2025年10月25日土曜日

国連誕生80年──戦勝国クラブの遺産をいつまで引きずるのか

まとめ

  • 国連は「連合国」体制の延命装置であり、1945年の構造を今も引きずっている。常任理事国の拒否権が紛争解決を麻痺させ、戦後秩序の惰性だけが残った。
  • 理念の裏で資金と承認をめぐる政治が肥大化している。「人権」「ジェンダー」「多様性」などの旗印の下で、実効よりも象徴を優先する構造が国連機関に広がった。
  • UNRWAの不祥事は理想を掲げる国連の腐敗を象徴する事件だった。職員の一部がハマス攻撃に関与した疑惑を受け、米・英・豪など主要国が拠出を停止した。
  • 米国はトランプ政権期に国連への資金依存を見直し、実効性を問う路線へ転換した。UNRWA拠出打ち切りや人権理事会離脱は、理念より現実を重視する判断だった。
  • 国連の「先住民族」政策は日本にもねじれを生んだ。アイヌをめぐる国際的枠組みは定義が曖昧なまま政治化・利権化し、国際承認が目的化している。
1️⃣1945年の影に縛られた組織

国連ビル

国際連合(United Nations)は第二次大戦の惨禍を繰り返さないために生まれた。だが“United Nations”の原義は「連合国」、つまり戦勝国連合である。常任理事国と拒否権という設計は、その性格を今も露骨に残す。世界の重心は移り、冷戦も終わった。それでもひとつの拒否権で紛争対応が止まり、会議と声明だけが積み上がる。理念の看板は色あせ、現実の戦火の前で手足が止まる──この構図こそ国連の病巣である。

戦後の専門機関でも力学は変わった。国連食糧農業機関(FAO)は2019年以降、中国の屈冬玉がトップに就き、組織運営を主導してきた。国際電気通信連合(ITU)は2015〜2022年の間、中国出身の趙厚麟が事務総長を務め、その後は米国出身のボグダン=マーティンに交代した。国連機構の舞台は、価値の普遍を競う場ではなく、現実の影響力を取り合う場へとすっかり様変わりしたのだ。(FAOHome)
 
2️⃣理想の仮面と資金の流路──アイデンティティー政治の装置化

「人権」「ジェンダー」「先住民族」。美しい言葉は、資金と承認をめぐる政治の標語にもなる。国連や関連機関のプログラムは各国の拠出金を梃子に、無数のNGO・実施団体へと再配分される。成果よりも“国際的承認”の獲得が目的化するとき、事業は延命し、報告書は増える。理想は掲げる。だが、現場で何が変わったのか──そこが薄い。

UNRWA職員を装ったテロリスト・ハマスを象徴する画像

象徴的なのがUNRWAである。2024年1月、イスラエルの指摘を受けて、国連はUNRWA職員の一部が10月7日のハマス攻撃に関与した疑いを調査し、職員の解雇に踏み切った。米国、英国、豪州、カナダ、フィンランド、オランダ、イタリアなど複数の国が相次いで資金拠出を停止・凍結した。理想の看板を掲げる機関が、信頼の根幹でつまずいた現実は重い。(Reuters)

国連の紛争関与は“中途半端”になりがちだ。シリア停戦の仲介は決定打にならず、南スーダンや他地域でも平和維持はしばしば後追いになった。ルワンダ、スレブレニツァでの失敗は歴史に刻まれた。介入しても遅く、介入しなくても弱い(存在感や影響力がない)──この矛盾は、機構と権限の設計の古さから来ている。

米国の態度は、ここを鋭く突いた。トランプ政権は2018年に国連人権理事会から脱退し、同年UNRWAへの拠出を打ち切った。価値観ではなく実効、象徴ではなく費用対効果を問うという宣言である。その後、米政府は一部の国連関連拠出を段階的に見直し、国益と整合しない分野にブレーキをかけた。(Reuters)
 
3️⃣日本への波紋──「先住民族」枠組みと政策のねじれ

国連を批判するトランプ大統領

国連は2007年に「先住民族の権利宣言(UNDRIP)」を採択し、各国に尊重を求めた。日本政府は2008年、アイヌを先住民族と認める立場を表明した。だが国連は法的に硬い定義を持たず、運用は幅が広い。学術的にも起源と文化形成は多層で、先住性の評価には議論が残る。要するに、“先住民族”と断じ切れるほど定義が固いわけではないのに、国際的承認と国内制度化が先に走った。この順序が、国内の議論を細らせ、政策を利権と補助の回路へと滑らせたのである。

ここで大切なのは、文化の尊重と政策の実効を分けて考えることだ。歴史と地域の実相を丁寧に見ないまま、上から「先住民族」ラベルを貼ると、現場は硬直し、検証は甘くなる。国際勧告に合わせること自体が目的化すると、税金は理念の看板に吸い込まれ、暮らしの改善はおざなりになる。

結論は明快である。国連は、戦勝国体制の設計を引きずったまま、拒否権というおもしで身動きが取れず、専門機関も影響力ゲームに巻き込まれている。理想を語りながら、資金の流路は政治を肥やし、失策は現場に落ちる。UNRWAの一件は、看板と実態のずれを白日にさらした。米国が拠出や関与を減らしたのは、感情ではなく計算の結果である。(Reuters)

日本はどうするか。答えは簡単だ。国連中心主義から距離を取り、主権と同盟を基軸に、必要な協力は二国間・小多国間で組む。文化は自分たちで守り、政策は自分たちで検証する。戦後の記念碑を守るために金を注ぎ込む時代は終わった。これからは、結果を出す仕組みに金を使うべきだ。

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