2016年2月17日水曜日

GDPマイナス成長は暖冬のせいではない―【私の論評】増税派はどこまでも、8%増税が大失敗だったことを認めたくない(゚д゚)!

GDPマイナス成長は暖冬のせいではない

図表、写真はブログ管理人挿入 以下同じ
2月15日に2015年10-12月期のGDP速報値が内閣府から公表された。結果をみると、実質GDP成長率は前の四半期と比べて0.4%減、年あたりの換算で1.4%減となり、2015年4-6月期以来のマイナス成長に沈んだ。もっとも、7-9月期の実質GDP成長率も昨年11月に公表された段階(一次速報値)ではマイナス成長であったから、日本経済は2015年4-6月期以降、ほぼゼロ近傍に近い成長率で推移していることがわかる。政府は2015年度の実質GDP成長率を1.2%と見込んでいるが、見通し通りの成長率の達成はほぼ絶望的な状況だ。これは安倍政権の政策運営にも少なからず影響を及ぼすだろう。

 さて、今回公表されたGDP速報値について、石原経済再生担当大臣は記録的な暖冬により冬物衣料品などが大きく落ち込んだことで個人消費の減少幅が大きくなったことが主因との見方を示したとのことだ。

 GDPは民間最終消費支出、民間住宅、民間企業設備、民間在庫品増加、政府最終消費支出、公的固定資本形成、公的在庫品増加、財・サービスの輸出と輸入という、9つの項目から構成される。個人消費は民間最終消費支出に含まれるが、年率換算で1.4%減となった実質GDP成長率が、どの項目によって生じているのかを確認すると、民間最終消費支出の落ち込みによる影響が最も大きくなっており、石原大臣の指摘する通り、個人消費を含む民間最終消費支出の落ち込みが主因であることが確認できる。

 しかし、個人消費の落ち込みが記録的な暖冬により冬物衣料品などが大きく落ち込んだことが主因であるとはデータからは確認できない。

石原伸晃経済再生担当相の説明は統計と違う
天候不順は言い訳

 今回公表されたGDP統計では、家計消費の推移が自動車や家電製品といった耐久財、衣料品などの半耐久財、食品などの非耐久財、輸送・通信・介護・教育などを含むサービスといった4つの品目群(GDP統計では形態と言う)別にまとめられている。2015年7-9月期と比較しても、1年前の2014年10-12月期と比較しても、家計消費の落ち込みに最も大きく影響しているのは耐久財消費の落ち込みである。石原大臣の述べるとおり、家計消費の落ち込みの主因が冬物衣料品などが大きく落ち込んだことにあるのならば、その影響は半耐久財消費の大幅減という形で現れるはずだが、統計データを参照する限り、そうはなっていない。

 思い起こせば、天候不順が消費低迷の主因であるという指摘は、2014年4月の消費税増税以降繰り返されてきた。確かに天候不順が消費を落ち込ませる可能性はゼロではない。しかし消費意欲が旺盛であれば、多少の天候不順でも、消費の落ち込みがこれほど長くかつ深刻な形で続くことはないだろう。GDP速報値の結果からは、2015年10-12月期の民間最終消費支出の値は304.5兆円だが、これは、消費税増税直後に大幅な落ち込みとなった2014年4-6月期の305.8兆円をも下回っているのである。これほどの大きな変動が天候不順で生じると考えられるのだろうか?

 やや長い目で民間最終消費支出の推移をみれば、2002年から2012年までの10年間の民間最終消費支出は前期比0.2%程度のペースで緩やかに増加していたことがわかる。2013年に入るとこのペースがやや拡大したが、2014年4-6月期以降になると、民間最終消費は落ち込みが続き、2015年10-12月期の民間最終消費支出は、統計的に見て、前期比0.2%増のトレンドから有意に下ぶれしたと結論できる。つまり、統計的に「消費の底割れ」が生じたというのが今回の結果だということだ。

確かに昨年の暮れは気温が高かったが・・・・・・・
こうした「民間最終消費支出の底割れ」の主因は、大幅な落ち込みが始まったのが2014年4月以降であることから考えても消費税増税の影響と言えるだろう。消費税増税は、駆け込み需要とその反動減、さらに消費税増税に伴う物価上昇率の高まりが実質所得を減らすことの二つを通じて経済に影響を及ぼす。

 「消費税増税の影響は一時的であって、増税から1年以上経っても影響があるとは考えられない」と考える読者の方は、(仮に消費税減税といった政策が行われない限り)消費税率8%の負担が永続的にかかり続けるという事実を忘れているのではないか。加えて、わが国の場合、2017年4月から10%への消費税再増税が予定されている。多少所得が増えたとしても、2017年4月に増税が予定されているのだから、家計の財布の紐が緩まないのは当然とも言えるだろう。

消費税「減税」も検討を

 冒頭で今回のGDP速報値の結果は、安倍政権の政策運営にも少なからず影響を及ぼすのではないかと述べた。石原大臣は今年1月に成立した2015年度補正予算を素早く実施していくことが必要と述べているが、経済効果は実際の執行のタイミングを考慮すると2015年度と16年度に分散され、非常に限定的なものに留まるだろう。もう今は2015年度補正予算の早期実行が課題なのではない。さらなる新たな手立てを早急に考え、実行すべき時なのである。つまり民間最終消費支出の悪化を考慮すれば、2016年度予算の早期成立後に即座に2016年度補正予算を編成すべき局面ということだ。

 1月29日に日本銀行が決定した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和策」の影響もあって、長期金利はさらなる低水準にとどめ置かれる可能性が濃厚な状況である。これは政府からみれば新規に国債を発行する際のコスト(金利負担)が低下している事を意味する。総需要が落ち込んでいる現状では、政府が短期的には財政政策により需要を支える必要があるし、大胆な財政政策を行ってもそのためのコストは低い。「今」は大胆な財政政策が必須であるし可能な状況なのである。

 世界経済の変調が濃厚となる中で日本経済が堅調な成長軌道に乗っていくには、国内需要を高めることが必須である。財政政策のメニューは様々なものが考えられるが、例えば、民間最終消費の落ち込みに直接影響を及ぼし、かつ分かりやすい政策をというのであれば、2017年4月から予定している消費税増税を凍結し、さらに年限を絞って消費税減税(例えば消費税率を8%から6%にする)といった方策も考えられるし、軽減税率の仕組みを使って食費の消費税率を8%ではなく5%にするといった方法もありえるのではないか。前例がない政策を全て「異次元」だと片付けていては何も進まない。こうした取り組みがいかに多くできうるのかが、今後の日本経済の帰趨を決めることになるだろう。

片岡剛士

三菱UFJリサーチ&コンサルティング、経済・社会政策部主任研究員

【私の論評】増税派はどこまでも、8%増税が大失敗だったことを認めたくない(゚д゚)!

8%増税が、実体経済に悪影響を及ぼしているのは間違いありません。以下に、10〜12月期のGDPの増減率の内訳を掲載します。


こうしてみると、やはり個人消費、住宅投資の落ち込みが大きいです。そうして、個人消費の落ち込みの要因のうちで一番大きいのは、ブログ冒頭の記事で、片岡氏が掲載しているように、耐久消費財の落ち込みです。

民間消費支出をグラフにしたものを以下に掲載します。


民間支出がいかに打撃を受けているのか、良く理解できます。

さらに、以下のグラフをみると、雇用者報酬が伸びて13年度の水準をほぼ取り戻しているにもかかわらず、個人消費がこれに比例して伸びてはいません。


これは、まさにブログ冒頭の記事で片岡氏の "「消費税増税の影響は一時的であって、増税から1年以上経っても影響があるとは考えられない」と考える読者の方は、(仮に消費税減税といった政策が行われない限り)消費税率8%の負担が永続的にかかり続けるという事実を忘れているのではないか。加えて、わが国の場合、2017年4月から10%への消費税再増税が予定されている。多少所得が増えたとしても、2017年4月に増税が予定されているのだから、家計の財布の紐が緩まないのは当然とも言えるだろう"という主張をまさに裏付けています。

要するに、どう考えても、8%増税は大失敗だったのです。しかし、なぜ石原伸晃経済再生担当相が、これを直視せず、"記録的な暖冬により冬物衣料品などが大きく落ち込んだことが主因"とするのはなぜなのでしょうか。

それは、石原氏が増税賛成派であり、8%増税は無論のこと、10%増税もすべきと腹の底から思っているからです。特に8%増税は、熱烈に支持したため、今更8%増税は失敗であったと口が裂けてもいえないからです。

ここで、時計の針を2011年、11月25日に戻します。そのころ、サイトに掲載された、長谷川 幸洋氏の記事のリンクを以下に掲載します。
小沢一郎、石原伸晃らが動き始め、「来年解散・総選挙」が漂いはじめた永田町

まだ、小沢氏が民主党にいたときのことです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部抜粋します。
 また「政局の季節」がめぐってきたようだ。消費税と環太平洋連携協定(TPP)をめぐって民主、自民両党で内部の意見対立が激しくなっている。永田町では「いずれにせよ来年中の解散・総選挙は間違いない」と緊張感が高まってきた。
火を付けたのは小沢一郎元民主党代表だ。 
 11月19日に出演したニコニコ生放送の番組で田原総一朗の質問に答え、消費税引き上げに反対する姿勢を明確にしたうえ、22日の小沢グループ会合では「消費税増税を強行すれば党運営は厳しくなる」と野田佳彦首相に警告した。
 自民党の石原伸晃幹事長も22日の講演で「首相が『民主党を割ってでも消費税を10%にする』と言えば、自民党も割れ、新しい政治体制ができるかもしれない」と政界再編の可能性に言及した。 
「増税法案さえ可決すれば政権はどうなってもいい」 
 民主、自民の大物たちが機を同じくして、消費税引き上げをきっかけにした政変の可能性に言及したのは、けっして偶然ではない。どちらの党も執行部は増税路線を掲げているが、内部に強い反対勢力を抱えている。党内事情がそっくりなのだ。 
 TPPも同じである。野田首相は交渉参加の意思を決めたが、民主党内には依然として強い反対論が残っている。自民党に至っては、過半数の議員が反対と言われているが賛成意見もあり、党としての方針を決められないありさまだ。
 増税やTPPのような重要課題をめぐって、どちらも党内が一致結束していないので、執行部がどちらかの路線で突っ走ろうとすると、ともに党が割れる可能性に直面してしまう。首尾一貫しているのは「霞が関党」とも呼ぶべき官僚集団とそれに鋭く対立するみんなの党(あと共産党?)くらいである。 
 これから年末の予算編成と税制改正を控えて、この意見対立は激化しこそすれ、和らぐ見通しはない。野田政権は社会保障と税の一体改革大綱で引き上げ幅と時期をはっきり書きこもうとしている。 
 財務省とすれば、上げ幅の数字と時期を明示した増税法案さえ可決成立すれば、後は野田政権がどうなろうとかまわない。野田首相が続投できればそれに越したことはないが、仮に総選挙で敗北し民主党が下野する場合でも、次の政権が増税路線を引き継ぐよう水面下の工作に全力を上げていくだろう。いや、もう着手しているだろう。 
 むしろ東京電力・福島第一原発事故の処理やTPP問題での党内分裂ぶりをみれば、民主党が次の解散・総選挙でも勝利し、野田首相が続投できる可能性は低いとみているはずだ。冷徹な財務省がそれほど楽観的になるとは思えない。財務省は実質的に政権を切り盛りしているのはいつだって自分たちなのだから、表で政権を担うのは民主党だろうが自民党だろうがどっちでもいいと思っている。 
石原発言を歓迎する財務省 
 そんな財務省の視点からみると、先の石原発言は歓迎するシナリオである。自民党が増税派と反増税派に分裂し、民主党も総選挙敗北で増税派と反増税派に分裂するなら、両党の増税派を合体させて「増税新党」をつくればいい。あとは残った両党の反増税派が合体して大きな勢力にならないように工作するだけになる。
何としても、増税をしたい財務省から増税発言を歓迎された石原氏ですから、石原氏の腹なの中は8%増税は当然、そうして10%増税もやり遂げなければならない大正義と思いこんでいることでしょう。

なぜ、このようになるかといえば、彼はマクロ経済オンチだからです。周りの人間が、増税すべきとか、増税すべき理由などを言うと、それが正しいものと単純に思い込んでしまうどころか、大増税は日本を救う大正義であると単純に信じ込んでしまっているのだと思います。

上の記事をみていると、小沢氏は増税に反対しており、当時の野田首相に対して、増税をすれば政権運営が難しくなると当時の野田総理大臣に警告しています。

実際、増税一辺倒で走った野田政権は、2012年の衆院総選挙で、大敗を喫し、政権交代を余儀なくされました。

しかし、小沢氏の上の増税反対の発言や、当時のその他の増税反対の発言を聴いていると、小沢氏は、我が国の実体経済の悪化を心配しているというよりは、選挙対策や内閣支持率の観点からそのような発言をしてるようにしか思えませんでした。

経済がどうのというより、国民の反発を招くことを恐れているような話ぶりで、まともに経済のことをわかつて、あのような発言をしているとは思えず、そのせいですか、あまり説得力がないように思えました。

増税に反対していた、小沢氏ですらこのような状況でした。当時は、民主党や自民党の多数派は、増税推進派で、増税反対派は少数でした。

その状況は今も変わっていません。12年の末に衆院選で大勝利して、安倍自民党内閣が成立したわけですが、ご存知のように13年の秋には、与野党の政治家のほとんどや、マスコミもこぞって、増税に大賛成で、特に新聞は安倍総理が増税の決断をしたと何度も報道しました。これは、驚いたことに、産経新聞も含めた全大手新聞社がそのような報道ぶりでした。

あの状況で、安倍総理が8%増税延期の決断をした場合、政治家、マスコミ、識者らのほとんどが増税賛成派であつたため、政権運営に支障をきたしたかもしれません。そのためでしょうか、安倍総理は14年度からの8%増税を決断せざるをえなくなりました。

さて、2013年の9月の主要メディアの報道ぶりををざっと振り返っておきます。実際には、これ以外も、多くの報道がありましたが、代表的なもののみにとどめます。報道に間違いがなければ、安倍首相は2013年の9月11日から20日にかけて、少なくとも4度(11日、12日、18日、20日)にわたり「決断」を繰り返したことになります。
安倍首相は11日、消費税率を来年4月に現行の5%から8%に予定通り引き上げる意向を固めた。出典:読売新聞9月12日付朝刊1面「消費税 来年4月8% 首相、意向固める 経済対策に5兆円」
安倍晋三首相が、来年4月に消費税率を5%から8%へ予定通り引き上げる方針を固めたことが12日分かった。出典:共同通信9月12日「消費増税 来年4月8%に 首相、10月1日表明へ」
安倍晋三首相は12日、現行5%の消費税率を、消費増税関連法に沿って2014年4月に8%に引き上げる意向を固めた。出典:時事通信9月12日「消費税、来年4月に8%=経済対策5兆円で下支え=安倍首相、来月1日にも表明」
安倍晋三首相は、現行5%の消費税率を、来年4月に8%へ予定通り引き上げる方針を固めた。出典:毎日新聞9月12日付夕刊1面「消費増税 来年4月8% 安倍首相『環境整う』判断 経済対策、5兆円規模検討」
安倍晋三首相は18日、現在5%の消費税率について、来年4月に8%に引き上げることを決断した。出典:産経新聞9月19日付朝刊1面「消費税来春8%、首相決断 法人減税の具体策検討指示」
安倍晋三首相は来年4月に消費税率を8%に引き上げる方針を固めた。(…)複数の政府関係者が19日、明らかにした。出典:日本経済新聞9月19日付夕刊1面「消費税来春8% 首相決断 法人減税が決着、復興税廃止前倒し 来月1日表明」
安倍晋三首相は20日、来年4月に消費税率を現在の5%から8%に予定通り引き上げることを決断した。出典:朝日新聞9月21日付朝刊1面「首相、消費税引き上げを決断 来年4月から8%に」 
安倍首相は10月1日の発表の前までは、自らの肉声で「決断」の意思を表示したわけではありません。仮に会見等の場で表明していれば「~を表明した」と報じられるし、一部の関係者に伝達していれば「決断したことを~に伝えた」と報じられるのが普通です。しかし、昨年はどのメディアも「表明」「伝達」いずれの事実も報じておらず、「意向を固めた」「決断した」といった表現で報じていました。本当に、これらは近年まれに見る大手新聞の異常報道でした。ここまでの規模になると、もう財務省が裏で暗躍していたのは、間違いないです。
安倍総理が増税の決断をしたことを報道する読売新聞
そうして、14年に実際に増税が実施されると、多くの識者が8%増税の影響は軽微としたにもかかわらず、マイナス成長は明らかとなり、12月には、ご存知のように10%増税の延期を公約の一つとして、安倍総理は衆院の解散総選挙を実施し、大勝利して、10%増税の延期が決まりました。

しかし、2011年ころから、自民党も民主党も増税推進派が圧倒的多数派です。これら増税推進派はもとより、新聞も、識者も8%増税を推進したきたため、今更これは間違いでしたとはなかなか言えません。

自民党の大多数は、本当は一昨年の暮れの10%増税の延期を公約とした、衆院解散総選挙にも反対だったと思います。しかし、当時は、安倍自民党は、選挙に何度も勝利して、内閣支持率もかなり高い状況であったため、あからさまに安倍総理に異議を唱えるわけにもいかず、面従腹背をしただけです。

実際、2月15日に2015年10-12月期のGDP速報値の発表があっても、各新聞もその事実は淡々と報道しますが、8%増税が大失敗であったことなど報道しません。

経済学者、特に日本で主流派といわれる経済学者らも、大失敗などとは論評しません。無論政治家もそのようなことはいいません。

しかし、統計数値や、ブログ冒頭の記事などから、8%増税は大失敗であることは明らかですし、10%増税などしてしまえば、実体経済、特に個人消費がとんでもなく落ち込むことは目に見えています。

もし実行してしまえば、平成18年あたりには、時の政権が誰のどの政党のものであれ、増税一辺倒だった2012年の野田政権のように、崩壊するのは目に見えています。

そんなことにならないためにも、安倍政権は今年夏の参院選については、できれば衆院も解散して、衆参同時選挙にして、10%増税延期もしくは恒久的中止、あるいはインフレ傾向がひどくなる前までは、実施しないことを公約に掲げ、大勝利していただきたいものです。

おそらく、増税派が圧倒的多数である、現状を考えると、これが増税阻止の唯一の、隘路であると思われます。安倍政権には、この隘路を何とか突破していただきたいものです。


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【関連図書】

結局のところ、日本の政治は官僚特に財務官僚が主導しているところがまだまだ大きいです。官僚が政治に関与することは一概に悪いことではありませんが、意思決定はその時々の空気に流されることなく政治家、政府が地頭を使って行うべきものです。それすらも、官僚に譲ってしまえば、民主主義は成り立ちません。それを実感していただける三冊の書籍を以下にチョイスさせていただきこました。

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2016年2月16日火曜日

安倍自民党に塩を送る民主党 お家芸の内ゲバ体質変わらず ―【私の論評】次の選挙で民主党は、PKO法案後の選挙で姿を消した社会党と同じ轍を踏む (゚д゚)!



民主党の参院ポスター

 『週刊文春』が報じた金銭スキャンダルで辞任した甘利明・経済再生相。疑惑の渦中に民主党は〈民主党は嫌いだけど、民主主義は守りたい〉という自虐的なコピーの参院選ポスターを発表し、岡田克也代表自身、代表質問(1月26日)で安倍首相を相手にこう懺悔した。

 「2009年夏、私たちは政権を担うことになりました。(中略)いろいろ足らざる点はありましたが、何よりも、日本が直面している困難に立ち向かい、説得し、乗り越えるだけの覚悟が足りなかったことを深く反省しています」

 いくら安倍政権が金権まみれでも、野党第一党の党首が、「困難に立ち向かう覚悟がなかった」と告白するのだから、国民は期待したくてもできるはずがない。結果、甘利辞任後の各社の世論調査では内閣支持率が2~8ポイント上昇するという異常事態を招いた。

 夏の参院選に向けても、岡田民主党は「負ける準備」を着々と進めている。参院選ではこれまで全選挙区に候補者を立ててきた共産党が「安保法制廃止」を掲げた野党の選挙協力体制を条件に独自候補擁立を見送る方針を打ち出した。民主党にすれば、死に票となるはずの共産党の「700万票」が転がり込む千載一遇のチャンスだった。

 だが、岡田氏は「共産党と組めば票が逃げる」と排除の論理で協議を拒否してしまった。

 新潟選挙区では野党の候補者一本化調整が進められるなか、公認候補を決めていなかった民主党が突然、現職衆院議員の菊田真紀子氏の鞍替え出馬を決定。自ら乱立に拍車を掛け、野党共闘はほとんど不可能な状況に陥っている。まさに安倍自民党に塩を送っているのだ。

 「岡田さんに“共産党と組むな”と圧力をかけているのは連合サイドだ。連合はアベノミクスの恩恵を受ける大企業労組の発言力が強く、原発再稼働、TPP、消費税10%という安倍路線に賛成の立場だから、反自民勢力の結集を妨害したい。それが薄々わかっていても、民主党は選挙もカネも労組におんぶに抱っこだから岡田執行部は逆らえない」(民主党元議員)

 さらに党内で参院選大敗を待ち望んでいるとみられるのが前原誠司氏、細野豪志氏らの右派勢力だ。

衆院本会議中、話し込む細野豪志環境相(左)と前原誠司政調会長=2012年8月2日午後、国会
(肩書は当時)
 「右派は参院選敗北後に解党して保守主義新党をつくり、安倍政権と憲法改正で共同歩調をとろうとしている。岡田さんに勝たれては困るから、共産党排除を唱えている」(民主党中堅議員)

 この党のお家芸である内ゲバ体質は政権を失っても変わらないのだ。永田町取材に精通したノンフィクションライター・常井健一氏は呆れ顔だ。

 「本来、健全な野党があれば政権に不祥事が起きたときに内閣支持率が下がり、与党は国民の支持を失うのが怖いから反省して行動を改める。

 しかし、民主党は野党になっても党内抗争に明け暮れ、それを有権者に見透かされているから政権批判の受け皿になれない。これでは自民党はスキャンダルが出ても怖くないと安心して一層傲慢になる」

 こんな民主党、いっそ解散して消滅してしまっても構わないと思っている有権者は少なくないはずだ。
 ※週刊ポスト2016年2月19日号

【私の論評】次の選挙で民主党は、PKO法案後の選挙で姿を消した社会党と同じ轍を踏む
(゚д゚)!

最近の民主党はまるで、週刊文春の下請けのような有様です。政策論争そっちのけで、週刊誌のスキャンダルネタで与党に対峙しようとしていることは、すでに多くの国民が見抜いています。これも手伝って、ブログ冒頭の記事にあるように、甘利大臣の問題があったにもかかわらず、内閣支持率はあがっても、民主党の支持率は微動だにしないという異常事態を招いてしまったのです。

昨年の民主党で目立った動きといえば、安保法案に対する「戦争法案」というレッテル張りでした。安保法の本質は、①同盟関係の強化により戦争リスクを最大40%減らし、②自前防衛より防衛費が75%減り、③個別的自衛権の行使より抑制的(戦後の西ドイツの例)になるという点です。これについては、高橋洋一氏の記事をご覧いただければ、その詳細がおわかりになると思います。(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44375)。

それにもかかわらず、民主党はまったくトンチンカンで、「戦争法案」との誤ったレッテル貼り一辺倒でまともな国会審議ができませんでした。これでは極左政党と何ら変わりはないです。民主党内でも意見は対立、良心的な松本剛明氏が離党し、比較的まともな党内右派はだんまりを決めてしまいました。

そうして、これはあの社会党のPKO法案成立のときの、牛歩戦術などを彷彿とさせます。彷彿というより、やり方が違うだけで、民主党のやり方は本質的にこの時の社会党のやり方と変わりません。

1992(平成4)年6月6日、自衛隊の国連平和維持活動(PKO)協力法案に反対する社会党や共産党などが参院本会議で関連採決に徹底した牛歩戦術を実行しました。投票に11時間半もかけるなど4泊5日の徹夜国会となりました。衆院でも徹夜が続き社会党議員が集団で議員辞職願を出す異常事態の中、最後は自公民3党が採決をしました。

平成4年のPKO法案成立のときの国会での乱闘騒ぎ
さらに、民主党幹部のマクロ経済音痴には、目に余るものがあります。ブログ冒頭の記事には、"連合はアベノミクスの恩恵を受ける大企業労組の発言力が強く、原発再稼働、TPP、消費税10%という安倍路線に賛成の立場だから、反自民勢力の結集を妨害したい"とありますが、そもそもアベノミクスの第一の矢である、金融緩和は、EUなどの多くの国が雇用枠を広げる労働者にとって良い政策ということで、労働組合が支持する政策です。

にもかかわらず、民主党は金融緩和と雇用との関係が全く飲み込めていないようで、国会でも全く頓珍漢な質問や発言を繰り返しています。

これに関しては、このブログでも過去に何度か掲載しています。その代表的なものを以下に掲載します。
「最低賃金1000円」の目標 枝野氏は「民主党は正しかった」というのだが… ―【私の論評】また、民主党幹部のマクロ経済音痴炸裂!このままだと来年の衆参同時選挙で民主両院同時崩壊だ(゚д゚)!
民主党枝野幹事長
民主党の枝野氏は、民主党政権のときも安倍政権が掲げた「最低賃金1000の目標」にたいして、民主党もこの目標を掲げていたという強弁をしていました。しかし、これはマクロ経済的にいうと全く頓珍漢で奇妙奇天烈で、無意味な強弁としか言いようがありません。以下のその部分のみこの記事よりコピペします。
民主党政権時代、最低賃金1000円という目標があったのは事実であるが、まともな金融政策をしていなかった。その結果、傾向的に就業者数は30万人程度減少した。それに比べて安倍晋三政権では金融政策はしっかりしているので、就業者数は100万人以上増加している。 
賃金の動きは、就業者数が増加して、失業率が完全雇用状態に近づくと、急に伸びてくる。 
しかし、民主党時代は就業者数が減少していたので、そこで最低賃金を引き上げるという目標は、企業側に過度な負担を与えるだけであるので、経済政策としてはまずい。 
一方、安倍政権では、きちんとした金融政策が行われた結果として就業者数が増加しているので、賃金はおのずと上昇に向かうはずだし、最低賃金を引き上げても企業にとって過度な負担とはならず、労働者にとっても労働インセンティブ(動機付け)を増すという意味で、整合的な政策になる。
はっきりいえば、民主党時代の最低賃金目標はいいとしても、それを達成する政策手段を取り違えていた、つまり民主党の経済運営はまったく間違っていた。枝野幹事長はかつて、「経済成長のために金利を引き上げるべきだ」との見解を示していた。そのような金融政策の元で強制的に最低賃金を引き上げたら、さらに経済は悪化する。 
その証拠がある。民主党時代の2010年、最低賃金を730円、前年比2・4%と大幅に引き上げた。しかし前年の失業率は5・3%と高かったので、就業者数の増加を妨げてしまった。本来は引き上げ率を0・5%程度にとどめるべきだった。政策の無知が生んだ失敗だといえる。 
安倍政権になってから、「実質賃金ガー、下がった」とか既存の正社員たちから「アベノミクスの恩恵を受けていない」などとの声があがっていますが、それは当然のことです。金融緩和をしたからといつて、すぐに既存の正社員の給料があがったりすることはありません。

金融緩和をしてから数年かかり、雇用は改善していきます。まずは、アルバイトや非正規の人たちの雇用が増えます、そうしてこの人たちの賃金が上がります。そうなると、実質賃金の平均値は当然のことながら、下がります。

さらに金融緩和を続けていくと、今度は正社員の雇用が増えます。そうしてさらに緩和を続けていくと、正社員の賃金があがっていきます。その次に中途採用する会社では、幹部の雇用が増え、さらにその後に幹部の給料があがっていきます。

このように逐次雇用が改善していくのが、通常のパターンです。最初は、賃金の低い人達の雇用が増えるので、賃金の平均値が減るのは当然のことです。

そんなことは、会社の業績が良くなったときの会社の平均賃金を考えて見ればよくわかります。業績が良くなり、店や営業所を増やすということになると、まずはアルバイトなどの雇用を増やします。そうなると、会社全体の平均賃金はどうなるかといえば、当然のことながら下がります。

しかし、いずれ正社員や、幹部社員も増えて賃金の平均もあがつていきます。繰り返しいいますが、金融緩和で雇用が改善するにしても、最初の段階では、最初に低賃金の人たちの雇用が増えるので、実質賃金がマイナスになるのは当然のことです。

しかし、民主党の幹部はこのようなことを全く理解せずに、「実質賃金ガー」などと叫びまくるわけです。本当に、モノを知らないということはいかんともしがたいです。

それから、まともな会社に雇われている正社員で「アベノミクスの恩恵を受けていない」などとテレビのインタビューで後先も考えず、億面もなくこういうことをいう連中は、嫌なら会社を辞めれば良いと思います。

2014年12月の衆院解散総選挙の際に、安倍首相
がTBSのNEWS23に出演した際の街の声
デフレの回復からやっと、立ち直りかけている企業の状況や、勤めたくても勤められなかった人の苦労も知らず、自分たちのことだけを考えるような正社員は、まともな会社に雇用されているというありがたさを全くわかっていません。そんな見方しかできないような、正社員は会社にとっても良くない存在です。私は、このような軽薄な連中が民主党政権を生み出す原動力になったのかもしれないと思います。

さて、民主党の経済オンチぶりについての記事のリンクをもう一つ以下に掲載します。
民主党議員よ、頼むから少しは経済を勉強してくれ!~『朝ナマ』に出演して改めて感じた、日本の野党のお粗末さ―【私の論評】第二社会党の道を歩む民主に期待は無駄!本当は増税政党の自民も無理!期待できるのは今は次世代の党のみ!
これも、詳細はこの記事をご覧ください。ここでは、詳細は説明しません。ただし、この記事には民主党の議員が、グラフもまともに見ることができないようなので、視力検査の必要性があるのではいなかと思われるほどであることを掲載してあります。

さらに、ブログ冒頭の記事では、党内で参院選大敗を待ち望んでいるとみられるのが前原誠司氏、細野豪志氏の存在のことが掲載されていましたが、これもモノになりそうもありません。

民主党と維新の党との合流を前提として、前原誠司元代表や細野豪志政務会長らは民主党の解党を呼びかけています。案としてはあり得なくもありませんが、プロセスには問題ありです。前原氏はそうではありませんが、細野氏は政務会長であり、執行部の一員です。

細野氏が民主党と維新の合流を前提するような、提案をするのは問題があります。最初は、執行部で話をしてからにすべきでした。それができないというのなら、まずは総務会長を辞めて、それから提案すべきでした。

民主党岡田代表
民主党の岡田克也代表は、このような解党を求める動きに不快感を示したと言われています。これは、現実的ではないということで、来年の通常国会までに維新の党との統一会派を目指す考えを表明しています。

維新の党との統一会派結成は現実的ではありますが、これではあまりにインパクトがありません。一強の自民党、さらに強い自公連立政権に立ち向かうには全くの力不足です。
前原―細野ラインが突っ張って、どこまでも民主、維新の合流を進めれば、単に民主党と、維新の党から、このラインに賛同する数人の議員が集まり、結局民主、維新以外に中途半端な新党が成立するだけに終わりそうです。

右から江田憲司氏、松野頼久氏、細野豪志氏
それから、最近はいわゆる、高市早苗総務相の「電波停止」発言が問題となり、民主党が気色ばんでいますが、これも結局のところ、民主党にとってはブーメランとして帰ってきそうな状況です。それに関しては、以下の記事をご覧ください。
菅元首相、鮮やかなブーメラン 菅政権で言及の電波停止を「安倍政権は憲法違反」 「独裁」批判も自身はかつて容認
菅直人元総理大臣
 民主党の菅直人元首相は16日のブログで、放送局が政治的公平性を欠く放送法違反を繰り返した場合の「電波停止」の可能性に高市早苗総務相が触れたことに関し、安倍晋三政権に対して「憲法21条の国民の知る権利を侵害し、憲法に違反している」と批判した。 
 安倍首相を「独裁」とも糾弾した菅氏だが、菅政権時代にも政府見解として電波停止の可能性に言及し、菅氏自身も「独裁」を肯定する発言をしていただけに、ブーメランのような批判となった。 
 菅氏はブログで「自民党政権に都合の悪い放送は『公平性』に欠くと判断され、放送を停止させることができることになる。まさに独裁国家だ」と強調。さらに安倍首相の憲法観について「国民の権利を国家のために制約するのが憲法だという考えで、立憲主義に真っ向から反する」とし、「憲法を破壊する安倍総理を一日も早く退陣させるために何をすべきか。野党は次期国政選挙で共闘して安倍政権にあたる必要がある」と訴えた。 
 ただ、菅政権の平成22年11月、当時の平岡秀夫総務副大臣は参院総務委員会で「放送事業者が番組準則に違反した場合には、総務相は業務停止命令、運用停止命令を行うことができる」と答弁していた。菅氏も副総理時代の同年3月16日の参院内閣委員会で、「私は、議会制民主主義とは期限を切ったあるレベルの独裁を認めることだと思う」と述べていた。
本当に鮮やかなブーメランです。しかし、このブーメランは、国会で気色ばんで安倍総理や、高市総務相に質問していた民主党議員へは、無論のこと民主党にとっての大ブーメランでもあります。

とにかく、民主党はこのブーメランもそうなのですが、とにかくやることなすこと、政策論争はそっちのけで、自民党と対峙することばかり考え、とにかく安倍総理や自民党、自民党議員をこき下ろすことばかり考えているようです。

そんなことは、もう国民に見透かされています。週刊誌の下請けばかりやって、安全保障に関しても、経済に関してもまともに政策論争ができない民主党であれば、次の選挙では、社会党がPKO法案直後の選挙で消滅したのと同じく、民主党も安保法案成立直後の今年夏の参院選と次の衆院選で消滅することになります。

今のままであれば、そのほうが良いです。こんな議員に給料を支払ったり、政党助成金を支払っているのが勿体ないです。民主党の中でもまともに政策論争をするような議員は、他の党に移るか、無所属でこれからも努力していただきたいとは思いますが、そうではない議員は、もう議員になっていただきたくないです。

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2016年2月15日月曜日

【湯浅博の世界読解】尖閣衝突「5日で日本敗北」 衝撃シナリオに見え隠れする中国のプロパガンダ―【私の論評】内実は他先進国とは渡り合えない、儀仗兵並の人民解放軍だが?

【湯浅博の世界読解】尖閣衝突「5日で日本敗北」 衝撃シナリオに見え隠れする中国のプロパガンダ

RAND corporation(ランド研究所) 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる日中衝突で「日本は5日間で敗北する」という衝撃のシミュレーションが、インターネット空間で飛び交っている。米外交誌「フォーリン・ポリシー」の1月15日号に掲載された仮想シナリオの紹介記事である。特に国防総省に近いランド研究所が実施したとの触れ込みだから、その衝撃は余計に増幅された。

原文にあたってみると、記事は2人の記者が連名で書いており、ランドが実施した詳細なシミュレーション報告ではない。本文も「ホワイトハウス地下の危機管理室ではなく、ランド研究所で専門家にたずねる形で行われた」と、ただし書きをつけている。

5日間の初日は、日本人の右翼活動家が尖閣に上陸し、中国の海警に逮捕されるという前提ではじまる。2日目は、外交か警察案件のはずが、いきなり日本が護衛艦、戦闘機を派遣し、米国が駆逐艦や潜水艦をだして中国の軍艦とにらみ合う。

3日目は、中国のフリゲート艦が射程内に入った空自機を機関砲で攻撃。交戦状態になって、海自艦2隻が撃沈される。4日目と5日目は中国がサイバー攻撃で日米の送電や証券取引システムを破壊する。米国は潜水艦と航空機を増派して、海自艦隊の撤退を支援した。かくて尖閣は中国が確保して終わる。

一読して、現実離れしていることに気づくはずである。活動家は日本の巡視船に阻まれるし、上陸できても中国側でなく日本側に逮捕される。2日目に米艦船が現場に出現した時点で、中国艦船は矛を収めざるを得ないだろう。交戦状態になっても、米軍や海自潜水艦の威力が過小評価され、米国が都市機能マヒに追い込まれて、報復に出ないことなど考えられない。

2人の記者から取材を受けたのは、確かにランド研究所のシュラパク氏で、文字通り戦争ゲームのプロだ。元来、ランドのシミュレーションは、政府関係者を招いて行われ、綿密な研究分析の上に、多様な動きを検討し、独自の裁定を下すのが通例だ。ところが、記事にはそうした周到さはみられない。

この記事に対する日本国内の反応にランドは、あくまで記者たちと東シナ海で考えられる可能性を短時間、議論したもので、ランドの公式シミュレーションではないことを強調している。

なぜいま、シュラパク氏が絡んで記者2人が、米国の「巻き込まれ脅威論」のシナリオを発表したのだろうか。結果として、「米国が小さな無人島に関与して中国との紛争に巻き込まれ、米国の国益を損なう」という中国のプロパガンダに沿ったものになっている。

最近、中国の対外宣伝は米欧紙への寄稿やシンクタンクを活用して、ソフトに語りかける手を使う。とかく世論は、目立った主張や甘いささやきに幻惑されがちだからである。この記事に効用があるとすれば、日本の安保法制に穴はないかを確認し、日米同盟の紐帯(ちゅうたい)を確認するよう促したことだろうか。

横須賀生まれの日系人である米太平洋軍のハリー・ハリス司令官
外交誌の公表から12日後、米太平洋軍のハリス司令官が講演で、尖閣防衛について「中国の攻撃を受ければ、米国は間違いなく日本を防衛する」と述べて、クギを刺したのは妥当であった。

しかもここ数年、ワシントンで発表されるアジアの戦略報告書の主流は「中国の軍事的台頭にどう対処すべきか」であることを銘記すべきだろう。(東京特派員)

【私の論評】内実は他先進国とは渡り合えない、儀仗兵並の人民解放軍だが?

尖閣に関しては、上記とは別にYouTubeでは、中国がアメリカ軍撃破というシナリオの「3D模擬奇島戦役」というタイトルの動画が掲載されています。その動画(コピー)を以下に掲載します。



この動画は、昨年9月からYouTubeに掲載されています。9月というと、中国で抗日記念70周年軍事パレードが行われました。

昨年9月3日に北京で挙行された「抗日戦争勝利70周年記念軍事パレード」と歩調を合わせて、中国艦隊がアラスカ州アリューシャン列島沖のアメリカ領海内で“パレード”し、アメリカ海軍を憤慨させたなどということもありました。 

中国のイージス艦もどきの鑑定 能力はイージス艦にはるかに及ばない

しかし、中国によるアメリカ軍人の神経を逆なでする動きはそれにとどまりませんでした。直接人民解放軍当局が発表したものではないのですが、「某軍事同盟軍が中国に奇襲攻撃を仕掛ける。中国人民解放軍が反撃し、その軍事同盟軍の島嶼に位置する基地を占領する」というシナリオの「3D模擬奇島戦役」というタイトルの動画がネット上を駆け巡り、再び米軍関係者を憤慨させました。

この「3D模擬奇島戦役」と銘打ったシミュレーション動画は、人民解放軍の基地が攻撃される場面から始まります。そして「20××年に、某軍事同盟が国際法を無視して海洋での紛争を引起し、綿密に計画された奇襲作戦によって、いくつかの人民解放軍基地が攻撃された」というテロップが流れます。

わざわざ「某国」ではなく「某軍事同盟」としているのは、明らかに日米同盟を暗示しています。同様に「綿密に計画された奇襲作戦」はまさに真珠湾攻撃を暗示しており、「抗日戦争勝利70周年記念」を意識した演出のようです。

そうして、この動画で中国軍は、島嶼を攻撃するのですが、これは尖閣を想起させます。これは完璧に中国のブロパガンダです。

そうして、ブログ冒頭の記事におけるシミレーションも、やはり中国のブロパガンダに利用されたものと考えられます。

ブログ冒頭の記事では、「米軍や海自潜水艦の威力が過小評価」と掲載されていますが、まさにそのとおりだと思います。

それに関しては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国海軍、尖閣接近のウラ 米爆撃機の威嚇に習政権“苦肉の策”か ―【私の論評】日本と戦争になれば、自意識過剰中国海軍は半日で壊滅!東シナ海で傍若無人ぶりを働けば撃沈せよ(゚д゚)!
B52を空母に搭載するとこんな感じです 合成写真

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、中国海軍は、日本の自衛隊とまともに対峙すれば、一日で壊滅するであろうこと、米国とまともに対峙すれば、数時間で壊滅するであろうことを掲載しました。

米国と本気で対峙したとすると、数時間で勝負がつくのは目に見えています。航空兵力、海軍力のいずれをとっても、中国は米国の敵ではありません。

まともに戦えば、海上自衛隊の敵でもありません。この記事でも説明しましたし、このブログでも何度か掲載しましたが、日本の対潜哨戒能力は世界一です。潜水艦建造技術も世界一です。

日本の潜水艦は、技術力が非常に高いので、今のトップクラスの「そうりゅう」型だと、原子力潜水艦よりは多少短いですが、それでもかなりの時間潜行できますし、それにスクリュー音がほとんどしないため、どこの国の海軍であれこれを発見することはほぼ不可能です。

オーストラリアも新型の導入を検討している日本の「そうりゅう」型潜水艦
これに対して、中国の対潜哨戒能力は日本には全く及ばず、中国側は日本の潜水艦の動向を全くつかむことができません。いざ戦争になったら、日本は中国の艦船や潜水艦の動向をつぶさに把握できますが、中国側は、どこに日本の潜水艦がいるのか、全く把握できません。

特に潜水艦に関しては、製造技術がお粗末なので、中国の潜水艦は、まるでドラム缶をドンドンとハンマーで殴るようなけたたましい音をたてながら、水中を進むので、簡単に敵国に発見されてしまいます。

この状況で日中がまともに、海にまみえることになると、中国の空母、艦船、潜水艦などは、一方的に日本の潜水艦の餌食になることになり、あっという間に海の藻屑と消えてしまうことになります。

その他航空兵力も現実はかなりお粗末なので、自衛隊の敵ではありません。この状況では、中国は尖閣に人民解放軍を派遣しようにも、到達する前にことごとく撃沈・撃破されてしまいます。はっきりいえば、自殺行為です。

これが、中国大陸の陸の上ということになれば、ゲリラ戦も可能なので、状況は多少なりとも変わるかもしれませんが、海・空戦ということになれば、ゲリラ戦というわけにもいかず、中国に勝ち目はありません。

中国の第五せだい戦闘機といわれる殲20 ステルス性能も低く、
米専門家は第三世代の戦闘機と費用するものも存在する

自衛隊に対してもこの有様ですから、米国相手だと、数時間で中国海軍は戦闘不能に追い込まれてしまうことでしょう。日米同盟軍と戦うことになれば、どうあがいても、全く勝ち目はありません。

それにしても、なぜ中国がこのようなことをするのかといえば、無論プロパガンダのためですか、では、なぜプロパガンダを行うかといえば、もう軍事力の差異ははっきりしすぎるくらいはっきりしているので、中国としては、これ以上南シナ海での示威行動や、尖閣付近での示威行動をできないことは明らかなので、習近平としては、苦肉の策として、これらを実行する以外に道はなかったのだと考えられます。

習近平というと、国内では、腐敗の撲滅などといいながら、実際には権力闘争の続きを実行しています。そうして、人民の憤怒のマグマは従来から煮えたぎって、いついかなるとき大噴火するかわからない状況です。

そのような状況の中で、日本に対しても、アメリカに対しても、強気の態度をみせて、相手に譲歩を迫るようでなければ、国内の人民や、反習近平派の重鎮たちも納得しないどころか、習近平体制を崩しにかかることになります。

特に最近では、経済が悪化しているので、ただでさえ、人民の不満が募っています。しかし、だからといって、本格的に日米と対峙すれば、先に示したようにボロ負けするだけです。そうなれば、習近平はさらに窮地に追い込まれることになります。

だから、昨年は、日本とも戦ったこともない中共が、抗日70周年記念軍事パレードをしてみたり、アリューシャンで米国相手に示威行動をしてみたり、尖閣に機関砲装備の公船を派遣したり、挙句の果てに、上記のようにランド研究所の記事を流布したり、動画を流したりして、本当は無意味なのに、いかにも自分は、やっているぞとばかり、パフォーマンスを演じているわけです。

以下に中国で昨年行われた抗日70周年記念軍事パレードに向けて練習をする女性儀仗兵の動画を掲載します。



この助成儀仗兵は、平均身長1・78メートル、平均年齢22歳で統一されていました。本番では計17人12列の正方形の隊列を組んで行進しました。

儀仗兵とは、儀礼,警護のために,元首,高官,将官に配置される将兵のことです。日本では 1945年まで,天皇,皇族の儀礼に際しては,近衛兵がその任にあたりました。

ところで、儀仗兵は戦闘のための兵ではありません。中国の人民解放軍は、非常に不思議な組織で、そもそも、他国に見られる軍隊とは異なります。この組織実は、商社のような存在で、様々な事業を展開しています。

日本でいえば、商社が武装しているというのが、人民解放軍の真の姿です。そうして、人民解放軍は、人民を解放する軍隊ではなく、共産党の配下にある組織です。そうして、内部もかなり腐敗しており、それこそ、習近平の腐敗撲滅運動の標的にもなっています。

そもそも、このような組織が、他国の軍隊なみに機能するとは考えられません。日本の商社の社員に軍隊なみの武装をさせたらどうなるか、想像に難くないです。さらに、中国では長い間の一人っ子政策のため、人民解放軍の兵士たちもほとんどか一人っ子です。そうなると、中国内での苦しいゲリラ戦なども無理かもしれません。

そうして、この武装商社は、技術的にはかなり遅れた、空母、潜水艦、航空機などを持っています。これらは、先進国の軍隊とまともに対峙した場合、ほとんど役立たずです。ただし、外見はそれらしく、場合によっては美しくさえもみえます。

モデルなみの中国人民解放軍の儀仗兵
ところで、ロシアの軍事米空母1隻を撃沈するのに中国人民解放軍の海軍力の40%が犠牲 になると、ロシアの軍事専門誌「Military-Indust rial Courier」が2013年に分析しています。中国が毎年国防予算 を2けた増加させ、軍事力で米国に追いつこうとしているが、まだ 格差は少なくないということです。 

同誌は、中国が米空母との海戦を念頭に置いて非常に効果的な武器 体系を備えてきた、と紹介した。世界初の対艦弾道ミサイルと呼ば れる東風21Dは射程距離が3000キロにのぼり、日本やグアム の海上の米空母を狙うことができる。鷹撃83などの誘導ミサイル
を装着した12隻の駆逐艦も、アジア・太平洋地域の米艦隊に大き な脅威になる可能性があります。
 
中国は最近、ロシアからモスキットSSM P-270対艦ミサイ ルを備えた駆逐艦4隻を追加で購入した。空母「遼寧」と中距離艦 対空ミサイル紅旗16を搭載した護衛艦「江凱」15隻も敵艦を沈 没させる威力を持ちます。

米空母が率いる艦隊が中国領海に入れば、中国海軍は対艦ミサイル を搭載した駆逐艦10隻とミサイル艇40隻をまず投入し、ゲリラ 戦術で米艦隊を苦しめようとすると予想た。もし空母1隻が沈没 すれば、米海軍は海上制空権の約10%を喪失し、数千人の乗務員
が犠牲になります。
しかし同誌は中国軍が米空母を撃沈するのは容易でないと分析しました。 ひとまず中国が人工衛星・攻撃機・レーダー網を総動員しても、移 動を続ける空母の位置を正確に追跡して打撃するのが容易でない。 米空母は巡洋艦・駆逐艦・潜水艦はもちろん、偵察機・対潜ヘリコ プターなどの護衛を受けます。。 

また、最も発展した艦隊防空網というイージスシステムを通じて、 飛んでくるミサイルをほぼ正確に迎撃することができます。 

空母に搭載されたF35ステルス戦闘機と無人攻撃機は数百キロの 長距離飛行が可能で、中国本土のミサイル発射台など軍事施設を打 撃できます。米空母は中国領海に入らず十分に攻撃できるということです。 

同誌はこのような分析で、中国が米国のジェラルド・R・フォード 級空母1隻を撃沈するには中国海軍戦力の30-40%を消耗する と計算しました。(ジェラルド・R・フォード級空母は2015年進水予定のジェラルド・Rフォードをはじめ、現在のニミッツ級空母に 代わる米次世代原子力空母)

ただ、カギは米海軍が保有する11隻の空母など強大な海上戦力を どれほど迅速に西太平洋に投入できるかだと分析しました。現在、西太 平洋を管轄する米海軍第7艦隊には、空母「ジョージ・ワシントン 」をはじめ、60-70隻の軍艦が配属され、18隻は日本とグア ムに常時配備されています。また、緊急事態が発生すれば、まず最大 6、7隻の空母を西太平洋に投入できます。

米国の空母一隻を撃沈するのに中国は海軍力の40%が犠牲になる

さて、上の分析もっともらしくもあるのですが、2つ大きな見落としがあります。それは、潜水艦と対潜哨戒能力です。上の分析はロシアの分析なので、やはり、自国の兵器の優秀さをアピールする反面、自国の弱みである潜水艦についてはほとんど触れません。

冷戦末期には、日本の自衛隊は、対ソ対潜哨戒を徹底に的に実施し、ソ連の原潜などの潜水艦の行動を逐一偵察しました。そのため、日本の対潜哨戒能力は世界一のレベルになりました。当時のソ連の潜水艦も、現在のロシアの潜水艦も日本の技術には到底及ばず、対潜哨戒能力もかなり低レベルです。

先に述べたように、日本の潜水艦はステルス性が抜群で、中国側には全く発見できません。米国の潜水艦も、日本の潜水艦ほどではありませんが、中国よりははるかに高く、中国を相手とするならステルス性は十分です。

だから、日米の潜水艦は、中国側に察知されずに自由に行動することができます。一方中国の潜水艦は、日米に逐一その所在が確認されてしまいます。

こんなことから、中国が日米などと海戦をするということになると、無論日米は潜水艦を多用することになります。そうなると、中国は初戦で潜水艦からの攻撃に晒され、海軍力はすぐに消滅することになります。その後に、日米は余裕をもって、作戦を遂行することができます。

こんな事を考えると、先ほど中国の儀仗兵について触れましたが、それこそ、人民解放軍自体が、儀仗兵のようなものであるといえなくもないかもしれません。儀仗兵であったとしても、他国の軍隊とはまともに渡り合えないかもしれませんが、人民を弾圧したり、周辺の弱小国などに対しては、戦いを挑むことができるかもしれませんが、日米豪などの先進国の軍隊とは無理というものです。

とは言いながら、人民解放軍は、核を保有しています。商社のような組織が、軍備をするどころか、核武装をして、技術的には稚拙ながら、原潜も保有しているという、とんでもない組織が人民解放軍です。

中国のプロバガンダに対しては、上記のような中国の内部事情を熟知したうえで、一体何のためにやっているのか、想像しながら分析をするといろいろなことが見えてきます。

私たちは、中国を等身大に見る習慣をつけるべきと思います。いたずらに中国に脅威を抱く必要はありませんが、それにしても、核武装をしている厄介な国であることには変わりありません。その核ミサイルは日本を標的にしていることを忘れるべきではありません。こんなことを考えると、現状ではやはり日米同盟がいかに重要であるのか、集団的自衛権がいかに重要であるのか、認識を新たにする必要がありそうです。

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2016年2月14日日曜日

【緯度経度】日本が発信しない「拉致」英文本 古森義久―【私の論評】政府の機関など、成果をあげず単なる「良き意図」で終わらせないためには何が必要か?

【緯度経度】日本が発信しない「拉致」英文本 古森義久

The Invitation-Only Zone: The True Story of North Korea’s Abduction Project
書籍『招待所・北朝鮮の拉致警告の真実』の表紙

ワシントンにある韓国政府系の研究機関「米国韓国経済研究所」(KEI)で2月3日、「招待所・北朝鮮の拉致計画の真実」と題するセミナーが開かれた。その題名の新刊書の内容を著者の米国人ジャーナリストのロバート・ボイントン氏が紹介し、米側専門家たちが討論する集いだった。

実はこの書は、北朝鮮による日本人拉致事件の内容を英語で詳述した初の単行本だった。事件を英語で紹介した文献は米側の民間調査委員会の報告書などがあるが、商業ベースの英文の単行本はなかったのだ。

だから拉致事件を国際的に知らせる点で意味は大きく、日本側も重視すべき書である。米国とカナダで一般向けのノンフィクション作品として、1月中旬に発売されたのだ。

ニューヨーク大学のジャーナリズムの教授でもあるボイントン氏は日本滞在中に拉致事件を知り「この重大事件の奇怪さと米国ではほとんど知られていない事実に駆られて」取材を始めたという。この本はニューヨークの伝統ある「ファラー・ストラウス・ジロー」社から出版された。

ボイントン氏は数年をかけて日本や韓国で取材を重ね、とくに日本では拉致被害者の蓮池薫さんに何度も会って、拉致自体の状況や北朝鮮での生活ぶりを細かく引き出していた。また同じ被害者の地村保志さん、富貴恵さん夫妻や横田めぐみさんの両親にも接触して、多くの情報を集めていた。その集大成を平明な文章で生き生きと、わかりやすく書いた同書は迫真のノンフィクションと呼んでも誇張はない。ただし、ボイントン氏は拉致事件の背景と称して、日本人と朝鮮民族との歴史的なかかわりあいを解説するなかで、日本人が朝鮮人に激しい優越感を抱くというような断定をも述べていた。文化人類学的な両民族の交流史を奇妙にねじって、いまの日朝関係のあり方の説明としているのだ。

しかし同セミナーでの自著の紹介でボイントン氏はそうした側面には触れず、ビデオを使って、もっぱら日本人被害者とその家族の悲劇に重点をおき、語り進んでいった。

「なんの罪もない若い日本人男女が異様な独裁国家に拘束されて、人生の大半を過ごし、救出を自国に頼ることもできない悲惨な状況はいまも続いている」

ボイントン氏のこうした解説に対して参加者から同調的な意見や質問が提起された。パネリストで朝鮮問題専門家の韓国系米人、キャサリン・ムン氏が「日本での拉致解決運動が一部の特殊な勢力に政治利用されてはいないのか」と述べたのが異端だった。そして、同じパネリストの外交問題評議会(CFR)日本担当研究員のシーラ・スミス氏が「いや拉致解決は日本の国民全体の切望となっている」と否定したのが印象的だった。

だがなお残った疑問は、日本にとってこれほど重要な本の紹介をなぜ日本ではなく韓国の政府機関が実行するのか、だった。KEIは韓国政府の資金で運営される。日本側にもワシントンには大使館以外に日本広報文化センターという立派な機関が存在するのだ。だが同センターの活動はもっぱらアニメや映画の上映など日本文化の紹介だけなのである。安倍政権の重要施策の対外発信はどうなっているのだろう。(ワシントン駐在客員特派員)

【私の論評】政府の機関など、成果をあげず単なる「良き意図」で終わらせないためには何が必要か?

古森義久氏
上の記事にある、この書籍私も、さっそくキンドル本をダウンロードして読み始めていますが、確かに平明な文章で生き生きと、わかりやすく書れた同書は迫真のノンフィクションのようです。これだと、比較的短時間で読めそうです。

さて、ブログ冒頭の記事で、古森氏は、「だがなお残った疑問は、日本にとってこれほど重要な本の紹介をなぜ日本ではなく韓国の政府機関が実行するのか、だった。KEIは韓国政府の資金で運営される。日本側にもワシントンには大使館以外に日本広報文化センターという立派な機関が存在するのだ。だが同センターの活動はもっぱらアニメや映画の上映など日本文化の紹介だけなのである。安倍政権の重要施策の対外発信はどうなっているのだろう」と批判しています。

まさしく、そのとおりだと思います。アニメ映画の上映などの日本文化の紹介だけするというのでは、日本公報文化センターの役割をまともに果たしているとはとても思えません。

すでにアニメなど、国の機関が紹介するまでもなく、世界中にファンが多数存在しており、そんな中で、国の機関が、一切放映するなどなどということは言いませんか、アニメ映画を放映したり、日本文化の紹介のみにとどまっているとしたら問題です。

安倍政権に限らず歴代の政府はこのような活動には、あまり熱心とはいえないようです。最近では、外務省あたりが、竹島や尖閣問題に関するYouTubeに複数言語で視聴できる動画をアツプするなど、多少改善されているようではありますが、まだまだすべきことがあると思います。

このような活動は、政府も直接取り組むべきとは思いますが、それにも限界があります。やはり、こういうことを使命とする、日本広報文化センターのような組織や、NPO、NGOなどの非営利組織が実行すべきものと思います。

非営利企業こそ、使命をはきりするべき。そのためには、
まずビジョンや価値観をはつきりさせなければならない。

そうして、そのような組織においては、使命が第一に重要あり、リーダーがまずなすべきことを、よくよく考え抜いて、自らあずかる機関が果たすべき使命を定めることが重要です。

そして使命があるからこそ、はじめて明確な目標に向かって歩くことができ、目標を成し遂げるために組織の人間を動員することができるのです。

そして使命には、「何が機会であり、何がニーズであるか」「しかるべき成果が上げらそうか」「能力を有しているか」「信念をもってやれるか」つまり、“機会”“能力”“信念”の3つが表現され、組織の一人ひとりが目標を達成するために自分が貢献できることはこれだと思える現実的なものにすべきです。

そうして、特に成果をあげるには、成果を定義するだけではなく、それと実行する時間も加えて、目標として具体的に定めるべきです。定量化できるものは、定量化し、定性的なものであっても、なるべく具体的にして、組織の誰もが理解できるものにしなければなりません。

このような組織の中には、“使命”を掲げていない、あるいは意識すらしていない組織もあります。たとえ“使命”があっても、きれいな言葉が並べられ、形式的ものだったり、職員ひとり一人には理解されていないような状況では、まともな成果などあげられません。おそらく、日本公報文化センターなどもそのような状況なのではないでしょうか。

非営利組織に限らず、すべての組織の最終的な評価は成果であるはずです。営利組織における、利益も成果を測定する尺度の一つに過ぎません。経済的利益だけでは、すべての成果を表すものとはいえません。

良き意図と、大儀があるがゆえに成果や結果を重視しない傾向にある非営利機関も多いようですが、何が成果であるのかをはっきりと定義して、その成果を上げ続ける努力をすることが、非営利組織のあるべき姿であり、高い成果をあげための努力をしない非営利組織こそ、社会にとって罪なのです。

特に、NPOやNGOと異なる、政府の機関ともなれば、特に存続の努力などしなくても、政府から資金を得て活動するわけですから、余程成果の定義と成果を達成するための、目標がはっきりしていないと、その存在がすぐに無意味なものになってしまいます。

そうして、何よりも、そんなことになれば、組織の構成員が堕落してしまいます。

そんなことにならないないように、日本文化広報センターなどもまともな成果をあげるよう努力していただきたいと思います。

やるべきことはいくらでもあります。たとえば、ブログ冒頭の書籍は、英語の書籍ですが、このブログでは、以前慰安婦問題に関わる、ハングル語の書籍で、日本語には翻訳されているものの、英語には翻訳されていない書籍を紹介したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「帝国の慰安婦」裁判 問われる韓国司法 弁護側は“メディア経由”の曲解報道を問題視 ―【私の論評】韓国で慰安婦ファンタジーが発祥する前の1990年代前に時計の針を戻せ(゚д゚)!
帝国の慰安婦 ハングル語版の表紙
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、「帝国の慰安婦」という書籍に関連して、私は以下のような論評をしました。
この書籍は、日本語には翻訳されていますが、残念ながら未だ英語には、翻訳されていません。この書籍が、他の多く国々の言語に翻訳されて、多くの国の人々に読まれることになれば、慰安婦問題に関して、他国でも理解が深まるものと思います。

日本側としては、この書籍はあくまで韓国人の視点によって書かれたものであり、レトリックによって、ファンタジーとはらないギリギリのところまで日本側に慰安婦問題での譲歩を求める方向で書かれていること、当時日本が植民地支配していたのだから、日本に責任があるという方向で貫かれていることを主張すれば良いと思います。

そのほうが、かえって、日本の保守派の人が日本人の立場から、書いたものより、理解を得られ易いと思います。

とにかく、この書籍やその他の歴史的資料などによって、日本でも韓国でも、韓国における慰安婦ファンタジーが発祥する前の1990年代より前に時計の針を戻すことが、この問題の早期解決につながると思います。
この書籍を英語に翻訳し、米国で公開することなども、日本広報文化センターなどのしこ度として、良いと思います。そのようなことをすれば、韓国政府は非難するかもしれませんが、この書籍を読んだ米国人など、学術書であるこの書籍を韓国政府がなぜ問題にするのか、理解に苦しむと思います。そこから、慰安婦問題への理解が深まると思います。

それにしても、ただ紹介するというだけでは、何も成果はあがらないと思います。たとえば、この書籍を紹介するにしても、慰安婦問題に関してあらかじめ多くの米国人にアンケートをとっておき、慰安婦問題に関する理解、それもはっきりと定義をした理解が5%程度であったとすると、5年以内に50%にするなどの目標を定めるべきです。

そうするこによって、はじめて、自らが成果をあげているのか、あげていないのかをはっきりと理解することができます。そうでなければ、このような活動はただの「良き意図」で終わってしまうのです。

これが、手弁当で集まっている有志の「勉強会」などであれば、それでも良いかもしれません。しかし、政府からの資金で動く政府の機関がそうであってはならないのです。まともな、組織はすべからく、成果をあげなければ、存在意義が失われるのです。存在意義が失われれば、その機関に属する人々は早晩堕落してしまうのです。

それは、当然のことです。自分たちの組織が、あってなくても良いどうでも良い組織なら、その構成員がいくらまともであったにしても、その状態が長く続けば、堕落するのは当然です。そうして、堕落した組織は、社会に悪をなすことになります。

【関連図書】

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