まとめ
- 日本への新関税15%は、日米で説明が食い違い、米国側文書には日本に関する軽減措置が一切明記されていない。
- EUは防衛費GDP比5%への増額を制度として明記し、米国との協力を「文書化」することで関税軽減を勝ち取ったが、日本は口頭レベルの曖昧な合意にとどまった。
- 石破政権は中国寄りの姿勢と保守派排除によって、外交・通商・安全保障の専門性を喪失し、米国との交渉力も著しく低下している。
- 安倍政権は日米同盟や貿易協定で米国に明文化させる「書かせる力」を発揮しており、その外交スタイルと胆力の違いが際立つ。
- 「書かせる力」を失った今の日本外交では、国民や企業が代償を負う構造が続く。国家の信頼を守るには、再び文書化させる胆力と構想力が必要である。
日本政府は日米合意の直後、関税の運用方針として「15%未満の関税は15%に引き上げ、15%以上の関税は据え置き」と説明していた。自動車関税についても、現在の27.5%から15%に引き下げられるとアナウンスされた。
しかし、問題はその“合意”の中身にある。米国側の大統領令や通商当局の文書には、日本に対する軽減措置が一切記載されていなかったのだ。EUについては関税緩和の明記があったにもかかわらず、日本だけが書かれていない。「書かれなかった約束」こそが、日本外交の最大の落とし穴であった。
🔳「書かせる交渉力」の欠如が明暗を分けた
この不平等の根底には、日本の外交姿勢の問題がある。日本は長年、アメリカに対して過剰なまでに低姿勢を貫いてきた。安全保障で依存し、経済でも譲歩を繰り返す。米国にとって、日本は「押せば引く」都合の良い交渉相手と化している。
対照的に、EUは自らの立場を制度で明示した。イランの核開発に対し、アメリカが軍事的に行動したことを受け、NATO加盟国は防衛費をGDP比5%まで引き上げると明文化した。これは単なる数字の約束ではない。「米国と運命を共にする」という政治的意思を制度で示した結果、EUには関税の緩和措置が文書として確保された。
一方の日本は、防衛費の2%目標すら「将来的に目指す」という曖昧な表現にとどまり、具体的な制度設計も示さなかった。これでは信頼も得られなければ、譲歩も勝ち取れない。
さらに石破政権の問題も大きい。政権発足以来、中国との融和姿勢を強め、保守派を冷遇。外交・通商・安全保障の専門家たちが次々と排除された。その結果、交渉の現場には理念も経験も乏しい人物ばかりが並ぶこととなった。これでは「書かせる」どころか、「聞き返す」ことすらままならない。
🔳安倍政権が体現した「書かせる力」とは何だったか
今の外交がここまで無力化したのは、かつて存在していた交渉力を失ったからだ。安倍晋三政権こそ、「書かせる外交力」を体現した時代である。
2017年、安倍政権はトランプとの首脳会談で「日米同盟は地域の平和と安定の礎である」とする文言を、共同声明に書かせた。2019年の日米貿易協定では、農産品の関税水準が「TPP以上にはならない」との条項を文書に明記させた。これにより国内の農業団体の反発を抑え、外交成果として堂々と発表することができた。
ここにあるのは、「言った言わない」では済まされない世界で戦うための力である。発言を紙に書かせ、署名させ、国際社会に示す。これこそが国家の信頼であり、外交交渉における本当の成果だ。
🔳書かせる力を失った国に、未来はない
今回の「書かれなかった約束」は、日本がもはや交渉の場で尊重されていないという厳しい現実を突きつけた。制度で示す意思もなく、言葉を文書に落とす力もない。その代償を払わされているのは、日本の企業であり、国民である。
「交渉力」とは、声を荒らげることではない。紙に書かせる力こそが、国家の尊厳を守るのだ。かつてそれができた日本に、いま必要なのは、再び世界に対して書かせるだけの胆力と構想力である。書かせる力を持たない国に、未来はない。
「交渉力」とは、声を荒らげることではない。紙に書かせる力こそが、国家の尊厳を守るのだ。かつてそれができた日本に、いま必要なのは、再び世界に対して書かせるだけの胆力と構想力である。書かせる力を持たない国に、未来はない。
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