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2020年8月12日水曜日

“EU合衆国”の第一歩か 92兆円のコロナ復興基金で合意 経済ブロック化に備え日本は米英と連携強化を―【私の論評】経常収支や経済ブロック化などの言葉に踊らされるな!日本経済は他国と比較すれば健闘している(゚д゚)!

“EU合衆国”の第一歩か 92兆円のコロナ復興基金で合意 経済ブロック化に備え日本は米英と連携強化を


復興基金案を協議するメルケル独首相(右から2人目)

仏大統領「欧州にとって歴史的な日」


[ロンドン発]欧州連合(EU)の首脳会議は5日目の協議に入った21日未明、新型コロナウイルスで落ち込んだ経済を立て直す復興基金案で合意しました。返済不要な補助金3900億ユーロ、返済しなければならない融資3600億ユーロのパッケージです。

欧州委員会が債券を発行して市場から総額7500億ユーロ(約92兆円)を調達。借り入れは遅くとも2026年末には終了します。EUが大規模な債務の共通化に踏み出すのは初めて。エマニュエル・マクロン仏大統領は「欧州にとって歴史的な日だ」と宣言しました。

シャルル・ミシェルEU大統領(首脳会議常任議長)も記者会見で「われわれは成し遂げた。欧州は強い。欧州は結束している。欧州にとって適切な合意だ。この合意は欧州の旅にとって転換点とみなされると信じている」と述べ、欧州の歴史の新しいページが開かれたと指摘しました。

欧州の債務危機や難民危機でも債務の共通化には慎重な姿勢を貫いたドイツのアンゲラ・メルケル首相はパンデミックによるEU分断を避けるため、これまでの方針を180度転換。輪番制の議長国として復興基金案を独仏で主導しました。

EU首脳会議としては2000年12月、EU拡大に向け特定多数決持ち票、欧州議会議席数の配分などの機構改革を協議するため、ニースで開かれた首脳会議を抜く90時間以上の最長会議。メルケル首相も「安堵した。最後に欧州は団結した」と胸をなでおろしました。

コロナ流行が欧州に広がってから、初めて首脳が実際に集まって会議を開きました。

「倹約4カ国」とフィンランドの反対で減額
100年に1度のパンデミックによる経済の落ち込みを立て直すため、債務国の「南」と債権国の「北」、自由と民主主義、法の支配を錦の御旗にする「西」と権威主義の傾向が強まるハンガリー、ポーランドの「東」がなんとか違いを乗り越えて結束しました。

しかし「倹約4カ国」のオーストリア、デンマーク、オランダ、スウェーデンにフィンランドを加えた5カ国の反対で、補助金は独仏が唱えた5000億ユーロから3900億ユーロに減額され、デンマーク、ドイツ、オランダ、オーストリア、スウェーデンの予算払戻金が拡大されました。

オランダのマルク・ルッテ首相の要求で、加盟国が取り組みの約束を守らなかった場合、EUが復興資金の支給を一時停止する枠組みも設けられました。復興基金を除いた次期7年間(2021~27年)のEU予算も1兆740ユーロ(約132兆円)で合意しました。

EU域内のコロナの死者数は約13万5000人。欧州委員会の欧州経済予測では今年の経済見通しはEU域内マイナス8.3%、ユーロ圏マイナス8.7%。ドイツがマイナス6.3%、フランスはマイナス10.6%、イタリアはマイナス11.2%、スペインはマイナス10.9%と焼け野原状態です。

このため、欧州中央銀行(ECB)は16日、主要政策金利を0%に据え置き、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の規模も1兆3500億ユーロ(約166兆円)を維持。債券・国債の購入プログラム(APP)も月額200億ユーロ(約2兆4600億円)のペースで継続されます。

しかし、おカネが円滑に失業者や生活困窮者の手元に回らなければ、コロナで大きな被害を出したイタリア(死者約3万5000人)、フランス(約3万人)、スペイン(約2万8000人)などで暴動や略奪が起きる恐れも膨らみます。

イタリアの組織犯罪集団マフィアは高利貸しビジネスを拡大し、借金のカタにレストランや商店を不正に手に入れる事件も相次いでいます。EUやECBの緊急経済対策にはスピードが求められています。

EUのハミルトン・モーメント

アメリカ独立戦争で総司令官ジョージ・ワシントンの副官を務め、初代財務長官に就任したアレクサンダー・ハミルトン(1755~1804年)を主人公にしたミュージカル『ハミルトン』が映画製作会社ウォルト・ディズニー・ピクチャーズによって映画化され、話題になっています。

非白人のアフリカ系、アジア系、ラテン系、ミックスの若者が演じているため、白人警官による黒人男性ジョージ・フロイド氏暴行死事件に端を発する黒人差別撤廃運動「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」でさらに注目を集めています。

さて、ハミルトンはアメリカ合衆国建国のため各州の債務共通化を主導した「建国の父」の一人です。コロナ危機からEU加盟国を救済するための債務の共通化が「EU合衆国」の道につながるかどうかは分かりません。しかし、その最初の一歩になる可能性はあると思います。

「第二次大戦以来、最大の危機。EUの歴史で最も深刻な危機には、それにふさわしい答えが必要だ」というメルケル首相はマクロン大統領とともに復興基金案を推進しました。しかし倹約4カ国プラス、フィンランドだけでなくドイツ国内にも債務の共通化には根強い反対があります。

世界金融危機に続く欧州債務危機、難民危機でも白日の下にさらされたEU最大の弱点は予算が域内GDPの1%にも満たないことです。しかも共通農業政策など予算の使い途はすでに決まっています。加盟27カ国の政府や中央銀行の利害調整が難しいため、意思決定に時間がかかります。

危機に弱いというより、肝心な時に国家エゴの醜悪さを一段とさらけ出す構造的な欠陥があります。今回もパンデミックの巨大津波にのみ込まれてしまったイタリアに助けの手を差し伸べるのではなく、感染防止用防護具の輸出禁止、国境封鎖に走る加盟国のエゴが露呈しました。

ドイツ出身のウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は欧州議会で「イタリアが助けを求めている時に十分なことができなかった。どの国もパンデミックへの備えが十分ではなく、自国の対応に精一杯だった。欧州は心から謝罪する」と表明しなければなりませんでした。

経済のブロック化を懸念

イギリスがEUから離脱した今、未曾有のコロナ危機に際し、南北と東西に走るEUの断層を接着する手段として、これまで封印してきた債務の共通化にメルケル首相も踏み出さざるを得ませんでした。イタリア、スペイン、フランスの経済が落ち込めばドイツ経済の回復も遅れます。域内の資金循環をよくすることがEUの復興には不可欠です。

筆者はコロナ危機で経済のブロック化がさらに進むことを懸念します。EUは復興を優先させるため慎重に中国やロシアとの経済関係を促進していく可能性があります。一方、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアのアングロサクソン連合は中国との対決姿勢を鮮明にしています。

それでは日本はどうすれば良いのでしょう。貿易協定は安全保障の基盤をなします。経済規模で見た場合、EUと中国、ロシアを合わせると世界全体の36%。アングロサクソン連合と日本を加えると37%。どちらが成長力のあるインドを取り込むかがカギとなります。


中印国境紛争で中印関係が急激に悪化する中、インドは旧宗主国イギリスを通じてアングロサクソン連合に寄ってくる可能性は十分にあると思います。日本は日米同盟を軸に、環太平洋経済連携協定(TPP11)を通じてアングロサクソン連合との連携を深めていく必要があります。
【私の論評】経常収支や経済ブロック化などの言葉に踊らされるな!日本経済は他国と比較すれば健闘している(゚д゚)!
EUでは4~6月のGDPの落ち込みはなんと、四割減です。これは、EU始まって以来の、未曾有の落ち込みです。こんなときこそ、これまで封印してきた債務の共通化にメルケル首相も踏み出すのも当然です。そうしなければ、なんのために通貨統合までしているのか、存在意義を失うことになります。

日米の経済はどうなのでしょうか。日本マスコミなどでは、他国と比較することもなく、日本が危機的状況にあることを煽ってばかりいます。中でも、顕著なのは、経常収支の赤字などを見て、大変だと騒いでいます。全く情けないです。

財務省は8月11日、2020年上半期の国際収支統計の速報値を発表しました。日本と海外との物やサービスの取引、投資収益の状況を示す経常収支の黒字は、前年の同時期と比べ31.4%減少、7兆3069億円となりました。これは新型コロナウイルスの影響というような解説記事もありますが、実体はどうなのでしょうか。

これを理解するためには、まずは経常収支について理解する必要があります。マスコミの解説などでは、黒字が絶対に良くて、赤字は駄目とする傾向が強いです。しかし、このブログでも過去に述べてきたように、経常収支と経済は全く何の関係もありません。

経常収支は輸出入の差額です。世界の他の国々ではどうなっているかといえば、半分は黒字、半分は赤字というところです。経常収支が赤字と黒字ということと、経済成長率には、直接関係はありません。

輸出が減って輸入があまり変わらないと、現在の日本のような経常収支になります。輸出が減っているということは、世界経済が落ち込んでいることの反映です。輸入は海外の製品を買ったかどうかであり、国内の経済を反映しています。


輸入があまり減っていないということは、日本経済も落ちていますが、世界の他の国ほどは落ちていないという解釈ができます。黒字が減少したので大変と言うわけではなく、減少したのですが、輸入があまり減っていないので、日本は世界と比べて健闘しているという言い方ができると思います。

マスコミなどで騒がれているのとは、逆ということになります。このようなこともあるため、経済学では赤字、黒字という言い方はしません。「差額」と言います。

輸出超過か、輸入超過か、経常収支が赤字か黒字かということになれば、まるで家計のように考えて、黒字が良いとか、赤字は駄目という考え方に引きずられてしまいます。経常収支には、損得は関係ありません。収支という言葉をつかうので、あたかも利益のように感じてしまいますが利益とは関係ないので、このあたりは米国トランプ大統領あたりにもきっちり理解していただきたいものです。

実際不景気のどん底で喘いでいた2009年から2010年あたりには、経常収支も黒字で、貿易収支も黒字でした。あの頃は、日本国内の経済悪いから輸入が減って、海外の経済ははそこそこだったので、輸出額が伸びていたというだけのことです。ちょうど今と逆の状態であったということができます。

経常収支の内訳を見てみると、自動車などの部品の輸出はふるいませんでしたし、サービス収支もマイナスでした。

サービス収支は旅行客の増減と考えるとわかりやすいです。旅行客が減るとサービス収支が悪くなります。そのなかの減少を見ると旅行、国際経済が大変で、日本も大変ですが、様々な財政出動しているから海外に比較すると、そんなに悪くもないのです。

例えばGDPを見ると、4~6月のGDPは米国が32%減で3割減、ユーロ圏が4割減、日本は25%減くらいです。日本も悪いですが、相対的にみれば、他よりは良いのです。日本のGDPがEU並に落ち込んでいたとしたら、今頃とんでもないことになっていたはずです。特に30万円の所得制限つきの給付金を実行したり、このブログでも何度か掲載させていただいたように、日銀と政府の連合軍が創設されることなく、財務省主導で、経済対策を実施したりしていたら、目もあてられない状況になっていたかもしれません。

現状の日本は、輸入の落ち込みは大したことがなく、輸出の落ち込みがひどくなるので、経常収支の黒字が減ったように見えるだけなのです。先の財務省の発表は、赤字が増えて大変なようにみせかける単なる印象操作とみて良いでしょう。

EUでは経済の落ち込みがあまりに酷いので、過去には禁じ手であった債務の共通化をせざるを得ない状況に追い込まれたということです。日本は、EU-ほど経済の落ち込みは酷くなく、またEUのように複数の国々が集まって通貨統合をしているわけではありません。

EUが債務の共通化に走ったらかといって、経済のブロック化を懸念する必要はないでしょう。経済のブロック化といえば、一番起きそうなのは、中国、北朝鮮などの国々です。

中国は現在米国に経済冷戦を挑まれ、一部の共産党幹部は、米国内の資産を凍結されたりしています。この凍結は、中国が全体主義である共産党一党独裁体制を変えない限り継続され、それでも中国が体制を変えなければ、米国はさらに金融制裁を拡大していくでしょう。

行き着く先は、「ドル元」交換禁止や、中国の所有する米国債の無効化でしょう。これを実行されると、中国は米国は無論、世界中の国々と貿易ができなくなります。そうなると、中国はやむなく、元を基軸通貨とした、経済圏を作り出す可能性があります。

この経済圏には、中国、北朝鮮やもしかするとイランも入るかもしれませんが、ロシアは入らないでしょう。

中国は、人口の多い国なので、内需拡大策に真剣に取り組めば、GDPをある程度維持したり、拡大することも可能かもしれません。しかし、「ドル元交換」停止で、貿易ができなくなるので、当然のことながら、半導体や日本からは「工作機械」などが輸入できなくなるので、ハイテク製品は製造できなくなります。

そうなると、農林水産業やローテクの製品による経済ということになりますので、今後の発展性は限られることになります。

経済圏の内側に籠もり続けるか、一党独裁をやめて、体制を転換して、また米国はをはじめとする国々と貿易をはじめるかのいずれを選ばざるを得なくなります。

中国を中心とした経済圏が作られたにしても、かなり脆弱なものになるでしょうし、それ世界の国々は、自由貿易の良さを知ってしまったので、これを全く捨て去ることなどはできず、経済ブロック化で自由貿易を自ら制限することなど考えられません。

ただし、あまりにグローバル化が進んだので、最近その悪いところばかりが目立つようになったので、極端なグローバル化は忌み嫌われるようになりましたが、未だに主権国家を単位として考えなければならない世界は、ナショナリズムに復帰しつつも、自由貿易を公正なルールに基づいて実行していくことでしょう。

経済のブロック化をいたずらに心配するのではなく、自由貿易をさらに透明化、普遍化、自由化していくことがこれからの世界に求めらていることです。

それと、経済ブロック化などとは関係なく、日本は米英豪と連携強化すべきことは、当然のこととして、このブログでも過去に主張してきたことです。

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2018年7月27日金曜日

日仏安全保障関係は新たな段階に―【私の論評】日本はフランスとの連携を強化し、対中国囲い込み戦略を強化すべき(゚д゚)!


岡崎研究所 

 7月13日(日本時間14日)、フランスを訪問中の河野太郎外務大臣は、フランスのフロランス・パルリ軍事大臣とともに、「日本国の自衛隊とフランス共和国の軍隊との間における物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定」(略称:日・仏物品役務相互提供協定(日仏ACSA))に署名した。この協定は、日仏両国の国内手続きを経て、発効する。



 この日仏ACSAにより、自衛隊とフランス軍との間で、物品・役務の提供が円滑かつ迅速にできるようになる。具体的には、災害や共同訓練、国連PKO(平和維持活動)の際に、物資や食糧、燃料、弾薬等及びサービスを相互に融通できるようになる。この協定は、自衛隊とフランス軍との間の緊密な協力を促進し、国際社会の平和構築や安全保障に積極的に寄与するのに役立つものである。

参考:外務省「日・仏物品役務相互提供協定(日仏ACSA)の署名」平成30年7月14日
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_006238.html

 日本は、既に、米国、英国、豪州とACSAを締結している。今回、フランスと締結したことで、日仏間の安全保障関係がより緊密になるとともに、日米豪英仏が共に行う多国間の共同軍事演習等もより円滑にやりやすくなる。

 7月14日、フランスの革命記念日の軍事パレードに、日本国の代表として、陸上自衛隊が初めて参加して、共に行進をした。フランス全土や世界中から集まった人々が、フランス軍とともに、シャンゼリゼ大通りを行進する自衛隊員に声援と拍手をおくった。フランス政府及びフランス国民は、自衛隊の参加、フランスとの国際協力を積極的に評価した。

7月14日、フランスの革命記念日の軍事パレードに、日本国の
代表として、陸上自衛隊が初めて参加して、仏軍と共に行進

 今年は、日仏国交160周年の節目の年であり、文化的行事として、同日、パリ市内では、「ジャポニズム」の開会式も、河野外務大臣出席のもとに開催された。が、意外にも、フランスの一般の人々は、陸上自衛隊が革命記念日の軍事パレードに参加していることは知っていても、日仏交流160周年のことはそれ程知られていなかった。日仏交流の観点からも、フランス人が関心を持ち団結を示し熱くなる革命記念日の軍事パレードに、少人数でも日本の自衛隊が参加したことには、日本の存在を示すのに大きな意義があった。

 もう一つ、自衛隊のフランス訪問が重要だった理由は、今年が第一次世界大戦終結1918年から丁度100周年にあたる年だからだ。日本は、フランスとともに戦い、戦勝国の五大国の一員として、戦後処理や戦後の国際秩序の構築に務めた。革命記念日の前日等にパリの軍事学校内で開催された光のショーのタイトルは、「1918年、新世界」であり、フランスの歴史にとって、第一次世界大戦が重要であることは明らかだった。

 ACSAが日仏関係のみならず、多国間の安全保障協力にとっても重要だと上記したが、今年のフランス外交を振り返っても、その事は明白である。本年1月、マクロン大統領は、インドに国賓として招かれ、仏印共同声明では、仏印防衛協力の強化も謳われた。4月には、米国にもマクロン大統領は国賓として訪問した。さらに、5月、豪州にもマクロンは赴き、ターンブル首相との間で、インド太平洋地域の安全保障協力で仏豪両国が協力することを約束した。

 このようなフランス外交の流れは、日本外交の方向性と一致する。

 今年1月26日に東京で開催された日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を受けて、今回のACSA署名に至った。その間、2月には、フランスの軍艦が東京晴海に寄港し、海上自衛隊がホストした。このように、海上でも陸上でも日仏の軍事関係者が協力する時代に、今回のACSAは必要不可欠なものなのだろう。

【私の論評】日本はフランスとの連携を強化し、対中国囲い込み戦略を強化すべき(゚д゚)!

日仏ACSA締結を期に、日仏安全保障関係は新たな段階に入ったのは間違いありません。これは、フランス国内で、中国への幻想崩し、習政権警戒論が頭をもたげていることに無関係てはないでしょう。

以下に、中国共産党政権とフランスとの関係を簡単にたどっておきます。

フランスのドゴール政権は独自外交を掲げて1964年、対中国交を樹立しましたた。しかし、ミッテラン政権は天安門事件への対応を批判し、台湾に武器供与を決め、対中関係が悪化。

シャルル・ド・ゴール

2008年にはサルコジ仏大統領がチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世と会談するなど曲折をたどりましたが、近年は原発建設などで両国関係は深まっていました。

中国の最高指導者となった鄧小平氏は1920年、16歳で勤労学生としてフランスに滞在し、中国共産党の欧州支部結成に参加。第一副首相だった75年にフランスを訪問し、共産党指導者として初めて西側を訪問しました。

鄧小平


フランスは長く米国に対抗する「独自外交」を志向したせいでしょうか、中国には好意的でした。国交樹立は1964年で、米国より15年も早いです。周恩来、鄧小平ら共産党指導者が若いころ、フランスに留学した縁もあるののでしょう。2年前、中国企業がドイツのロボット大手クーカを買収し、技術移転への警戒が広がった時もフランス国内反応は比較的鈍いものでした。

しかし今年の中国による憲法改正で、空気ががらりと変わりました。2月末、中国共産党が憲法改正案を発表すると、仏紙ルモンドはただちに「習皇帝の即位」という表題の社説を掲載。習氏は「あくなき個人権力の追求者」に成り下がったとこきおろしました。月刊誌キャピタル(電子版)も「習氏は政治自由化への期待を完全に裏切った」と断じ、権力の一極集中を進め、民主主義に逆行する習政権を批判しました。

習近平皇帝

ことさら厳しい批判は、習政権への失望の大きさを物語っています。欧州がトランプ米政権発足に戦々恐々としていた昨年1月、習氏が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で行った演説は強い希望を抱かせました。習氏は「反グローバル化」や保護主義を批判し、「米国第一」を牽制しました。この時、ルモンド紙は習氏を「自由貿易の旗手」と手放しでたたえました。



欧州は歴史的経験から、中国は「いつか手を組める相手になる」と期待していたようです。米欧への対抗心を向きだしにするロシアとは違うと見ていたようです。

この「誤算」は、東西冷戦崩壊後の経験に由来します。欧州連合(EU)は旧ソ連圏の中・東欧を加盟国として迎え入れ、自由経済圏に組み込むことで安定化と民主化に成功しました。

ロシアではソ連消滅後の経済混乱でオリガルヒ(新興寡占資本家)が台頭し、プーチン大統領が「大国復活」を掲げて強権を握ったのですが、中国は天安門事件後、改革開放を突っ走り、集団指導体制を敷きました。外交でも、米欧に対抗意識をあらわにするロシアとは異なり、台湾やチベットなど特定問題以外は融和路線をとりました。

中国は世界貿易機関(WTO)に加盟し、世界第2の経済大国になりました。欧州は、中国にも中産階級が増えれば必然的に民主化圧力に抗えなくなると期待しました。英仏独は人権問題に踏み込まず、「北京詣で」を競いました。

この苦い経験を踏まえ、今年4月20日付け仏紙フィガロは中国への強い警戒感を打ち出しました。
中国は最初、西欧の援助が必要な途上国だという顔をした。次に、WTOルールを守る友好的な貿易大国の顔を見せた。西欧がそれを信じている間、ものすごい勢いで先端技術を横領した。習政権が示す次の顔。それは欧州に『一帯一路』で貿易覇権を広げ、徐々に植民地化することだ。
独裁に進む中露両国が連携を強めないよう、欧州はロシアとの関係改善を急ぐべきだと踏み込みました。

習近平の皇帝化を目指す前から、フランスの一部には警戒感がありました。

日本、フランス両政府は昨年1月に、パリで開かれた2+2(外務・防衛閣僚協議)で、南シナ海で軍事膨張をひた走る中国を「念頭」に、緊張を高める一方的な行動への強い反対を表明し、自制を求めましたが、わが国のみならず、フランス政府の「念頭」に浮かぶ中国の不気味な影は今後ますます膨らむことでしよう。

一昨年夏には、仏国防相がEU(欧州連合)加盟国に、「航行の自由」を確保すべく、南シナ海に海軍艦艇を定期的に派遣するよう呼び掛けたましたが、背景にはフランスの太平洋権益が中国に脅かされ始めた危機感も横たっています。

太平洋のフランス領

フランスは1100万平方キロに達する世界第2位のEEZ(排他的経済水域)を有する「海洋国家」ですが、海外領土が広大なEEZを稼いでいます。太平洋にも4カ所あり、50万人ものフランス国民が暮らしています。一部には軍事基地が置かれています。

ところが、中国は海洋鉱物・漁業資源を求め、仏海外領土周辺の南太平洋島嶼国家への札束外交攻勢だけでなく、「独立後」をにらみ太平洋に点在する仏海外領土へも手を突っ込んでいます。中国の影がヒタヒタと押し寄せる現実に、フランス軍は米軍や豪州軍、ニュージーランド軍に加え、自衛隊との軍事演練を加速・活発化させています。 

フランスの中国への姿勢は習近平が皇帝になることにより、明らかに変わりました。今はフランス全体に中国に対する強い警戒感があります。

こうした中国を警戒するフランスは、このブログにも掲載した「ぶったるみドイツ」とは違います。

つい最近もドイツは、中国との自由貿易を推進しようとし、李克強首相とメルケル首相が会談をしました。さらには、緊縮財政により主力戦闘機ユーロファイターが4機しか稼働しないという有様で、対中国貿易戦争をはじめたばかりのトランプ大統領に、防衛費を4%にしろと言われています。

これでは、「ぶったるみドイツ」といわれても致し方ないです。これに関しては、トランプは各国のNATO首脳に対して防衛費を増大するように提言したことと、日本とEUが中国は締結できないEPA(経済連携協定)を締結したということ、さらに米EU、車除く工業製品の関税撤廃目指すことで合意したため、かなりの牽制になったものとみられます。

EUとの貿易戦争を回避したことで、トランプ大統領は力を集中して対中国貿易戦争に専念することができるようになりました。その一方、欧州特にドイツと連携して米国との貿易戦争に優位に立とうとした中国の企みは完璧に失敗に終わりました。習近平は益々の窮地に陥ったことでしょう。

それにしても、「ぶったるみドイツ」はいつどこで綻びをみせるかわかったものではありません。日本は、フランスとの結びつけを強化することにより、ドイツを牽制しそうしてEUに対して協力するととも、対中国囲い込み戦略を強化していべきです。

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