2016年11月18日金曜日

麻生大臣を怒らせた、佐藤慎一・財務事務次官の大ポカ―【私の論評】日本の巨大政治パワー財務省の完全敗北は意外と近い?

麻生大臣を怒らせた、佐藤慎一・財務事務次官の大ポカ

なぜこんな人を次官に据えたのか……

田崎 史郎氏
2017年度税制改正について、8月末から9月にかけて盛り上がった配偶者控除見直しの動きが10月上旬、一気にしぼんだ。新聞報道によると、その理由は「衆院解散風」が吹き、有権者の反発を怖れた自民、公明両党が消極的になった、とされている。

だが、首相官邸筋によると、迷走させた張本人は財務事務次官・佐藤慎一と主税局長・星野次彦だという。

彼らは財務省内の合意を得ないまま、与党幹部には「首相官邸の了承を得ている」とウソをつき、暴走した。それを止めたのは副総理兼財務相・麻生太郎と官房長官・菅義偉だった。

 きっかけは「宮沢発言」

まず、経緯を振り返ってみよう。読売、日経新聞は8月30日付朝刊1面で、自民党税制調査会長・宮沢洋一のインタビューを元に次のように報じた。

「配偶者控除見直しへ 自民税調宮沢会長 年末の大綱に方針」(読売)
「配偶者控除見直し検討 自民税調会長 共働きも適用 家族観や社会の変化映す」(日経)

両紙は解説記事なども掲載し、大々的に展開した。読売の記事によると、宮沢は「少子高齢化が予想以上に進展している。日本経済のため、女性の社会進出を増やすことが喫緊の課題だ」、「働く意欲のある方に社会で働いてもらうことが大事だ。専業主婦でパートをやっているのが一番得だという制度はやめたほうがいい」——と語った。

自民党税調会長は税制改正に絶大な権限を握っている。読売、日経両紙がその人物の発言を大きく扱うのは当然のこと。他紙やテレビ局は一斉に後追いした。

宮沢発言を受けて自民党幹事長・二階俊博は同日の記者会見で「今日の女性の社会進出や、専業主婦世帯より夫婦共働き世帯が多くなった時代の変化を考え、税制面でも支援していこうという表れだ。党としても支持していきたい」と述べた。

政調会長・茂木敏充も9月14日、報道各社のインタビューで「できれば年末の税制改正に盛り込みたい」と述べ、来年の通常国会での法改正に意欲を示した。

 麻生が怒り、菅が止めた

宮沢、二階、茂木、それに公明党幹部に根回ししたのが佐藤と星野だった。

35年ぶりに主税局長から次官に就任した佐藤は所得税の専門家として知られる。星野は省内で「次官の腰巾着」と言われている。彼らは配偶者控除見直しを安倍政権が進める「働き方改革」の一環と位置付け、与党の要所を「ご説明」に回った。

配偶者控除は、配偶者の年収が103万円以下の場合に、世帯主の給与所得から38万円を控除し、世帯主の納税額を軽減する仕組み。これを見直す見返りに、佐藤らは「夫婦控除」を導入する方針だった。配偶者控除を廃止すれば増税になるが、夫婦控除を設けることで「増減税中立」を目指した。

一見、良さそうに見えるが、夫婦控除を受けられる世帯主の年収は「800万円~1000万円以下」。これ以上の年収を得ている人は配偶者控除がなくなっただけとなり、年間数万円、税負担が増えることになる。

つまり、年収が少ない人にとっては減税となるものの、多い人にとっては増税となる。社会の平準化は進むが、配偶者控除を「民法上の扶養義務」ととらえるなら、これを無くすことは社会の根幹を揺るがすことになる。

こうした問題点があることに、麻生も菅も気付いていた。茂木の発言の後、麻生が9月16日、「茂木さんは税調会長になったのかなと思った」と嫌みたっぷりに不快感を表したのは、茂木らに根回しした佐藤らに対する当てつけだった。菅は9月上旬、内々「財務省には『調整してみろ』と言ってある。了承なんてしていませんよ」と語っていた。

佐藤らの止まらぬ暴走に、麻生は怒り、菅は止めに入った。

このことが自民、公明両党に伝わり、10月に入って「配偶者控除 廃止見送り 政府・与党方針 年収制限を緩和」(読売新聞6日付朝刊)、「配偶者控除廃止見送り 政府・与党方針 年収制限緩和を検討 来年度改正 夫婦控除創設せず」(日経新聞6日付夕刊)と伝えられるようになった。党税制調査会での論議が行われていないのにいったん決まりかけ、そして消えた。

昨年暮れ、消費再増税時の軽減税率導入を検討した際も、佐藤は対象範囲を生鮮食料品に限ろうとして、当時の自民党幹事長・谷垣禎一を説得した。これに対し、安倍、菅が谷垣を説き伏せた。佐藤は谷垣に結果的に大恥をかかせた。

要するに、佐藤は政治的に実現可能かどうかの判断力が乏しいのである。そんな人物をなぜ、次官に据えたのか——。(文中敬称略)

【私の論評】日本の巨大政治パワー財務省の完全敗北は意外と近い?

上の記事の内容、ほとんど他のメディアでは報道されなかったものの、これは日本の政治にとってはかなり重大なことである可能性があります。

ブログ冒頭の記事の最後のほうに、昨年暮れ、消費再増税時の軽減税率導入を検討した際も、佐藤不手際が掲載されています。これについては、このブログでもとりあげたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
軽減税率をめぐる攻防ではっきりした財務省主税局の「没落」―【私の論評】財務省の大惨敗によって、さらに10%増税は遠のいた(゚д゚)!
攻防の第1幕は安倍官邸の「谷垣」不信から始まった
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事も田崎 史郎氏のよるものです。これに関しては、他のメディアでは触れられてはいませんでしたが、高橋洋一氏は触れていました。以下にほんの一部のみこの記事から引用します。
軽減税率をめぐる政府・与党内の攻防はやはり、首相・安倍晋三、官房長官・菅義偉による官邸の勝利に終わった。 
浮き彫りになったのは、これまで税の決定権限を握ってきた自民党税制調査会と財務省主税局の没落である。財務事務次官の有力候補だった主税局長・佐藤慎一は官邸の意向に逆らい、自ら次官の目をつぶした。
本年6月 官庁人事が発令される前
 佐藤慎一といえば、昨年の軽減税率のときには、財務省主計局の局長として、自民党税制調査会とともに、官邸と戦って、敗北したその人です。

官邸に逆らったにもかかわらず、佐藤慎一氏は、財務次官になりました。これは、官邸側からすれば、逆らったことは帳消しにするから、とにかく財務次官として、官邸の意向には逆らってほしくないとの意図の現れだったと思います。

しかし、これを無視して、配偶者控除の見直し迷走させた張本人は財務事務次官・佐藤慎一と主税局長・星野次彦だというのですから驚きです。

こんなことからも、田崎氏がブログ冒頭の記事で、「要するに、佐藤は政治的に実現可能かどうかの判断力が乏しいのである。そんな人物をなぜ、次官に据えたのか——。」最後に掲載しているのもうなずけるというものです。

民間企業あたりであれば、派閥争いなどのため一度会長などにたてをついた社長候補者が、会長が許して、本来社長候補からは転がりおちた人物を社長に据えたようなものです。この場合、この社長は当然のことながら、会長のために粉骨砕身努力することはあっても、二度とは逆らわないでしょう。それが社会の常識というものです。

しかし、財務省はその社会の常識が通用しないようです。私は、財務省は結局のところ、財務省事務次官のOBの中でも、長老といわれるような人々に操られているのだと思います。

結局、財務省は、官邸や安倍総理よりは、長老のほうを重要視し、その命に従わざるを得ないのでしょう。そうして、長老と目される人もしくは、複数の人々は、隠然たる力を持っていて、霞が関の各省庁や、政治家、民間企業やあるいはマスコミや学問の世界まで、人脈等を構築して、日本の政治に強い影響力を及ぼしつづけてきたのでしょう。

そのため、安倍総理も一度は、消費税増税(8%増税)に踏み切らざるをえないような状況に追い込まれたのでしょう。

それを覗わせるような事実は他にもあります。それに関しては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
臨時国会も安倍政権VS財務省 民進党の本音は消費増税優先か―【私の論評】元々財務省の使い捨て政党民進党にはその自覚がない(゚д゚)!
参院本会議で、民進党の蓮舫代表の代表質問を
聞く安倍晋三首相(左奥右)=9月28日午前
この記事は、今年9月29日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
第192臨時国会が26日召集された。会期は、11月30日までの66日間。一般会計の総額で3兆2800億円余りとなる今年度の第2次補正予算案と、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の国会承認と関連法案の成立がポイントである。安倍晋三首相は「アベノミクス加速国会」と位置づけている。

補正予算に対して、民進党は「借金頼みだ」と批判している。本コラムで述べてきたように、まさに民進党に財務省が乗り移っているかのようだ。

民進党は「景気対策より社会保障」と言うが、野田佳彦幹事長がいるので、本音は「消費増税を優先せよ」だろう。ここも安倍政権対財務省だが、これが今国会の焦点だ。
民進党の代表選挙では、3人全員の候補者が口を揃えて、「増税すべき」としていました。これは、まるで財務省のスポークスマンのようです。

そうして、実際財務省の官僚は足繁く民進党の幹部らのところにご説明資料を持って足を運び、民進党の幹部に増税の正当性を訴え、納得させたに違いありません。そうして、財務省の意向にそって動くことで、何らかのメリットを約束されているのかもしれません。民進党は、かつて民主党であったころに政権を担っていたときですら、財務省のいいなりでした。

それについては、この記事にも掲載しました。その部分を以下に引用します。

"
民進党と財務省といえば、民進党が民主党だったときの民主党政権の最後の、2012年の野田総理による衆院解散に関して、当時みんなの党の代表であった渡辺喜美氏が会見で興味深い話をしていました。その動画を以下に掲載します。


この動画の7:30あたりのところから、渡辺氏が記者になぜこのタイミングでの解散になったのか、問われて以下のように話しています。
「これは、財務省の路線そのものなのであって、とにかく新製権で、予算編成をしたいと・・・。旧政権でつくった予算をグタグタにされるのは困るという財務省の路線が、そっくりそのまま、野田総理を動かしたというだけのことですね。 
党首会談をやったときに、もう自分は財務省に見放されているということを、はっきりと言っていました。その見放された総理が、最後まで財務省路線に乗っからざるをえないと、まあー、非常に情けない内閣ですね」。
後は、ご存知のように野田佳彦氏は財務省の意向を反映した自民党が提案した消費税増税を法定化して民主党政権が壊滅する道を突き進みました。これは、本当に理解に苦しみます。民主党は政権交代直前の選挙の公約では「民主党が政権の座についている間は増税しない」としていました。

民主党政権というと、蓮舫氏による事業仕分けが有名ですが、蓮舫氏がどうして専門知識を有する官僚を「公開処刑」できたのかというと「仕分け人」たちは、財務省が作った“極秘の査定マニュアル”に基づいて発言、追及していたからです。

要するに行政刷新会議の概算要求の無駄を洗い出すという「事業仕分け」は、「政治主導」ではなく、「官僚主導」のパフォーマンスだったのです。何のことはない、官僚官僚の手の上で踊ったに過ぎなかったのです。法的にも何の権限もなく本格化する財務省の査定の下馴らしとPRをしただけだったのです。 
 
事業仕分けをした蓮舫氏
消費税増税を元々決めたのは、自民党であることからもおかわりのように、日本の政治は財務官僚に主導されつづけてきました。しかし、財務省の官僚は選挙で選ばれたわけではありません。

にもかかわらず、財務省はまるで政治集団のように、旧民主党政権を使い捨てにしたり、安倍政権に対しても対峙し強力な力を発揮して、日本の政治に間接的ながら、大きな影響を与えています。

しかし、本来財務省の官僚は、政治家のように有権者から選ばれているわけではありません。それが、政治に介入するのは、明らかに間違いです。財務省といえども、政府の下部機関であることには変わりありません。

しかし、安倍総理は消費税増税を二度も阻止して、財務省に対峙しています。このように、財務省に真っ向から対峙した総理大臣は、安倍総理が初めてでしょう。自民党の多くの議員が、財務省の使い捨てだったにしても、少なくとも安倍総理とそのブレーンの議員などは財務省の使い捨てではなく、何とか官邸主導を貫こうとしています。
"
しかしながら、財務省のあたかも一大政治勢力のように日本の政治を動かす、長老政治にも陰りが見えてきています。その兆候が、軽減税率と配偶者控除見直しをめぐる立て続けの財務省の敗北です。それに今年の安倍総理による、10%増税の再延期の決断です。これは、財務省そのものの敗北です。

麻生財務大臣など、従来は「増税は国際公約」などと述べて、まるで財務大臣ではなく単なる財務省の一スポークスマンのようですが、今回の配偶者控除見直しにおいては、完璧に官邸側にたった行動をしました。

まるで財務省の一スポークスマンのような発言をしていた麻生財務大臣
安倍総裁の任期はご存知のように、2期6年から3期9年に延長されました。麻生氏も今後安倍政権が続く限り、官邸と財務省の対峙の構造は変わらないことを意識しての行動だと思います。機をみるに敏な方なのだと思います。

そもそも、財務省は政府の一下部組織にすぎないものが、一大政治勢力の振る舞う事自体が大きな間違いなのです。

日本でも、財務省が政治勢力のような振る舞いをやめて、本来の機能を担う組織に戻るような一大政治変革を起こして欲しいものです。財務省の官僚や、長老などもどうしても政治に参加したいというのなら、政治家を目指すべきです。安倍政権が続いている間に、これを正して欲しいです。

米国では、あれだけ民主党のクリントン候補が優勢と伝えられていたにもかかわらず、トランプ氏が勝利しました。このブログにも何度か掲載したきたように、アメリカでは、メデイアの9割までが、リベラル・左派に握られていて、保守の声などかき消されていました。しかし、実際にはアメリカには保守勢力が半分は存在していたのです。それが今回明らかになりました。

日本で政治上の最大の問題は、やはり財務省が一大政治勢力のように振る舞い、政治に大きな影響を与えることです。これを正すことが、日本の最大の政治変革です。アメリカでは、リベラル・左派があれだけ権勢を誇っていたのに、選挙ではあっさりと敗北しました。日本でも、財務省の完全敗北も意外と近いのかもしれません。

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