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2020年5月9日土曜日

新型コロナ、日本人の低死亡率に新仮説…すでに“集団免疫”が確立されている!? 識者「入国制限の遅れが結果的に奏功か」―【私の論評】日本がクラスター対策で成功している背景には、他国にはない日本ならではの事情が(゚д゚)!


新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真
(米国立アレルギー感染症研究所提供)

 日本の新型コロナウイルス対策は「PCR検査が少ない」「自粛措置が甘い」などの批判もあり、厚労省は8日、感染の有無を調べるPCR検査や治療に向けた相談・受診の目安を見直し、公表した。ただ、欧米諸国に比べて、日本の死者数や死亡率がケタ違いに少ないのは厳然たる事実である。この謎について、京都大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授と、吉備国際大学(岡山県)の高橋淳教授らの研究グループが「日本ではすでに新型コロナウイルスに対する集団免疫が確立されている」という仮説を発表して注目されている。感染力や毒性の異なる3つの型のウイルス(S型とK型、G型)の拡散時期が重症化に影響したといい、日本は入国制限が遅れたことが結果的に奏功したというのだ。

 「2週間後はニューヨークのようになる」など悲観的な予測もあった東京都、そして日本の新型コロナ感染だが、別表のように現時点ではニューヨークにもロンドンにもなっていない。中国や韓国、表にはないが台湾など東アジアが総じて欧米よりも死者数や死亡率が抑えられている。


 理由を解き明かすには、新型コロナウイルスの型を押さえておく必要がある。中国の研究チームが古い「S型」と感染力の強い「L型」に分けたことは知られている。

 研究プラットホームサイト「Cambridge Open Engage」で発表した京大の研究チームは、新型コロナウイルスに感染した場合、インフルエンザに感染しないという「ウイルス干渉」に着目。インフルエンザの流行カーブの分析で、通常では感知されない「S型」と「K型」の新型コロナウイルス感染の検出に成功した。「S型やK型は感知されないまま世界に拡大した。S型は昨年10~12月の時点で広がり、K型が日本に侵入したピークは今年1月13日の週」だという。やや遅れて中国・武漢発の「G型」と、上海で変異して欧米に広がったG型が拡散した。

 集団感染が最初に深刻化した武漢市が封鎖されたのは1月23日。その後の各国の対応が命運を分けた。イタリアは2月1日、中国との直行便を停止。米国は同2日、14日以内に中国に滞在した外国人の入国を認めない措置を実施した。

 これに対し、日本が発行済み査証(ビザ)の効力を停止し、全面的な入国制限を強化したのは3月9日だった。旧正月「春節」を含む昨年11月~今年2月末の間に184万人以上の中国人が来日したとの推計もある。

 ここで集団免疫獲得に大きな役割を果たしたのがK型だった。上久保氏はこう解説する。

 「日本では3月9日までの期間にK型が広がり、集団免疫を獲得することができた。一方、早い段階で入国制限を実施した欧米ではK型の流行を防いでしまった」

 欧米では、中国との往来が多いイタリアなどで入国制限前にS型が広まっていたところに、感染力や毒性が強いG型が入ってきたという。


 上久保氏は「S型へのTリンパ球の細胞性免疫にはウイルス感染を予防する能力がないが、K型への細胞性免疫には感染予防能力がある」とし、「S型やK型に対する抗体にはウイルスを中和し消失させる作用がなく、逆に細胞への侵入を助長する働き(ADE=抗体依存性増強)がある」と語る。

 専門的な解説だが、結論として「S型に対する抗体によるADE」と、「K型へのTリンパ球細胞性免疫による感染予防が起こらなかったこと」の組み合わせで欧米では重症化が進んだという。

 日本で4月に入って感染者数が急増したことについても説明がつくと上久保氏は語る。「3月20~22日の3連休などで油断した時期に欧米からG型が侵入し、4月上旬までの第2波を生んだと考えられる」

 現状の日本の感染者数は減少傾向だが、課題も残る。「病院内で隔離されている患者には集団免疫が成立していないため、院内感染の懸念がある。また、高齢者や妊婦などは、K型に感染しても感染予防免疫ができにくい場合がある」

 さらに「無症候性の多い新型コロナウイルス感染症では、間違ったカットオフ値(陰性と陽性を分ける境)で開発された免疫抗体キットでは正しい結果が出ない」と警鐘を鳴らす。

 上久保氏は「日本の入国制限の遅れを問題視する声もあったが、結果的には早期に制限をかけず、ワクチンと同様の働きをする弱いウイルスを入れておく期間も必要だったといえる」と総括した。

【私の論評】日本がクラスター対策で成功している背景には、他国にはない日本ならではの事情が(゚д゚)!

冒頭の記事の仮設は、非常に興味深いものです。ただし、矛盾も感じます。感染者数の少ない、死亡者数とも少ない韓国はMersのときの反省もあって、比較的早い時期に海外からの渡航を制限しました。

さらに、上の記事にはなぜか例示されていませんが、日本よりも感染者数や死者数が少ない、台湾でも早い時期に海外からの渡航を禁止していました。

ただし、韓国も台湾もかなり中国とは関係が深く、仮に日本よりも早い時期に、海外からの渡航を禁止したとしても、かなり中国などからの感染者がすでに国内に入り込んでおり、免疫を獲得していた可能性もあります。

このあたりは、今後さらに研究をすすめて、明らかにしてほしいところです。

それにしても、一つ言えることは、まずは人口100万人あたりの感染者数や死者数等をみたうえで、評価しないと、客観的に日本の感染者数や死者が多いのか、判断などできないということです。

日本国内でも、都道府県別の感染者数や、死者数をみるときでも、10万人あたりの感染者数や死者数等をみないと客観的に比較などできないのは当然のことです。

日本のマスコミ、特にワイドショーなどでは、最初から100万人あたりとか、10万人あたりの見方をせずに、単に実数だけで、多くのコメンテーターが「ああでもない、こうでもない」と当て推量を言い合うというような展開で、いたずらに脅威を煽るような結果になっていました。

挙げ句の果に、「イタリアを見習え」「韓国を見習え」「ドイツを見習え」などと語っていたコメンテーターもおり、まさに噴飯ものの状況が日々続いていました。

このようなコメンテーターらの発言などは問題外として、やはり、日本のコロナ感染者数と死亡者数が少ないことは、やはり何か原因があるものと考えられます。

私としては、それについてはこのブログですでに述べてきたとは思うのですが、体系的に述べてはいなかったので、一つの仮設として再度はっきりさせておきたいと思います。

まず考えられるのは、日本社会の特徴です。例えば、近年は高齢者が「高齢者のみの世帯」で生活している率が高く、若い世代との接触を遮断するのが容易だということです。

例えば、日本の高齢者入居施設の場合は2月の早い段階から家族を含めた入所者以外の訪問を停止して厳格な管理をし、大規模感染は起きていません。また、大家族が比較的残っている地方は人口密度が低く、反対に人口密集地域では2世帯、3世帯の同居は少なくなっていることが理由として上げられます。

他にも、公衆衛生の概念が浸透しているとか、手洗いの習慣、マスク着用など生活様式の特徴も理由になりそうです。漠然と説得力を感じるストーリーですが、例えば同じように高齢者の命を奪う季節性のインフルエンザの場合は、例えばアメリカで毎年1万5000人前後の死亡者を出している一方で、日本は3,000から5,000の死亡者数で推移しています。しかし、米国の人口は約3億人、日本は1億2千万にですから、あまり有意な差異はありません。

そうなると、社会の特異性だけでは説明できません。その他、死亡者数の隠蔽とか、PCR検査数が少ないなどというのは単なるフェイクにすぎません。(これについては、過去の記事などを参照していただくものとしてここでは、詳細の説明はしません)

であれば、日本と外国で差異が最も顕著なのは何かといえば、やはりクラスター対策です。

この戦略は、3月19日の専門者会議以降、関係者が徐々に説明を始めていますが、要するにSARSを制圧したのと同じ手法で、感染の連鎖を潰していく作戦です。

PCR検査の投入方法も、限りある検査キットを感染者とその濃厚接触者に集中させ、クラスターを抑え込むことを優先して決めているようですし、例えば「ダイヤモンド・プリンセス」下船者については、100%クラスターの発生は抑止されたという説明もされています。

さらに、日本ではCTの普及率が世界1であることも奏功していると思います。コロナ感染者の中にはほとんど自覚症状のない人がいて、咳の症状すらない人もいます。しかし、そういう人の中には肺の異常がみられる人もいます。そういう人の場合でも、CT検査をすると肺に異常がみつかることがあるそうです。

とにかく、CT検査をすると、コロナであろうかなかろうが、肺炎なのかそうでないのか、肺炎だとして、重篤なのか、軽症なのかもすぐにわかります。肺に異常が見られた人で、症状が重い人、これから重くなりそうな人は、PCR検査を優先的に実行するとか、入院させるということが、医師の判断でかなり迅速にできます。


だからこそ、日本ではクラスターを抑え込むことができたともいえると思います。これは、CTが普及しており、総合病院ては大体設置してあるどころか、診療所レベルの小さな医療施設でも設置している場合もある日本だから、可能だったのです。

CTの普及率が日本よりも相対的に少なく、精度の低いPCR検査自体に頼らなければならない他の国と日本の根本的違いです。

そうだとしても、仮に今後「感染経路の見えない」形で、多数の感染者が発生し、クラスターを抑え込むことができなくなる可能性は残っています。専門家会議の言う「オーバーシュート」とはそうした事態であり、これを恐れて警戒を強めようという趣旨は理解できます。

仮にこの仮設が相当程度にあたっているにしても、専門家委員会が声高にそれを誇るのではなく、警戒を促しているというのは正しい姿勢だと思います。

今後、日本や、台湾などの感染者数が低い理由は、本格的に研究を進めていくべきと思います。

なお、中国の場合は、死者数が少ないことにはなっていますが、中国は1月にコロナの統計のとりかたを3回も変えたという事実があることと、その後もコロナ感染者でも症状が出ていない人は、コロナ感染者数に含めないなどの措置をとっていることから、全く信用ができず、疫学的調査には信頼にたるデータを得られる可能性は低いです。

韓国・ソウルの朴元淳市長は9日、市庁で記者会見し、市内繁華街・梨泰院のクラブを訪れた後、新型コロナウイルスへの感染が発覚した20代男性に関連し、同日正午時点で計40人の感染が確認されたと発表しました。感染封じ込めが期待されてきた韓国は、再び増加に転じた感染者数を前に緊迫感が漂っています。

メルケル首相が6日、新型コロナウイルスに絡む規制の大幅緩和を打ち出したドイツ各地で、クラスター(感染者集団)発生が確認されています。どこまで規制を緩和するかは14州と2特別市ごとに決めるが、難しい地域も生まれそうです。

まだまだ、予断を許さない状況であることは間違いないようです。

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2020年1月13日月曜日

【日本の解き方】韓国・文政権が「反日」を強めるしかない事情 経済失政で苦境続き…中国・北朝鮮に頭上がらず―【私の論評】経済悪化や、社会構造まで日本のせいにする韓国とは関係を避けよ(゚д゚)!


日本製品不買運動など「反日」はエスカレートするのか

2017年5月に就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は任期5年の折り返しを過ぎた。任期の残りで悪化した経済を立て直せるのか。そして対日関係を改善させる可能性はあるのだろうか。

 結論からいえば、反日政策が強まる可能性が高い。

 文政権の本質は典型的な左派だ。雇用を作るより賃金にこだわり最低賃金を過度に引き上げ、結果として失業を増大させたことなどは日本の左派政党と極めて似ている。

 左派政党の常として共産主義への憧憬がある。これは左派の理論基盤であるので仕方ない。そのため中国や北朝鮮に対して精神的に頭が上がらない。文政権の韓国は形式的には民主主義・資本主義の西側諸国の一員であるが、実質は中国・北朝鮮の友好国なのだ。

 もともと韓国は半島国家として中国の大きな影響を受けてきた。「事大主義」といわれるように、強い中国と争わないことが国益にもなっていた。こうした複雑な歴史や地政学的な半島国家の宿命から、保守政権であっても、「反日」は常に韓国政府の有効な逃げ道だった。

 特に左派の文政権にとって、中国と北朝鮮への配慮は必要だ。中国に対しては経済依存度が高いからやむを得ないという側面もあるが、北朝鮮に対しては、はたから見ても異様だ。

 北朝鮮から全く相手にされていないのにかかわらず、文大統領は金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長にラブコールを送り続けている。正恩氏は直接トランプ米大統領との対話チャンネルを持ったので文氏の仲介は必要ないのだが、仲介したいと言う。これでは押し売りだ。これに対し、日本は気兼ねなくはけ口として批判できるので便利な存在だろう。

 文政権は、経済政策を失敗して苦境に陥っている。対日政策でも、日本側の輸出管理見直しへ適切な対応ができず、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を言い出しては撤回するなど独り相撲を行い、日本製品ボイコットを黙認したあげく、韓国観光業への大打撃を与えて自爆状態になっている。

 米中貿易戦争で中国経済がダメージを受けていることも、中国依存の韓国経済には痛手だ。そうした経済苦境により、文政権への支持率は就任以降、総じて低下傾向だ。よほどのファンを除くと、経済がよければ支持するが経済が悪ければ支持しないというライトな層が離れる。経済政策の巧拙によって支持率は動くのだ。

 それでもコアな層は支持し続ける。そしてこうした時に、政治対応としてはコアの支持者固めをする。となると、文政権のコアな支持者は中国と北朝鮮にシンパシーを持つ人が多いので、反日政策は強くなることはあっても決して弱まることはないだろう。

 むしろ、経済苦境の原因を日本に求めて、日本に責任転嫁する可能性が高い。そもそも政治的に考えると、これまでの反日を方向転換することは有り得ない。そうなると、コアの支持者まで失ってしまい、文政権の崩壊になるからだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】経済悪化や、社会構造まで日本のせいにする韓国とは関係を避けよ(゚д゚)!
上の高橋洋一氏の記事には「経済苦境の原因を日本に求めて、日本に責任転嫁する可能性が高い」としていますが、まさにそのとおりです。実際韓国はすでにそれを実行しています。

たとえば、韓国の経済悪化の原因の一つとして、日本による韓国への「輸出管理の強化」が挙げられていますが、これは完璧な誤りまです。

輸出管理が強化されたにしても、
輸出不可ということでは全くない

「韓国に対する輸出規制」に関しては、韓国メディアは『半導体材料を“事実上の禁輸”』『対韓輸出規制を発動』などと、勇ましく報道しています。それと同時に、記事では、『自由貿易を掲げてきた日本へ各国から批判が集まる懸念もある』『各国に恣意的なルール変更ともとられかねない』といった指摘もしています。

果たしてそうなのでしょうか。

まずそもそもこれは、韓国に対して新たに「輸出規制を発動」するものではありません。韓国向けの輸出について、2004年から特別に優遇して簡略化していた手続きを、2003年までの普通の手続きに戻すものです。

簡略化した手続きとは、3年間有効な「包括許可」を得れば、いつでも輸出できるというものです。本来は、輸出の契約ごとに「個別許可」が必要です。2003年当時は、韓国への輸出は個別許可が必要でしたた。まさにこの時の手続きに戻したというだけのことです。

また、輸出に際して「個別許可」が必要なのは、輸出管理の世界では国際的な原則で、特別に信頼できる相手国についてのみ、「包括許可」による手続きの簡略化が認められていました。この対象国を、日本の制度では「ホワイト国」と呼んでいます。2004年にこの「ホワイト国」に韓国が追加されたのです。

なお、この個別許可について、一部の報道では「出荷ごと」に許可が必要となり、日々、工場から韓国に製品を出荷しているようなビジネスが停滞してしまうというような報道によって、輸出企業の現場は混乱しているようです。

これは誤解で、個別許可は”契約ごと”に必要で、一契約で何回にも出荷を分ける通常のビジネスは当然、一度個別許可を得ていれば出荷ごとに許可を得る必要はありません。
特別に信頼できる「ホワイト国」とは、あくまでも輸出管理の観点で信頼できるかどうかです。国際的には欧米主導で長い歴史を有する輸出管理の枠組みが、分野ごとに4つあります。詳細は省きますが、ホワイト国の対象にするには、相手国がこれらに参加していて、しかも国内で厳格に輸出管理をしていることが必要となります。

1990年代、韓国はまだ国際的な輸出管理の枠組みのメンバーではありませんでした。日本は韓国がそのメンバーに参加できるよう、各国に働きかけ、韓国にも関係者が再三足を運んで、韓国が輸出管理をしっかりできるように全面的に支援していました。

その結果、韓国も国際枠組みのメンバーになることができ、韓国からも日本のそれまでの協力、働きかけに感謝されていました。それが2004年に、韓国をホワイト国に追加して特別に優遇することにつながっていったのです。
ホワイト国として特別優遇するためには、相手国が厳格に輸出管理をしているかどうかを確認するための協議をするのが通常です。

そうした協議を、日本は欧州など他のホワイト国と実施してきています。しかし近年、韓国だけはどういうわけか、日本との輸出管理の協議に応じていませんでした。

政府が、「優遇した手続きの前提になる輸出管理の信頼関係が崩れている」としていることから想像するに難くないです。しかし、これを「安全保障の友好国でなくなった」と理解するのは、明らかに行き過ぎです。

安全保障の友好国が「ホワイト国」であると解説している報道もありますが、そうではありません。例えば、インド太平洋戦略を共有するインドや海上共同訓練をするインドネシアなどもホワイト国ではなく、個別許可が必要です。

また欧州連合(EU)が輸出管理のうえで特別優遇しているのは日本を含めて8カ国で、これに韓国は入っていません。多少の細かい点を無視すれば、EU並みの手続きに戻したとも言えます。それでどうして「自由貿易に逆行する」との批判が各国から出るのでしょうか。

この措置の背景に、対韓強硬の声があるのは事実でしょう。韓国人元徴用工の訴訟問題を巡る韓国の対応に、韓国への強硬措置を求める声が自民党内や官邸内で高まっていました。事態打開のために対抗措置を模索していたのも事実です。そうした中で、打ち出された措置を「事実上の対抗措置」と受け止めるのも自然な成り行きです。

しかし中国によるレアアースの禁輸措置と同列に論じるのは的外れです。日本は法治国家だ。政治的な道具として法律運用を自由に利用できるものではありません。

報道の中には個別許可について、「基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置」だとするものもあります。しかし、法治国家としてこうした恣意的運用はあり得ず、明らかに間違いです。

仮にそうした運用をすれば、国が輸出者から訴えられたら負けるのは明らかです。韓国への対抗措置を強く求める立場からは、そうした運用を強く期待したいのは分からないでもないですが、法制度としては無理があります。それにもかかわらず、そうした声に引きずられて報道するのはいただけません。

あくまでこの措置は、手続きを「包括許可から個別許可へ」と、元に戻す変更を行うものです。基準を原則不許可にするよう変えるものではありません。それでは対抗措置として生ぬるい、不十分だというのならば、米国のような原則不許可にするような法律を議員立法で作るしかありません。

また、逆に反対の立場から対抗措置の連鎖になると懸念する向きもありますが、この措置の中身を見れば、およそ対抗措置と言えるものではなく、そうした懸念は的外れであることも分かるでしょう。

「世界貿易機関(WTO)協定違反の疑いもあるグレーな措置」とする、ある日本の識者のコメントまであります。であれば、2003年まで日本はWTO違反をしていたとでも言うのでしょうか。

とても日本の輸出管理法制を理解してコメントしているとは思えません。EU並みの手続きにすること、対インドネシア並みの手続きにすることが、どうしてWTO協定違反になりえるのでしょうか。韓国側の過剰反応に引っ張られ過ぎではないでしょうか。

いずれの立場であっても、まずは冷静に事実に基づいて論じるべきです。

ただし、韓国は、あくまでこの措置により、韓国は経済的不振に陥っていると強弁するでしょう。しかし、その真の原因は、日本の貿易などとは全く関係なく、韓国政府の近年経済対策に問題があるのです。


最も悪化させたのは、金融緩和をしないで最低賃金を単純にあげたことです。韓国の文政権が最低賃金引上げと時短を実施したため、失業率が上がったのです。金融緩和で先に雇用を作らず賃金を上げると雇用が失われる典型的な失敗政策で、これは日本の民主党時代の政策と瓜二つです。

立憲民主党の枝野氏など、韓国でこの政策が完璧に大失敗であることがはっきりしたにも関わらず、金融緩和はせずに再分配をすぺきと主張しています。

さらに、韓国経済は典型的な輸出依存型で、国内総生産(GDP)の約37%を輸出が占めます。半導体は輸出の20%余りに上り、韓国経済を牽引(けんいん)する数少ない分野です。これも、輸出に依存しすぎであり、昨今の韓国経済を悪化させている原因の一つでもあります。


さらに、GDPに占める個人消費の割合は、1970年代はじめは70%台だったのが、2000年に53.8%に低下し、2015年に初めて50%を割り込んだあと3年連続で低下しています。2017年のGDPに占める個人消費の割合は48.1%と、前年に比べて0.6ポイント低下し、韓国銀行が統計を取り始めた1970年以降ではもっとも低くなっています。

ちなみに、日米のGDPに占める個人消費の割合は、米国70%を超え、日本は60%を超えます。このように内需が大きければ、国際経済から受ける悪影響は、比較的少ないですが、韓国のように内需が小さければ、国際経済の影響をもろにうけてしまいます。

このような経済構造にしてしまったのは、あくまで韓国の責任であり、日本とは全く関係ありません。

     統計庁が先月31日発表した「12月及び年間消費者物価動向」によると、
     昨年の消費者物価指数は前年より0.4%上昇に止まった。

昨今の韓国の経済の悪化は、もともと韓国経済が脆弱であったことに加え、金融緩和をせずに、最低賃金をあげるという、まるで日本の民主党政権のときのようなトンデモ経済理論を実行したことによるものです。

さらに、最近の韓国情勢を見ていると、文大統領の政策で韓国国内が二分されていることがわかるります。GSOMIAに関する世論調査を見ても、文政権の当初の廃止の決定に対する賛否は割れていた。その後の政府の姿勢転換についても、国民の意識は大きく割れているように見えます。

国内世論が大きく割れる背景の一つに、韓国の経済環境が悪化する中、文在寅(ムン・ジェイン)大統領がしゃにむに“南北統一”を目指していることがありそうです。

南北統一に関して、一部の世論調査では約53%が賛成でした。それは見方を変えると、約半数の国民は南北統一に慎重であることの裏返しともいえます。特に、シニア世代と若年層では、南北統一への見解が大きく異なっているといわれています。

世代間で世論が分かれる要因として、朝鮮戦争による家族離散などの要因があるとみられます。動乱を経験したシニア世代が、家族がともに生活できる環境を希望することは想像に難くないです。韓国映画でもそうしたシーンが描かれています。

一方、若年層は、冷静に経済環境を直視しているケースが多いのでしょう。中国経済の減速などによって韓国の所得・雇用環境は悪化し、将来をあきらめる若者もいるといわれています。その中で南北統一が目指されれば、韓国は北朝鮮に資金援助などを行わなければならなくなります。

「これ以上の生活環境の悪化には耐えられない」というのが彼らの本音なのでしょう。

ただ、南北統一を期待する市民団体などの支持を得てきた文大統領は、これまでの政策理念を撤回することはできない。そうした状況が続くと、韓国の世論は分断された状況が続き、社会・経済の不安定感は高まりやすいと懸念されます。

こうした社会の変容にともない、当然のことながら、国民の中には不満が鬱積しています。本来なら、韓国政府がこの不満の鬱積を解消すべきなのですが、これに対して韓国政府は何もせず、国民の爆発寸前の憤怒のマグマを反日により、日本に向けて爆発させようと画策するばかりです。

日本としては、何でも日本のせいにする韓国はまともに相手にしても仕方ないので、国際社会に丁寧に説明して、韓国とはなるべく関わり合いにならないすることが得策だと思います。

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