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2020年7月22日水曜日

日米豪、合同軍事演習で中国威圧! 尖閣侵入「100日連続」…識者「日本は実効支配の強化へ公務員常駐を」— 【私の論評】日本は尖閣を守備できるし、奪取されても十分取り返せる能力がある!(◎_◎;)

日米豪、合同軍事演習で中国威圧! 尖閣侵入「100日連続」…識者「日本は実効支配の強化へ公務員常駐を」

   西太平洋上で日米豪の共同訓練に臨む海自護衛艦「てるづき」(右から2番目)
   や米空母「ロナルド・レーガン」(中央)など
    中国の暴挙が止まらない。沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で22日、中国海警局の武装公船などが確認された。これで、「100日連続」となった。世界全体で「死者60万人超」という新型コロナウイルスを世界的大流行(パンデミック)を引き起こしながら、軍事的覇権拡大を進める中国を牽制(けんせい)するため、海上自衛隊と米海軍、オーストラリア海軍は、西太平洋と南シナ海で共同訓練を実施した。

 海上保安庁第11管区海上保安本部(那覇)は22日朝、尖閣周辺の接続水域で中国公船4隻を確認した。うち1隻は機関砲のようなものを搭載しているという。海保の巡視船が領海に近づかないよう警告した。

 これで中国公船が確認されるのは、2012年9月の国有化以降、最長日数で「100日連続」となった。

 中国が侵入させているのは、日本の海保に相当する海警局の船舶だが、6月の人民武装警察法改正で、中国海軍と海警局が合同訓練や共同作戦を行うことが可能になった。外務省は17日、「軍の一部になっている」と、自民党の会合で報告した。

 こうしたなか、海上自衛隊トップの山村浩海上幕僚長は21日の記者会見で、西太平洋と南シナ海で、日米豪3カ国の共同訓練を19日から23日まで実施していると発表した。

 海自の護衛艦「てるづき」や、米海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」、オーストラリア海軍の強襲揚陸艦「キャンベラ」などが参加。敵の潜水艦、水上艦艇、航空機への対処を想定した戦術訓練を行っている。一帯の海域では、中国が覇権拡大をもくろんでおり、日米豪で対峙する構えだ。

 日本は今後、尖閣の「実効支配の強化」をどうすべきか。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「コロナ禍のなか、中国による海洋進出は目に余る状況だ。日米豪の共同訓練は、中国へのプレッシャーだろうが、尖閣周辺での『100日連続』の航行という実績をつくらせてしまえば、十分とはいえない。このまま、中国公船が居座るのは最悪の事態だ。自民党がかつて掲げた『尖閣諸島への公務員常駐』を検討すべきだ」と語っている。

【私の論評】日本は尖閣を守備できるし、奪取されても十分取り返せる能力がある!(◎_◎;)



最近の尖閣諸島周辺領海への中国艦艇侵入に関するポイントを二つ挙げます。

(1)中国海警局の船が日本の領海に勝手に入ってくることは問題ないのか。
(2)日本の領海内で中国海警局船が日本の漁船を追跡することは問題ないのか。

まず(1)については、少なくとも「領海に入ってきてそのまま通り過ぎるだけ」であれば国際法上、何の問題もありません。

海洋に関するさまざまな権利義務などについて定めた「UNCLOS」(国連海洋法条約)に規定されているように、船舶には一定の要件のもとに他国の領海を通航できる「無害通航権」が認められています。UNCLOSでは、無害通航を「それが通航にあたるか(第18条)」と、「それが沿岸国(この場合は日本)にとって無害であるか(第19条)」というふたつの要件に分け、両者に合致するものが無害通航となります。

このとき「通航」は、継続的かつ迅速に行わなければならず、他国の領海内で停船したり錨を降ろしたりすれば、それがやむを得ない場合を除き通航とは見なされません(第18条2項)。そして、たとえ通航にあたるとしても、それが沿岸国の平和、秩序又は安全を害するような場合(第19条1項)、具体的には軍事演習や情報収集の実施、航空機の発着艦や漁獲といった活動を実施した場合には、それは無害な通航とは見なされません(第19条2項)。

それでは最近、中国海警局の船が日本の領海に頻繁に侵入していることは、前述の要件に照らしてどう判断されるのでしょうか。
まず、報道によれば海警局の船は数時間にわたって日本領海内にとどまっていることも往々にしてあります。これは、UNCLOSの第18条2項にいう「継続的かつ迅速」な通航という規定に抵触する、いわゆる「徘徊」や「巡航」と解釈することもでき、そうであればこの時点で海警局の船は、そもそも通航を行っていないことになります。

また、そもそも海警局の船が尖閣諸島沖の日本領海内に侵入してくる目的が、日本の尖閣諸島における実効支配に挑戦するためということを考えると、これはUNCLOSの第19条1項における「沿岸国の平和、秩序又は安全」を害する行為にあたり、たとえそれが通航にあたるとしても無害性を有さず、やはり無害通航にはあたらない可能性が極めて高いです。

こうした中国海警局の行動に対して、尖閣諸島の警備に従事している海上保安庁はどのように対応できるのでしょうか。

先ほど確認したUNCLOSの25条には「沿岸国は、無害でない通航を防止するため、自国の領海内において必要な措置をとることができる」と規定されています。これは沿岸国の保護権というもので、海警局の船が無害通航を行っているとは考えられない場合には、海上保安庁はこの保護権の行使を認められ、かつ相手の行動と釣り合いがとれる範囲内で、海上保安庁法第18条2項などによる措置をとることになります。

たとえば、海警局の船に対して日本の領海外への退去を要請したり、あるいは針路を変更するための接近をしたり、さらに日本漁船を保護するために海警局の船と漁船とのあいだに割り込んだりといった措置をとることができます。また、もし海警局の船が海上保安庁の船に対して放水や進路妨害を行ってきた場合には、海上保安庁側も同様の措置を実施することが可能です。

他方で、武器を使用して追い出すべきだという主張も時折、見られますが、そのような強硬な措置をとることは中国側の活動と比較した場合の均衡性を欠いてしまうほか、かえって事態のエスカレーションを招き、問題をさらに複雑なものとしてしまうため、適法かつ妥当な方法とはいえません。

現在、中国は尖閣諸島における日本の実効支配を弱めるために海警局の船を活動させています。こうした中国の考えをくじくためにも、海上保安庁が行っているような継続的かつ実効的な活動が必要不可欠であるということがいえます。
ただし、明らかに中国軍や民兵が尖閣諸島に上陸しようとし、日本がそれを察知した場合は、そうではありません。無論攻撃はできます。これは、国際法上何の問題にもなりません。
これについては、週刊新潮が、以下のように記事を書いています。
尖閣周辺で中国船が挑発行為、海上民兵による上陸作戦なら海自は手出しできず
この記事から一部を引用します。
  仮に、中国軍が尖閣諸島の占領に成功した場合、自衛隊は奪還作戦を実施することになる。しかし、防衛省が島嶼奪還作戦の目玉として導入したLCAC(エア・クッション艇)とAAV7(水陸両用強襲輸送車)は、尖閣諸島のような岩場で囲まれた島嶼への作戦には使用できない。この点は、中国軍が尖閣諸島へ上陸する際の問題点と全く同じである。 
 ゴムボート等の小型船、あるいはヘリコプターを用いての上陸となるわけだが、海岸近くの海中には機雷が敷設され、海岸は地雷原となっている可能性がある。また、ヘリコプターによる降下を試みた場合、携帯式の地対空ミサイルで攻撃される可能性がある。機関銃や対戦車ロケット等による攻撃に晒され、組織的に上陸すら出来ないまま撤収することになる可能性も高い。 
 このように、占領することよりも、奪還することのほうが大きな困難を伴う。 
 となれば、少人数の特殊部隊を夜間に上陸させ、ゲリラ戦を展開して中国軍を掃討するしかない。
この記事を読んでいると、まるで大東亜戦争の頃から一歩も進んでいないような内容なので、がっかりします。

日本は、大東亜戦争中には、世界で一番優れた潜水艦を持っていましたが、潜水艦をうまく使いこなせていませんでした。ご存知のようにドイツはUボートを第一世界大戦中も第二次世界大戦中も有効に使い、実際かなり成果を上げてました。

米国もかなり有効に潜水艦を使い、大東亜戦争中には、東京湾の中に侵入し、様々な情報を得ていたといわれてます。

対する日本は、あまりうまく活用されていなかったというのが実情でした。

尖閣では、日本はこの過ちを反省して、潜水艦を有効に使うべきでしょう。まずは、常時から尖閣付近を潜航して、情報を集め、危機的な状況になれば、尖閣付近に複数隻の潜水艦を配置し、軽快にあたらせ。

中国が、航空機や船舶によって、軍隊や民兵を運んで、尖閣に近づいた時に撃沈すれば良いのです。このブログにも以前から掲載させて頂いているように、日本の潜水艦は、中国の対潜哨戒能力では、発見できません。

最新鋭の「そうりゅう型」潜水艦は、兵装としては、艦首上部に6門のHU-606 533mm魚雷発射管を装備している。89式魚雷及び、UGM-84 ハープーン 対艦ミサイルを搭載しています。また8番艦(SS-508)以降には新たに潜水艦魚雷防御システム(Torpedo Counter Measures :TCM)が装備されています。

昨年進水した「そうりゅう型潜水艦」12番鑑「とうりゅう」

中国側が艦艇で軍隊や民兵を送り込んでくれば、潜水艦で撃沈して仕舞えば、尖閣上陸は不可能です。仮に、上陸したとして、やはり潜水艦を複数配置して、補給路を絶てば、尖閣の中国軍や民兵は戦闘能力を失います。全員餓死です。

中国がヘリコプターなのどの航空機により軍隊や民兵を送り込んできた場合には、空自や海自のイージス艦でこれを撃墜すれば良いです。これも、もし上陸されてしまった場合、やはり潜水艦を複数配置し、補給路を断てば良いのです。

さらに、日本の掃海能力は世界一ですから、中国が尖閣諸島付近に、機雷を設置したとしても、すぐに解除できます。その後、日本が尖閣付近に機雷を撒けば、中国の乏しい掃海能力では、これを除去できず、事実上尖閣諸島を封鎖し、中国軍や民兵を、飢死させることができます。これが、機雷によりやりやすくなります。これは、無論日本が掃海したいと思えば、すぐにできます。

中国は、このようなことを想定しているため、本当はずっと前に、中国海軍のロードマップにある通り、尖閣諸島を含む第一列島線を確保したかったのでしょうが、結局いまだにできていません。ロードマップでは本当は、今年中に第二列島線まで確保することになっているのですが、それは絵に描いた餅にすぎません。
日本としては、中国側が上陸の気配を見せれば、このような対応して、中国がここまではしないというか、できない場合の対処としては現在海上保安庁が実施してる方式の他に、尖閣諸島への公務員常駐などを実施すべきです。
【関連記事】

82日連続!中国尖閣侵入で暴挙続く 分散行動や追い回しなど“新たな手口”も 一色正春氏「このままでは日本はやられ放題」―【私の論評】尖閣での中国の暴挙は、未だ第一列島線すら確保できない焦りか!(◎_◎;)





2020年6月14日日曜日

世界新冷戦で中国窮地に! 米・英・台湾で香港奪還へ…日本も決断を コロナ影響で欧州各国の「対中感情」は最悪に— 【私の論評】日本はG7のアングロサクソン3カ国とEUの独仏伊を調整し、台湾とも関係を強化し、コロナ後の新世界秩序の中で存在感を増せ!(◎_◎;)


第2の天安門に!?香港デモ

天安門事件追悼集会で「香港独立」の旗が振られた=4日

 ドナルド・トランプ米大統領は、「香港の優遇措置廃止」と、「世界保健機関(WHO)からの脱退」という2つの重大な決断を下した。中国を見限り、英国や台湾を巻き込む「世界新冷戦」の様相だ。国際投資アナリストの大原浩氏は緊急寄稿で、米英など民主主義勢力と反民主主義勢力の二極化が進むなか、日本も決断を迫られていると現実を突きつける。


 トランプ大統領が関税などの優遇措置の廃止の方針を決めるなど、米中対立の舞台の一つが香港だ。問題の発端である1997年の英国から中国への香港返還・再譲渡は、84年に英中両国が北京で連合声明などの草案に署名したことに遡(さかのぼ)る。

 中国側の署名者は趙紫陽首相だったが、署名の場に同席したトウ小平氏が返還を実現した立役者である。英国側の署名を行ったのは「鉄の女」マーガレット・サッチャー首相だったことは少し意外かもしれない。

 サッチャー氏は、地球の裏側のフォークランド諸島がアルゼンチンに侵攻された時には、軍を派遣して守り抜いた。フォークランド諸島は、香港に比べたら経済的・軍事的価値などほとんどないにもかかわらずだ。

 メディアでは「99年間の租借期限」が到来したから返還したと報道されたが、99年間租借していたのは「展拓香港界址専条」という条約で定められた新界地域だけだった。主要部分の香港島は、1842年の南京条約(第一次アヘン戦争の講和条約)によって、清朝から割譲された英国の永久領土なのだ。1860年の北京条約(アロー号戦争の講和条約)によって、九龍半島の南端も英国に割譲された。

 租借部分を返還した後に香港島だけを守ることが戦術的に難しかったために「再譲渡」されたと考えられるが、香港島は英国の永久領土であり、九龍半島の南端も含めて「再譲渡」する必要などなく、当然英国内で大きな議論が巻き起こった。

 そのような事情もあって、中国共産党政府はトウ小平氏が提示した「一国二制度」をもとに、社会主義政策を将来50年(2047年まで)にわたって香港で実施しないことを約束したのだ。つまり、英国側から見れば、香港譲渡は50年間の約束を守れば…という「解除条件付き契約」であったといえる。

 したがって、共産主義中国がお得意の「ねじ曲げ解釈」をいくら駆使しても、英国としては、「一国二制度」という約束が破られれば、香港の再譲渡契約は無効であり、香港が英国領に戻るのは当然である。

 もちろん、英国だけの力で香港を守るために中国と一戦を交えることは難しい。しかし今回、中国の横暴に激怒しているのは英国だけではない。前述のように、米国は強烈な牽制(けんせい)球を投げた。ドイツをはじめ媚中的行動が目立つ欧州大陸の国々も、あからさまに香港の人々の人権が侵されれば声を上げざるを得ない。しかも武漢発のウイルスの影響で国民の対中感情は最悪だ。

 現在の英国首相であるボリス・ジョンソン氏は、サッチャー氏やウィンストン・チャーチル氏のような強烈な個性を持つ。フォークランド紛争、あるいはナチス・ドイツとの戦いと同じように「反民主主義国家・中国」との戦いに踏み切る可能性は十分あるのではないか。

 ■日本も「新世界組織」に参加すべきだ

 第二次世界大戦は、英国とフランスの同盟国だったポーランドをナチスドイツが侵攻したことで始まった。香港は同盟国どころか、「一国二制度」が守られなければ「英国領」に戻るべき存在なのだ。

 トランプ氏は「中国に支配されている」としたWHOからの脱退も表明したが、これも重要な決断だ。台湾は即座に米国が今後立ち上げるであろう「新世界組織」への参加を表明している。日本も後に続くべきだ。米国はWHOだけではなく、「中国に支配されている」国連をも見限っているのである。

 米国が新型コロナウイルスの感染拡大や白人警官による黒人男性暴行死を発端とした抗議デモなどの問題を抱えるなかで、「火事場泥棒」のような中国による香港への「国家安全法」導入は、ますます米英を怒らせる。そして、歴史的に正統な台湾主体の世界再編が米国によって推進されるという大ブーメランとして返ってくるだろう。

 「民主主義勢力」と「反民主主義勢力」の二極に分かれつつある世界で、日本がどちら側につくべきかは明らかだ。共産主義の代表を「国賓招待」する話がいまだに残っているのは言語道断だ。むしろ、台湾の蔡英文総統こそ、国賓として招待すべきではないか。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】日本はG7のアングロサクソン3カ国とEUの独仏伊を調整し、台湾とも関係を強化し、コロナ後の新世界秩序の中で存在感を増せ!(◎_◎;)

香港割譲は中国史上最も大きな損失でしたが、香港がいずれ中国に返還されるとは、当初誰も考えていませんでした。

1842年に結ばれた南京条約で、香港島は英国に割譲されました。第一次アヘン戦争で英国の巨大な軍艦と圧倒的な軍事力の前に敗れた中国(当時は清国)に選択肢はなく、香港島は英国に永久割譲、1860年に九龍半島が割譲されました。

不毛の島である香港島には水が不足していました。そのため英国は1898年、中国から新界を租借し、99年後の1997年に「新界のみ」返還すると約束しました。この時点では、香港島まで返還することは想定外だったのです。

イギリス軍がアルゼンチンに奪われた島を奪還したフォークランド紛争の勝利に沸いていた1984年、当時中国の実質的な最高指導者だった鄧小平と香港の返還交渉を行っていたマーガレット・サッチャー英首相は「なぜ(新界だけでなく)香港を返還しなければならないのか」と周囲に聞いていたそうです。

マーガレット・サッチャー英首相

それは鄧小平が香港島と九龍島の同時返還を求め、軍事介入も辞さない姿勢を見せたからでした。軍事力も指導者も、アルゼンチンとは格が違しまそち。結局サッチャーは、1997年6月末に香港を中国に返還することで同意したのです。

1997年6月30日の夜、雨が降る中でイギリスによる香港の委任統治が終わりました。260の島と世界一美しいスカイラインを持つ香港で、午前0時に警官たちが帽子のバッジを王冠からランに付け替え、英国旗「ユニオン・ジャック」が降ろされました。

香港返還に際し、住民の間には混乱というより不安が漂っていました。イギリはすでに香港住民に対するパスポートの発行を止めていました。完全にストップ、立ち入り禁止でした。EUの拡大でポーランド人労働者がイギリスで働ける時代になったというのに、なぜ香港住民はだめだったのでしょうか。

人々が疑問の声を上げたのは他でもない、もし中国政府が(1989年の天安門事件のように)弾圧に乗り出したときは、イギリスが守ってくれる、受け入れてくれると保証してほしかったからです。

その素朴さは胸を打ちました。当時の香港は世界で最も成功した植民地で、香港総督も人気があったのですが、英国にとってはしょせん植民地でした。重要なのは中国本土のほうで、香港は中国市場に参入するうえで障害になっていました。天安門事件後いちばん最初に北京を訪問した西側首脳も当時のジョン・メージャー英首相でした。英国にとって中国は、商売の相手だったのです。

引き揚げを指揮したのは、最後の第28代香港総督を務めたクリス・パッテンでした。それは香港返還にとどまらず、大英帝国の事実上の終焉でした。

パッテンは、多くの政治家のように成功することでのし上がるのではなく、屈辱的な失敗を成功に変える抜け目のない政治家でした。1992年の英総選挙でメージャー率いる保守党が勝利したとき、幹事長として勝利に貢献したパッテンは、自分の選挙区で労働党の候補に敗れて議席を失いました。

そのニュースが流れた時、保守党本部は大いに盛り上が利ました。多くの保守党議員は、パッテンは左寄り過ぎると思っていたのです。サッチャーにも嫌われ、周囲もそのことを知っていました。

それでもメージャーはパッテンの味方をし、1997年6月30日の香港返還までの香港総督に任命しました。英国政府はこのポストに、中国市場での利益を危険にさらさない無難な人材を望んでいました。選挙に落ちたパッテンは安全な選択肢に見えましたた。よもや総督という特権的地位と年金に満足し、政治には干渉すまいと考えたのです。ところがそうした見方は見事に外れたのです。

パッテンには、羽飾り付きの帽子も、論争は傍観するという総督の伝統的なたしなみも捨てて、論争に参加しました。1992年7月の就任時、パッテンは人権や自由、民主主義などの言葉を口にして中国政府を不快にさせました。

中国だけではありません。英経済界がどれほどパッテンの言動を憂慮していたか、1993年にパッテンが心臓の手術を受けた時に明らかになりました。報道で彼が手術中だと伝わると、ロンドンの株価は高騰。回復に向かっていると発表されると、わずかだが売り注文が増えました。

パッテンには妻と3人の娘がいたが、一家は気さくで、妻が病院や慈善団体を訪問する時もリラックスした雰囲気でしたた。

新聞の風刺漫画にはよく、ウイスキーとソーダというパッテンの愛犬が登場しました。どちらも犬種はノーフォーク・テリアで、中国の政治家のかかとに噛みついたりする場面が描かれました。

パッテンは、上流階級が住む高台ではなく香港の旧市街を散歩しました。どこから見ても彼は人気者でしたた。高齢の婦人から建設現場で働く労働者まで、パッテンを見つければ誰もが握手を求めました。カフェに入れば、中国の政治家が夢にも思わないようなもてなしを受けました。

イギリス統治下の香港には、香港住民の意思を反映させる政治制度がなく、民主主義は存在しませんでした。パッテンはそうした状況を正そうとしたのですが、ビジネス上の重大な関心を優先する地元の大立者や中国政府の頑なな反対にあいました。民主主義を経験したことのない一般大衆も、パッテンが目指した議会の民選化に反対しました。

香港住民は中国政府に立ち向かってくれる香港総督に感謝していましたが、中国政府には強い不信感を抱いていました。立法会を作って選挙を行っても、投票権のある有権者のうち35%しか投票しませんでした。

低い投票率で、パッテンが目指した選挙改革は失敗しました。パッテンが離任するまでに立法会の権限は縮小され、中国政府は民主化を疎かにしても民衆の反感を買うことはなさそうだ、と自信をつけました。

パッテンは1997年に中国政府から繰り返し中傷されましたが(「1000年来の男娼」というのもその1つ)、それ以降、香港のカフェに彼以上に人気がある客は現れていません。

このクリストファー・パッテン英オックスフォード大学名誉総長が、最近英与党・保守党の支持者と草の根保守主義者の言論フォーラム「コンサーバティブホーム」のインタビューに応じています。

クリストファー・パッテン氏

その内容を以下に掲載します。
パッテン氏「1989年6月の天安門事件を知らせる外交公電を見た時、もし仮にそれが、軍が自国民に向けて発砲するということを意味しているのなら、中国共産党指導部の一部による権力の座を保持する絶対的な決意の表れだと考えた」
「香港返還後、全てが変わったのは習近平国家主席が現れてからだ。習氏が選ばれたのは、中国共産党重慶市委員会書記だった薄熙来氏がクーデターを計画(2012年に失脚)していると中国共産党指導部が考えたことが一部にあると私は考えている」
中国共産党の行動原理は中国共産党一党支配という体制をどんな手段を使ってでも守るという防衛本能に基づいているとパッテン氏は考えているようです。胡錦濤時代(2002~12年)にそのタガが大きく緩んだとして、習氏が引き締めのため選ばれたというのです。

パッテン氏が危機感をさらに強めたのは2013年の「第9文書」と呼ばれる内部文書を目にしてからです。この中で7つの危険な西洋的価値が列挙されています。
(1)立憲民主制
(2)自由や民主主義、人権など普遍的価値
(3)市民社会
(4)市場原理を重視する新自由主義
(5)報道の自由
(6)中国共産党による中国建国の歴史に対するニヒリズム
(7)中国独特の社会主義に対する疑問
中国共産党は、体制を維持するために、自分たちを脅かす全ての思想や信条を敵視しています。だから西側陣営の私たちが中国を敵視せず、中国との冷戦を望んでいなかったとしても「中国が私たちを敵とみなしていることが問題を引き起こす」とパッテン氏は断言します。

習体制が自由と民主主義、人権、法の支配、自由経済を、中国共産党支配を脅かす危険な敵だと見ていたら、チベット自治区や新疆ウイグル自治区、天安門事件で起きた悲劇が香港や台湾、南シナ海、そして東シナ海でも繰り返される恐れがあるということです。

「香港は中国共産党が嫌う全てのものを体現している」とパッテン氏は指摘しています。

パッテン氏「中国によるいじめの黄金時代になったのは間違いない。他国と協力しなければならないにしても中国にもっと厳しく対応しなければならない。中国は黄金時代の見返りにイングランド北部や同中部シェフィールドへの巨額投資を約束したが、そんなものは起きなかった」
「駐英中国大使があらゆる機会に略奪やいじめのために英中黄金時代というスローガンを使っただけだ。ドイツが、自国のロボット産業に対する中国の略奪的投資について神経質になっている理由をイギリスも考えた方がいい」
ベルリンにある研究機関、メルカトル中国研究センター(Merics)によると、2000年から昨年にかけ中国が欧州各国に対して行った直接投資(FDI)は次の通りです。
イギリス503億ユーロ(約6兆1200億円)
ドイツ227億ユーロ(約2兆7600億円)
イタリア159億ユーロ(約1兆9300億円)
フランス144億ユーロ(約1兆7500億円)
フィンランド120億ユーロ(約1兆4600億円)
オランダ102億ユーロ(約1兆2400億円)
イギリスとドイツへの投資が大きいのは経済規模が大きい上、投資価値のある企業や技術が多く、市場が開かれていることに関係しています。中国に対して欧州の市場は開かれているのに、中国の市場が同じように開かれているわけではありません。

研究開発力のあるイギリスの大学から軍事転用可能な最先端技術が中国人留学生を通じてリアルタイムで中国に流出しています。

さらに新型コロナウイルス・パンデミックでは感染防護のためのN95マスク一つとっても中国抜きではつくれなくなったことが浮き彫りになりました。中国は世界のサプライチェーンにガッチリと組み込まれています。

英シンクタンク、ヘンリー・ジャクソン・ソサエティー(HJS)がアングロサクソン5カ国の電子スパイ同盟「ファイブアイズ」のサプライチェーンにおける中国依存度を調べています。例えばラップトップ型PCのサプライチェーンではこんな感じです。

オーストラリア94.3%
ニュージーランド93.1%
アメリカ92.7%
カナダ87.5%
イギリス67.6%
携帯電話のサプライチェーンは以下のような状況です。
カナダ77.6%
オーストラリア74.9%
アメリカ72.5%
ニュージーランド67.3%
イギリス61.2%
30年前の天安門事件の時は西側が中国に対して経済制裁を加えることで中国に西側の自由と人権、法の支配、自由経済に従わせることができました。当時、中国経済の世界に占める割合は2%未満でしたが、現在は約20%まで急拡大しています。

中国はもう西側に気兼ねしないで行動できると考え出しているようです。

パッテン氏「これは英保守党の問題だけではない。あらゆる分野で中国との関係を検討すべきだ。貿易、教育、投資、安全保障、中国がどこでルールをねじ曲げているのかを見ること、サプライチェーン、戦略的産業の独立性を明らかにして、行動する必要がある」
安倍晋三首相は10日の衆院予算委員会で、中国の香港国家安全法導入問題を受け「一国二制度を前提に、声明を発出する考え方の下に先進7カ国(G7)の中で日本がリードしていきたい」と意気込みを述べました。

安倍総理 10日の衆院予算委員会にて
これは、アングロサクソン系の米英加豪と連携した動きだと見られます。
西側諸国を代表するG7はアングロサクソン3カ国と欧州の独仏伊に意見が割れがちで、どちらにも属さない日本が仲を取り持つのは、欧州でドナルド・トランプ米大統領への反発が強まる中、外交上、非常に意義があることです。

西側のプラットフォームであるG7や北大西洋条約機構(NATO)、ファイブアイズをフル活用して中国に対し、香港の「一国二制度」と「高度な自治」を維持するよう働きかけ、新型コロナウイルスのゲノム情報を全て開示し起源の確定に協力するよう迫っていかなければなりません。

中国共産党はあらゆる手段を講じて西側諸国を分断し、揺さぶりをかけて、最後には支配しようとしています。日本でも鼻薬を嗅がされ、知らず知らずのうちに中国共産党の「有益な愚か者」として利用されている政治家、企業家、大学関係者は少なくありません。

自分の利益だけを優先して自由と民主主義、法の支配、人権をないがしろにして良いわけがありません。日本でも超党派の議員で中国が関わる全ての問題を詳らかにして公に議論し、国民に知らせるプラットフォームをつくることが重要です。

日本も、穏健でリベラルな保守主義者パッテン氏の警鐘に耳を閉ざしてはならないです。


そうして、安倍総理自身は、これから新世界秩序の構築に日本としてもこれに乗り遅れることなく、機先を制することには、前向きなようです。

G7のアングロサクソン3カ国と欧州の独仏伊、この二つをまとめ、さらには台湾とも関係を深めコロナ後の新世界秩序の中でリーダー的地位を獲得していただきたいものです。

それと、これは以前もこのブログで述べたことですが、香港はすでに中国の地方都市になったも同然ですから、国際金融センターは、香港から台湾に移すべきです。G7が協調すれば、世界に新たな秩序を構築するとともに、それも十分可能になり、台湾の国際金融センターは世界の繁栄に大きく寄与することになるでしょう。

従来は華僑の人々の力が、中共に都合良く利用されたのですが、台湾に国際金融センターを移すことにより、今度は新社会秩序の構築と、その上で自由な経済活動を活発化させるための大きな力となることでしょう。そうなると、台湾は大きく変貌することになるでしょう。国土は、小さくても経済的には中共を脅かす存在となるでしょう。

金だけで、中共との関係を強化してきた、華僑の人々も、今後の安定した取引を考えれば、台湾の国際金融センターへと乗り換えるでしょう。

ただし、香港の奪還に関しては、諦めることなく、中共がそれを認めざるを得なくなるまで迫るべきです。
【関連記事】


2020年6月12日金曜日

中国共産党が進めるオーストラリア支配計画 目に見えぬ侵略は日本でも始まっている—【私の論評】日本は旗幟を鮮明にし、日米豪同盟を強化せよ!(◎_◎;)

中国共産党が進めるオーストラリア支配計画 目に見えぬ侵略は日本でも始まっている
国際 中国 2020年6月11日掲載




 先月、中国共産党の対オーストラリア工作を明らかにした『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)が出版された。著者はオーストラリアの作家で、チャールズ・スタート大学の教授、クライブ・ハミルトン氏である。地政学者の奥山真司氏が翻訳した問題作。オーストラリアだけでなく世界覇権を目論む中国は、すでに日本にも触手を伸ばしている。オーストラリアの失敗から学ぶべきことは?

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 原著は、出版社と契約を結んでいたが刊行中止。その後も2社から断られた、ようやく出版にこぎつけたいわくつきの書である。英紙フィナンシャル・タイムズは、「販売中止を決めた自粛は自己検閲だ」と批判している。

 公共倫理を専門とするハミルトン氏は2016年8月、労働党のサム・ダスティヤリ上院議員の政治スキャンダルが発覚した際、中国共産党の工作に気づいた。この議員は中国共産党とつながりのある中国人富豪と癒着。これをきっかけにオーストラリアの主要政党にとって、裕福な中国人や中国系オーストラリア人のビジネスマンたちが最大の資金提供者となっていたことが判明したのだ。

 さらにハミルトン氏の調査で、中国共産党は、オーストラリアの連邦政府、企業、主要政党、大学、メディアなどに浸透し、影響を与え、コントロールするための体系的な活動を行なっていることがわかったという。

 中国がオーストラリアにターゲットを定めたのは、2004年8月。世界中に散らばる中国の外交官を北京に集め、秘密会議が開かれた。当時の共産党総書記であった胡錦濤(こきんとう)のもと、党の中央委員会がオーストラリアを中国の周辺地域に組み込むべきであると決定した。中国最大の狙いは、米豪同盟を壊し、オーストラリアを属国化することだったという。

 05年2月には、共産党の外交部副部長であった周文重(しゅうぶんじゅう)がキャンベラを訪れて、在豪中国大使館の高官たちとの会合で中央委員会が決定した戦略を伝えた。ハミルトン氏の取材に応じた在シドニー中国領事館の政務一等書記官だった陳用林氏(ちんようりん‐2005年にオーストラリアに政治亡命)によれば、中国は経済的な手段を使って、オーストラリアに対して軍事関連や人権問題を含む、様々な分野で譲歩を迫り、オーストラリアをアメリカに対してノーと言える西洋の国にしようと画策しているという。

    2002年8月、オーストラリアは中国広州省に天然ガスを供給する契約を結び、有頂天になって喜んだ。しかし、陳用林氏によれば、中国は数カ国を招いて入札を行い、1番安い金額を提示したインドネシアに決めていたが、

北京の共産党中央委員会があえてオーストラリアに決めたのだという。これはいわば中国の対オーストラリア工作の伏線で、オーストラリアを中国の方に振り向かせる狙いがあった。

日米同盟の弱体化

    「中国の対オーストラリア工作は、主に在外華僑を使っています。これを僑務工作と呼んでいます。オーストラリアに移住している中華系住民を使って、政界や財界工作を行うのです。中でも、最も影響力があった富豪実業家のひとりが黄向墨(ほわんしゃんも)でした。彼はオーストラリアの政界、財界、メディアまで大変影響力のあった人物で、シドニー工科大学に豪中関係研究所を設立し、元外相のボブ・カーを所長に据えました。ボブ・カーは、天安門事件が起こった時、中国の一党独裁体制を『滑稽なほど時代遅れ』と批判していました。ところが中国の工作によって、親中派になってしまったのです。そのため、“北京ボブ“という渾名が付いています。2019年、オーストラリア当局は黄向墨と中国共産党とのつながりを調査した結果、永住権を剥奪し、再入国を禁止、市民権申請を却下しました」

 と解説するのは、本書の監訳者で「日本国際戦略研究所」を主宰する山岡鉄秀氏。同氏はオーストラリアに約23年間在住し、オーストラリアの変化を肌で感じていた。

 豪中関係研究所は、表向きは中関係発展のための研究機関となっている。しかし、そのセミナーや出版物の内容を見ると、中国共産党のプロパガンダそのものだという。黄向墨は、冒頭で紹介したサム・ダスティヤリ上院議員に資金提供していた人物でもある。

    「私は、シドニーで大学院生だった頃、中国系の学生たちと仲良くなりました。彼らは、オーストラリアで生まれ育った移民2世、3世で、適度に西洋化され付き合いやすかった。真面目でよく勉強もしていました。ところが最近のオーストラリアの主だった大学は、雰囲気がガラっと変わりましたね。留学生の4割は中国人で、彼らは中国政府の管理下にあります。中国からガチガチの愛国教育を受けています。中国の留学生のミッションには、中国に批判的な個人や団体の監視が含まれます。教師が中国に批判的な発言をしたり、中国政府の見解に合わない資料を使ったりすれば、吊るし上げて謝罪を求める。領事館から大学に直接抗議が入ることもあります」(同)

 中国は次に日本をターゲットにする可能性もある。ハミルトン氏によれば、中国は、日本をアメリカから引き離すために「エコノミック・ブラックメール」(経済的強迫)を使って政治面での譲渡を迫っている。すでに日本には、北京の機嫌をとる親中派の財界人が多いという。中国は、日米同盟を決定的に弱体化させなければ日本を支配できないことをよく知っているのだ。

    「すでに中国は、日米同盟を弱体化するための手を打っています。米中の貿易戦争が厳しくなっている中、安倍晋三首相が一昨年10月に財界人を伴って訪中しました。中国は、天安門広場に日の丸を掲げて大歓迎。その際経団連の中西宏明会長は、『中国は敵ではなく、我々を求めている』と発言しています」(同)

 コロナ禍でも同様だという。

    「他国が中国全土からの入国を拒否している中、日本はなかなか入国を拒否しませんでした。武漢や浙江省だけ拒否していました。これは習近平の来日が予定されていたこと、中国から「大ごとにしないで欲しい」と言われたことへの配慮だと思われます。政府は国民の安全より中国を優先してしまいました。中国からすれば、まさに思う壺ですよ。日本が米中の狭間で漁夫の利を得ようとして姑息なことを考えれば、破滅につながります。米中が争っているのだから、アメリカの同盟国である日本は、中国に対して毅然とした態度を取るべきです」(同)

週刊新潮WEB取材班

【私の論評】日本は旗幟を鮮明にし、日米豪同盟を強化せよ!(◎_◎;)

クライブ・ハミルトン氏

『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』の著者のハミルトン氏は豪州キャンベラのチャールズ・スタート大学公共倫理学部の教授です。ハミルトン氏は2008年、北京五輪の年、豪州における中国勢力の浸透に不審を抱きました。

聖火が到着したキャンベラに何万人もの中国系学生が集まり、一般のオーストラリア人が中国人たちから蹴られ、殴られました。自分の国で外国人学生の乱暴狼藉をなぜ受けなければならないのでしょうか。そもそも万単位の中国人学生たちは如何にして突如キャンベラに集結したのでしょうか。この疑問が氏の中国研究の始まりでした。

氏の体験は、同じ年、長野市に中国人学生が集結しチベット人や日本人に暴力を振るった事件とほぼ完全に重なります。

本書は日本に対する警告の書でもあります。豪州の人々は中国の侵略の意図など夢にも気づかず国を開きすぎたとハミルトン氏は書いています。

中国の意図は米国の同盟国を米国から分離させ、米国の力を殺ぎ落とし、中華の世界を築き上げることです。『目に見えぬ侵略』は、北京が豪州とニュージーランド(NZ)を米国の同盟国の中の「最弱の鎖」と見ていること、この両国を第二のフランス、つまり「米国にノーと言う国」に仕立て上げたいと考えていること、その為に両国の国全体、社会全体をコントロールし易いように親中的に変えていく政策を、中国政府が採用したことをつきとめています。

これは中国の常套手段と言っても良い手法です。1998年に江沢民国家主席(当時)が国賓として訪日しました。それに先立って中国共産党がまとめた対日政策の中に「日本を支配するには日本人が自ら中国に尽くすように日本人の価値観を変えていくことが重要で、その為に未来永劫歴史問題を活用するのが最上の手段だ」などと書かれています。

豪州全体を親中色に染め上げるべく、北京政府は2000年に試験的に華僑の活用を開始し、11年に完全に制度として確立したとハミルトン氏は断じています。世界に散らばる華僑は2300万人規模、豪州総人口2500万人の内100万人以上が中国系市民で、彼らも北京政府の標的に含まれているといいます。

華僑を大勢力としてまとめる司令塔が僑務弁公室でした。同室は豊かな中国人ビジネスマンの政治献金、選挙時における中国系市民の組織票の動員、中国系候補者当選への支援、政府高官の取り込み、中国を利する政策決定の誘導等、幅広く活動します。

ハミルトン氏は、われわれは「中国共産党は支配のための、考え抜かれた長期的戦略」に従って動いていることを忘れてはならないと強調しています。中国は豪州人の精神を親中国に変えることに加えて、豪州に対する有無を言わさぬ支配権を握るべく工作してきました。そのひとつがインフラの買収です。

数ある事例のひとつが電力です。ビクトリア州の電力供給会社5社と南オーストラリア州唯一の送電会社はすでに、中国国営企業の国家電網公司と香港を拠点とする長江基建集団の所有とな離ました。

豪州西部州の三大電力販売会社のひとつ、エナジーオーストラリアは300万人の顧客を持つ大企業ですが、これも香港に拠点を持ち北京と深い関係にある「中電集団」に買い取られました。豪州最大級のエネルギーインフラ企業、アリンタ・エナジーも香港の大富豪、周大福に40億豪ドルで売却されました。

電力は産業のコメです。安定した供給なしにはその国の産業は成り立ちません。豪州政府が中国の意向に逆らうような政策を打ち出す場合、北京政府は中国系資本所有の電力会社の供給を止めることで豪州を締め上げることができます。

ハミルトン氏は警告しています。豪州の配電網は電信サービス網と融合しているため、前者の所有者は豪州全国民全組織のインターネットと電話のメッセージ機能すべてにアクセス可能になります。豪州政府の情報すべてを中国は文字どおり、手にとって見ることが可能なのです。豪州は政府ごと丸裸にされているということです。

中国はさらに攻勢を強め首都キャンベラや、シドニーを擁するニューサウスウェールズ州の電力インフラ、オースグリッドを99年間租借しようとしました。豪州連邦政府が危うくこれを阻止したのが16年8月でした。

ところが、豪州内の親中勢力はこの政府決定に徹底的に反撃しました。そして奇妙なことが起きました。17年4月に対中警戒レベルを上げていたはずの外国投資監査委員会が突如軟化し、巨大インフラ運用会社「デュエット社」を長江基建を主軸とする中国のコンソーシアムに74.8億豪ドルで売却することを許可したのです。

豪州の国運をかけての戦いは一進一退です。現在、北京はモリソン豪首相が新型コロナウイルスの発生源に関する独立調査を求めたのに対して豪州産農産物の輸入規制で報復中です。

モリソン豪首相

さらに中国は今月、輸入した牛肉の検疫で違反が見つかったとして、オーストラリアの企業4社からの肉製品の輸入を停止していて、新型コロナウイルスをめぐるオーストラリアの対応に反発した措置ではないかという見方も出ています。

中国がオーストラリア産の大麦が不当に安く輸入されているとして関税を上乗せする措置を始めたことについて、オーストラリアのリトルプラウド農相は「控えめに言って失望している。中国の決定に対して冷静かつ系統的に対処し、WTO=世界貿易機関にはかる権利は残しておく」と述べ、WTOを通じた解決も視野に対応を検討していく考えを明らかにしています。

輸出の3割を中国に依存する豪州には大きな痛手ですが、首相支持率は66%、2倍にはね上がりました。

業を煮やした北京政府が特別に甘い言葉をかけ始めたのが日本です。

中国共産党機関紙の環球時報が5月26日、「日本は豪州に非ず」という社説を配信しました。日本は豪州とは異なる、米国側につかず、中国側に来いとして、次のようにも書いていました。

「米中摩擦の中で日本が正義の側(中国側)でなく、同盟国側につくなら、日米同盟を当然の(安全)策として活用することはできない」

米国側につけばただでは措かないという恫喝です。日豪はいま中国の攻勢の真っ只中にあります。共に力を合わせて中国共産党の侵略から国と国民、経済を守り通さなければな離ません。

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2020年1月13日月曜日

【日本の解き方】韓国・文政権が「反日」を強めるしかない事情 経済失政で苦境続き…中国・北朝鮮に頭上がらず―【私の論評】経済悪化や、社会構造まで日本のせいにする韓国とは関係を避けよ(゚д゚)!


日本製品不買運動など「反日」はエスカレートするのか

2017年5月に就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は任期5年の折り返しを過ぎた。任期の残りで悪化した経済を立て直せるのか。そして対日関係を改善させる可能性はあるのだろうか。

 結論からいえば、反日政策が強まる可能性が高い。

 文政権の本質は典型的な左派だ。雇用を作るより賃金にこだわり最低賃金を過度に引き上げ、結果として失業を増大させたことなどは日本の左派政党と極めて似ている。

 左派政党の常として共産主義への憧憬がある。これは左派の理論基盤であるので仕方ない。そのため中国や北朝鮮に対して精神的に頭が上がらない。文政権の韓国は形式的には民主主義・資本主義の西側諸国の一員であるが、実質は中国・北朝鮮の友好国なのだ。

 もともと韓国は半島国家として中国の大きな影響を受けてきた。「事大主義」といわれるように、強い中国と争わないことが国益にもなっていた。こうした複雑な歴史や地政学的な半島国家の宿命から、保守政権であっても、「反日」は常に韓国政府の有効な逃げ道だった。

 特に左派の文政権にとって、中国と北朝鮮への配慮は必要だ。中国に対しては経済依存度が高いからやむを得ないという側面もあるが、北朝鮮に対しては、はたから見ても異様だ。

 北朝鮮から全く相手にされていないのにかかわらず、文大統領は金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長にラブコールを送り続けている。正恩氏は直接トランプ米大統領との対話チャンネルを持ったので文氏の仲介は必要ないのだが、仲介したいと言う。これでは押し売りだ。これに対し、日本は気兼ねなくはけ口として批判できるので便利な存在だろう。

 文政権は、経済政策を失敗して苦境に陥っている。対日政策でも、日本側の輸出管理見直しへ適切な対応ができず、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を言い出しては撤回するなど独り相撲を行い、日本製品ボイコットを黙認したあげく、韓国観光業への大打撃を与えて自爆状態になっている。

 米中貿易戦争で中国経済がダメージを受けていることも、中国依存の韓国経済には痛手だ。そうした経済苦境により、文政権への支持率は就任以降、総じて低下傾向だ。よほどのファンを除くと、経済がよければ支持するが経済が悪ければ支持しないというライトな層が離れる。経済政策の巧拙によって支持率は動くのだ。

 それでもコアな層は支持し続ける。そしてこうした時に、政治対応としてはコアの支持者固めをする。となると、文政権のコアな支持者は中国と北朝鮮にシンパシーを持つ人が多いので、反日政策は強くなることはあっても決して弱まることはないだろう。

 むしろ、経済苦境の原因を日本に求めて、日本に責任転嫁する可能性が高い。そもそも政治的に考えると、これまでの反日を方向転換することは有り得ない。そうなると、コアの支持者まで失ってしまい、文政権の崩壊になるからだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】経済悪化や、社会構造まで日本のせいにする韓国とは関係を避けよ(゚д゚)!
上の高橋洋一氏の記事には「経済苦境の原因を日本に求めて、日本に責任転嫁する可能性が高い」としていますが、まさにそのとおりです。実際韓国はすでにそれを実行しています。

たとえば、韓国の経済悪化の原因の一つとして、日本による韓国への「輸出管理の強化」が挙げられていますが、これは完璧な誤りまです。

輸出管理が強化されたにしても、
輸出不可ということでは全くない

「韓国に対する輸出規制」に関しては、韓国メディアは『半導体材料を“事実上の禁輸”』『対韓輸出規制を発動』などと、勇ましく報道しています。それと同時に、記事では、『自由貿易を掲げてきた日本へ各国から批判が集まる懸念もある』『各国に恣意的なルール変更ともとられかねない』といった指摘もしています。

果たしてそうなのでしょうか。

まずそもそもこれは、韓国に対して新たに「輸出規制を発動」するものではありません。韓国向けの輸出について、2004年から特別に優遇して簡略化していた手続きを、2003年までの普通の手続きに戻すものです。

簡略化した手続きとは、3年間有効な「包括許可」を得れば、いつでも輸出できるというものです。本来は、輸出の契約ごとに「個別許可」が必要です。2003年当時は、韓国への輸出は個別許可が必要でしたた。まさにこの時の手続きに戻したというだけのことです。

また、輸出に際して「個別許可」が必要なのは、輸出管理の世界では国際的な原則で、特別に信頼できる相手国についてのみ、「包括許可」による手続きの簡略化が認められていました。この対象国を、日本の制度では「ホワイト国」と呼んでいます。2004年にこの「ホワイト国」に韓国が追加されたのです。

なお、この個別許可について、一部の報道では「出荷ごと」に許可が必要となり、日々、工場から韓国に製品を出荷しているようなビジネスが停滞してしまうというような報道によって、輸出企業の現場は混乱しているようです。

これは誤解で、個別許可は”契約ごと”に必要で、一契約で何回にも出荷を分ける通常のビジネスは当然、一度個別許可を得ていれば出荷ごとに許可を得る必要はありません。
特別に信頼できる「ホワイト国」とは、あくまでも輸出管理の観点で信頼できるかどうかです。国際的には欧米主導で長い歴史を有する輸出管理の枠組みが、分野ごとに4つあります。詳細は省きますが、ホワイト国の対象にするには、相手国がこれらに参加していて、しかも国内で厳格に輸出管理をしていることが必要となります。

1990年代、韓国はまだ国際的な輸出管理の枠組みのメンバーではありませんでした。日本は韓国がそのメンバーに参加できるよう、各国に働きかけ、韓国にも関係者が再三足を運んで、韓国が輸出管理をしっかりできるように全面的に支援していました。

その結果、韓国も国際枠組みのメンバーになることができ、韓国からも日本のそれまでの協力、働きかけに感謝されていました。それが2004年に、韓国をホワイト国に追加して特別に優遇することにつながっていったのです。
ホワイト国として特別優遇するためには、相手国が厳格に輸出管理をしているかどうかを確認するための協議をするのが通常です。

そうした協議を、日本は欧州など他のホワイト国と実施してきています。しかし近年、韓国だけはどういうわけか、日本との輸出管理の協議に応じていませんでした。

政府が、「優遇した手続きの前提になる輸出管理の信頼関係が崩れている」としていることから想像するに難くないです。しかし、これを「安全保障の友好国でなくなった」と理解するのは、明らかに行き過ぎです。

安全保障の友好国が「ホワイト国」であると解説している報道もありますが、そうではありません。例えば、インド太平洋戦略を共有するインドや海上共同訓練をするインドネシアなどもホワイト国ではなく、個別許可が必要です。

また欧州連合(EU)が輸出管理のうえで特別優遇しているのは日本を含めて8カ国で、これに韓国は入っていません。多少の細かい点を無視すれば、EU並みの手続きに戻したとも言えます。それでどうして「自由貿易に逆行する」との批判が各国から出るのでしょうか。

この措置の背景に、対韓強硬の声があるのは事実でしょう。韓国人元徴用工の訴訟問題を巡る韓国の対応に、韓国への強硬措置を求める声が自民党内や官邸内で高まっていました。事態打開のために対抗措置を模索していたのも事実です。そうした中で、打ち出された措置を「事実上の対抗措置」と受け止めるのも自然な成り行きです。

しかし中国によるレアアースの禁輸措置と同列に論じるのは的外れです。日本は法治国家だ。政治的な道具として法律運用を自由に利用できるものではありません。

報道の中には個別許可について、「基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置」だとするものもあります。しかし、法治国家としてこうした恣意的運用はあり得ず、明らかに間違いです。

仮にそうした運用をすれば、国が輸出者から訴えられたら負けるのは明らかです。韓国への対抗措置を強く求める立場からは、そうした運用を強く期待したいのは分からないでもないですが、法制度としては無理があります。それにもかかわらず、そうした声に引きずられて報道するのはいただけません。

あくまでこの措置は、手続きを「包括許可から個別許可へ」と、元に戻す変更を行うものです。基準を原則不許可にするよう変えるものではありません。それでは対抗措置として生ぬるい、不十分だというのならば、米国のような原則不許可にするような法律を議員立法で作るしかありません。

また、逆に反対の立場から対抗措置の連鎖になると懸念する向きもありますが、この措置の中身を見れば、およそ対抗措置と言えるものではなく、そうした懸念は的外れであることも分かるでしょう。

「世界貿易機関(WTO)協定違反の疑いもあるグレーな措置」とする、ある日本の識者のコメントまであります。であれば、2003年まで日本はWTO違反をしていたとでも言うのでしょうか。

とても日本の輸出管理法制を理解してコメントしているとは思えません。EU並みの手続きにすること、対インドネシア並みの手続きにすることが、どうしてWTO協定違反になりえるのでしょうか。韓国側の過剰反応に引っ張られ過ぎではないでしょうか。

いずれの立場であっても、まずは冷静に事実に基づいて論じるべきです。

ただし、韓国は、あくまでこの措置により、韓国は経済的不振に陥っていると強弁するでしょう。しかし、その真の原因は、日本の貿易などとは全く関係なく、韓国政府の近年経済対策に問題があるのです。


最も悪化させたのは、金融緩和をしないで最低賃金を単純にあげたことです。韓国の文政権が最低賃金引上げと時短を実施したため、失業率が上がったのです。金融緩和で先に雇用を作らず賃金を上げると雇用が失われる典型的な失敗政策で、これは日本の民主党時代の政策と瓜二つです。

立憲民主党の枝野氏など、韓国でこの政策が完璧に大失敗であることがはっきりしたにも関わらず、金融緩和はせずに再分配をすぺきと主張しています。

さらに、韓国経済は典型的な輸出依存型で、国内総生産(GDP)の約37%を輸出が占めます。半導体は輸出の20%余りに上り、韓国経済を牽引(けんいん)する数少ない分野です。これも、輸出に依存しすぎであり、昨今の韓国経済を悪化させている原因の一つでもあります。


さらに、GDPに占める個人消費の割合は、1970年代はじめは70%台だったのが、2000年に53.8%に低下し、2015年に初めて50%を割り込んだあと3年連続で低下しています。2017年のGDPに占める個人消費の割合は48.1%と、前年に比べて0.6ポイント低下し、韓国銀行が統計を取り始めた1970年以降ではもっとも低くなっています。

ちなみに、日米のGDPに占める個人消費の割合は、米国70%を超え、日本は60%を超えます。このように内需が大きければ、国際経済から受ける悪影響は、比較的少ないですが、韓国のように内需が小さければ、国際経済の影響をもろにうけてしまいます。

このような経済構造にしてしまったのは、あくまで韓国の責任であり、日本とは全く関係ありません。

     統計庁が先月31日発表した「12月及び年間消費者物価動向」によると、
     昨年の消費者物価指数は前年より0.4%上昇に止まった。

昨今の韓国の経済の悪化は、もともと韓国経済が脆弱であったことに加え、金融緩和をせずに、最低賃金をあげるという、まるで日本の民主党政権のときのようなトンデモ経済理論を実行したことによるものです。

さらに、最近の韓国情勢を見ていると、文大統領の政策で韓国国内が二分されていることがわかるります。GSOMIAに関する世論調査を見ても、文政権の当初の廃止の決定に対する賛否は割れていた。その後の政府の姿勢転換についても、国民の意識は大きく割れているように見えます。

国内世論が大きく割れる背景の一つに、韓国の経済環境が悪化する中、文在寅(ムン・ジェイン)大統領がしゃにむに“南北統一”を目指していることがありそうです。

南北統一に関して、一部の世論調査では約53%が賛成でした。それは見方を変えると、約半数の国民は南北統一に慎重であることの裏返しともいえます。特に、シニア世代と若年層では、南北統一への見解が大きく異なっているといわれています。

世代間で世論が分かれる要因として、朝鮮戦争による家族離散などの要因があるとみられます。動乱を経験したシニア世代が、家族がともに生活できる環境を希望することは想像に難くないです。韓国映画でもそうしたシーンが描かれています。

一方、若年層は、冷静に経済環境を直視しているケースが多いのでしょう。中国経済の減速などによって韓国の所得・雇用環境は悪化し、将来をあきらめる若者もいるといわれています。その中で南北統一が目指されれば、韓国は北朝鮮に資金援助などを行わなければならなくなります。

「これ以上の生活環境の悪化には耐えられない」というのが彼らの本音なのでしょう。

ただ、南北統一を期待する市民団体などの支持を得てきた文大統領は、これまでの政策理念を撤回することはできない。そうした状況が続くと、韓国の世論は分断された状況が続き、社会・経済の不安定感は高まりやすいと懸念されます。

こうした社会の変容にともない、当然のことながら、国民の中には不満が鬱積しています。本来なら、韓国政府がこの不満の鬱積を解消すべきなのですが、これに対して韓国政府は何もせず、国民の爆発寸前の憤怒のマグマを反日により、日本に向けて爆発させようと画策するばかりです。

日本としては、何でも日本のせいにする韓国はまともに相手にしても仕方ないので、国際社会に丁寧に説明して、韓国とはなるべく関わり合いにならないすることが得策だと思います。

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2019年7月7日日曜日

対韓輸出規制を強化したが…まだ「カネ」のカードも温存 何でもやるのが国際交渉だ ―【私の論評】日本しか製造できないものは多々存在、習近平とって韓国制裁は対岸の火事ではない(゚д゚)!


G20大阪サミットで、握手した後、すれ違う韓国の文在寅大統領(手前)
と安倍首相=28日、大阪市

日本政府は半導体製造に不可欠な3品目の対韓輸出管理体制を強化する方針を発表した。これがどのような影響をもたらすのか。

 新聞各紙の社説はハッキリ分かれた。産経新聞は「対韓輸出の厳格化 不当許さぬ国家の意思だ」と日本政府の方針を支持したが、日経新聞は「元徴用工巡る対抗措置の応酬を自制せよ」、朝日新聞は「対韓輸出規制 『報復』を即時撤回せよ」と批判的だ。

 産経新聞は、この問題を早くから指摘しており、今回の措置を要望する自民党などの声を報道してきた。今回も産経新聞のスクープだろう。対象の素材品目も正確に書かれている。

 規制強化の方法についても、今回の措置が、(1)フッ化水素など規制3品目の韓国向け輸出について、4日から包括輸出許可制度から個別に輸出許可申請・輸出審査へ変更(2)先端材料などの輸出について外為法の優遇制度「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正-と詳しく書かれていた。

 一方、日経新聞は経済重視の立場から、いわゆる元徴用工問題に対抗する手段として通商関係を使うのはまずいとし、朝日新聞も同様な立場だ。

 たしかに、日本はこれまでこうした措置はとってこなかった。しかし、世界では何でもやるというのは当たり前だ。筆者が現役官僚の時には、日本製品を輸入する場所を内陸地の1カ所に限定し貿易交渉をした国もある。それでも日本は何もせずに、その意味ではなめられていた。

 それで日本の国益になっていればよかったが、必ずしもそうとも言えない。いざという時には、日本もやると思わせた方が国益になるはずだ。それが国際交渉のリアルな現場だ。

 朝日新聞は、日韓関係の影響を心配するが、ここまでこじれさせたのは韓国側だろう。この期に及んで「日韓両政府は頭を冷やす時だ」と、日韓両政府の責任にするのはあまりに無責任である。

 今回の措置について、外為法を使うのは想定内だが、モノを経済産業省、カネを財務省が所管している。筆者は、モノよりカネのほうが韓国への打撃が大きく、国内関係者への誤爆が少ないと論じてきた。今回、モノから韓国への制裁を出したというのは、日本政府はまだカネのカードを温存しているというわけだ。

 モノの制裁といっても、輸出の禁止ではなく手続きの変更である。ということは制裁強化の余地も残っている。つまり、モノとカネのどちらもカードはある状態だ。

 韓国は世界貿易機構(WTO)に提訴するなどの対抗措置に出るというが、日本政府としては想定内だろう。今回の措置は貿易枠組みの変更ではなく、その範囲内で各国政府に委ねられたものだ。提訴したら時間もかかるので韓国に不利である。

 日本も韓国にいわゆる元徴用工問題、レーダー照射事件などでやられてようやくたくましくなり、やっと「普通の国」の行動がとれるようになった。皮肉を込めた意味で、韓国に感謝しなければいけないようだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本しか製造できないものは多々存在、習近平とって韓国制裁は対岸の火事ではない(゚д゚)!

韓国政府、特に文在寅大統領は、懲罰を受けるに足る原因をいくつも作ってきたのですから、日本政府は明確に「懲罰だ」と言ってしまった方が、韓国には「親切」なのではないかと思います。

なぜなら韓国は、右派・左派(保守派・革新派)が親日・反日あるいは反中・親中ときれいに分かれて政党あるいは政府ときちっと結びついているわけではなく、左右が入り乱れて民間団体を作ったり特定政党を支持したりしなかったりしているので、大統領は民意の動きに右往左往しながら選挙を目指してあたふたする傾向にあるからです。

韓国は、政権与党が政権能力を持っていない国という特徴があると言っても過言ではないからです。

今回の制裁で、打撃を受ける韓国企業の中に「サムスン」が入っている事実は、自業自得であり、この日が来るのがおそすぎたと言っても過言ではないと思います。評論家の渡辺哲也氏等今回の制裁に近いことを以前から主張してしました。

日本の半導体関係の技術者がリストラをひかえて窓際に追いやられていた頃、技術者の一部は「土日ソウル通い」をしていました。土日だけサムスンなどの半導体メーカーに通って破格の高給で東芝など自社の核心技術を売りまくっていたのです。

本来なら宝物であるような「技術者」を大切にしなかった東芝などの日本の経営陣と当時の通産省の幹部に大きな責任があるものの、韓国の半導体メーカーは「日本の半導体技術を窃取した」のです。

日本の半導体を潰したのは誰か?

サムスンを日本の半導体を凌駕するところまで持って行ったのは、日本の大手製造業の技術者軽視であり、当時の通産省の怠慢であり、もっとも大きかったのは、日銀による金融引き締め、財務省の緊縮財政であり、これにより国内ではデフレが進行、海外では超円高にみまわれました。日本の半導体メーカー等の先端産業は、手首両足を縛られた状態で海外と対峙しなければなりませんでした。

そして韓国半導体メーカーの「抜け目のない狡賢さ」です。だから韓国半導体メーカーが多少の痛手を蒙るのは当然です。

さらに、ドイツのデータ分析会社「IPリティックス」による今年5月の調査データでは、5G の技術標準(規格)に関する標準必須特許数で、ファーウェイは1554件と、2位のノキア1427件を上回って世界トップの座にのし上げっていることを示していますが、トランプ政権の攻撃により、トップの座を維持することが危うくなっていました。

6月29日のトランプ大統領の(一時的)敗北宣言に近いようなファーウェイに対する制裁緩和を受けて、息を吹き返しそうではあるが、何と言っても3位と4位にはサムスン電子、そしてLG電子と、韓国勢が控えているのです。

 5G必須特許出願の企業別シェアは以下のようになっている。

 1.ファーウェイ(中国、民間):15.05%

 2.ノキア(フィンランド):13.82%

 3.サムスン(韓国):12.74%

 4.LG電子(韓国):12.34%

 5.ZTE(中興通訊)(中国、国有):11.7%

中国勢は計26.75%ですが、韓国勢は25.08%と、中国に迫る勢いです。このような中、安倍首相が韓国勢を叩いてくれるのだ。習近平国家主席にとっては、安倍首相には、どんなに感謝してもし切れないでしょう。

安倍首相の対韓制裁のお蔭で、一時陰りを見せていた中国勢の勢いは、輝きを取り戻すことができると思っているかもしれません。

5Gの国際標準仕様を策定するデッドラインは目の前に迫っています。ただし、5Gは日米等が着手しはじめている6Gからすると、どうなのかという話があります。

通信機器市場では中国の華為技術(ファーウェイ)が優勢で、米企業の影は薄いです。トランプ米政権は安全保障リスクを理由に、中国製を自国や友好国から締め出す構えです。一方、トランプ米大統領は早くも第6世代(6G)に言及。6Gを見据えた研究も促し、5Gから一足飛びで次世代戦略に踏み出す動きを見せています。

すでに、米政府が近く、5G網の脆弱(ぜいじゃく)性を詳細に分析した報告書を公表するとの観測も、米ワシントンの情報通信関係筋で浮上しています。

そんな中、トランプ大統領の口から、早くも第6世代(6G)の開発を促すような言葉が出ています。

「今の話題は5Gだが、その前は『4Gに乗り遅れるな』といっていた。いずれ『ナンバー6』が話題になる。米国は何にしたってリーダーになりたい」

トランプ氏は4月12日のイベントで、そうも語りました。同氏は2月下旬にもツイッターで、「米国で5Gを、いや6Gも、なるべく早く実現したい。米企業は取り組みを強化せねばならない」と述べました。

こうしたトランプ氏の発言に前後して、FCCは3月中旬、将来的に6Gに利用される可能性がある「テラヘルツ波」と呼ばれる周波数帯を、研究向けに開放することを決定し、利用規則を発表しました。

これで研究者らは、電波を正式に使うことができるようになります。5Gの開発に取り組んだニューヨーク大学のテッド・ラパポート教授は「6Gの幕開けとなるかもしれない重要で歴史的な一歩だ」と称賛しました。

5G網の整備は今後本格化し、米国での投資額は2750億ドル(約30兆円超)になるとの試算もあります。米政府は、巨大な国内市場でまず中国製を締め出す方向ですが、米政府周辺では、昨年初めから、5Gネットワークの「国有化論」が浮かんでは消え、通信関係者の関心を集めています。

こうした議論は、中国勢に押され気味の米国の危機感が表れているようにも映ります。米国が、旗色が悪い5G時代を早々に終わらせ、6Gで主導権を奪回するシナリオを描くとしても不思議ではないです。

米国の専門家からも、6G時代を見据えた国家戦略を求める声が出ています。

ハイテクと軍事技術の動向に詳しいバージニア工科大学のチャールズ・クランシー教授は、米首都ワシントンでのシンポジウムで、「米国は6Gで競争の舞台に戻らなければならない。連邦政府の資金支援を背景に大規模な(6Gの)開発計画を国が主導していくことが求められている」と指摘しています。

2019年から2020年にかけて多くの国で商用化される5Gでは、現行4Gの20倍、20Gbpsの超高速データ通信が実現される。だが、モバイル通信の進化はこれで止まるわけではありません。

世界中のネットワークベンダーや研究機関が、すでにその先の6G(Beyond 5G)を見据えて、さらなる高速・大容量伝送を可能にする無線技術の開発に挑んでいます。その先頭を走るのがNTTです。

NTTは性格の異なる2つの技術分野で、世界に先駆けて無線による100Gbpsデータ伝送実験を成功させました。

屋内伝送実験の様子。10mの距離で120Gbpsのデータ伝送を実現した

1つは、OAM(Orbital Angular Momentum:起動角運動量)多重伝送技術を用いたもの。2018年5月、世界初となる100Gbps伝送実験(距離10m)に屋内(電波暗室)環境で成功したことが発表されました。12月に開催された国際会議「IEEE GLOBECOM2018」では、信号処理の改良によって、さらに120Gbps伝送に成功したと報告されています。

トランプ米大統領は先月29日、20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の閉幕後の記者会見で、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)への事実上の禁輸措置に関連し「アメリカ製品をこれからも売ることを認めていきたい」と述べ、米企業によるファーウェイへの部品販売などを認める考えを示しています。「大量の米国製品がファーウェイのさまざまな製品に使われており、取引を続けてもかまわないと思っている」と述べました。

ただトランプ氏はファーウェイの安全保障上の懸念について「非常に複雑な問題だ。貿易協定でどうなるかを見ていきたい」と付け加え、引き続き注視する考えを示しました。「安全保障上問題がないところは、装備・設備などを売ってもいい」と述べました。

トランプ大統領はすでに6Gを視野に入れており、日米て6Gを先行させ、5Gを急速に陳腐化させることを狙っているようです。5Gでは、技術の窃盗にあったですが、これをなくして、6Gで米国が通信のスタンダードをつくり中国や、韓国の野望を打ち砕こうという腹のようです。そうして、これはトランプ政権の後にも受け継がれていくことでしょう。

こうした状況の中で、日本が韓国に制裁を加えたということは大きいです。習近平からすると、5Gで中国に迫る韓国ですが、それが日本の制裁で失速するかもしれないということは、中国もそうなる可能性もあるということを思い知ったことでしょう。

中国は世界の蛍石の生産地として知られていますが、実際の埋蔵量は世界の10%しか占めていないと言われています。

一方2012年から2014年末の中国での蛍石生産量は500万トン弱で、世界の需要の半分以上を供給したことになります。そうして、中国では高純度のフッ化水素を製造できません。

一方日本はフッ化水素にかわる原材料を開発しており、高純度のフッ化水素を製造できるのは日本が独壇場と言っても良いです。

こうなると、中国に対しても制裁が可能ということです。その他、中国というか、世界の中で日本でしか製造できないものは多くあります。炭素繊維や、意外なものでは高速鉄道のレールもあります。その他にも、日本でしか製造されていない、あるいは日本が世界のシェアの大部分を押さえてしまっている、素材、部品、資本財に製造機械や工作機械というものが山ほどあります。

習近平

憲法のしがらみもあり、日本は軍事的には米国に直接協力できるところは多くはありませんが、このような制裁なら、韓国だけではなく中国にもできます。米国も自身もこのような制裁を実施するでしょうし、日本に協力を求めてくることになるでしょう。日米協力のものとにこのような制裁をすれば、かなりの力になります。

たとえば、金融制裁でも、米国単独ではなく、日米協同であれば、さらに大きな力を発揮できるはずです。

こうなると、中国としても韓国への制裁は、他人ごとではありません。「中国製造2025」も頓挫させられるかもしれません。今頃、習近平は戦々恐々としていることでしょう。それが恐ろしいなら、尖閣への示威行動、日本への工作員の大量派遣を即刻やめるべきです。

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2019年6月5日水曜日

日本の外交立場が強くなる米中新冷戦―【私の論評】米国の対中「制裁」で実利面でも地位をあげる日本(゚д゚)!

日本の外交立場が強くなる米中新冷戦

岡崎研究所

米中関係は、新冷戦と言われる時代に入った。貿易交渉の決裂から、米中間での報復関税の応酬、次世代通信システム5Gをめぐるファーウェイ(華為技術)問題等、毎日のように米中の対立が話題になっている。


ただ、この米中対立を、単に貿易問題・経済問題としてとらえるのは不十分である。そのことを踏まえながらも、より広い視野で米中関係の現在を分析し、将来どうすべきかを論じることが重要である。

今の米中対立は、貿易赤字問題に端を発しているが、その枠を超えて、より広範な問題での争いに発展してきていると判断できる。米国は、中国の国家資本主義的なやり方に対する批判を強めており、それは共産党が企業をも指導する体制に対する批判になってきている。中国は、少なくとも習近平政権は、そういう批判を受け入れることはできないだろう。体制間の争い、覇権をめぐる争いになってきていると考えるのが正解であろう。これはマネージすることが極めて難しい争いである。大阪G20サミットの際に、もし米中首脳会談が開催され、トランプ大統領と習近平国家主席との間で、対立緩和への何らかの合意がなされたとしても、それは一時的な緩和にしかならず、底流としてこの対立は続くだろう。

トランプ、習近平が政権の座を離れる時が対立底流を変えるチャンスになろうが、習近平の方が長続きすると中国は考えていると思われる。

この米中対立の影響は今後どうなっていくのか。経済的には、米中双方の経済、さらに世界経済に下押し圧力がかかることは確実である。高関税の相互賦課は米中貿易を縮小させるし、サプライチェーンの再編成は諸問題を引き起こすだろう。しかし結局、製造拠点が中国から他の東南アジア諸国に移動するなどで新しいバランスが時を経て作られていくだろう。中期的に見れば、この影響は大したことにはならず、ベトナムなどのような国のさらなる発展につながる結果になろう。

経済と安全保障の境目にある技術の問題については、米国は華為技術をつぶしたいと思っているのだろうが、華為技術はもうすでに十分な技術を持っているのではないかと思われる。それに中国には有能な技術者が沢山いる。技術面で優位にある国はその優位を維持したいと思うのは当然であるが、そういうことは大抵成功しない。技術、知識というものは拡散する傾向がある。米国が核兵器の実験をした1945年の4年後、ソ連が核実験に成功したことを思い起こせばよい。

華為技術は、米国や日本からの技術調達ができなくなるし、販売でも苦労しようが、つぶれることはないだろう。

軍事・安全保障面では、ウィンウィンの経済関係の維持に配慮することが、米中双方の対決への緩和要素になっていたが、それがなくなるに従い、厳しさを増してくることになる。歴史を見ると、経済的相互依存関係が戦争抑止になったことはあまりなく、政治的対立は経済的損失を考慮せずに深まる例が多い。南シナ海問題や台湾問題がどうなるかはまだ今後の展開による。

昨年10月4日のペンス米副大統領の演説以来、米中間には「新しい種類の冷戦」の時代が来たように思われる。この新冷戦が日本に与える影響は政治的には総じてポジティブなものと考えられる。

米国にとり西太平洋でのプレゼンス維持は重要になるが、日本との同盟関係の重要性は高まるだろう。中国にとっては、米国との対立に加え、日本とも対立することは不利であり、日中関係をよくしておきたいと思うだろう。日本の外交的立場は強くなるのではないか。もうすでにその兆候は出てきている。

【私の論評】米国の対中「制裁」で実利面でも地位をあげる日本(゚д゚)!

米中冷戦で本当に、日本の外交的立場は強くなるのでしょうか。これを読み解く前に、まずは米中冷戦なるものを見直しておきます。

現在「米中貿易戦争」と呼ばれるものは、単なる経済的な戦争では無く、かつてソ連と米国が対立した「東西冷戦」と同じく「冷戦(コールド・ウォー)」であるということを改めて確認すべきです。

東西冷戦では、「どちらが先に核ミサイルのボタンを押すのか」という神経戦が続きました。1962年のキューバ危機のケネディvsフルシチョフの「どちらが先にボタンを押すか」という緊迫した駆け引きは、ケビン・コスナーが主演した「13デイズ」(2000年)という映画にもなっている。



この冷戦では人々が核兵器の恐怖に恐れおののいたものの、実際に銃で殺し合う現実の戦争はむしろ抑制されました。

今回の「米中冷戦」も神経戦であることは同じですが、いわゆる東西冷戦とは違って3つの要素で成り立っています。
1)核の恐怖 
2)サイバー戦争 
3) 経済力の戦い
1)の「核の恐怖」は共産主義中国の核戦力が米国と比較にならないほど貧弱であることから、ロシアを巻き込まない限り(北朝鮮も米国にとって本当の意味の脅威とは言えない)、クローズアップされることはないでしょう。

2)の「サイバー戦争」こそが今回の「米中貿易戦争」=「冷戦」の核心です。中国の核兵器は、米国にとってそれほどの脅威ではないですが、フロント企業などを通じた米国内への工作員の浸透ぶりや、広範囲にわたるサイバー攻撃には大いに脅威を感じています。

だから、関税よりもファーウェイをはじめとするIT企業および中国製IT製品に対する対策こそが米国にとって最も重要なのです。関税の引き上げは、この部分における米国の要求を通すための「駆け引きの道具」なのです。

しかし、日本はサイバー戦争に無頓着で、お花畑の中でいるかを実感している人は少ないです。日本人は、70年もガラパゴスな平和が続いたおかげでずいぶんボケてしまいました。。

3)の経済力といえば、本当の殺し合いを行う現実の戦争では「兵站」=「武器弾薬・食糧の補給など」にあたります。この兵站は古代から重要視されてきましたが、現代社会ではこの「兵站=経済力」が勝敗を決めるうえでますます重要になってきています。

典型的なのが「経済制裁」です。北朝鮮への経済制裁は、中韓ロなどの友好的な国々による「裏口」からの供給がありながら、ボディーブローのように効いています。

世界経済がネットワーク化された現代では、その「世界経済ネットワークの枠組み」から排除されることは死刑宣告にも等しいです。

そうして、米国の中国に対する関税引き上げは、「経済制裁」の一部であり、その行動を経済合理性から論じるべきではないのです。

今回の「米中貿易戦争」の目的は、かつてのソ連と同じ「悪の帝国」である共産主義中国をひれ伏させることであり、その意味で言えば、トランプ大統領にとって「米中交渉」は、「米朝交渉」と何ら変わりはないです。

そして、このブログにも以前から主張しているように、「米中冷戦」は食糧もエネルギーも輸入依存の中国全面降伏で終わることになるのです。

米国の真の狙いは、ファーウェイのような中国フロント企業を壊滅させ、サイバーテロを行う力を中国から奪うことです。

直接的にファーウェイなどの中国系IT企業を攻撃したり、中国への技術流出を止めてサイバー攻撃ができないようにするのはもちろんですが、関税をはじめとする経済制裁で中国の国力(経済力)を弱らせ、サイバー攻撃に使える余力を減らすことも行うでしょう。

ただ、北朝鮮の例からもわかるように、共産主義独裁国家というものは、国民が飢えていても軍事費は削りません。北朝鮮がその典型例であるし、かつてのソ連邦も軍事力では米国と競い合っていたのですが、その実国内経済はぼろぼろであり、それが大きな原因となって自滅しました。

ソ連の軍事力は確かにすぐれていましたが、その技術は終戦直後はドイツから化学者とともに移入したもので、その後はスパイ工作によって米国をはじめとする西側から盗んだものです。秘密警察が牛耳っている共産主義独裁国家に西側スパイが潜入するのは極めて困難であったのですが、逆に自由で開かれた西側資本主義・民主国家にスパイが紛れ込み先端情報を盗むことは比較的簡単でした。

今、米中の間でそれが再現されています。共産主義独裁国家として自国内では厳しい監視を行うのに、米国をはじめとする西側世界ではサイバー攻撃や情報の入手などでやり放題です。

WTOルールを中国は守らないのに、WTOルールの恩恵を最大限に享受していることにも米国は立腹していますが、米国が本当に守りたいのは「軍事技術・通信技術」の絶対的優位性です。

この「核心」を犯した共産主義中国は、安全保障上極めて危険な存在であり、その安全保障上の問題が解決されない限り、経済制裁である「米中貿易(関税)戦争」は終わりません。

米国の真の目的は、旧ソ連と同じ「悪の帝国」=共産主義中国を打ちのめすことにあるのですが、ソ連のような核大国になる前に叩きのめしたいというのが本音です。

5月13日に米国務省、ポンペオ国務長官が同日に予定していたモスクワ訪問を取りやめたと発表しました。9日にもメルケル首相との会談を直前にキャンセルしていますが、目的はイラン問題への対応です。

北朝鮮のように核保有国になってしまうと、対応が厄介です。だから、まずはイラン問題に集中して、核保有を未然に防ごうという考えのようです。

共産主義中国への対応も同じ路線です。かつてのソ連邦のような核大国になってしまってから対応するのでは遅すぎます。すでにサイバー攻撃や工作活動では米国が遅れをとっているようにも見えます。

だから、戦後最低のオバマ大統領(米大学の国民へのアンケート調査による)による、悪夢の8年間に失った優位性を一気に取り返す秘策として、今回の貿易(関税)戦争が考案されたのです。

マスコミや多くの評論家が見落としているのは、今回の「貿易戦争」が「経済制裁」であることです。制裁なのですから、中国はこれに注文を付ける立場にはありません。

経済制裁を受けている北朝鮮が緩和を求めて米国「ちゃぶ台返し」されたように、共産主義中国が緩和を求めても「お預け」を食うだけです。

米国にとって国防問題は経済問題以上の優先課題です。場合によっては、中国との全面貿易停止もあり得ます。打撃を受けるのは中国であって米国ではありません。

なぜなら、現在は世界的に供給過剰であるから、米国の輸入先はいくらでも開拓できるからです。短期的な混乱はあっても、日本のすぐれた工作機械を設置すれば、どのような国でも米国の求めに応じて、良質の製品を安く米国に提供可能です。ファーウェイにかつて、日本企業がかなり部品供給をしていたことを思い出してほしいです。

さらに、日本の強みがあります。デジタルが機能するには半導体など中枢分野だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサーそこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になります。

また中枢分野の製造工程を支えるには、素材、部品、装置などの基盤が必要不可欠です。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺と基盤技術で見事に生きのびています。また円高に対応しグローバル・サプライチェーンを充実させ、輸出から現地生産へと転換させてきました。

トヨタのケンタッキー工場

世界的なIoT(モノのインターネット)関連投資、つまりあらゆるものがネットにつながる時代に向けたインフラストラクチャー構築がいよいよ本格化しています。加えて中国がハイテク爆投資に邁進していたのですが、その矢先に米国からの「制裁」によって、出鼻をくじかれようとしています。ハイテクブームにおいて現在日本は極めて有利なポジションに立っているし、これからもその有利さが続くことになりそうです。

現在の低金利、供給過剰の世界では、中国が生産しているコモディティの供給などどのような発展途上国でもできます。簡単な工場なら半年もかからないし、大規模・複雑な工場でも1~3年程度で完成します。

むしろ、米中貿易戦争は、供給過剰で疲弊している世界経済を救うかもしれないです。なぜなら現在世界経済が疲弊しているのは、中国を中心とする国々の過剰生産の影響だからです。

「供給過剰経済」については、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界が反緊縮を必要とする理由―【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した事実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!
野口旭氏

世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。 
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。 
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
ここで、貯蓄過剰は、生産過剰と言い換えても良いです。生産過剰の世界では、貯蓄が増えるという関係になっているからです。新興国、特に中国の生産過剰が問題になっているわけです。

競争力を持たない中国製品の貿易戦争による関税増加分を負担するのは、中国企業であり中国経済です。中国社会はその経済的圧力によって内部崩壊するでしょう。値上げによって米国消費者の負担が増えることは全くないとはいいませんが、あまりありません。他の発展途上国の商品を買えばよいだけのことだからです。実際、中国では明らかに物価の上昇がみられますが、米国はそうでもありません。

それがトランプ大統領の真の狙いのようです。中国をたたきつぶすことが優先で、実のところ貿易で利益を得ようとは思っていないフシがあります。貿易戦争で勝利しなくても、米国は多額の関税を手に入れることができる立場にあります。

今回の貿易戦争は、核や通常兵器使用しないだけで、「戦争」なのですから 共産主義中国に融和的な欧州は、経済・国防面から排除されかねないです。

例えば、ファーウェイに融和的な国は、例え英国といえども、ファイブ・アイズから外されかねない危険性があります。

習近平氏は日本に媚び始めていますが、「距離感」を間違えると、日本が米国の報復に合う可能性もあります。ただし、安倍首相とトランプ大統領の友好関係が続く限りそれはないと思います。

結局、中国の「改革・解放」は40年の輝かしい歴史の幕をペレストロイカと同じように悲劇的に閉じるかもしれないです。

そうして、日本は中国から発展途上国にサプライチェーンが移るにつれて、工作機械などの提供で利益を得ることになります。さらには、貿易戦争の過程において、欧州が凋落すれば、ハイテク分野でもそこに入り込む隙ができます。

日本としては、中国とは距離をおいた上で、米国と協調して、中国の凋落を待てば良いです。そうすれば、外交上の立場も上がるし、実利も得ることができるのです。しかも、それは中国のように窃盗によるものでなく、自前で積み上げてきた独自の技術でそれが可能になるということです。

ただし、サプライチェーンが完全に中国から海外に移転しないうちは、短期的には様々な悪影響がある可能性は十分にあります。他にもブレグジットの問題もあります。やはり、今年増税などしている場合ではないでしょう。

せっかく日本の外交上の地位があがったり、実利的に有利になったにしても、日本のGDPの6割は個人消費なので、増税すれば個人消費が冷え込み、再びデフレに舞い戻ることになるでしょう。それでは、全く無意味です。

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2019年3月22日金曜日

南シナ海問題、米国とフィリピンの「温度差」―【私の論評】米国とアジア各国にTPP協定を広げ対中国経済包囲網を強化するが日本の役割(゚д゚)!

岡崎研究所

 ポンペオ米国務長官は3月1日、訪問先のフィリピンでドゥテルテ大統領、ロクシン外相と会談、同外相との共同記者会見で、南シナ海における米比相互防衛条約の適用を明言した。この問題での、ポンペオ長官の発言は次の通り。

フィリピンの海岸にて

 冒頭発言:島国としてフィリピンは、自由な海洋へのアクセスに依存している。南シナ海における中国の人工島建設と軍事活動は、米国だけでなく貴国の主権、安全、したがって経済的活動に脅威を与えている。南シナ海は太平洋の一部をなしているので、同海域におけるフィリピンの軍、航空機、公船に対する如何なる攻撃も、米比相互防衛条約第4条の相互防衛義務発動の引き金となる。

 質疑応答:米比相互防衛条約下での我々のコミットメントは明確だ。我々の義務は本物であり、今日、南シナ海は航行の自由にとり重要な海域の一部をなしている。私は、トランプ政権が、地域と世界中の安全、商業的航行への自由のため、これらの海域の開放性が確保されるようコミットしていることを、全世界が理解していると思う。我々は、その取り組みにおいてフィリピンだけでなく――フィリピンはその一環である必要があるが――この極めて重要な経済的シーレーンの開放性を維持し中国がこれを閉ざすと脅さなくするべく、地域の全ての国々を支持することにコミットし続ける。

出典:‘Remarks With Philippine Foreign Secretary Teodoro Locsin, Jr.’(U.S. Department of State, March 1, 2019)
https://www.state.gov/secretary/remarks/2019/03/289799.htm

 ポンペオ長官の今回の発言は、南シナ海におけるフィリピン軍等への攻撃が米比相互防衛条約の対象になると明言したことで注目された。この発言が大きな意味をもつ理由は同条約第4条の規定にある。第4条は「各締約国は、太平洋地域におけるいずれか一方の締約国に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」としている。つまり、南シナ海は条約に言う太平洋に含まれないとも解釈する余地があったのを、太平洋を含むと明確にしたのである。

 ドゥテルテ政権下のフィリピンは、米国、中国との関係で立場がふらついているきらいがある。その原因の一つには、米国の対比防衛へのコミットメントの確実性へのフィリピン側の不安もあると思われるので、ポンペオ長官の今回の発言は歓迎できる。南シナ海における中国の軍事活動を名指しで批判したのも適切である。

 ただ、フィリピン側には、米比同盟をめぐり歴史的に複雑な感情があり、今回の共同記者会見でのロクシン外相の発言からも、それが続いていることが窺われる。ロクシン外相は、米比間の協力を強調しつつ、フィリピンにおける米比相互防衛条約の「見直し」要求があることについて、更なる考慮が必要であるとして「曖昧さの中に、不確実性つまり抑止力がある。明確化は遺漏と条約外の行動を招く。しかし、過度の曖昧さはコミットメントの強固さを疑わせることになる」と述べている。

 このように、米比間には少し温度差が見られるので、米比協力には今後とも何らかの紆余曲折があるかもしれない。米国の南シナ海における航行の自由作戦をはじめとする軍事行動を含む努力の継続が重要で、その中で、その助けとなる米比関係が緊密化していくかどうかにも注目していくということであろう。

【私の論評】米国とアジア各国にTPP協定を広げ対中国経済包囲網を強化するが日本の役割(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事で、「ドゥテルテ政権下のフィリピンは、米国、中国との関係で立場がふらついているきらいがある」とありますが、確かにそのきらいがいくつかあります。

まずは、フィリピンはかつて米国の植民地だったことがあります。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【スクープ最前線】ドゥテルテ比大統領、米国憎悪の真相 CIAによる暗殺計画の噂まで浮上―【私の論評】歴史を振り返えらなければ、米国への暴言の背景を理解できない(゚д゚)!
握手するドゥテルテ比大統領と、安倍首相
この記事は、2016年10月26日のものです。このときにはまだトランプ大統領は存在しておらず、オバマが大統領でした。

この当時、米国への憎悪を顕にしていたドゥテルテ大統領ですが、その背後には米国とフィリピンの過去の関係があったのです。それは、フィリピンがスペインの植民地から独立しようとしていたとき、米国はスペインからフィリピンを買い取る約束をし、それに腹を立てたフィリピンが米国と戦争をし、結局負けて米国の植民地となったという屈辱の歴史があるのです。

これが、フィリピンが米国、中国との関係で立場がふらついていることの背景にあることは間違いありません。これについては、説明すると長くなるので、これ以上この記事では説明しません。詳細を知りたい方は、リンク先の記事をご覧になってください。

さらに、最近ではフィリピンにある旧米海軍スービック基地が中国資本の手に陥る恐れが出てきたということがあります。

1月8日、フィリピン・サンバレス州スービック湾にある造船所を運営してきた韓国の中堅造船会社の現地法人が、現地の裁判所に会社更生法の適用を申請したのが、事の発端でした。

スービック湾

地元メディアの報道によると、フィリピンと韓国それぞれの金融機関からの同社の負債総額は約13億ドル(約1430億円)となり、数千人が解雇される見通しで、フィリピン史上最大の経営破たんのひとつだといいます。

そして、そこに「中国企業が買収に名乗りを上げた」(ロドルフォ比貿易産業次官)のです。

スービック湾地域は、1884年にスペインが海軍基地として利用を開始し、1889年には米国に管理権が移り、米軍が撤退する1991年まで米海軍の重要な軍事拠点でした。海軍基地は、その後、スービック経済特別区(SBFZ)に指定されました。総面積は760キロ平方メートルと、シンガポールの面積を上回り、工業団地には日系企業も多数入っています。

一方、造船所は2006年に操業を開始し、これまでに123隻の中・大型船を建造。船舶受注残高で世界のトップ10に入ったこともありますが、10年代に造船不況が深刻化してからは下降線をたどってきました(2月13日時点で親会社の韓進重工業も債務超過となりました)。

中国が進出する南シナ海に面するスービック湾は、米軍基地がなくなったとはいえ、日本や米国の艦船の寄港地にもなっています。海上自衛隊の護衛艦「かが」は18年9月、初の海外寄港としてスービック湾に入港。

在比日本大使館によると、「かが」に乗艦・視察したドゥテルテ比大統領はこの時、社交辞令かもしれないが「日本との防衛協力を一層強化していきたい」などと語りました。

仮に中国資本がスービック湾に進出すれば、日米の艦船が中国の監視下に入ることになります。

ペンス米副大統領

ペンス米副大統領は、18年10月に行った演説で、中国について「(米国の)地政学的な優位性に異議を唱え、国際秩序を有利に変えようとしている」と批判。さらに「関税、為替操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗」に加えて、人権や宗教を弾圧しているとして、中国共産党を名指しで非難しました。

経済分野のみならず人権にまで踏み込み、共産党をも標的にしたことから、米中の「新冷戦」が本格化したと内外で受け止められました。

実際、トランプ政権は「ゼロ・サム的なアプローチ」(米高官)で貿易戦争を中国に仕掛けており、トランプ支持層の間では歓迎されています。しかし、こうした強面の手法に艶が感じられないのは、オバマ前政権が中国を念頭に構築しようとした東アジアの多国間の枠組みが軽視され、域内の米軍の前方展開も縮小の危機にさらされているためです。

オバマ前大統領は、ロシアや中国による「一方的な現状変更」に対して、軍事的な解決より対話を優先させたことから、「弱腰」と批判を浴びました。一方、「世界の警察官を降りた」(オバマ氏)かもしれないですが、同盟網の再整備と国際的なルール・規範づくりを主導することで、米国の国際社会における指導的な地位を維持しようともしました。

オバマ氏は、11年9月、「アジア重視政策」をぶち上げて、オーストラリア北部のダーウィンに2500人の米海兵隊を展開すると発表。14年4月には、米軍にフィリピン国内基地の共同使用を認める米比の新軍事協定を締結しました。これによって米軍は冷戦後、約23年ぶりにフィリピンに回帰しました。そうして、中国への経済的な包囲網は、言うまでもなく環太平洋連携協定(TPP)でした。

これに対してトランプ氏はTPPを撤退し、米国が主要メンバーである東アジアサミットを事実上欠席しました。「米軍を韓国に維持するのは非常に高くつく。いつか(撤収)するかもしれない」と在韓米軍の撤退すらほのめかしました。

トランプ政権は、北朝鮮との核協議、中国との貿易戦争とアジアで外交戦線を拡大していますが、政権発足から3年目に突入しても、いまだにアジア外交の司令塔となる国務省高官(東アジア担当の次官補)は不在のままなのです。

米国の攻勢に対して、中国側もやられっぱなしではありません。中国企業「嵐橋集団(ランドブリッジ)」が15年、米海兵隊が駐留するオーストラリア北部ダーウィンの港湾管理権を獲得(99年の貸与契約)。

習近平総書記(国家主席)は17年の共産党大会で「建国100周年を迎える49年ごろ、トップレベルの総合国力と国際影響力を有する『社会主義現代化強国』を築く。世界一流の軍隊を建設する」と高らかに表明しました。

先に記したペンス演説は、中国のこうしたスタンスに対応したものですが、アジア各国との連携がないなかで、旧スービック基地が中国企業に狙われている事実の重要性には注意が払われていません。一方、ドゥテルテ氏は「中国企業を扱うのには慣れている」と述べ、中国企業がスービックの造船所を買収しても問題ないとする立場を示しています。

フィリピンは、アキノ前政権時代、南シナ海での領有権争いをめぐり中国を国際的な仲裁裁判所に訴え、中国が主張する管轄権を全面否定する勝利を勝ち取るなど対中最強硬派を自任していました。それがドゥテルテ氏に代わって一転、「親中的」になり、昨年11月、中国との間で南シナ海での天然ガス・石油を共同で資源探査する覚書を交わしました。

スービック湾の造船所買収には、日本や豪州の企業も手を挙げています。フィリピンのロレンザーナ国防相はメディアに対して「フィリピンが造船所を引き継ぎ、海軍基地を保有したらどうか。造船技術も取得できる」と述べましたが、ドゥテルテ氏の判断はどうなるかわかりません。

貿易赤字の縮小や知的財産の保護などで中国を屈服させれば、長期的には中国によるアジア支配の勢いを阻止することができるかもしれませんが、スービック湾が中国資本に落ちることがあれば、短期的にはどうなるかはわかりません。


ドゥテルテ大統領は親日家としても知られています。日本としては、米国とフィリピンをうまくとりもつ役割をにない、さらに長期的な視野にたち、米国はもとよりフィリピンもTPPに加入できるように支援していくべきです。

TPPは今や日本が旗振り役となって、11ヵ国によりすでに発効しています。たとえ米国や中国が動かなくとも、世界は動くのです。特にこれは、貿易においては確かな事実です。環太平洋経済連携協定(TPP)は、ドナルド・トランプ米大統領が離脱を表明した2年後、TPP11という新たな装いの下で年明けとともに11カ国で始動しました。これによる最大の敗者は、米国の生産者です。おそらく、トランプの次の大統領は加入する可能性が高いと思います。

フィリピンは、現在TPPには加入していませんが、ブルネイやベトナムなど近くの国も加入しています。日本としては、いずれ加入してもらうことを前提として、様々な支援をしていくべきです。

昨年6月22日来日中のフィリピンのディオクノ予算管理大臣が朝日新聞の取材に応じ、米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP11)について、「参加することもオープンだ」と述べ、参加に意欲を示していました。タイや韓国なども参加を検討しており、協定がアジア各国に広がる可能性が出てきました。

韓国に関しては、最近日本政府が、いわゆる「元徴用工」への異常判決など、国際法や2国間協定に違反する暴挙を連発している韓国への対抗措置として、同国がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)へ新規加入を希望した場合、「加入を拒否する」方針を強めているのでどうなるかは、わかりません。

しかし、今後米国はもとより、アジア各国に協定を広げて、対中国経済包囲網を強化していくのが日本の役割だと思います。特に、米国とフィリピンが日本が主導したTPPに加入した場合、米比間の温度差はなくなる可能性が高いと考えられます。

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