性に耐えられなかった。

トランプを支持した、ハーバードのインテリ層の思惑は、彼らの人間としての感情に勝てなかったとも言える。

移民や女性への差別、格差問題に加え、インテリ層の抱える苦悩まで炙り出したトランプ旋風。

果たして、アメリカが抱える闇を余すところなく暴いたのだろうか。

 ***

特別読物「民主党の牙城『ハーバード大学』にも吹き荒れた『隠れトランプ』旋風――山口真由(弁護士)」より

山口真由(やまぐち・まゆ)

【私の論評】従来の私たちは、実は半分のアメリカにはノータッチだったことを認識すべき(゚д゚)!

昨日のこのブログでは、トランプ勝利の背後に、保守派の鬱積があったことを掲載しました。そうして、その鬱積について私自身の経験を述べました。しかし、私個人の経験では非常に弱いし、そうしてあくまで間接的なものなので、なかなか理解されないのではないかと思い、何か良い記事はないかと探していたら、ブログ冒頭の記事を発見しました。

上の記事は、週刊新潮 2016年11月10日神帰月増大号(2016/11/2発売)の記事であり、おそらくこの記事が書かれたのは、先月あたりと思います。この時点では、トランプ旋風が吹き荒れていたものの、ほとんどの人がヒラリーの勝利、トランプの敗北を信じていました。

この記事も山口真由さんも、そう思っていたのでしょう。そうして、11年前の「ロッカールーム・トーク」の件で、トランプ氏の敗北は濃厚になったと考えていたのでしょう。しかし、今回の選挙結果を見てもわかるように、この「ロッカールーム・トーク」はトランプ氏にとってマイナスに働いたものの、大統領選挙を左右するほどのダメージにはなりませんでした。

山口真由さん
結局のところ、多くのトランプ支持者は、"「自分の守るべき家族」がトランプの欲望の射程に入っている"などとは思わなかったのでしょう。所詮ネガティブ・キャンペーンの一種であり、まさにトランプ氏の言うようにロッカールーム・トークにすぎないと、多くの人は受け取ったのでしょう。

結局のところ、行き過ぎたポリティカル・コレクトネスに反発するインテリ層も結構多かったのだと思います。

そうして、アメリカのリベラル・左派が主張するポリティカル・コレクトネスには確かに行き過ぎの面があることは否めません。

私は、ゲイの人々の性的嗜好はそれは個人の自由としては認めます。しかし、時折非常に疑問に思うことがあります。たとえば、AppleのCEOである、ティム・クック氏が、昨年自らがゲイであることを告白しました。

ティム・クック氏がゲイであろうとなかろうと、私はApple製品を使い続けるでしょうし、そんなことは私にとっては、どうでも良いことです。しかし、ティム・クック氏が告白したときに「自分がゲイであることを誇りに思う」と述べたことには、違和感を覚えました。なぜなら、ゲイでない人はわざわざ「自分がゲイでないことに誇りを持つ」などとは決して言わないからです。

AppleのCEOティム・クック氏
そうして、そうしてアメリカではゲイのカップルの合法化が進められています。私自身は、ゲイの人同士が同棲することなどは別段それで良いと想いますが、さすがにゲイのカップルが普通のカップルと全く同じような法的扱いになることに関しては、やはり抵抗があります。

確かにゲイのカップルには、現在の法体系では不都合なこともあるのでしょう。しかし、だからといって、ゲイのカップルが普通のカップルと法的に全く同じ扱いにするということには、抵抗があります。そこまでしなくても、既存の法を柔軟に運用したり、それでも足りないところは、普通のカップルと同じにするというのではなく、ゲイを前提として新たな立法措置をすることで良いのではと思ってしまいます。そうして、これは、差別ではなく、区別であると思うのです。

そうして、そのように考える保守派の人も米国には多いのではないかと思います。しかし、アメリカのリベラル・左派は、このように思うこと自体を差別だと主張します。これ以上この件について述べると、深みにはまってしまいそうなので、この話自体はここでおしまいにします。

これ以外にも、カメラマンをわざわざカメラパーソンと呼ぶなどの動きもあります。これは、日本にもその動きがあり、多くの人々の賛否両論があります。これについては、以前のこのブログにも掲載したことがあります。その記事を以下に掲載します。
乙武洋匡氏 大島美幸の出産を放送することへの非難を一蹴―【私の論評】当たり前の営みを、できない人たちに配慮するなどという名目で排除したり、言葉狩りをしていてはまともなコミュニケーションが成り立たない(゚д゚)!
乙武洋匡氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では乙武氏の以下のようなツイートを掲載しました。


このツイートに関して、以下のような論評しました。
私たちは、言葉の本来の意味をよく知ってから遣うべきですし、言葉を政治利用したり、無理やり差別用語にしてしまうことや、普通の人々の当たり前の営み表わす言葉を、それをできない人たちに配慮するなどという名目で排除すべきでもありません。 
こんなことが、平然とまかり通っていては、人々がまともなコミュニケーションがとれなくなってしまいます。
確かにカメラパーソンくらいなら、なんとかなるでしょうが、何もかもポリティカル・コレクトネスなどを意識して、差別用語となるかもしれないような言葉をすべて廃止して、早急に違う言い回しにしてしまえば、コミュニケーション・ギャプが深刻になることでしよう。

実際、私はアメリカのFOXnewsなどの動画を視聴していると、大体のことはわかるのですが、特にリベラル・左派の急進派と目される人が話している動画など見ると、一体何を主張しているのかよく飲み込めません。本当に「この人は、一体何を言っているのだ」と思うことがしばしばです。無論、これは私の英語力に問題があるのかもしれませんが、どうもそれだけではないようです。

問題は、ポリティカル・コレクトネスだけではありません。アメリカのリベラル・左派による主張には行き過ぎた面があるのは間違いないようです。これに関しては、アメリカのテキサス州に在住のテキサス親父、ことトニー・マラーノ氏も語っていて、それをこのブログに掲載したことがあります。これは、特に急進的な考えではなく、米国の平均的なアメリカの保守派の考えを集約しているのではないかと思います。その記事のリンクを以下に掲載します。
【痛快!テキサス親父】トランプ旋風には理由があるんだぜ 日本では伝えられない米国の危機的事情―【私の論評】たった1割しか保守系メディアが存在しない米国で国民は保守を見直し、覚醒しつつある(゚д゚)!
テキサス親父こと、トニー・マラーノ氏 
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部のみ引用します。
米国は「移民の国」だ。俺の先祖もイタリアから移住してきた。米国の「建国の理念」に賛同する移民たちが、わが国に活力を与え、発展させてきた。ただ、それは合法でなければならない。トランプ氏が「不法移民を強制送還させる」と主張していることは、ある意味当然といえる。 
 社会主義者の増長は、米国型リベラリズムが、民主党や教育機関、映画などの大衆娯楽を乗っ取った結果だ。彼らは幼稚園のころから「資本主義の邪悪さ」と「社会主義への同情」を刷り込まれた。洗脳だ。自由主義や資本主義の象徴であるトランプ氏は「叩きのめすべき敵」なのだろう。 
 彼らが、トランプ氏を政治的に貶めようとすればするほど、それが逆効果になっている。米国民の多くは「抗議団=米国を3等国に転落させたい連中」とみている。最近、テロリストを支持する集会が開催されたことが、トランプ氏への得票につながったことも、米国民は知っている。 
 かつて、カリフォルニア州は米国全体の流れを決めていたが、今や、他の49州の「軽蔑の対象」でしかない。現在のトランプ旋風は「伝統的な米国を守れ」という国民的運動ともいえる。
この内容は、多少は誇張があるものの、インテリ、非インテリを問わず、アメリカの保守が日頃考えていることなのでしょう。

トニー・マラーノ氏は、「米国型リベラリズムが、民主党や教育機関、映画などの大衆娯楽を乗っ取った結果だ」とのべていますが、これは事実のようです。実際、アメリカのメディアは9割がリベラル・左派であり、アカデミズムの世界もそのような状況で、特に歴史学の分野においてはほとんど100%がリベラル・左派であり、ルーズベルトを礼賛しなければ、歴史学会では生き残れないということをチャンネル・クララで江崎道郎がいたくらいです。その動画を以下に掲載します。


この動画をご覧いただくと、いかにアメリカの歴史学会が偏向していて、日本の歴史を歪めていることがご理解いただけるものと思います。

このような背景があるからこそ、ブログ冒頭の記事のハーバード・ロースクールの学生のような苦悩も発生するのです。そうして、インテリの中にもトランプ支持は多数いたのです。だから、裾野の広い支持者がいたために、トランプは勝つことが出来たのです。

ブログ冒頭の記事で山口真由氏が「トランプ支持を堂々と表明できる、粗野で素朴な南部の白人男性たちはよい」と語っていますが、この言葉から私が想像したのは、「カリフォルニア」という映画に出てくるブラッド・ピットです。ブラッド・ピットは若いころは、このような役や、ジャンキーの役が結構多かったですし、かなりのはまり役でした。


アメリカのメディアは、ポリティカル・コレクトネスをはじめとしたリベラル・保守の考え方を批判したり、異議を唱えたり、今回の大統領選挙では、クリントン支持ではなく、トランプ支持をしたりするような人間は、この映画「カリフォルニア」でブラッド・ビットが扮した、粗野で野蛮な男であるかのように、徹底的にイメージを刷り込んできたのです。

だからこそ、ポリティカル・コレクトネス等が何より重んじられるアメリカで、インテリに限らずこれを間違うと大変なことになり、信用を失い、名誉を失い、将来を失うかもしれないという極端な事態を招いてしまったのです。

そうした、メディア界や教育界、映画などの娯楽界などでは実際そのようなことがあるのでしょう。だから、多くの人はそれを恐れて、「隠れトランプ支持派」となったのです。

だから、今回の選挙戦では、世論調査ではまともな結果が出ずに、最後までクリントン優勢といわれながら、トランプが勝利したのです。

このトランプの勝利に関して、以下のようなツイートを発見しました。
このように感じる人は、アメリカ人でも多いと思います。日々の情報を大手メディアで入手している人は、リベラル・左派であろうが、保守であろうが、このようになってしまいます。そうして、今回の大統領選のトランプ氏勝利の後にメディアが報道してはじめて、リベラル・左派とは考えの違う人がアメリカに半分も存在したことを認識した人も大勢いることでしょう。

意図して意識して、全米唯一の保守系大手メディアであるFOXnewsを視聴するとか、軍の研究機関や保守系シンクタンクのサイトや印刷物を見るようにしなければ、直接対話をするようなことでもなければ、保守系の考え方を支持したり、これに親和的な人がアメリカにも大勢いるということはアメリカ人ですらわかりません。ましてや、私たち日本人はほとんどわかりません。

そうして、今回の選挙でアメリカの保守系の人が大勢いるということが大勢の人にわかつたのですから、私たちも当然のことながら、これからはアメリカにはリベラル・左派ばかりではなく保守系の人が大勢いるということを前提にアメリカを見るべきです。

従来の私たちは、実は半分のアメリカにはノータッチだったことを認識すべきです。

そうして、外務省やマスコミなどもそれを強く認識すべきです。そうでなければ、今回の大統領選のように趨勢を見誤ることになります。

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