2024年7月31日水曜日

トランプ氏とEVと化石燃料 民主党の環境政策の逆をいく分かりやすさ 米国のエネルギー供給国化は日本にとってメリットが多い―【私の論評】トランプ再選で激変?日本の再生可能エネルギー政策の5つの課題と展望


まとめ
  • ドナルド・トランプ前大統領は、再選された場合にバイデン政権の電気自動車(EV)普及義務を初日に終了すると発言し、民主党の政策を撤回する意向を示した。
  • 自動車規制は国際的な覇権争いの一環であり、EUもエンジン車の新車販売禁止方針を撤回した事例がある。
  • EVの環境への影響は不明確で、発電に多くの化石燃料が使用されているため、EVが本当に環境に優しいかは議論の余地がある。
  • トランプ氏は化石燃料の採掘を推進し、米国を最大のエネルギー供給国にすることを目指している。
  • 日本は、米国のエネルギー供給国化を好都合とし、「小型モジュール式原子炉」や2030年代以降の「核融合」技術を活用することが望ましいとされている。


 ドナルド・トランプ前大統領は、大統領に再選された場合、バイデン政権の電気自動車(EV)普及義務を初日に終了すると述べ、民主党の重要政策を撤回する意向を示した。自動車を巡る規制は各国の覇権争いの一環であり、その方針はしばしば変わる。例えば、欧州連合(EU)は「2035年にエンジン車の新車販売を禁止する」という方針を撤回した。

 ドイツはかつて、日本のハイブリッド車に対抗して「ディーゼル車が環境に良い」と主張していたが、現在はEV化を進める一方で、合成燃料を使うエンジン車を例外とする方針に転じている。そもそもEVが本当に環境に優しいかどうかは定かでなく、発電の多くが石炭、液化天然ガス(LNG)、原油などの化石燃料に依存しているため、電気を作る過程で二酸化炭素(CO2)が多く発生する。CO2を発生させる電気で走るEVと、カーボンニュートラルの合成燃料を使うエンジン車では、どちらが環境に優しいかの答えは簡単には出ない。

 トランプ氏は、民主党の環境政策に対抗する形で、化石燃料の採掘を推進する「ドリル、ベイビー、ドリル」という公約を掲げている。これにより、米国は最大のエネルギー供給国となり、エネルギー価格も安定すると予想される。トランプ政権になれば、気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」からの再離脱も確実視されている。

 日本にとって、米国がエネルギー供給国となり価格が安定することは好都合である。日本は、環境を考慮した「小型モジュール式原子炉」でしのぎながら、2030年代以降の「核融合」時代につなげていくことが望ましい。これにより、エネルギー供給の安定と環境保護の両立が期待される。

 国際政治の中で、日本は欧米からの変化球に対応するため、柔軟なエネルギー戦略を維持する必要がある。EVは長期的には普及すると考えられ、電気は扱いやすいエネルギーであるため、自動車の電化は不可避といえる。しかし、EV化は一直線には進まない可能性があり、基本となる電力をいかに安く生産できるかが重要である。日本は、エネルギー供給の安定と環境保護を両立させるため、柔軟な対応が求められる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプ再選で激変?日本の再生可能エネルギー政策の5つの課題と展望

まとめ

日本の再生可能エネルギー政策の5つの課題と展望は以下5つつに集約される。
  • トランプ前大統領が再選された場合、化石燃料の利用が推進され、再生可能エネルギーへの依存が減少する可能性が高い。
  • 日本のエネルギー自給率は低く、当面は化石燃料に頼る必要があり、再エネは実験的な取り組みに留めるべきである。
  • 日本が中国からの再エネ製品を大量に輸入し続けることは、トランプ政権からの貿易摩擦を引き起こすリスクがある。
  • 日本の再エネ政策は公的資金に依存しており、固定価格買取制度(FIT制度)による負担が国民にかかっている。
  • 再生可能エネルギーの発電コストは高く、市場原理による効率化が不十分であるため、バランスの取れた、化石燃料を重視するエネルギーミックスを目指すべきである。将来は、小型モジュール炉、核融合によるエネルギーに転換すべきである。
これら、5つについて以下に解説します。

ドナルド・トランプ前大統領が再び大統領に就任した場合、EV車だけにとどまらず、再生可能エネルギー(再エネ)政策も大きな転換を迎える可能性が高いです。トランプ氏の「ドリル、ベイビー、ドリル」というスローガンは、米国内の豊富な化石燃料資源を有効活用し、エネルギー自給率を高め、経済成長を促進する意図を示しています。この方針は、短期的なエネルギー安全保障と経済成長を重視する現実的なアプローチと言えます。



実際、化石燃料の利用は世界的に増加傾向にあります。国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、2022年の世界の石炭消費量は過去最高を記録し、2023年もさらに増加する見込みです。また、天然ガスの需要も2022年に若干減少したものの、2023年には回復し、今後も増加すると予測されています。

再エネは、その非効率性と高コスト、さらに不安定な供給という本質的な問題を抱えています。日本のエネルギー自給率は12.1%と極めて低く(資源エネルギー庁、2019年データ)、安定的なエネルギー供給のためには、当面は化石燃料に頼らざるを得ない状況です。

将来的には、小型モジュール炉や核融合などの新技術がエネルギー問題の解決に貢献すると期待されています。例えば、日本原子力研究開発機構は2050年頃の核融合発電の実用化を目指しています。これらの技術が実用化されるまでの間、エネルギー効率の低い再エネに過度に依存するのではなく、化石燃料を効率的に活用することが重要です。

米Westinghouse Electric Companyの小型モジュールを収めた建物

世界的にも、再エネへの過度な依存からの転換が見られます。例えば、ドイツでは2022年に石炭火力発電所の再稼働を決定し、フランスでは原子力発電の新規建設計画を発表しています。これらの動きは、エネルギー安全保障と経済性を重視する傾向を示しています。

日本においても、再エネは実験的な取り組みに留め、主要なエネルギー源としては化石燃料や原子力を活用すべきです。経済産業省の資料によると、2030年度の電源構成目標では、再エネは36〜38%に留まっており、残りは原子力や火力発電で賄う計画となっています。

さらに、日本が再エネにこだわり続け、中国からの太陽光発電パネルなどの再エネ製品を大量に輸入し続けることは、トランプ政権によるバッシングの対象にもなり得ます。トランプ氏は過去にも中国製品に対して強硬な姿勢を示しており、再エネ製品の大量輸入は米国との貿易摩擦を引き起こす可能性があります。これにより、日本のエネルギー政策が国際的な圧力にさらされるリスクが高まります。

また、日本の再エネ政策は公的資金に大きく依存するスキームとなっています。固定価格買取制度(FIT制度)を通じて、2012年の導入以降、2021年度までの買取費用総額は約23.5兆円に達しています。この費用は最終的に電気料金に上乗せされ、国民が負担しています。

2021年度の賦課金総額は約2.7兆円で、標準家庭で年間約8,400円の負担となっています。さらに、再生可能エネルギー関連の補助金も多額に上ります。例えば、2021年度の経済産業省による「再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」の予算は50億円でした。


これらの公的資金の大規模な投入にもかかわらず、日本の再生可能エネルギーの発電コストは国際的に見て依然として高い水準にあります。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の2020年のレポートによると、日本の太陽光発電のコストは他の先進国と比べて約2倍高いとされています。このような状況は、再生可能エネルギー政策が公金に依存し、市場原理による効率化が十分に機能していない可能性を示唆しています。

結論として、短中期的には再エネは実験程度にとどめ、化石燃料の効率的な利用を継続しつつ、長期的には小型モジュール炉や核融合などの新技術の開発・実用化を進めることが、日本のエネルギー安全保障と経済成長を両立させる現実的な方策と言えます。再エネへの依存は避け、バランスの取れたエネルギーミックスを目指すべきです。

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