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高橋洋一 日本の解き方
PCR検査用機器 |
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長がツイッターで、新型コロナウイルスのPCR検査を100万人分無償提供したいと表明したところ、批判が殺到し、撤回したことが話題となった。
筆者は「簡易検査だと誤判定50万人になってしまう。カネで100億円寄付した方がいいんじゃないの」とツイートした。
孫氏に限らず、国民全員にPCR検査をすべきだとの意見が聞かれるが、そこには検査の誤判断リスクが「ゼロ」という前提がある。正式な数字はないため政府関係者もはっきり言わないし、テレビなどでも言及されないのだが、誤判断の確率はだいたい3~5割だ。簡易検査だとこれをさらに上回る。というわけで、筆者は「誤判定50万人」とツイートしたのだ。
誤判定50万人が出ると再検査が必要になるが、再検査でも誤判定はある。1割としても、まだ5万人の誤判定になる。
これまでのデータからすると、100万人を無作為に選んだ場合、実際に感染している人はおそらく10人程度であろう。その10人を探すために貴重な医療資源が使われて誤判定が繰り返され、結果として医療現場が崩壊する。来院者の中には本当の感染者もいるので、感染は加速する。それが現実に起きたのがイタリアや韓国だ。
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長 |
全国民にPCR検査をすべきだという人の多くは、誤判断リスクが大きいという事実を知らないのかもしれない。しかし、「リスクゼロであるべきだ」という前提の人もいるようだ。そうした意見を唱えることはありえるが、実際にはリスクゼロはないので、それを前提としてはいけない。
しかし、事実を伝えると逆ギレし、極端な行動に出る人もいる。原発について、リスクがゼロではないと言うと、「リスクが大きいのなら即時廃止すべきだ」と主張する。豊洲市場でも、「地下水が飲料に適さない(リスクはゼロでない)」というと、「リスクが大きいので豊洲市場廃止、開場延期だ」と騒ぎ立てた。
原発は短期的なリスクはゼロではないがほぼゼロだ。長期的なリスクは対処するための保険料負担が無視できないので、新設を禁止するのは分かるが、即時廃止は合理的ではない。
豊洲市場の地下水も飲料には適さないとしても、適切な措置をすれば地上の生活の安全には問題ないという意味で管理できないリスクではないので、開場延期までする必要はなかった。
いずれもリスクについて、「ゼロでないのなら大きいはずだ」という雰囲気に流されず、定量的に理解していれば判断を間違うこともなかっただろう。
新型コロナウイルスの全数検査の件でも、誤判定率が3~5割などと具体的に示しておけば、無駄な議論は避けられたはずだ。
冒頭の孫氏の申し出は、恐らく善意だったのだろう。検査提供にお金を投じるよりも、ワクチンや特効薬の開発に寄付するほうがより社会のためになると筆者は思っていたが、孫氏は検査を撤回した後、「マスク100万枚の寄付」に切り替えたようだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
ウイルスは生物ではなく、遺伝情報が入ったカプセルに過ぎず、それ単体では増えることはありません。つまり人間が簡単に培養することはできません。
それでも、無理やりウイルスを「培養」しようというなら、何らかの細胞にそのウイルスを「感染」させて、その細胞の工場機能を使って増やしてやるしか手がないのです。
「ウイルス」には「遺伝情報」が入っているだけ、DNAやRNAと呼ばれる「核酸」に、自身のたんぱく質合成のレシピが書かれているだけの、生命のかけらに過ぎないのです。
もし何らかのウイルスに感染しているかどうか、調べようとしても、微量であれば私たち人間は、確認することができません。
しかし、これがウィルスでなくて、細菌、雑菌等の「ばい菌」の類であれば、生きているので培養地に植えつけてやれば、カビのように増えてくれるので、検査しやすくなります。
とはいいつつ小さなばい菌で、定かに目で見ることは難しいです。そこで「グラム染色」などの方法によって識別しやすいようにしたうえで、顕微鏡で観察し、同定していきます。
ところが「ウイルス」単体は、遺伝情報の書かれた物質ですから、そのままでは増えません。
精子や卵は生きていますが、それでも受精しなければ育つことはありません。ここから遺伝子だけを取り出してカプセルに入れたような形が、ウイルスの実態に近いのです。
単体では増殖することははなく、何かに寄生しないと増えることができません。
そこで「ウイルス」を増やすために「細菌に風邪をひかせる」ような「細菌を用いたウイルス培養」が行われます。
より正確には、適切に働いてくれる細菌細胞などを見つけてきて、可哀そうですが、その細菌たちにコロナウイルスなどを「接種」して感染させ、そこで増やして、私たち人間が確認できるところまで増殖させる、というような手順が必要になるのです。
ところが、そうした増殖系細菌細胞が見つかっていない、今回のような「新型コロナウイルス」のような場合には、遺伝子そのものを調べなければ、分かりません。
しかし遺伝子は物質の量としては本当に極微量なので、何らかの方法で、私たち人間が巨視的にチェックできるところまで、増やさなければ、調べることはできません。
そのために用いられているのが、最近 マスコミで報道されるようになった、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応法)というものです。
これは、遺伝子そのものを「ポリメライズ」つまりコピーして増やす酵素を使って、直接遺伝情報を読み出してやろうという革命的、画期的な方法です。
実際、発見者のキャリー・マリスは1993年度のノーベル化学賞を受賞しました。
ここで重要なことは、PCRは「遺伝子」を増やすということです。ウイルスそのものを増殖しているわけではありません。
ということは、適切に消毒され、周囲のボツボツカプセルが壊れた、残骸だけのコロナウイルスの「遺物」が残っているだけでも、それを「PCR」で遺伝子増殖させると、陽性反応が出てしまうことになります。
つまり、検査を受ける本人はウイルスに感染していなくても、そのDNAのかけらが採取され、増幅されてしまったら、検査結果は陽性となってしまうことがあるのです。
「偽陽性」発生の一つのメカニズムがここにあります。
しかし、事実を伝えると逆ギレし、極端な行動に出る人もいる。原発について、リスクがゼロではないと言うと、「リスクが大きいのなら即時廃止すべきだ」と主張する。豊洲市場でも、「地下水が飲料に適さない(リスクはゼロでない)」というと、「リスクが大きいので豊洲市場廃止、開場延期だ」と騒ぎ立てた。
原発は短期的なリスクはゼロではないがほぼゼロだ。長期的なリスクは対処するための保険料負担が無視できないので、新設を禁止するのは分かるが、即時廃止は合理的ではない。
豊洲市場の地下水も飲料には適さないとしても、適切な措置をすれば地上の生活の安全には問題ないという意味で管理できないリスクではないので、開場延期までする必要はなかった。
いずれもリスクについて、「ゼロでないのなら大きいはずだ」という雰囲気に流されず、定量的に理解していれば判断を間違うこともなかっただろう。
新型コロナウイルスの全数検査の件でも、誤判定率が3~5割などと具体的に示しておけば、無駄な議論は避けられたはずだ。
冒頭の孫氏の申し出は、恐らく善意だったのだろう。検査提供にお金を投じるよりも、ワクチンや特効薬の開発に寄付するほうがより社会のためになると筆者は思っていたが、孫氏は検査を撤回した後、「マスク100万枚の寄付」に切り替えたようだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】ウイルスの特性を知れば、PCR検査の誤判定の率が高さを理解できる(゚д゚)!
PCR検査をできるだけ実行すべきと主張する方々は、正しく判定される率が100%かそれに近いと無意識に思われているのではないかと思います。しかし、これは間違いであり、誤判定率が3〜5割もあるのです。
PCR検査をできるだけ実行すべきと主張する方々は、正しく判定される率が100%かそれに近いと無意識に思われているのではないかと思います。しかし、これは間違いであり、誤判定率が3〜5割もあるのです。
なぜ、そのようなことになるかというと、ウィルスのやっかいな性質によるものです。ウイルスは細菌とは違います。
それでも、無理やりウイルスを「培養」しようというなら、何らかの細胞にそのウイルスを「感染」させて、その細胞の工場機能を使って増やしてやるしか手がないのです。
「ウイルス」には「遺伝情報」が入っているだけ、DNAやRNAと呼ばれる「核酸」に、自身のたんぱく質合成のレシピが書かれているだけの、生命のかけらに過ぎないのです。
しかし、これがウィルスでなくて、細菌、雑菌等の「ばい菌」の類であれば、生きているので培養地に植えつけてやれば、カビのように増えてくれるので、検査しやすくなります。
とはいいつつ小さなばい菌で、定かに目で見ることは難しいです。そこで「グラム染色」などの方法によって識別しやすいようにしたうえで、顕微鏡で観察し、同定していきます。
ところが「ウイルス」単体は、遺伝情報の書かれた物質ですから、そのままでは増えません。
精子や卵は生きていますが、それでも受精しなければ育つことはありません。ここから遺伝子だけを取り出してカプセルに入れたような形が、ウイルスの実態に近いのです。
単体では増殖することははなく、何かに寄生しないと増えることができません。
そこで「ウイルス」を増やすために「細菌に風邪をひかせる」ような「細菌を用いたウイルス培養」が行われます。
より正確には、適切に働いてくれる細菌細胞などを見つけてきて、可哀そうですが、その細菌たちにコロナウイルスなどを「接種」して感染させ、そこで増やして、私たち人間が確認できるところまで増殖させる、というような手順が必要になるのです。
ところが、そうした増殖系細菌細胞が見つかっていない、今回のような「新型コロナウイルス」のような場合には、遺伝子そのものを調べなければ、分かりません。
そのために用いられているのが、最近 マスコミで報道されるようになった、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応法)というものです。
これは、遺伝子そのものを「ポリメライズ」つまりコピーして増やす酵素を使って、直接遺伝情報を読み出してやろうという革命的、画期的な方法です。
実際、発見者のキャリー・マリスは1993年度のノーベル化学賞を受賞しました。
私生活は破天荒とされるキャリー・マリス博士 |
ということは、適切に消毒され、周囲のボツボツカプセルが壊れた、残骸だけのコロナウイルスの「遺物」が残っているだけでも、それを「PCR」で遺伝子増殖させると、陽性反応が出てしまうことになります。
つまり、検査を受ける本人はウイルスに感染していなくても、そのDNAのかけらが採取され、増幅されてしまったら、検査結果は陽性となってしまうことがあるのです。
「偽陽性」発生の一つのメカニズムがここにあります。
コロナウイルスは「菌」ではなく「ウイルス」であること。ウイルスは単体では増殖ができず、新型コロナのような新参者は、細菌に接種・感染して増殖する方法が確立されていないこと。
そこで遺伝子を直接チェックして、確認同定するため、PCRという遺伝子チェックの方法に頼っているのが現状なのです。
しかし、この検査では、遺伝子だけを見ているので、ウイルスのカプセルが破壊されて、機能していなくても「PCR検査で陽性」と言われてしまうことがあるのです。
わかりやすい例えて言うなら、家の中のダストを分析したら、大昔に死んだおじいさん、おばあさんの毛髪が混ざっていて、そのDNAが検出されるようなものだと思ってください。
遺髪には、すでに生きていない人の遺伝情報だけはしっかり残っています。それを解読したからといって、死んだおじいさんやおばあさんが生き返ってくるわけではありません。
同じような原理的な困難が、PCR検査には伴っているのです。
そこで遺伝子を直接チェックして、確認同定するため、PCRという遺伝子チェックの方法に頼っているのが現状なのです。
しかし、この検査では、遺伝子だけを見ているので、ウイルスのカプセルが破壊されて、機能していなくても「PCR検査で陽性」と言われてしまうことがあるのです。
わかりやすい例えて言うなら、家の中のダストを分析したら、大昔に死んだおじいさん、おばあさんの毛髪が混ざっていて、そのDNAが検出されるようなものだと思ってください。
遺髪には、すでに生きていない人の遺伝情報だけはしっかり残っています。それを解読したからといって、死んだおじいさんやおばあさんが生き返ってくるわけではありません。
同じような原理的な困難が、PCR検査には伴っているのです。
コロナウイルスPCR検査の感度は、上記のように誤判断の確率はだいたい3~5割です。簡易検査だとこれをさらに上回ります。偽陰性、偽陽性もあり得ます。つまり、軽症や無症状の人に対しても広く検査を行うことは、偽陽性者の絶対数が増えることになり、感染率がいまだ低い状態下では、陽性的中率が低下します。罹患していないのに検査で陽性となる人が増えるのです。
そうすると、これらの人たちは必要ない隔離等を強いられることになります。現在では、陽性者は措置入院になることが多く、すぐに病院のベッドが埋まってしまって、重症者を受け入れられなくなります。そもそも、軽症の人は診断されても治療がありません。いずれは自宅待機になるでしょう。
限られた医療資源を活用するためには、検査前確率の高い濃厚接触のある有症状者や肺炎例に限って検査を行うほうが合理的です。このような考え方は、臨床に携わっている医師や専門医の共通した認識のようです。
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