2020年8月11日火曜日

対中政策は「国際法の順守」をキャッチ・フレーズに―【私の論評】元々外交の劣等生だった中国は、外交を重視し国際法の歴史から学ぶべき(゚д゚)!

対中政策は「国際法の順守」をキャッチ・フレーズに

岡崎研究所

7月28日、米国務省にて、米豪二国間の外交・防衛担当閣僚協議(「2+2」)が開催された。米国からはポンぺオ国務長官とエスパー国防長官が、豪州からはペイン外相とレイノルズ国防相が参加した。


 これに先立ち、ジョン・リー(ハドソン研究所上級フェロー、元豪外相国家安全保障補佐官)は、7月27日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に「豪州は中国をチェックする努力を倍加している。トランプは同盟国に協力を求め、豪州は勇気と決意を持ってそうしている」との論説を寄せ、対中関係での米豪協力強化を歓迎している。この論説は、米豪の「2+2」会合が終わる前に掲載されたものではあるが、豪州の考え方がよくわかる論説である。

 7月27-28日の米豪会合の結果として共同声明が発表されたが、中国の南シナ海の領有権主張は「国際法上無効」と改めて指摘し、中国の覇権的行動に対抗していく立場を打ち出した。また、2016年のハーグの仲裁裁判所の判断を支持することを表明し、香港での国家安全法の施行、ウイグル族の人権抑圧への「深刻な懸念」も表明した。

 ポンぺオ国務長官は終了後の記者会見で中国への対応に関して、日本、インドなどとも連携していくと述べたが、日本としても、南シナ海の9段線主張は全く受け入れられないことであるので、米豪と同じく、中国の南シナ海領有権主張は国際法上違法であり、無効と言う声明を出してもよいのではないかと思われる。

 今の米中の争いは、冷戦の定義にもよるが、冷戦と呼ぶにふさわしいと判断している。

 先の米ソ冷戦では、キャッチ・フレーズは「封じ込め」であった。「封じ込め」は時折誤解されているが、ソ連が共産主義体制を今そうでない国にも違法な手段を用いて確立し、拡大していくことを抑え込んでいくことを目的とする政策であって、当時ダレス長官などのいっていた「巻き返し」よりも穏健な政策であった。

 今後の対中政策について、どういうキャッチ・フレーズがいいか、よく考える必要があるが、「国際法の順守」をキャッチ・フレーズにしたらどうだろうか。一国二制度を50年間約束した英中共同声明のような条約の順守、南シナ海での根拠のない領有権主張の撤回などを中国に求め、それに応じない場合にはそれなりの不利益を与えていくということであろう。条約や国際法を順守しない国とは安定した関係など作りようもない。

 中国の政治体制そのものの変更は中国国内での諸事情の発展に委ねるしかないし、それを問題にしてもうまくいかないと思われる。

 また、覇権的行動は定義が難しいが、日中友好条約に覇権反対条項があるので、それをベースに中国側に申し入れをすることもありうるだろう。

 米中冷戦は日本にとってはそれほど悪い話ではないと思っている。東アジアで米中が結託して、米中共同支配になるのよりずっと良い。米中冷戦は米国にとっても中国にとっても日本の価値の上昇につながるだろう。いずれかを選ばざるを得なくなると言う人がいるが、そういう時には躊躇なく同盟国米国を選べばよい。日本の領土をとろうとしている国とそうはさせじとしている国のいずれをとるか、明らかで、議論の必要もない。

【私の論評】元々外交の劣等生だった中国は、外交を重視し国際法の歴史から学ぶべき(゚д゚)!

国際法という観点からみると、たしかに中国が次々と国際法違反をしています。南シナ海は誰の目からみても、明らかですが、中国が内政問題とするもののなかにも明らかな国際法違反があります。

香港への国家安全法制の押し付け、新疆でのウイグル弾圧、台湾への恫喝は内政問題ではありません。香港については、1984年の英中共同声明と言う条約に違反している問題であって、条約を守るかどうかの国際的な問題であす。

ウイグル問題については、国連憲章下で南アのアパルトヘイトなどに関連して積みあがってきた慣行は、人権のひどい侵害は国際的関心事項であるということです。台湾が中国とは異なるエンティティとして存在しているのは、事実です。さらに言えば、ウイグルはもともと外国であったものを中国が武力で併合したものです。

そのほか、インドとの国境紛争、豪州に対する経済制裁、ファーウェイ副社長のカナダでの拘束に絡んでの中国でのカナダ人拘束など、中国の最近のやり方には、国際法秩序を無視した遺憾なものが多いです。中国が大きな国際的な反発の対象になり、そのイメージが特に先進国で悪化してきていることは否めないです。

国際関係においては、中国は自ら緊張を高め、その緩和を申し出、その緩和の代償として相手側に何らかのことを譲らせるというやり方を踏襲しています。これは、ソ連、北朝鮮、中国などの共産国が多く使用してきた外交戦術ですが、すでに使われすぎて、相手側に見透かされるものになりました。
やはり、中国はまずは国際法に目覚めるべきなのです。中国は国際法の歴史的背景から学び直すべきです。

そもそも、中国は国際関係を無視して、国内の都合で動くことはやめるべきです。そもそも、中国では外交が重視されていません。日本では、外務大臣とみなされている楊潔篪外交部長は、一政治局員であり、中共中央政治局委員(25名)の一政治局員であり、中共中央政治局常務委員会委員(7名。チャイナ・セブン)には含まれていません。

中共中央政治局常務委員会は、中国共産党の最高意思決定機関です。憲法に於いて「中国共産党が国家を領導する」と規定されている中華人民共和国の政治構造において、事実上国家の最高指導部でもあります。以下に、中共中央政治局常務委員会の現在の名簿を掲載します。


この名簿をご覧いただいてもおわかりになるように、主要役職の欄をみると、外交とか、国際等の言葉が見当たりません。これだけみると、まるで世界は中国一国で成り立っているかのようです。

日本で言えば、中共中央政治局常務委員会委員こそが、閣僚クラス(とするには明らかに人数が少なすぎるとは思うのですが、それはおいておき)といって良いと思うのですが、この常務委員会には、伝統的に外交の専門家は含まれていません。これをみても、明らかに中国では外交の位置付けが低いのです。

おそらく、一政治局では、複雑で幅も奥行きもかなり深い、外交問題にとてもまともに意思決定などできないでしょう。

だからこそ、中国の外交に関する意思決定は粗雑なものが多いのです。最近だとさすがに、言う人はいなくなりましたが、十数年前までは、単に粗雑な外交を「したたかな外交」などと、褒めそやす輩が左右・上下にかかわらず、存在しました。このブログでは、十数年前から、中国のことを「外交の劣等生」と評してきました。その見方は、今日正しかったということが示されたと思います。

中国は、まずは外交をもっと重視するように体制を整えていく必要があると思います。たとえば、中共中央政治局常務委員の中に外交を担当するものを加えるなどのことをすべきと思います。

それとともに、中国は国際法を、その歴史から振り返って学習し直すべきと思います。現在の国際法の基本は、ウエストファリア条約にまでさかのぼります。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
“帝国主義的覇権国家”の異常ぶり…中国とまともに付き合うのは限界だ! 日本は欧米諸国と安保・経済の連携を— 【私の論評】世界の中国の全体主義との戦いの終わりに、日本は新世界秩序の理念を提唱せよ!(◎_◎;)
ミュンスター条約(ウェストファリア条約)締結の図
ウエストファリァ体制とは、1648年のウェストファリア会議で成立した世界最初の近代的な国際条約とされている、三十年戦争の講和条約による体制です。66か国がこの条約に署名し、署名までに4年の歳月を費やしています。 
この体制によって、プロテスタントとローマ・カトリック教会が世俗的には対等の立場となり、カルヴァン派が公認され、政治的にはローマ・カトリック教会によって権威付けられた神聖ローマ帝国の各領邦に主権が認められたことで、中世以来の超領域的な存在としての神聖ローマ帝国の影響力は薄れたました。 
スイス、オランダの正式な帝国離脱が認められ、フランスはアルザス地方を獲得しました。 
現代の世界を見渡せば「ウェストファリア体制」がどれぐらい残っているでしょうか。 
主権国家の並立体制は、建前上は残っています。その意味でいえば、世界はいまだに「ウェストファリア体制」と言えます。 
「ウェストファリア体制」とは、煎じ詰めると以下の3点です。
一 心の中では何を考えてもよい 
二 人を殺してはならない 
三 お互いの存在を認めあおう
という三要素です。
そして、これらは最も確立された国際法であり、法則なので否定のしようがありません。 
この三要素が当然だという価値観を持った国はどれぐらいあるのでしょうか。日米、そのた西欧先進国は、全てこの価値観を持っている言って良いでしょう。

ところが中国もロシアも、そうして無論北朝鮮もこのような価値観は持っていません。習近平、プーチン、金正恩共通しているのは、自分が殺されなければ、やっていいと考えるところです。むしろ、すでにバンバンやっています。

どっちつかずなのが韓国です。無論、韓国では中国やロシアのように人を殺すことはありませんが、それにしても、歴代の元大統領の多くは、無残な死に方をしています。

日本としては、明治以来西欧的価値観を受け入れ、全体主義的に陥ったこともなく(大東亜戦争中の日本の体制をナチズムと似たような全体主義というのは歴史を真摯に学んだことのないものの妄想です)、どちらかといえば、米国の方に与し易いのは事実です。
 上の三要素のなかで、現在ではあまりに当たり前になりすぎていて、理解し難いのが「心の中では何を考えてもよい」だと思います。これは、当時ローマ・カトリック教会が人々の精神まで縛っていたことから脱却しようというものです。

これは、自由主義国の人々にはもう当たり前過ぎですが、中国では、今でも中国共産党が人々の精神を縛っています。

他の二要素「人を殺してはならない」「お互いの存在を認めあおう」というのも今日自由主義国では当たり前です。そもそも、この二要素がなければ、国際関係など成り立ちません。

このウェストファリア体制より以降、欧州では「国際法」という考え方が芽生え、その後様々な法体系がつくられ、今日に至っています。 ただ、この体制は、西欧諸国のものであり、他の文化圏には当てはまらないものとの暗黙の了解があり、その後西欧諸国は植民地を求め、帝国主義的な行動をとるようになりました。

日本はウイルソン米大統領が第一次大戦後のパリ講和条約で国際連盟設立を提案をしたとき、日本が提唱した人種差別撤廃条約に即座に反対し却下しました。

国際連盟設立委員会で「人種差別撤廃」を提案した牧野伸顕

しかし、第二次世界大戦後は、人種差別撤廃がなされました。これには、様々な理由がありますが、私自身は日本が戦争に負けつつも、人種差別撤廃も大義として戦いアジアの植民地諸国に独立の機運を盛り上げたこと、さらに植民地経営が植民地獲得競争の当初に思われいたほど、宗主国に利益をもたらさなかったことなどが原因だと思います。

このようなことを真摯に学んでいないからこそ、中国は「一帯一路」などで、覇権主義の道を歩もうとしていると思います。国際関係に疎いために、国際投資の常識も知らないようで、中国は投資効率の低い投資も盛んに行い、世界各地で大失敗しています。先進国がなぜ、中国のように海外に投資しないのか、その理由を知らないようです。

今日の事態を回避するためにも、中国は「国際法」とその歴史を学ぶべきと思います。そうして、西欧諸国や日本など、民主的な国家がなぜ現在も「国際法」を重視するのかを知るべきと思います。

中国が今後も現在のやりかたを改めず、外交を軽視し、国際法を無視して、現在の体制を維持し続けるなら、西欧諸国や日本のような民主的な国家は、中国と通商などできません。

そもそも、国際関係にも通商にも、一定のルールがあります。そのルールを守れば、国際関係も円滑にすすみますが、そうでなければ、中国が他国の利益を不当に貪るだけになります。

無論、中国にも国際法や通商ルールには不満なところもあるかもしれません。しかし、それは、それこそ日本が第一次世界大戦後にパリ講和条約で人種差別撤廃を提唱したように、国際社会においてどうどうと主張すべきと思います。今日の世界は、第一次世界大戦後とは異なり、中国が主張した内容を国際社会が吟味し、その言い分が正しいのであれば、それを受け入れる度量はあります。

しかし、そうした主張をして受け入れられるためにも、まずは外交を重視し、国際関係や通商で、国際法等を遵守する姿勢をみせる必要があります。実際に、西欧諸国でない国でも、そのようにして国際社会に受け入れられ、通商も継続している国は多いです。日本はその典型かもしれません。そうして、従来のように姿勢を見せるだけではなく、遵守すべきです。

ご近所付き合いにも、一定のルールがあります。これを守らなければ、まともにご近所付き合いもできないのは当然です。今のままでは、中国は民主主義体制の国家とは、別枠の経済圏をつくりその中で生きていくしかなくなります。

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