まとめ
- 自民党は参院で過半数を失い求心力が低下したが、綱領に「保守」「改憲」を明記する本来の保守政党であり、保守系は“ガス抜き要員”ではないという立場を再確認した。総裁選は推薦人20人が必要で、運用次第で政局は大きく動く。
- 現状打開には、自民党内保守×参政党の保守的潮流×日本保守党×草の根・保守メディア・論壇を横断連結して結束を固めることが要諦だ。
- 国家運営の土台はエネルギーであるとの前提に立ち、短中期はLNGで安定を確保しつつ既存原発を活用、並行してSMRを立ち上げ、長期は核融合へ投資する「多層戦略」を採る。家計・企業負担となる再エネ賦課金は見直し(縮減・廃止)を争点化する。
- 技術ロードマップは、SMRの国際連携・国内整備を進めつつ、核融合はJT-60SAで運転知見を蓄積し、ITERの工程(D-T運転の段階的開始見通し)と接続して2030年代の発電実証、2040年代の商用化を狙う。
- 象徴的リーダーには高市早苗氏が最適と評価する。政・官・党の実務経験(経済安保担当相、総務相、政調会長)、安保・外交での一貫性、エネルギー戦略との整合性、世論調査での競争力という点で条件を最も満たす。
石破茂内閣は昨年秋に発足し、今年7月20日の参院選で与党(自民・公明)が過半数を割り、政権は上下両院で“少数与党”となった。総裁である石破首相が続投表明をしつつも、党内外から責任論と路線論が交錯する構図だ(選挙の結果と与党の過半数割れは nippon.comの選挙分析(日本語)/同(英語) 参照)。
自民党のルール面を押さえる。総裁選は党則と「総裁公選規程」に基づき、立候補には国会議員20人の推薦が必要である。運営の細目は執行部の裁量余地が小さくないが、規程が示す枠(推薦人要件、投票主体など)が基盤である点は変わらない。自民党は「立党宣言・綱領」に保守政党であること、そして「憲法改正を目指す」ことを明記してきた事実も確認しておくべきだ。
🔳自民保守は“ガス抜き”ではない――勢力図と再結集
SNSの保守層が自民は「所詮ガス抜き」と辛らつな反応が目立つように |
「自民党保守系は党のガス抜き要員にすぎない」という揶揄がある。だがこれは間違いだ。第一に、綱領上の自己規定は保守であり、改憲推進を掲げるという“党の芯”がある(前掲の綱領・改憲特設サイト 自民党 憲法改正実現本部 参照)。第二に、数の上でも保守色を持つ議員層が最大であることは衆目の一致である。確かに派閥資金問題を経て派閥は形式的に解体・縮小し(派閥解体の難しさを解説する論考 参照)、旧来型の“締め付け”は弱まった。だが、だからこそ理念軸での結束が効く。左派リベラル・対中融和的な結束の強さに押され、総裁選の力学で主導権を奪われたという反省は重い。ここからの反転には、保守が“同盟”を組むしかない。自民党内保守、日本保守党、参政党の保守層、他党保守系、草の根・メディア・論壇まで、横串に束ねる発想である。象徴としての人選は効果が大きい。たとえば高市早苗氏のように、改憲・安保・エネルギーに明快な旗を立てられる総裁像を担ぎ、以後は“数の力”を健全に回しながら、保守内部で政権交代が起こり得る仕組み(政策競争の土俵)を整えるべきだ、という提案である。
新勢力の動きも直視する。参政党は党員主導・草の根色の濃い“参加型”の運営を打ち出しており(公式の政策ページ)、保守層を含む大衆政党志向が強い。他方、日本保守党は綱領・政策の明確さが前面に出る“理念先導型”の保守政党で、エネルギー・税・移民などで明瞭な選好を提示している(党公式サイト /政策詳細は後述リンク)。7月の参院選で日本保守党は比例で議席を得て国政政党としての足場を固め、存在感を一気に増した(例:比例上位候補の当選報道として 毎日新聞の速報)。“破竹”の言を控えても、短期間での到達点としては十分に大きい。支持層の細かなデモグラフィックについては、公的な大規模データの公開がまだ限定的であるため、確定的断言は避ける。
🔳なぜエネルギーを最優先に据えるのか――安保・外交・改憲を支える土台
安保、外交、そして改憲。三つの論点はいずれも国家の大黒柱だ。だが、それらを支える“根太”がエネルギーである。供給が揺らげば、防衛生産も外交交渉力も財政運営も脆くなる。中東有事とホルムズ海峡への依存はアジアの急所であり、日本の脆弱性は繰り返し指摘されてきた(APの分析記事)。ゆえに、当面は安価で機動的な“つなぎ”のエネルギーとして、天然ガス(LNG)へのフォーカスを強めるべきだ。
そのうえで、中長期の“勝ち筋”を二本柱で描く。第一がSMR(小型モジュール炉)、第二が核融合だ。SMRは工場モジュール化で建設リスクを抑え、系統安定と産業熱供給の両面で使い勝手がよい。政府は国際連携で「2030年前後の技術実証」をめざす方針を示してきた(政策枠組みの一端は 経産省資料(英)/資源エネ庁の解説記事(英)/2025年版エネルギー白書・原子力章 参照)。規制は、推進(経産省・資源エネ庁)と規制(原子力規制委員会)の分離が前提で、独立性の高い三条委員会体制が安全確保の要である(原子力規制委の位置づけ解説)。
そのうえで、中長期の“勝ち筋”を二本柱で描く。第一がSMR(小型モジュール炉)、第二が核融合だ。SMRは工場モジュール化で建設リスクを抑え、系統安定と産業熱供給の両面で使い勝手がよい。政府は国際連携で「2030年前後の技術実証」をめざす方針を示してきた(政策枠組みの一端は 経産省資料(英)/資源エネ庁の解説記事(英)/2025年版エネルギー白書・原子力章 参照)。規制は、推進(経産省・資源エネ庁)と規制(原子力規制委員会)の分離が前提で、独立性の高い三条委員会体制が安全確保の要である(原子力規制委の位置づけ解説)。
出典)© 2021 Joint Special Design Team for Fusion DEMO All Rights Reserved.(原型炉設計合同特別チーム) |
核融合は「日本が勝ちにいける」戦略分野だ。国内では、JT-60SAが世界最大級の超伝導トカマクとして2023年10月に初プラズマ達成、統合試運転を重ねている(QSTのリリース/Fusion for Energyの発表)。国際協力の要であるITERは、2024年の「In a Few Lines」で工程を見直し、D-T運転開始は2039年見通しを公表した(ITER公式の要約ページ/マックスプランクIPPの解説)。日本政府も「2030年代の発電実証」に向け明確化を進める方向を示した(内閣府・フュージョン戦略(改定素案)/文科省・委員会サイト)。
ここで再エネ賦課金だ。家計・企業コストの観点からは、電気料金の構造的圧力になっている。2025年度の標準的な賦課金単価は3.98円/kWhと公表されている(資源エネルギー庁の発表(英))。負担の見直し、とくに景気と産業競争力を重視する立場からは、賦課金の段階的縮減や廃止を求める声が強い。日本保守党は政策として「再エネ賦課金の廃止」を明記しており、保守連合の共通公約に据えやすい論点である。筆者の結論は明快だ。短中期は天然ガスを基軸に電力安定を確保しつつ、SMRを最速で立ち上げ、核融合は国家総力戦で前倒しする。その“橋”としての化石燃料重視は現実主義であり、安保・外交・改憲のいずれを進めるにも不可欠の土台である。
最後に、政局への帰結をもう一度明確にする。自民党は“左派リベラル・親中”に乗っ取られたという憤懣が保守層に強いのは事実だが、これは見方の問題でもある。派閥解体後の“自由化”で思惑が表に出やすくなり、結果として結束で劣った――それが敗因の核心である。ここからの挽回は、理念で束ねる横断連携と、象徴的リーダーの下で“勝てる政策”(とくにエネルギー)に集中投資することだ。保守はもう“ガス抜き”ではない。国家の屋台骨をもう一度組み上げる当事者である。
🔳象徴的リーダー――なぜ高市早苗氏なのか
高市早苗氏 |
結論から言う。現状で象徴的リーダーに最も相応しいのは高市早苗氏だ。理由は四つある。
第一に、経験と実績だ。高市氏は岸田内閣で「経済安全保障担当相」を務め、内政・技術・安全保障が交差する最前線で意思決定を担った。過去には総務相を歴任し、党内では政調会長も務めた(自民党公式プロフィール)。この“政・官・党”の三面経験は、エネルギー・半導体・安全保障が一体化する時代に強い武器である。
第二に、安保・外交での骨の通った姿勢だ。高市氏は保守色が明確で、歴史認識や安全保障で一貫していることは国内外メディアも繰り返し報じてきた(ロイターの人物紹介)。また、今年8月には台湾の頼清徳総統と会談し、供給網・新技術・防衛協力などで「価値観を同じくする国々の連携」を強調した(台湾総統府・英語リリース)。地域秩序の核心である台湾海峡と経済安全保障を一体で語れる政治家は、いまの日本に多くない。
第三に、エネルギー政策との整合性だ。自民党総裁選における原子力の扱いは常に争点だが、近年は「脱原発一辺倒」から現実路線への回帰が進み、候補者群の中で原子力を一定の役割として認める機運が強まっている(Japan Timesの総裁選と原子力を巡る分析/同・原子力への姿勢の変化)。高市氏は経済安保の現場と接点が深く、LNG・既存原発・SMR・核融合という多層戦略を政治的に束ねる「顔」になり得る。
第四に、勝てる可能性だ。直近の報道ベースでも、高市氏は保守系の中核として世論調査で上位に位置づけられてきた(例:読売の支持率データを引く ロイターのまとめ記事)。もちろん、最終的な勝敗は派閥力学と都道府県連の動きに左右される。だが、保守を横断で束ねる“象徴”としての条件を最も満たしているのは高市氏である。
要するに、理念の明確さ、実務の厚み、外交安保の発信力、エネルギー戦略との整合性、そして選挙戦での実効性。この五点が合わさった政治家は希少だ。高市氏は“旗”を立てられる人材であり、保守再結集の号令役として最適任だと判断する。
参考・根拠(主だったもの)
- 参院選の結果・与党過半数割れ: nippon.com(日本語) / nippon.com(英語) / 論評例 CFRブログ
- 石破内閣の現状と対外関係: ロイター:対韓関係報道例 / AP通信の外交報道例
- 自民党の規程・綱領・改憲方針: 総裁公選規程(英) / 立党宣言・綱領 / 改憲特設サイト / 改憲4項目の提示
- 派閥の解体・実態: nippon.comの解説 / 旧安倍派の正式解散報道例 毎日新聞(英)
- 参政党・日本保守党: 参政党の政策ページ / 日本保守党(党公式・政策) / 当選報道の一例(比例)毎日新聞速報
- エネルギー最優先の合理性: APのアジア・エネルギー安全保障分析
- 再エネ賦課金: 2025年度単価 資源エネ庁プレス(英)/制度の基礎解説 資源エネ庁(日本語)
- SMR政策と規制: 経産省資料(英) / 資源エネ庁コラム(英) / エネルギー白書2025 原子力章(日本語) / 原子力規制委の法的位置づけ
- 核融合(JT-60SA/ITER/国家戦略): QSTリリース(JT-60SA) / Fusion for Energy(JT-60SA) / ITER “In a Few Lines” / マックスプランクIPPの解説 / 内閣府・フュージョン戦略(改定素案)
- (新規追加)高市早苗氏の経歴・姿勢: 首相官邸・大臣略歴 / 自民党公式プロフィール / 総裁選での位置づけ ロイターまとめ記事 / 保守色の紹介 ロイターの人物紹介 / 原子力を巡る総裁選論点 Japan Times / 台湾総統府による会見記録(対台発信)英語ページ
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