2025年9月21日日曜日

移民・財政規律にすがった自民リベラル派──治安も経済も壊して、ついにおしまい


 まとめ

  • 宏池会の変質と誤認識:池田勇人の「所得倍増計画」は国内需要刺激策だったが、大平・宮澤期以降、財務省の「赤字」呪縛を信じたことが元凶となり、宏池会はグローバリズム路線へ転換した。
  • グローバリズム忌避の拡大:かつて「国際協調=善」と考えられていたが、近年は外国人問題を契機にその幻想が崩壊し、グローバリズム政策は日本でも支持されにくくなっている。
  • 石丸伸二の蹉跌:国際協調・多文化共生を当然視するグローバリスト的姿勢が、国民の空気と乖離し、支持を得られなかった。
  • 欧米の大混乱:フランスでは国民連合が躍進し、移民政策を巡る暴動や抗議が頻発。ドイツでもAfDが第二党に浮上し、米国ではトランプ再登場と国境問題が国家の統治危機となっている。
  • 自民党リベラル派の終焉:「大テント政党」としての安定は失われ、総裁選の争点は「積極財政」と「外国人問題」へ。宏池会=リベラル派が再び主流に返り咲く可能性はもはやない。

1️⃣宏池会の変質と「赤字」呪縛の誤り

自民党のリベラル派、すなわち宏池会を中心とした「財政規律・官僚協調・通商自由化」を柱とするグローバリズム路線は、もはや総裁選の勝敗にかかわらず終焉に向かっている。

もともと宏池会は池田勇人の「所得倍増計画」に端を発する。この計画は、1960年に打ち出された10年で国民所得を倍増させる構想であり、減税と公共投資による国内需要拡大を主軸とした積極的な経済政策であった。

池田勇人氏

その後、高度経済成長の終焉と1970年代のオイルショックを経て、政府財政は国債発行が常態化する状況へと移行した。ここで注意すべきは、「赤字国債」「財政赤字拡大」という言葉が誤解を招いてきた点である。実際には日本政府は自国通貨建て国債を発行しており、財政破綻の危険は当時も現実的ではなかった。にもかかわらず、財務省のアドバイスを信じて「赤字」と認識したことが、大平・宮澤時代以降の“財政規律重視”路線の元凶となった。

しかし戦後一貫して日本国債は国内消化率がほとんどであり、金利上昇や国債暴落の危機は起きていない。むしろ「赤字」という言葉の呪縛が、政策の自由度を狭めたのである。こうした誤認識を背景に、宏池会は大平正芳や宮澤喜一の時代に「通商自由化・官僚協調・財政規律重視」を基調とするグローバリズム路線へと舵を切った。

2️⃣グローバリズム忌避と外国人問題の顕在化

10年ほど前までは、「国際協調」と聞けば自動的に「良いこと」と受け止められ、「国際連合」をはじめ「国際」の冠がつけば無条件に「善」と考える有権者が多かった。

しかし近年、その思い込みの呪縛から解放された人々が増え、グローバリズム政策はかつてのように支持されなくなった。その背景には、まず欧米で表面化した外国人問題がある。大量移民の流入が治安不安、文化摩擦、社会保障制度の圧迫を引き起こし、その現実が「グローバリズム=善」という単純図式を打ち砕いた。

日本でも技能実習制度や外国人労働者問題を通じて同様の不安が可視化し、グローバリズム忌避が広がっている。石丸伸二の政治的蹉跌(さてつ)、すなわち国民の期待を大きく裏切る形でのつまずきは、彼がグローバリストとして国際協調を過信した結果にほかならない。彼は典型的なグローバリストであり「国際協調」「多文化共生」を当然の前提として主張した。だが、国民の多くはむしろ外国人受け入れ拡大への反発を強めており、時代の空気と逆行した姿勢が票につながらなかった。

都知事選で敗北した石丸伸二、地域政党「再生の道」は、擁立したすべての都議会議員候補者が落選

この動きは日本だけではない。欧州では移民流入が治安問題や社会分断を深刻化させ、暴動や抗議デモが相次いでいる。フランスでは移民政策を巡る国民的対立が激化し、警察との衝突が繰り返されている。ドイツでも移民施設を巡る地域住民の反発が広がり、国内政治の不安定要因となっている。

米国では国境管理問題が大きな火種であり、南部国境では不法入国者の急増が地方政府の負担を圧迫し、連邦政府と州政府の対立を激化させている。ニューヨークやシカゴなど大都市では受け入れ施設が逼迫し、住民との摩擦が表面化。結果として「移民問題=国家の統治危機」として、国政の最重要課題の一つに浮上している。

その結果欧州ではフランスの国民連合(RN)が2024年欧州議会選挙で約31%の得票を獲得し、マクロン与党を大きく引き離した。ドイツでも「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持率20%前後で第二党に浮上している。米国ではトランプが大統領に返り咲き、反移民と反グローバリズムを旗印に再び国民的人気を集めている。

かつては陰謀論めいた扱いを受けたグローバリズム批判が、今や欧米を含め世界的に現実的な政治課題となり、日本も例外ではない。

3️⃣派閥の機能と「大テント政党」の揺らぎ

2023〜24年に発覚した派閥パーティー不記載問題は、宏池会を含む主要派閥を解散に追い込み、資金配分・人事調整といった政治運営の基盤を崩壊させた。しかしここで留意すべきは、派閥それ自体が「悪」であるわけではないという点だ。

派閥は本来、政治家が経験を積み、人材を育てるための学校のような機能を持っていた。それを「政治とカネ」の文脈だけで悪と決めつけたのは、マスコミによる刷り込みである。派閥解体は結果的に自民党の人材育成と政策形成能力を弱めたとも言える。

さらに、岸田文雄の退陣、石破茂の短命政権、そして現在の総裁選に至る過程で、自民党は「大テント政党」としての安定性を完全に失った。大テント政党とは、保守からリベラルまで幅広い政治思想を一つの党に抱え込み、選挙での勝利を優先してきた“寄り合い所帯”型の組織を指す。しかし派閥解体とリベラル派の衰退により、そのバランスを維持する力は急速に縮小している。

自民党総裁選後の両院議員総会で、あいさつを終えた岸田首相(左)と石破茂新総裁昨年9月27日

世論も宏池会の立場を後退させている。石破政権の支持率は20%台にまで低下し、参院選では与党が過半を喪失。国民の期待は「生活直結の即効性ある政策」と「外国人問題への明確な対応」に傾き、増税や金融引締めを重んじるグローバリズム的処方箋は、選挙での支持を得にくくなった。

こうした環境下で行われる総裁選は、「保守かリベラルか」という従来の軸ではなく、「積極的な景気刺激策をどこまで打ち出すか」と「外国人問題にどう向き合うか」という二つの大争点が交錯する戦いとなっている。高市早苗が勝てば積極財政と防衛強化に加えて外国人受け入れへの慎重姿勢が前面に出る。他方、小泉進次郎が勝っても「減税と賃上げ」を掲げる彼の姿勢は宏池会的リベラリズムとは異なり、むしろ時代の空気を意識した対応を取らざるを得ない。ただし、小泉進次郎は自民党リベラル派と同じくマクロ経済を全く理解しておらず、結局彼が総裁になったとしてもその政策は成就しないだろうが、それにしても、もはや「減税だけはさせない」などとは言えない。

いずれにせよ、宏池会を中核とした自民党リベラル派=戦後日本のグローバリズム路線が再び主流に返り咲くシナリオは、もはや存在しないのである。

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