2024年5月8日水曜日

【中国の偽善が許されるのはなぜ?】GDP世界第2位の大国がWTOで“途上国扱い”され続ける理由―【私の論評】中国はTPP参加に手をあげたことにより墓穴を掘りつつある

【中国の偽善が許されるのはなぜ?】GDP世界第2位の大国がWTOで“途上国扱い”され続ける理由

岡崎研究所

まとめ

  • 中国が自国の保護主義政策を講じながら、米国の産業支援策を非難しているのは偽善である。
  • 現行のWTO制度は、多くの国が「途上国」と自称できるため、中国の保護主義政策を見過ごされがちになっている。
  • WTO加盟国の約3分の2が「途上国」を自称しており、経済規模が大きい国々も含まれる。
  • この状況を改善するには、現行制度を抜本的に見直し、新たな多国間の制度を構築する必要がある。
  • 新制度は、各国が自国の利益を追求できると同時に、公平なルールの下で紛争を処理できるようにすべきである。


 中国は一方で自国の経済を保護するための産業政策を講じながら、他方で米国のインフレ抑制法などの経済支援策をWTO規則違反だと非難している姿勢を取っており、その態度は偽善的だとフィナンシャルタイムズ紙のコラムニストが指摘している。

 中国は、クリーンエネルギーや人工知能など戦略的な産業分野で長年にわたり補助金や保護主義的な囲い込み政策を実施してきたが、これらの保護主義政策は隠されてきた。一方で、中国は米国や欧州が気候変動対策や雇用確保のために自国産業を支援する関税・補助金措置を「保護主義」だと問題視している。

 しかし、このような中国の態度が許されているのは、現行のWTO制度が抱える問題があるからだ。WTO加盟国の約3分の2が「途上国」と自称できるルールがあり、中国をはじめとする多くの経済大国も「途上国」扱いを受けている。そのため、中国の保護主義的な産業政策は見過ごされがちになっている。

 このような事態に対し、コラムニストは現行WTO制度を抜本的に見直し、新たな多国間の制度を構築すべきだと提言している。新制度では、各国が自国の経済的・政治的安定を追求しつつ、明確なルールの下で紛争を処理できるようにすべきだ。自由貿易重視の従来のアプローチでは限界があり、転換が必要だ。

 新制度の規律は、国によって異なる政治経済体制を許容し、世界貿易に参加しつつ自国の利益も守れるようなバランスの取れたものでなくてはならない。これは中国の発展の過程から得られる教訓であり、その原則は普遍性があるべきだ。

 現行の制度はすでに機能不全に陥っており、単に安価な労働力を求める従来の経済モデルにも限界が来ていると指摘する。国民の不信感も高まっており、新たなアプローチが必要不可欠だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】中国はTPP参加に手をあげたことにより墓穴を掘りつつある

まとめ
  • 現行のWTOルールでは中国を含めた加盟国の3分の2が「途上国」と称し、実態と合わないため機能不全に陥っている
  • 中国などは「途上国」地位を利用し、保護主義策を取りながら他国政策を非難する不公平な状況が生じている
  • TPPの厳格なルールをWTOに取り入れることで制度改革を行い、中国の保護主義政策を認めなくすべき
  • TPPルールは発展途上国と先進国の実情を反映したバランスの取れたルール集大成だ
  • TPPルールの導入により、中国を始めとする一部国の特権的措置を是正し公平なルール運用を実現できる
私は従来からこのブログで中国などが自国の保護主義的な産業政策を講じながら、他国の政策を非難するといった振る舞いに対し、TPPのようなより厳格なルールをWTOに導入すべきだと主張してきました。

現行のWTOルールは、加盟国の約3分の2が「途上国」と自称できるなど、既に実態と合っておらず、機能不全に陥っています。中国などが「途上国」の地位を利用し、保護主義的措置を講じながら、他国の政策を非難するなどの不公平な状況が生じています。

このような状況が長く放置されれば、先進国のみならず、発展途上国からも不満が高まるでしょう。WTOが公平な自由貿易のルールを担保できなくなれば、制度そのものの存在価値が揺らぎかねません。

そこで、TPPのようなより厳格なルールをWTOに取り入れ、制度の抜本的改革を行うべきだと主張する意見があるのです。TPPでは国有企業規制などが盛り込まれており、中国の保護主義政策は認められなくなります。環境や電子商取引などの新分野のルール作りも行われ、WTO協定の現代化が図れます。

TPPには発展途上国から先進国まで、多様な国々が参加しています。その中で、現在の世界経済の実態を踏まえた上で、真に自由で公平な貿易ルールが策定されました。単なる関税撤廃にとどまらず、国有企業規制、環境、電子商取引など、グローバル経済における様々な課題に対応するルール作りが行われています。

つまり、TPPのルールは、途上国の実情を考慮しつつ、先進国の利益も反映させた、バランスの取れた現代的な自由貿易のルール集大成となっているのです。自由貿易を推進しつつ、必要な制限や例外措置なども盛り込まれています。

このようにTPPは、単なる理念ではなく、現実的な視点から作られた具体的で実行可能な自由貿易ルールであると評価できます。そのため、TPPのルール水準をWTOに取り入れることで、WTOを時代に適ったより公平な制度に生まれ変わらせられるという主張につながるのです。

TPPに参加国の実情を反映したバランスの取れたルール集大成であるという点は、WTOへの取り入れを主張する大きな根拠となっていることは間違いありません。

つまり、TPPルールの導入によって、加盟国が「途上国」と自称できる例外規定の撤廃や、国有企業への補助金規制など、中国を始めとする一部国の特権的措置を是正し、真に公平なルール運用を実現できると考えられているのです。

ただし、TPPルールをWTOに組み入れるには、多数国の合意が必要で課題は多いことは確かです。経済連携協定での実践を経ながら、徐々にWTOへの影響を与えていく現実的なアプローチが必要不可欠でしょう。

ただし、中国がTPP参加に名乗りを上げていることは、WTOへのTPPルール導入の可能性に影響を与える重要な要素になり得ます。

中国がTPP参加を表明した背景には、台湾をけん制する狙いがあるとの指摘もあります。しかし一方で、TPPの高い水準のルールに基本的に同意し、自国にもその規律を受け入れる用意があることを示しているとも受け取れます。

もし仮に中国が、TPPルールをWTOに導入することに強く反対するようであれば、大きな矛盾が生じてしまいます。TPPのルール許容を前提に参加を表明しておきながら、同じルールをWTOに持ち込むことに異を唱えるのは整合性を欠くからです。

そういった矛盾を中国自身がおかしたくないと考えるのであれば、WTOへのTPPルール導入を表立っては反対できなくなる可能性は高まります。重要な貿易相手国である中国の賛同があれば、WTO改革のための多数国間合意形成が現実味を帯びてくるでしょう。

中国はTPP参加に手をあげたが・・・・・

TPPの交渉に当初は最大12か国(アメリカを含む)が参加していました。しかし、アメリカがTPPから離脱を表明したため、残りの11か国でCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)が2018年に発効されました。

5か国がTPPへの新規加盟交渉に参加している、または参加を申請している状況です。

・英国 ・中国 ・台湾 ・エクアドル ・コスタリカ

台湾は、中国が台湾のTPP参加を牽制する狙いがあるとの指摘もある中で、加盟を強く希望しています。

しかし、中国がTPPに加盟することは現実的にはまったく無理があると考えられます。TPPのルール水準は非常に高く、国有企業への補助金規制や労働者の権利保護、環境基準の遵守など、中国の現体制とは相いれない部分が多くあるからです。

中国が本当にTPPのルールを全て受け入れるつもりであれば、国有企業改革や労働法制の大幅な見直しが不可欠になります。しかし、そこまでの大改革に踏み切る可能性は極めて低いと見られています。

そうしたTPPの高いハードルを考えると、中国のTPP加盟表明は本気度に欠けるのではないかと指摘される所以です。台湾を牽制する狙いや、協定の内容を把握する意図があるのかもしれません。


しかし結果的に、そうした表明により、TPPのルール受入れを追及される立場に自らを追い込んでしまった形になっています。TPPへの本格的な関与は現実的でない中で、このジレンマを抱えつつあるということが言えそうです。

つまり、中国はTPP加盟を口にした時点で、国内の抵抗勢力を押し切れず、実際には対応できない高いハードルに自らを追い込んでしまった可能性が高いと言えます。

TPPの旗振り役の日本としては、TPPの加盟国をさらに増やしつつ、いずれTPPをWTOのルールにすることを実現すべきでしょう。

世界もこうした動きに同調すべきです。特に米国はそうです。そうして、最悪は中国を一時的、あるいは恒久的にでもWTOから除外してでも、WTO改革をすすめる覚悟を持つべきです。そのための準備を今からすべきです。


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